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マスター:てぃーつー
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:8人
リプレイ完成日時:2013/01/09


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
 声のした方に向かえば、廊下に人だかりができている。
 どうやら原因は人だかりの更に先――開き放たれた部屋の中で何かが起こっているようだ。
 壁となった人の群れを掻き分け、部屋の中を覗き込む。
 部屋の中心で倒れているのは、霧切 新 (jz0137)。
 そして、近くに居る者がゆっくりと首を横に振る。
 手は倒れた新の手首に添えられ、先ほどまで脈を測っていたのだと分かった。
 つまるところは、それは――

 新が死んでいることにほかならない。

「一体どういうことなの?!」
「俺が知りたいよ!」
「もういや、家に帰りたい……」
 恐るべき事実を知って、集まった者たちに動揺が走った。
 だが、それを収拾する術はない。
「連絡はまだ取れないの?」
「ああ、携帯は電波が届かない。電話線は何者かによって切られている。つまり、迎えの船が来る明日まで外部と連絡をとる手段はない……」
「そんな、冗談じゃないわよ! あの人を殺した者がこの中に居るってことでしょ」
 何故なら、ここは久遠ヶ原館。
 稀代の建築士が建てたといわれている洋館で、絶海の孤島に建てられている。
 外部からの侵入はまず不可能。
 故に犯人は自然と絞り込まれてくる。
「つまり、ここにいる誰かが彼を殺したというわけね」
 改めて倒れている、新に目を向ければ、腹部を傷つけられて出血死したのだと思われる。だが、肝心の凶器が見当たらない。おそらく、犯人が持ち去ったのだろう。
「じゃあ、もしかして最初からの罠だったの?」
 この場にいる者は全員がある手紙を受け取っていた。
 久遠ヶ原館で起こる七不思議の謎を解き明かしたものには巨大な富を得ることできるというものを……。
 集まった全員が金銀・財宝を求めてきたのだと思っていたが、実は違う目的の者が混じっているのか?
 それとも、新に対する怨恨か何かなのか?
「いま聞かれても判断に困るわね」
「いずれにせよ、迎えの船が来るまでの14時間。それぞれに自衛するしかないな」
「……そんな、協力しましょうよ」
 早くも意見が分かれている。
 こんな状態で大丈夫だろうか……不安は募るばかりだ。

 ――何せ、クローズドサークルは全滅ありなのだから。


リプレイ本文


 ――私はナナシ。この世界の誰でも無い、観測者であり記録者である。
    今回は、ここ久遠ヶ原館で起きた事件について、その全てを記そうと思う――

 久遠ヶ原館の地下。
 存在を知らなければ立ち入れぬ場所に、その部屋はあった。
 部屋には複数のモニター。
 そのひとつに霧切 新 (jz0137)の周りで混乱している人々の姿がはっきりと映し出されている。
「中々いい所じゃないのォ。んふふ。面白そうなことになりそうねェ」
 目にはっきりと好奇心を灯して、オフェリア=モルゲンシュテルン(jb3111)が言う。
「あなたは行かなくていいのですか?」
 ナナシ(jb3008)がそれを疑問視した。
「そうねェ。面白くなるように引っ掻き回してあげようかしらァ」
 妖艶な笑みをうかべるオフェリア。
「どうぞ、存分に」
 ナナシが事件に関与することはない。
 あくまでも淡々と記録を残すのみ。
 これが彼女に与えられた役割であった……そう、どんなことになろうとも。


「皆さん、落ち着いてください」
 混乱する一同に警察手帳を見せながら、御堂・玲獅(ja0388)が声をかけていく。
 おおっ、と驚いたような声が出てようやく騒ぎは沈静化を始めた。
「何やら大変なことになっているようじゃのう」
「あなたは?」
「これは失礼したのじゃ」
 同業じゃよ、と言ってハッド(jb3000)も警察手帳を見せる。
「謎の事件のよ〜じゃが我輩がきたからにはザックリ解決じゃ。それで分かっていることは?」
 玲獅は答える代わりに、今も新の検視を続けている龍崎海(ja0565)に目を向けた。
「腹部からの出血死だが、ここにいる皆は撃退士だから、V兵器は全員持っているし、再活性で常に新品。凶器から犯人の特定は難しいだろう」
「傷口、および凶器からの特定は難しいですか……」
「武装解除も…、意味ないか」
「そうですね」
 場の空気が段々と重たくなっていく。
 犯人を特定できる情報が無い……。
「外部から天魔とかもない。阻霊符を常に発動していたからな」
「そうですか……」
「おや、ダイイングメッセージがあるな。犯人はヤスか。この館にはそんな名前の人物はいない。そうか、これは連続殺人が起きるから気をつけろという暗号だ」
「うん? それは助手が犯人という暗喩じゃないのか?」
 指摘して、ハッドは少年探偵団を見た。
「私たちは犯人ではない。むしろ…悪事を見逃す訳にはいかぬ!」
 屹然と、酒井・瑞樹(ja0375)が言い放つ。
「というか、まさにミステリー! って感じだね! すっごい面白そう!」
 対して、ジオラルド・コンスタンティン(jb2661)はこの状況にあっても楽しそうにしている。
「エルディン先生、これは‥事件ですよっ!?」
「そのようですね」
 残るクリス・クリス(ja2083)と、名探偵にして教会神父のエルディン(jb2504)にも動じた様子はない。
 しばらくは互いにうかがうような視線が行き交うが、検視を務める海が説明を続けると注意はそちらに戻った。
「このガイシャは命を狙われる心当たりがあったと考えられる。そして、同じように命を狙われているものにも心当たりがあるということだな」
 そして、今度はこの場にいた全員が周りをうかがって視線を投げかけた。
「後ろ暗いことがあるのだろうが、名乗り出たほうが身のためだと思うぞ」

「違います…この中に血に飢えた殺人鬼が居るんです!」

 突然、声を上げたのは村上 友里恵(ja7260)。
 身を震わし、もう怯えきっている。
「…彼女の言う通りかもしれませんね」
 続いて、牧野 穂鳥(ja2029)がおもむろに言った。
「私は財宝の在処を探そうと思っています。……突き止められるとは思っていませんが、手紙を受け取った以上は自分に用がある人間がいるのでしょうから」
 場が沈黙する。
 しかし、楯清十郎(ja2990)が直ぐに異を唱えた。
「冗談じゃありません。財宝もいいですが命あっての物種ですよ」
 どちらの意見もよく分かる。
 自分の命を大事にするか、それともこのチャンスを活かしてライバルよりも先に財宝へと近づくか。
「わかりました」
 そして状況を見守っていた、玲獅が告げる。
「皆様には事件解決の為あらゆる行動をとる事を認めます。責任は私が負います」
「「……っ!」」
 思わず、一同の目が玲獅へと向かった。
 この状況ならば行動の制限が付いてもおかしくはない。
 それなのに事件解決と称すればあらゆる行動を認めるという……。
 やはり何かあるのか?
 ……不安は大きくなる一方であった。


「…しかし、驚きましたね。アリバイの確認ぐらいはあると思っていたのですが」
「やっぱり何かあるんでしょうか、エルディン先生?」
「わかりませんね…」
「まったくじゃのう」
「「わっ!」」
 先ほどの玲獅の対応を話し合っていた少年探偵団+エルディンに、ハッドが話しかけた。
「こ、これは警察の方が何の用でしょう?」
「御堂警視に今後の方針をうかがったら自由にしてよいということじゃったからのう。ならば、お前たちに混ぜてもらおうと思ったまでじゃよ〜」
「…あの人は警視だったのですか」
「うむ……ただし、どこの所属かもわからんがのぅ」
「…いい加減だな」
「分からんものは分からんのじゃよ」
「なるほど、まあいいでしょう。それでは手を貸してもらいましょうか」
「よろしく頼むのじゃよ、江戸金田一山 洋」
「な、何ですかそれは?!」
「通称もじゃ男さんじゃ。特徴がいろいろ混ざっているじゃろう?」
「何一つ私の特徴捉えてないし!」
「そうかのう?」
 すったもんだの末にハッドと手を組むことになった。
 で、最初に行ったのはアリバイの確認。
 何ひとつとして犯人に繋がる情報が無い以上、地道な捜査が必須なのである。
 であるのだが……、
「……うふふ……。……『夢憑き様』が、ご降臨なされたのですよぉ……。……七不思議を介して、生け贄を求めておられるのですよぉ……」
 いの一番に事情聴取を行った、月乃宮 恋音(jb1221)は何やら様子がおかしい。
 真っ赤な和服を翻して、しきりに『夢憑き様』なるもののことを訴える。
「……『夢憑き様』は、人々の殺意を引き出すのですよぉ……。……そして、『夢憑き様』のお導きにあった方は、殺した方、殺された方、共に魂を生け贄とされるのですぅ……」
「ど、どうしたものでしょう?」
「…そうですね」
 さすがにどう対処するべきか。
「この館は呪われてるんです!」
「聞いた事があります。久遠ヶ原館にはここを建てた建築士の亡霊が現れると……」
 更には話を聞きつけた、友里恵や、清十郎まで混ざってきた。
「これはどうしようもないのう」
「まったくだ」
「とりあえず、七不思議のことも出たことですから整理してみましょう」
 少年探偵団+2は各自が知っている七不思議を挙げていく。

 ・夜中に突然鳴り出すピアノ −Horror Piano−
 ・ドッペルゲンガー −Hides in shadow−
 ・不幸な少女 −Worst of worst−
 ・建築士の亡霊 −The Guardian−
 ・ひとりずつ消えていく宿泊者 −Eater−
 ・豹変する人(夢憑き様) −Window of another−
 ・漆黒の死神
 ・最後のひとつは謎

「あれ? ひとつ多いですよ?」
「ほんとだ、8個ある」
「偽物が混ざっているということでしょう」
「何か中二病くさい副題が付いてるのですけど……」
「こうしてみると副題が付いていない……死神が怪しそうだが」
「そうですね。後から増えた可能性が高いということでしょう」
「つまりどういうことじゃ、江戸金田一山 洋?」
「いい加減それはやめてください!」

 さて、その頃。
 財宝の探索を進めていた、穂鳥の前に協力を申し出る者が現れていた。
「いやはや…面倒な事態になってしまいましたね」
 蒼桐 遼布(jb2501)は気さくな笑みを見せ、
「でも、財宝には興味がある口なんだ。どうだろう、協力しないか?」
 手を差し出してくる。
 状況が状況なだけに簡単に握れるものではない。
 彼が犯人ではないという保証はどこにもないのだから。
「ねえ、ねえ? 何だったら私も協力してもいいよっ!」
 そこに柱の陰から、武田 美月(ja4394)が現れた。
「い、いつの間に?!」
「いやあ、本を読みながら歩いていたからきっと気付かなかったんだね」
「その逆さまになった本を読みながらですか?」
「えっ?! こ、これはアレだよ、右脳を鍛えようと思って!」
 何とも怪しい……。
 しかし、人手が要るのもまた事実。
 穂鳥は嘆息しながら提案をする。
「わかりました。今から調べる『夜中に突然鳴り出すピアノ』の調査結果を見てから手を結ぶかは決めることにしましょう」
「いいだろう」
「OKっ!」
「それにちょうどあのピアノについては知っていることがあるんだ」
 遼布の言葉に二人の注意が向く。
「あのピアノが誰もいないのに鳴り響くのはカラクリがあるからだ」
 まあ、調べてみればわかると目的の部屋へと向かう。
 そして、遂に対面。
 古めかしいグランドピアノが部屋の片隅に置かれて、三人が部屋に入ると同時に音楽を奏で始めた。
「うわっ、本当に鳴ってるよ?!」
「落ち着けって、説明してやっただろう」
「……ちょっと待ってください。何かおかしいです」
 穂鳥が震える指でグランドピアノを指差している。
 会話のために少し視線を外していた二人はそれを追って絶句した。
 目の前でグランドピアノがトランスフォームしてロボットへと変形しているではないか。
「な、何あれ?!」
「俺が知るか!」
「知ってるって言ったよね?!」
「そんなことよりも早くに逃げませんと――」
 混乱する三人をよそにグランドピアノ・ロボは着実にその距離を詰めていた。

 さてさて、その頃。
 九十九(ja1149)の部屋では、
「…一人より二人で行動した方が、犯人疑惑も晴れるし安全も確保しやすいだろ。組まないか?」
 亀山 絳輝(ja2258)の提案に、九十九が考えるような仕草を取った。
「いいさねぇ。ただし、ひとつ条件があるさねぃ」
 腹話術のように九十九の肩に乗った猫が返答する。
「霧切新が宝についての秘密を握っていたのさねぇ」
「…つまり遺体にはまだ何か情報があるってことか」
 返答の代わりに猫がうなずく。
「いいだろう。ならば、まずはそれから調べようじゃないか」
 商談成立。
 手を組んだ二人はこっそりと新の部屋に忍び込む。
 さすがに遺体のみとなった部屋には誰もいない。
 部屋の明かりはつけずにペンライトで照らしながら遺体の傍へと近づいていく。
「…九十九お前、間違っても犯人じゃないよな? 後から現場に猫の毛が落ちてて…とかそんな展開ないよな?」
「仇敵犬派の者ならともかく、猫猫派の彼を殺すなんてあり得ないさねぇ」
「そ、そうか…」
 話している間にも二人は遺体の隣へ。
「亡くなった奴の持ち物をあさるのは本来不道徳だが…七不思議のことを知っていたなら、手がかりも所持していたはず」
 ごくりと喉を鳴らして、絳輝は衣服へと手を伸ばす。
 だが、途中でその手が止められた。
「な、なっ?!」
 止めたのは新の手。
「死体が蘇っただと?!」

 さてさてさて、その頃。
 ルーガ・スレイアー(jb2600)は密室殺人事件を自作しようと空き部屋の鍵を閉めていた。
 ひと通りの鍵を閉めて、部屋の真ん中に寝転ぶ。
「まったく、阻霊符を常に使っているなどと面倒な設定があったものだ」
 お蔭でせこせこと細工をすることになった。
 だが、それももう直ぐ報われるはず。
 ケチャップを全身にかけ、床にはケチャップのついた包丁が、更にはダイイング・メッセージも書いてある。
 ――犯人はエルディン、と。
 後は発見してもらうのを待つばかり。
(ふふふーん、皆驚くだろうなー)
 鼻歌交じりにスマートフォンでソシャルゲームをしながら時を待つ。
 すると部屋に誰かの気配を感じた。
「おや? 扉が開いたような音はしてないのに?」
 とりあえず、スマートフォンの明かりで周りを照らしてみる。
「……何か黒っぽいのが」
 次いで刃のきらめきが目に飛び込む。
 それは一瞬のことで、次いでルーガは倒れた。
 どさりと物音が立つ。
「……ふむ…なかなか…遭遇しない…もの…ですね……」
「…いや、ちょっと待ってくれ」
 華成 希沙良(ja7204)を呼び止めて、サガ=リーヴァレスト(jb0805)は耳を澄ます。
 上、いや、近くの部屋からだ。
「こっちだ」
 言って、サガは走り出す。
 付いてくる足音を耳の端に感じながら、目的の部屋を目にすると更に加速。
 勢いを殺すことなく走り込んでそのままバスタードソードを扉に叩きつけた。
 生み出された衝撃に吹き飛ぶ扉。
 同時に黒い影が飛び出してきた。
 咄嗟に後ずされば、目の前を大鎌が通り過ぎる……。
「こいつが犯人か?!」
 怯むことなく間合いを詰める。
 すると、向こうはそのまま後退。
 追いついてきた希沙良と合わせて二対一になることを嫌ったのだろう。
 後を追おうと思ったが瞬く間に闇へと紛れてしまう。
「……サガ様…大丈夫…ですか……?」
「大丈夫だ。しかし、あれは七不思議に関するものか、それとも…」
「……逃げられ…てしまったのが…残念ですね……」


「夜中に突然鳴り出すピアノが壊れてた?! しかも手足が付いている?!」
「検視をした龍崎さんが行方不明?! 他にも姿の見えない人が多数?!」
 ホールに陣取った少年探偵団+2の元には色々な情報が入ってきていた。
「七不思議の一つに、一人ずつ消えていく宿泊者というのがあるんです。きっとそれです!」
 友里恵はそう言い張っている。
 他にも黒い死神を見たとか、妖しげな情報がいっぱいだ。
 そして、そんな彼らは事情聴取の真っ最中であった。
「若しも君に芸術的感性がないなら仕方ないけど」
 帯刀 弦(ja6271)が言っているのは死神に襲われたと思われるルーガの遺体だ。
「僕だったらこんな死体は作らないさ、美しくない」
 心外だと深く嘆息をつく。
 検視を出来る人が居なくなってしまったため、信用できそうなら任せようとも思っていたのだが……。
「たしかに僕が怪しいのは理解しているけどあまりに短絡的じゃないかい?」
 真顔で、怒涛の言葉攻めをしてくる。
 とりあえずは要注意人物に加えて、天藍(ja7383)への事情聴取に移った。
「あんな事するから罰が下ったんあるー、自業自得あるよー」
「ええと、それはどういう意味でしょう?」
「知りてえんだったら美味しいものでも用意するあるー」
 どう言っても納得しないので、仕方なく料理を出す。
 館の方で準備してもらったので、かなり豪勢だ。
「好吃好吃、うめもん食える幸せあるー」
 それを天藍はぺろりと平らげた。
「これで話してもらえますね?」
「我のぷらいべーと、口出しするじゃねぇあるよー」
 ……先ほどまでの話は何だったのか。
 天藍はもう用は無いと横になってしまった。
「……もういいですよ」
「しかし、まともな情報が入ってこないね」
 聞こえてくるのはどう考えても役に立たないか、明らかに誤情報っぽいもの。
「これは今後の事情聴取も役に立たないかな」
 そう思っていたのだが、次に現れたのはいささか勝手が違った。
「わたしが……やりました……」
 若菜 白兎(ja2109)の言葉に一同は目を見張る。
「最初から……お話します。じつはわたし、『不運』にとり憑かれてるんです」
「…もしかして七不思議のひとつ『不幸な少女』?!」
 こくりと、白兎はうなずく。
「当初は運が悪いな〜くらいだったのですけど、でも段々酷くなって、最近は周りの人にまで迷惑かけちゃうように……」
 それでこの孤島に引き篭もっていたのだという。
 でも、
「Gを退治しようと大剣振り回したら、大切そうな線を寸断しちゃったり、バナナの皮で転んだ拍子に大剣が飛んでいって、通りすがりの人を直撃しちゃったり」
「「………」」
 一同は言葉を失う。
 どうやら、この事態の大半が白兎の引き起こしたものであったらしい。
「なにもかもわたしが悪いんです。季節外れの台風も……わたしの所為」
 とうとう泣き崩れてしまった白兎に責める気にもなれず、一同はなだめ役へと回る。
「まあ、何にしても事件が解決して良かったのじゃ」
「まったくだな」
「念のため、霧切さんをどういった形で殺害してしまったのか詳しく聞いておきましょうか?」
「? 霧切さん?」
 エルディンの言葉に、白兎は首を傾げる。
「若菜さんが殺してしまった人ですよっ」
「ううん……私が殺したのは別の人」
「「えっ…!?」」

 同時刻。
 友里恵は空き部屋でせっせと細工を行っていた。
 赤いペンキで扉に大きく『呪』と書いてみたり、血まみれのチキン肉をキッチンのテーブルに置いたして、怪奇現象を演出しようとしている。
「ふふ…こうして皆さんを盛り上げるのです♪」
 ことり。
 そこに背後で物音がした。
 慌てて振り返れば、そこには――
「…だ、誰ですか?!」
 友里恵は驚いて作業の手を止める。
「えっ、こんなの聞いてませんよ?」
 問いかけた友里恵がみたのは目の前に迫っていた凶器であった。
 こうして抵抗する間もなく、新たな犠牲者が……。


 事情聴取を終えた少年探偵団+2は探索を開始した。
 彼らが調べたのは『ドッペルゲンガー』だ。
「この館では同じ時刻に異なる部屋で同じ人物が現れる事があるみたいですね」
「たぶん、館内に抜け道があるんだよ」
「つまり副題の−Hides in shadow−はこれを指しているんですね」
 クリスと、ジオラルドを先頭に大広間へと向かう。
 そこには参加者の顔にそっくりな上に死神のような服装を纏った人形が設置されていた。
「怪しいとすればここですよね」
「うん、間違いないよ」
 捜索を始める二人。
 すると、5分も経たないうちにジオラルドが声を上げた。
「こんなの、見つけたよ!」
 大きく手を振るその先には、人ひとりが入れるぐらいの穴が空いている。
「どうやら、人形の顔が取り外し可能で秘密の通路へのスイッチになっているようですね」
 エルディンが機能を確認しながら覗き込む。
 奥は深そうだ。
 おそらくはいくつかの部屋と繋がっているのだろう。
「今までの事件の多くは、この抜け道が使われたのですねっ☆」
「探索する必要がありそうです」
「そういうことなら協力しよう…」
 声のした方を見れば、サガと、希沙良の二人組が立っていた。
「ここを通ってあの死神は移動していたに違いない…。荒事に向いた私たちに任せてもらおうか…」
「……任せて…ください……」
「わかりました」
 適材適所ということで、二人を先導に更に調査を進める。
 途中で行方不明になっていた検視官の海が見つかった……残念ながらもう亡くなっていたが。
 そして、遂に目的のものを見つける。
「よもや、ここを見つけるとはな」
 漆黒の死神――霧崎 雅人(ja3684)を。
 双方ともに距離を測る。
「ふむ…」
「……行きます…よ……」
 サガと、希沙良が一歩前に出る
「さっきやりあった奴らか、いいだろう。死神としてあんたらの魂を貰い受ける…」
「どうかな…?」
 戦いの火蓋が切って落とされた。
 二対一という状況ではあるが、秘密の通路の狭さを利用して雅人は巧みに立ち回る。
 激しくぶつかり合い、幾度となく火花が散った。
 決着をつけたのは、ほんの一瞬の出来事。
「あまり動くと首が飛ぶぞ…?」
 連携を駆使した、サガ、希沙良のペアにかろうじて軍配が上がる。
 だが、次に起きたのは雅人の高笑い。
「いずれあんた達の魂も穫らせてもらうよ」
 雅人が後ろの壁に体重を預けると、どんでん返しが起動してそのまま開いた空間に潜り込んだ。
「しまった…!」
「……また…逃げられ…ました……」
 忸怩たる思いで二人はそれを見るが、もう追いかけることはできない。
 何故なら、その先は海になっていた……。


「てめぇがなにしようが、興味ねぇあるよ」
「そうですか…」
「ただ…死神はいなくなっちまったが、何か手はあるのかねぇ?」
「ええ、財宝の場所はわかっています」
 これは、天藍と、真犯人の邂逅の記録。
 残念ながらその姿は闇に隠れているが……。


 漆黒の死神を追い払った後、少年探偵団+2は残っている全員をホールへと集めた。
 これまでに、海と、恋音、友里恵、ルーガの死亡が判明。
 行方不明になっている者も5名とかなりの数になっている。
「このままでは全滅もありえるぞ」
「死神を追い払ったので、もう大丈夫なのではないのですか?」
「いえ、まだ謎は解けていません。真実を明らかにしなければ更に犠牲者が増えるかもしれません」
 エルディンが一同を見る。
「真実はいつも一つ、じっちゃんの名にかけて、まるっとすきっとさくっとお見通しです!」
 次いで口にした言葉に驚きの声が返る。
 口にしていないのは安楽椅子に座って眠りこけている、ハッドぐらいのもの。
「ZZZzzzzz……はっ、すべて我輩の赤い本にしるされたと〜りじゃ〜」
 言ってまた直ぐに寝息を立てる。
 どうやら、ただの寝言らしい。
「度々邪魔をしてくれる人です。さて、それでは真実を明らかにしましょう」
「もう、わかったって言うのォ?」
「はい」
 オフェリアの問いに迷うことなく答える。
「今回の事件は、蒼桐遼布さんによる狂言回し的なイベントだったのです」
「でも、エルディン先生、犠牲者が出ていますよっ?」
「何らかの行き違いがあったのでしょう。実行犯が逃走してしまったので正確なことはわかりませんが、これは本来起こる予定ではなかったものと考えられます」
「どうしてそんなことが言えるあるか?」
 ここで、みんなの疑問を代弁するように天藍が問いかける。
「それは……」
 エルディンが言い詰まると同時に扉が開き、その先から死んだはずの新が現れた。
 両隣には行方が分からなくなっていた、九十九と、絳輝の姿もある。
「えっ、どういうこと?!」
「…なるほど、やはりそういうことか」
 サガがうなずいて、懐から薬を取り出す。
「これは霧切の部屋で見つけたものだが、脈拍を低下させる効果がある…」
 つまりはこういうことだ。
 新はこれを使用して検視の目を掻い潜り、その後に共犯者から脈拍を上げる薬を投与されたのである。
「うむ、その通りだ」
 当人もそれを肯定。
「まったく驚いたのさねぇ」
「…ああ、ほんとうにな」
 偶然、蘇生の場に居合わせた、九十九と、絳輝が捕捉する。
 今まで姿が見えなかったのは蘇った新から事情を聞き、残った七不思議を解いていたからだとか。
「で、これが七不思議のひとつ、建築士の亡霊さねぇ」
「何度も言っているように、僕は館の財宝の守護霊だ」
 声がしたと思えば、日谷 月彦(ja5877)が何もない空間から突然姿を現した。
「ゆ、幽霊?!」
「だから守護霊と言っているだろう。これ以上、間違えると財宝の場所を教えんぞ…」
「ご、ごめんなさい。ああっ、何て立派な守護霊なんだろう!」
「それでいい。では――」
「ちょっと待て、まだ真犯人が判明していない」
「「真犯人?」」
「ああ、武士の心得ひとつ、武士は悪事を見逃してはならない!」
 瑞樹がここで待ったをかけた。
「ええ、大人が見落とす鍵もボクらは見逃しません」
 ぐっと力を込める、クリス。
「僕も、見ーつけた!」
 ジオラルドまでしたり顔だ。
 一体、少年探偵団は何に気付いたのだろう?

 ※ここから先は解答編です。正解率10%(著者予想)の壁に挑戦するべく犯人の名前を思い浮かべみてください。なお、各人が知り得た情報はリプレイ内に書いてあることがすべてです。


<ホールに集まっている参加者>

 ・酒井瑞樹(少年探偵団)
 ・クリス・クリス(少年探偵団)
 ・ジオラルド・コンスタンティン(少年探偵団)
 ・エルディン(探偵)
 ・ハッド(警部)
 ・御堂玲獅(警視)
 ・九十九(探偵)
 ・亀山絳輝(探偵)
 ・華成希沙良(探偵)
 ・サガ=リーヴァレスト(探偵)
 ・帯刀弦(解剖医)
 ・楯清十郎(一般参加者)
 ・天藍(一般参加者)
 ・オフェリア=モルゲンシュテルン(一般参加者)


<行方不明者>

 ・牧野穂鳥(一般参加者)
 ・武田美月(一般参加者)
 ・蒼桐遼布(黒幕?)











「「犯人はエルディン先生です!」」
 びしっと指差す少年探偵団。
「ちょっと待ってください。私はずっと皆さんと一緒にいたではありませんか?」
「うん、ずっと一緒にいたから問題なんですよ」
「そうだな。エルディン先生はあまりにも知りすぎていたんだ」
 瑞樹がここで一気に畳みかける。
「霧切君から将来的にもらえる情報だったのかも知れないが、功を焦り過ぎてまだ知っているとおかしいことまで話してしまったんだ!」
「……お見事です」
 パチパチ、パチとエルディンが拍手する。
「確かに私は黒幕側の人間。そして最後の七不思議、すべてを知る名探偵−NO.1 Detective−なのです!」
「「な、なんだって!」」
「ヒントとして多少意図的なこともしましたが、よくここまでたどり着きました。さあ、すべての七不思議を解き明かした皆さんには久遠ヶ原館の財宝をお見せしましょう!」
 エルディンが合図をすると、月彦がその力を振るいだす。
「不不不…何の制約もなく力を使えるのか」
 既に彼の周りは強力な力場が生まれている。
 その力はどこに流れていくのか?
 ホールに集まった者たちが周囲に視線を走らせると、床が震えだした。
 ちょうどホールの中心部に黒い穴が開き、そこから黄金の像がせり上がってくる。
「これが…宝…?」
「ああ、間違いないねぇ。あれが話に聞く黄金の校長像さねぃ…」
 絳輝と、九十九の目の前を通り過ぎて高く高く……。
「かなり高くまで上がってしまいましたね…」
 清十郎もそれを仰ぎ見て、どうすれば校長像までたどり着けるか素早くルートを割り出す。

「さて、財宝も姿を現したことですし、真犯人を見つけるとしましょう」
 一同が唖然と校長像を目で追っているところに、エルディンが呼びかけた。

「「し、真犯人?!」」
「ええ、そうです。本来であれば、死者など出ないはずの事件にあの死神を呼び込んだ人ですよ」
「えっ、勝手に来たんじゃないんですか?」
「…なるほど、確かにあんな美しくない殺し方をするような職業的殺し屋が好き好んでこの島に来る理由もない」
 弦が解剖医としての見地から後を継ぐ。
「それよりは誰かに雇われてきたと考える方が正解に近いだろうさ」
 言われて、一同は周りを見た。
 ここに居る誰かが、その真犯人なのか?
「……いえ…そうでは…ありませんね……」
「ああ、黒幕である蒼桐殿が行方不明なのが気にかかるな…」
 希沙良と、サガの指摘。
 言われてみれば、そうだ。
 ここまで真実が明らかになっているのだから、もう姿を見せてもいいはず。
「蒼桐遼布は、牧野穂鳥と武田美月と一緒にピアノを見に行ってから行方不明になっている」
 更に、新が補足する。
「なるほど、わかったぞ」
「見ーつけた!」
「わかりましたっ!」
 少年探偵団も答えに辿りついた。
「ええ、牧野さんか、武田さんのどちらかが真犯人です。とはいえ、武田さんはここまで深謀遠慮を持って事に当たることができるかどうか……」
「……が、がーん!」
「「えっええええええ?!」」
 何と、美月がショックを受けて柱から転げて出てきた。
「まさか、武田さんが真犯人?!」

「いえ、違います」

 声は上の方から。
 見上げれば、密かに校長像へと接近していた穂鳥の姿があった。
「蒼桐さんが黒幕なので助かりました。お蔭で労せずとも情報を得ることが出来ましたから」
 口元には冷たい笑みが浮かぶ。
「まあ、その隙を突かれて武田さんに逃げられてしまったのは誤算でしたが、校長像は私のものです」
 穂鳥がさっと校長像へと飛び移る。
「ふっふー♪ 甘いっ! 何のために私が出番を抑えておいたのかっ?!」
 それはこの時のためと、美月がメタな発言をしながら小天使の翼で飛び上がる。
「私は闇夜に煌めく真紅のミサイル、怪盗ハートムーンなのだよっ!」
 必死に手を伸ばす二人。
 更には、清十郎も校長像へと密かに間合いを詰めていた。
「謎解きの時間、利用させて貰いましたよ。校長像は犯罪組織・龍角山が頂きます…」
 急接近してくる二人を見て、清十郎も飛びつく。
 三つ巴で、校長像に触れたのはほとんど同時。

 そして、触れると同時に警報音が鳴り響く。

「なんですか、これは…?!」
「わっ、校長像が沈んでいくよ!」
「どうなっているんです……?」
 校長像にしがみついたまま唖然とする三人。
「非常に残念ですが……謎が解けなかったのでトラップが発動しました」
「「えっ…?!」
 心底残念そうに、白兎が告げる。
「実は正しい七不思議の副題の頭がアナグラムになっていたのです」
 各副題の頭をカタカナで出すと、『ホ』、『ハ』、『ワ』、『ザ』、『イ』、『ウ』、『ナ』、つまり『ザイホウハワナ』となる。
「そんなーーー!」
「残念ですが財宝は次の機会に……あと、この島はもう直ぐ沈みます」
「「えーーーーーーーーーー!!」」
「ああ……やっぱり、わたしが不幸な所為ですね」

 こうして崩壊していく島。
 幸いなことに用意されていたボートに乗って、参加者は無事に脱出できた。
 だが、黄金の校長像は海に沈んだ……。


「さぁて、次はどんな話を作ろうかな」
 実は死んだと思われていた遼布はちゃっかりと生きていた。
 高所から海へ落ちて死亡した様に見せかけて闇の翼で逃げ延びていたのだ。
「中々面白かったけど、やっぱり自分がメインに立たないと面白みも薄れるわねェ」
 傍らには、オフェリアの姿も。
 その前方では、ナナシが潜水艦を操縦している。
 もちろん黄金の校長像も回収して、黒幕たちは優雅に脱出を果たしたのであった。

 ――学園の図書館と接続を確認。これより久遠ヶ原館で起きた事件のすべてを学園図書館に収める。
    ただし、これはナナシの名において封印指定の事件録として管理することとする――


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

武士道邁進・
酒井・瑞樹(ja0375)

大学部3年259組 女 ルインズブレイド
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
アルカナの乙女・
クリス・クリス(ja2083)

中等部1年1組 女 ダアト
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
いつかまた逢う日まで・
亀山 絳輝(ja2258)

大学部6年83組 女 アストラルヴァンガード
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
撃退士・
霧崎 雅人(ja3684)

大学部6年167組 男 インフィルトレイター
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
人形遣い・
日谷 月彦(ja5877)

大学部7年195組 男 阿修羅
骸への執心・
帯刀 弦(ja6271)

大学部5年84組 男 阿修羅
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
春を届ける者・
村上 友里恵(ja7260)

大学部3年37組 女 アストラルヴァンガード
懐かしい未来の夢を見た・
天藍(ja7383)

大学部8年93組 男 アストラルヴァンガード
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
『進級試験2016』主席・
エルディン(jb2504)

卒業 男 アストラルヴァンガード
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド
撃退士・
ジオラルド・コンスタンティン(jb2661)

大学部8年150組 男 ダアト
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
開拓者・
セルフィナ・モルゲン(jb3111)

大学部8年284組 女 ダアト