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マスター:ユウガタノクマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/29


みんなの思い出



オープニング


 徳島県のとあるキャンプ場。
 夏には家族連れで賑々しいここも、真冬のこの時期は実に閑散としていた。
 そんなキャンプ場の一角、木々が生い茂る区画で男はハンモックに揺られていた。
 穏やかな日差しと遠くから聞こえる川のせせらぎに誘われ、男は読んでいた文庫本を顔に乗せる。
 そしてつい、ウトウトと意識を奥底に落としてしまいそうになった瞬間、
「婿殿」
 彼の惰眠を邪魔するように、凛とした少女の声が響いた。
 気づけばハンモックの傍に、メイド服を着た少女が立っている。
 いや、正確に言うとメイド服ではない。
 メイド服にプレートを織り込んだ「鎧」を着ているのである。
 鎧とその背中に背負った大剣をがちゃり、と鳴らしながら彼女は男の傍に控える。
 男は気だるげに、しかし優美さは失わないようにゆっくりと起き上がった。
 胸元を大きく開いたワイシャツからは、男らしい引き締まった筋肉が見える。
 寝癖を治すように自然と髪を撫で付けるその仕草は、普通の女性であれば思わず胸が高鳴ってしまいそうだ。
 しかし、少女はただ淡々と言葉を繋ぐ。
「お言い付けのとおり、ディアボロの配置が完了しました」
「ご苦労様、ミレイ」
 少女の言葉を受けて男――コー・ミーシュラはハンモックから降り立った。
 そして悪魔はどこかから薔薇を一輪取り出すと、その香りを楽しみつつヴァニタスであるミレイに命令した。
「ゲートが遠いと不便だね。ゲートへ人間共を連れ込めば、もっと簡単にディアボロが作れるんだけど……」
「致し方ありません。私もディアボロの作成にはお手をお貸しいたします」
「それは重畳。レディのように優秀なヴァニタスをお貸しくださるとは、お義父様には感謝してもしきれないよ」
「人間界では婿殿のお言葉に従えというのが、我が主ミーシュラ様より承った命ですので」
 ミレイの言葉を聞いてコーは彼女に微笑かける。
 美麗な表情を軽く受け流すと、ミレイは「ところで」と問いかけた。
「婿殿に一つ、お聞きしたいのですが」
「なんだい?」
 その瞬間、彼女は先程の冷淡な様子とは打って変わった険しい顔つきでコーを見上げた。
「私達はいつ前線に立てるのですか?」
 コーはしばし沈黙した。
 彼女はまるで何時間も「おあずけ」をされた犬のように、恨めしい眼差しで背中の大剣を揺らす。
「この四国の地に来てからというものの、戦いらしいことはまったくしておりません。
やることといえば今回のように森や洞窟の中へ嫌がらせのようにディアボロを放置するだけです。これでは……」
「目先の餌に食いついてはいけないよミレイ」
 ミレイの言葉を遮るようにコーは言った。
「暴れたい者は暴れさせればいい。我々はその影を安全に進めばいいのだ」
「…………」
 ミレイは沈黙する。彼女はいかにも不服そうな様子だ。
 「しかし」と言わないのは武門の一族である悪魔ミーシュラ家のヴァニタスとしての矜持であろう。
「もう少しの辛抱だ。近いうちにマダムからのお言葉が来るはずさ」
 コーはもう一度薔薇に鼻を近づけると、それをミレイに差し出した。
 彼女の鼻腔を甘い香りがくすぐる。
「その時ミレイには、武門ミーシュラのヴァニタスとして恥じない働きをしてもらうよ」
「……了解いたしました。婿殿」
 武門の一族に婿入りしたこの悪魔は頭の中で知恵を巡らす。
 この機に乗じてさらにのし上がる方法を。


 教室に会する一同に対し、ヴィルヘルム・柳田(jz0131)は「ディアボロがあらわれた」と簡潔に言った。
「場所は徳島県にあるキャンプ場だ。今は冬のシーズンだから人の姿こそないが、夏には体験学習の場としてもよく使われる活気があり自然も多い。
敵はこのキャンプ場の森の中に潜んでいるらしい。
そして敵の情報だが大きさにして2m。姿は巨大な犬のような姿をしていて目が三つあるらしい。
そう……『ぬりかべ』だ。

……なにを妙な顔をしているんだ。『ぬりかべ』と聞いてコンクリートの壁みたいな姿を思い浮かべたのか?
あれは近代になってからイメージ付けられたものさ。

それはともかく、敵の数は4匹。
事前の調査では『ぬりかべ』の言葉通り敵の体はかなり硬く、しかも攻撃は思いの他強烈との事だ。
そして敵の特徴として、体の色が『クリーム色』のぬりかべと『赤色』のぬりかべがいるらしい。
4体の内2体は『クリーム色』の体、残り2体が『赤色』の体をしているとのこと。
しかも『赤色』のぬりかべから攻撃を受けた撃退士の話では魔法攻撃によるダメージを受けたとのことだ。

聞いた話では森の中から出てくることはないそうだが、このまま居座られたのではキャンプ場を開く以前に管理することすらままならなくなる。
できるだけ早急にディアボロを倒すようにしてくれ。

……おっと、すまない。もうひとつ重要な話をするのを忘れるところだった。
キャンプ場の管理者から『森の木々はあまり傷つけないでくれ』との要望が来ている。
あまり戦場となる場所の木々を倒してしまうと、来年のキャンプ場開設に支障をきたすらしい。
木々は攻撃から身を隠すには便利だが、こうなると邪魔な障害物でしかないな。面倒だが充分注意してくれ」


リプレイ本文


「作戦は以上です。みなさんトランシーバーと地図はお忘れなきよう注意してください」
 佐藤 としお(ja2489)は管理事務所の一室でブリーフィングに参加している面々に向けて宣言するように言った。
「特に僕と影野さんはクリーム色のぬりかべに対する重要な“カード”です。よろしくお願いしますね」
「了解した」
 影野 恭弥(ja0018)はただそれだけを呟く。
「しかし……」
 ふと、としおは少し考える素振りを見せた。
「今回の依頼は名前だけ聞くと、妖怪退治ですよねぇ?」
 ブリーフィング中の引き締めた顔を緩め、軽くおどけた風に呟くのであった。
「これ、妖怪ポストに手紙を出した方が……」
 そこまで言ってごほん、と軽くしわぶく。
 それに呼応するように小田切ルビィ(ja0841)は「だよな〜」と軽い調子で答えた。
「ぬりかべが三つ目の犬〜!?……某妖怪漫画に出て来る四角いアレは違うのか」
「伝承が変わった形で伝わる、と言うのは日本でも起きている事なんですね」
 エリス・K・マクミラン(ja0016)は報告書に貼り付けられたディアボロの写真を感心したように眺める。
「そのぬりかべという妖怪も実物と伝承では、どうにも大きく印象が違いますし……」
「衝撃の事実ってヤツだぜ。こりゃ帰ったら調査する必要がありそうだな」
「僕も壁みたいのを想像していたから、どんな姿をしてるのかちょっと興味はあるね。
まぁ、ディアボロなんだけれども……」
 永連 璃遠(ja2142)はエリスが持つ写真を覗き込んだ。
「種別名なんてどうだっていいわ。倒す事に変わりは無いもの」
 その一方、月丘 結希(jb1914)はあまり興味なさげに答えるのであった。
「そうねぇ。それにぬりかべが三つ目のわんちゃんだというならちゃんとした正しい躾が必要ね」
 青木 凛子(ja5657)も手にしたスナイパーライフルの最終調整をしながら冷静に、しかしどこか棘のある様子で呟く。
「……討伐よりも、木の心配ですか」
 アイリス・L・橋場(ja1078)は冷ややかに言った。
 今回出現したディアボロを倒す際、キャンプ場の管理者から一つの要望が出された。
 それは「キャンプ場の木をあまり傷つけないでくれ」というものである。
 それが彼女にとってはどうにも気に食わないらしい。
「……作戦成功を信じている、と言えば聞こえばいいでしょうが……」
「ま、まあまあ。ディアボロを倒せてもキャンプ場がボロボロになっちゃったら、可哀相じゃないですか」
 璃遠はそんなアイリスを宥めるようにフォローを入れるのであった。
「このキャンプ場……夏にはまた、皆で楽しく使えるようになるといいね。そのためにもがんばりましょう」


 遠くから小鳥の鳴き声と小川のせせらぎが聞こえる中、4体のディアボロ――ぬりかべたちは寄り添うようにじっとしていた。
 そして三つの目で辺りをひたすら凝視している。
 それはまるで与えられた「命令」をひたすら守る忠犬のようであった。
「……いました。ぬりかべ達です」
 璃遠は敵の姿が確認できる位置まで注意深く移動すると、無線機で情報を仲間全体に伝える。
「情報通りです。敵はまったく動く気配をみせません」
『わかりました。それでは皆さん、準備OKですか?』
 無線機からとしおの声が聞こえてくる。
 次々と返ってくる返事を受けてとしおと恭弥はクリーム色をしたぬりかべに、凛子と結希とアイリスは赤色のぬりかべにそれぞれの銃口を合わせると、

 5つの銃声が森に響き渡った。

 銃弾の何発かは木の幹に着弾したものの、突然の攻撃にぬりかべ達はすっくと立ち上がった。
 唸り声をあげて鼻をひくつかせる4体の巨犬。
 そして周囲をキョロキョロと見回していたところで再びの銃声が轟いた。
 弾の飛来した方向を12の瞳が睨みつける。
 そして森の中で銃を構える者達をそれぞれ確認すると、ドスドスと重い音をたてながら駆け出していくのであった。

 透過によって木々を通過するディアボロ等に障害物はあってないようなものである。
 2体のクリーム色をしたぬりかべは一直線にとしおと恭弥の元へ向かう。
 しかし、2人はぬりかべから逃げ出すように、しかしその視界から消えてしまわないように森の中を駆け出すのであった。
 同時に赤色のぬりかべは凛子とアイリス、そして結希を目指して突進する。
 緑豊かな森は、一瞬にして戦場へと姿を変えた。
 
「うまく誘いに乗ってくれたみたいですね。このまま距離を保ちつつ後退していきましょう」
「わかった」
 としおの声に従い、恭弥はぬりかべに対して射撃体勢を取りながら後方へと進む。
 彼の持つアサルトライフルから『アシッドショット』の銃弾が放たれる。
 しかしその弾は手前の木に当たってしまい、ぬりかべに届くことは無かった。
「さすがに森の中は射線が取りづらいな……」
「そうですね。これでも気を使ってるんですけど……僕はこっちのをやります。影野さんはそっちのぬりかべをお願いします」
 恭弥はとしおの言葉に頷きを返すと、一旦二手に分かれた。
 そして木と木の間にある射線を分析しつつもう一度狙いをつけると、ゆっくりと引き金を引いた。
 今度は的確にぬりかべの体へアウルの銃弾が吸い込まれる。
 命中した箇所からクリーム色の体が変色し、その硬い体を溶かし始めるのであった。
 と、すぐ近くから銃声が聞こえてきた。
 木々の間からとしおが手で丸を作っているのが見える。
 どうやら、向こうも『アシッドショット』を命中させることに成功したらしい。
 恭弥は近づいてくるぬりかべの足音を聞きながら、再び森の中を走り出すのであった。

「さあ、餌の時間よ。弾丸はお好きかしら」
 凛子は囁くと、遠くに見える赤色のぬりかべにスナイパーライフルの弾丸を喰らわせた。
 アウルで作られた銃弾は赤い体を貫き、的確にダメージを与えていく。
『赤色がそっちに一匹向かってるわ。アイリスちゃんお願い』
「……わかりました」
 アイリスは茂みを抜ける。
 やがてドドド……という大地を揺るがすような音が聞こえてきた瞬間、赤い体が目の前を通過していった。
 彼女は待ってましたとばかりに両手に握るクロスファイアの引き金を引く。
 突然の側面攻撃に赤色のぬりかべは走る方向を変え、一直線にアイリスへ向かっていった。
「……そう……こっちに……来て……ください」
 こうして4体のぬりかべをそれぞれ引きつけながら一行は森の中を駆け抜ける。
 木々の間を抜けながらスマートフォンを操作する結希は無線機のスイッチを入れた。
「あと2、3分で森を抜けるわ。そのまま作戦通り広場に突っ込むから、あとよろしく」
 一方的にそう告げると誰にでもなく、まるで毒づくように呟いた。
「まったく……妖怪退治なんて今時流行らないわよ」
 同時に手持ちのスマートフォンに目をやる。
 結希は軽く笑みを浮かべた。
「でも符やら結印、呪言なんてもっと流行らないわね。そんな古臭いものじゃなくても、妖怪退治ぐらいできる。それを証明してやるんだから」
 やがて彼女の目の前に光が溢れてくる。
 天を覆う木立ちが晴れ、周囲が一気に開けた。

 結希が森を抜けた先にある広場にはルビィとエリスが待機していた。
 彼女は2人の前まで駆け寄ると「お待たせ」と声をかける。
「作戦は順調よ。先にクリーム色のぬりかべがやってくるわ」
「あいよ。やっと来やがったか」
 ルビィは手にした鬼切を軽く振りかざして気合を込める。
 同時に黒と白が入り混じった光がその体を覆いはじめた。
 さほど時間も経たない内に森の中から恭弥が、そしてとしおが飛び出すのを確認すると、彼はやおら前に進み出る。
 としおはルビィとすれ違い様に語りかけた。
「現状は月丘さんから聞いていると思います。くれぐれも注意してください」
「ああ。さて、と。『飛んで火に入る夏の虫』がようやく御到着だ……」
 森の中から獰猛な獣の唸り声が聞こえ始めてきた。黄色がかった巨体が猛然と走ってくる。
 体の表面が『腐敗』により溶けかかった2体のぬりかべたちが、その重量感のある巨体を揺らして飛び出してきた。
「ぐお!?」
 盾を緊急活性化させ、ぬりかべの頭突きを一身に受けるルビィ。
 がつん、と岩がぶつかるような音をたて彼はひたすらに踏ん張った。
「くっ……なるほど、重い……!」
 ルビィはなんとかふっ飛ばされないように必死に足に力を込めた。
 『ケイオスドレスト』の効果でその防御力は飛躍的に向上しているものの、その一撃は巨大な岩をぶつけられたようなものである。
 ルビィは地面に二本の軌跡を残しながらじりじりと押し戻させられつつあった。
「そうやられてばかり……いられるかっての……!」
 返す刀で鬼切の切っ先をぬりかべの口に突っ込む。
 まるで石を断ち切ったよう感触に舌を巻きつつ、ルビィは再び盾を構えた。
 再びがつん、とぬりかべの額が盾にぶち当たる。
「口の中まで硬いとは恐れ入ったぜ……本当に『腐敗』してるんだろうな――おっと!」
 ドロドロと溶け出しているぬりかべの体表をちらり、と確認したルビィはふと、もう一体のぬりかべが横を抜けようとしているのを見て取った。
「……お前の相手はコッチだぜ……!」
 そう言うと刀にエネルギーを溜め、振り下ろす。
 鬼切から迸る黒い衝撃波はぬりかべの大きな横腹を叩き、その三つ目を引きつける。
「お利口な犬は好きだぜ俺は……!」
 こうしてルビィがクリーム色のぬりかべを抑えている間、エリスは無線機から聞こえてきた声に急いで阻霊符を取り出した。
『エリスちゃん、赤色2匹そっちに着くわ。これで全部よ!』
「わかりました」
 じきに森の中から重い足音が響いてくる。
 引きつけていたアイリスと永連が彼女の目の前を通り過ぎると同時に、赤色のぬりかべ達は茂みを揺らすことなく飛び出してきた。
「今です……!」
 その瞬間、彼女は阻霊符を発動した。
 同時にもう片方の手から小さな魔法陣が一瞬だけ浮かび上がり、赤く輝きだす。
「早めに片付けます……!」
 素早く赤いぬりかべの側面に入ると、
「はあぁァ!」
 エリスは体に溜め込んだ気を一気に吐き出すように『ファイアバースト』を叩き込んだ。
 黒い炎が拳を纏い、赤い壁のような体を殴りつける。
「よし、このまま一気に……!」
 ふらふらと千鳥足になるぬりかべのとどめを刺そうと璃遠はグランヴェールを振りかざした。
 巨犬の喉元に大剣の刃が突き刺さる。
 森の中での銃撃によりダメージを蓄積していたぬりかべはその一撃でずどん、と大きな音をたてて地面に崩れ落ちたのであった。
「これで一体目……もう一体は!?」
 璃遠は倒したぬりかべから剣を引き抜くと、もう一体の赤いぬりかべの行方を追う。
 彼がその姿を見つけた時、ぬりかべはアイリスと対峙していた。
「……フフ」
 ぐるる……、と地の底から這い出るような声で威嚇するぬりかべを前に、彼女は紅瞳を細めて楽しそうな笑みを浮かべる。
「ようやく……こういう得物……が……手に……入りました……ね……」
 アイリスは両手に握る一対の青紅倚天へちらり、と視線を降ろした。
 しかしそれも一瞬。すぐに目の前の赤い巨体を見据える。
「……試し切りに……ちょうどいい……獲物も……いるようで……」
 そう呟いた瞬間、赤いぬりかべは2mにもおよぶ巨体を躍らせて牙を向けた。
 それは物理にあらざる魔法の牙。
 それが彼女の喉笛に喰い付こうとした瞬間、
「遅い……ですね」
 ひらり、と身をかわすとアイリスはすれ違い様にぬりかべの右目に剣を突きたてたのであった。
 ぬりかべは瞳からだくだく、と血とも涙ともつかない体液を流しながらのた打ち回る。
 やがて逃げようと思ったのか、アイリスに背を向けると一目散に森の中へ逃げようと走り出した。
 今は阻霊符によって透過能力は活きていない。そのまま森に入るなら、木々をなぎ倒していくことは確実だろう。
 しかし、
「ゴー・ホームの命令は出してないわよ。そこでおねんねなさい」
 先に森の中へ回り込んでいた凛子は向かってくる赤いぬりかべに対して銃口を向ける。
(気に食わないわね……)
 彼女は昔、大型犬を飼っていたことがある。
 犬好きの彼女にとっては、このようなディアボロが生まれたという経緯が許せないのであろう。
 彼女は内心舌を打ちながら、冷静に引き金を引いた。
 スナイパーライフルから滑り出た弾丸は見事赤い体を貫き、その息の根を止めた。

 クリーム色2体のぬりかべを相手にする彼らの方もすでに決着がつこうとしていた。
「皆さんあと少しです。がんばってください!」
 ルビィがぬりかべの攻撃を壁役として受け止めている間、としおは後方からアサルトライフルによる援護射撃を行っていた。
 『腐敗』でどんどん腐っていく体面に銃弾がやすやすと突き刺さる。
 そして、
「……これで終いだ」
 恭弥が持つ銃から白銀の光があふれ出した。
 飛び出したのは退魔の力を持つ白銀の弾丸。
 プラスのレートを纏ったその一撃はぬりかべの瞳を貫き、マイナスのレートとぶつかり合って重大な傷跡を残す。
 ぬりかべは一吼えすると、力なく巨体を地面に横たえるのであった。
「例え私に魔術適性が無くても、多少の魔法攻撃位やってみせます!」
 エリスは雨月の刃を振りかざすと、霞の刃をぬりかべの体に突き立てた。
 しかし思った程の効果が得られないのを見て、
「……悔しいですけど、やっぱり私にはこっちの方が合ってるみたいですね」
 すぐさま『ファイアバースト』の攻撃に切り替える。黒い炎が衝撃と共に爆散し、腐りかけの体に重い一撃を加えた。
「あんまり手間かけさせるんじゃないわよッ!」
 結希はそう言うと、最後の一体からの猛攻を盾で受け止めるルビィに対してEvocation[Genbu] Ver1.02.5の回復アプリケーションを起動させる。
「すまねえ!さて、そろそろフィナーレだ。今度は一旦木綿でも連れて来な……!!」
 こうしてぬりかべの生命力を削っていた所で、
「私に……任せて……ください」
 アイリスがブラストクレイモアを手にやってきた。
「……塗壁の……正しい……対処法……です……」
 そう言うと彼女は紫焔をクレイモアに集中させ、ぬりかべの足元を払う。
 ぬりかべはその攻撃を嫌がるように後ずさった。
「そういえばそんな伝承あったわね……まあ、どうでもいいんじゃない」
 結希は獄炎珠を取り出す。
「私がまた一歩成長する為の『糧』になって貰うわよッ!」
 その長い数珠の中から大きな炎が飛び出し、ぬりかべの体を燃やし尽くす。
 最後に断末魔を一声あげると、ぬりかべのディアボロは身を捩るように崩れ落ちたのであった。


 こうして戦闘は終わった。
 木々もさほど傷つくことはなく、今年の夏もまたこのキャンプ場には賑々しい声が響くであろう。
 しかし、なぜここにディアボロがじっと森の中に居座っていたのか。
 その理由を知る者はいない。


依頼結果