.


マスター:桜井 てる
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/21


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

「人間なんてみんなクズだ……」
 ローエン(jz0179)は夕焼けに沈む公園のブランコに一人腰掛けながら呟いた。
 彼女の声を聞くものは誰も居ない。
「私は悪くない……」
 俯きながら呟く声は、泣かないという彼女の意志とは裏腹に湿ってしまっていた。
 本当はわかっていた、人間がクズだから仲良くなれないのではない。自分が素直になれないから、みんなが愛想を尽かせて去っていってしまうのだ。
「……悪くない」
「そう! 悪くない!」
 突然の声にローエンが驚いて顔を上げる。
 そこには見知らぬ老婆がこちらを見下ろして立っていた。
「貴様……何者だ」
 先の独り言を聞かれていた恥ずかしさからか、威圧するように声を硬質化させる。
「なぁに、通りすがりのおせっかいババアだよ」
「それで、そのババアが何の用だ」
「お前さん、人間と仲良くなりたいのだろう」
 老婆の笑い声が気に触ったのか、ローエンは顔を顰める。
「だからなんだ」
「それを叶えてやろう」
「……貴様がか?」
「そうさね」
 自信たっぷりな老婆をローエンは懐疑の目で見つめる。
「どうやってだ」
「それは、始まってからのお楽しみだよ」


 桜が舞い散る風景にローエンは戸惑いを隠せなかった。
「ここは……学校?」
 先程まで公園にいたはずなのに、突然桜が舞い散る学校に立っていた。後ろを振り向けば、老婆の姿はいない。
「ツェアライセン! どこだ!」
 配下の名前を呼ぶが一向に姿を表さない。その配下は目が悪い代わりに聴覚は格段に優れている。ちょっとやそっと離れたくらいで声が届かないなんてことは有り得ないはずだ。つまり、ここは先程までいたところと全く違う場所と言うことになる。
 自分に何が起こったのか全く把握できないで戸惑っていると、一人の女子生徒が近づいてきた。
「あれ? 君一人? 新入生、だよね?」
「なんだと?」
 久しく親しげに声を掛ける存在など居なかったローエンは思わず凄んで見せる。
「あ、いや。よかったら、一緒に教室までいかない?」
「……私に言っているのか?」
「そ、そうだよ」
「ふん……まぁ、いいだろう」
 ローエンの雰囲気に飲まれていた少女が屈託のない笑顔を浮かべる。
「私は、聖 つかさっていうんだ。君は?」
「ローエンだ」
 ぶっきらぼうに答えたローエンの顔を少年はまじまじと見つめたあと一人納得して頷いた。
「……何だ」
「なんでこんなカワイイ子が一人でいたのかと思ったけど、人見知りなんだね」
「なっ! かっかわっ!」
 ローエンは赤面しつつも、まんざらではない顔であった。


 夢、なのだろうか。
 つつがなく学園生活が続く。しかし、最初に声を掛けてきた聖以外あまり仲良くなる事はできなかった。
「夢でまで一人ぼっちなのか……」
 放課後、窓から校庭を眺めながら自嘲気味に笑う。
 いや、ひょっとしたら一人で居るのが現実。それが辛すぎて人間を殺してやろうと暴れまわっているあちらが夢なのかもしれない。「ローエン何してるの?」
「ん……聖か。いや、別に」
「ふぅん」
 聖も別に何か様があるという訳ではないらしく、黙ってローエンの横に座る。
「悩んでる?」
「そうだな……。いや、大丈夫だ」
 だって今は聖がいてくれるじゃないか。一人、というのは聖に対して失礼だ。そう思って顔を上げると聖が声も上げずにないていた。
「ど、どうした?」
「私ね、引っ越すことになったの。転校するんだ」
「……何だと。……そうか、寂しくなるな。いつだ?」
「再来週……ごめんね、中々言い出せなくて直前になっちゃった」
「そう……か」
 掛ける言葉もなくローエンは口を噤む。
 それを見て聖は泣き笑いの表情でローエンの頭をクシャッと撫でた。
「ローエン、私以外友達いないでしょ……一人で大丈夫?」
「ば、バカにするな。貴様など居なくても私は大丈夫だ!」
「ほんと……?」
「本当だ! 再来週だったな、友達を連れて見送りに行ってやる。お前がいなくても私は大丈夫だ、とな」
「いいよ、無理しなくて」
 聖は優しく微笑みながらローエンの頭を撫でてやる。
 ローエンはされるがままになりながら、聖を睨みつける。
「無理なんかじゃない、なんなら彼氏も作ってやる!」
「それこそ無理だよ、ローエン素直じゃないもん」
 あまりにおかしかったのか、聖は大笑いした。


「おい、貴様。私と友達になれ」
「おい、貴様。私と付きあわないか」
 廊下ですれ違う人間に声を掛ける目つきの悪い女生徒が現れる。
 ここ二日程有名な噂だ。言葉の内容とは裏腹に、態度や雰囲気が子分になれ、金を出せと聞こえるとのこと。
 噂には背びれに尾びれがついて実際に金品を奪われた、などと吹聴している人間もいるそうだ。


「すいません、急に呼び出したりして……」
 目の前で貴方を呼び出した女生徒、聖が申し訳なさそうに頭を下げる。
「あの噂知ってます? そう、友達になれ詐欺」
 心苦しそうに最近学校で有名なかつあげ手法を告げる。
「あれ、私の友達なんです。いえ! かつあげはしてないんですよ、ただあの子怖いからそんな噂になってるだけで……」
 そうして聖は、ローエンがいかに良い子かを陶然とした表情で語りだす。
「すごくぶっきらぼうなんですけど、じつはすごく優しいんです。ローエンの家で一緒に勉強してるときに私が寝ちゃったんですけど、毛布をかけてくれて膝枕して頭撫でてくれたり、あと私はお弁当なんですけどローエンは購買でパンを買う時にいつも私の分のきなこ揚げパンも買ってきてくれるんです。あ、きなこ揚げパンはローエンの好物なんです。自分の好きなものだから私も好きだろう、ってそんな不器用なところもかわいいですよね」
 うふふと笑いながら顔を赤く染めている様はなかなか気持ち悪い。
「でも、私が転校したらあの子ひとりになってしまうんです。本当はずっと私がついていてあげたいんですけど……。だからお願いです、あの子の友達作りを手伝ってあげて下さい!」
 そう言って聖は勢い良く頭を下げる。
「あ、彼氏を作るとも言ってましたがそっちは阻止して下さい」
 顔を上げた聖の目は殺気だっていた。

……私以外がローエンの膝枕を奪うなんて許さない

そんな呟きが聞こえた気がした。
「それと、このこと私が頼んだってことは絶対内緒にしてください」


リプレイ本文


「おい、貴様。私の友達になれ」
 ローエン(jz0179)に声を掛けられたベルメイル(jb2483)は選択肢がでないので、まだフラグが立っていないと判断する。
「友達になれ、ふむ。何故だい?」
「友達になるのに理由が必要なのか?」
 冷静に問いかけると、冷静に問い返された。仏頂面も相まって聞き様によっては、いいから黙って舎弟になれ、としか聞こえない。「別に構いはしないが、どうにも君、その物の言い方は人を脅かしてしまうね。友を請うには相応の言い方がある」
「何? ではどうすればいいというのだ?」
 険しい表情のローエンにベルメイルは得意げな顔になる。
「いいかい良く聞くんだ。まず一人称はボク、そして心の底から猫耳メイドになりきれ。恥や外聞はこの際捨ててしまうんだ。さあ、そこで台詞だ。『ボ、ボク……ご主人さまともっと仲良くしたいんだにゃぁ……』はいどうぞ。」
「そんなことで友達ができるのか?」
 訝しげなローエンに、ベルメイルは胸を張って頷く。そういうものなのだろう、とローエンは納得して口を開く。
「ボ、ボク……ご主人さまともっと仲良くしたいんだにゃぁ……」
「いいですとも!」
「良くない! ボッシュート!」
 ローエンの台詞に悦に入っていたベルメイルは突然足元にぽっかり開いた穴から逃れることはできず、吸い込まれるように落ちていった。
「ローエン、今のはわすれなさい」
「え、聖?」
「わすれなさい」
「わかった」
 有無を言わさない聖の声にローエンはかくかくと頷いた。

「……はっ!」
 ベルメイルが目を開けると、そこは自分の部屋で、自分の布団にくるまっているのが数瞬の混乱の後にわかった。
「そうか……立っていたのは夢オチフラグだったか……」
 ベルメイルは悔しげに臍を噛んだ。


「おい、貴様。私の友達か彼氏になれ」
 廊下を歩いていたテイ(ja3138)はローエンがまたまちがった友人作りに失敗している現場にでくわした。
 テイは手にしたビニール袋にきなこ揚げパンが二個入っていることを確認してそっとローエンに近づく。
「……また逃げられたか」
「何をしてるんですか?」
「おっふ!?」
 唐突に声を掛けられて、バネでも仕込まれていたかのように凄まじい勢いでテイの方を振り返る。
「誰だお前!」
 ローエンに友達出来ないわけをはっきりと理解したテイは、根気よく話をすることを決めた。

「へぇ。ローエンさんって言うんですね。テイです。よろしく」
 名前を聞いて、名前を教える。これまでにかかった時間、何と三十分。テイが何か話す度に、怒ったような、見下したような態度をとるものだから中々話がすすまなかったのだ。
「ああ、よろしく。で、だ。私と……」
 ローエンの言葉が途中で止まる。視線はテイが手にしたビニール袋に釘付けになっていた。
「ん? 多く買ったからあげようか?」
 視線に気づいたテイは、聞きながら一つきなこ揚げパンをローエンに差し出す。
「なに!? くれるのか!?」
 もとより上げるつもりで二つ買ったのだ、テイは了承の意を込めて頷く。
「おぉ……神だ……」
 きなこ揚げパンを受け取って大げさに感動している様に笑いそうになる。
「神、じゃなくて」
「ん? なんだ?」
 早くもきなこ揚げパンを頬張ったローエンにテイは我慢できず笑う。
「友達になろう?」
「何!? いいのか!?」
 テイが再び頷くのを見て喜びあふれる笑顔になる。
「怖い顔してると、綺麗な顔が台無しだよ?」
 テイはその笑顔に感心する。今みたいに笑っていれば、何もしなくても友達ができるだろう。
「うん、うまかったでは、私は更に友達を増やしてくる」
 ローエンは手についたきなこを舐めとりながら次の獲物を求めて歩き出す。もう少し話すなり、連絡先を交換するなりすればいいのに、と思ったがテイが口にしたのは別の言葉だ。
「友達になりたかったら、混ぜてほしいって素直に言ったほうがいいと思うよ? なるべく明るくね」
 テイのアドバイスにローエンは力強く頷いて、まるで戦地に赴くような厳しい表情になって去っていった。


「友達増やしたい人って、君?」
 獲物を求めてさまよっていると突然、天城 空我(jb1499)に声を掛けられてローエンは驚く。
「なんだ貴様?」
「実は自分も友達が欲しくて」
「……ほう。私が友達になってやらんこともない」
 相手が下だとわかった途端に急にローエンは態度を変えた。
「貴様はなぜ友達がいない?」
「こんななりからも解ると思うけど、閉鎖的な土地にいたせいで少々時代遅れなんだ」
 そう言って両手を上げて、服装を見せる。和装に刀を佩いたその姿は確かに、現代においては浮いていると言える。
「時代遅れだと友達ができないのか?」
「どうやら、そうみたい」
 困った様に笑う。天城はそこで友達になろうと喰いつかない。
「私はこんなだ。私といると、天城にも迷惑をかけるかもしれない。貴様も友達が欲しいのだろ?」
「迷惑をかけたくない? 人は生きていることがすでに誰かに迷惑をかけているよ」
 天城のはっきりとした言葉にローエンは困ったように俯く。
「それは、私が貴様に迷惑をかけてもいい、ということか?」
「大丈夫だよ。それが友達、じゃないか」
 ローエンの目をまっすぐ見据えたその言葉にローエンは嬉しくなって微笑んだ。
 それを見た途端、天城の体が雷撃をうけたかのようにビクン、と跳ねる。
「どうした?」
「一つ理解したよ、ローエンは笑顔がとても素敵だってこと」
 陶然とした顔でローエンに近づく。
「あ、ああ。ありがとう」
「その為の第一歩、まずはオレは君と友達になる」
「す、既に友達だろ?」
 ローエンの戸惑い気味の言葉を無視する形でローエンの手を掴んで微笑んだ時、異変が起きる。
「はーい、そこまでだよ泥棒猫。しゅーりょーでっす」
 背後の茂みから一人の女が現れた。全身からドス黒いアウル……いや実体化した怒りのオーラを身にまとっていた。
「だ、誰だお前は!」
「聖!」
 依頼主の顔をすっかり忘れていた天城は、聖が何なのか未だに理解できずに居た。いや、恋路を邪魔する者ということはいち早く察知しているようだったが。
「私言いましたよね、ローエンの友達作りを手伝っても彼氏作りは阻止してって」
 地を這うような怨嗟の声には明確な攻撃の意思がやどっていた。天城は腰の刀に手を添えて臨戦態勢を取る。
「それでは、ボッシュート!」
「え……うおわああああああ!」
 突然、天城の足元の地面にぽっかりと黒い穴があく。逃げる時間もなく、天城はその穴に転落した。
「天城!!」
 天城が聞いたのは歪んだ愉悦の響きの天城の声と、悲痛なローエンの叫びだった。

「ローエン!」
 叫びながら目を開けて上体を起こすと、そこはよく見知った久遠ヶ原にある自室だった。
「……夢?」
 だが、そう言い切るには彼の手には握ったローエンの手のぬくもりが残り過ぎていた。


「おい、貴様。私の友達になれ」
 何も学習していないローエンの言葉に神凪 宗(ja0435)は怒りを露わにする。
「行き成り友達になれというのはどういう事だ?」
「なんだ貴様、その態度は」
 お前の態度がなんだ。本心から怒る気はなかったのだが若干、本気で苛立っているようだ。
「……まあいい、何故友達が欲しいのか、教えてくれないか」
 神凪の声は若干震えていた。

「……なるほど、そういうことか」
 粗方の事情を聞いて神凪は得心したと頷く。実際のところ、聖からの説明でわかっていたのだが。
「手を貸してくれないか?」
「ああ、かまわない。まずは……会話に慣れることからだな」
「会話? 慣れずともできているではないか」
「そういう所だ……」
 相変わらず偉そうな口ぶりのローエンを連れて商店街へと向かった。

「まいど! お嬢ちゃんまたきとくれよ!」
「ああ、きなこ揚げパンは好きだからまたくる」
 店主との会話を終えて、ローエンがきなこ揚げパンを抱えて戻ってきた。
「確かに、会話はちゃんとできるみたいだな」
「言っただろうが」
 鼻の穴を膨らませて誇らしげな姿に神凪は苦笑する。
「ん」
「……なんだ。くれるのか。ありがとう」
 差し出されたパンを受け取って、商店街のロータリーに二人で腰掛ける。
「おい、あれを見てみろ」
 きなこ揚げパンに熱中しているローエンの肩を叩いて周囲で会話をしている人たちに注意を向けさせる。
「あれが何だ」
「どんな話をして、どんな会話で笑顔になるか見てみろ」
 言われてローエンは会話に興じる人達に注視する。その姿はどう見ても餌を物色する肉食獣にしかみえない。
「わかったか?」
「何やら冗談を言っているようだな」
「他には?」
「相手をほめている」
「話している方はどんなふうだ?」
「明るい雰囲気だな」
「そうだな、よくわかったな」
 矢継ぎ早に質問を繰り返し、会話を弾ませるコツをわからせる。思ったよりも洞察力はあるらしく、素直に褒めてやる。
「当然だ」
 きなこ揚げパンを口いっぱいに頬張ってローエンは威張ってみせた。
「丁度いい、あいつで実践してみろ。相手の表情が曇った時は素直に謝罪するんだ、いいな」
 向かいから歩いてきた女性を指して、ローエンをけしかける。
「まかせろ!」
 きなこ揚げパンを一気に咀嚼してローエンは駆け出した。


 青木 凛子(ja5657)は商店街のロータリーを意図的に選んで歩いていた。視界の端には神凪とローエンの姿がある。
 あまりそちらに目線を向けないで歩いていると、凄まじい勢いでローエンがこちらに走ってきた。
「ちょっといいか? 話がしたいのだが」
 聞いていたよりも幾分ソフトな感じで話しかけてきたローエンに、神凪の成果を感じ取った青木は先手を取られた悔しさを覚えつつ微笑みを浮かべる。
「あらお嬢さん、紅い瞳が素敵ね♪ ラズベリーのクッキーを焼いたの。あなたの瞳ほどじゃないけれど、素敵に出来たのよ。食べてみる?」
「……いいのか?」
「ええ、どうぞ。立ったままもなんだし、座りましょう」
 青木が指したのはさっきまでローエンが座っていた所だ。
 座ると、青木・ローエン・神凪の順になった。だが神凪はそれを横目で見ただけで会話に加わらない。ローエンも青木のクッキーに夢中で神凪の事は意識から外れているようだ。

「……だから友達をつくって聖を安心させたいんだ」
 青木に聞かれるまま自身の身の上を語り終えたローエンはがっくりと肩を落とす。連日駆け回っているというのに、まだ友達はテイと神凪しかいない。後二人いたのだがボッシュートされてしまった。
「あたしとはこれだけお喋りしたんだもの。もうお友達よ」
 思わぬ言葉にローエンが顔をあげるとイタズラっぽい笑みを浮かべた青木と目が合う。
「友達になれたみたいだな、よくやったな」
 そこでようやっと神凪が会話に入ってきて、ローエンを褒める。
「この調子で友達を増やして行きましょ」
「ああ、そうだな。でもどうやったら」
 青木と友だちになり、神凪にほめられて輝いていたローエンの顔がいっきに曇る。
「美味しいものを食べながら話すと、仲良くなりやすい気がするわ」
「ああ、同感だ」
 青木の言葉に頷く神凪。ローエンは何の事かわからず首を傾げる。
「このクッキー、実はもっと焼きたいんだけど…手伝ってくれるかしら」
「友達の頼みだ、いいだろう」
 生真面目に頷くローエンを微笑ましく思いながら青木は言葉を続ける。
「そうだわ、ローエンちゃんもお友達を作るなら、クッキーの試食をしてもらうのをきっかけにするのはどうかしら?」
「……なるほど、名案だ!」


 友達もそこそこできはじめたとは言え、聖との残り少ない時間も大切だ。
 ローエンは購買にいつもどおりきて、聖の分も合わせて二つのきなこ揚げパンを手に入れた。
「いつも2つ買っていますけど、そんなに好きなのですか?」
 システィーナ・デュクレイア(jb4976)に突然声を掛けられてローエンは驚く。いつもであればそのまま無視、だっただろうが話題が話題なので食いついた。それに神凪と青木の特訓の成果もある。
「ああ、きなこ揚げパンは嗜好の一品だ。ところで、お前は誰だ? 私はローエンというのだが」
 自己紹介まで出来たことにデュクレイアは内心驚く。なんだ、普通に人と接することができるじゃないかと。
 ふと、視線をずらすと、少し離れた所でこちらを見守るように見ている神凪と青木の姿があった。それで、だいぶまともに会話できるようになった理由を察したデュクレイアは、友達増加計画ではなく、聖との仲を取り持つ事に注力することにした。

「そう、つかささんがいなくなるのですね」
 きなこ揚げパンの良さと、その一つは聖に上げるものであることから事情を聴きだしたデュクレイアは労るように頷いた。
「ああ……辛いが、仕方ない」
「引越し先の住所が分かれば会いに行けるし連絡先が分かれば手紙も書けるし電話も出来ます。例え離れてもその気があれば友情は何時までも続くものです」
「……そういうものか?」
「そういうものです」
 デュクレイアの言葉に懐疑的なローエンに再度強く頷く。
「ありがとう、少し安心した」
「笑顔で見送ってあげてくださいね」
 ああ、とローエンは笑顔で頷いた。


「聖、私の友達と見送りに来た」
「……ありがとう、ローエン」
 聖はぎゅっとローエンを抱きしめた。その背後にはテイ、神凪、青木、デュクレイアの姿だけでなく多くの人の姿があった。ずっとローエンだけに構い続けていた聖の友人ではない。
 この一週間でローエンが聖を安心させるために奮闘した結果がそこにあった。
「これで、私がいなくても大丈夫だね」
「馬鹿言え、聖も友達だ。後で手紙をかくし、電話もする。友情に距離なんて関係ないとデュクレイアが言っていた」
 その言葉にデュクレイアは聖に向かって頷いた。
「うん、そうね……また、会おうね」
「ああ、必ずだ」
 そして、聖を乗せたバスが発車する。
 涙が溢れそうになって、こらえているローエンの肩を青木がそっと抱き寄せる。
「泣きたいときにはないたっていいのよ?」
「追いかけたいときには追いかけてもいいんだ」
 青木の優しい声と、発破をかける神凪の声にいてもたっても居られず、ローエンは駆け出す。
「あ、足元気をつけて!」
 テイが忠告するも、遅かった。ローエンは足元に空いた黒い穴に落ちてしまった。

「……聖!」
 勢い良く上体を起こすと、周囲は真っ暗な廃墟だった。
「……夢か。くだらん夢を見たものだ。友達、だと? 笑わせる。人間とそのような関係になるなど虫唾が走る」
 そう吐き捨てて、もう一眠りしようと再び体を横たえて目をとじる。
「聖……テイ……神凪……青木……デュクレイア……、もう一度逢いたい……な」
 寝言か否か。一筋の涙が閉じた目からこぼれた。


「ローエンはどこだ!」
「セーブポイントはどこだ!」
 ある夜、男子寮を奇声を発しながら走り回る天城とベルメイルの姿が目撃されたという。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
悪魔テイマー・
テイ(ja3138)

大学部3年169組 男 インフィルトレイター
撃退士・
青木 凛子(ja5657)

大学部5年290組 女 インフィルトレイター
久遠ヶ原の将軍様・
天城 空我(jb1499)

大学部3年314組 男 インフィルトレイター
フラグの立たない天使・
ベルメイル(jb2483)

大学部8年227組 男 インフィルトレイター
お姉ちゃんの様な・
システィーナ・デュクレイア(jb4976)

大学部8年196組 女 阿修羅