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マスター:伴阪 春兎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/18


みんなの思い出



オープニング

 舞台の上で楽団が演奏するクラシックが流れるホール。見るからに高価な衣装に身を包んだ男女が思い思いのテーブルで歓談したり、食事を楽しんでいる。
 天上につり下げられた多数のシャンデリアが煌めき、ホールの中は落ち着いた空気が流れている。
「まさか海の上でこんな楽しい食事ができるなんて思わなかったわ」
 頭髪に白いものが混じり始めた女性が穏やかな笑みを浮かべながら、正面に座する同年代の男性に話しかけた。
「来て良かったな」
 男性の顔は厳格を画に描いたように引き締まっていたが、答えたその声は柔らかく、女性に対する愛情が感じられた。
「最初、クルーズにでも行くかって誘われた時はどうかしたのかと思ったわ」
 その瞬間男性の表情が気まずそうに歪んだ。
「今までは仕事にかまけてたからな、たまにはいいだろう。迷惑だったか?」
「いいえ、とても嬉しい」
「どうもこんにちは」
 そんなふたりに話しかける小さな影があった。
「あら、こんにちは」
 婦人がその挨拶に笑顔を受かべて応えた。
 彼らに話しかけたのは小学生ぐらいの子供だ。海外の生まれなのかサラサラの金髪を眉の上で切りそろえたその少年は、モデルでもやっているのかと思うほどに美形だ。
 作りのしっかりとしたタキシードに身を包んで、深々とお辞儀をしている。
「どうした坊や? ご両親は?」
 男性があたりを見渡すが、それらしき姿はどこにもいない。
「両親? いないよそんなのここには」
 さっきまでは婦人の右隣にいた少年の声が、なぜか今度は男性の背後から聞こえてくる。
 その声に驚いた男性は慌てて背後を振り返り、婦人はさっきまで少年がいた位置と男性の背後へと視線を交互に動かしていた。
「向こうで何かやってるんじゃない?」
 今度は左から聞こえてきた少年の声に、男性が振り向くといつの間に移動したのか少年がそこにいる、狐につままれたような気持ちで背後をもう一度見ると、さっきまでそこにいた少年は跡形もなく消えていた。
「向こう? 君はいったい……?」
「僕? 僕はこういうものだよ」
 その瞬間、少年の背中に真っ黒い羽根が生え、男性と婦人が同時に顔色を変えた。
「さあ? 何して遊ぼうか?」
 
 ☆
 
 撃退士たちが教室に集まるのとほぼ同時に、依頼を請け負う受付嬢が教室へとやってきた。
「緊急招集に応じていただいてありがとうございます、早速ですが依頼内容をお話しさせていただきます」
 やや固い声をだしながら、受付嬢が小脇に抱えていたタブレットを撃退士たちへとみせた。
「決行大きなニュースになってるので皆さんもどこかしらで耳にしているとは思うのですが」
 映っているのは主婦などをターゲットにしたお昼のワイドショーの録画だった。画面の真ん中には浅瀬で座礁する大きな客船が映っていた。
「海外に向けて出発するはずだったクルーズ客船がH県の港近くで座礁。今どこのTV局もこのニュースで持ちきりなんですが、さっき警察の方から依頼がありました」
 タブレットに映る映像には必要以上に不安感を煽るフォントと色で『豪華客船座礁! 乗客の安否不明!』と踊っていた。
「次はこっちの映像を見てください。最初は地元の海上保安庁の人間が船内を調べに入ったんですが、その人たちとも連絡は途絶。その後、テロの可能性もあるということで警察の特殊部隊が船内を調べに行ったんです。これはその特殊部隊の隊員のヘルメットに取り付けられたカメラの映像です」
 タブレットの画像が切り替わり、TVとは解像度の違う映像が流れ始める。
『こちら異常なし』
 カメラには部隊員の構える銃と、その向こう側にある大きな扉が映っていた。
『これからレストランに突入する』
 小声の報告が聞こえると、扉の両サイドに二人の隊員が立ちカメラの主とアイコンタクトをとり、一気に扉を押し開いた。
 その瞬間、部隊員がレストラン内になだれ込む。
『……なんだこれは?』
 呆気にとられたその声と共に部隊員たちの歩みが止まり、全員が戸惑った表情でレストラン内を見渡している。
 レストラン内には乗客と思わしき人々がいた。
 しかし様子が尋常ではない。あるものは食事途中、またあるものは自分のパートナーと踊るような体勢をとったまま静止しているのだ。
『保安庁の人間を発見』
 静止した群衆の中に五人の隊員がいた。何かに向かって叫ぶようなポーズのまま彼らも静止し、その瞳はぼんやりと虚空を見ている。
『おい、しっかりしろ!』
 特殊部隊員の一人が虚空を見つめる保安局職員の肩に手を置いて話しかけるが反応はない。
『まるで人形だ』
『そのとーり』
 その瞬間ホール内に幼い声が響き渡り、ヴァイオリンの音が流れ始めた。
『皆僕たちの人形さ』
 ヴァイオリンの音が流れ始めた瞬間、ダンスの体勢を取りながら微動だにしなかった人々が同時に動き、ワルツを踊り始めた。
『何者だ!』
 少年の声を聞いた瞬間、特殊部隊員がもつ銃はレストランの正面にある舞台の方へ向いている。
 銃口の先にいたのはタキシードを着た金髪の少年だ。
『何者? そんなのどうでもいいじゃん』
 入り口付近に陣取っていた隊員たちの左からも少年の声が聞こえて、数人の隊員が咄嗟にそちらを向く。
 そこにも、舞台の上でヴァイオリンを奏でる少年とそっくりな少年がいた。
『あ、ドヴァー。ちゃんと船を動かさないから面倒なことになったじゃないか』
『ごめんよアジーン。大きな船を動かすのって思ったよりも難しくて』
 舞台上の少年に叱責された別の少年は、悪びれもなく笑って見せた。
『君たちがこれをやったのか?』
『そうだよ』
 今度は右側から聞こえてきた声に反応すると、そこに三人目の少年がいた。三人が三人ともまったく同じ見た目をしている。
『トリ―、どこに行ってたの?』
『ちょっと船内を散歩してきた。他に人はいないみたいだね……ねえアジーン、この人たちも仲間に入れる?』
『勿論! 一緒に遊ぼうよ!』
 その瞬間、三人の少年の背中に羽根が生え、いち早く彼らの正体に気付いた部隊員の隊長が叫んだ。
『撃てえ!』
 銃声が鳴り響き、画面が激しく揺れる。
 隊員たちの怒号が一瞬の間だけ響いたが、その声はすぐに止み映像もそこで途切れてしまう。
「映像はここで終わり、地元の警察から正式に我々へと依頼が届きました。相手は子供のデビル。数は確認されているだけで三人です」
 撃退士たちの眉がよる。あまりにも情報が少なすぎる。
「申し訳ありませんがこれが現状分かっている情報です。船を所有している会社、会場保安局、警察は、皆様が望めば全ての情報を提供すると約束してくれました。見たところ乗員乗客は魂を抜かれたわけではなく、何かしらの術で操られているようです。しかしあの数の人間の魂を集めれば、このデビルたちはとんでもない脅威になるでしょう。時期に日も暮れます、一刻も早くデビルを倒し、乗員乗客の救出をお願いします」
 撃退士たちは仕方ないといった感じで頷くと、厳しい目つきで教室をあとにしたのだった。


リプレイ本文

 
「豪華な船ですねー」
 客室の一つを覗き込んだユウ(jb5639)がそんな感想を漏らした。
 足許の赤い絨毯は彼女たちの足を優しく受け止め、客室の中にある調度品や家具も、一級品。一流ホテルと比べても遜色はない。ここが船内だなんてとても思えはしなかった。
「そうですの?」
 ユウの感想に紅 鬼姫(ja0444)は小首を傾げると、興味なさげに周囲を見渡した後で服のポケットから錠剤の詰まった瓶を取り出すと、その中身をざらざらと口の中に流し込んだ。
「興味ないですか?」
「鬼姫には分かりませんの」
 客室にある金細工で縁取られたクローゼットに一瞬目をとめた鬼姫であったが、すぐに首を振りながら視線を逸らして部屋の外に出る。
「それより早く悪魔を見つけて戦いたいですの」
「早く見つけなきゃいけないのは事実ですね」
 ふたりは最上階船首突端部にある巨大な扉の前に立った。他の部屋を封じている扉四つ分の大きさがあるその扉の前でふたりは顔を見合わせると、同時に扉を開いて中に飛び込む。
 他の部屋とは一線を画すスイートルームであったがそこにも悪魔の姿はない。唯一目を引く物といえば、部屋の中心に備え付けられていたガラス張りのテーブルが砕け散っていることぐらいだ。他には物音一つも無い。
「異常なし」
「残念ですの」
 肩をすくめる鬼姫の前で、ユウは耳に付けたインカムに指をあてた。
「こちらユウ、最上階に悪魔の姿はなし。これから一階下に移動しますが、皆さんの方はどうですか?」
 
 ☆
 
「こちら山里異常なし」
 山里赤薔薇(jb4090)が抑揚に乏しい声で応えた。
 場所は操舵室。
 五十鈴 響(ja6602)と共にそこを探索していた彼女は異常な光景を目撃していた。
「奇妙ですね」
 本当にそう思っているのかと首を捻りたくなるようなゆったりとした声で響が言うと、赤薔薇はその声の方に瞳を向ける。
 確かに奇妙な光景だ。操舵室の中には彼女たちふたり以外にも、本来ならばこの船を操舵するためにいる乗員たちがいるのだ。
 その全員がそれぞれの持ち場で仕事をする姿勢をとりながらマネキンのように固まっている。
 瞳は焦点を結ばず、口元に耳を近づけないと聞こえないほどに息も細い。
「以来の時の映像でも見ましたが、操られているようですね」
 響の言葉に頷いた赤薔薇は、操舵室をもう一度見渡すと一瞬目を伏せてから操舵室の扉を開いた。
「あ、待ってください」
 響が慌ててその後を追い、ふたりは操舵室から一度甲板に出て更に船尾に向かって歩きだす。
「赤薔薇ちゃん、次はどこを探しますか?」
 響は船に乗り込む前に、船を所有する会社から受け取った見取り図を取り出した。
「一番確率が高いのは、あいつらが最初にいたレストランだと思う」
 赤薔薇が上層一階の中央部にあるレストランを指さしながら答え、その後で指を船首方向に動かす。
「でもその前にこっちにあるシアターも調べてからの方が良いと思う」
「凄いよね、船内に映画館があるなんて。今は何を上映してるのかしら?」
「……のんき?」
「ああ、ごめんなさい。そんな場合じゃないわよね。悪魔を探さないと」
『よし!』と気合いを入れ直した響を先頭に、ふたりは操舵室の後方に位置する船室へと歩みを進めたが、シアターにいたのは固まった鑑賞客だけ、空振りをさせられたふたりはその足でレストランへと向かう。
「レストランはそこを右にいったところよ」
 響の言う通り、シアターを出て少し歩くと右手にそれらしい扉があった。
 赤薔薇は素早く扉の脇に移動すると、ガラス張りになっている扉の上半分から顔を覗かせた。
「……ここにもいないみたい」
 振り向いた赤薔薇は響にそう告げるとなんの躊躇もなくレストランの扉を開けて足を踏み入れた。
 響も後に続いて入店する。
 レストラン内も他の施設と変わりない光景だ。皆何かをする途中で人形のように固まっている、他所と違う点が一つあるとすれば、依頼内容を確認していた時に映っていた特殊部隊の隊員たちが銃を構えた体勢で固まっているところだ。場面とマッチしていなくて違和感が溢れている。
「悪魔がいないのは残念だけど」
 赤薔薇は荷物の中から小さなメガホンを取りだすと、大きく息を吸ってから口元にあてがった。
 やがて聞こえてきたのは、その小柄な身体のどこにと目を見開きそうな程大きな、澄んだ声だ。
 彼女の口から紡ぎ出される歌を聴いた瞬間、レストラン内で硬直していた乗客たちがその場で一斉に倒れ伏した。
 彼女の歌声は、静まりかえった船内に行き届き、耳にした人々がどんどん倒れ伏していく。
 やがて彼女の歌声が止んだ時、パチパチと小さな拍手が鳴る。
「凄いのね赤薔薇ちゃん。今度私が演奏するから歌ってみない?」
「……のんき?」
 素っ気なく瞳を逸らした赤薔薇の頬は、しかしほんの少しだけ朱に染まっていた。
「何々? 今の歌声〜?」
 レストランの入り口からのんきな声が飛ぶ。素早くふたりが視線を送ると、そこにはタキシードを着た金髪の少年がいた。
「こちら山里。レストランで一匹発見」
 ちいさな声で赤薔薇がインカムごしに連絡を飛ばすと、ドヴァーが小首を傾げる。
「何か言った?」
「いいえ、何も。それよりも演奏はお好き?」
 響は荷物からリコーダーをを取り出すと、おおよそ敵対する相手に向ける物とは思えない屈託のない笑みを浮かべた。
 
 ☆
 
「今回の任務で重要視しなくてはいけないことはなんだ?」
「えーっと……乗員乗客の安全?」
 アルドラ=ヴァルキリー(jb7894)の厳格な声に新谷 哲(jb8060)は一瞬眉を寄せてから答え、アルドラの表情を窺うように瞳を向けた。
「その通りだ。私たち撃退士の仕事は天魔と戦う事。しかし、必ずしも一対一で闘うわけではないし、このように周りに民間人がいることも珍しくない。その場合は当然彼らの身の安全を考えなければないし、物を守らなければならないこともある。時には天魔に背を向けなければならないこともだ」
 アルドラの言葉はまるで教師か教官のそれだ。哲はその言葉を真剣に聞きながら頷いていた。
「その時依頼で何が一番大事なのか。それを考えるのが大事だ」
「なるほどな」
 ふたりがいるのは船の下層部。一般的な乗客であればまず足を踏み入れない場所だ。
 普段であればうるさいほどに唸りをあげているであろう機関部は、不気味なほどに静まりかえっていた。
「ふむ……やはり子供を探すには不適当な場所だったかな?」
「そうか? ガキって意外とこんなの好きだぜ?」
 哲は肩をすくめながら脇にある物を指さした。幾つかのハンドルに、何かを示す計器類。様々な機械が並んでいる。
「そういうものか?」
「そんなもんだよ」
 しかし残念ながら今回の悪魔は機械系に興味は無かったようだ。アルドラと哲は撃退士の心構えなどを語りながら、それでも周囲を十分に注意して船内を進んでいく。
 やがてたどり着いたのは、機関室の奥で階段の脇にあったモニタールームだ。
 アルドラを先頭にしてその部屋に入ったふたりは、正面に並ぶ多数のモニターを眺めだした。
「映ってるか?」
「いや、見つからねえ……あ、待て! ここ!」
 哲が指さしたモニターに赤薔薇と響、そして彼女たちの前に佇む少年の姿がある。
「あれ? 船内の人はみんな操ったはずなのに?」
 突然聞こえてきた子供の声に、アルドラと哲が同時に振り向く。
 果たしてそこにいたのは今までモニターの中に映っていた少年と、うり二つの姿をした悪魔であった。
「君たちはだれかな? どこに隠れてたの?」
 素早く身構えるアルドラと哲、その二人の前でトリーがニヤリと口角を上げた。
「まあいいや、遊び相手が増えた」
 
 ☆
 
 一階下のフロアに移り、丁寧に客室を覗いてまわるユウと鬼姫。その二人の耳が、ふいに少女の歌声を捉えた。
「これは、山里さんの? 綺麗な歌声」
「そうみたいですの」
 山里の歌声に答えるようにフロアの奥からヴァイオリンの音が聞こえ、ふたりは顔を見合わせた。
「悪魔?」
「ラッキーですの」
 毛足の長いカーペットのおかげでほとんど足音はないが、それでもふたりは更に足許に気を使い、長い廊下の先にあった別のスイートルームに扉の前に立つと、これもまた慎重に扉を開き室内を覗き込んだ。
 そこには赤薔薇の歌声に合わせて気持ちよさそうにヴァイオリンを弾く少年と、ワルツを踊る若い男女がいた。
 部屋の状況を確認したふたりが頷きあって室内に入ると、その姿に気付いた悪魔が演奏をやめ、踊っていた男女が動きを止める。
「あれ、まだ人間がいた? どこに隠れてたの?」
 アジーンが首をかしげる。
「ドヴァーかな見逃したのは、それともトリーかな……まあいいや、お姉さんたちも僕のおもちゃになってよ」
「それよりも面白い遊びがありますよ?」
「え?」
 その言葉に意表をつかれて固まったアジーンの前でユウが踵を返し、部屋の外に向かって一目散に走りだした。
「鬼さんこちらですの」
 続いて鬼姫がクスクス笑いながら部屋から飛びだす。
「あ! こら、待て!」
 やっと事態を理解したアジーンは、手に持っていたヴァイオリンをマジックのように消し去り、ふたりの後を追って走りだした。
 
 ☆
 
 目の前に迫る扉を蹴り開けユウが甲板に飛び出した、さらに鬼姫が続いて姿を現し、今自分が通り抜けた扉を睨み付ける。
「お前ら、撃退士だろ?」
 ふたりからほんの少し遅れてアジーンが扉から出てくる。その表情にさっきまでのあどけなさはなく、悪魔としての本性が浮かび上がっていた。
「あまり怖い顔しないでほしいですの」
 そんなアジーンを挑発するように鬼姫が笑い、彼の表情が険しくなる。
「この……」
 何か言おうとしたアジーンの背後から聞こえた慌ただしい足音に、彼は何事かと振り返る。
「どけえ!」
 アジーンを突き飛ばすように、哲とアルドラが扉から飛び出した。
「逃げるなあ!」
 彼らの後を追って現われたトリーが顔に驚きを貼り付ける。
「何してるのさアジーン?」
「それはこっちのセリフだ! こいつらは撃退士だぞ!」
「……人間にしては逃げ足が速いと」
 作りの同じ二つの顔が、まったく同じ怒りの表情をうかべて撃退士たちを睨み付けるその時、そんな怒りを霧散させるような軽い音色が甲板に聞こえてきた。
「あれ? アジーン? トリー?」
 アジーンとトリーが飛び出したのとは別の扉が開き。ニコニコと楽しそうに笑いながらヴァイオリンを構えるドヴァーが現れた。
「何しるの?」
「こっちのセリフだ! 撃退士たちが船に来てるんだよ!」
『え?』と背後を振り返るドヴァーの目の前で、響が申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんね」
「だ、騙したなあ!」
 自分が甲板におびき出されたことをしったドヴァーが叫んだ瞬間、赤薔薇と響は彼から距離を取った。
「役者が揃ったな」
 満足そうに頷くアルドラ。図らずしも悪魔を取り囲む形になったからだ。
「行くぞドヴァー、トリー!」
「乗客を巻き添えにする恐れがなければこっちのものです」
「そういうことだ」
 走り出そうとしたアジーンめがけて、ユウとアルドラが銃撃を浴びせかける。
 カウンターで入った銃弾は痛烈なダメージを与えたようで、アジーンの身体が大きく後方に飛ぶ。
「アジーン!」
「あなたの相手はこっち」
 静かに言い放つ赤薔薇。彼女は自らの掌の上に火で出来た龍を作り上げ、フッと息を吹きかける。
 その瞬間、龍は砲弾のように飛び出すとドヴァーの身体に着弾して周囲に爆炎をまき散らせた。
「まずは弱ってるヤツからですの」
 吹き飛んだアジーンめがけて走りだした鬼姫だが、彼女の目の前でアジーンの身体が風景の中に溶けるように消えた。
「幻惑ですの? それなら」
 彼女はすぐにターゲットを変更して、手近にいたトリーに向かって両手の小太刀を閃かせた。
「クソ!」
 胸元を軽く流れたトリーが爪を使って鬼姫に襲いかかるが、彼女は小太刀を使って軽々とそれを弾く。

「これでもくらえ!」
 吹き飛ばされたドヴァーは起き上がりざま、哲を睨み付けた。
「なに……?」
 その瞳をまともに見た哲の視界がぐにゃりと歪んだ次の瞬間。
「しっかりしろ!」
 アルドラがライフルを哲に向けて、迷い無く引き金を引いた。
 爆音と共に撃ち出された弾は、哲の頭の近くを通り過ぎ。哲はその衝撃で我に返る。
「あ、あっぶねえ。アルドラ先生よ! 次はもっとお手柔らかに頼む!」
 いいながら哲は薙刀振るい、ドヴァーへと復讐する。
 ドヴァーは腕をクロスさせて切っ先を受け止めたが、その身体は大きく弾かれた。
「くらいやがれ!」
 更に薙刀を振るう哲だったが、その直前ドヴァーの身体も風景に溶け、切っ先は空を切った。

「ごめんね」
 申し訳なさそうな響の周辺に小さな羽の生えた光球が浮かび上がると、トリーめがけて殺到し、その身体にめり込んだ。
「ぎゃあ!」
 その威力に吹き飛んだトリーの身体を、ユウの一撃が追い打ちし、彼の身体を船体に叩きつける。
「くっそお」
 あまりの一撃に動けないのか、怨嗟の声を上げるトリーのすぐそばに突然ふたつの掌が現われた。
「トリー、こっち」
 アジーンとドヴァーだ。姿を消したまま掌だけをトリーのそばで出現させて彼を助けようとしているのだ。
「させん!」
 全員が固まったところを見逃すほど甘いメンバーではない。アルドラを中心に走った冷気がアジーンたちに襲いかかり、それをまともに浴びた彼らは、糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。
 
 ☆
 
「殺せばいいじゃないか」
 アジーンが拗ねた声を上げた。
 アルドラの術で兄弟と共に眠ってしまった彼は、意識を取り戻すなり状況を悟り言い放った。
 そんな彼の声でドヴァーとトリーも目を覚ます。
「君たちにチャンスをあげよう」
「はあ?」
「君たちが学園にやってくるというなら、命は助けてもいい。幸いなことに乗員たちに被害はないようだしな……どうだ?」
「僕たちに人間と同じようにすごせって? バカバカしい、人間なんてただのおもちゃじゃないか。それに僕たちが行っても避けられるだけだ」
 兄弟たちも頷く。
「そんなことはない、人間とはあれで中々奥が深い生き物だぞ?」
 アルドラの言葉を聞いてユウが頷く。
「人間はとても優しいんです、私もいっぱい助けられたました。きっとあなたたちも受け入れてもらえます」
 ふたりの悪魔の言葉には妙な説得力があったようで、アジーンは黙りこくってしまう。
「ドヴァーちゃん、よね? また一緒に演奏しましょ? 私とっても楽しかったわ」
 響が柔らかく笑いかけると、ドヴァーは困ったような表情で彼の兄を見た。
「……わかったよ! そんな顔で見るなドヴァー! どうせここで死んでたんだ、いうことを聞くよ」
 観念して叫ぶアジーン。
 それを聞いた瞬間アルドラはにこりと微笑み。
「久遠ヶ原学園にようこそ」
 そういって彼らに手をさしのべた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 優しき強さを抱く・ユウ(jb5639)
 天使を堕とす救いの魔・アルドラ=ヴァルキリー(jb7894)
重体: −
面白かった!:2人

暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
幻想聖歌・
五十鈴 響(ja6602)

大学部1年66組 女 ダアト
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
天使を堕とす救いの魔・
アルドラ=ヴァルキリー(jb7894)

卒業 女 ナイトウォーカー
血気盛ん・
新谷 哲(jb8060)

大学部5年160組 男 阿修羅