●戦いに臨む
いくつもの戦場を抜けた。
大毛島の各所では、まだまだ戦闘が続いている。
ゲートを作っている場所までのルートを何とか切り開いたというのが、今の状況であった。
(この位置はマズイですね。本土との陸路を断たれれば、四国は堕ちたも同然でしょう。少しだけ、無理をしなければいけませんか…)
オーデン・ソル・キャドー(
jb2706)が危惧するとおり、この島は物流の要だ。
おまけに小規模のゲートであっても充分にそれは成される。
強引な強襲作戦が執られたのも無理からぬことであった。
「見えてきたぞ」
「…あれか」
そして、撃退士たちの目に件の施設が飛び込んできた……いや、正しくはそれを取り巻くディアボロたちの姿が。
(四国動乱を静める為に、頑張るね)
杉 桜一郎(
jb0811)が意気を込める。
僅かに駆けるスピードを緩め、時間を確認。
作戦開始まで、あと僅かだ。
「ねぇ、皆様。円陣を組んでみません?」
呼びかけたのは、紅鬼 姫乃(
jb3683)。
撃退士たちは顔を見合わせて、それぞれに肯定を示す。
少し広がる形で円陣を組み、
「お隣さんの顔は覚えたでしょうか? その方が欠けぬよう、頑張りましょうね。私たちの勝利のために!!!」
「「おう!!」」
気合の入った声が唱和する。
いよいよ開戦だ!
●第一部隊(1)
距離が近づくにつれ、敵の陣容も明らかになってきた。
まず目に付いたのは蛇の首を伸ばす巨大な亀たち、それを取り巻くようにスケルトンの群れが待ち構えている。
「デカイ亀だな…踏んづけて甲羅の上を歩いてみたくなる」
うそぶくように、アレクシア・フランツィスカ(
ja7716)が敵を見据えた。
「クリフー、クリフー。あのおおきいの、なんだー?」
「首が蛇っぽいから蛇亀っていうみたいだよ」
クリフ・ロジャーズ(
jb2560)と、アダム(
jb2614)が軽口を叩きあう。
「クリフー、クリフー。あのほねはどうしてうごいてるんだ?」
「ん〜? 俺にも原理はさっぱりだよ。それよりも本当に頼っていいのか?」
「ああ、任せとけって」
二人は互いに顔を見合わせ、表情を緩める。
次いで、クリフが阻霊符を発動。
桝本 侑吾(
ja8758)も同じように阻霊符を発動させるが、彼には少し思うところがあった。
(あの時の子の悪魔か…ま、いいけど)
大麻山から続いて、この事件に当たっているだけに興味が僅かに顔を見せる。
だが、今は目の前のこと。
ゲートなど作らせるわけに行かない。
(ゲート生成阻止の為の戦闘か、面倒くさい…)
今度は片瀬 集(
jb3954)から溜息が漏れるが、成さなくてはいけないことであるのは彼もよく理解している。
思いは参加した者、それぞれに。
だが、目的はひとつ……ゆっくりと歩を進めて戦いへ――
もう少しで20mを切る。
鴉乃宮 歌音(
ja0427)がアサルトライフルを構えた。
(焦らずに……邪魔になりそうなものから順番に)
射程距離のぎりぎりからスケルトンに一斉射。
銃声が鳴り響き、その音を合図に他の撃退士たちが一気に走り出す。
先陣を切った神凪 宗(
ja0435)が、向かってきたスケルトンと切り結んだ。
刃と刃がぶつかって鈍い音が鳴り響く。
「後ろが待っているんでな。邪魔をするなら切り捨てるまでだ」
残滓のようにエネルギーブレイドが軌跡が描き、スケルトンの刀ともう一度ぶつかった後に、銅をすっと薙ぐ。
「…浅いか」
「いや…充分だ」
立て続けに、侑吾のクレイモアが振り下ろされた。
勢いと重量の乗った一撃にスケルトンが軋みを上げて後退る。
そこに幾重もの炎が舞い散った。
鮮やかな花火のように炎が走って先ほどのスケルトンを朽ちさせ、奥にいた2体も炎に焼かれて苦しみだす。
「話しどおり、炎はかなり有効のようだね」
「じゃあ、クリフをしっかりと守らないとな…!」
炎を生み出したクリフの前に立ち、アダムは洋弓を構えて敵を牽制する。
その間に先ほどの炎を生んだもうひとりのナイトウォーカー、霧切 新(jz0137)は敵陣の奥深くへと切り込んでいた。
「……敵が多いな」
「亀が来たら私が引きつけます。道を切り開くことを優先してください」
並走するオーデンはそう言って、早速目についた蛇亀に向かっていく。
深く、鋭く、敵陣をえぐり、
「あと少し…邪魔をするな」
渾身の一撃に雷を乗せて、宗がエネルギーブレードを一閃。
雷光のまばゆさと、直後に爆ぜた炎の二重大輪が、立ち塞がっていた三体のスケルトンを打ち砕いた。
●第二部隊(1)
火蓋が切られ、第二から第四部隊はルートが確保されるのを静かに待っていた。
戦力の消耗を避けるため、ロケットを打ち上げるように部隊は編成されている。
あとは各自がそれぞれの役目を果たすのみ。
そして、もうじき第一部隊が突入のための役目を完遂する。いよいよ自分たちの番だと気迫を篭め、
「ゲート作成は何としてでも阻止する!」
「そうよ、ゲートなんて開かせないんだからっ」
鐘田将太郎(
ja0114)が口に出せば、レイラ・アスカロノフ(
ja8389)が追随した。
「予告するほど、余裕? くぅー! 不愉快なの!」
姫乃もついつい口を挟む。
多くの者が第一部隊の奮戦を見て火が点いていた。
「へっ。豪快にゲート乱発してきやがらァ…」
ラウール・ペンドルミン(
jb3166)がつぶやきながら戦場を見渡す。
「豪快なのは嫌いじゃねェが、迷惑なんでな。ぶっ潰す!」
敵の数は多く。
どれだけ障害があるかは分からない。だが、全力を叩き込むまでだ。
(厄介で大変な依頼さねぇ…)
そんな仲間たちの様子を眺め、九十九(
ja1149)はこれからのことを試算していた。
気合は充分だが、精神論だけではどうにもならない。果たしてこの作戦は上手く行くのだろうか……。
(とは言え、与えられた役目は出来る限りやるのがうちの流儀さねぇ)
九十九が戦場に目を遣ると、第一部隊のアレクシアが大きく手を振って声を出した。
「道が開けた! 今のうちだ!」
「よし!」
応えて、第二部隊と第四部隊が一気に突き進む。
その間に切り開いた道を守るべく、歌音やオーデンがスケルトンたちの接近を阻み。炎の大輪がそれでも接近するスケルトンたちに炸裂する。次いで切り開いた道と並走するように炎が真っ直ぐに走った。
「神凪の火遁か…!」
出し惜しみない支援に心の中で感謝しつつ、敷地の中へ。
「頼んだぞ!」
「任せておけって」
アレクシアの声援に応えて、ラウールは前を見る。
直立する巨大トカゲに、影を切り取ったような巨大な鮫。
(最短コースなら2〜3体ってところか)
だが、進んでいるうちに敵も群がってくるだろう。
むしろ範囲攻撃が炸裂させやすいように部隊は固めたまま突き進み。御影 蓮也(
ja0709)が臨戦に次いでケイオスドレストのスキルを使ってから足を止め、更には鳳 静矢(
ja3856)も立ち止まる。
他の者は敵の直線攻撃を警戒して少し間隔を空けながら前へ前へ、
(トカゲと鮫の相手か…)
将太郎が向かってくるリザードマンを目に留め、トンファーを構えた。
踏み込む足にアウルを込めて、加速。
間合いを一足で詰めて、巨体の懐に潜り込む。
「道は切り開かせてもらうぞ!」
トンファーを叩きつけ、リザードマンの反撃をずらそうとしたが……鋭い爪があっさりと左腕を斬りつけた。
苦痛を堪え踏みとどまると、白く輝く光が真横に見える。
水葉さくら(
ja9860)の銀色の杖が輝いていた。
「奥に用事があるので…通してください、ね?」
問いかけるような言葉だが、怯んではいない。
リザードマンの動きを目で追い、カオスレートを引き上げた一撃を腹部に叩き込む。
そして更に、後ろから声が響く、
「行くぞ、御影」
「おお、後続の道を切り開く。駆けろ、真弾砲哮(レイジングブースト)!」
静矢の放った鳥の形をしたアウルと、蓮也の蒼光の砲撃が戦場を駆け抜ける。
これらの集中攻撃にリザードマンが1体倒れ、痛撃を受けた黒鮫が少し距離を取ろうとしたところに、
「逃がしはしないさねぇ」
九十九の放った矢が突き刺さる。
直後に黒鮫は体に異常を感じて叫び声を発しながら遁走。
見れば、矢の刺さった部分が溶けて腐り出しているではないか。
「これでルートは確保できたのかな……?」
「いや、そう甘くはないみたいだぜ!」
レイラと、ラウールが見ている前で黒鮫が2体……いや、更に体にくっついていた小鮫を展開しながら向かってくる。
「こんっにゃろー!」
レイラがアウルで加速しながら双剣を横薙ぎに振るう。
黒鮫の鼻頭を捉えるが、背後からは別の鮫が。
「悪ィがこいつらのタマァ取らせねェぜ!」
咄嗟にラウールが炸裂符を投げつけて挟撃を回避。
攻撃を防がれた黒鮫は揃って空へと向かが、そこに再び、静矢のアウルが戦場を駆け抜けた。
撃ち抜かれた黒鮫は地面へと落ち、怒声のようなものを発している。
「苦しいなら、これで楽になるの」
ここで密かに身を隠していた、姫乃が腕に纏わせた闇を一直線に解き放った。
黒鮫の1体は撃沈、もう1体は痛撃に距離を置いて空へと逃げていく――
●第三部隊(1)
戦況を見定めていた第四部隊の指示で、作戦の要である第三部隊も敷地の中へと辿り着いていた。
目の前で繰り広げられているのは正に激戦。
黒鮫とリザードマンという強敵に、第二部隊もそう長くは持たないだろう。
それでも僅かな時間だけ切り開かれた小さな道を通る以外に術はなく。
「いよいよ出番じゃ」
「お姫様を、ダンスに誘えば良いんだろ?」
「うむ、その通りじゃな。小生意気な策謀など潰してくれよ〜ぞ」
ハッド(
jb3000)と、赤坂白秋(
ja7030)が気勢を上げながら駆け出せば、
「第三の皆、後は任せたぜ!」
「退路は心配するな。メインは任せたよ」
将太郎と、蓮也から声がかかる。
声をかける余裕が無かった者も、その顔が雄弁に語っていた。
必ず道は開けておくと。
そんな仲間たちに背を押され、第三部隊は大きな建物の玄関へと辿り着いた。
(…今回の仕事はさしずめドアマンといったところか…いや、ドアは壊されるから多少違うな…どうでもいいが…)
日谷 月彦(
ja5877)は両開きの大きな扉に手をかけ、リョウ(
ja0563)に目を遣る。
何かをつぶやいて暗示のようなものをかけているようだ。
次いで黒い光の柱が立ち昇って霧散すると、リョウは残影を纏った。
「…準備はいいな?」
返ってきた首肯と共に、月彦が勢いよく扉を押し開ける。
目に飛び込んできたのは4体のデュラハン。
「はっ、持て成すじゃねえか…!」
白秋の感想を背に聞いて、リョウが勢いよく飛び出す。
そのままホールの壁伝いに走り出せば、三体のデュラハンが一斉に距離を詰め始めた。
●第二部隊(2)
戦闘は激化していた。
散らばっていた敵が1体増えるごとに撃退士たちは押し込まれていく。
「…やっかいさねぇ」
戦況を把握しつつ、九十九がレイラに歩み寄る。
「いま手当するから少しじっとしてるさねぇ」
「……ありがとっ」
アウルで傷を癒している間も、気は抜けない。
技量的にも厳しいものを感じているだけに、レイラはいくつもの注意事項を自らに課していた。
「来るよっ…!」
警告を発して飛び退く。
九十九もそれにならうと、直後に黒鮫が突っ込んできた。
声に反応していたのはもうひとり、
「そこか!」
蓮也が突撃した黒鮫の腹を金属製の糸で切り裂く。
激痛で開いた黒鮫の大口に、今度は将太郎が衝撃波を叩き込んだ。
「…くっ、しぶとい」
だが、黒鮫はその連続攻撃を受けても動きを止めない。
「こちらもなかなか大変です、よ」
傍らでは、さくらがリザードマンの攻撃を何とか凌いでいる。
急速に振り回した尻尾を銀色の杖で受け流し、そのまま懐に飛び込んでカウンター気味に魔法攻撃。
「もういっちょ!」
そして、畳み掛けるようにレイラが重い一撃を打ち込んだ。
入ったという確かな手応え。
「なっ…!」
だが、目に入ったのはリザードマンの口から漏れ出した炎の塊だ。
「こいつが炎を吐くって奴か!」
ラウールが魔法書を紐解いて矢継ぎ早に魔法を撃ち込む。
だが、それにもリザードマンは耐えて炎を吐き出した。咄嗟に撃退士たちは距離を取るが、熱波が肌を焼いていく。
「…厄介な敵ばかりだ」
炎の勢いが止まったのを見て、今度は静矢が飛び込んだ。
リザードマンの足元を狙って大太刀を振り抜く。
かなり深く入った。その証拠にリザードマンの動きが明らかに鈍くなっている。
「そこどいてっ!」
次いで聞こえてきた声に、静矢は飛び退く。
声の主である、レイラも横に跳ぶと、空いた空間を黒鮫が突き進んでリザードマンを巻き込んだ。
「っしゃー!」
予想通りの成果にレイラが剣を握ったまま拳を高く掲げる。
これでリザードマンも撃破……、
「生きているぞ!」
将太郎の警告に、倒れたリザードマンを見れば、その姿勢のままで炎を吐こうとしている。
次の動きは戦闘狂たる彼女の本能的なものか。
レイラは先に衝撃波で息の根を止めようと高速の一撃を放った。
衝撃波は確かにリザードマンを切り裂き……それでも動きは止まらずに炎が吹き荒れる。
「それ以上はやらせないのね!」
背後に忍び寄った、姫乃の風刃がようやくリザードマンの動きを止めるも。
既にレイラは深い傷を負っていた……。
●第四部隊(1)
遂に仲間が倒れ、控えていた第四部隊はにわかに忙しくなった。
「助っ人参上!」
千葉 真一(
ja0070)が倒れたレイラに走り寄って、近づいてきていた小鮫に拳を叩きつける。
その間に、桜一郎と、影野 明日香(
jb3801)がレイラを戦場から引き離す。
傷口は深く、見るからに戦闘を続けることは不可能だ。
「止血するわ、手伝って」
「…はい」
「ただスキルを使えば良いって物じゃないわ。特に命に関わる重傷の場合わね」
明日香の指示に従って手早く手当をしていく。
といっても戦場の中での簡素なものだ。
「早く戦場の外へ運んであげないと」
「わかりました。直ぐに戻りますから」
言って、桜一郎はレイラを背負って走り出す。
戦局は徐々に厳しくなっている。
第四部隊の仕事はこれから忙しくなりそうだ……。
●第一部隊(2)
「さあ、皆さん。ここからが本番ですよ。逃げ道となるか花道となるかは解りませんが、道が無ければ誰も通れませんからね。気合いを入れていきましょうか」
第二部隊、第三部隊を見送り、オーデンが呼びかける。
目を合わせる者、小さく首肯する者、気勢を上げて応える者など反応は様々だが、思いは同じだ。
そして、周囲からは散らばっていた敵が集まり、押し寄せてきている。
「…かなりの数だな、連携して当たるぞ」
宗が雷遁を乗せた一撃で敵陣を深く切り裂く。
空いた空間を押し広げるように、侑吾が続けば今度は蛇亀の巨体が立ち塞がる。
「さって…来いっ」
そのまま近くの1体を挑発。
上手くかかったことを確認して引きはがそうと仲間から離れたところに、今度はスケルトンが群がってくる。
直後、白骨の頭に矢が突き刺さった。
確認せずとも誰の支援か分かる。
それを信じてクレイモアを横薙ぎに振るって強行突破。
10m以上後ろでそれを見ながら、歌音はクロスボウの狙いを絞り――次々とスケルトンを射抜いていく。
(これでよし…)
倒した敵のことはすぐさま頭の隅に追い遣って、戦場を俯瞰する。
侑吾の支援には、アダムと、クリフが向かっていて、
「ここは通させないからな…!」
「無茶はするなよ」
白いカード状の刃でスケルトンの体勢が崩れたところに、直ぐさま矢を射かけている。
(あちらは大丈夫)
次いで、歌音が目を向けたのは2体の蛇亀を引きつけている宗。
「そんなのでは何時まで経っても自分を倒すことは出来ない。無駄なあがきは止めて、散れ」
伸びてきた首にエネルギーブレードを叩きつける。
蛇亀から返ってきた振り払うような動きは、むしろその力に乗ることで距離をとった。
「死んでくれると大助かりなんだけど…ねッ」
その間に、集がハルバードを鋭角に叩き込み。
黒い符を燃やして即座にルーン文字を形成。
「その魂、俺に分けてよ」
そして生命力を奪い取って、受けた傷を癒す。
「あとは受け持つ」
ここで、新にスイッチ。
隠密を解いて即座に魔法書を紐解いた。
いくつかの魔法が撃ち込まれた後に、オーデンがツヴァイハンダーで追撃する。
「もう一撃頼みます」
「任せろ…!」
次いで、アレクシアがアルマスブレイドで斬りつけると、タフな蛇亀もようやく頭を垂れて動きを止めた。
「しかし、戦いはこれからだ…」
まだ施設の方からは動きがない。
果たしてどれだけ維持できるか、そろそろ厳しくなっていた。
●第三部隊(2)
壁伝いに走るリョウに向かってきたのは、デュラハン1体のみ。
(抵抗されたか…それならば)
予想よりも少ない数を見て、引きつけたデュラハンへと突き進む。
機先を制しようとしたところで嫌なものを感じて、直感の命じるままにサイドステップ。
先ほどまで居たところにデュラハンの持った長剣が三つの軌跡を残した。
「…出し惜しみなしとは、な」
咄嗟に回避はしたが、それでも一撃は受けてしまった……。
「よほど近づけさせたくないらしい…」
「悪魔が近いってことだろうな」
白秋が応えながら、いつでも援護できるようにアサルトライフルを構える。
第一の陽動は上手く行かなかったが、まだこれからだ。
「行け! ブチかまして来いッ!」
叫びながらトリガーを引いて、奥に居るデュラハンの兜を狙う。
回避運動を読み切れずに腕にヒット。
軽く舌打ちしつつ、照準から目を離して戦場を見れば、
「不不不…VIPなお客様たちのお通りだ…」
気を練りってから、月彦は向かってくる2体のデュラハンに魔法攻撃。
その間にハッドが闇の翼を広げて天井へと飛んだ。
だが、デュラハンの1体が壁を透過しながら追走。
「こちらを狙ってきたようじゃが追ってこられるかのう」
狙いは絞らずに、ハッドはデュラハンに向けて幾重もの炎を撒き散らす。
「まずい茶を出すんだな」
更に銃声が鳴り響いて、白秋が制圧射撃で動きを阻害。
僅かに勢いが衰えたこともあって、ハッドは無事に天井へと透過していった。続いてデュラハンも後に続く。
「……これで気をつけるのはあの2体……」
炎とともに眠るもの(
jb4000)はここで召喚を行う。
術式展開――管理番号零零弐号解放要請――解放確認――C『G』顕現――
呼び掛けに応じて、ストレイシオンが姿を見せる。
同時に展開される固有スキル『防御効果』。
お蔭で守りはしっかりと固まった。
あとはデュラハンの壁を突破するのみ。
そして、既に本命ともいえる鬼姫は遁甲によって身を隠し、迅雷によって急速に大広間へと向かっている。
「貴方方に御用はありませんの。残念でしたの」
最も奥のデュラハンとのすれ違いざまに忍刀を振るって鎌鼬の様に傷を残そうとするが、デュラハンはこれに反応。長剣が翻り、鬼姫は白秋の援護射撃で何とか二擊目と三擊目を凌ぐ。
そして、その代償に大広間との距離が離れた。
「邪魔をしてくれましたの…」
冷静に再び遁甲を使って姿を隠そうとするが、デュラハンは惑わされることなく鬼姫を追ってくる。
だが、これで三体のデュラハンにそれぞれ撃退士についた。
あとは誰かひとりでもここを突破できるか、勝利の行方はその一点にかかっていた。
●第二部隊(3)、第四部隊(2)
みるみると傷が増えていく。
九十九と、明日香が回復に回っているが追いつかなくなってきた。
「だいぶ集まってきたねぇ…」
交戦範囲にリザードマンが3体、黒鮫が2体と、小さいのはどれだけいるやら……。
「体勢を崩させる、トドメは頼む」
怯むことなく蓮也がリザードマンに接近。
鋭い爪を避け、すれ違いざまにカーマインを腕に巻きつける。
「わかった」
「任せるの!」
静矢と、姫乃が両側から踏み込んだ。
同時にリザードマンの絡まった腕が引かれて無防備な腹部がさらされる。
そして、ほぼ同時に渾身の力を振るう。
確かな手応えと、倒れる音。
「これで…また1体なの」
撃破を確認して息を吐き出した僅かな気の緩み……。
視界の隅に黒いものが飛び込む。
はっきりと視認した時には吹き飛ばされていた。
黒鮫の突撃であったことは何とか確認したが、姫乃を餌食にしようと再び舞い戻ってくるのが見える。
(ただで倒れるわけには行かないの…!)
回避は無理と見て、強引に体勢を整える。
大口を開けて迫るそれに大鎌を槍に見立てて構えをとる。
直後の衝撃に、姫乃の意識はあっさりと飛んだ。
が、突き立った大鎌が黒鮫の口を大きく傷つけている。
「その気概、無駄にはしないぜ!」
飛び込んだ勢いのままに、将太郎がトンファーを振るう。
一撃、二撃。
その背後を狙って小鮫が2体が、急速接近。
「邪魔はさせませんよ」
さくらが間に入って2体の攻撃を共に受け流す。
受けた傷は先ほど使ったリジェネレーションで何とかなるだろう。
そして、その間に負傷した黒鮫もようやく撃沈した。
されど未だに敵の数は多く、今度は負傷した姫乃を背負って戦場を離れようとしている桜一郎が目標になった。
「こっちに来てます…!」
助けを求めつつ、全力で駆ける。
負傷した仲間をこれ以上、傷つけさせるわけには行かない。
「そのまま行け、ここは俺が食い止める!」
「頼みます」
割って入ったのはラウール。
群がってくる小鮫に最後の炸裂符を投げつけ、敵の攻撃は必死に凌ぐ。
が、受けた衝撃に膝が崩れた。
そこに牙を剥いて戻ってくる小鮫たち。
「………くっ」
餌食となる。
立ち塞がった、将太郎が。
「ここまでの無理が祟ったか……」
また、ひとり倒れた。
「まずいねぇ。このままだと全滅もありえるさねぃ」
九十九は携帯を手に取る……どうやらこれしかなさそうだ。
●第三部隊(3)、第四部隊(3)
2階部分に上がったハッドが小さく舌打ちする。
当初の予定であれば、天井付近を飛行してあとは透過によって大広間へ入るつもりであったが……、
「…さすがに対処してあったようじゃのう」
長く天使と戦っていただけに透過への対処技術は悪魔も持っている。
人間が相手ゆえに油断しているかと思っていたが、大広間の周りにはきちんと対処が成されていた。
「とはいえ、1体でも引きつけられたのは僥倖じゃろうか…?」
さて、問題は上手く逃げ切れるかだ。
「うむ、王の威光を示さねばなるまいて……などとは言ってられんのう」
魔法書を手に取って……突如、踵を返す。
追走してくるデュラハンの気配を感じつつ、再び透過を使って1階へ。
その1階でも激しい攻防が続いている。
「……爆せ……」
炎とともに眠るものの命にストレイシオンが業火を吐き、デュラハンを炎で包む。
今が好機と、鬼姫が傍らを駆け抜けようとするが左足が痛みで熱くなった。
体勢が崩れていくのを強引に止めて、そのまま踏み出せば僅かにデュラハンの守りの後ろに抜ける。
(……来ていますの)
強烈な殺気を感じて体をひねろうとするが、そこまでだった……。
後方からの回避射撃も功を成さず。
消えかかっていく意識の中、もう間近に迫った大広間の扉が……手を伸ばせば届きそうだというのに……。
「ちっ、まずいな」
白秋は直ぐにコールできるようにしておいた携帯のボタンを押す。
これで第四部隊が来てくれるはずだ。
「援護してくれ、救出に向かう」
次いでリョウが叫びながら、月彦に向かって駆け出した。
意図を理解して、月彦もそちらに向かう。
交差した瞬間にデュラハンを両方とも、月彦が受け持った。
だが、押し通ると振りぬかれる長剣が目の前に迫ってくる。回避を優先させて一撃目は凌ぐが、続く二撃目は、
「……させるか……」
ストレイシオンが割って入って代わりに受けた。
その間にフリーになった、リョウは一直線に大広間の前へ。
そこではデュラハンが鬼姫に止めを刺そうと長剣を振り上げている。
「させぬのじゃ」
割り込む雷の剣。
ハッドが咄嗟に撃ち込んだものだが、生み出した時間はそれで充分。
救出に飛び込むと、デュラハンは剣の軌跡を変えてリョウを狙う。だが、リョウは回避せずに鬼姫を抱きかかえた。
一閃。
鋭い斬撃にロングコートが両断される。
その後ろから無傷のリョウの姿が見え、屈みこんだ体勢から強引に加速。
「よし、ここは撤退じゃ」
ハッドも追跡してくるデュラハンに振り向きざまに炎を撒き散らして時間を稼ごうとするが、炎をものともせずに甲冑は突き進む。彼の目に三つの剣筋が映り、痛みのようなものを感じたかと思えばゆっくりと意識が遠くなっていく。
(……無理をし過ぎたかのぅ)
ここに来て新たな負傷者が。
「待たせたな!」
だが、撃退士側にも第四部隊が到着した。
「負傷者はこちらへ」
「援護しますよ」
明日香と、桜一郎が呼びかける。
「ゴウライキィィック!」
デュラハンの足止めには真一が。
稲光のような閃光を走らせて、デュラハンの動きを鈍らせる。
その間にリョウが鬼姫を、明日香の元へ。
「支援は頼んだぜ」
「……承知……」
白秋が倒れたハッドの救出に向かい、炎とともに眠るものはストレイシオンを一度帰して再召喚してその護衛役に回す。
奥にいるデュラハンは動かないものの、残る3体は逃がす気などないと苛烈に攻撃を加えてくる。
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ…」
斬撃を耐え、月彦がじりじりと後退を続ける。
視界の隅でハッドが助け出されたのと、ストレイシオンが消えたのが見えた。
同時に必死に耐えていた、炎とともに眠るものも崩れ落ちる。
とはいえ、仲間は確保した。
「下がれ!」
開け放ったままの玄関へとひた走る。
まだ追走してくるデュラハン。
リョウは途中で足を止めて振り返ると横薙ぎの一撃を空蝉で避け、アウルで作り出した黒い槍を投げ放つ。
黒い雷と轟音が目と耳を覆い……最後の抵抗が終わる。
直後にデュラハンの強撃を受けて、リョウは吹き飛ばされて屋外へと投げ出された。
●撤退戦
施設を飛び出した者たちが見たのは、かろうじて戦線を支える第二部隊だった。
「やっと戻ってきたな」
カーマインを引き戻し、蓮也は封砲のエネルギーを送り込む。
「これを温存するのは大変だったが、もう出し惜しみはなしだ!」
「今一度…道を開く」
静矢も大剣を振り上げて紫鳳翔の構えをとる。
二人がほぼ同時に技を繰り出し、生み出されたエネルギーの奔流が黒鮫たちごとデュラハンに突き刺さった。
「今だ…!」
負傷者を抱えて、月彦を先頭に第三部隊が撤退を開始する。
同時に新たな目標の出現に黒鮫たちが狙いを向けた。
「…はっ」
足を緩めることなく、白秋が銃弾をばら撒き、
「こちらはもう帰るところだ。送り狼は遠慮願うぜ!」
ブーストで加速した、真一が一気に先頭に飛び出す。
「ゴウライブラスト!」
そして、フルオート射撃を行いながらリザードマンに突進。
途中で切れた銃弾の補充はあとに回し、走り込んだ勢いのままに蹴りつける。
仰向けに倒れていくリザードマン。
「大丈夫ですか」
その向こうから、さくらたち第二部隊がやってきた。
だが、合流を喜ぶ間もなく黒鮫の突撃が撃退士たちを痛めつける。
「くっ……」
傷ついた体に鞭打って、再び走り出す。
第二部隊がかろうじて維持していた戦線もそれと共に崩れ始め、後方からは獲物を狙って敵が追ってくる。
「振り向くなァ…!」
「そうだ…前だけ見ていればいい」
「あとは任せろ」
ラウールが声を上げた直後に、小鮫を切り伏せて侑吾と、宗が姿を見せた。
「来てくれたのさねぇ」
九十九から連絡を受けた第一部隊は厳しい戦局からも増援を送ってくれた。
「敵は引きつける…」
「こっちだ」
そう言って、侑吾と、宗は手近な小鮫を挑発。
敵の目がすっとそちらに逸れれば、
「悪いが殿は譲れない。仲間の無事はきちんと見届けたいからな」
静矢が当然とばかりに横に並んだ。
殺到する敵の群れ、他の者たちは三人が陽動している間にようやく敷地の外に脱出。
だが、そこも押し込まれつつある。
「遅いですよ」
オーデンは笑ってみせると、退路を確保するために蛇亀へと突っ込んだ。
すぐ近くでは、アレクシアも必死に敵を押さえている。
「ここは守り抜く…!」
あと少し。
あと少しの時間でいい。
「……本当に面倒だよ」
集が向かってきた蛇亀の前に立ち塞がる。
その間に、ひとり、またひとりと戦場の外へ。
「あ、あれは!」
見えたのは敵を引きつけるために迂回していた、侑吾と、宗、静矢だ。
即座に歌音が援護射撃。
修羅のようになって、三人も敵の囲いを破り、
「……かはっ」
ここまで逃げ延びたというのに。
スケルトンの斬撃を受けて、静矢の満身創痍の体は動かなくなった。
「援護するぞ!」
「もう大丈夫だ!」
そこに真横から新手の撃退士たちが襲いかかった。
おそらく、大麻山に向かっていた部隊が再編成されてきたのだ。
敵を押し返し、気がつけば周りからは敵の姿がなくなっている。
「何とか生き延びたようだよ…」
「あぅっ…あとは、たのんだ…」
「ア、アダム?! って膝を崩しただけか……ふぅ」
安堵の息を吐いたクリフの横で、アダムがへたりこんでいる。
「どうにか、死亡者は出さずに済んだわね」
負傷者をひと通り見て、明日香も気を緩めた。
「それだけが不幸中の幸いですね…」
桜一郎が辺りを見ると作戦に参加していた他の撃退士チームも失敗したのか、ぼろぼろになって撤退を始めている。
果たしてこれからどうなるのか。
件の施設は未だに沈黙を守り続けていた……。