●顔合わせ
部室棟前――。
ヴァルキリーナイツ(以下VK)からの雪だるま型サーバント退治(+鍋パーティー)の依頼を受けた撃退士達はまずVKの面々に挨拶。
まず口を開いたのは雪室 チルル(
ja0220)。
「すっかり冬ね。初雪はまだだけど雪だるま型のサーバントかー。早く見てみたい気持ちもあるかもしれないわ」
彼女は頭にウシャンカを被り、服装もモコモコで防寒対策はばっちりだ。
「早くみんなで鍋で温まれるといいね」
次に狩野 峰雪(
ja0345)。彼はスーツの上にコートを着込んでいる。物腰の柔らかいおじさんだ。
ちなみにサーバントの駆除が完了した後は皆で鍋パーティーを開くことになっている。
妖しい雰囲気と漆黒のコートを纏ったセンター分けの青年、鷺谷 明(
ja0776)はこのように言う。
――コートにところどころ赤い染みが付いているのはきっと気の所為だろう。
「雪だるまなあ。十体ぐらい作った後は雪合戦に移行してみんなでぶつけ合うんだろう?」
そして誰か一人ぐらいは雪だるまの核とか言って岩を混入させてて喧嘩になる。
===久遠ヶ原学園偏見集より===
「うんうん、学園の治安の為にもサーバント退治は必須」
そのように頷くのは礼野 智美(
ja3600)。腰までの長い髪が特徴的である。
凛とした彼女はパッと見美青年。すらっとした体躯に男子用制服を着用しており、声もやや低めなのと、平たい胸族なので初見では女性と気付かない者も居るかもしれない。
「わふぅ、たい焼き美味しいですー」
ひたすらマイペースな獣耳尻尾のモフモフ天使、影山・狐雀(
jb2742)は持参した好物のたい焼きを美味しそうにもぐもぐしている。
VKの部室棟に来る途中、出店で買ってきたようだ。この寒い時期に食べる熱々のたい焼きは確かに格別であるが――
「もぐもぐ、ごっくん。……サーバント退治もがんばりますよー」
たい焼きを完食して嚥下した後にぐっと手を握って気合を入れた(?)。
そして。
「…………」
寒風に長く美しい銀髪をなびかせ、目を瞑って腕を組み、無言で仁王立ちしている美少女がそこに居た。
彼女はフローライト・アルハザード(
jc1519)。「挨拶など不要」といったオーラを醸し出している。
「顔合わせは済んだだろうか。私は早く戦場へ行きたいのだが」
感情のこもらない口調で呟く。
「そうね。それじゃあ移動しましょうか。案内するから付いて来て」
と、VK第三班のリーダー格であるアウストル・立花が言って先導する。
それに続く撃退士とVKメンバー、永代・せつな、逆十字・萌、コリウス・ヴィオレッタ――。
●VSスノーマン 前半
一行はアウストルの案内で件のサーバントが出現した封鎖区画に到着。周辺は既にVK別班が封鎖していた。
これならば敵がエリア外に逃げてしまうといったことは無いだろう。
撃退士とVK第三班は軽く打ち合わせをし、さっそくサーバント退治を開始。
***
「あれが雪だるま型サーバント! 鴨が葱を背負って来たわね! 全員突撃ー!」
双眼鏡を覗いて敵群を確認した後に大剣を手にし、チルルはダッシュ。
……戦場には中央に位置する廃墟を挟んだ反対側に雪だるま型サーバント――スノーマンの群れが犇めいていた。
廃墟には大穴があいているので撃退士やVKの位置から向こう側を見渡すことも可能。
「せっかくですし、先に行って廃墟の辺りで雪だるまの様子を見てくるのですよー」
続いて翼持ちの狐雀とフローライトが宙へ舞い上がる。二人は先行。
「どれ、やりますか」
峰雪はヒヒイロカネに収納していた銃器を具現化させつつ歩を進める。
笑みを顔に浮かべた明は杖を持ち、表情を引き締めた智美は太刀を抜き、駆ける。
「あの雪だるまにも核……コアみたいなものがあるのかな?」
(大切な人のためにも、速やかに片付ける……!)
***
まず接敵したのはフローライト。【タウント】を使用して敵を引き寄せる。
「引き付ける。後は好きにしろ。気遣いは不要だ」
「戦闘開始ですねー。わふっ、空からしっかりと援護するのですー」
もう一方の翼持ち、狐雀は廃墟の屋上へ降り立ち、敵の動向を観察。……やはりスノーマンの群れはフローライトのほうへ移動している。
接敵を確認した狐雀は【鳳凰召喚】。再び相棒と共に空へ舞いあがり、仲間の援護へ。このままではフローライト一点に圧力が集中してしまう。
「一杯雪だるまが集まってるのですっ。まとめてどっかーんっといきますので注意してくださいねー?」
仲間に注意を促しつつ、【炸裂陣】を放つ狐雀。先制の一撃! スノーマン数体が吹き飛んだ。
「あれれ? もしかしてこの雪だるま……弱い?」
「その通り。だからこの後に鍋パーティーなんてやる余裕があるのよ」
耳元の通信機からアウストルの声が聞こえた。
「なるほどー」
狐雀は鳳凰に追撃の指示を出しつつ頷く。
「だが数が多いことには注意しなければならない」
「冷気も集中的に浴びれば危険だ」
続いてコリウスとせつなの声が聞こえた。
「わふぅっ! 了解ですっ!」
フローライトは飛行しつつ魔法による攻撃、敵との距離を見極めながら交戦中。……ほどなく後続の仲間と合流した。
●VSスノーマン 後半
「せいせいせい! せいやぁ!」
チルルは【氷砲『ブリザードキャノン』】で敵を薙ぎ払った後に敵陣へ突入。
大剣を振り被ってばっさばっさと雪だるまを斬り捨てる。力こそパワー! 脳筋アタック!
尚、その隣では同じく脳筋気味な駆逐系女子、VKのせつなが大剣を振り回していた。
峰雪は――銃声。倒れ伏す一体のスノーマン。
「これでまた一体」
「おじさん、なかなかやるわね。年の功かな? 勘が良い」
アウストルと共に阻霊符を貼った廃墟を遮蔽物として利用し、峰雪は銃撃中。
「ははは、まだ年寄り扱いはしてほしくないね。……ところでこのスノーマンというサーバント、弱点? があるみたいだね。胴体の中央部」
「そうそう。確かにスノーマンには弱点、核がある。そこを破壊してしまえば倒せるんだけど……スノーマン自体が弱いからね。おじさん良く気付いたわね」
明は雷光の様な火花が散る杖を持ち、【竜咆】にて交戦中。回避重視で立ち回る。
「さてさて、雪の化生に霜の巨人の技が効くかねえ?」
そう言ってから魔具を布状に切り替え明は前に出て【紅蓮】を使用。――明自身が氷と化し広範囲に攻撃を加える。
それは非常に有効とまではいかないものの、スノーマンに対して普通に効果があり、数体がまた砕け散った。
「ヒャッハー!! 綺麗な氷の花火だぜ!!」
などと近くに居た、戦闘中に付きハイテンション状態の萌がその様子に目をやりつつ、巨大なハサミ型魔具でスノーマンを両断。
智美も前衛にて太刀を振るう。敵が集まったのを見て【時雨】。
「やぁっ!」
二体のスノーマンを同時に貫いた。倒れ伏し、くずれる雪だるま……。
智美は次の目標を捉え、スタンを狙って【烈風突】や【薙ぎ払い】を繰り出す。大抵は一撃で仕留められたが――一体が残る。
「くっ」
「燃えろ」
直後に後方から炎の魔法攻撃が飛び、瀕死のスノーマンは融解。
……炎を放ったのはコリウスだった。
「後ろは任せて貰って構わない」
「ああ、そうさせて貰う」
ぶっきらぼうに言うコリウスに対し智美は少しだけ口元に笑みを浮かべ、太刀を構え直した。
尚も脳筋アタックを繰り返すチルルとせつなだったがあまりにも敵陣深くへ入り込み過ぎたようで、包囲されてしまう。
チルルは退路確保用に残しておいた【氷砲『ブリザードキャノン』】を放とうとしたその時。
敵の一体が弾き飛ばされ包囲に穴が開いた。
「これはフォース……?」
「あまり無理をするな」
それはフローライトが放ったものだった。
「ありがと。ちょっとピンチだったのよね。助けてくれたのね」
せつなも軽く頭を下げる。
「礼など不要だ」
ぷい、とそっぽを向くフローライトだった。
***
そしてしばらくした後に全てのスノーマンを撃破。掃討完了。一行はVKの部室棟に帰還する。
●鍋!
帰還した一行はまず暖房をつけ、温かい飲み物で冷えた身体を温めてから鍋パーティーの準備を開始。
チルルは鶏肉やきりたんぽなどを用意。
智美は白菜、人参、椎茸、えのき、長葱、豆腐、白滝。ぶつ切りの鶏豚鴨牛肉。鱈、ホタテ、ウィンナー等々。
フローライトは野菜を中心に具材を用意した。
あとは調理が出来るメンバーで下ごしらえをしていく。VKを含めると女性が多数なので準備は捗る捗る。
一方、男性陣はコタツに入ってくつろいでいた。
峰雪は先に熱燗をぐいっと。
「ふう〜、温まるねぇ」
狐雀は尚もたい焼き推し。
「わふっ! お鍋を食べた後、デザートにたい焼きは持ってきたのですよー。たい焼きわふぅですっ」
ついでに持参した大好物の油揚げも鍋に入れて貰うようにお願い。
「とりあえず油揚げ入れてもいいですかー? いいですよねー? 美味しいですしっ」
そして明は……何故か女性陣とは別に鍋を用意し、一人部屋の隅でごそごそやっていた。……何やらどす黒い瘴気が漂っている気もするが気のせいだろう。
***
ほどなくして鍋の準備が完了。一同はコタツに入り、ジュースなどを飲みながら、ぐつぐつと煮える鍋に心を躍らせる。
「うん、そろそろいいかな。では雪だるま退治お疲れ様! 鍋パーティーを始めます!」
と、アウストルが宣言しようとしたところに割って入る者が居た。
「ここは久遠ヶ原だよ?」
……ニヤリと、邪悪な笑みを浮かべた明である……。
その手には蓋がされた鍋。だがしかし、明らかに普通の鍋とは違う。瘴気! 暗黒のオーラがあからさまに漏れ出ている!!
このまま鍋パーティーは暗黒のカオス会場と化してしまうのか……。
「久遠ヶ原学園名物、闇鍋を――」
「待ていッ!」
明が嬉々としてカセットコンロに闇鍋を乗せようとしたその瞬間、凛とした声が部屋に響いた!
「だ、誰だ!?」
「鍋を楽しみに生きている人々を欺き、美味な鍋を闇鍋に変える邪悪!! 例え鍋神が現れずとも、いつか必ず心ある者が鍋神に代わって悪を裁く。人それを『天誅』という」
「な、名を名乗れ!」
「貴様に名乗る名は無い! 闇(鍋)を操り光(美味しい鍋)を蝕む者を、私は許さん!!」
リバースカードオープン! 闇鍋カウンター発動! 声の主は智美だった。
「やりたかったら別鍋と別コンロでやって下さい、コタツからは出て行って」
智美は「大抵の人間は美味しい物が良いけど久遠ヶ原学園だし……」と他者が闇鍋をする事を警戒していたのだ。
そんなわけで明は別室に追いやられた。「ぐ、ぐあああああっ!?」などと断末魔が響いたが気にしてはいけない。
というわけで無事に暗黒闇鍋化は回避され、無事に皆、和気藹々と談笑しつつ、数種類の絶品鍋をつついて締めのうどんや雑炊やリゾットを堪能。
みんな満腹、幸せ気分で依頼を終えたのだった。
賑やかな部室棟の外では寒空の下、小雪がちらつく……。
***
余談ではあるが鍋パーティーの翌日、別室で口端からダークマター的なナニカを垂らし、白眼を剥いて気絶している明の姿が発見されたそうな。
また毒物らしきものも検知され、特殊処理班が出動したとの噂もあったが真相は定かではない。