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「わぁ、居る居る…って、大変だ、ボク知ってるよ、あれは日本の伝統儀式、ああやって友情確かめ合って夕日をバックに仲間になるんだよね! 早く何とかしなくちゃ、協力して暴れ出したら大変だ」
駆け付けた、犬乃 さんぽ(
ja1272)が目撃したのは激突を繰り返す、2体の巨大なもふもふであった。
互いに勢いをつけてトテトテと走ってはぶつかって、もふっと互いに衝撃を吸収。元に戻ろうとする体毛にゆっくりと押し返されて、体勢を崩しながらヨロヨロと下がっていくではないか。
「わぁ、平和平和。こんなのばっかりだったら大歓迎なんだけどねぇ」
何とも不毛だ、と来崎 麻夜(
jb0905)が心の中で付け加える。
「天魔両陣営は、何を考えているのでしょうね?」
雫(
ja1894)も同様に目の前で繰り返されている天魔の激突にあきれ気味だ。
あれではもう、じゃれ合っているようにしか見えない。
だが……、
だけど……、
「でも…なんか、こ、こう言っちゃダメなんだと思いますけどっ、…か、かわいいですね!」
この場に集まった者の多くの意見を代弁するように、レグルス・グラウシード(
ja8064)が言った。
そう、あまりにも天魔たちはプリティであった。
(ペンギンさんをもふれるのですよぅ〜☆ もふもふっとな〜☆)
鳳 優希(
ja3762)は早くも心ここにあらずといった感じ。
「どうするにせよ、とりあえずはギャラリーが寄って来る可能性があるので近づけさせないようにしておきましょう」
仲間たちの様子に、鴉乃宮 歌音(
ja0427)がまずはやるべきことを提案する。
もっともな意見に、早速この辺りをキープアウト。
で、いよいよ準備は完了し、
「物理攻撃のきかない天魔…油断せずもふもふ遊ぶ…いやっ!! 油断せず戦わなくては!」
2体を見て、ヴィオレット・N・アーリス(
jb1985)が決意を口にする。
何かもう……本音がだだ漏れだ。
「ふん、もふもふだが、何だか知らんが……」
対して、中津 謳華(
ja4212)はひとりシリアスな空気をまとっていた。
「ペンギンにマンボウ…どちらも物理の殆ど効かない強敵らしいが。さて、どうやって闘うべきか……むっ!」
そこへ2つのもふもふの塊が視界に飛び込んできた。
冬の強風によって転がってきたのだと気付いた時にはもう目の前で、
「うぉおおお?!」
視界のすべてを覆うように転がってきて、謳華を巻き込んだ。
河川の斜面にぶつかって、ようやく2体がバランスを取り戻す……でも、謳華の姿がない。
「「の、飲み込まれた!?」」
早くもひとり戦線離脱。さてさて、どうなる!?
●
「中津先輩を帰してもらうよ、鋼鉄流星ヨーヨー☆シャワー!」
さんぽがまずは無数のヨーヨーをマンボウに投げつける。
だが、多くの天魔を狩ってきた彼のスキルも、もふもふの毛並みに飲み込まれて……埋もれてしまった。
「…きっ、効いてない」
わたわたと慌てる、さんぽに代わって、歌音が勢いをつけてパイルバンカーを打ち込む。
勢いで体毛がふわりと動いたが、全然奥まで届いた感じがしない。押し込んでも押し込んだだけ奥にはまっていく。
「ふむ、杭すら通らぬか。そしてなかなかのもふもふ」
体毛がさらさらして気持ちがいい。
「ほんとだ!」
ヴィオレットも槍でつんつんと突いた隙にその感触を確かめている。
「あの体毛は厄介ですね。こちらの攻撃を全く通していないみたいです」
次いで冷静に分析する、雫。
話に聞いたとおり、もふもふの壁を破ることは難しいようだ。
「どれほど強力か試して見ます。…決してあの感触を楽しむ為ではありませんよ」
前置きをしてから、雫は目にも止まらぬ速度で大剣を一閃。
だが、大剣は途中で止まる。勢いをすべて吸収し、ふんわりと柔らかく包み込まれてしまった。
大剣を引き抜こうと毛に触れれば、柔らかくて温かな……えも言われぬ感触が返ってくる。
もう、ついつい何度か触りなおしてしまったほどに素晴らしい。
「なんて恐ろしい…このモフモフ感は凶悪です…」
ごくりっ。
誰かが喉を鳴らした。
「でも…魚介類がモフモフなんて、邪道です」
言ったことを理解したのか、偶然か、2体のもふもふ天魔はちょっかいをかけてきた撃退士を歓迎するような仕草をする(※彼ら的には全力で戦意を露わにしています)。
「わぁ! 本当にぬいぐるみみたいな天魔だ!! …じゃない! ちゃんと戦わねば!」
あまりの可愛らしさにヴィオレットは一瞬目を奪われてしまった。
ちなみに同じようなケースは他にも多数……。
「なんの! 英雄燦然ニンジャ☆アイドル! お前達の相手はボクだよっ!」
このままでは仲間が危ないと、さんぽがニンジャヒーローで注目を集める。
「…って、わわわ、全力で寄ってきた……」
すると、何かもふもふ天魔たちは更に可愛い動きをしながら向かってくるではないか。
それに見惚れているうちに、さんぽに激突。
「わっわわ……」
2体にもみくちゃにされていく、さんぽ。
何か……表情が恍惚としていく。
「はっ、みんな近づいちゃ行けない、危険だよ……もふもふ」
ようやく正気に返って警告を発したと思ったら、また囚われた。
「このまま独占なんていけないのですよぉ〜」
「ふむぅ、じゃこれはどうかな?」
ここで優希が異界より呼び出した腕でペンギンを縛り、麻夜が大量の黒羽根でマンボウに眠りを与える。
ペンギンはふるふるともがき、マンボウはゆらゆらと眠りについた。
「もふもふカモーン。ああ、モフモフっとな〜☆」
それを見て、優希が駆け寄った勢いのままに飛びついた。
両手を広げ体中で至福のもふもふを堪能する。
「もふもふもふもふもふ、ふかふかふかふかふか☆」
触っても、掴んでも、ぎゅうっとしても予想以上のもふもふ感が返ってくる。
「気持ちいい!」
ペンギンの胸元まで登ってみた、ヴィオレットも同じおようにご満悦の様子。
しかし、次の瞬間には、はっとなって、
「べ、別に楽しんでるわけじゃ、ない…。そう! これはもふもふの…いや、天魔の調査だ!!」
聞かれた訳でもないのに慌てて言い訳を始めた。
(…誰も見てないよね?)
次いで周りを見て、歌音が少し離れた場所で敷物を引いて見物しているのを発見し、顔を真っ赤に染める。
慌てながら何かいい言い訳を考えようとしたところで、歌音が指で順番に何かを指差し出した。
目でそれを追っていくと、ヴィオレットと同じように……いや、それ以上にもふもふを堪能している仲間たちの姿が。
「デラックスマンボウにアタック!」
手にした杖で殴りつけると、レグルスは返ってきたもふもふ感に思わず表情を緩める。
「う…く、き、気持ちいいなんて思わないんですからっ!」
抵抗しながら、更に攻撃。
どんどん毛並みに埋もれていく、この感触が何とも……気持ちいい。
「こ、これはあくまで敵の調査をしてるんですからねっ!」
とうとう杖を捨てて突っ込んだ。
「わー、もふもふだぁ」
反対側では、麻夜もマンボウに体当たりをしている。
柔らかな体毛によって織り成された丸い球体は、まるでマリモのようだ。
この構造がもふもふに何か関係しているのだろうか。
「これは調査。そう、調査なんです(*´∀`)!」
レグルスが今度はサバイバルナイフを取り出して、体毛を刈り取ってポケットに入れ始める。
どさくさに紛れてやっていたが、麻夜はしっかりと見ていて、
「そうか、毛は刈り取れるのか」
と、黒羽根の刃を散らして体毛を刈り始めた。
ちなみに刈り取っても毛はさらさらだ。
「しかし、散髪失敗…どれだけ毛があるのだろうなー」
それなりに毛を刈ったつもりなのだが、マンボウは少しも目減りしたように見えない。
「うん…?」
よくよく見ると刈り取った辺りの毛がまた戻ってきている。
「実は生えてきてるのかな?」
そう、これぞ恐るべき天魔の育毛法!(バ、バーン!)
ぜひ髪の毛でお悩みの人に教えてあげてほしいものである。
とまあ、それはさておき他のもふもふタイムを見てみよう。
「モフモフを楽しむ時は、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなくては…」
雫がペンギンと触れ合って和んでいる。
両手でぎゅっと抱きつけば、もふもふ感とお日様の熱を保存した体毛が優しく迎え入れてくれる。
「あっ、暖かい…」
『くわっ!』
「気持ちいいのですか?」
見上げれば、ペンギンもまた雫を優しい目で見つめていた(※実は敵意全開です)。
「とりゃあああああああああああああ」
そこに、優希が頭からペンギンの体毛に突っ込んでいった。
「うわぁ、全身がぬくぬくなのですよぅ〜☆」
『くわっーーー!』
「よしよし」
……2体とも蹂躙されまくりである。もう、お嫁にいけないわ〜。
●
「どうやら楽しんでいるみたい、ねぇ」
歌音は天魔と格闘(もふもふ)を繰り返す、仲間を見ながら水筒から紅茶を注いだ。
傍目に見ている分には何とも和やかな光景である。
(それにしてもどうしてこうなったんだろうか…?)
と、頭の中で考察してみる。
もやもやもや――
あるところに、ぬいぐるみに魅せられた天使と悪魔がおりました。
天使と悪魔の目的はぬいぐるみの天魔を作ることです。
そして、たいへん苦労して、
「ねんがんのもふもふをてにいれたぞ! これで人間共はメロメロよ!」
悪魔はぬいぐるみ風のディアボロを作り出したのです。
「なんだと! パクリとは許せんぞ!」
ところが少し先に天使もぬいぐるみ風のサーバントを作っていました。
互いに相容れぬ天使と悪魔です。
こうなるとその先は見えているも同然でした。
「「決闘だ!」」
かくして、今回の騒動につながるのです。めでたしめでたし。
――もやもやもや。
(こんなところかな。そうすると、制作者もどっかにいないかなー?)
歌音が青色の光でできたモニタのようなものを浮かび上がらせると、周囲の生物が次々と映し出されていていく。
(東と西に何かいるみたい)
そっと東の方を見てみれば、木に半身を隠した研究者風の人物がいた。
もふもふ天魔の一挙一動を追い続けている様は、運動会を見に来た父親のようだ。
ちなみに西側にも同じような人物がいて、互いに拳を固め、密かにエールを送っている。
(透過して姿を隠せばいいのに…)
どちらもその辺りは頭から抜けている模様。
「このもふもふ感、病みつきに…わかった、これが天魔の策だ!」
そこに、さんぽがもふもふに埋もれながら声を上げた。
歌音はまあいいかと、天使と悪魔のことを頭の隅に追いやる。
何せ、仲間たちはとても幸せそうだ。
「ん、物は試しだよね…挟まれてみよう」
と、麻夜が飛び込んだところに両側から、もふもふ天魔が激突。
ふんわりした体毛で全身が優しく包み込まれて、言葉も無いほどに心地いい。
「恐るべし、天魔の策…!」
そんなことを言いながら、さんぽも突撃してもふもふを堪能中。
「こういうの一回やってみたかったんだよねー……スーパー〇ナズマキ―−ーック!!!」
ヴィオレットもペンギンに力いっぱいのジャンプキック。
衝撃は柔らかく吸収されるため、初めに思っていたような反動キックはできなかったが、この気持ち良さにはご満悦。奥まで行ったついでにもっと奥まで行ってみよう体毛の中を泳いでみると、
「ふぅ、ここはどこかな?」
周りを見渡すと、どうやらペンギンの天辺のよう。
体毛に押し返されているうちに、上部の方へと流されてしまったようだ。
と、現在位置を確認したところであることに気付く……どうやら先客がいた。
「ペンギンさん、最高なのですよ! よ!」
優希が頭の上でごろごろと転がっていた。
ついでにいうと正面に見えるマンボウには、
「\(*´∀`)/」
セリフのような感じで両手を水平に広げて、風を感じているレグルスがいた。
もう完全に同化して違和感がない。
更に付け加えると今日は天気もよくて、温かいもふもふの毛並みに包まれていると、ついつい眠くなってしまう。
「あー…お昼寝、日和…だねぇ…」
麻夜がふぁと小さなあくび。
「とっても暖かいです」
「どれ、ちょっと試させてもらうよ」
雫がもふもふを堪能しながら横になり、歌音も少し寒くなったのかマンボウの上にやってきた。
といわけで、みんな仲良く――ぬくぬく、ふわふわと――眠りに引き込まれていく。
もやもやもや――
「せめてここでくらいは、ぬくぬくと…おや」
気が付くと、麻夜はもふもふの草原で横になっていた。
周りには手のひらサイズになったペンギンやマンボウがいくつも跳ね回っている。
「これは可愛いなぁ」
手に持ってその感触を確かめる。
そうしているうちに別のもふもふ生物も集まってきた。
「おっと、ちょっと待って――」
――もやもやもや。
「……夢か」
残念ながらそのようだ。
「討伐する理由は何があるんでしょうか? 保護、捕獲じゃダメなんでしょうか?」
次いで耳に聞こえてきたのは、雫が学園に連絡を取っている声。
「だってモフモフなんですよ。とってもモフモフなのにどうして……えっ、連れて帰る手段がないから……」
雫が乗っかっているペンギンを見る。
確かにこんな巨大な天魔たちを連れて帰るのは大変だ……何より付いてきてくれない。
「残念だけど」
歌音が仕方ないと慰める。
これも巨大もふもふの宿命なのだ、とっても残念だけど!
●
「記念なのですよ〜☆ ハイ、チーズ☆」
最後だからと、優希がペンギンをデジカメに収める。
「終わった?」
「…うん」
いよいよ、決着の時。
「――ぷはっ、ここはどこだ!?」
と、ここで初めにもふもふに飲まれた謳華が顔を出した。
「あっ、忘れてた」
とはいえ、これで本当に何の憂いもない。
「はい、チーズ」
「物理が効かないんなら、魔法しかないよねぇ?」
「物理攻撃はダメだってこと、よくわかりましたもんね!」
「幻光雷鳴レッド☆ライトニング! もふもふ虜作戦なんて、効かないもん!」
「さようなら、私のモフモフ…」
無数の魔法攻撃が乱れ飛ぶ中、優希が飛び込んで自身を中心に大輪の花を咲かせる。
「さあ、2体のもふもふたちよ、一緒に!」
吹き荒れる魔法の嵐、もふもふ天魔たちは星になった……。
で、優希はというと、
「ペンギンさんよ、マンボウさんよ、永遠なれ!」
空を見上げてケロリとしてましたとさ、まる。
「それにしても、この天魔達ってなんで作られたのかな…?」
「さあね、まぁまた同じようなのが出てきそうな気がする、うん」
ヴィオレットがつぶやくと、麻夜が確信に満ちた声で応えた。
そう、またきっとどこかで会えるはずだ。
「…ところで、これ、何かに使えないかなあ…もふもふしっぽストラップとか(*´ω`*)」
レグルスがポケットから手に入れた体毛を取り出すと、仲間たちもちゃっかりと手に入れた戦利品を見せる。
どうやら、もふもふたちは死して毛を残したようである。