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マスター:ユウガタノクマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/05/07


みんなの思い出



オープニング

●持つものと持たざるもの

「失礼するよ」
 コー・ミーシュラはビジネスホテルの扉を叩く。
 「どうぞ」という声と共に中に入ると、そこには全身に包帯を巻いてベットに座る少女の姿があった。
 ヴァニタス、ミレイである。
「このような姿で申し訳ありません婿殿」
 彼女は先の高松市での戦いにおいて、ゲート内部の防衛という大役を任されていた。
 そして人間達との戦いで多くの者を切り伏せてきたのだが、その代償も大きい。
 かすかに血の滲む包帯を見ながらコーは「なに、構わないさ」と声を掛けた。
「結果として企図したとおりにゲートを作ることができたんだ。
僕もマダムとのコネクションを得ることができたし、これ以上の戦果はないだろう。ゆっくりしていたまえ」
「ありがとうございます」
 そう言って彼女は穏やかに頭を下げる。
 かすかに表情を綻ばせたその表情に、コーは「どうしたんだい?」と聞いた。
「いえ。人間たちもなかなかやるものだな、と」
 ミレイは以前より薄々とある考えを抱いていた。
 人間たちは彼女が考えているよりも、強い。
 単なる「原住民」でしかないと思っていた彼女にとってそれは意外なことであり、同時に喜ばしい“事実”でもあった。
「戦った後、これだけ清々しい気分を味わったのは久しぶりです。また彼等とは一戦を交えたいものです」
 呟くミレイ。
 そんな彼女に、コーは取り出した薔薇を口元にあてて「ふむ……」と考え込んだ。
「さすがお義父様のヴァニタスだミレイ。それに君は力もある。実に羨ましい」
「はい?」
 唐突なコーの言葉に、ミレイは思わず聞き返した。
 それを無視するようにコーは言葉を続ける。
「実力主義の冥魔において力があるということは重要だ。力さえあれば下克上も許される。だが、逆に言えば力が無い悪魔にとって見れば……」
 コーは過去の思い出を手繰る。
 理不尽な暴力と、それを仕返すこともできない非力さ。
 それを打開するには――。
「必死に知恵を絞って、他者の力を使ってでも生き残らなければならない。さもなくば死だ。僕は君が羨ましいよミレイ」
 部屋の中を言いようの無い沈黙が包み込む。
 それを打ち破ったのは他でもないコー自身であった。
「ところでミレイ、君はこの戦いで傷を負いすぎた。先に本拠地の方へ撤退してもらうよ。僕はもう少しここにいる必要があるからね」
「撤退、ですか?しかし今は……」
 ミレイは戸惑いがちに聞いた。
 彼らの本拠地は中国地方にある。そこまで手負いのミレイを帰らせるというのだ。
 しかし高松市にゲートができてからと言うもの、人間たちはできたばかりのゲートに監視の目を光らせている。
 しかもできた場所が天界勢のゲートと目と鼻の先だ。当然ながら天使達も警戒していることであろう。
 下手に動けば潰されかねない。
「もちろん、そのための陽動も考えてあるさ」
 そこまで言うと、コーは壁にかけられた絵画に目を移した。
 そこには水中から高く飛び上がるクジラの雄姿が描かれていた。

●港内に現れた軍艦

「四国から緊急の依頼が入りました」
 斡旋所の職員は神妙な表情でプロジェクターに投影した地図にポイントをあて、一同に説明を続けた。
「先日、高松市において冥魔陣営のゲートが開かれたのはご存知の通りです。
その高松市から山を挟んで隣にある坂出市の港が、ディアボロにより攻撃を受けているという連絡が現地から入りました。

敵は戦艦のような姿をしたクジラ――今回「軍艦クジラ」と名づけたディアボロです。
このディアボロが主な攻撃要因で、岸からある程度離れた海上から艦砲射撃で港を攻撃しているみたいです。
また周囲を巨大なトンボのようなディアボロが飛び回っていることが確認されています。恐らく近接時の護衛でしょう。

ただ……今回厄介な点がひとつだけあります。
それは「敵が岸に近づこうとしない」ということです。
初動対応に当った現地の撃退士達も、なかなか陸地の方に寄って来ないことに苦労していたようです。

そこで、今回は敵に接近するために水上バイクを用意しました。遠くて攻撃が届かない場合は利用してください。
ただ港内なので波は穏やかですが、海に落ちると攻撃の的になりかねません。くれぐれも注意してください。

現在はディアボロの出現によって港内は完全閉鎖、現地から3kmほど離れた瀬戸大橋も通行止めと言う状態にあります。
坂出港は四国の中でも重要な交易路の一つですが、そのすぐ傍を通る瀬戸大橋も四国と中国地方を結ぶ重要な交通路です。
幸いまだ橋は攻撃を受けていませんが、もしここを制圧されてしまうと四国へ渡る道がかなり制限されてしまうでしょう。
なるべく速やかにディアボロを退治するようにお願いします」


リプレイ本文



 ここは香川県坂出市坂出港。この港はディアボロによる砲撃に晒されていた。
 沖からは轟音が響き、その度に地震のような揺れと爆発音が彼らのいる港を襲う。
「これでおっけーかな?」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は水上バイクに結び付けた命綱を確認して呟いた。
「敵の砲撃は破壊力が高いみたいだし、落ちないように注意したいね」
「そうだね」
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)はそんな彼女の傍に近づくと貸与された救命胴衣をソフィアに手渡す。
「海で溺れたら話にならないからね。装備はちゃんと整えないと」
「しかし、戦場となるは海の上、か。戦い辛い事この上無し。苦戦が予想されるが……はてさて」
 小田切 翠蓮(jb2728)は軍艦クジラの標的にならないよう身を屈めて沖を眺めた。
 不意に「仕方ないですよ」と声が掛かる。
 得物であるスナイパーライフルの手入れをするクロエ・キャラハン(jb1839)であった。
「相手がこっちに来ないんじゃ何もできません」
 翠蓮に対して目を合わせようとせず、どこかよそよそしい態度で彼女は語る。
「私の場合、岸から狙撃することができますが……」
「そうじゃのぅ。サポートはおんしに任せるぞえ。はっは!」
「……」
 そんな彼女の内情を知ってか知らずか翠蓮は呵呵と笑いながらクロエの小さな頭をぐりぐり、と撫でつけるのであった。
「さて、遠距離からの艦砲射撃と云う優位を、敵がみすみす捨てるとは思えんのう――と、なると……儂等が接近する以外に道はあるまいて」
 こうして作戦を練る一同だが、その一方で自分の荷物を前に「うーん」と唸る者が一人。
「プレートメイルを活性化して海に落ちたら、溺れますわよね」
 それはクリスティーナ アップルトン(ja9941)であった。
 しばらく悩んだ後に持ってきた女子儀礼服に袖を通し、その上にグラルスから受け取った救命胴衣を羽織る。
 そして運動靴の紐を縛ると、
「お待たせしましたわ皆様。私の準備は整いましてよ」
 気合を入れるかのように高飛車な笑みを浮かべて全員を見渡すのであった。
「うむ。では参るとするか、皆の者!」
 虎綱・ガーフィールド(ja3547)はそんな彼女に同調するかのように高らかに宣言する。
 彼の姿はどこか奇抜な――まるで海賊のような衣装であった。
 沖合いに浮かぶクジラを指差し「どうだ!」と言わんばかりの表情である。
 そんな彼を見て矢野 古代(jb1679)は感心したように「随分素敵な格好だねぇ」と呟いた。
「格好良かろう?」
「ああ、大したものだ。俺にはそういうのまったくわからないからなぁ……」
 古代はポーズを決める虎綱をしばし眺める。
 だがそんな表情とは裏腹に、彼はある疑念を抱いていた。
「しかし四国はもう奴らの勢力圏内なのに……わざわざディアボロを、ねぇ。……妙だな」
「同感ですね。私もただのディアボロの襲撃とは考えていません」
 彼の言葉に暮居 凪(ja0503)が続く。
「ふむ……」
 古代の疑念は膨らむばかりである。
 だが、
「ま、わからんことを気にしても仕方ないか」 その言葉を最後に彼は思考を切り替えるのであった。
「それにしてもまた面倒な相手ね――まるで沖合まで来てくれ、とでも言うべき布陣だけれど……」
 凪もまた敵を分析するように沖合いを眺めた。
「想定以上の速度で撃破すれば、また変わることもあるでしょう。今は盤面を返すことは出来ないわ」
 海上からはズドン、という重い音が轟き続けるのであった



 港に6つのエンジン音が鳴り響く。
 一同は接岸した水上バイクに乗り込むと一気にスピードを上げた。
 その後ろを翠蓮は「闇の翼」を広げて進む。
 その一方でクロエはコンテナの積まれた一角にスナイパーライフルを設置すると、スコープで敵の姿を確認するのであった。
 近づく7つの影に軍艦クジラ達の砲台は角度を下げ、ドラゴンフライは一斉に身をよじって突撃の構えを見せる。
 こうして戦いは始まったのであった。
「いっくよー!」
 ソファイの手から『ライトニング』の雷が迸る。
 攻撃態勢にあったドラゴンフライは、その一撃に身を焦がされて海に落ちた。
「どう動くか予想しやすい所を狙おうか」
 その言葉通り、彼女はドラゴンフライが体当たりを仕掛けようと突っ込んでくる瞬間を狙い的確に攻撃を命中させる。
 もともと防御は考えていないのだろう、彼女の攻撃によって次々とドラゴンフライは墜落するのであった。
「さあ、このままどんどん……」
 ソフィアが次の標的に狙いをつけたその瞬間、
「きゃあ!?」
 急に彼女の目前でドバァン、と巨大な水柱があがった。
 敵の砲撃によって吹き飛ばされた彼女はバランスを崩し、バイクごと横転する。
「ソフィアさん!?」
 一直線にクジラへと向かっていた凪は一瞬だけアクセルを緩めた。
 ぷかり、と浮かび上がるソフィアに彼女は大きく声を掛けた。
「大丈夫ですか!」
「うん、なんとかー……痛つつ」
 ソフィアは受けたダメージに眉を顰めつつも体に繋いだ命綱からバイクを手繰りよせた。
 だが、
「あれ?あれれ?」
 砲撃によって故障してしまったのか、バイクのスロットルをどれだけ回しても反応が返ってこない。
 そうこうしているうちに集まってきたドラゴンフライたちはその身を捩り、ソフィアへと殺到する。
「誰かソフィアさんのフォローをお願いします!」
「僕に任せて!」
 凪の声にグラルスが反応した。
 彼はバイクを旋回させると一直線にソフィアの元へと向う。
 だが、その最中でもクジラ達が砲撃の手を緩めることはない。
「う……くっ!」
 砲撃に晒されないように左右に動き回りながら少しずつソフィアに近づくグラルス。
 そんな彼よりも空を跳ぶトンボの方が断然素早い。
 海上に浮かぶソフィアへ敵が突撃を仕掛ける。
「ちょこまかと小賢しい事よ……」
 その間際、飛翔する翠蓮は飛燕翔扇を投げ飛ばした。
 潮風に乗った扇子は一直線に突き進むとドラゴンフライの体に突き刺さる。
 同時に岸でライフルを構えていたクロエはここぞとばかりに引き金を引き絞った。
 風穴の開いたディアボロはぎゅぴぃ、と甲高い叫び声を上げソフィアの目の前で水柱をあげる。
「う〜ん、一方的になぶれるのはいいんですけど……」
 そんな独り言を囁きながら立ち上がるクロエ。
「狙撃だけだと倒した実感が薄いですね。やっぱり天魔は直接ぶった斬るのが一番です」
 『ナイトミスト』で降り注ぐ砲弾から身を隠し、彼女は次のスナイプポイントへと向かうのであった。
「ヒャッハー!くじら狩りだー!」
 一方その頃、忍ぶことを捨てて高らかな雄叫びあげる虎綱はポンプの爆音を轟かしながら海上を突き進んでいた。
 その姿はクジラ達の注目を集めるには充分である。しばし砲撃は虎綱の元へ集中した。
「フハハ!当たらん当たらん!」
 それを巧みにバイクを操りながら避け続ける虎綱。
「海水浴にはまだ早く御座るよ!今の内に拾い上げるで御座る!」
 彼の声が届いたのか、グラルスは回避運動をやめて一直線にソフィアの元へ向かった。
「貫け、電気石の矢よ!」
 彼女に群がろうとするドラゴンフライに結晶を打ち込むと、バイクをソフィアの近くに寄せた。
「お待たせ。さあ、後ろに乗って」
 差し出されたグラルスの手を握り返し、ソフィアは「ありがとう」と後部座席に乗り込む。
「さすがに海上戦闘で飛行する敵は厄介だね。先に片づけてしまおう」
「そうだね」
 そうして彼等は目前のドラゴンフライに向けて次々と雷撃を放つのであった。
「うわ、これは洒落にならんぞ……!」
 その一方で、古代はひたすらバイクで旋回運動を続けていた。
 その目的は観察と回避。
 「軌曲」で攻撃を流しながら敵の位置を把握し、砲撃の前兆を読む。
 確実に死なず、生き残る術を探る。それが彼のやり方であった。
 周囲で多数の砲弾が着水する。次々とあがる水柱に苦心しながら、彼は愛銃を抜き取った。
「そろそろ頃合だな……そんじゃま、反撃にでるとするかね」
 砲撃が一旦止んだのを確認した古代は「スターショット」を飛び交うドラゴンフライに打ち込む。
 その攻撃はドラゴンフライを逃すことなく捉え、海に落とし込んだ。
 その隙をついてクリスティーナはスロットルを全開まで捻り、爆音を立ててクジラに接近する。
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上!ですわ」
 激しく水を噴出して突き進む彼女は軍艦クジラの傍まで近づくと、
「懐に飛び込んでしまえば、他のクジラは艦砲射撃できないはずですわ」
 とう、とバイクから飛び出してその背に飛び乗った。
 すかさず彼女は弓を取り出す。
「さあ、狙い打ちますわよ!」
 そして艦砲射撃を続ける別のクジラに対して次々と矢を打ち込みだした。
 それに対してクジラたちは何もすることができない。彼女に砲撃を打ち込むということは、同士討ちを意味するに他ならないからだ。
 また本来こういう時の為の防衛であるドラゴンフライ達もソフィア達によりほとんど撃墜されている。
 すでにクジラ達は丸裸も同然であった。
「ふっ!」
 クリスティーナに次いで別のクジラに猛進していた凪も、シールドで砲撃から身を守りつつその背に「全力跳躍」で飛び移る。
 そして休むまもなく魔具を攻撃用のクローに切り替えると、その爪から闇を消し飛ばして光を灯す。
「さあ、次の手は何かしら?」
 地に突き立てるようにクローを振り下ろすと、まるで地震でも起きたかのように凪の全身が揺さぶられた。攻撃をまともに喰らったクジラが身悶えし、大きな咆哮をあげる。
「――さぁ花火の時間じゃて。図体が馬鹿デカいだけあって、動きは鈍いのう」
 翠蓮はまた別のクジラに対して炸裂符を叩きつけた。
 上空を旋回しつつ攻撃する翠蓮のすぐ下で、虎綱はバイクを捨てて飛び上がる。
「これだけデカいと効きも悪そうで御座るな。このまま背中を頂くで御座る!」
 彼は「雷死蹴」を砲台に打ち込みながらその背に飛び移った。
 そして海上ではバイクに乗りながら、古代は照準をクジラに合わせている。
 その銃口からは蒼い光が微かに漏れ出ていた。
「さて、これで沈んでくれればいいがねぇ」
 「破魔の射手」を伴った弾丸は爆音と共にクジラの横腹へと吸い込まれていった。
 巨大な胴体に風穴を開けられたクジラは大きく身悶えると、腹を水面に浮かべ沈没を始める。
「おっと……!」
 その背に乗っていた虎綱は、共に海へ落ちそうになってしまう。
「儂に掴まるが良い!」
 その間際、翠蓮が虎綱を捕えて上昇する。そのまま彼は虎綱が乗り捨てたバイクへと降ろした。
「ほんに人間とは不便よのう。このような道具に頼らねばならぬとは」
「おぅ、すまぬで御座るよ。さて、これで……」
「うむ。あと2体じゃの」
 彼らの目前には今だ砲撃を続けるクジラたちが見える。
 虎綱はバイクのエンジンを掛けると、すぐそばのクジラへ突き進んだ。
「さあ、さっさと終らせるで御座る!」
 バイクの速度を乗せ、彼は十字手裏剣をクジラへ投げつける。
 丁度凪とクリスティーナの攻撃で今にも沈みそうだったクジラは、その攻撃を最後に腹を向け仰向け浮かび上がった。
「これで最後ね……」
 自身の乗るクジラに目を向け、クリスティーナは透き通った刃を抜き放つ。
 星屑の輝きが剣に集まると同時に、
「沈みなさい、スターダスト・イリュージョン!」
 高速で降りぬいた刃から流星群の一撃がクジラの背に直撃した。
 クジラは衝撃に咆哮をあげ、背中を大きく跳ね上げる。
「やりましたわね!」
 咄嗟に海へ飛び込んだクリスティーナはぐっと剣を振り上げると水上バイクの元へ泳ぎ始めた。
 だが、
「まだだクリスティーナ君!」
 突然響き渡るグラルスの声。
 え、とクリスティーナが振り向くと、そこには砲塔を回転させるクジラの姿があった。
 ごぐん、と大口径の砲が固定される。
 咄嗟にグラルスは「ガーネット・フレアボム」で迎撃しようとするも、まだ準備が整っていない。
 未だ状況を認識できていないクリスティーナ目掛けて砲台が火を吹こうとしていた。
 その瞬間、
「まだ死なないのですか。しぶといですね」
 彼らの頭上を一発の弾丸が通過していった。
 それはクジラの一直線に砲塔内部へ向かうと、着弾と同時に砲弾とぶつかり合う。
 ぐわぁん、と暴発した砲台が滅茶苦茶に引き裂かれるとクジラはゆっくりと反り返った。
 ずぶずぶ、と水面に飲み込まれるのを確認したクロエはコンテナの上でふぅ、と一息こぼす。
「やっとくたばりましたか。……よしっ、さっさと帰ろっか。何か青森のほうも騒がしいみたいだし」
 こうして海上を占拠していたディアボロは殲滅されたのであった。



「やれやれ、やっと終わりましたわね」
 潮風に絡んだ髪の毛を梳かしながらクリスティーナは海上を見やる。
 そこには元の平和な姿を取り戻した坂出港の姿があった。
「一時はどうなるかと思ったけど……みんな無事でよかったよ」
 グラルスは濡れた服にドライヤーを当てながら胸を撫で下ろすのであった。
「ゲートではミレイ殿の折角のお誘いを無下にしてしまったのぅ」
 そう言いながら扇子を広げ、虎綱は高松市とを隔てる山々を見上げた。あの山の向こうには悪魔達が先日作り上げたゲートが広がっている。
「コーのヤツとももう少し話してみたいしの……元気でやっていればよいが」
 そんな思いを抱く彼のそばでゴツン、と硬い音が響いた。
「あ痛った〜……」
「傷が思ったより深いな。すまんがもう一発入れるぞガマンしろよ」
 古代はアウルを込めた拳をソフィアの傷口にごつん、と叩き付けた。
 傷を負った者を回復しながら彼はふと海上を見上げる。
「それにしても、こんな所にディアボロを出して何の益がある……?」
「そうですね。現状の四国の状況からすると、そんなことをするよりもゲートの維持に努めた方が収穫は大きいでしょうから」
 戦闘前に感じていた疑問を再び持ち上げる古代と凪。
「近くには瀬戸大橋しか……まさか、陽動……?」
「どうでしょうね。しかし……」
 彼女は考える。たとえ四国にゲートが作られたとしても諦めることはしない、と。
(もっと深刻な状況の土地もあるのだから――ね)
 周囲を呑気なカモメ達が喧しく飛び回っていた。



 無人のはずの瀬戸大橋にごとり、と音が鳴った。
 本来列車が通るはずのレールを1台の馬車が走る。その中では体を座席に預ける少女の姿があった。
 ヴァニタス――ミレイである。
 戦闘で人々の注意が港に向かっている間に忍び込んだ彼女はそのまま中国地方へと抜ける。
 すでに本州は目前であった。
「四国……実に様々なことがありましたね」
 人間達との戦闘に思いを馳せ振り返ってみる。
「冥界にいる婿娘殿への土産話もできましたし……少しは退屈凌ぎになればいいのですが」
 彼女は手のかかる少女の面影にくすり、と笑みを浮かべるのであった。


依頼結果