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マスター:ユウガタノクマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/08/23


みんなの思い出



オープニング

 板敷薩摩(いたじき・さつま)はテレビのチャンネルを意味もなく回しながらため息をついた。
 先ほどの光景を思い出す。
 いつもの放課後に、夕暮れで照らされた校舎裏。遠くからは部活動の音が聞こえる。
 そこへクラスメイトの女子から呼び出され、言われた言葉が「好きです」だ。
 まさかドラマや漫画の中でしか見ないような告白シチュエーションを自分が経験するとは思いもよらなかった薩摩は、どぎまぎとした心情を胸に、こう答えた。
「ごめん……それを受けることはできないんだ」
 その言葉を聞いた途端、彼女は真っ赤だった顔を崩し、泣きながら走り去っていったのだった。
「悪いことしちゃったなぁ……」
 テレビの電源を落とす。
 それと同時に、家の電話が着信を知らせた。
「はい、もしもし?」
 電話の相手は、先ほどの告白を受けた女子からだった。
 まずはいきなり逃げ出したことを謝ると、彼女は少しずつ話し出した。
 彼女は父親の仕事の都合で引っ越さなければならないこと。
 その前に、ずっと好きだった薩摩に気持ちだけでも打ち明けたいと思っていたこと。
 そして、彼女は最後にこう言った。
「あの……今度、友達がお別れパーティやろうって言ってくれて……できれば……来て……くれませんか?」
 薩摩は迷った。もしこれでお別れパーティに出てしまうと、余計未練が残ってしまうのではないか。
 しかし、このまま無碍に断ってしまうのも気が引けてしまう。
 何度か逡巡した後、彼はこう答えた。
「わかったよ。せっかくの門出だ。みんなと一緒に盛大にやろう」
 その言葉に、彼女はまた泣き出してしまった。
 しばらく会話を交えた後に電話を切ると、薩摩は再びため息をついて頭を抱えた。
「これでよかったのかなぁ……」
 実に優柔不断な男であった。
 と、再び電話が鳴り出す。
 先程とは違う、しかし聞きなれた着信音に「げっ」と時計を見た。
 思いがけず会話に時間が掛かっていたことに動揺しながら、薩摩は急いで電話を取った。
「えびのか?」
「……ヤっトデた、さっちゃん」
 低く、涙交じりの声で電話に出るのは薩摩の幼馴染であり、撃退士である京町えびの(きょうまち・えびの)である。
「なんど……ぐす……かけなおしてもつながらないから……思ワズお人形切リ刻んジャったンダヨ」
 舌足らずな声に狂気が混じる。
 それもそのはず、彼女は薩摩に対して病的なほどの愛情を感じているのだ。
 久遠ヶ原へ入学したいきさつは周囲からアウルの力を有効活用するようにという説得を受けたからだった。
 が、実際のところはえびのがあまりにも薩摩に依存するものだから、一旦引き離した方が良いという大人たちの思惑もあった。ちなみに、いざ入学という時点で薩摩が一般人という理由でえびのと一緒に来れないとわかると、非常にぐずりだして周囲のものを破壊しだすという大爆発を起こしている。
 何とか1日1回電話で声を聞くことで我慢するということになったのだが、それも今のように電話に遅れると、途端に機嫌を悪くしてしまう。正直な話、彼がクラスメイトからの告白を断ったのもえびのの存在が大きかった。
「あ、ああ、ごめん。ちょうど電話があってな、その……今度またお人形送るか?」
 その言葉に「ほんと!?」と朗らかな声が返ってきた。どうやら機嫌を治してくれたらしく、薩摩はほっと胸を撫で下ろした。
「さっちゃんがくれるものならなんだってもらっちゃうよー。ところで、だれとはなしてたの?」
「誰って、クラスの友達だけど?」
「ふぅん……まあいいや。ところで、らいしゅうのにちようにそっちいくね」
「え?来週?」
「うん。ひさしぶりのききょーだよ。ひこーきのきっぷもじぶんでかえたんだよ。ほめてほめてー」
 嬉しそうなえびのの声とは裏腹に、薩摩は体中から汗が吹き出るのを感じていた。
 来週の日曜日といえば……先程約束したクラスメイトのお別れパーティの日だ。
「あ、あのさ……えびの」
「ん?なにかな、さっちゃん」
 えびのが非常に嫉妬深いのを彼はよく知っている。そんなえびのが帰ってくる日にクラスメイトの――それも女子の――パーティに行くというのは自殺行為もいいものだ。何が起こってもおかしくはない。
 しかし、クラスメイトの子にとってもこのパーティは最後の思い出作りとなる。せっかく勇気をだして誘ってくれたのに、後になって断るのはしのびない。
 とはいえ、彼にとってもえびのが久しぶりに帰ってくるのは嬉しい限りではある。本当なら諸手を挙げて迎えに行きたいところだ。彼女にとってもそれは同じだろうから、「遅らせてくれ」なんて頼めるはずがない。
 薩摩は苦々しくも、ある決断をした。
「……飛行機もじっとしてる時間は長いぞ。ちゃんと我慢できるか?」
「むー。さっちゃんがこどもあつかいするー」
 と、突然。
「あ、そーだ。さっちゃん」
 えびのは何かを思い出したように声をあげた。
「なんだ?」
「うわきしてたら、○○○もぐからね」
 薩摩はただ、苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 後日、久遠ヶ原斡旋所の依頼掲示板の片隅に、ひっそりとした形で一つの依頼書が張られた。
 その内容は『京町えびのを1日引き止めてください』というものだった。


リプレイ本文

●5時〜
 ピピピ、と目覚まし時計のアラームが鳴り響いた。
「ん……あさ……おきなきゃ」
 京町えびのは寝ぼけ眼を擦りながらベットから起き上がり「くぁ……」と大きくあくびをかいた。
「んふふ……きのうはたのしみでなかなかねむれなかっよ……おねぼうはいやだもんね」
 枕元にはえびのと板敷薩摩が2ショットで写った写真がある。
 それを取ると薩摩の顔にキスを浴びせ、えびのは着替えにかかった。

●7時〜
 キャリーバックを引きながら、えびのは部屋を出る。
 鍵を閉めると、扉に張り紙を貼り付けた。
「ききょうちゅう。たくはいぶつはごじつうけとりますにいきます」
「よし!これでたくはいやさんもわかってくれるよね」
 出かける前に薩摩から人形を送ったという電話があった。
 当初は大喜びしたえびのだったが、到着が宅配業者の手違いで今日の午後になるという。
 飛行機の中でも寂しくないように配慮してくれた気遣いにはえびのも嬉しかったが、その到着を待っていては飛行機に間に合わない。
「むー。えびのはこどもじゃないんだよ、さっちゃん」
 そう言って我慢することにした。
 一分でも早く薩摩に会いたいえびのにとっては、さすがに人形の到着を待てる余裕はなかったのだった。
「さて、しゅっぱーつ!」
 えびのは勇んで寮を後にする。
 その影に隠れるように、一人の人物が彼女を見張っていた。
 カルム・カーセス(ja0429)である。
「……行ったか」
 携帯電話のGPS機能をONにする。このまま尾行することで、仲間達にえびのの場所は筒抜けとなるのだった。


 久遠ヶ原学園のある人工島から降り立ち、えびのはタクシー乗り場に向かった。
 えびのが列の最後尾に着く。
 それと同時に、
「……お久しぶり、です。京町先輩」
 と声をかけられた。
 振り返ると、そこには樋渡・沙耶(ja0770)がえびのの後ろに並ぶ形で着いてきていた。
「あの依頼、以来ですね……。なかなか、お会いできません、でしたが……」
 当然ながら沙耶と初対面になるえびのにとっては「あの依頼」と言われても、ピンと来るはずがない。
 だが、相手が自分の名前を知っているということは、こちらが忘れているだけなのだろう。
 なんとか思い出そうと頭を捻っていると、沙耶は気にする様子も無く、
 「先輩は、どちら、まで?」
 と声をかけた。
 えびのはこれから帰郷するという事と実家のある地名を言う。
 すると沙耶は、
「では……空港までは、ご一緒ですね」
 と、えびのとタクシーを相乗りすることを提案した。
 えびのにとっては以前に依頼を共にした後輩“らしい”し、わざわざ断る理由もないので了承することにしたのだった。
 列は進み、えびのと沙耶の前にタクシーは停まる。
 えびのがキャリーバックをトランクに積んでいる間に、沙耶は運転手に行き先を告げた。
 それは、えびのが行こうとする空港とはまったく違う空港名であった。

●8時〜
 タクシーはえびのと沙耶を乗せ、空港に向かっていた
 と。
「きゃー!」
 女性の悲鳴と同時に、急ブレーキがかかる。
「な、なになに!?」
 咄嗟に前の座席に手を着くと同時に、えびのの耳にがちゃん、と衝突音が聞こえた。
「だ、大丈夫かい!」
 車を脇に止めて、運転手は車を出て行った。
 えびのも車を降りると、そこには運転手に抱えられる形で並木坂・マオ(ja0317)が横たわっていた。
「あいたた……大丈夫です。突然飛び出しちゃってごめんなさい」
 タクシーにできた凹みを見て、えびのは納得した。
 どうやら、タクシーに彼女が乗った自転車が衝突したらしい。
「こちらこそごめんよ、お嬢ちゃん。今救急車呼ぶから……」
「い、いえいえ!そっちは大丈夫です!それよりも警察の方が……」
「うん。そっちも今連絡するから……」
「あ、そうだ。すみません!」
 言ってマオはえびのに声をかけた。
「すみませんが、目撃者になってもらえませんか?ここって人通り少ないですし」
「や」
 えびのは即答するとぷい、とそっぽを向いた。
「ひこーきにまにあわなくなる。えびのはいそいでるの」
「いや、こういうのをあやふやにするとー、後で大変な事になるってー、大人の人に言われてるんですー」
 少し棒読み気味に言いながら、マオはえびのの袖をひっしと掴んだ。
「いやったらいやー!さっちゃんニ会イに行クのー!」
「そこをなんとかー!」
「……京町先輩、学園外で撃退士の喧嘩は、不味いです……」
 それまで経過を見ていた沙耶はえびのを諌めようとするが、彼女は耳を貸そうとしない。
 全力で振りほどこうとするえびのに負けないように、マオも必死でしがみついた。
 まるで台風がいきなり発生したような情景に、運転手はただただ唖然とするのだった。

●10時30分〜
 結局、逃げようとするえびのとそれを食い止めようとするマオの大乱闘によって、2人とも警察で厳重注意を受けることとなった。
 警察からのお咎めが終わって警察署を出たのは、すでに10時半の飛行機が飛び立った後であった。
「……あのおまわりさん……はなしながすぎ……」
 ぐったりとして様子でえびのは歩き出した。
 同行していた沙耶もすでにいなくなっている。
「……たしかいちじにひこーき……あったよね……それにのろう」
 今からタクシーを拾えば間に合うかな、と考えたところで。
「!?さっちゃん!?」
 人ごみの中に板敷薩摩の姿を見つけたのだった。
「さっちゃーん!」
 少し考えればこれから帰郷しようというのに薩摩がここにいるはずがないとわかるだろう。
 しかし、彼女の目に写る彼の姿がそんな思考を奪い去っていた。
 薩摩もえびのの存在に気づく。
 すると。
 彼は雑踏の中へと逃げていった。
「なんでにげるの!?」
 ショックを受けながらも、えびのは人ごみを掻き分けて必死に彼を追っていった。
 苦労しながらようやく彼に追いつくと、えびのは「さっちゃん、てば!」と乱暴に彼の肩を付かんで引き寄せた。
「さっちゃ……あれ?」
 振り向かせた顔は、微妙にさっきと違う。
 その正体は『変化の術』で変身した紺屋 雪花(ja9315)であった。
「な、なんなんだよお前……さっきからすごい形相で追い掛け回しやがって……」
「……まぎラワしイ!」
「あ、おい!」
 えびのは雪花をおいて立ち去った。
 今日は何か変だ。思うように事が進まない。
 そう思いながらイライラと先を進んでいると。
「もしもし、そこのあなた」
 と後ろから声がかかった。
 振り返ると、ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)の姿があった。
「ごきげんよう。これから帰郷ですか?」
 ヴィーヴィルはえびのが持つキャリーバックを一瞥して言った。
「……」
 えびのは警戒し、相手にしないようにと無視をする。
 だが。
「えびのさん。あなたの帰郷を阻む存在がいます。これを乗り超えないと、あなたは帰れませんよ」
 その言葉を耳にした瞬間、えびのはヴィーヴィルを問い詰めるように接近した。
「……どういうこと?」
 射殺すように睨みつけるえびのに対し、彼女は微笑むように言った。
 えびのの帰郷を喜ばしく思わない人物がいる、と。
 その情報を事前に察知した彼女は、それが許せなくてえびのに協力を申し出たというのだという。
「私もお姉さまのためなら火の中水の中。お姉さまの部屋に忍び込んで薔薇の花を撒いて香を焚き、
明かりを薄暗くして、裸でベッドに潜り込んで待ち伏せるくらいしてますわ。
けど、お姉さまは私の気持ちを知ってか知らずか、袖にされるばかりで……。
えびのさんなら、私の気持ちもわかるのではないですか?」
「うん」
 えびのは首を縦に振る。
 彼女の中では薩摩が全てであるのに、薩摩はそうではない。彼には彼の生活や友好関係がある。
 他所からすれば仕方ない、としか言いようが無いが、彼女自身にとってその食い違いは大きな問題であった。
 ヴィーヴィルはくす、と笑って言葉を続けた。
「私もあなたのお気持ちを察し、こうして馳せ参じたのです。愛する方に会えないというのは身を切られるも同然。
共に愛する方に会う為なら、何でも協力いたしますわ」
 彼女はそう力説しながらえびのの手を掴んだ。
 と。
「そうはいかないわよ、京町さん!」
 突然、えびのの前に那月 読子(ja0287)が立ち塞がった。
 ふと周囲を見る。いつのまにか人で溢れていた通りがすっかり無人状態になっていた。
「……ドうイウコと?」
 知らない女からいきなり薩摩の名が現れ、えびの内から怒りが沸きあがってきた。
「あの人は私と付き合ってるの。あなたが入る隙はないわ」
「フザけるナ!」
 その言葉と同時に読子へと襲い掛かる。
 しかし。
「おっと、俺もいるぜ」
「!?」
 不意に読子との間に現れたカルム・カーセスが攻撃を受け止め、えびのは足を止めた。
「京町えびのってのはアンタかい?……ふーん、なかなかの美人さんじゃねえか。ん?俺か?俺は薩摩の恋人だぜ」
「ふえぇ!?」
 いきなり現れた“男”に「薩摩の恋人」と言われ、えびのは混乱に陥る。
 さらに。
「実は私もそうなんですー。けど、あんまり武力的な行使は好きじゃないんですけどねー」
 そう言いながら、二階堂 かざね(ja0536)も姿を現した。
「おー、奇遇ですね、カーセスさん。とりあえずお菓子でもくれてもいいんですよ?」
「奇遇ねぇ……っつーわけで、オメーさんを薩摩んとこに行かせるわけにはいかねえな」
「……そういうわけなので、あなたを空港に向かわせるわけにはいきません。覚悟をしてください」


 かざねの『咆哮』を使って一般人の目を避け、3人は人通りの少ない場所までえびのを誘導していった。
「えびのさん、危ないですわ!」
 ヴィーヴィルは飛来する光球からえびのを庇い、『緊急障壁』を展開する。
 光球の飛んできた方向を見ると、そこには字見 与一(ja6541) が建物の屋上でスクロールを構えていた。
 与一の遠距離攻撃を避けながら、えびのはかざねに素早く近づくと、すばやく一撃を叩き込んだ。
「むぅ。気持ちはわからんでもないですが、もう少し冷静に行きましょうよー」
 攻撃をガードしながらかざねはゆったりとした口調で諭す。
 だがえびのは「ウルサイ!」と一蹴してさらに攻撃を加えようとしていた。
「俺を忘れんじゃねーぞ」
 その脇からカルムの攻撃が入る。
「ほらほら、私はここですよ!」
 間髪いれず読子も誘うように攻撃すると、3人は一斉に距離を置きはじめた。
「ニゲルナー!」
「えびのさん、落ち着いてください!」
 我を忘れて追いかけようとするえびのにまたも光球が襲い掛かる。
 ヴィーヴィルはえびのをフォローするも、えびのは逃げ回る3人に対してがむしゃらに動き回り、体力を浪費していくのだった。

●11時30分〜
「板敷さんへの思いがこんなに強いなんて……」
「ちくしょう……俺たち3人合わせてもこいつの愛情には適わねぇってのか」
「私たちも薩摩くんが好きだったけどねぇ。えびのちゃんが仲良くて悔しくて、同盟組んで邪魔しようとしちゃったんだ。
というわけで邪魔者は退散しましょうか」
 そう言って3人はそれぞれ別々の方向に逃げていった。
「おしまいでしょうか?さて、あとは彼女に任せるとしましょう」
 それを見て与一も撤退を始める。
「……はぁ……はぁ……」
 荒い呼吸を繰り返し、えびのは膝に手をついた。
「やりましたわね。これで障害は突破しましたわ」
 ヴィーヴィルは嬉しそうに言う。
 それに対しえびのは共に4人を追い返した彼女向けて、疲労しながらも笑顔を返したのだった。
 これで薩摩に会いに行ける。
 そう思って前に足を踏み出した、その瞬間であった。
「……あれ」
 安心と戦闘での疲労が一気に出てきたのか、体が脱力感に包まれる。
「ん……にゅぅ」
 否、これは自然なものではない。ヴィーヴィルが後ろからえびのに向けて『あまいいざない』をかけたのだった。
 それに気づかず、えびのは崩れ落ちるように地面に倒れ伏した。
「よくがんばりましたわ。ですが、残念ながら初めからこのつもりでしたの」
 そう言ってヴィーヴィルは眠るえびのを抱き上げた。
「だまして悪いですが、これもお仕事なのです。眠っていてもらいますね」
 その言葉は彼女には届かない。
 えびのは夢の中で薩摩との再会を楽しんでいるのか、穏やかなを寝顔を浮かべるのだった。

●20時〜
 結局、えびのが目を醒ましたのは17時を回る頃だった。
 『あまいいざない』の効果が切れても、暴れさせ疲れさせたのが良かったのか、えびのはそのまま自然な眠りについてしまっていたようだ。
 もう帰るための飛行機は行ってしまっている。
「ぐす……さっちゃん……」
 どうしても諦めることができないえびのはどうにか空港までたどり着くと、待ち合いロビーのソファに膝を抱えて座り込むのだった。
 と。
「えびの!」
 ロビーに聞きなれた声が響いた。
 顔を上げる。そこにいたのは正真正銘、本物の板敷薩摩であった。
「さっちゃん!?」
 涙を拭い、一目散に薩摩の元に駆けつける。
 薩摩はえびのを抱きとめると、わんわん泣き続ける彼女の頭を撫でた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「いや、えびのがあやまることはないよ」
 今回の依頼を出してから、依頼を受けた人達から薩摩へいくつか連絡が入った。
 確認事項もあったが、彼への叱咤激励も多かった。
 それを受けて薩摩は何とかパーティを途中で抜け出し、ここに来ることに決めた。
 そして丁度今、到着した便から降りたところなのであった。
 しばらく抱き合っていると、えびのは泣いていた顔を晴らして「じゃあ」と声をかけた。
「こっちにきたってことは、しばらくここにいるの?」
「あ、いや……」
 実を言うと、彼は色々と無茶をしている。
 今回の依頼を出す為に学校に内緒でいくつかアルバイトを始めていた。
 正直、翌日にはもう帰らなくてはならない。
 そんな彼の様子を見て、えびのは「ぷー」と膨れ上がった。
「さっちゃんがいじわるだー。なんかきょうはじゃまがはいるし、ぼうがいも……」
 そこまで言って、えびのは思いだした。
 妨害してきた者たちが「薩摩の恋人」と名乗っていたことを。
「……きょうさ、さっちゃんのこイビとってなノルヒトタちカラぼウがイヲウけたんダケド?」
「え!?」
 薩摩は驚きの声をあげた。
 それをどう受け取ったのか、えびのは右手で薩摩の頬を摘むと、思いっきり引っ張った。
「い、いたたたたた!」
「いっタヨね。ウワきしたラ○○○もグッて」
 空いた左手を腿の上へと、ゆっくりと這わせていく。
 そして。
「いや、浮気してないから!してないから!」
「ウソダ!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
 えびのが左手を捻ると同時に、ロビー中に薩摩の声にならない声が響き渡った。


 一応手加減してくれたのかもげることはなかった。
 それから数日の間、えびのの笑顔が絶える事は無かった。
 しばらくはえびののわがままに対し、薩摩が全面的に付き合ってくれたのだから。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)
重体: −
面白かった!:8人

鋼鉄の鷹の化身・
那月 読子(ja0287)

大学部2年96組 女 阿修羅
魔に諍う者・
並木坂・マオ(ja0317)

大学部1年286組 女 ナイトウォーカー
My Sweetie・
カルム・カーセス(ja0429)

大学部7年273組 男 ダアト
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
無音の探求者・
樋渡・沙耶(ja0770)

大学部2年315組 女 阿修羅
撃退士・
ヴィーヴィル V アイゼンブルク(ja1097)

大学部1年158組 女 ダアト
撃退士・
字見 与一(ja6541)

大学部5年98組 男 ダアト
美貌の奇術師・
紺屋 雪花(ja9315)

卒業 男 鬼道忍軍