●紫陽花畑
天魔――ディアボロと思しき巨大なナメクジとカタツムリが出現した公園。
現在警察によって封鎖中のそこに、依頼を受けた六名の撃退士が到着。
「シトシトと降る雨の音は心が落ち着くよね」
初めに口を開いたのは、お下げにした紫の髪に紅の瞳……少女と見紛う容姿、身体つきをした少年だった。
「梅雨は好きだけど……ぬ、ぬめぬめするのは苦手かな……」
ぞぞっと背中を震わせる彼の名は永連 璃遠(
ja2142)。
警察からもたらされた情報によると、敵は粘液の塊を吐いて攻撃してくるらしい。
更にはナメクジとカタツムリの姿をしており、全身から粘液を分泌しているそうな。
「天気予報ではもうすぐ雨が降るみたいだけれど、粘液を洗い流してくれるといいなぁ……」
交戦すれば少なからず粘液を浴びることになるだろう。……璃遠は雨乞いをするように曇天を見上げた。
「紫陽花は家の大切な花。思い入れのある紫陽花を汚すのは許さない」
璃遠と同じく少女のように愛らしい顔、桃色に近い赤毛の少年、紫園路 一輝(
ja3602)が言った。
「六月は梅雨で嫌われがちですが、僕の一番好きな季節です。紫園路 一輝、花の為に頑張らせていただきます」
自分以外の今回依頼を共にする五名の撃退士に対し、ぺこりと頭を下げる。
「せっかく見頃の紫陽花らしいから、それは傷つけないようにしないとなのかな? かな?」
小麦色の肌をした元気いっぱいの少女、Tシャツに短パン姿の焔・楓(
ja7214)はかくりと首をかしげ、柔らかそうな唇に人差し指を当てる。
「うむ。そのほうが良いじゃろう。ここは隠れた名所のようじゃからな」
それに答えたのは……まさに紫陽花のような青紫の髪に張りのある浅黒い肌、豊満な胸元を晒した美少女、ハルシオン(
jb2740)。
彼女は顔の右目付近だけを覆う白色の仮面を付けており、それが左目――エメラルド色の瞳を更に引き立てている。
「うぬぬっ、紫陽花畑は美しいものなのじゃ。此の季節ならでは娯楽を汚すとは、万死に値するぞ!」
ハルシオンは娯楽を愛する者として、花を愛でるのも娯楽の一つであるという考えを持っており、それを土足で汚した輩に激しい憤怒を抱いて依頼に参加した次第である。
「見ておれナメクジども、一匹残らず駆逐してくれるのじゃーーっ!!」
やる気120%な叫び。その隣では――
「ぬるぬるべとべとナメクジさん……あはぁ、なんかすっごくえっちぃ♪」
などと、ふんわりとしたピンク色の髪を揺らし、アムル・アムリタ・アールマティ(
jb2503)が両手を火照った頬に当てて身体をくねらせていた。
彼女は髪がピンク色ならば頭の中もピンク色の快楽至上主義者。
純白のブラウスの胸元を大きく開け、真白な肌を露わにし、ハルシオンよりも二回りほど大きなバストをばるんばるんと揺らしている。
ちなみに可愛らしい刺繍のブラも見えて(見せて)おり、彼女の存在自体が年頃の男子二名には目の毒だった。
「できるだけ楽しんでイキたいねぇ〜……ねぇ、ハルちゃん♪」
「な、ななな、おぬし等は何を言っておるのじゃ!?」
ハルちゃんと呼ばれたハルシオンは動揺。悪い予感が脳裏をよぎる。
「雨が降ると、お洋服も濡れちゃうし……嫌な事いっぱいねぇ」
小さな唇を尖らせる、お嬢様然とした少女の姿。
プラチナブロンドの髪にドルフィングレーの瞳、色白の肌……千世=F=クルスニク(
jb6222)である。
「まぁ、紫陽花が綺麗。とっても、綺麗」
穏やかな微笑を浮かべた千世は近くのアジサイを見て呟いた。
公園の周りにも、内部のアジサイ畑ほどではないものの、それなりの数のアジサイが植えられている。
「梅雨ならでは美――アジサイを守らなければならんのう」
「おまわりさんから中のアジサイ畑はすっごくキレイだって聞いたよ! 天魔の好きにはさせないのだ♪」
ハルシオンの言葉に楓が頷き、ぴょんと飛び跳ねる。
「はぁん、ぬるぬるさぁん、早くぅ〜」
その横でアムルはまだくねくねしていた。
***
さて、これより撃退士たちは事前に決めておいた通り二人一組となって行動する。
アムル・ハルシオン組――。
「ボクはハルちゃんと組むー♪」
「まったく、世話が焼けそうじゃ。仕方がないのう」
一輝・千世組――。
「よろしくお願いします。千世先輩♪」
「えーっと、私は紫園路さんと、でしたね。宜しくお願いしますね?」
璃遠・楓組――。
「僕は楓ちゃんと一緒の班だね」
「永連おにーさん宜しくなのだ♪」
「こちらこそ。お互い横にならんで通路を捜索する形で良いかな」
璃遠は微笑んで楓の手を取り、二人は自然に手を繋いだ。
「それじゃあ敵を探すのだー♪」
いよいよ、撃退士たちは三手に分かれてアジサイ畑へ突入……。
●ぬるぬる戦闘 前半
一輝・千世組――。
「う〜ん、見当たりませんね……」
一輝は平手をおでこに当てて辺りを見渡すが……敵の姿は無い。
「……ふむ。普通に考えれば、アジサイの茂みが怪しいですね」
千世が一瞬思案してから言った。
「なら、そこを探しましょうか。どちらが行きます?」
「……」
一輝の問いに対し、千世は無言の微笑で答える。
「じゃ、じゃー、僕いきまーす!」
しゅばっと元気よく挙手する一輝。
「やはりここは殿方の出番かと」
千世は微笑を崩さない。
「デスヨネー……」
というわけで一輝が茂みを探ることになった。
「絶対出てくるなよー……絶対だからなー……!?」
フリとしか思えないことを口にしながら一輝は屈んで茂みを漁る。すると――
にょっきりとした触角がまず視界に映った。次にぬらぬらした胴体。最後に立派な殻。
……巨大なカタツムリ。それも五体同時に出現!
「やっぱりデター!?」
一輝は慌てて飛び退くが時すでに遅し。カタツムリたちは前進し、完全に姿を現した。
間髪置かずに口から粘液弾を発射。
「――っ!?」
それはびしゃりと一輝の顔面に着弾。一輝は思わず尻もちをつく。
カタツムリたちは粘液弾を連射しつつ前進。一輝の身体中に次々と着弾。
「あらぁ……大きい」
千世はその光景に、思わず口に手を添える。
「や、やめっ、ちょ、まっ」
一輝に降り注ぐ粘液弾の雨あられ。彼は瞬く間に粘液塗れとなった。
「た、たすけ……げほっ! ごほっ!」
粘液が口内に入ってしまったらしい。一輝は慌てて吐き出した。唾液と混ざった粘液がだらりと垂れる。
「お洋服汚れるのは、嫌ですねぇ。だから、近付くのは駄目です」
一応、武器の鉄扇を用意しつつ、千世は離れた場所からしばしその様子を眺めた。
***
璃遠・楓組――。
(楓ちゃんは僕よりずっと年下だし……僕がしっかりしないとね)
「一緒に頑張ろう。楓ちゃんはナメクジとか大丈夫なの?」
「んー、ナメクジってあんまり見たことないかも。実際に見てみないとわからないのだー」
「あはは、そっか」
(……もし彼女が襲われたらすぐに助けないと)
二人は手を繋いだまま仲良く会話しつつ、アジサイ畑の通路を進む。
(……何体いるのかわからないけど、同時に複数相手にすると厄介かな……)
璃遠は思案。囲まれれば厄介なことになるだろう。そして。
「さて通路には……敵は見当たらないね」
「そうだね、どこかに隠れてるとか?」
「となると茂みの中を探すしか……嫌な予感がするけど」
「…………居たー!!」
璃遠が顎に手を当てて再び思案しようとした瞬間に、楓の声が上がった。
「って、楓ちゃん!?」
楓は既に茂みを漁っており、そこで敵とご対面したようだ。
「永連おにーさん! 巨大ナメクジ発見なのだ! それじゃあ一気に殴り倒すのだ♪」
不敵に笑ってトンファーを構える楓。
「ダメだ楓ちゃん! 一旦離れて!」
楓は璃遠の静止を聞かず、一撃を加えようとするが――ナメクジが放った粘液弾が足元に着弾し、すってんころりん。転倒してしまう。
「みゃー!? 気持ち悪いのだー!? ……あぅ、ぬるぬるするぅ」
潜んでいたナメクジは五体だった。粘液弾を連射し、楓の足元と楓自身をぬるぬるのつるつるにして立ち上がれないようにしている。
「楓ちゃん!? くっ、今助けるから!!」
璃遠は奥歯を噛んでダッシュ。――したのが不味かった。
ナメクジたちは照準を璃遠に変更。足元へ粘液弾を発射。……モロに喰らった璃遠は盛大にスリップし、
「わぁーーーっ!?」
楓と激突。絡み合う形となってしまう。しかも、ぬるぬるの状態で……。
「ごめん、楓ちゃん……痛くなかった?」
「永連おにーさん……痛くはないけど……むしろ……ひゃっ! 動いちゃダメぇ!?」
「わあああ!? ごめん!!」
二人は離れようとするが、その意思に反して更に絡まってしまう。
粘液弾をしこたま浴びせたナメクジたちは、今度は二人に向かってのしかかってくる。
ナメクジの身体から分泌される粘液が二人を更にぬるぬるにした。
「こいつ、いきなり……くぅ、放せ……っ」
璃遠は気丈に振る舞うが……、
「ぬるぬるっ……この力が入らない感じが嫌ぁ……はぅぅぅ」
「永連おにーさぁん……はわぁぁぁ」
なんだか大変なことになっていた。
***
アムル・ハルシオン組――。
「……あ、勢い余って体当たりしちゃったぁ♪ でも、ぬるぬるして気持ちぃ……♪」
「なっ!? アムル、おぬしは何を……って、ぬぁーーっ!?」
こちらは既に始まっていた。巨大ナメクジを発見したアムルが、ハルシオンの手を引いて一緒に突撃したのだ。
当然、粘液塗れとなる。五体のナメクジたちは嬉々としてのしかかり攻撃を仕掛けてきて、そのうち二体のナメクジが二人の胸の谷間へ侵入を図る。
「ね、ハルちゃんもほらぁ、気持ちいぃでしょぉ……♪」
「アムルぅ! 何処を掴んでおるのじゃ、ちょ、はうぅん♪」
二人はもう揉みくちゃの状態。にゅるんにゅるんと絡み合う。粘液のぐちゃぐちゃとした音が辺りに響く。
「あぁん、のしかかられて身体潰されちゃってるぅ……♪」
「や、止めるのじゃ……ふあああ、入ってくるぅ……気持ちの悪いナメクジが服の中に入ってくるぅ……!」
ぬるぬるの快感に二人は悶えた……。不快に感じる筈の、ナメクジの感触も今は絶妙で、素肌に張り付いてきて――。
二人は可愛らしい声を上げる。
●ぬるぬる戦闘 後半
璃遠・楓組――。
「こうなったら……脱出するのだ!」
楓はキッと表情を引き締める。
「てりゃー!!」
Tシャツと短パンを脱ぎ捨て、ぬるぬるを利用し、すっぽーん! と抜け出した。
続いて璃遠も――
「ふぐっ……い、いい加減にしてよ!」
【薙ぎ払い】を使用して張り付いていたナメクジ一体を撃破、脱出に成功する。
「意地があるんだ、男の子には」
やっと立ち上がり、璃遠は剣を構え直した――。
二人は協力し、程無くナメクジ五体を撃破。
「ふぅ、これで全部かな? かな? ん、永連おにーさん顔真っ赤だけど、どうしたのだ?」
様子がおかしい璃遠に、楓は首をかしげる。
「ええと……あの……なんて言ったらいいか……」
璃遠は地面に落ちている粘液塗れの物を指差した。――楓の衣服。つまり彼女は今、ぱんつ一枚だけ!
「……ぁ、わきゃ!?」
***
アムル・ハルシオン組――。
「ぐぬぬぬっ、こ、此のような辱めを受けようとはぁ……! ひゃあああ!」
「ぅん、お洋服脱いだら、何とか身体滑らせて脱出できないかなぁ……ほらぁ、ハルちゃんも早くぅ……♪」
二人は未だに絡み合ったままだったが、アムルがそのように提案。しかし発想が十歳程度の女児と同じ!
「くぅ、背に腹は代えられまい……」
というわけで二人は服を脱いだ勢いで脱出。……当然ながら下着姿です。
「……ふぅ。堪能したし後は真面目にやらないとねぇ……あぁ、でもあの感触凄く良かったなぁ……♪」
「何を言っているのじゃ。さっさと倒してしまうぞ」
ハルシオンは溜息を吐きつつ、武器の爪を活性化させる。
しかしアムルはまだ名残惜しそうであり、物足りない様子……。
「ね、ハルちゃん、もう一回、もう一回だけ絡まれよぉ♪」
「はぁっ!? ――って、待つのじゃあああああ!! あぁぁぁ〜♪」
ハルシオンは唖然とする間もなく、またもぬるぬるの餌食となった……。
***
一輝・千世組――。
「タスケテ……チセセンパイ……」
五体のカタツムリに代わる代わる弄ばれた一輝の瞳は既に輝きを失っていた……。
「うふふ、まだダ・メ」
千世はまだ少し離れた所から観察中。その言葉に一輝はくたりと崩れ落ちる。
にゅるんにゅるんとカタツムリたちが這い回る。と、そのとき。一体のカタツムリが千世へ向けて粘液弾を発射。
――それは見事、千世の端正な顔に命中。
「危ないのは、嫌ですねぇ。と、思いましたけれど、戦いですからぁ……容赦は、禁物」
瞬間、千世は光纏。サンダーブレードを打ち放ち、一体のカタツムリを葬った。
その後、何度か粘液弾を受けつつも全ての敵を排除。一輝を救出。
「困っているなら、助け会う……って、聞きましたわぁ」
●スーパー銭湯
午後になり、雨が降り出した頃にはディアボロを殲滅。無事、依頼を完了した。
依頼を終えた撃退士たちはそれぞれに帰還する。
「うー、やっぱりぬるぬるで気持ち悪いのだ。お風呂でさっぱりしないとだねー。永連おにーさんもいくのだ♪」
「わわっ!? 待ってよ楓ちゃん!!」
しっかりと服を着た楓は、璃遠と腕を組んで近くのスーパー銭湯へ。
それには丁度良いと、アムルとハルシオンも付いてきた。
「アムルぅ! おぬし、絶対良からぬことを考えておるじゃろ!?」
というハルシオンの抗議をアムルは無視。無理やり引っ張って行く。
「……なーんのことかなぁ♪」
***
大浴場の洗い場にて。
「……えへへぇ、ハルちゃんのコトはボクが洗ったげるぅ♪ あぁ、まだぬるぬるが残ってるぅ♪」
「だからそこは自分で洗えると……ふわぁぁぁ〜♪」
女湯のほうからそんな声が聞こえる中――
「あの……」
「どうしたのだ?」
「なんで楓ちゃんがこっちに居るの!? ここは男湯だよ!?」
璃遠は何故か椅子に座らされ、楓に背中を流されていた。
「あたしはまだセーフかなぁーって♪」
「アウトだよ!」
璃遠は内心ドキドキしていた。一応二人ともタオルを巻いているものの……。
「それに……永連おにーさんにはほとんど全部見られちゃったし……」
ぽりぽりと頬をかく楓。その表情には恥じらいと、また別の何かが浮かんでいた。
***
「ひとーつ、ふたーつ……とっても、綺麗」
千世はまだ件の公園に留まり、戦闘によって少なからず散ってしまったアジサイの花びらを数える。
「お花が散るのは、簡単な事ねぇ……でも、とても勿体ないわ……」
一輝はというと……
「大規模作戦が終ったら一旦そっちに帰るよ。だからまー、少し待っていて母さん」
しばらく雨に濡れるアジサイに向かって手を合わせてからそのように言い、帰路に着いたのだった……。