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マスター:凸一
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/03/05


みんなの思い出



オープニング


 潰れた廃寺に暗い三日月が昇る。本堂の中では得体の知れない何かが蠢いていた。肉を喰らうような歯ぎしり音と畳を這いずり回る音が闇の中からする。
 ただならぬ霧が立ち込めている。廃寺の墓場にまだ小さい兄妹が現れた。
「お兄ちゃん怖いよう。早く帰ろう?」
 妹の祥子が兄の圭佑の腕を引っ張って帰るように促す。だが、圭佑は怖がりながら戻ることを躊躇っていた。ここで引き戻ったら皆に臆病者だと馬鹿にされる。プライドの高い圭佑は馬鹿にされるのが絶対に嫌だった。
「もうすぐだ。我慢しろ。絶対にバケモノなんて出やしないから」
 圭佑はまるで自分に言い聞かせるように祥子に言った。最近この辺りで妙な噂が立っていた。廃寺に何か悪いものが住み着いているという話だ。
 友達にその話を聞かされた圭佑はつい自分が見てくると豪語した。圭佑は仲間から怖がりだとからかわれてかっとなったのである。
 圭佑は流石に一人で行くのは自信がなく代わりに一つ年下の妹を呼んだ。
 ようやく本堂の前に辿り着いた圭佑はひと安心した。昼間下見をしに来た時と同じように何の変哲もない境内だ。本堂の扉は固く鍵で閉ざされている。
 やはり噂だったのだと胸を撫で下ろして帰ろうとした時だった。
 不意に目の前の本堂の扉の鍵がはじけ飛び、わずかに開く。
 圭佑は背中に怖気が走った。何かに取り憑かれるように圭佑はその扉の方へと近づいていく。祥子が必死に止めようとしたが圭佑は聞く耳を持たない。
 雲間から三日月の光が指して本堂の中が薄っすらと見えた。
 蠢く巨大な足の群れが現れになる。
 次の瞬間、幼い兄妹の悲鳴が闇に響き渡った。


「廃寺に魑魅魍魎の姿をしたディアボロが現れました。技量の未熟な新米撃退士の兄妹が先に廃寺に侵入して戦っています。敵は複数でしかも戦闘が苦手な二人は苦戦しているようです。すぐに駈けつけて彼らを救い、ディアボロを倒してきて下さい」
 斡旋所の女性職員が焦った口調で事態を告げた。
 学園の初等部に所属する羽賀圭佑と祥子兄弟が廃寺に侵入してディアボロに遭遇した。
 まだ撃退士になったばかりで技量に未熟な二人は危険な状態に陥っていた。心配してこっそり様子を見に行った友達の一人が踵を返して慌てて通報した。
「プライドの高い圭佑と泣き虫の妹は互いに足を引っ張ってしまって上手く連携をとることができずに引き離されています。何とか持ちこたえているものの、このまま長期戦に突入すれば兄妹の身の危険に大きく関わります。そうなるまでに何としても兄妹を手助けして敵を倒して来てください。よろしくお願いします」
 女性職員は撃退士達の目を見てお辞儀をして立ち去った。


リプレイ本文


 鈍色の三日月が廃寺を怪しく照らし出している。
 深い霧に光が反射して闇の中の墓地を浮き上がらせていた。
 魔物たちの何かを喰らう音と異臭がしている。
 遠くからまだ幼い兄妹の悲鳴が聞こえてくる気配がした。
「霧霞む月夜の廃寺たぁ、同胞が出るのに打ってつけのシチュエーションでさぁ。その上こんなご時世だ。夜遅くこんな所に近づくなんて不用心過ぎる」
 墓森 妙玄(jb8772)は編笠を深くかぶり直して気を引き締める。廃寺の墓に現れた妖怪の姿をした魔物退治と聞いては黙っていられない。
 兄妹を無事に救うためにも一刻も早く現場に行くことを願う。
「見つけたら叱ってあげないとな。 その為にも、いまはまず助けないと、か」
 両儀・煉(jb8828)は冷静に前だけを見つめていた。深い霧の向こうに潜んでいる敵に細心の注意を払って仲間とともに進んでいく。
「兄妹で仲良く窮地ってわけか〜」
 某 灼荼(jb8885)は逆に薄っすらと楽しげに笑みを浮かべている。
 ついでに倒す敵がどれほどの物か今からゾクゾクしていた。
「やれやれ、何も好き好んで危ないトコ行くことねーのになー。ま、ほっとくのも寝覚めが悪いってね。そいじゃいっちょがんばるかー」
 仙道・龍馬(ja0153)は内心厄介に思いつつも拳を握りしめた。自分が弱気になっていては助けることも敵わないと自分を鼓舞する。
「蟷螂の斧……って言うと流石に可哀想か」
 常木 黎(ja0718)は苦笑いを浮かべながら言う。それでもすぐに気を引き締めると武器を構えながら参道を突き進んだ。すでに視線は本堂の方に向けている。
「魑魅魍魎やて?! ……ふふふ、まさに陰陽師の出番やないのっ!」
 葛葉アキラ(jb7705)も不敵に笑いながら胸を張る。
 現代に現れた魍魎を陰陽師の力で退散させることに憧れを持っていた。
「暗くてなぁんも見えやしねぇ……ってぇわけでもねぇのか。だがまあ、この霧で視界が悪いってぇのには変わりねぇかね。妖怪でも出てくりゃ面白いんだがなぁ……」
 コルアト・アルケーツ(jb5851)は愚痴を零した。悪条件の中で戦うこととそんな中無防備に囚われてしまった兄妹を思うとため息が出る。
 だが、口ではそういうもののすでに表情は真剣味を帯びていた。
「過度な勇気は無謀な挑戦となる。初めはしっかり下調べし自分が勝てる相手か見極めねばな。高くついたが良い授業になっただろう――じゃあ、生きて帰ろうか」
 鴉乃宮 歌音(ja0427)は頼もしい仲間を見渡して言った。
 兄妹だけではなく、まるで自分たちにも強く言い聞かせるように。


 龍馬が先頭に立ってライトで明かりを照らしながら前へと突き進む。
 その時だった。上空の深い霧の中から薄黒いものが姿を現す。
 吸血蝙蝠が撃退士達に向かって急降下してくる。
「後ろに下がって、なにか来る!」
 歌音が深い霧の中を事前に敵の位置を見通して仲間に危険を知らせた。
 すでに辺りに注意を向けていた。事前に寺の地図をみてどこから襲ってくるか見当をつけていたためすぐに敵の奇襲に対応することが出来た。
 歌音の注意を撃退士達はすぐに受け止める。
 襲い掛かってくる蝙蝠の毒鱗粉を浴びないように撃退士達は散開する。
 蝙蝠はいったんその場を離れるとすぐに体勢を立てなおして突っ込んできた。
「へいへい、虫だのハエだのが人間様の前でずいぶん好き勝手やってね?」
 龍馬は蝙蝠を睨み付ける。大剣を振りかぶって威嚇した時だ。
 闇の中から大きな蝦蟇が跳躍してきた。
 撃退士達を踏みつぶそうと巨漢を地面に叩きつけてくる。狙われたアキラは何とか蝦蟇の予備動作を見抜いて直前で避けて離れた。
 獰猛な蝦蟇は口から水鉄砲を吐くとアキラを吹き飛ばした。
 何とか奮闘する二人を助けようとその隙に黎が素早く動く。敵が攻撃に気を取られている間に背後から狙い撃って背中にマーキングを施す。
 庭で蝦蟇と蝙蝠に味方が対処している隙に妙玄達は本堂をすり抜けて墓場へと一直線に飛んで向かった。途中で蝙蝠が気がついて追ってくるが、威嚇射撃をしてそれ以上は近づけさせない。すぐに毒サソリに捕まっている圭佑の元へと向かう。
 墓場の端で圭佑は追い詰められていた。周りを墓石で囲まれていて目の前には鋭く大きく曲がった毒針をもつサソリがいる。
 妙玄が上空から白夜珠持って念仏唱えながら降下した。
 反応が遅れたサソリは背中に強烈な一撃を食らって後退する。
 すぐに灼荼がサソリと圭佑の間に割って入った。
 墓石を蹴倒して壁にするとサソリの毒針を避けることに成功する。
「良い子は真似しちゃ、ダメよ〜ってね!」
 執拗なサソリの攻撃から灼荼は必死になって圭佑をかばい続けた。冗談を言いながら絶対に圭佑だけは守ると意気込んで攻撃を身体で受け止め続ける。
 傷だらけになりながらも灼荼は耐え続けた。
 コルアトがサソリの上空の死角から符を放って攻撃する。
 不意を突かれてサソリは藻掻き苦しんだ。その隙に傷ついた圭佑をコルアトが抱き抱えてその場をすぐに離脱する。
「俺は……まだ、戦える」
「おっと、素直に大人しくしとけ。でねぇと蟲の群れの中に一直線だぜ?」
 圭佑がまだ戦おうとしてコルアトは強引に離した。このまま帰ったら仲間に臆病者扱いされてしまうと圭佑は心配していた。だが、すでに身体に傷を負っていてそれどころではなくコルアトは圭佑を説得した。
 サソリは毒針を突きつけて追いすがるが、コルアトが火炎球を放つ。
 それまで圭佑をかばっていた灼荼も前から挟み撃ちした。
 逃げ場を失った毒サソリは地獄の業火に巻き込まれながら崩れ落ちた。


 蝦蟇が飛び跳ねながら威嚇してくる。
 黎は蝦蟇と蝙蝠に向かって銃を突きつけると弾丸の雨を降らせた。
「Serves you right.人間サマ舐めんなよ」
 放たれた弾丸が蝦蟇の大きな腹に吸い込まれる。
 その瞬間にまるで爆発したかのように大きな腹が破裂した。
 緑色の液体を吐き出しながら後ろ向きに突っ伏す。
 蝙蝠は蝦蟇が倒れたのを見て攻勢を強めた。
「こっちにこい、俺が纏めてぶっ飛ばしてやる!」
 蝙蝠は龍馬の挑発に乗って毒鱗粉を上から撒き散らしてくる。龍馬は構わずに真っ直ぐに突っ込むと降りて来た所を狙って大剣を振りぬいた。
 蝙蝠は直前で身体を捻って退避したが、片翼を切り裂かれた。龍馬も毒鱗粉にやられて地面に膝を着いて苦悶の表情を浮かべる。
 逃げていく蝙蝠の翼を狙って歌音が弓を引く。
 もう一つの翼に命中して蝙蝠は墜落しそうになる。慌てて蝙蝠は体力を回復しようと管をのばして目の前にいるアキラに襲いかかった。
 アキラは蝙蝠目がけて果敢に跳躍すると伸ばした管を掴みとった。堪らず毒鱗粉を発射してくるがアキラは手を離さない。じっと耐えながら頃合いを見て叫ぶ。
「今だ! トドメを!」
 アキラが叫ぶのと同時に歌音の弓がしなって蝙蝠の身体を撃ちぬく。
 歌音は濃霧の中に武器を紛らわせて発射する場面を隠した。
 いきなり向かって現れた矢に蝙蝠は逃げることも避ける事もできない。
 蝙蝠の頭に鋭い一撃が突き刺さる。目をやられて蝙蝠は視界を失う。
 苦悶の雄叫びを上げながら蝙蝠は地面へと墜落した。
「じゃ、先に行くよ」
 庭で激しい戦闘が繰り広げられている脇を煉がすり抜ける。
 敵に気が付かれないように細心の注意を払いながら本堂へと駆け抜けた。
 たどり着くと一気に重い扉を撃ち放つ。
 そこには無数の蜘蛛の巣と囚われて泣き叫ぶ祥子の姿があった。
 煉はすぐにソードで糸を切り裂いて祥子を助け出しに中に忍び込んだ。
 複雑に絡み合った糸を取り払うのは一苦労でなかなか前へ進まない。
 壁を伝うように大きな百足が這い出してくる。大きな顎で煉の身体に噛み付く。
 あまりの痛みに絶叫しそうになったが必死に堪えた。
 ここで倒れては祥子を助けることはできないと歯を食いしばる。
 後ろから兄の圭佑を助けてきた灼荼たちが応援に駆けつけてきた。
 鋭い一撃を食らわすとすぐに離脱する。百足は真っ二つに切り裂かれていた。
 ようやく百足から抜けだした煉は祥子の元へたどり着く。
「騒がないで。助けにきたよ」
 後ろから祥子の口を抑えて糸を引き裂いた。煉は糸を引き裂きながら下がる。それに気がついた鬼蜘蛛が大きな口を開けて迫ってきた。
「妹ちゃんはちょっと黙ろうか。……敵さんの中にもう一回投げられたい?」
 灼荼が泣き喚きく祥子に注意して匿った。
「アンタの相手はうちや! 闇へと還れ!」
 アキラが本堂の中に侵入すると、アウルの風を操る。
 鋭く抉る鎌鼬が鬼蜘蛛を切り裂く。
「蜘蛛って、自分の乗ってる糸はくっつかないって本当かな〜?」
 灼荼が木片をぶん投げて粘着性の有無を調べてから、足場に利用した。
 敵の張った糸を逆に足場として利用して接近する。
 斜め上から渾身の一撃を叩き込んだ。
 鬼蜘蛛はついに自分の巣から地面へと叩き落とされた。
 壁伝いに登った天井からコルアトが真っ逆さまに飛びかかる。
「これでも煙羅の名を貰い受けた翼有る蛇を名乗ってんだ。蟲如きに手間ぁかけるわけにゃいかねぇんでな」
 コルアトの刀が容赦無く鬼蜘蛛の身体を引き裂く。
 緑色の液体を吐き出しながら巨大な魍魎達はついに動かなくなった。
 

 廃寺に立ち込めていた濃霧はいつの間にか消えていた。
 妙玄は墓場で静かに念仏を唱えていた。
 敵とはいえ同胞の死を憐れみ、埋葬しながら手を合わせる。
 あれほど満ちていた恐ろしい気配はもうしない。廃墟に巣食っていたディアボロ達は全て撃退士達の手によって倒された。
「どうやら皆無事でよかった。どうなるかと思ったぜ……」
 龍馬は安否を確認するとほっと一息ついた。
 実は内心はかなり恐れていた。攻撃が集中してやばいと思ったが、それでも女子や子供の前で自分が惨めな姿を晒すわけにはいかないと踏ん張ったのである。
「や、死に損なっておめでとう」
 黎は笑みを浮かべながら助かった全員に向かって声をかける。
 もちろん彼女の言葉に悪気はなく、聞いた仲間も苦笑いを浮かべて答えた。
 助けだされた圭佑は口唇を噛み締めていた。自分一人では何も出来なかった悔しさで溢れているようだった。自尊心を傷つけられてどうすることもできずに立ち竦んでいる。
「兄さんなんだろう? だったら妹を護り安心させる事。それが一番の戦いだよ」
 煉が祥子を連れて圭佑に歩み寄った。
 俯いてじっと堪えている圭佑に妹の祥子の手を握らせる。
「お兄ちゃん、怖かったよ……」
 祥子はそのまま泣きながら圭佑の胸に抱きついた。
 不安と恐怖でついに祥子は溜め込んでいたものが溢れだしてきた。
 はっとした圭佑は優しく妹の泣き腫らす顔を見た。
「圭佑ちゃんも祥子ちゃんも良ぅ頑張ったなぁ。 でもな、無謀って言葉を知らんとあかん。せやないと皆が悲しむさかいな」
 アキラの言うとおりだった。自分のことばかり気にして大事なものを見失っていた。
 プライドを守ることばかりに目が向いて肝心なことを忘れていた。
 失ってからでは遅い。他ならぬ自分が守らなくてどうするんだ。
「祥子、大丈夫だよ。俺がついてるから泣くな」
「お兄ちゃん……?」
「俺はどこにもいかない。だから――」
 兄は冷たい妹の手を強く握りしめる。
 もう二度とこの手を離さないように。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
 『魂刃』百鬼夜行・コルアト・アルケーツ(jb5851)
重体: −
面白かった!:0人

撃退士・
仙道・龍馬(ja0153)

大学部3年14組 男 ルインズブレイド
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
筧撃退士事務所就職内定・
常木 黎(ja0718)

卒業 女 インフィルトレイター
『魂刃』百鬼夜行・
コルアト・アルケーツ(jb5851)

大学部5年82組 男 陰陽師
鬼!妖怪!料理人!・
葛葉アキラ(jb7705)

高等部3年14組 女 陰陽師
撃退士・
墓森 妙玄(jb8772)

大学部2年45組 男 アーティスト
英断の狩人・
両儀・煉(jb8828)

大学部1年93組 男 ナイトウォーカー
銀光の軽業師・
某 灼荼(jb8885)

大学部5年160組 男 鬼道忍軍