●私設武装治安維持組織『ヴァルキリーナイツ』第三班
サーバントが出現した封鎖区画近くに到着した撃退士達はVK第三班と合流。
「…………」
長い黒髪の少女、佐藤 七佳(
ja0030)は特に何も喋らず黙ったまま。
彼女はVKの面々には特に何の興味や感情も無いらしい。
彼女の心情はこうである。
天魔が人を狩る事は糧を得る為の行動として肯定。
しかし、社会に対して害を為すなら人も天魔も善悪も関係なく狩る対象となる。
ゆえに今回出現したサーバントを放置すれば学園に害をなす訳で、それを狩る為依頼に参加したものと思われる。
「今回もボロボロでごめんなさいね……。でも、足手纏いにはならないようにするよ」
包帯だらけの美女――田村 ケイ(
ja0582)はVKの面々に頭を下げる。……現在彼女は負傷中の身であった。
だが今回は前回とは違い、積極的に動くつもりである。気休めだが痛み止めも飲んだ。
ケイの瞳には、確固たる意志が宿っていた。
一見女の子と間違えてしまいそうな少年、永連 璃遠(
ja2142)はVKのメンバーに挨拶。
「僕はVKの方々とは初対面ですね。……宜しくお願いします」
足を引っ張らない様、気を付けたい所。と、璃遠は考える。
「VKからの依頼は暫くぶりか。まあ、誰からの依頼でもやる事が変わる訳でもない、叩き潰すだけだ」
久遠 仁刀(
ja2464)はその様に言う。
小柄な彼だが戦闘経験は豊富で撃退士としての実力も確か。
顔つきからして数々の激戦を潜り抜けてきた事が窺える。
「せっちゃんお久しぶりー。って、私の事覚えてくれてるかな?」
VKのメンバーである永代・せつなに恐る恐る挨拶するのは恵夢・S・インファネス(
ja8446)。
「ああ、勿論覚えている。忘れる訳がない」
せつなはその様に答えた。
「おお! 嬉しい事言ってくれるじゃないの!」
少しはしゃぐ恵夢だったが、せつなの視線は恵夢の胸部に向けられていた。
(ヴァルキリーナイツ……ね。『戦乙女騎士団』とでも訳すのだろうか)
神棟星嵐(
jb1397)はふむりとあごに手を当てた。
女子だけの戦闘集団(撃退系クラブ)は比較的珍しいかもしれない。
次の言葉を発したのはエリーゼ・エインフェリア(
jb3364)。
「VKの人達は……部隊の意味があるんでしょうか? 部隊なのに各人個人行動が多いなんて不思議ですねー」
(情報共有は主に立花さんと行った方が良さそうです)
前回の報告書に目を通して浮かんだらしき素朴な疑問を口にしただけだったが……その瞬間、場が凍りついた。
VK第三班の面々の視線が一斉にエリーゼへと集まる。エリーゼの言葉に対し、答えたのはコリウス・ヴィオレッタだった。
「ふむ。君の私達に対する印象はその様な物か。だが……我々が毎回個人行動を取っていると思っているのならそれは違う」
コリウスはきょとんとするエリーゼを射抜く様な目で見る。
「当然ながら敵の脅威度によって動きは変わってくる。特に今回の様な場合がそうだ。今回の敵は個人行動でどうにかなる物ではない」
あくまでも冷静な口調。
「その不名誉な印象、戦場で払ってみせる」
言い終えると、コリウスはぷいとそっぽを向いた。
姫桜(
jb4963)はVKを含む各自の連絡手段のチェック。全員が無線機を所持している事を確認。
そして事前に目標地点の地図入手し、それを10m毎に区画分け、及び数字を割り当て、コピーした物を全員に配布した。
連絡時には敵の位置や方角等を、予め割り当てておいた数字で伝えるつもりである。
エリーゼは再びVKの面々の方を向いて提案。
「VKの方々はミノタウロスの対応に当たって貰えませんか?」
仁刀も同調しアウストルへ……せつなと萌の方を見ながら言う。
「ゴブリン共はこちらで蹴散らす、必要に応じてあの二人のフォローに集中してくれて構わない」
「……了解したわ。ミノタウロスの初期対応は任せて」
簡単な打ち合わせを終えた一同は問題の封鎖区画へ突入を開始。
●VSゴブリン群 前半
出撃後、一同はまず真っ先に戦域中央に位置する廃墟まで移動。
そこを拠点とし、距離がある内にゴブリン群の数を減らす作戦だ。
阻霊符も忘れずに展開しておく。
程無く接敵。
七佳は廃墟の屋上へのぼり、押し寄せてくるゴブリン集団に向けて対戦ライフルによる『砲撃』を行う。
「まずは数を減らさないと厄介ね」
弾丸が命中したゴブリンが肉塊となって弾け飛ぶ。
ケイは飛行スキル持ちから敵の数・陣形の情報を逐一伝えて貰えるよう無線常にONに。
廃墟の二階に陣取り廃墟に近いゴブリン群へ、散弾銃を構えて射撃。――炸裂した銃弾がゴブリン数匹を蹴散らす。
飛行スキル持ちからの情報を元に廃墟の脇をすり抜け様と移動するゴブリンに即対応。散弾の雨を降らす。
「お姉ちゃんが言っていた……戦いは数だけど殲滅戦は別だよ、って!」
などと、恵夢は廃墟上で狙撃銃を担いで支援射撃。
狙撃よりも「真っ直ぐ構えてれば真っ直ぐの敵には当たる」という理論(?)で特に構えず移動し片手でガンガン連射。
外れる事もあったが割と命中し撃ち抜かれたゴブリンは四散する。
***
璃遠は戦闘中、孤立しない様に常に誰かの近くで行動。
強敵と対峙した場合に即二人掛かりで対応出来る様にする為である。
接近するゴブリンへ拳銃で射撃し、一匹一匹確実に潰していく。
暫くすると敵の投擲攻撃が増えてきた。
廃墟の障害物を盾にしつつ、引き続き拳銃で射撃。数を減らす。
程無くゴブリンLも確認。取り巻きが居ない時を狙い、射撃でダメージを与える。
じりじりと距離を詰められているものの、まだ近接戦には早い。璃遠は射撃による援護に徹した。
その援護を受けて初手から近接戦を行うのは仁刀。
投擲攻撃を廃墟の壁で防ぎつつ、廃墟の外壁近くを沿うように移動。
投擲で狙いをつけ難くする事と、相手が得意とする包囲戦術を封じる形での対応である。
ゴブリンのみに囲まれれば【水月】にて複数を同時に切り刻む。
ゴブリンLが混じっている時は回避スペースの確保を意識しながら戦った。
星嵐はまず、廃墟を盾に敵の接近を待った。
仲間が廃墟上から射撃を始めるのに合わせて廃墟を迂回。敵の側面へ移動。
他の仲間へ注意が逸れている間に【クレセントサイス】をゴブリン群へ向けて放つ。
――鋭い無数の刃が舞い、敵を引き裂いた。
その後【クレセントサイス】と【ファイアワークス】を順に連続使用。
範囲攻撃に多数の敵が消滅した。スキルの使用回数が切れると、星嵐は一旦距離を取った。
***
エリーゼは【光の翼】常時使用し飛行中。
(久しぶりに戦う気がします。慣らしを兼ねて攻撃力は控えめ、一匹ずつ確実に仕留めていきましょう)
廃墟内部は仲間に任せ、廃墟上空にて仲間の位置を把握した上で敵の数や位置を皆に報告しつつ遊撃を行う。
地上のゴブリンに対し白金の指輪から雷の剣を生み出し、攻撃。仲間を狙う個体を優先的に、確実に撃破。
敵の投擲距離を測るが……その射程は意外と長いらしく危うい場面もあった。
今の所まだ攻撃は受けていないが、敵浸透時、廃墟屋上からの投擲には注意しなければならない。
「きゃははハハハ、御掃除、御掃除……いっぱい御掃除しようね♪」
姫桜はエリーゼと同じく【光の翼】で飛行。
廃墟の上空で索敵。敵を発見すると移動速度から接敵の時間を予想し、下で戦う仲間へ連絡。
建物に隠れ奇襲してくる事も考慮し入念に索敵。ゴブリンLを発見した場合にはすぐさま仲間へ警告した。
多数が接近して来た時は突撃銃の射撃で牽制。反撃の投擲は余裕を持って回避し、一時離脱を徹底する。
●VSゴブリン群 後半
斡旋等開始から暫くすると、ついにゴブリン群が廃墟へ到達。近接戦中心の乱戦に突入した。
七佳は魔具を刀に切り換え、【光壁】を活性化。
【天穹】を用いて上空へ移動し、戦況全体を俯瞰。敵の圧力が集中している場所へ援護に向かった。
飛行能力を生かし敵の背後や側面などの死角から斬り付け、一撃離脱。離脱が間に合わない場合は【光壁】を使用。
ダメージを抑え様とするが、やはり敵にとって飛行ユニットは厄介らしく集中攻撃が来る。生命力がじわじわと削られる。
ゴブリンLへ仕掛ける際は直上から落下の速度を乗せた攻撃を叩き込んだ。
ケイは……【回復弾:改】で仲間のフォローをするつもりだったが、まだ仲間は戦えている様である。
ゆえに【回避射撃】【予測回避】を活用しつつ、散弾銃で射撃しゴブリン減らしに勤しんだ。
恵夢は魔具を狙撃銃から黒色の大剣へ変更。
廃墟上から【全力跳躍】の後、目を付けていたポイントへ着地。
【封砲】を活性化し、撃ち放ち、周囲の敵を纏めて薙ぎ払う。
「ひとーつふたーつ……いっぱーい!」
その後もゴブリンの密集地点へ【封砲】を放ち、纏めて吹き飛ばす。
「まずは雑魚を駆逐して、大剣の露にしてあげちゃう!」
璃遠も魔具を刀に変更し、仁刀と協力してゴブリンの数を減らす事を優先。
「数ばかり……いや、あのリーダーは厄介だ」
油断は出来ない。仁刀との連携を密にする。
***
一方その頃VK第三班は――。
撃退士達とは少し離れた場所にて、ミノタウロスと対峙していた。
せつなが引き付け、萌が撹乱し、アウストルが援護射撃を行い、コリウスが魔法攻撃、及び回復を担当。
普段は(ゴブリン程度が相手ならば)好き勝手に単独行動を取る彼女らが緻密に連携して戦闘を行っている……。
これがVK第三班本来の戦い方であった。それだけ、このミノタウロスは強敵なのである。
損害を抑えて戦っている為倒すには至っていないが着実にダメージを与えている。
***
さて、撃退士達はゴブリンとの近接戦を継続中。
「こうして後ろに備えている者がいるから前線で気兼ねなく戦える、か……」
仁刀はゴブリンLが視界に入れば優先的に攻撃。【白虹】を放ち、途中のゴブリンごと薙ぎ払う。
反撃は【弧光】で防御し、なるべくダメージを軽減する。
星嵐は魔具を黄金色の大鎌へ変更。
【ランカー】と【グローリアカエル】を活性化。
残存のゴブリンを大鎌で刈り取ってゆく。
その後ゴブリンLと戦闘中の仲間に合流し、背面から攻撃を仕掛けた。
仲間が苦戦している場合は【ランカー】による鋭い一撃を側面から浴びせる。
***
「防衛線が張られているとはいえ、一匹も逃がしませんよ?」
エリーゼはゴブリンLに対して【光焔】と【黒雷槍】使用して攻撃。
胴体部分を狙い、力ずくで確実に当てに行く。
だが一、二撃では倒せず、ゴブリンLの指揮による反撃の一斉投擲で生命力をガリガリと削られてしまった。
姫桜は単独・少数のゴブリンを発見すれば頭上から接近して急降下。
落下速度を加え盾の大型クローで攻撃。敵はぐしゃりと潰れる。
その後地上戦を避けて再飛行。飛行中は地上からの攻撃に警戒。
対空の投擲攻撃は【シールド】で防御。ダメージを軽減。
●VSミノタウロス
粗方敵を片付けた撃退士達はミノタウロスへ。
それまで抑えに徹していたVK第三班は交代する形で残敵の掃討へ移行。
恵夢は【剣魂】を使用して生命力全回復。
「損耗は……無いっ! せっちゃん交代!」
「了解。後は任せた」
二人はハイタッチを交わす。
ケイも仲間を援護するべく移動を開始。
残存ゴブリンからの投擲攻撃は【予測回避】で対応したり【回避射撃】で軌道を逸らしたりしながらすり抜けて行く。
この状態で下手に動いてまともに攻撃を受ければ最悪の場合、死もあり得る。廃墟に隠れていた方が安全だ。
しかし……ケイは行動する。そうしないとケイ自身が己を許せないから。
VKからの依頼を前にまたしても負傷してしまった自分自身を……。
七佳は上空から接近。ミノタウロスの腕の筋肉の動きと目線に注意し、変則的な空中機動を取る。
「大型種との交戦経験はそれなりにあるのよ、それに天使や悪魔程厄介な相手ではないわね」
そして背後に回り、巨体ゆえに防御が難しいと思われる片方の足首を狙う。
これには『姿勢の維持』と『移動の自由』を奪うという思惑があった。
「雷霆の如き一閃、斬り伏せるッ!」
鋭い一撃を入れるも直前でミノタウロスが身を反らした為命中したのは胸部から腹部にかけて。
「えっ……?」
ミノタウロスは怒り狂い、武骨且つ巨大な手で七佳の身体を掴み、硬いコンクリートの地面へ思い切り叩き付ける。
「……かはっ!?」
吐血する七佳。
エリーゼは力を振り絞り、ミノタウロスの胴体へ慎重に狙いをつけ、腕輪から【黒雷槍】の残りを全弾放つ。
星嵐もエリーゼに合わせて【グローリアカエル】――光を飲み込む弾丸を放った。
大ダメージを受けたミノタウロスは咆哮。七佳から手を離し、片手剣と盾をエリーゼ・星嵐へ勢いよく投擲。不意の攻撃を受けた二人は倒れ伏す。
次にミノタウロスは拳を振り上げ、七佳へトドメを刺さんとする。
しかしそこへ姫桜が七佳との間に割り込み【シールド】を使用。盾で受ける――が、そのまま押し潰されてしまう。大ダメージ。
「きゃぁぁぁ!?」
姫桜のか細い悲鳴。
その時、場に到着したケイが二挺拳銃から【回復弾:改】を放つ。
――その癒しの銃弾は気絶寸前だった仲間の生命を救った。
「今っ!!」
「よっしゃー! ソード! ナックル! バレット! サイス! はんっまぁー!」
ミノタウロスの背後へ回り込んでいた恵夢が大剣、アウルの拳、二挺拳銃、白色の刃を持つ大鎌、戦槌と、次々に武器を切り替えて攻撃し敵を牽制。
「了解です!」
「了解した」
璃遠と仁刀が動く。
璃遠は【闘気解放】を使用。【縮地】で距離を詰め、側面からミノタウロスへ斬り掛かる。
仁刀もそれに続き反対側から敵へ一太刀入れる。
ミノタウロスはもがく様に太い腕を振り回す。璃遠と仁刀は一旦下がり、再び前へ。
璃遠は【鬼神一閃】を使用。剛剣をミノタウロスへ叩き込む。
「やああああ!!」
それと同時に仁刀も大太刀を振り抜く。
「はああああ!!」
二人の連携攻撃によりミノタウロスは大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。
こうしてサーバントの排除を完了。VK第三班が残存ゴブリンを片付けたのもほぼ同時だった。
撃退士達は皆ダメージが大きい為、後始末はVK別班に任せ、VKの部室棟で休ませて貰う事にした。
***
負傷中にも関わらず仲間の援護に奮闘したケイは特に消耗が激しく、医務室のベッドで休んでいた。
暫くして彼女が目を覚ますと……枕元にこんな置手紙があった。
『あなたの勇敢な行動に敬意を表し、この称号を贈る。【brave bullet】。これからもあなたの放つ銃弾が仲間を救う事を願う。 VK隊長より』