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マスター:てぃーつー
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/22


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 朝日が昇る。
 人類が見る最後の朝日が――

 およそ、30年前のことだ。
 地球に突如出現した漆黒の巨大なエネルギー体はゆっくりとゆっくりと地球を喰らい始めた。
 人類は当然これに抗戦する。
 叡智を結集して、ありとあらゆる方策が取られた。

 ――そして、そのすべてが失敗した。

 漆黒の影。
 後に、災禍の渦、もしくはメールシュトロームと呼ばれることになる敵の前に、人類はことごとく敗北したのだ。
 この30年間のほとんどはその繰り返しである。
 持てる力のすべてを振り絞り、すべての希望は打ち砕かれた。
 あとに残ったのは絶望だけだ。

 今日、災禍の渦はマントルへと辿り着く。
 同時にスーパーホットプルームが地上の各所に出現して人類は死滅する。その後に地球も崩壊するという予測がかなり昔から立てられていた。
 とはいえ、大半の人はもうそれに興味すら持っていない。
 30年という歳月は人類から希望を根こそぎ奪うのに充分であった。

 空を見上げてみる。
 人類最後の日だというのに雲もほとんどない晴天だ。
 だが、青く澄み渡った空も希望を無くした人たちにとっては灰色と変わりがない。
 何をするでもなく。
 ただ、無為に過ごそうとして……ふと、何かが目に留まった。

 ――空を飛ぶ少女。

 確か抗戦の過渡期の頃に、災禍の渦へ対抗する力を持っていると期待されていた存在だ。
 名前は……魔法少女といったか。
 しかし、それすらも失敗に終わった……。
 今更何をしようというのか。
 呆然と見る、その先には災禍の渦がすべてを飲み込むように漆黒の巨大な手を広げていた――


リプレイ本文


 それは地球が終わりを迎える、前日の夕方に起こったこと。
 心の中に声が響く。
 強く、熱く、そして激しい声だった。

 ――皆して何しみったれた顔してんのよ。

「なんや…今のは?」
 夕闇に染まる景色を見回しても声の主はいない。

 ――私達は魔法少女よ? 希望の象徴なのよ?

「……魔法…少女?」
 ある者はそれが魔法によるものだと気づき、ある者にはそれが啓示となった。
 そして、既に魔法少女である者には、

 ――皆だって分かってんでしょ。立ち止まったって辛いだけ、だったら顔を上げて走り出して!

 言葉の意味が痛いほどに分かる。
 この力は何のためにあるのか。
 今やるべきことは何なのか。

 ――あなたは誰? 自分の名前を、誇りを、魂を! 叫んでみなさいよ!!

 そして、茜色に染まる空でフレイヤ(ja0715)は荒く息を吐く。
「……これでどれだけ魔法少女が集まるかしらね」
 魔力の大半を使って世界中に呼びかけた。
 もしかすると既に反抗できる力を持つ者は居なくなってしまっているのかも……と、嫌な考えが脳裏を過ぎる。
「いずにせよ賽は投げられたわ」
 彼女の青い瞳には巨大な影――災禍の渦が映っている。
 強い風が彼女の髪をなびかせる。
(必ず倒して見せるわよ。世界のためにも……魔法少女たちのためにも)



 膨大な魔力を使った交信は、まだ目覚めていない魔法少女たちにも届いた。
「な、なんでしょうか……」
 久遠寺 渚(jb0685)もそのひとり。
 声の元を探して自分の部屋を見渡すが、もちろん誰もいない。
「でも、魔法少女って……」
 それがどういうものであるのかは分かるが、同時になぜ自分にという疑問も浮かんでくる。

「それは魔法少女としての力を持っているからである!」

「きゃっ……」 
 突然の返答に意表を突かれ、恐る恐る声のした方を見る。
 人の姿はなく。代わりに羽の生えた白猫、ラカン・シュトラウス(jb2603)の姿があった。
「さあ、我と契約して魔法少女になるが良いのである」
「え、えと、魔法少女というと、あの魔法少女でしょうか……?」
「うむ。何パターンかあるが、我と契約すると宝玉(本体)でリリカルな魔法少女に変身できるのである。ただし、宝玉が壊れるか、絶望に飲まれたら魔に堕ちるので注意なのである」
 ラカンはどこからともなく宝玉を取り出すと器用に尻尾で掴んで、渚の前に持っていく。
 興味深くそれを見つめていると、宝玉は途端に黒ずみ、鮮やかなエメラルドの色彩は消えうせてしまった。
「……ああっ」
「こうなったら災禍の渦に囚われた魔法少女たちと同じく魔に堕ちるのである」
「……そ、そんな」
「それでも契約するという者でなければ、災禍の渦と戦うことなどできないのである」
 きっと、本当だろう。
 強い力には相応の代償が伴う。
 それでも、
「……どんな絶望の中でも希望が生まれると信じてるから」
 渚の瞳には決意が篭った。
「最後まで諦めません。だから契約を、私に……世界を守る力を!」
「よくぞ言った!」
 流れ込んでくる力。
 浮かんでくる呪文。
 いつの間にか手には魔法のステッキが――

 そして、同時刻。
 別の場所にもラカンの姿はあった。
「これで契約完了?」
 対面には、蒼いゴシック系の衣服を着けたルーネ(ja3012)が立っていた。
「なるほど、こんな感じになるのか」
 しげしげと自分の姿を確認しては、手足を動かして邪魔になるところはないか確認していく。
 袖は離れて手に付き、レース地のスカートはかなり短めだ。
「ニャア」
 そこに愛猫のベルが飛び乗ってきた。
「おっ、ちょうどいい。この宝玉持っててくれよ」
「なんと! それは先ほど説明したとおりに大事なものなのである」
「どうせ、壊れるときは壊れるもんだよ」

 更にもうひとり。
 鷹司 律(jb0791)もラカンと契約を交わしていた。
 ちなみに彼は男だった。
「…泣いてもいいでしょうか、私…」
 だが、変身した今は少女。
 色々とアレがアレして女の子になってしまったのだ!
 恐るべし、魔法の力!
「好きにするのである。ちなみに性別はずっとそのままなのである」
「……っ」
「どうして魔法少女になろうと思ったのであるか?」
「聞かないでください……」

 契約を結ぶために走り回っていたのはラカンだけではなかった。
「奏でろ、心の調べを」
 開いた楽譜から旋律が流れ落ちて、夕凪颯(jb0662)の周りを巡る。
 ひとつひとつの音符がメロディを奏でると、体が変化して――瞬く間に魔法少女となった颯が立っていた。
「うっしゃ! とぶではやてー!」
 傍らには赤いカナリアの姿をした魔法獣、亀山 淳紅(ja2261)が飛び交っている。
「ほな、いっちょかましたろか! そんでまた一緒に歌おな?」
「もちろんやー!」
「よし、いくで!」

 最後にもうひと組。
「つまり契約しとけば非常にお得というわけや」
 クレジットカードのようなものを提示しているのは、羽の生えた子ライオン(ぬいぐるみぽいっ)の久我 常久(ja7273)。
 先ほどのマスコットたちと同じように魔法少女を導くものだ。
「そういうものか…」
「これも運命かもしれん」
 クライシュ・アラフマン(ja0515)と、インレ(Jb3056)が同時にカードを手に取る。
「変身!」
 幻想的な光が『男』二人を包み込む。
「闇を照らす一縷の光、オジホワイト!!」
「月夜に跳ねる一匹の黒兎、オジブラック!」
「「心臓鷲掴み☆オジキュア!」」
 ババーンと華麗(?)な変身を遂げた二人。
 何というべきか……。
 二人とも衣装は確かに魔法少女であるが、体はまったく変わっていなかった!
 つまるところ、
「へ、変態だー!」
「――よし、変態はどこだ?」
「あんたらだよ。この変質者!」
「なに、変質者? 失礼な、魔法少女だ」
 通りすがりの一般人から声を大にして指摘されるほどの際物であった。
「お巡りさんー!」
「だから魔法少女だと言っているだろう」



 フレイヤの交信によって、神埼 晶(ja8085)は記憶を取り戻していた。
 自分が異世界の、魔法の国のプリンセスであることを。
「そうだったのね…」
 すべてを思い出した。
 自分がここにいる理由も、自分が成すべきことも。
「時間は…もう朝か」
 だが、記憶を呼び覚ますのには時間がかかってしまった。
「あれこれ考えている暇はないわね! 変身! みらくる☆どりーみんっ!」
 魔法の光が彼女の部屋を包み、次の瞬間には大空を高速で飛ぶ魔法少女の姿があった。

 いよいよ最後の朝を向かえ、大半の人々は虚無感に覆われていた。
 ただ、一部の人々は自暴自棄となって、
「くそっ! このっ!」
 無意味と分かっていても破壊衝動に身を任せてしまう……。
「やめてください…!」
 声は女の子のもの。
「災禍の渦は必ず倒します。……だからこんなことはやめてください」
「はぁ? あんたなんかに何ができるってんだ!」
「できます。私は――」
 まばゆい光と、不思議で謎の演出、
「幸福は市民の義務、キュアハーミットバイオレット!」
 薄紫をベースにしたエロ可愛い服装に身を包んだ魔法少女が立っていた。
「ま、魔法少女が今更出てきたところで」
「大丈夫なのですよぅ〜」
 そこに上から声がかかる。
 見上げれば、蒼いステッキに乗った少女がひとり。
「アキは、蒼の魔法少女なのですよぅ〜☆ 他にもたくさんの魔法少女が駆けつけているのです」
 だから大丈夫と、鳳 蒼姫(ja3762)は確信を持って言う。
「さあ、あなたも行くのですよ。もう時間がないのです!」
「はい!」



 朝日が顔を見せると共に魔法少女たちが集まりだした。
「来たわね」
 その立役者たるフレイヤが旗印。
「どうやら間に合ったようだな」
 マジックブルームを駆って、ルーネが輪の中に入ってきた。
 続いて、次々と決戦の空へ上がってくる魔法少女たち。
 総勢17名。
『まだこんなに残っていたんだね☆』
 プリティ・チェリー(以下チェリー)は素直に喜んでいるが、他の魔法少女たちは相手が相手だけに、この数でも心許ないというのが正直なところだ。
「それでも…何もせずに終わるのは嫌なんだから!」
 雪室 チルル(ja0220)が心を奮い立たせるように叫ぶ。
 目は真っ直ぐに災禍の渦を捉えている。
 決して引かないと決意を篭めて。
「賽は投げられました。果たして私達はルビコン川を渡り切れるでしょうか」
 今度は、雫(ja1894)だ。
 場に集まった多くの魔法少女の声を代弁するようなつぶやきは場に沈黙をもたらす。
 そう、生き残れる可能性は極めて低い。
 災禍の渦を倒すことができる可能性も……。
 ならば、限られた時間を大事な人と共に使った方が良かったのではないか?
「『あきらめ』が人を殺す。ならばこの身が朽ちようとも後に続く人達が歩む後押しにならん事を…」
 雫がもう一度つぶやいた。
 ここに来た理由。
 それぞれの想い……。
「ここまで来たら四の五の言うのは無しだ。戦うために来たんだからな」
 迷彩柄のコスチュームに銃火器を持ったセンパー・マリーン(以下センパー)が、他の魔法少女を見る。
「戦う意思のある奴だけついてきな」
 肯定の声、うなずき。
 互いに顔を見て意思を確認すると、魔法少女たち(マスコットを含む)は災禍の渦へと向かっていく――



 時速にして160km。
 高速で接近する魔法少女たちに、災禍の渦の巨体が絶望感と共に押し寄せてくる。
「でっかい! こわいー!」
 戦いに備えて、人ひとり乗せられるほどに大きくなったカナリアの淳紅の声が震えている。
「大丈夫や、あんなん、ただでっかいだけやって…」
 励ます颯でであったが、気を抜けば威圧感に飲まれてしまいそうだ。
「来ますよ!」
 近づいてくる魔法少女を優しく包むように災禍の渦が両手を広げる。
 体から零れ出る無数の黒い点は、尖兵たる鴉たち。
 瞬く間に数は増えて、その数は……数えるのも馬鹿らしい。もう、視界の四割を占めている。
「私が育った地球を、アンタなんかの好きにさせないわ!」
 速度を落とさず、晶は鴉の間を縫って飛ぶ。
 多少のダメージなど気にしてられない。
「さあご覧じろ! どうせ終わるのならド派手に行くぜ!」
 ルーネもガルムSPで弾幕を張りながら併走。
 すると次は抜け間もないほどに密集した鴉の群れが。
「邪魔をするなっ!」
 そこにセンパーの放った(魔法の)ロケットランチャーが突き刺さって爆発する。

 爆煙を抜けて、チルルと、雫が飛び出した。
 方や一直線に、方や最小の動きで、災禍の渦へと突き進む。
 群がる鴉たちはそれを阻止せんと、今度は厚い壁となって魔法少女たちに立ち塞がる。
 貫け、と次々に突き刺さる魔法。
「アキは頑張るのですよぅ〜☆」
 蒼いステッキを振り回し、蒼姫が壁に挑みかかる。
 最大まで高めた魔力と、高速突撃した勢い。
「……あぅ〜」
 それでも小さく破砕した程度。
「もえたなかったらみちを…あけんかーい!」
「このまま一気に貫くで!」
 カナリアの淳紅と、颯が歌声を合わせながら同時に炎と光を放つ。
 蒼姫の一撃とまったく同じ場所に突き刺さったそれらが、亀裂を、そして亀裂を大きくする。
「喰らいなさい! キュアハーミットバイオレットの技を!」
 間髪を容れずにミニスカートと大きな胸を揺らして、キュアハーミットバイオレット(以下キュア)がおどり込んだ。
 ウネウネと出現したイバラを駆使して更に亀裂を大きくしようとしたところに、一部が分かれて襲いかかる。
「きゃっ!」
 キュアを。
 そのままチルル、雫と、他の魔法少女にも牙を剥く。
 速度が緩み、周りの鴉たちが次々と取り付いていくる。
「此処は大人に任せろ――行くぞ、白面の」
「任せろ」
「フィジカル!」
「マジカル!」
 ホーリーブレードが縦に振り下ろされる。手刀が横に薙ぐ。
「「 大 切 断 ! ! ! 」」
 オジブラックと、オジホワイトの最終合体魔法が炸裂した。
 さしもの何千という鴉も壁を維持できずに四散していく。
 道が、見えた。
「今よ……憑依(ポゼッション) ヒリュウ!」
 正八面体のメモリーから、鬼灯 アリス(jb1540)が召還獣を呼び出す。
 突破口を死守するべく、連続して撃ち出される炎の魔法。
 その意図を理解して、既に渚が突破に向かっている。

 向かってきた鴉をバトンで打ち倒して――そこに割り込む闇。

「まずはァ、1人ゥ…あははァ♪」
 黒百合(ja0422)の死角からの強襲。
 首こそ刎ねられるのは阻止したが、渚は気絶してそのまま落下していく。
「次はァ…」
 闇を纏った魔法少女、いや……魔女とでも称すべき存在。
 その視線がオジホワイトで止まる。
「うっ……」
 しかも既にオジホワイトの体は影縛りによって動きを止められていた。
 動こうともがくが、指すら動かせない。
「まずい、白面の!」
 向かってくる魔手から守ろうとオジブラックが飛び出す。
 が、黒百合の狙いは既に代わっていた。
 守ろうと飛び出したオジブラックへ。
「甘いわねェ、これで2人目…」
 今度こそ首を刎ねんと漆黒の大鎌が弧を描く。

「働けマスコットバリア!」
「なんやとー!?」
 そこにオジブラックが子ライオンの常久を盾にして突き出す。

「ぐっぁあああああああ」
 想いっきりぶった切られて腹部から夢とか希望とか綿っぽいものとかが零れ落ちていく。
「なんてことするんやー! 咄嗟に腹ガードしてなかったら大変なことになっとったでえ」
「久我は犠牲になったのだ…」
「まだ生きとるわ!」
 手を合わせるオジホワイトに鋭くツッコミを返す。
「ちょっとォ、これは何のコントなのさァ…」
 対して仕留め損なった、黒百合は苛立たしそうな顔で大鎌を振り上げる。
 同時に違和感。
 直感のままに、黒百合が飛び退くと掠めながら炎が走った。
 一撃ならず、二撃、三撃と。
 身を翻しながら攻撃してくる相手を探すが、魔法を使っているのか捉えることができない。
「……くゥ」
 咄嗟にマジカルスモーク(煙幕)を張って撤退する。
 黒百合が完全に居なくなったことを確認してから、律は次元潜伏の魔法を解いた。
「逃がしてしまいましたか」
「でも、もう少しでしたよ」
 傍らには奇襲を受けて墜落した、渚の姿もある。
 こっそりと律が救助していたのだ。
 そうして態勢を立て直している間にも鴉たちが群がってくる。

 鴉の群れを掻い潜りながら前へと進む魔法少女たちを、上空から見下ろす者がいた。
「強力な魔法少女たちが集まる今こそ、最後のチャンス…」
 魔女、雀原 麦子(ja1553)。
 黒百合と同じく、かつて魔法少女であった者。
 いかなる意思を持ってか、得物を手にすると魔法少女たちに向かって一気に降下する。



 嵐のように襲いかってくる鴉たち。
 連携を取り、魔法を束ね、魔法少女たちは一本の矢となって突き進む。
 右、下、反転、飛び込んできた鴉を魔法で迎撃。
 大空を高速で飛行し、絶え間なく火花が散る。
「憑依 ストレイシオン!」
 アリスは防御を固めて耐えるが、長くは持ちそうにない。
「ここは、このカードを使うんやー!」
 現状を見兼ねた子ライオンの常久がオジブラックにクレジットカードを投げつける。
「……これは?」
「そのカードで強いアイテムを引くんや!」
「なるほど課金アイテムというわけか……むっ!」
 よく見ると名義がオジブラックの本名インレになっていた。
「ああ〜、気づいてもたか」
「なんというものを……!」
「悪いけど、コントはそこまでにしてね」
 そこに上空から殺気。
 常久とオジブラックが反応したところへ、強力な魔法が襲いかかる。
 瞬時に何人かの魔法少女が防御魔法を。
 だが、これも陽動だ。注意が上に逸れた一瞬を突いて、麦子が強襲する。
 これを読んでいたのは、ただひとり。
「――させない!」
 大剣を突き出した形で、チルルが突進して仲間から引き離す。
「ここはあたいに任せて! みんなはあいつを!」
 悲壮感たっぷりの声。
 きっと何か因縁があるのだろう。そこには何としてでも倒そうとする義務さえ感じられる。
『わかったよ。でも、死んじゃだめだよ!』
 心配そうにしているチェリーに相槌を打って、チルルは大剣を振りかぶる。
 上段から振り下ろし。
 阻む、麦子の魔法障壁。
「どうしてよ! あいつを倒そうって約束したじゃない!」
「その甘さが魔法少女の限界なのよ…」
「この……わからず屋ー!」
 飛び交う火花。
 高速で飛び交い、二本の線となって空を染めていく。

 激しい二人の戦いに背を向けて、魔法少女たちは災禍の渦を目指す。
 あと少し、あと少しでこちらの射程範囲に入るはずだ。
「行くぞぉ!」
 執拗な鴉の攻撃に痺れを切らして、センパーが強引な突破を図る。
 そこにキュアが併走する――救援と思ったところに腹部に熱いものが広がった。
「……うっ」
 キュアの手に握られた漆黒の大鎌。
「離れなさい! この偽者!」
 割り込んでくるもうひとりのキュア。
「…あははァ♪ 次はあなたねェ」
 魔法が解け、黒百合が正体を見せる。
 仲間が救援に向かおうとするも鴉が更に数を増してきた。
「うあっ、くぅ……うあぁああああああ!」
 今度は為す術もなく、キュアが一方的になぶられる。
 衣服が大鎌によって次々と切り裂かれ、
「…終わりよォ♪」
 そして一閃。
 あられもない姿になって、キュアが落ちていく。

「オール・ガン…アクティブ」

「…えッ?」
 いつの間にか、黒百合の周りには取り巻くように展開した突撃銃が。
「…花嵐」
 森浦 萌々佳(ja0835)の声に従って突撃銃が一斉に火を吹く。
 独立飛行する10丁と、彼女自身が持つ2丁がそのまま周囲の鴉にも襲いかかった。
「……な、何なのよォ」
 新たなる魔法少女。
 予想外の救援に少しだけ魔法少女たちが息を吹き返す。
 萌々佳の火力を前面に押し立てて、必死の反攻。
「こちらシエラ・マイク2−4。爆撃要請、ターゲットを指定する……ごほっ」
 最後の大技を使おうとしたセンパーの口から赤いものが流れる。
「無理をしてはいけません。傷はかなり深い……」
 律が支えに回るが、センパーはそれを押し退けた。
「……ここで道が開けなきゃ、敵に辿り着くこともできずに全滅だぞ!」
「…そうよォ♪」
 忍び寄る黒百合。
「させない」
 表情をまったく変えずに萌々佳が割り込む。
 アンデッド魔法少女たるその利点を活かして、多少の傷などお構い無しに火線を張っている。
 その間にセンパーは律の肩を借りて(魔法の)レーザー誘導装置で標的を指示していた。
 これぞ彼女の最大魔法――マジカル・エアストライク。
 (魔法の)戦闘爆撃機編隊を召喚して(魔法の)精密爆撃を行う、最大級の火力を誇る超範囲魔法だ。

「まずい……!」
 だが、そこに更なる障害。
 いつの間にか災禍の渦の手が魔法少女たちを取り込まんと迫ってくる。
 逃げ場がない。
 誰もがそう思ったとき、『蒼』が翻る。
 蒼いヒラヒラのドレスに蒼い大きなリボン。
「……取り込まれるのはアキだけで十分なのですよ! よ!」
 蒼姫が腕を目掛けて突っ込む。
 打ち落とさんと迫る鴉。
「どおおおおおおおおおんなのおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 次の瞬間、全魔力が大輪の花火となって炸裂する。
 災禍の渦の動きが止まった。
 そして……もう、蒼姫の姿はない。
「くっ……無駄にはしない」
 センパーの魔法が遂に発動する。
 次々と召還される戦闘爆撃機。その精密爆撃が一気に視界を光で覆う。
「人間なめんじゃねえぞ、化け物がぁ!」
 目が慣れ、開いた先にはもう鴉の姿はない。
 災禍の渦の懐まで一直線。
「まだ、戦える。地獄で……再集結だ…」
 センパーは最後まで戦う意思を持って逝った……。
 次々と散っていく魔法少女たち。
 そして、
「……またなのォ?」
「これ以上…邪魔はさせません」
 ちょうどその間隙を突こうとした黒百合を、萌々佳が掴む。
 同時に萌々佳の体から魔力が迸った。
 全魔力解放による自爆『ヘルハウンド』が、先ほど蒼姫が放ったものと同じように空を覆った。
 光に包まれていく。
「あっ――」
 萌々佳の脳裏を過ぎる、失くしていた記憶、大切な人の名前……。
 またひとり、魔法少女が散った。


●幕間
 彼、いや彼女の名前は、犬乃 さんぽ(ja1272)。
 普通のヨーヨー少年であったが、ある時、愛用のヨーヨーが地球を救う力をくれると語りかけてきて……。
「って、変身したら、ボク女の子になっちゃった」
 顔を真っ赤にして、さんぽは自分の姿を確認する。
 鏡台に映る姿は間違いなく女の子だ。
「恥ずかしいけど、災禍を倒してみんなの未来を掴むんだ!」
 そう、こんなことをしている時間はない。
 もうすぐ未来は失われてしまう。
「行くよ! ヨーヨーのマジカル螺旋力を使って、マントルに先回りだ!」



 まさに疾風。
 駆け抜ける魔法少女たちは仲間の犠牲を無駄にしないためにも突き進む。
「さあ、行くよ」
「うん、行こう」
 純白のドレス纏ったクオン・パールこと雪成 藤花(ja0292)、黒いゴスロリ調の衣装を纏ったクオン・イカスミこと星杜 焔(ja5378)。この二人こそ、魔法少女たちが温存した切り札。
 手を取り合って、二人が織り成すのは愛の魔法。
 悪しきものを浄化する光が災禍の渦を包み込んでいく。
 が……まったく効いていない。
「……うそ」
 今までありとあらゆる希望を打ち砕いてきた災禍の渦は、またしても厳しい現実を見せつける。
「まだです……奥の手、三重憑依(トリプルポゼッション)!」
 次いで動いたのは、アリス。
 召還獣を三体同時に呼び出す。
「ヒリュウ! ストレイシオン! スレイプニル!」
 魔力を搾り出しての渾身の一撃。
 災禍の渦を取り巻く魔法障壁とぶつかって光が零れ落ちる。
 しかも、徐々にアリスの方が押され始めた。
『一人で勝てない相手も皆の力を一つにすれば…魔法少女の可能性を信じて!!』
 そこにチェリーが巨大な火球で続く。
「うたがないせかいなんて、ぜーったいいややもん! あれたおしてはやてっ」
「わかっとるよ」
 カナリアの淳紅の支援を受けて、颯は音楽記号で書かれた巨大な魔方陣を展開。
 すべてを原子に帰す波動。
「――フィナーレ」
 立て続けに、大魔法の連発。
 もちろん他の魔法少女も全力全開。
 ここで押し負けたら、通じる手はほとんどない。
 溢れる魔力。
 そして、弾けた。
 圧倒的な魔力の波に魔法少女たちは吹き飛ばされる。
「……っ、災禍の渦は!?」
 健在だ……。
 さしてダメージを受けたようにも見えない。
「もうちららがでないんやでー…きゅう」
 カナリアだった淳紅は魔力を使い果たして幼い女の子となって落ちていく。
 慌てて、颯が助けに飛んだがもう戦線復帰は無理だろう。
「も、もう、だめ…やっぱり敵わないのよ…」
 アリスがうなだれる。
 あれだけの力を込めてもダメだったのだ。
 絶望を上乗せするように魔法少女の周りにまた鴉が群がってくる。
「私一人は弱い。『だからこそ』強い! 今、この場では!」
 ルーネが気丈に鴉へと向かっていく。
 エーデルシュタインを縦横に振るって、そのまま災禍の渦に突撃。
「私達が勝てる可能性は那由他の彼方ほど低いものでしょうね。それでも、私には十分過ぎる」
 雫が大剣を振り上げてそれに続く。
「『あきらめ』が人を殺す。だから私は決して諦めない」
 魔法障壁とぶつかって、再び火花を散らす。
 貫けない。
 二人を弾き飛ばし、災禍の渦は邪魔な魔法少女を振り払おうと手を伸ばしてくる。
 だが、晶にはまだ秘策があった。
(私は絶望なんてしない。この命が燃え尽きる最後の一瞬まで、あきらめないっ!)
 彼女の持つ反物質魔法の力を災禍の渦の体内で弾けさせれば、反撃の一手になるかもしれない。
『みんな! バラバラで戦っても駄目だよ!! 皆の力を一つにしないと!』
 仲間を取りまとめようと動いている、チェリーの姿が見える。
 見れば、他にも諦めてない者がいる。
(犬死かもしれない。でも少しでも可能性があるなら、私はそれに賭ける!)
 晶が災禍の渦に向かう。
 阻止せんと群がってくる鴉たち。
(ダメだ。近づくことも……)

 そこに光が溢れた。
 源は災禍の渦の真下から。
「魔法少女ウルテク☆サンポ!」
 ここに最後の魔法少女が合流する。
「ボクのスピンはお前の渦と逆に回る希望の渦、そしてマントルから地球が…そこに住む命の祈りがボクに力をくれる…これが、この渦がボク達の命の輝きだ!」
 生まれた千歳一隅のチャンス。
「みんな、後の事は、地球の事は頼んだわよ!」
 晶が災禍の渦に飛び込む。
 直後に起こった魔力の暴走は彼女の命の灯火だ。

 そして、再び絶望が訪れる。

 災禍の渦は確かに傷を負っていた。
 だが、瞬時にそれは癒えていく。
 更に足掻く者たちを嘲笑うように災禍の渦はその身を前方に押し倒した。
 全長8kmもの巨体を避ける術はなく。
 魔法少女たちの視界は、ただ闇に包まれた。
 見渡す限りの闇。
 何も見えず、体は徐々に魔に取り込まれていく。
「もう……」
 本当に打つ手がないと、渚は魔法のステッキから手を離した。

 ――絶望がなんぼのもんじゃい! こちとら泣く子も笑う黄昏の魔法少女様よ!

「これは……フレイヤさん?」

 ――世界中が絶望に包まれていて、辛い事ばかり、それも今日でおしまい。

「まだ……諦めてない」
 呼びかけた際に魔力のほとんどは使ってしまっているはず。
 現にこれまでの戦いでも力を使えていなかった。
 ならば、彼女は……。
「諦めないって決めたのに、どうしてこんな簡単に私は」
 渚が心に残った『何か』を振り絞る。

 同様に、それは他の魔法少女も。

 クオン・パール、いや、藤花は思い出していた。
 魔法少女になったときのことを。
「人類最後の日…でも、それでも――貴方を喪うのは、嫌です」
 顔を埋め、藤花は世の理不尽を独白する。
 埋めているのは、焔の胸だ。
 二人は生ける時も死せる時も、また別の世でも、ずっと一緒に在ろうと誓い合った久遠の絆で結ばれた仲。
「…どうしてわたし、まだ子どもなのかな…」
 秋が来たら、結婚できた。
 だが、互いの年が僅かばかり足りず、滅亡はもう目の前だ。
 そんな忸怩たる想いの中、せめてもの慰めにと準備していた最後の晩餐が微かな希望を繋いだ。
 二人の獲ってきた貝とイカは災禍の渦を倒しにきた知的生命体であった。
 力を得るための代償は、
「女の子になったら世界が救われても、藤花ちゃんと結ばれる事はもう…」
 焔が永遠に女の子になること。
 二人の決意。
 すべては明日を掴み取るために。
「信じているから――未来を」
 闇の中で、クオン・パールは手を伸ばす。
「救われると信じて」
 クオン・イカスミも。
「「きっと幸せな未来が待っている」」
 二人の愛が生み出す浄化の力。
 広がり、そして、災禍の渦を初めて怯ませる。

「無駄ではなかったのね……」
 災禍の渦の苦しむ姿を見て、麦子はぽつりとつぶやく。
 離れた場所で戦いを繰り広げていた二人にもようやく決着がついていた。
「もしかして正気に…?」
 その背にはチルルの大剣が突き抜けている。
「ありがとう…後の世界をよろしくね…」
 麦子の手がチルルの頭を撫でた。
 そのまま力尽きて、命の終わりと共に自らを生贄にした大魔法陣が展開する。
 散っていった者たちの魔力を一点に集約するためのものが。

「私達は、人類は、魔法少女は、まだ負けていません!」
「現役魔法少女がこんなところでやられる訳にはいかないよね!」
 渚が、チェリーが、他の魔法少女たちが災禍の渦から脱出する。
 希望は消えない。
 その命ある限り。
「よくぞ言ったのである! この力を受け取るのである!」
 ラカンが魔法少女たちの力を更に解き放つ。
 溢れる魔力を取り込んでの二段階変身、光が集約して新たなる姿で現れる。
「魔法少女ぷりてぃ☆なぎーS、ここに参上です!」
 仲間と共に魔力を集める。

 ――アキは、あきあきとしているからアキなのですよ!

 魔力の波が、蒼姫の笑顔のように映った。
 それは形を変えて次々と魔法少女の姿を映し出す、かつて魔女であった者たちも加わってひとつの力へ。
「覚悟はいいですか? 今、貴女に希望を教えてあげます!」
 高まる魔力。
「皆力を貸して、希望の力を私に! 絶望の中で生まれ、絶望を飲み干し尽くす希望をここに!」
『皆の思いを一つに…希望(明日)を照らす光(奇跡)となれ!』
「おーばー・ざ・れいんぼー!!」
『コズミック・シャイニー・アロー!!』
 渚が、チェリーが、すべての魔法少女が、力を、想いを、ひとつに纏めて魔法が走る。
 夢と希望が明日への扉を開く。
 絶望が光に染まった。




 大地が広がっている。
 その先にはいつしか沈みかけた太陽と、茜色に染まる海原がある。
 もう、未来(明日)を遮る影はどこにもない。



●エンドロール(好きなBGMを流してください)
「こにゃにゃちわー! 皆お楽しみのこのコーナー!」
 BGMと共に声が響く。
「久我ちゃんにお任せの時間だ! 制服やどういう意図があったか説明するぜ!」
 同時に流れ出すスタッフロール。
 更には他の魔法少女たちの声も――


 雪室 チルル

 クオン・パール 雪成 藤花

 黒百合

 オジホワイト クライシュ・アラフマン

 フレイヤ

 森浦 萌々佳

 ウルテク☆サンポ 犬乃 さんぽ

 雀原 麦子

 雫

 赤いカナリアの姿をした魔法獣 亀山 淳紅

 プリティ・チェリー =(?) 御手洗 紘人(ja2549)

 ルーネ

 鳳 蒼姫

 クオン・イカスミ 星杜 焔

 キュアハーミットバイオレット 菊開 すみれ(ja6392)

 羽の生えた子ライオン(ぬいぐるみぽいっ) 久我 常久

 神埼 晶

 夕凪颯

 久遠寺 渚

 鷹司 律

 センパー・マリーン アリシア・タガート(jb1027)

 鬼灯 アリス

 羽の生えた白猫 ラカン・シュトラウス

 オジブラック インレ




 最後に、
 参加してくれたすべての魔法少女とマスコットに感謝を、
 この愛しい世界に祝福を。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:17人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
アトラクトシールド・
クライシュ・アラフマン(ja0515)

大学部6年202組 男 ディバインナイト
今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
振り返れば奴がいる・
夕凪颯(jb0662)

大学部7年195組 男 バハムートテイマー
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
七福神の加護・
鷹司 律(jb0791)

卒業 男 ナイトウォーカー
大虎撃破・
アリシア・タガート(jb1027)

大学部6年37組 女 インフィルトレイター
伝えきれぬ想いを君に・
ブリギッタ・アルブランシェ(jb1393)

高等部2年2組 女 ルインズブレイド
能力者・
空木 アリス(jb1540)

卒業 女 バハムートテイマー
はいぱーしろねこさん・
ラカン・シュトラウス(jb2603)

卒業 男 ディバインナイト
断魂に潰えぬ心・
インレ(jb3056)

大学部1年6組 男 阿修羅