●私設武装治安維持組織『ヴァルキリーナイツ』第三班
学園のゲート跡から出現したサーバント群を駆除する依頼を受けた撃退士達。彼らは現在、とある部室棟に居た。
これから依頼主であるヴァルキリーナイツ(以下VK)のメンバーと簡単なミーティングの予定
いきなり見知らぬ者達と作戦行動を共にするのは無茶というもの。という訳で顔合わせの為にVK待ち。
「協力要請か……こちらに協力を頼むにしても安くないだろうに」
そう呟いたのは艶やかな長い黒髪に長身、凛とした雰囲気を纏う美女、天風 静流(
ja0373)。
「折角の頼まれ事だ、きっちりとやるとしようか」
彼女は指輪型のヒヒイロカネをそっと撫でた。
「情けない状態で来ることになって申し訳ない……。出来る限りのことはするよ。皆さん、気を付けて」
続いて田村 ケイ(
ja0582)が弱弱しい声で言った。現在彼女は負傷中。普段は無表情な彼女も、今はほんの少し苦悶の表情を浮かべている。
彼女は痛み止めの薬を飲みつつ、双眼鏡を取り出す。戦闘では後方支援に徹するつもりだ。
「今回のこの戦力で行くと……持久戦は仕方ないですから、最適な戦術で行きたいですね」
長身で引き締まった肉体の好青年、仁良井 叶伊(
ja0618)はふむりと顎に手を当てる。
「私設武装組織というか自警団のようなものか」
小柄ながらも歴戦の勇士の風格を漂わせる青年、久遠 仁刀(
ja2464)が言った。
「実戦経験も多そうだし、得る物もあるだろうから戦い方を見ておくのは悪くないな……まず受けた仕事を確実にこなすことから、だが」
(何か最近クラゲとかウツボカズラとかばっかりだったけどやっと普通だー! やったー!)
恵夢・S・インファネス(
ja8446)は心の中で普通の依頼に参加できた喜びを噛み締める。
「学園の敷地内に……そんな場所があったんです、ね……」
おずおずと言う水葉さくら(
ja9860)。可憐な容姿の彼女。しかしながらその胸の膨らみは大きめ。
控えめな性格に反して、わがままボディな美少女である。
そんな所で扉がキィと開き、VK第三班の四名が入室。
「待たせちゃってごめんね」
部屋に入って来た四名の中で一番年上と思われる茶髪の女性が言った。
「とりあえず、自己紹介といきましょうか」
全員が席に着き、ミーティングが開始。
***
先に依頼を受けた撃退士達が自己紹介し、その後にVKのメンバーが順番に一言。
「アタシはアウストル・立花。VK第三班の班長をやっています。今回の作戦ではよろしくね!」
アウストル――茶色いウェーブのかかったロングヘアの、明るく気さくそうな女性。
「……あたしはせつな、永代・せつなだ」
せつな――黒髪のショートカット、タンクトップに黒のスパッツ姿。スレンダーで引き締まった肉体の、ボーイッシュな少女。
「えとえと……萌の名前は……逆十字・萌と言います……よろしく……です……」
萌――黒を基調としたゴスロリ服を身に纏った大人しそうな黒髪ロングストレートの少女。
「私はコリウス・ヴィオレッタ。学園に害をなすサーバントは速やかに排除しなければならない」
コリウス――端整な顔立ちに真剣な表情を浮かべ、ビシッと儀礼服を着こなした、紫がかった黒髪ボブカットの少女。
「……小中学生が前衛というのは気になりますね」
ふいに叶伊が小声で言った。
それに反応したのはコリウス。「我々は戦闘能力で君達に引けを取るつもりは無い。年齢だけで判断しないで貰いたい」と睨んできた。
叶伊は「おっと、すみません」と肩を竦めつつ続ける。
「総数は……最大で二十隊、ゴブリン百体とリーダー四十体を想定してますが……ただ殲滅あるのみですね」
またコリウスが反応する。
「その総数はあり得ない。最悪を想定するのは結構だが、別班の偵察によれば最大でもその半分程度だと思われる」
コリウスはきっぱりと言い切った。
……どうやら思った事ははっきりと言う性格のようである。
一方、恵夢は自分と同じ大剣使いの突撃型という事で、せつなにシンパシーを感じていた。
「今日は一緒に頑張ろうね!」
フレンドリーに接して同行を願う。
(たぶん永代さんはこの班の位置取りの基本。彼女が横に居てくれれば他の班員とも良い距離感が保てる筈)
恵夢にはシンパシーだけでなくそのような考えもあった。
「……」
しかし、せつなは無言。
「永代さん?」
恵夢は首を傾げる。何か気に障ったのだろうか。
「……でかいな。……いや、戦闘スタイルが近いなら同行は構わない」
せつなの視線は当然ながら恵夢のたわわな二つの果実に向けられていた。
「ほう、ゲート跡のゴミ掃除を率先してやるとは関心だな。 俺も店の事が無けりゃ参加してェ所だが……」
それまで様子を窺っていたデニス・トールマン(
jb2314) が口を開いた。
「ごめんなさい。VKは戦乙女の名の通り、女性限定なんだよね」
と、アウストルが片目を瞑って頭を下げる。
「何? 女子限定? そいつは残念だな」
はははとデニスは笑った。厳つい顔と巨躯の割にフランクな喋りである。
「それにしても……流石に若いのが多いな」
今度はコリウスの視線がデニスへ――。侮辱は決して許さない性格でもあるようだ。
「別にお嬢さん方をナメてるってワケじゃねェが……」
(何にせよ、しっかり守ってやらねェと……。共に戦場に立てる大人として、な)
デニスは今回の参加者で最年長。相応の責任を感じている。
「癖の強い子が多い班だ、纏め役の人は大変そうだな」
一連の流れを見ていた日下部 司(
jb5638)はふう、と一息。
(敵はかなりの数が居るらしいから出来る限り連携を取って行動したいけど、初めて会った俺達と連携を取ってくれるかな?)
などと司は考えつつ、四名に改めて挨拶し、得意分野を聞く。
……会話の内容から窺えた事は、一応アウストルが纏めてはいるものの、VK第三班は個人の実力主義が大きいらしい。
下手に連携を取ろうとするよりも、彼女らに合わせた方が良さそうだと司は思った。
間もなく作戦開始時刻、となった所で一同は現場へ移動。
●VSゴブリン群
封鎖区画。鬱蒼と雑草が生い茂る平地に、大規模な破壊の跡を思わせる建物の残骸や瓦礫が点々としている……。
「敵影を確認したわ。ここから見える範囲ではゴブリンリーダーが五体、ゴブリンは……約二十五体。他にも潜んでいるかもしれない。注意して」
残骸に身を隠したケイが、覗いていた双眼鏡を降ろし、皆の方を向いて報告。
「敵の陣容は聞いての通り。それじゃあ作戦を開始す――」
「永代・せつな、目標のサーバント群を排除する」
アウストルの言葉を遮ってせつなが大剣を具現化させ、敵陣へ突撃。
「キャハハハ! 狩りの始まりだぁ!!」
大鋏を構えた萌がそれに続く。……済し崩し的に戦闘が開始された。
「……後の連絡は光信機で」
ケイが言い、皆が「了解」と頷く。
恵夢がせつなのフォロー、さくらが萌のフォローをする為、先に前線へ向かう。
他、前衛は静流、司、仁刀。
後衛はケイ、デニス、叶伊。VKからはアウストルとコリウス、となる。
***
せつなと合流した恵夢は彼女と共に最前衛で大剣を振るう。二人の重い斬撃に一刀両断されるゴブリン達。所詮は雑兵だ。
飛んでくる槍のダメージは【剣魂】をガンガン使用して回復。
敵が散開する動きを見せた時には――
「行かせない」
「おっと、そうはいかないよ」
散開先を塞ぐようなラインで二人が【封砲】を使用。射線上の敵が薙ぎ払われた。
さくらは専任で萌のフォローを務める。
「あ、あまり、無茶はしないでくださいね……」
萌の傍に付いて移動するさくら。萌は「キャハハハ!」と笑いながら大鋏でゴブリンを真っ二つにしている。
その様子にさくらは若干引き気味。しかし手は抜けない。
距離に応じて『忍刀・月華』と『天翔弓』を使い分ける。
萌を中心として、囲まれないよう左右と背後にいる敵から排除していく。
他は萌と同じ敵を攻撃。敵の攻撃は極力回避。
「……やらせません! そ、そこ……!」
『天翔弓』を活性化。すると、さくらの背中に小さな風の翼が生まれ、魔装が部分的に変化。風を思わせる緑色となる。
槍を投擲しようとしていた遠方の敵を狙い射抜いた。
「……萌さんには、ち、近寄らせません……!」
続いて『忍刀・月華』を活性化。銀色のアウルがさくらの全身を包み、淡く輝く。
それはさくらが動くと微かに残像を残し、敵を惑わす。……次の瞬間、敵は斬撃音と共に倒れ伏した。
***
前衛三人――。
「リーダーの相手は雑兵をある程度減らした後が望ましいな。横からちょっかいを出されても厄介だしね」
静流はまず、拳銃で射撃し、敵を牽制しながら接近。敵を観察し、相手の意図を予測する。
……やはり敵は複数対一を狙ってくるようだ。ゴブリン二体が接近。
目にもとまらぬ一撃。――【時雨】。その後も積極使用し、敵の骸の山を築いてゆく。
「『急がば回れ』とも言うし、いきなり大物を狙っても上手くいかんだろう」
司はVK前衛二名を中心に離れ過ぎない左翼へ位置取り、彼女らを影ながらフォローしていた。
せつなには恵夢、萌にはさくらが付いているが……。
四名へ槍の投擲を狙う敵を発見、直ちに突撃槍を用いて始末。
「念には念を、ですね」
「突撃系の人間がいるなら、前線を上げるしかない」
仁刀は大勢の群れで動く敵が広がり過ぎないよう牽制も兼ねて右翼へ出る。
孤立しないよう注意。十分味方をフォロー出来る距離を維持しつつ、ゴブリンを排除していた。
「あちらの方が数が圧倒的に多い、本気で散開し始めると止められない」
ならば、『迂闊にばらけると確実に倒される』と思わせる。
やはり包囲を狙う敵に対し【白虹】を撃ち、それを防ぐ。仁刀の合理的な動きと、仲間との連携によって敵は密集し始めていた。
「数が多過ぎれば身動きが取り難い。それならこっちがやり易くなる」
大太刀を構え直して、仁刀は前へ。
***
後衛――。
叶伊はコリウスと共にやや前衛寄り。
ケイはアウストルとペア。デニスは二人の護衛。
ケイは後方で敵の陣形を監視。敵の動きを逐一光信機で仲間に伝える役割を担う。
負傷中の身ゆえ決して無理はせず、戦線が後退すれば自分も後退しようと考えていたが、今の所前衛の的確な行動によって戦線は維持されていた。
今、ケイは雑草や瓦礫に隠れ、【索敵】と双眼鏡で敵の陣形と動きを観察中。
特に浸透には注意しなければならない。敵の数は多い。仲間が気付かない事も考えられる。
叶伊はコリウスと共に、前衛と付かず離れずの位置で、討ち漏らしを排除していた。
「やれやれ……前途多難だな……」
デニスは開幕で突貫したせつな、それに続いた萌を見て側頭部に手を当てる。
彼はアウストルの前に立ち、散弾銃で援護射撃中。
「お前さんが班のリーダーなんだよな? 出来れば、あのおてんば姫達をなんとかして欲しいんだが」
デニスの言葉にアウストルは首を横に振る。
「無理。あの子達は個性が強過ぎるし」
それを生かした戦い方をして貰った方が良い、と彼女は言った。
●VSゴブリンリーダー
敵の数も大分減り、前衛はいよいよ大物であるリーダーも含めた戦闘に入った。
静流は敵の隙を見逃さず、リーダーへ【弐式「黄泉風」】を打ち込み、後退させる。
(戦力的なバランスは取れているみたいだが、判断は各自でしているみたいだし)
リーダーを前にしてもVKへのフォローは忘れない。死角を突かれる可能性もある。
司は後方へ移動する敵集団へ【封咆】を撃ち放つ。
「いよいよ物量で押し潰しに来たか」
リーダーの攻撃は【シールド】を使用し、魔具で受け止める。
「っ! この位!」
仁刀は手前の敵群へ少し踏み込み、【水月】を叩き込む。リーダーにダメージを与えると同時に取り巻きを排除。
リーダーの反撃は【弧光】で対処。
「ちっ、重いな……!」
そこで仁刀は一旦距離を取った。迂回しようとする敵を発見。すかさず【白虹】で薙ぎ払う。
距離に応じて技を変え『どこから広がろうと対応する』と見せつける。
恵夢はせつなと共に只管敵をぶちのめすツアー中。
大剣を振り回して「大きくて目立つだけでも、役に立つ事はあるね!」と、「大きい」だけでは形容しがたい胸を張る。
敵集団を発見すればまたせつなと一緒に【封砲】を放つ。
「大は小を隠す! ってね!」
「……」
恵夢の言葉に、せつなはどこかしゅんとした様子だった……。
さくらは現在、リーダーと交戦中。
「え、えと、こちらを手伝って頂けますか……?」
尚も暴れ回っている萌に協力を要請。しかし聞きつけてくれたようで、萌は大鋏を収納しPDWを具現化、援護射撃。
「だらしねぇなぁ!」
「あ、ありがと……」
リーダーの攻撃を【シールド】で受け止める。盾では無く魔具で。
その時、萌の背中に槍が迫る――! リーダーへ攻撃を集中させた事で他の敵への抑えが甘くなっていた。
……が、萌に槍は届かない。さくらが【小天使の翼】を使用し、萌を抱えて飛んだのだ。
さくらは萌と同じ中等部の割に胸がかなり大きく、それが萌の背中に密着する。
「えと……す、すみません、一度、下がりますね」
「おぉ、良い感触だな。後で揉ませろ」
「そ、それはちょっと……」
***
尚も最前線で敵と交戦する恵夢とせつな。
司は二人への不意打ちを身を挺して庇い、二人の手を引いて一旦後退。態勢を立て直す。
「二人とも突出しすぎだよ。もっと周りとの距離に注意してね」
増援のゴブリン複数が彼女達を狙っていた。
そこで仁刀が残しておいた【白虹】を敵へ向け側面から放ち、消滅させる。
「はあ……間に合ったか」
静流から通信。
「少し不味い。まだ増援が居た。後衛が」
●後衛の死闘
前衛が激戦を繰り広げる中、後衛もリーダー率いる複数の敵と交戦、苦戦していた。
ケイは自身の安全を確保しつつリーダーの攻撃に対し【回避射撃】。
「……たとえ体中痛くてもね、偶に引き金を引く程度なら出来るのよ」
叶伊はリーダーに【神速】を使用した斬撃を叩き込み、押し留める。
「ケイさんをやらせる訳にはいきません!」
それをコリウスが魔法攻撃で援護。だが――
この人数で全ての敵を抑える事は出来ない。ゴブリンの攻撃がケイに向く。
デニスが咄嗟に《Over point ―Aces Four of a Kind―》で、そのダメージを引き受ける。
「よぅ、お嬢さん……お怪我はございませんか、ってな」
額から血を垂らしながらデニスは微笑む。
「あ、ありがとう……」
「っと、まだ安心できないよ!」
狙撃銃から拳銃へ切り替えたアウストルがゴブリンを排除した。だが敵は未だ残っている。
「Damn it...! 次から次にキリが無ェぜ……!」
デニスが悪態をついた所で、前線の敵を片付けた前衛が到着。程無くサーバントの駆除が完了した。