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マスター:伴阪 春兎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/27


みんなの思い出



オープニング

 初夏の早朝とはいえ、既に太陽の光は力強く降り注ぎ。この日も片道四車線の道路にぎっちりと詰まった車たちの屋根を焼いていた。
 それはいつもと変わらぬ風景……であるはずだった。
 しかしこの日は違った、どの車の中にも人の姿はない。それどころか道路を挟む歩道にすら人っ子一人いないのだ。
 ホラー映画のワンシーンのように静まりかえった通りに突如爆発音が響き渡り、止まっている車の窓ガラスが震えた。
 爆発音から少し遅れて大きな黒煙が、少し進んだところにある大きな十字路から上がりはじめる。
「あいつ火を使うぞ! 気を付けろ!」
 快活そうな顔をした金髪の少年が、自分の背後に向かって叫んだ。
 そんな彼が相対しているのは、スーパーでパックされている牛肉を出鱈目に混ぜたような肉の塊だ。人の上半身をスッポリ覆えそうなその肉の塊が宙に浮き『ヒィィィィ』と甲高い音を立てている。
 顔も手足もない肉の塊だが、よくみれば肉の中にめり込んだ小さな眼球がふたつだけ、キョロキョロとせわしなく動きまわっていた。
 その目が金髪の少年を捉えた瞬間、肉塊の前に火球が生まれて襲いかかる。
「おっと!」
 少年が横っ飛びでその火球を避けると、彼の背後にあったセダンに火球が命中。爆炎と爆音をまき散らす。
「しっかり避けないと骨も残らんぞ?」
 十字路の中心から、細い声が聞こえてきた。
 その声の主は十字路の中心で大きな椅子に座っている男のものだ。青白い肌にこけた頬。やせて手足が長く、神経質そうな顔つきだ。三つ揃いの黒いスーツを身に纏っていた。
 適当に伸したような黒髪を片手でガシガシと掻きながら、空いた手の指で椅子の肘掛けをコツコツと叩いている。
 彼自身も異様な雰囲気を醸し出す男だが、それ以上に彼の腰掛けている椅子が異彩を放っていた。木や金属で作られたものではない、生き物の肉と骨を組み合わせて作り上げられている。背もたれは立ち上がった大人よりも高く、椅子自体も分厚い作りだ。宙に浮いた状態で周囲をフラフラと飛び回っている。
「そら、お前たちも行け」
 男が椅子の上で指示を出すと、彼の背後に控えていた新たなる生き物が動き出した。
 金髪の少年に襲いかかっていた肉塊が新たにふたつ。そして巨人が二体だ。
 巨人は命令を出した男のように手足が以上に細く長い。衣服をなにひとつ身につけていないその身体は白磁のようになめらかで白く。やせ細っていた。
 長い爪は黒く汚れ、その顔には口や鼻がなく、目だけが付いていたのだが、その目も普通なら横向きになっているところが、縦になっている。
 異様な風体である。
「エイジ! 新手が!」
 金髪の少年に向かって、彼の背後にいた赤毛の女性が声をかける。
「分かってる! 先ずはこいつを!」
 エイジと呼ばれた少年が大声を上げ、目の前にいた肉塊に向かって刀をたたき込んだ。上方から入った刃が、抵抗なく肉塊を斬り裂き下方から抜ける。
「よし!」
 相手の絶命を少年が感じ取り、歓喜の声を上げた瞬間……肉塊が爆発した。
 エイジが爆風に吹き飛ばされると、近くにあった車に叩きつけられて大きく車体を歪ませる。そのまま彼は声もなく地面に倒れ伏した。
「エイジ!」
「ああ、言い忘れていた。私が作ったディアボロは死ぬとそうなる。気を付けることだ」
 口元に薄い笑いを貼り付けた男が、小さな拍手を数回送った。自分の作品がもたらした結果に満足しているのだ。
「それなら!」
 エイジに声をかけた女性の周囲に冷気が走り、迫っていたディアボロたちを凍てつかせる。
 その攻撃を受けてディアボロたちは凍り付きながら、深い眠りへと落ちた。
「殺してないからこれなら爆発しないでしょ! 今のうちにエイジを!」
 そう言った女性を先頭に残っていた仲間五人が走りだした、その時。
 眠りについたディオアボロが全て爆発し、エイジに駆け寄ろうとしていた仲間を爆炎で包んだ。
「勿論、そういうときの備えもしてある」
 男の指が肘掛けに隠されていたボタンを押している。右手側の肘掛けの一部が蓋になっていたのだ、それを跳ね上げた男がボタンを押したことで、まだ絶命していなかったディアボロが爆発したのだ。
「ふむ。撃退士というのはこの程度か、つまらん」
 男は椅子に深く腰掛けると、ため息と共にそう吐きだした。
 
 ☆
 
「それでは今回の依頼をお話します……」
 依頼を取り仕切る受付の女生徒がそう言うと、教室に集まった撃退士たちの表情が引き締まった。
「既に皆さんご存じのことと思いますが。H県N市に悪魔が現れました。彼は十字路の中心に位置どると、その場にいた人々をディアボロ化。この事件を受けて当学園は撃退士を派遣したのですが……」
 撃退士たちもその先は知っている。沈痛な空気が教室内に流れた。
「全滅しました。爆発に巻き込まれて生死も不明です。悪魔は戦いが終わった時点で彼らに興味を無くしたようで、とどめを刺したりはしていないとのことです。現地で悪魔を見張っているうちの職員に寄りますと、悪魔は自分で作った椅子に座ったままジッと空を眺めているようです」
 その職員が撮った写真だろう。望遠レンズで捉えたらしいその写真には確かに空を仰ぐ悪魔の姿が映っている。
「どうやらこの椅子の背もたれ裏側がゲートになっているようです。今回皆様にお願いしたいお仕事はふたつ。悪魔の退治と先に出動した撃退士たちの安否確認、救出です。生きていれば勿論ですが、出来れば遺体でも……」
 苦しそうに『遺体』と口にする受付嬢に向けて、撃退士たちは分かってるといわんばかりに頷くと、彼女の肩を叩いてから教室をあとにした。


リプレイ本文

 シンと静まりかえった街中。道路には人のいない車がずらりと並び、歩道を歩く人もいない。
 まるで終末をテーマにしたホラーかSF映画のような風景だ。
「ぞっとする光景だねえ」
 駐まっている車の影に隠れながら狩野峰雪(ja0345)が隣にいる九十九(ja1149)に肩をすくめてみせた。
「そうですねぇ」
 九十九は車の影から顔だけを覗かせて様子を伺う。
「どうかな?」
「監視カメラでみたとおりですねぃ」
 この場所に来る前に周囲のビルに取り付けられた監視カメラの映像から大まかな状況は掴んでいる。
 十字路の中心では椅子に座った悪魔がぼんやりと空を眺め、彼の後ろには四体の巨人が両腕を垂らしながら控えている。
 宙に浮かぶ三体の肉塊は正面と左右の道路であちらこちらへと機敏に飛び回っていた。
 作戦は、峰雪と九十九が悪魔の正面、車道を挟んで左側から。Rehni Nam(ja5238)と南條 侑(jb9620)は同じ方向の道路右側。そこにいる負傷者の救助が目的だ。カメラの解像度の関係で生きているかどうかは判断できなかった。
 そして鈴代 征治(ja1305)は悪魔の後方から迫っている。
「豪気だよね」
 峰雪が感心したように息を吐く。
 向坂 玲治(ja6214)は単身で巨人の足止めをすると言い放ったのだ。
「まあ、うちらはうちらの仕事を」
 ふたりはうなずき合うと、浮かぶ肉塊に見つからないよう姿勢を低くしたまま車の影を移動し、十字路にいる悪魔を左側から遠く眺める位置に付いた。
 車の後ろに背中を預け、武器を活性化させたふたりはお互いに目を合わせ頷きあう。
「いくよ!」
 車の影から飛び出した峰雪の持つ拳銃が火を噴いた。目標は手近にいた肉塊。
 狙い違わず弾丸は肉塊にめり込み、どこに口があるのか分からないその身体から、細く甲高い声を出しながら地面に落ちた。
「僕も行きますか!」
 その銃声が合図だ、悪魔の後方から忍び寄っていた征治が建物の影から飛び出し、峰雪が撃ち落したばかりの肉塊に向けて、光の爪を打ち出す。
 爪は地面をえぐりながら肉塊に殺到し、その身体を斬り裂く。
 続いて蒼く輝く矢を九十九が放つと、直撃を受けた肉塊はその勢いで地面をバウンド、フラフラと飛び上がり、征治めがけて火球を撃ち出した。
「おっと!?」
 征治はすんでの所で手近な車の影に飛び込んだが、火球はその車に触れるなり火炎を周囲にまき散らし、彼の肩を焼く。
「無事か!?」
「大丈夫です!」
 峰雪の鋭い声に、征治が返し。
「よし、それじゃあ行きますかねぇ」
 九十九の声で三人が走りだした――デビルの反対方向へ。
 いち早く彼らの存在に気付いた残りの肉塊たちが素早く中空を滑り、彼らの後を追いかける。

 ☆
 
「今がチャンスです!」
 彼方で爆炎が上がるのを見て、車道のすぐ脇にあるビルの物陰からRehniが飛び出した。
「準備はいいですか?」
「勿論!」
 後から侑も飛び出し、ふたりが同時に構えると、光を発した地面から二体の召喚獣が現れた。
「護衛お願いしますね」
「悪魔の相手を頼んだぞ」
 Rehniは自身が呼び出した金に輝く九尾の狐の頭を撫で、侑は炎に包まれた鳥に命じる。
 主人の名をうけた二体の召喚獣はすぐさま行動を開始、狐は彼女たちから適度に距離を取りながら周囲を警戒し、鳳凰は炎の尾を引きながら悪魔めがけて飛んでいく。
 今なら敵の意識は先制攻撃を仕掛けた三人に向いている。救助者までの距離は五百メートルほど、隠れる場所も多くたどり着くのはそれほど難しい話しではない。
 ふたりは細心の注意を持って移動を開始した。

 ☆
 
「俺の出番だな」
 大きなトラックの影から状況を窺っていた玲治が、ニヤリと笑う。
 自分の仕事は巨人が救助の邪魔にならないようにすることだ。
 彼はトラックの影から堂々と姿を現すと、長大な槍を具現化し。悠然と正面にいる悪魔と巨人に向かって歩き出した。
 当然そんな姿が相手の目に付かないはずがない。
 彼の姿を認めた悪魔が腕を振り、四体の巨人が彼めがけて地響きを上げながら歩き出した。
「暴れますかあ」
 玲治は、正面から迫ってくる壁のような巨人を睨み付けながら、槍を映画のように振り回した。
 充分に身体がほぐれていることを確認してから、地面を蹴りつけて走り出す。
「おおお!」
 巨人集団の真ん中に走り込んだ玲治向かって、同時に突き出された人の顔ほどもあるその拳を、玲治は槍ではたき落とし身を捻りで避けていく。
「そんなにのろまだとかすりもしないぜ!」
 彼は一体の巨人に走り寄ると、勢いと自身の自重をたっぷりと槍にのせ柄の部分で思いっきり巨人を突き飛ばした。
 体格差を物ともせず巨人の身体が宙に浮かび上がり、駐まっていた車の上を飛び越すと地響きをあげて地面に落ちた。
「お次はどいつだ?」
 槍の先端を巨人に向け、挑発的な笑みを玲治が浮かべた。
 
 ☆
 
「あちち!」
 火炎にまかれた九十九が慌てて別の車の影へ飛び込んだ。
「つくもん大丈夫ですか!?」
「あはは、やけど仲間」
 征治に九十九はのんびりと答えながら自身の焼けた肩口を見せた。
「大事がなくて何より、あいつから落とすぞ呼吸を合わせろ!」
 言葉と同時に車の影から峰雪が飛び出し、九十九を襲った肉塊に銃弾を浴びせた。
 弾丸をくらいピンボールのように弾ける肉塊を九十九の放った輝く矢が貫いた。
「伏せて!」
 九十九が言うまでもなく、峰雪も征治も車の影へ身を躍らせている。九十九も彼らに習って身を隠そうとした瞬間、自爆した肉塊の爆風に押し飛ばされた。
「あいた、ついてないねぃ」
 頭に落ちてきたアスファルトの破片を叩きおとしてから九十九は肩をすくめた。
「老体にはこたえるよ。他は上手くいってるのかな?」
「大丈夫じゃないですかねぇ? 肉塊はこっちに来てるし、巨人は向坂さんが押さえてるさね」
 九十九が車体の影から顔を覗かせる。
「あれ? 一体足りない?」
 そういった九十九の背後に滑り込むように肉塊が現れ、火球を放つ体勢に入った。
「つくもん!」
 いち早く気付いた征治が光の爪を放ち、九十九の背後にいた肉塊を斬り裂いた。
 その衝撃で肉塊は明後日の方向を向き、一台の車を火球で吹き飛ばす。
「鈴代さん、ありがとねぃ」
「そろそろ河岸を変えるか」
 峰雪の言葉に、三人が走りだした。
 
 ☆
 
 肉塊が自爆する爆炎を遠目に眺めながら、Rehniは要救助者の許へとたどり着いていた。
「酷い怪我」
 思わず顔をしかめてしまうほどの惨状だ。金髪の少年は、身体の右半分が完全に焼け焦げてしまっている。それこそ足の先から頭頂部まで、顔など真っ黒い骸骨のようだ。
「でも……生きてる」
 自分の力と医療でどこまで回復するかは分からないけれども、それでも死んでしまうよりはずっといい――はずだ。
 Rehniの掌で発芽した小さな植物が少年を照らし始めた。
「頑張って」
 眉を寄せながら、少年を精一杯励ました後で彼女は視線を侑へと向けた、彼もまた別の要救助者の居所へと向かっていたからだ。
 
「よし、息がある」
 侑は赤毛の女性を見下ろしながら安堵のため息をついた。ざっと見たところ大きな怪我と言えば腹部に突き刺さった金属片。焼けていないところを見ると、爆炎には巻き込まれず爆発で吹き飛んだ車の破片を受けてしまったようだ。
「悪いな」
 青白い顔で浅い呼吸を繰り返す彼女にそう言った侑が破片を一気に引き抜くと、女性が小さな悲鳴を上げる。
 すぐさま侑が血液あふれ出す傷口に両手を押しつけると、その隙間から小さな光が漏れ出す。
「大丈夫、助かる」
 その言葉を証明するように、すぐに出血が止まり。呼吸も安定してくる。
「よし、それじゃあ失礼。いつまでもここにはいられないからな」
 容体が安定したとみるなり侑は女性に肩を貸し、強引に立ち上がらせると、視線を一瞬横に向けた。
 そこにいるのは女性の仲間らしい四つの遺体。どれも酷く焼け性別すらわからない。
「彼女は必ず助ける。悪いが少し待っていてくれ」
 寂しさが漂う言葉を吐いてから、侑はその場をあとにしてRehniと合流した。彼女に向かって一度首を振ると、状況を察してくれたようで一瞬眉をよせ、すぐに傍らにいた少年を肩に肩をかして歩き始めた。
 悲しむのは後。今は撃退士としてやらなければならないことがある。
 
 ☆
 
「当たらねえなあ!」
 巨人の拳を避ける度、丸太が通り過ぎたような暴風が巻き起こる身も凍るような状況の仲、それでも玲治は余裕を崩さずに攻撃をさばき続けている。
「おっと?」
 巨人の爪が頬をかすり、血が流れると玲治は口角を上げてその巨人を槍の柄で吹き飛ばす。
 吹き飛ばされた巨人は玲治に向かって拳を突き出そうとしていた別の巨人にぶつかり、仲間を巻き込みながらトラックの荷台へとめり込んだ。
「その程度じゃ俺は倒れないぜ? ……っと?」
 玲治の視界が一瞬霞み、身体に焼けるような痛みが走った。
「なるほど毒か。めんどうな……ちょっとそこにいな!」
 玲治が槍の穂先を地面に突きつけると、地面に落ちた槍の影から無数の黒い腕が伸び、巨人の足と言わず腕と言わず、あらゆる所にしがみついてその身体を拘束する。
 彼はその隙に飛び退くと、目を閉じて精神を集中。
 その瞬間強いアウルの光に包まれる。
「これで毒はよし……ついでにっと」
 更にアウルの光が強くなると、頬に走った傷がみるみるうちに塞がっていく。
「さあ、第二ラウンドと行きますか」
 玲治がそう言った時だ、二陣の風が彼の周りで逆巻いた。
「手伝うわ!」「お待たせ!」
 風の正体はRehniと侑だ。
「おお! 要救助者は?」
 黙って親指を立てる侑をみて、玲治も満足そうに頷いた。
 
 ☆
 
「そろそろいいんじゃないですか?」
 鈴代が背後をうかがってから声をかけると、峰雪と九十九が同時に振り返った。
 背後では二体の肉塊がジグザグに飛び交いながらこちらに向かっている。
「チャンスですねぃ!」
 九十九は逃げながら近くにあった車のボンネットに飛び乗りそのまま跳躍。空中で身体を捻ると、肉塊の片方に弓での連撃を打ち込んだ。
 瞬く間に三度、曲芸のような連撃をくらった肉塊は空中で撥ね、もう片方の肉塊にぶつかる。
「よし!」
 峰雪はそこで急停止。地面を滑りながら振り返り、固まった二体の肉塊に向かって弾丸の雨を浴びせかけると、その動きが完全に止まる。 
「くらえ!」
 征治の周囲に現れた無数の彗星が肉塊に襲いかかり、深々と突き刺さった。
 さすがの連続攻撃は効いたらしい。肉塊は慌ててその場から逃げだそうとした。
「逃がさんよ」
 肉塊の片割れめがけて峰雪が発砲。その肉塊は空中で周囲の車を巻き込みながら爆発した。
 
 ☆
 
「よしよし、そうでなくては」
 高速で移動する椅子の上で微笑みながら、悪魔は襲いかかってきた鳳凰と撃退士たちを交互に眺めていた。
「ちょっと失礼」
 悪魔がマジックアームを振るうと、その直撃を受けた鳳凰は炎を周囲にまき散らしながら消えてしまう。
 鳳凰を振り払って視線を戻した悪魔は、撃退士のひとりに連続で矢を射込まれて逃げ出そうとする肉塊を見とがめた。
「それはだめだ」
 悪魔は肘掛けにある蓋を開くと、なんのためらいもなくボタンを押した。
 その直後、逃げ出そうとする肉塊が空中で爆発する。
「ふむ、避けたか、ひとりぐらいは巻き込めるかと思ったが」
 満足そうに頷く悪魔の前で、撃退士たちは巨人との戦闘を開始した。距離は五十メートルほど先。
 銃弾の雨に矢での攻撃、更には彗星を作り出し、蒼い薔薇の花弁をまき散らしながら飛び長大な槍のような物、おまけにブーメランのように飛ぶ扇にあの頑丈な巨体を易々貫く槍。
「実力者だ」
 彼はそう言うなり、滅多打ちにされている巨人の一体に肉薄。弱り切ったその身体をアームで持ち上げると、撃退士たちに投げつけてまたボタンを押した。
 しかしその爆発も撃退士たちは見事に躱す。
「こうでなくては」
 悪魔はニヤリと微笑んだ。
 
 ☆
 
「畳み掛けるぞ!」
 峰雪が声をかけ、それぞれが目の前にいる巨人に攻撃を仕掛けるなか。Rehniの放ったジャベリンが巨人を貫通、こちらを眺めながらにやついていた悪魔が座る椅子のアームを片方吹き飛ばした。
「いいねえ」
 口元を緩めながら放った峰雪の弾丸が一体の巨人の額を貫くと、巨人は倒れる暇も無く爆発。近くにいたため巻き込まれた別の巨人がたたらを踏み、九十九と侑が追い打ち。巨人は地響きを立てながら片膝をついた。
「行きますよ鈴代さん」
「まかせて!」
 片膝立ちの巨人にRehniと征治が走り込む。
 Rehniは光りで出来た巨大な包丁で巨人の首を半ばまで断ち。その直後、身体を回転させた征治がたっぷりの遠心力を槍にのせ、巨人の身体を空中に打ち上げた。
 放物線を描く巨人は、悪魔のすぐそばで炸裂する。
「こっちは俺に任せて悪魔を!」
 残る巨人に槍を突きつけながら吠えた玲治に皆は頷くと、爆風でよろめく悪魔に走りだした。
 峰雪と九十九が放った遠距離攻撃を受けた悪魔は慌てて椅子を旋回させるが、そこには狙い澄ました征治の一撃が待っていた。黒い衝撃波に吹き飛ばされた悪魔は近くの車にぶつかり地面を滑る。
「あなたの目的はなんですか? ここで死ぬまでやる気で? お名前は?」
 一瞬止まった悪魔に肉薄した征治が矢継ぎ早に質問すると、悪魔は驚いたように一瞬目を見開いた。
「妙なことを気にするヤツだ……目的? 空を飛ぶためさ」
 追撃を避けるために旋回しながら悪魔が言葉を続ける。
「私の背中の筋肉は生まれつき脆弱でね。羽を動かすどころかまっすぐ立つことすら覚束ない。おかげでずっとこの椅子生活さ」
 悪魔の椅子がツララを撃ち出す。
 鈴代は車体に身を隠してその攻撃を避ける。
「だから筋肉を移植した、同じ悪魔のね。だがこれもダメだった、わざわざ同族殺しをしたのに移植した筋肉は忽ち衰弱。役に立たなかった……そこで考えたわけだ、同族の悪魔がダメなら人間のはどうかな、とね」
 侑とRehniの放った攻撃がデビルの身体をとらえ、彼は顔をしかめる。
「撃退士に目を付けた。人間の仲でも強靱な君たちなら上手くいくかもしれないとね。だから強い撃退士をまった! 前回のヤツらはダメだ、弱すぎる! だが君たちはいいぞ、あっという間に私の配下を倒した。人間がダメなら次は天使どもだ! どうだ? 二つ目の質問に対する答えはいらないだろう?」
「話せる相手かと思ったけど残念」
 車の影で征治が呟いた瞬間、少し離れた所で爆発が起きた。玲治が残った巨人を始末したのだ。
「私の名前はランキ! 君たちはどうせ死ぬんだから名前は覚えなくていいぞ!」
 その瞬間、目を見開いて絶叫する悪魔の額に弾痕が穿たれた。
「僕の名前は狩野峰雪……ってもう聞こえてないか。これでもう飛べないことで悩むこともないだろう」
 峰雪がため息といっしょに吐きだした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Mr.Goombah・狩野 峰雪(ja0345)
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
重体: −
面白かった!:5人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
その心は決して折れない・
南條 侑(jb9620)

大学部2年61組 男 陰陽師