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マスター:てぃーつー
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/18


みんなの思い出



オープニング

 文化祭で行われる劇の代役を頼みたい。
 と言われて、霧切 新 (jz0137)に連れて来られたのは体育館の近くに設けられた控え室であった。
 キミの他にも既に人が集まっているが――話に耳を傾ける限りでは彼らもキミと同じように代役のようだ。
 おまけにキミと同様で詳しい話も聞かされていない様子……。
「おい、そろそろ詳しいことを説明してくれよ」
「そうだな、すまない」
 集められたひとりが声を上げると、新が頭を下げて口を開いた。
「みんなには劇というものをやって欲しい」
「それはもう聞いたぞ。一体なんの劇の代役なんだ?」
「やるのはファンタジーということだ」
「なるほどな、でどんな話だ」
「ファンタジーだ。勇者とか姫様とか、悪い魔王とかが出るらしい」
「そうなのか……って、どんな話だよ?!」
「これではダメなのか?」
「当たり前だ。台本を見せろ!」
「困った…。そう言われても、渡されたものはこれしかないんだ」
 と言って、新が見せたのは宣伝用のポスターだ。
 確かに勇者とか姫様とか悪い魔王のイラストが入っている。ちょこっと書いてある煽りにもそんなことが書いてある。
「「台本ないのかよーーーーー!」」
「というか、どういうことだ!」
「うむ、アリス先生が言うには演劇同好会の脚本という人が、急な持病の癪で休むことになったらしい」
「「急な持病の癪ってなんだよ?!」」
「というか、アリス先生が噛んでんのか?!」
「ああ、『あとはすべて任せたのぢゃ』と言われた」
「「丸投げされてんよ、お前!」」
「というか、脚本が逃げても他のヤツが居るだろう?」
「どうも、他の演劇同好会の人たちも急な腹痛を覚えて休んでしまったそうだ」
「「逃げやがったーーーーーー!」」
「…って、どうすんだよ。脚本なしでやんのか?」
「それよりも出番はいつなんだよ」
「もうそろそろだと思う」
「「な、なんだってーーーーーーーーーー!」」


リプレイ本文

●開演前
「剣がないっ!」
「私のマントは?」
「段取りはどうすんだよ?!」
「そんなの決めてる暇なんてねえよ! やりながらどうにかするしかねえだろう」
 開演が間近に迫り、控え室は騒然となっていた。
「あっ、あたしは裏でナレーションやりたいなっ!」
「よし任せた!」
 もう役どころなんかは、栗原 ひなこ(ja3001)がナレーションに決まったように言った者勝ちだ。
「麦子さんはどうするの?」
「そ〜ね〜。魔王さん家の裏事情とかやってみようかしら♪」
 どんなだよ?!
 と、普通なら雀原 麦子(ja1553)にツッコミの嵐が飛ぶところである。だが、だが、今はそれどころではない。もう開演時間まであと少しなのだ!
「…教師が生徒に丸投げってのも、どうなんだ?」
 久瀬 悠人(jb0684)がつぶやきながら慌てて着替えを進める。
「すまいない、面倒をかける」
「いや、霧切のせいじゃないし。それにまぁ、面白そうだしな」
 声をかけてきた霧切 新(jz0137)に、悠人は温和に応える。
 まあ、なるようになるだろう。
 見るからに一癖も二癖もありそうな連中が混ざっているが…なんとなかなる……はずだ。
(本物の魔女を目指す以上、これはまたとない修行のチャンス! 存分に魔女するわよ!!)
 早くも役になりきっているのか、エルナ ヴァーレ(ja8327)からは悪い笑みがこぼれている。
(ファンタジー! エンジェル・レイの再登場ですね! 分かります)
 方や、天使のような姿になって駆けていく、レイ(ja6868)の姿が。
 これから何が起こるのか全く予想もつかない。
 待っているのは果たしてカオスか? カオスなのか? やっぱりカオスなのか?!
「霧切も大変だな」
 そんな有様に、レガロ・アルモニア(jb1616)が同情して声をかければ、
「うん? 何が大変なんだ?」
 新はこれから起こることに気づいてもないようだ。
「…まあ、折角の文化祭だし多少羽目を外しても問題はないか」
 知らぬが仏。
 ここで不安を掻き立てるよりはいいだろう。実のところ説明している暇もないし。
「そろそろ時間だ」
 移動するぞと、若杉 英斗(ja4230)が一同をうながす。
 さあ、体育館へ。
(劇か…ベストは尽くすが、自分にできるかな)
 英斗のように不安を感じている者もいる。
(…こういう場で演じるのもなかなか楽しそうだな)
 姫路 眞央(ja8399)のように得られた機会を楽しもうという者もいる。
 これらとは全く違った考えの者もいる。
 それらすべてを一緒くたにしながら一同は舞台へと向かう。
「こうなったら四の五の言ってられない! ぶっつけ本番でがんばろー」
「「おう!!」」

●勇者様が多すぎる
「クオンガハラ王国の姫様がさらわれちゃって、国王は城に勇者を呼び寄せたんだけど――」
 ナレーションを務める、ひなこの声と共に舞台の幕が上がる。
 城内をイメージした舞台背景。
 玉座の辺りには、亀山 淳紅(ja2261)と、Rehni Nam(ja5283)の姿があった。
「ようきたなぁ、早速やけど姫が魔王にさらわれてもうた。どうか、無事に助け出して欲しいんや」
「お願いいたします」
 頭を下げる、淳紅王とRehni王妃。
 それに対して勇者は、
「任せてね! あたいが魔王をやっつけるんだから!」
「すべて吹っ飛ばしてやる…グフ…グフフ、グワァッッハッハッッハッハッー!!」
「……よく分からんが任せておけ」
 順に、雪室 チルル(ja0220)、佐藤 としお(ja2489)、新の三人であった。
「っていうかねぇ勇者多ない? これ自分ら報酬だしきられへんような気ぃするんやけど」
 とりあえず旅立ちのアイテムってことで、淳紅王が出したのは転移装置の各種スキルカードであった。

 ・直接攻撃(単体)
 ・HP回復(自身)
 ・イチニアシブ増

「では、私からも」
 Rehni王妃からは、

 ・50久遠
 ・体操服
 ・サバイバルナイフ×2
 ・ロッド

 と妙にリアリティのある装備ばかりだ。
「これは本当にもらっていいのか?」
「ええで……いや、本当にやるんやないからな」
「違うのか、残念だ」
「あと、初期装備は三人で分けてなぁ。こないに来るとは思いもよらんかったんや」
「それと報酬は早い者勝ち! 魔王の首を持ってきた人にだけ払います」
「なるほど、よくわかった。要はここで他の勇者を亡きものにすればいいんだろう?」
 としおが赤いマントに潜ませていた爆弾を取り出す。
「最後まで立っていた奴が本当の勇者だ!」
「「ちょ、ちょっと待て!!」」
 慌てて周りが止めに入る。
 恐ろしい……勇者サイドで殺し合いが発生しそうになるとは。
「えーと、魔王には悠人と…悠人と…あれ、悠人だけやな」
「あら、そうでしたか。では東の海の真ん中にある火山島の噴火口、噴炎魔城に魔王悠人がいます」
 と言ってから、Rehniは少し間を取った。
 これからとっても重要なことを口にしますと前置きをしてから、
「いいですか、最大最悪の魔王は職員室に居るのです。名前は大魔王アリスせんs……いえ、この魔王だけは決して戦ってはならないのですよ」
 ……真顔だ。
 曇りすら見えないほどに真顔だ。
 あまりにも真顔なんで、よく分かっていない者まで首を縦に振る。
「恐るべし大魔王アリs……むぐぅ!」
 あっ、ナレーションも黙らされた。
「…関わり合いにならない方が良さそうね」
「その通りです。では、よろしくお願いしますね」
「すまんなぁ。先日の戦いでステータスが真っ赤(重体)になってなければ、自分らがどうにかするんやけど」
「わかったよ! 任せといて」
「まぁまずは良い武器を探しに近くの森とか湖とかなんか見つかりそうな所に行くんがええと思うで☆!」
「武器か……?」
「いい爆弾があるのか?!」
「…まあ、あるかもしれんな。ともかく行くんや希望の勇者たち! 世界は君らの救いを待っtえっほげほげほっ」
 突如、淳紅王が吐血した。
「きゃああぁぁーーっ!?」
「落ち着くんだ、王妃」
 騎士レガロが隠密を解いて押さえに入る。
 何せ、ガクンガクンやってたんで淳紅王が目を回している。
「じゅっ、ジュンちゃん! しっかりして!」
「ここは俺が押さえておくから、今のうちに行くんだ!」
「あれ、レガロはついてきてくないの?」
 ちなみに騎士レガロの装いたるや、青藍のマントにシルバーのプレートメイル。
 ぶっちゃけ、現在の登場人物の中では一番装備が良さそうだ。
「俺はこの城を護る役目があるからな。そういった役割は勇者達に任せるものだろう」
「…残念だ」
「こうして勇者たちはしぶしぶ旅立った。いや、しぶしぶなのはきっと気ののせいだよ! たぶんだけどね」

●眠れる王様?!
「オッホッホ! ドイツから来た悪い魔女よ!」
「「えっ?!」」
 みんなが舞台から下がろうとしたところに、エルナが現れた。
「もう勇者なら旅立ちましたけど……」
「なんてこと、忘れた毒りんごを取りに戻っている間に……こうなったらこうよ!」
「ぐわっぁぁ……」
 なんと突然、王様の口に毒りんごを突っ込む悪い魔女エルナ! ピンチだ淳紅王っ!
「じゅっ、ジュンちゃん!」
「オッホッホ! だいぶ路線からずれてしまいましたが王様を目覚めさせるにはキスが必要よ」
「えっええぇぇーー!?」
「キス! キース! キース!」
 煽る悪い魔女エルナ。どうするRehni王妃?!
 付け加えるなら観客たちも熱い視線を送っているぞ!
「こうなったらあなたを倒して呪いを解くまでです!」
「おっと、そうはいかいわ。あたいを倒したければ噴炎魔城まで来なさい」
 さっとエルナが退場。
「…逃げましたか……こうなったら追いかけますよ、騎士レガロ」
「いや、俺の役目は終わったはずだ」
「つべこべ言ってはだめです!」
「…あれ、なんかRehni王妃と騎士レガロも旅立ったみたいだね。さて、どうなるんだろうこの話っ?!」

●魔王さん家の家庭の事情
 場面転換。
「ところ変わって、ここは噴炎魔城。さっきと同じ舞台背景だけど気にしないでねっ!」
 ぶっちゃけ手抜きである。
 とりあえず、雰囲気を変えるために蒼井 御子(jb0655)がおどろおどろしいBGMを流した。
「ああ、いいなあ魔王」
 悠人が身に着けているのは黒い服、頭に悪魔の角の飾りが。
 何を隠そう、彼こそが魔王なのである。
「だって最後までふんぞり返って見てればいいんだぜ? 勇者は旅やら戦いで大変。姫は囚われていて大変。そんな中魔王はフリーダム。ああ、なんて素晴らしいんだ魔王」
「そう聞くといいかも……」
 ナレーションも賛同する。
「大変よ…あなた」
 よろけるように姿を見せたのは、魔王の妻である麦子。
「どうした?!」
「姫が…さらってきた姫が…」
 麦子が震える手で指差した先にはプリンセスドレスを着たパンダが立っていた。
「茶菓子が足りない。もっと追加を所望するぞ」
 パンダこと下妻笹緒(ja0544)は強く要求する。
 鎖で拘束されているのだが、何か今にも引きちぎってしまいそうだ。
「……お腹がすいたの」
「で、今度は全てを喰らい尽くす暴食の魔獣、若菜 白兎(ja2109)ちゃんが姿を見せたっ! かわいいよー」
 ナレーションに続いて観客からも同じような声がもれる。
 確かに狼さんの着ぐるみ姿の白兎は可愛いいっ!
「二人の食費がかさんでいる上に…私の医療費も……ごほごほっ」
 説明を再開するが、麦子は病弱設定らしい。
「雇っている二人の傭兵の給与も…加えて城の地下には隠しボスがいて住民税も馬鹿にならないの……」
「な、何てことだ……ていうか隠しボスって何? 住民税?」
「落ち着いて、あなた。もう家計は…火の車よ」
「な、何だって!」
「崩れ落ちる魔王悠人。果たして魔王はこの財政危機を乗り越えることができるのか?!」
「…こうなったら、まず隠しボスを倒すんだ。無駄な出費を抑えるためにも!」
「立て直しを図る魔王悠人。さて、上手くいくのかなーっ?!」

●新たなる希望?
 ようやく舞台背景は町中へ。
「すみません、眼鏡を…眼鏡を買って下さい」
 で早速、通りかかる勇者に眼鏡を売りつけようと、英斗が話しかけた。
「眼鏡? 敵? 何それ、おいしいの?」
「ひっ……?!」
 話しかけた相手が悪かった。よりにもよって爆弾魔勇者としおだったなんて……ほろり。
「みんな吹き飛べー!!」
 ぼかーん!
「さぁ、次のターゲットは何処だぁぁぁぁぁ!」
 獲物を探して爆弾魔勇者としおは行く。
「倒れた若杉さん。果たして彼はこのまま終わってしまうのかっ?!」
「……くぅ…痛いし、おなか減ったな…。食べ物はないし、代わりに眼鏡でもかけてみようかな」
 どういう理屈だ……?
 まったく分からないぞ。
「でゅわっ!!」
「おっと、慌てて肉襦袢を着込み始めたーっ!」
「勇者ムキムキン参上! とーぅ!!」
「もう訳がわからないよっ!」
「というわけで勇者ムキムキンは魔王を倒しに行ってきます」

●道案内も大変です
「魔王はここから南西の方角、山岳地帯を抜けた先にある城にいる」
「そうか」
「行くなら用心するといい。道中もかなり危険らしいからな」
「分かった」
 影野 恭弥(ja0018)が勇者・新の道案内を終えると、早くも次の勇者チルルがやってきた。
「魔王はここから南西の方角、山岳地帯を抜けた先にある城にいる」
 で、同じことを説明してやる。
 そして、次に来たのは爆弾魔勇者としおだった。酷い目にあった。
「すいません、魔王城はどちらに」
 今度は勇者ムキムキン。
「もう道案内は辞めた」
「そんな…前の三人にはしてたじゃないですか」
「知らないな」
「お願いですから」
「面倒くせえな。…そうだ、ちょうどいいのがいたな。おい天使、出番だ」
 舞台袖の方に呼びかけて誰かを呼ぶ。
 すると、飛行しながら現れたのは、
「オイラはエンジェル・レイ、重要な情報をあげるよ」
 黒レースインナーにスターコロネット、小天使の翼で宙に浮かんでいる。手にはマジカルステッキをもって全身で可愛らしい天使をアピールしている。もう何かキラキラしてるイメージだ。
「なになに? 重要な情報ってなに?」
「敵か? 敵か?」
 舞台が賑やかになってきたので一度は舞台袖に引っ込んだ勇者たちもやってきた。
「いいかい? よく聞くんだよ。ここから東に行ったところに古城があって世の非モテ達を集めてお見合いパーティー開催するらしいよ」
「…それで?」
「何でもモテモテな男って信用できない。モテモテな男っていまいち物足りない。まだ誰の手垢もついてない非モテを私色に染め上げたい…等といった考えを持つ美しい娘達が君達を待っているらしいよ!」
「それよりも伝説のアイテムの在り処とか」
「魔王の弱点」
「最上級の爆弾っ! あと容赦なく吹っ飛ばせる敵!」
 口々に言い放つ、勇者たち。
「ガガーーン! ……あっ、あそこに小坊主がいるよー!」
 このままではまずいと、レイが指差したのは後ろをちょろちょろとしていた杉 桜一郎(jb0811)だ。
「なんでファンタジーの世界なのに小坊主がいるんだろうね?」
「知らない」
「どうでもいいな」
「ガーーン! ……これで勝ったと思うなよー!」
 飛んで行った。しかも、小天使の翼が切れたので途中で落っこちた。
「役に立たない天使だったな」
「まったくですね」
 おっと、いつの間にか小坊主の桜一郎が話に紛れ込んでいる。
「あっ気にしないでください。ぼくはただみんなに茶々を入れるだけですから」
 にっこりと笑っている。
 本当に無邪気な笑みだ。
「正直……邪魔かな」
「そんなぁ」
「こうして勇者はまた旅立つ。残された小坊主のことはまあどうでもいいよねっ」
「あーあ、ぼくはみんなと仲良くしたいだけなのになあ」

●打倒、隠しボス!
「さて、噴炎魔城ではひっ迫した財政状況をどうにかるする会議が行われていたー!」
「このままでは、のんびり魔王もできない。隠しボスを倒すんだ」
「がんばって…あなた、ごほごほっ」
「お腹すいたの…」
「茶菓子を所望する」
 魔王悠人の背後では、麦子王妃やら、魔獣白兎やら、笹緒姫やらからのプレッシャーがひしひしと。
 近くに置かれた家計簿は真っ赤な血で染まったかのようだ。
「というわけで討伐してくるんだ」
「「はっ」」
 命を受けたのはメフィス・ロットハール(ja7041)とアスハ・ロットハール(ja8432)の傭兵夫婦だ。
「お任せを」
「必ずや倒して見せましょう」
 二人は立ち上がり、城の地下へと。
 そして、十秒後。
「戻りました」
「はやっ!」
「こっちだ。さっさと歩け」
 アスハに急かされているのは、隠しボス桐生 直哉(ja3043)。
「はらへった…」
 ファンタジー風のナイトキャップと寝間着。
 これが隠しボス直哉の姿であった。……正直、隠しボスというより隠し部屋の住人のようだ。
「勝手に居座られると困るんだ。俺の安寧のためにも出て行ってくれないか?」
「何、出ていけだと……!」
 突然、ゴゴゴとアウルが溢れ出す。
「俺を起こした上にその無礼、ただで済むと思うな!」

 一方その頃。
 観客席には非常に邪魔な存在がいた。
「…」
 無言で舞台を見つめ、周りのことは気にする様子もない。
「いって…!」
「ああっ、ごめんなさい!」
 いや、気にはしてた。
 でもそれでもレグルス・グラウシード(ja8064)が着込んだ、どでかいいがぐりの着ぐるみは邪魔で邪魔でしょうがない。
 周りに刺さらないよう身を縮めているせいか身動きすら取れない。
 だが、自分の出番まで我慢だ。もっとも自分の出番がいつかすら決まっていないが……おっチャンスだ!
「待て待て待てーッ! この世に悪の栄えたためしなしいぃ!」
 目の前で起こった魔王悠人と隠しボス直哉の争いに、レグルスが立つ。
「とおっっ!!」

 突然、飛び込んできた巨大な着ぐるみ(レグルス)に魔王悠人と隠しボス直哉は虚を突かれた。
「「うわぁああああああ!」」
 眼前に迫ってくるあまりに大きな物体。
 おまけに何か尖ってる。
 痛そうだなと思い浮かべたところで、見事に二人を巻き込んで舞台袖へと消えていく……。
「…困ったわね。まだ勇者が来てないのに魔王が倒されてしまうなんて」
 麦子王妃が小さくため息をついた。

●幕間
「たまには世間の喧騒も忘れて舞いと演奏に耳をゆだねるのも良いのではないかな?」
 鳳 静矢(ja3856)がハープを奏でると、
「さあ、ご覧あれー☆」
 鳳 優希(ja3762)が軽快に踊りだす。
 スキルを使って蒼い鳳凰を身に纏うと、観客席から歓声が溢れ出した。
 また、静矢の演奏もそれを上乗せする。
 ひなこが生み出した星の輝きと、御子の操作するスポットライトの中、二人は観客の注目を集めていた。
「大したものですね」
「まったくだ。…しかし王妃、早く追いかけないと悪い魔女に追い付けなくなくなりそうなんだが」
「あっ、そうでした。急いで噴炎魔城へ向かわなければ」
「なら私たちもご一緒しよう」
「…いいのですか?」
「おっと、ここで王妃様ご一行に吟遊詩人の静矢と踊り子の優希が加わって四人パーティになったよっ」

●伝説の聖剣!
「確かこの辺のはず……」
 勇者チルルが探し物をしているのは湖のほとり(の舞台背景)。
「どこにあるのかな?」
 きょろきょろ。
「ふっふっ、遂に来たようじゃのぅ」
「おわっ!」
 こっそり背後に忍び寄っていた白蛇(jb0889)に思わずびっくり。
「お主、聖剣を求めているな?」
「えっと聖剣じゃなくても『伝説』とかつくなら何でもいいよ」
「いや、ここは聖剣というんじゃ!」
「じゃあ聖剣」
「うむ」
「ならば、主が落としたのはこの金の剣か? それとも銀の剣か?」
「…いや、何も落としてないんだけど」
「うむ、正直者の主にはこの伝説の聖剣魔王すれいやーを与えよう」
「つまりそれで魔王を倒せるのね!」
「うむ」
 で白蛇がちょいちょいと手招きすると、小田切ルビィ(ja0841)がようやく出番がきたと身体を伸ばしながら現れた。
「…ん? これがマスターか?」
「というか、伝説の聖剣?」
「ああ、そうだ。しかし…ガキのマスターかよ。まぁ、男に触られるよりは百万倍マシだけどな…!」
 何というか初印象は最悪だった。
「…おっそうこう言っているうちに他のマスター候補も来たじゃねえか」
 が、ルビィの顔はみるみる曇っていく。
 残る勇者は三人とも男。
 しかも、ひとりは肉襦袢なんて着てるじゃないか。
「行こう、マスター。ここは最悪だ…」
「まあ、否定はできないね」
 勇者チルルと、聖剣ルビィが退場。
「ようやく見つけたぁぁぁぁ! さあ、伝説の爆弾を寄こせ」
 すかさず詰め寄る爆弾魔勇者としお。
「そうか、主は嘘つきであるな……主には、木刀で十分じゃ!」
「ちょっと待て! まだ爆弾を寄こせとしか言ってねぇぇぇぇ!」
「気分じゃ!」
「気分かよ!」
「ところで、勇者は何人いるのじゃ?」
「さっきのと、ここにいる三人で全部です」
「そうか、ならば主らにはこれをやろう」
 ぱっぱっぱ、と白蛇が手渡したのは三人とも魔道書。
「いや、こんなの渡されても…」
「もう本日の営業は終了じゃ! 苦情は嘘・大げさ・紛らわしいで対応してくれるところにでも行くんじゃな」
「「おいっ!」」

●愛の逃避行…?
「そんなこんなで勇者たちの旅は続き、ようやく噴炎魔城が見えてきたところで! で!」
 ナレーションが煽りを入れたところで、メフィスとアスハの傭兵夫婦が現れた。
「おっと、ここから先は通さん」
「魔王の手先ね!」
「その通り」
「なら、世界の平和のためにも負けるわけにはいかないわ!」
「平和? 正義? クソ喰らえだな。二束三文のはした金で充分だ。傭兵の戦う理由なんてのは、な」
「奇麗事でご飯は食べれないってね。平和? 正義? つまんないじゃん? そんなの」
 不敵に笑うアスハとメフィス。
「まったくだな…」
 と、何故か賛同している聖剣ルビィ。
「えっ?!」
「美しいお嬢さん。どうだろう、こんな物騒なことは止めて俺と愛の逃避行をするのは…」
「おっと! 聖剣ルビィ、ここで傭兵メフィスを口説きだしたー!」
「ちょっと待て。俺の奥さん、なに勝手に口説いてんだ」
「そうよ、この人達やっつけないと!」
「愛の方が大事だ」
「「えええーーーっ?!」」
「どうやら話が通じる相手じゃないようだな。こうなったらあれをやるぞ」
「わかったわ、アスハ」
 変な膠着状態を脱すべく、メフィスとアスハは一度距離を取ってすぐさま攻撃へと移る。
 右かと思えば、左。
 シザースを行って的を絞らせず、挟撃を重ねて勇者チルルと聖剣ルビィをあっという間に追い詰めていく。
「こ、これはまずいよ……」
「そうだ! こんなことは止めて俺と一緒に逃げよう」
「まだやってる……」
「余裕はあるようだが、これでどうだ――!」
「行くわよ、アスハ!」
 アスハとメフィスが手を繋げば、その先に巨大な魔方陣が展開される。
 力の流れは渦を巻くように螺旋状となって鋭角に、それはまるで一本の槍のように二人の力を重ね合わせていく。
「まずいかも?!」
「…まずいな」
 後退る。
 その間も力は強さを増し――遂に放たれる。
 ドッカーン!
「けほけほ……スキルにしては爆煙が多いような?」
 勇者チルルが目を凝らすと、煙の間から爆弾魔勇者としおの姿が垣間見えた。
 煙はきっと爆弾のせいだろう。
「…くぅ、なんてことだ……」
 でも先ほどのスキルは見事に聖剣ルビィに直撃したようである。おっと、そのまま轟沈だ。
「グワァッッハッハッッハッハッー!! みんな吹き飛べー!!」
 その間も爆弾魔はぽいっぽいっと爆弾をばらまいている。
 ドッ、ドッ、ドッカーン!
「…よもや、こんなことになるとはな」
「あらら、これ以上やっても無駄っぽいわねー逃げましょ?」
 ばたり。
「アスハ…ってやられてるし」
 爆弾の余波を受けて、アスハが倒れた。
「貫いてみろ、貴様の正義とやらを…」
「話を聞くような相手じゃないわよ」
 メフィスが肩を貸してそのまま逃走。
「もっと吹き飛べ!」
「まずい暴走してるよ!」
 爆弾魔が静まった(自滅した)のはそれから三十秒ほど後であった。

●暴食の魔獣
「聖剣を失い、勇者もひとり倒れ、傷つきながら辿り着いた噴炎魔城。三人の勇者たちはいよいよその城門を守る暴食の魔獣白兎と会いまみえようとしていた」
 ナレーションの通り、城門の前には狼の着ぐるみを着た白兎の姿があった。
「此処を通りたければ、わたしを満足させるだけの贄を差し出せ……なの」
 カンペを見ながらたどたどしくも懸命に喋っている姿が場を和ませる。
「…可愛いわ」
「…可愛いな」
 勇者のみならず、観客もうんうんとうなずいている。
「ところで贄というのはなんだ?」
 ただひとり、勇者・新はその辺のことも無知なんで全く気にしていない。
「お腹すいたの…」
「要はご飯が食べたいんだな」
「そうなの…」
「そうか、困ったな。何も食べ物は支給されていない」
「俺も眼鏡ぐらいしか…」
「あたいもちょっと…」
 困り果てる勇者三人。
「これを食べさせてあげてくれ」
「たこ焼き食べる?」
 声は観客席から。
 どうやら白兎の様子に観客からカンパが来ているようだ。
「ありがとうございます…」
 ぺこりと頭を下げつつも、白兎は困惑中。
 あくまで演技だったのだが思わぬ予想外。
(一応はたくさん食べ物をもらったから……いいのかな?)
 自分で設定した城に入る条件はクリアしている。
「では、こちらへ」
 とりあえず、白兎は当初の予定通りに勇者たちを案内することにした。
 手には一杯の食べ物を持って。

●甦れ! 魔王様!!
「ついにこの城まで勇者が攻めてきたみたいね…」
「魔王の妻、麦子さんは階下から聞こえてくる戦いの音から勇者の接近を感じ取っていた。だが、彼女の手に抱かれた魔王悠人はぴくりとも動かないっ」
「あなたはまだまだ魔界にとって必要な人よ…」
「おおっと、これは?!」
 麦子の体がアウルの光に包まれた。
 その光は魔王悠人にも広がっていく。
 で、気付に平手をぺちーん!
「…うっ」
「気がついたのね、あなた」
「…俺はいったい?」
「この数百年…いっしょに暮らせて…楽しかった…気を付けてね、あなた…」
「いったい何を…」
「だが、麦子さんは動かない。彼女は自分の命を贄に、魔王を生き返らせたのだから…」
「何てことだ…俺はただのんびりしたかっただけなのに」
「…いや、そこはせめて麦子さんのことを言おうよっ!」

●混沌! 噴炎魔城!!
「遂に辿り着いた噴炎魔城、勇者たちはいよいよ魔王と邂逅するっ!」
 重いドアが開くような効果音が流れて、勇者たちは魔王の前になだれ込んだ。
「そこまでよ!」
「おお、よく来てくれた」
 魔王悠人は感激した様子で勇者たちひとり一人の手を握る。
「あ、あれ?」
「さあ、姫はあっちだ。早く連れて帰ってくれ」
 もう早く厄介払いしたという感じがひしひしと伝わってくる。
「何ならそこの暴食の魔獣もつけるから」
「おまけ……なの?」
 首を傾げる白兎。
 ついでに勇者三人も首を傾げる。
 と、ここで真打登場。
「良し、話は分かった。ではまずはこの姫の威光の前にひれ伏せ」
 ゴゴゴゴゴと黒いオーラを纏いながら、笹緒姫が圧倒的な姿を見せる。
 体を縛っていた鎖はそれと同時に砕け散った。
「な、なに?」
「くっ、姫ならお金ありますよね? 眼鏡の在庫ぜんぶ買って下さい」
「断る。お前たちはたた姫の威光の前にひれ伏せばいいのだ」
 更に笹緒姫の纏うオーラが強くなった。
「断るか? ならば滅びるがいい」
 勇者ムキムキンが果敢に挑む。
「ふん!」
 なんと?! デコピン一発でダウンさせられた!
「つ、強い」
「なんで捕まってるの?!」
「決まっている。その方が面白いからだ」
 一切の迷いなし。
 そして、その貫禄。
「まさか、これが真の敵?!」
 勇者チルルが声を震わす。
 何ということだろう……未だかつて姫が最凶最悪のラスボスだなんてことがあったであろうか。
「…それ以前にパンダなのもどうかと思うよぉ〜」
 もうナレーションも投げやりだ。
「オッホッホ! その程度のカオスで何を言っているのかしらっ!」
 今度は悪い魔女エルナが、
「なぜ、誰も古城にやってこない?!」
 次いで眞央が今頃になって登場。
「「だ、誰?!」」
「くぅぅぅ…娘が非モテに惚れ込んで駆け落ちしてしまった腹いせに、ホイホイされた非モテ達を捕らえて食ってしまおうという私の緻密なる策略が……」
「ああ、古城の人ね…というか、あんな天使をメッセンジャーにしたのが間違いよ」
 こくこくとうなずく役者と観客たち。
「だが、ここで食らってしまえば同じこと!」
 黒マントを翻し、眞央がアウルを発動させる。
「あたいが出てきてるのに邪魔しないでよぉ!」
「邪魔をするな」
 そこに突っかかる悪い魔女エルナと笹緒姫。
「隠しボスが簡単に倒れると思うな」
「と、ここで隠しボス直哉まで登場。混迷を深めてきた真のボス決定戦、果たして勝つのは誰なのかっ?!」
「オイラの持っている情報によれば」
「うわっ!」
 いつの間にか、ナレーションのひなこの隣に、エンジェル・レイが立っていた。
 おまけに手にはマイクを持っている。
「ぼくは笹緒姫が勝つと思うなあ」
 ついでに小坊主の桜一郎まで。
 舞台もナレーションも出番を求めた役者たちで混乱しだしている!
「ちょっとナレーションができないよー」
「ぼくはみんなと仲良くしたいだけなのになあ」
「それはいいから――あっ!」
 舞台に新たな人影。
「争うなどと醜い事はよすんだ…世界は」
「世界は、音楽で」
「「ラブ&ピース」」
「なのだよ」
「なのー」
 吟遊詩人の静矢と踊り子の優希が軽快なリズムとダンスに乗って現れた。
「この世に争いは必要ないのだよ!」
「いえーい、踊りでどっかーんなのー☆」
 いきなり舞台の上に乱れ飛ぶ魔法の雨あられに攻撃スキルの乱舞。
「もう滅茶苦茶よ!」
「こっちまで攻撃しないでーー!」
 何か魔王も勇者も見境無し。
 ついでに言うなら自分たちも巻き込んでいる。
 もう爆発エンドで終わらせようという勢いの大盤振る舞いだ。
「いがいがアタックはまだ終わっていない! とおっっ!!」
 ダメ押しにレグルスまで乱入だ!
「上等よ! 全員まとめてかかってこい!」
 勇者チルルも乱闘に加わった!
 そして一分後、ぼろぼろになった一同は仲良く床に倒れ込んでいた。
 ……まあ、当然の結果である。
「こ、これは一体どういうことでしょう?」
 そして、ようやく辿り着いた王妃Rehniと騎士レガロがその惨状を目の当たりにした。
「ぐっ……この私を倒したところで、いずれ第二、第三の姫が貴様らの前に現れるだろう」
「えっと、このパンダは何の役でしょうか?」
「…確か姫様だったかと」
 二人は無言で笹緒姫を見つめる。
「えいっ!」
「……ぐふっ」
「見なかったことにしましょう」
「…そうだな」
「……その後彼女の姿を見たものはいない」
「えっなに?」
「「………」」
「どうやら勇者チルルの最後の言葉だったようだな」
「聞かなかったことにしましょう」
「…そうしよう」
「さあ、悪い魔女も倒したことですし、ジュンちゃんの呪いも解けていることでしょう」
「……ええっと、意気揚々と引き上げていく王妃Rehniと騎士レガロ……これでいいんだよね? えっ? というか尺が無い。早く終われって。ええっ、以上を持って演劇同好会の劇は終了だよー! ご視聴ありがとうーー!!」
「さあ、みんな早く撤収!」
「「終わりもバタバタかよーーっ!」」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:18人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
懐かしい未来の夢を見た・
栗原 ひなこ(ja3001)

大学部5年255組 女 アストラルヴァンガード
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ごはんがかり・
レイ(ja6868)

高等部1年28組 男 ディバインナイト
押すなよ?絶対押すなよ?・
メフィス・ロットハール(ja7041)

大学部7年107組 女 ルインズブレイド
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
エルナ ヴァーレ(ja8327)

卒業 女 阿修羅
想いの灯を見送る・
姫路 眞央(ja8399)

大学部1年7組 男 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
滅雫のヴァルキュリア・
蒼井 御子(jb0655)

大学部4年323組 女 バハムートテイマー
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
夜の探索者・
杉 桜一郎(jb0811)

大学部1年191組 男 陰陽師
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
大海原に覇を唱えし者・
レガロ・アルモニア(jb1616)

大学部6年178組 男 ナイトウォーカー