●強化合宿!
私設武装治安維持組織ヴァルキリーナイツ(以下VK)第三班の夏季強化合宿へ同行する事になった八名の撃退士達。
現在は合宿への出発を前にして部室に集合中。
才色(菜食)兼備なクールビューティー、田村 ケイ(
ja0582)。
「夏に合宿か……野営、いいわね。やる事はいつもと変わらないとはいえ、少し心が躍るわ」
彼女は何やら楽しげな様子。
白のメッシュが入った赤髪の青年、久遠 仁刀(
ja2464)。体格は小柄ながら纏う雰囲気や顔つきからその実力が窺える。
「真正面から戦う以外の技術も磨かなければいけないのは事実だ。今回もVK第三班には世話になる」
銀髪の長い髪をした知的な好青年といった感じの由野宮 雅(
ja4909) 。
「初対面だが今回はよろしく」
彼はVKの面々や初見の他参加者に軽く挨拶。
魅惑のわがままボディが特徴的な恵夢・S・インファネス(
ja8446)は――
「テントよーし、方位磁石よーし、キャンプ用品よーし、おやつよーし」
出発を前にして携帯品を指差し声出し確認中。
「備えはあるから大丈夫っと」
キャンプ調理セットも二つ持ち込み、アウトドアでの調理の準備は万全だ。
一見クールな茶髪ストレートヘアの女性、鷹代 由稀(
jb1456)。
「要するに数潰せばいいんでしょ。休息のタイミングさえ間違わなきゃ問題無いわね」
戦歴が長いらしい彼女は変に気張らず余裕を持っている。
「擬態する敵……良いわね。バラバラに分解して弄繰り回して…………あ、合宿頑張りましょうね♪」
などと物騒な事を言っているのは姫桜(
jb4963)。
しかし今回の敵も侮れない。十分に注意する必要がある。
「強化合宿か……。それだけ聞くと燃えてくるものがあるけど、敵は擬態能力が高いディアボロと聞くし……実戦と同じ心構えでいかないと怪我だけじゃ済まないな」
と、日下部 司(
jb5638)はしっかりとした気構えの様だ。
今回は『強化合宿』と銘打ってはいるが、ディアボロの蔓延る森での訓練であり、実戦そのものである。
(合宿……僕もこの所負傷続きで無力さを痛感をしてたっていうか……。この機会に自分の力を見つめ直したい)
永連 璃遠(
ja2142)はその様な気持ちで依頼に参加した次第であったが――彼は集合時間ギリギリにやって来た。
「すみません……少し……遅くなりました……」
璃遠は肩を押さえ、明らかに苦痛を堪えている表情。息も荒い。
「何かツラそうですが……大丈夫?」
璃遠の顏を見た雅が声をかけ、
「……あなた、怪我してるわね。重体まではいってないみたいだけど」
由稀が続けてはっきり言った。私の目はごまかせないわよ、と。
「…………」
璃遠は無言。
「少し見せて貰うわよ」
と、ケイが浮かれ顔を真剣な表情に変え、璃遠の上着を脱がせると……
案の定身体は包帯でぐるぐる巻きだった。璃遠は速攻でVK部室棟内の医務室へ担ぎ込まれる。
***
医務室。パンツ一丁で診療台に寝かされている璃遠。その表情は複雑。
巻かれていた包帯も解かれ、ケイとコリウスに簡易的な検査を受けていた。
「これは酷いわね。幸い、由稀さんの言った通り重体には至っていないけど」
……璃遠は重体一歩手前の傷を負っていた。それを押して依頼に赴こうとしたのだ。
「すぐに治療を」
「そうね。出発時間過ぎちゃってるし、さっさとやりましょう」
と言う訳で回復スキル持ちのケイとコリウスの出番。二人はすぐにスキルを用いて璃遠の傷を癒した……。
***
「本当にすみませんでしたっ!!」
再びVK第三班の部室。璃遠は皆の前で大きく頭を下げる。
「いえ、出発前に判って良かった。でも今後は自己管理に気を付ける事ですね」
と雅が言い、皆はうんうんと頷く。
「すみません。それとお二人は……ありがとうございました」
璃遠はケイとコリウスに目をやり、また頭を下げる。
「勘違いして貰っては困る。怪我人を合宿に連れて行けば足手纏いになる、それだけだ」
コリウスは不機嫌そうな顔でぷいとそっぽを向いた。
そこでアウストルが「あの子は素直じゃないから。ホントは心配してるのよ」と璃遠に耳打ち。
「それじゃあ気を取り直して、合宿にしゅっぱーつ!」
恵夢が元気に言い、皆は荷物を背負った。
●実戦訓練 一日目
初っ端から波乱がありつつも森に到着した一向。
濃緑の葉が生い茂る広葉樹が立ち並び、木々の合間から光が差し込む――。
「ここが……『フェイクフォレスト』……」
そんな爽やかで清々しい光景に雅は思わず声を漏らした。
しかしここはある意味『敵地』。危険なディアボロがどこに潜んでいるのか判らないのだ。
ゆえに皆……特にVKの面々は既に警戒態勢。
「この森はVKの人達が詳しいのかな? ある程度水場が近くて、開けた所が良いかな」
「荷物を背負って戦うのはきっついから先にテントを張ろうよー」
璃遠と恵夢が言った。
「ここはVKの訓練場。野営地は決まっている」
「森の中ほどに川が流れてるのよ。アタシ達は毎回そこで野営してる」
「あそこなら……夜間も襲われる心配はない筈です……」
せつなとアウストルが答え、萌もおずおずと続ける。
……そんなこんなで何度か戦闘を交えつつも川へ到着した一行は近くにテントを設営し、荷物を置いて一息つく。
「ディアボロに対しては、こちらから探索しないと発見できなさそうですね」
璃遠が言った。一行は四人三班に分かれて、いよいよ実戦訓練を開始。
***
A班――。
仁刀を初めとしたこの班はある程度こちらから打って出て、積極的に敵を狩っていた。
後衛が不意打ちを受けない様に隊列を組み、森の中を進む。
(VK第三班の面々はこの森を知ってるらしいが、こっちはそうでもない)
仁刀はその様に考える。
(特にディアボロの強さ、行動パターンは一度余裕ある状態で見ておきたい)
敵を発見しても下手に突っ込まず、観察。
「こういう擬態する敵に対し、目の前の敵だけに集中すると更に隠れた奴の攻撃受けかねないしな」
周りに他の敵が潜んでいないか、不意打ちを警戒して戦闘。大太刀を振るい、迫るフェイクウッドの枝を斬り落とす。
戦闘中もディアボロの木と岩がどういう形か、製作者――悪魔の癖がないかどうか注意深く観察した。
……数度交戦の結果、フェイクウッドは『広葉樹に酷似』、フェイクロックは『岩に酷似』という点しか判らなかった。
個体ごとに枝の付き方や岩の形など細部が異なっている為、一定では無い。やはり目で見分けるのは難しそうだ……。
璃遠は奇襲を受けてもすぐにカバー出来る立ちポジション。
敵が出現すれば距離や敵により刀剣と銃、忍術書を使い分ける。
ケイは中衛で射撃による援護と【回復弾:改】や【ヒール】による回復を担当。
(回復させたとは言え璃遠君はまだ心配だからね……)
特に彼の動きには注意。
動いた影を見つければ銃撃。敵と判別出来ればすぐに仲間に伝え対応。
射程が足りない場合は武器を狙撃銃に切り替えるつもりだったが……森の中である。必然的に中〜近距離戦となった。
どうやら今回狙撃銃はお休みの様だ。同班のアウストルも拳銃を主体に戦っている。
回復役としてもケイは重要な立ち位置である。仁刀は自前の回復スキルがあり、アウストルは後衛ゆえに攻撃を受け難い。
その為、回復スキルを使う相手は主に璃遠。ケイは彼の状態に気を配る。
たまに飛んでくる種子弾や石は【シールド】を使用したリボルバーで受けた。
「敵も飛び道具を標準装備とは厄介ね」
***
B班――。
「どれだけのディアボロが潜んでいるかは分かりませんが、あまり手間は掛けたくないですね」
雅はその様に言いつつ、煙草を吸おうとするが……VKのメンバー、永代・せつなに止められた。
「森林火災に繋がる恐れがある」と注意される。
渋々煙草の箱を懐に仕舞い、洋弓を具現化し、探索。敵出現時は【クイックショット】をメインに使用。
(煙草で一服は野営地に戻ってから……か)
「怪しい所は無いかなっと」
恵夢は【中立者】でCR探査できる対象を試しに索敵してみたのだが……これまた根気のいる作業だった。
樹木の変化を探り、南方以外へ茂る葉や、今の時期なら地面のセミ穴の有無・不自然な潰れ等々。
これらはA班の仁刀が観察して分かった様に個体ごとに差があり、あまり当てにならない。
結局木一本一本、岩一つ一つを見て回るしかなかった。
「……結論。自分が前に出て敵を誘き出した方が早い!!」
多少のダメージは【剣魂】で回復するとして、まずは自分が木々や岩に近づく。
フェイクウッドと判明すれば枝を戦槌で叩き折り、
「はんっまーあーむず! へっびぃ〜・ふぁいたぁ〜♪」
敵の反撃は【シールド】防御で受け流し、追撃は仲間……特にせつなに任せた。
由稀は、今回の戦場は森の中という事で、かさばる狙撃銃は持ち来なかった。
「この時期の広葉樹の森とか射線殆ど通らないもの。拳銃や散弾銃の方が戦いやすいわ」
戦闘時は仲間のやや後方からリロードを頻繁に挟みつつ只管に銃撃。
……また、岩が密集している場所は記憶しておく。
***
C班――。
司は班の先頭を歩く。
「さて、敵はどこに潜んでいるのやら」
主に前方右に注意を払い、少しでも違和感を覚えたら仲間に知らせて共に確認。
しかし。
「こうすれば早いよ♪」
姫桜が移動先に存在する樹木や岩石に突撃銃で単発射撃。敵と判明すれば即座に迎撃・集中攻撃した。
「うーん、自然破壊になるけど割と命が掛かってるから仕方ないか……」
岩は兎も角として。司は傷ついた普通の木々にはごめんなさいする。
その後も司は前衛として行動。敵を引き付け、足止めしつつ近接戦闘。
フェイクウッドは大剣で物理攻撃。フェイクロックは魔法剣で攻撃。
厄介な敵だが……二種の剣を駆使して柔軟に対応。
敵の攻撃は【シールド】で防御し、ダメージを受ければ【剣魂】使用。
後衛のコリウスからの回復スキルによる援護もあり、危なげなく戦えた。
姫桜の方は基本、遠距離攻撃。
フェイクウッドが相手の際は敵の注意が味方に逸れた時を見計らい、戦斧に切り替えて近接攻撃も繰り出す。
フェイクロックには十字架型の魔具から光の矢を生み出して攻撃。
敵の攻撃が来れば【シールド】で防ぐ。その隙はハイテンションになった萌が引き付けて埋めた。
●キャンプ!
夕方になり、一日目の実戦訓練を終えた一行は野営地に帰還。
皆で食事の準備をする。内容は勿論BBQ。
食材の肉や野菜は主にケイが用意、調理器具は恵夢が用意した物を使用する。
「食事の準備は皆でやると楽しいですね。VKの皆さんはいつもどんな物を作るんだろう?」
「いつもはカレーね。保存食で済ませちゃう事もあるけど」
璃遠が首をかしげるとアウストルが答えてくれた。VKの面々はBBQとは別にカレーを作っている。
「おぉ、良い匂い。僕も手伝いたいけど……普段あまり作らないからなぁ。調理の腕は自信ないや」
と言う訳で璃遠、仁刀、雅、司の男性陣は周囲を警戒。
「よーし、ご飯作りはまかせろー」
恵夢は持参した飯盒でご飯を炊く。……間もなく調理が終わり、皆でBBQとカレーライスの食事!
***
食事中、ケイはVKに疑問を投げかける。
「……合宿の目的で聞いたけど、廃ゲートから湧くディアボロが強くなっている……それって何かおかしいように感じるのは私だけかしら? 今までもそういう事ってあったの?」
すぐにコリウスから「ゲート跡から出現するサーバントやディアボロの強さには波がある」という説明を受けた。
「少し気になってしまってね。気を悪くしたらごめんなさい」
コリウスは「別に気にしていない」とカレーをもぐもぐ。
食事が終わる頃には辺りも大分暗くなっていた。明日もあるので前半の見張り組以外は早めに就寝。
「小中学生は就寝時間だよー。こっちおいでー」
誰よりも早めに寝付き爆睡。
「私はどこでもいいわ。テント使えるなら何の支障も無いし」
由稀は石に腰掛け、昔を思い出したらしくぼそりと呟き、煙草咥えて火をつける。
「……野営装備殆ど無くした状況とか、寝ても疲労溜まったからねぇ……」
同じスモーカー仲間の雅も付き合った。
姫桜は簡易シャワーと周りを囲うシートを用意。
「女の子なら汗臭いなんて嫌でしょ? 気が利く私に感謝しなさい」
えっへんと胸を張る。……汗を流したい女性陣が順番で利用させて貰った。
シャワーを使用中は姫桜が周りに目を光らせる。色々な意味で。
***
夜間の見張り。前半を担当するのは――
ケイ、ナイトビジョンIIを装備。視界を確保して周囲を見張る。
仁刀、どっしりと構えて見張る。
「スキル無しでもそこそこ対応できるし、年長者の務めだろう」
由稀、違和感を覚えたら夜目を使用し【索敵】で周囲を探る……つもりだったが特に敵影などは無し。
そして姫桜、アウストル、コリウスも警戒に当たる。
***
数時間後に交代。夜間の見張り、後半は――
雅、ナイトビジョンを装備して見張りに当たる。
恵夢、明け方の暗い内から活動開始。ナイトヴィジョンを装備して未明の暗さに対応。
「一晩ぐっすりフル回復!」
(夜明けが見れるかもしれないし、悩む気持ちも晴れそうだから……)
璃遠はその様な理由で後半を選んだ。しかし、少年の表情は晴れない……と、そこで肩にぽんと手が乗せられた。
振り向けば司の姿。
「悩むのも悪くないと思うよ。答え、出るといいね」
●実戦訓練 二日目
朝食を終えた一行は二日目の実戦訓練を開始。
……一日目の経験で慣れたのか、擬態を行う敵に対して各班、有効な対応を行う事が出来た。
A班――。
仁刀はアウストルの【索敵】に頼り過ぎず、昨日の戦闘で把握したディアボロの行動パターンから自分でも警戒。
(防御力もあるし、回復技もある。今度は積極的に壁になり戦っていかんとな)
ケイと璃遠も敵の奇襲に対し一日目より迅速に対応できた。
***
B班――。
由稀は【索敵】で敵を探し……
あからさまに怪しい岩は仲間へ視線とハンドサインで示し、拳銃で射撃。
銃弾の『点による』攻撃の効果が薄い場合は散弾銃に切り替えて『面による』攻撃を行う。
雅は由稀と共に後衛を担当。恵夢はせつなと連携して、前衛で暴れ回った。
***
C班の姫桜、司、萌、コリウスも無難に敵を倒し続け、夕方になり、今回の強化合宿は無事終了。
一行は野営地の撤収作業を行い、久遠ヶ原学園へ帰還するのだった……。