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マスター:タクジン
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/10


みんなの思い出



オープニング

●幸郷会崩壊
 幸郷癒喜(こうごうゆき)という名前はこの街では非常に有名なものであった。
 フリーランスのいち撃退士である幸郷の名前が有名な理由は、幸郷会というフリーランスの撃退士をまとめた組織が存在しているからであった。
 この街ではフリーランスの撃退士の報酬が低い。その理由は多くのフリーランス撃退士がおり、報酬を組織が管理しているからであった。
 撃退士としての仕事で得た報酬は幸郷会が管理し、幸郷会所属の撃退士が依頼に全力を出せるための準備をする。よほどのことがない限り任務に当たる撃退士の装備は幸郷会が所有している良好な装備のため、フリーランスとしては異例の任務成功率を誇っていた。そして、幸郷会に所属している多くの撃退士はその数ゆえに常に余り気味で、撃退士以外の職も持っておりその資金は全くの善意で幸郷会に入れられているため、資金不足に陥いることはまれであった。
 また、依頼報酬が少なくとも任務をこなしてくれることから、大企業の少ない街にとって幸郷会の存在は重要なものとなっていた。
 郷に幸せと、癒しと喜びを。出来過ぎた名前の彼がしたことは個人がやるには出来過ぎたことであり、故に幸郷癒喜の喪失は幸郷会に大きなダメージを与えることになった。

●立花のビデオレター
「情けない話ですが、幸郷会は崩壊寸前なのです」
 学園にビデオメッセージを送ってきた幸郷会の幹部員である立花という男の顔には疲れが見えていた。
「幸郷会は、幸郷さんがいたからこそあの組織を保てていました。ですが現在は、主に古参のものを中心にした遺体・遺品捜索隊による連日の天魔活動区域内での捜索により資金は弱り、幸郷会のような別の組織を作ろうと引き抜きを開始している撃退士達や、抑えられていた幹部員たちの派閥争いなどでもはや見る影もありません」
 幸郷会の混乱は撃退士という武力を所有している人間達の混乱であったために、いままで幸郷会が守ってきていた地域にまで悪影響を及ぼしつつあった。
「私は、古参の撃退士と幹部員の派閥さえなんとなかってしまえばこの混乱は収まるものだと考えています。問題は、幸郷さんの遺体です。これは……見つかることはないでしょう。目の前で食われたのを見た私が証人ですから」
 立花は表情を変えずに、剣と銃を取り出す。
「みなさんに依頼したいのは、捜索隊に先行して天魔の活動区域に侵入し、幸郷さんの遺品を偽装してもらいたいのです。これは、幸郷さんが愛用していた長剣と短銃を模造したものです。報酬は、用意出来るだけ用意しました。お願いします、あいつらに幸郷さんの死を認めさせてください」


リプレイ本文


 幸郷会の撃退士といえば個人としてはともかく、集団での作戦行動は規律正しく精強で、確実に任務をこなすという評価が与えられていた。個人ではなく集団での行動こそが幸郷会の特徴であり強みであった。
 前進する幸郷会の捜索隊の列は乱れている。覇気はあるものの疲労が顔に現れており、捜索隊の指揮者が定期的に声をかけなければ列が乱れていることに気づくことすらできていなかった。ディアボロとの遭遇時も近接戦闘を挑む者は少なく、遠距離からの攻撃や突撃支援を行う者が増えつつあり一戦一戦の時間も伸びていく一方であった。部隊としての形を保っているのは意地と執着だけであり、かつての幸郷会撃退士の精強さはなかった。
 休止中の捜索隊に三人の人間が近づいてきた。みな、警戒した。捜索反対派が邪魔をしに来たのだと思ったのだった。
「お兄さんたち、大丈夫?」
 捜索隊の男達は呆気にとられた。声をかけてきた白井 翡翠(jb7055)の見た目は小さな女の子でしかない。幸郷会にも年少の撃退士はいるが、どこか雰囲気が違う。特に指揮者は天魔の活動区域にいる少女という異常な光景と天使の微笑の影響を受けて、困惑していた。疲労も影響している。
「あのね、ひ〜ちゃんにも幸郷さん探すお手伝いさせて欲しいな〜」
「え、あ……」
「せやで」
 ミセスダイナマイトボディー(jb1529)が翡翠の両肩を掴みながら語り掛ける。翡翠はミセスの巨大なお腹に押されて転びそうになっていた。
「あんさんら、見たところそうとうまいっとるやん。うちらにも手伝わせてや」
「何者だ。お前たちは」
「……世話になったことがある。その恩くらいは返したいと思うのさ」
 イスル イェーガー(jb1632)がフォローに入る。幸郷の死亡説は秘匿されているものではないためどこの撃退士が知っていても不思議ではなく、また皆幸郷のひととなりを知っているため幸郷会以外の撃退士の面倒をみていたとしても(実際そうであった)疑問はなかった。
 なにより、ここにいる人間はみな幸郷に世話をやかれ、恩のある者達であった。イスルの言葉は彼らの行動原理そのものであった。
「あんさんらが疲れてるのは誰が見てもわかるで。このままだと見過ごすってこともあるんとちゃう?」
 指揮者は後ろを振り返る。誰も彼も疲れている。言われるまでもなかった。人手は必要だし、幸郷に恩を返したいという動機も怪しいと思わなかった。
「……頼む」
 捜索隊の指揮者は丁寧に頭を下げた。一人の人間の遺体捜索のために怪我人を出しながら三十名近い人間が疲労を無視して行動し、協力者にはこうして頭を下げる。
 思われていたのだと感じると同時に、この現状を見るに幸郷は善人であり、善人でしかなかった。


 天魔が進行した廃墟にある小さなクレーターの真ん中に、幼いヒリュウが立っていた。
「いい場所だ」
 ヒリュウを飛ばした高河 水晶(jb5270)が呟く。常磐木 万寿(ja4472)が地図を広げながら訪ねる。
「水晶さん、どの方角だ?」
「ここから南に少しであるな。攻撃によって出来たと思われるクレーターがあるのだ」
「ふむ……南で、クレーターね」
 万寿は事前に立花から聞いておいた捜索隊のルートを確認する。多少ずれるが、付近を捜索するはずであった。御堂 龍太(jb0849)も万寿の広げている地図を見ようと覗き込んでくる。
「いいんじゃないかしらぁん?」
「あの、龍太さん、顔が近い」
「やぁだぁ! もうあなたったら、気が早いわよ?」
「そうじゃない」
 龍太は188cmの大柄な身体で「めっ!」とする。オカマ特有の無駄な色気があった。
「はいはいもう行くよー」
 白井 碧(jb4991)が子供をあやすように言う。いつもあやしている子供は捜索隊に同行しているが、連絡はきちんととれていた。
「では、クレーターの場所に行きましょうか」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)も碧に同調する。龍太と目が合う。すぐに目を反らした。回り込まれた。
「龍太さーん。こんな男の子に変な絡み方したらダメですよー」
「あーん残念」
 前進を再開する。龍太の傍には常に碧がガードするように並んでいた。
「……ごめんなさいね」
「? なにがですか?」
「ちょっと自分の過去をダブるのよ、この任務」
「…………」
 龍太の絡みが空元気からなのだと、碧は認識した。男性陣から壁になるように並んでいた碧が後ろに下がる。
「……いいですけど。もう、ほどほどにしてくださいね」
「はーい水晶ちゃん! 光纏の銀色の光がとっても素敵ね!」
 龍太は飛び出して行った。
「……あれ? やっぱり楽しんでいるようにしか見えないよね」


 捜索隊の顔から疲労の色は薄れつつあった。単純に人手が増えたということもあるのだが、増えた相手が明るい空気を作ってくれていた。
「いやぁ、おばちゃんみたいな人が来てくれると気持ちが軽くなるよ。皆思い詰めてたからね」
「いややわぁ、おばはんやなんてーうちはまだ二十代前半なんです」
「ん? いや、確かさんじゅ――」
「二十代前半や。な?」
「う、うん」
 ミセスに気圧されたイスルは笑いながら捜査隊の人間に背中を叩かれていた。
「あのね、ママも一緒に参加してるんだよ? だからね、怖くなんてないの」
「そうかそうか。翡翠ちゃんは偉いねぇ」
 優しく頭を撫でられる翡翠。捜査隊の数名は彼女を守るように布陣していた。子供を失くした男達だった。
「あ、ママから連絡ー」
 翡翠は幸郷の没地点偽装班からの連絡を意志疎通を使いイスル、ミセスに伝えた。
「疲れへんか、翡翠」
「うん、疲れちゃったー……」
「すまないが、休憩を入れないですか?」
 偽装班はもう少し時間がかかるとのことだった。


「いったいわねもう! で、なんて言ってた!?」
「うん、休憩させたって! 距離からして、しばらくは平気だよ!」
 龍太と碧はシールドで四足歩行の動物型ディアボロの攻撃をガードしながら仲間の位置を確認する。
 碧は守るために。
 龍太は連携するために。
 エイルズレトラが二人の間から飛び出す。
「ほら、こっちですよ!」
 エイルズレトラは素早い動きでディアボロを引き付け、翻弄していた。地面に落ちている家具や家電を通りすがりに倒したり開いたりしてディアボロを近づけさせていなかった。相手からすれば、突然目の前に障害物が現れてくるように見えている。
「ほほう。手品みたいであるな。俺も参る」
 水晶はリボルバーCL3をディアボロに叩き込む。エイルズレトラの動きに翻弄されているため狙い撃つのに苦労はなかった。
「ほらほら、こっちこっち……どうぞ」
「ああ」
「いくわよ」
 エイルズレトラはクレーターの近くを走り抜ける。視界の右には万寿、左には龍太がいた。
「鋼糸の餌食だ」
「双剣を喰らいなさい」
 ディアボロは万寿の鋼糸に絡めズタズタにされ、龍太の青紅倚天で切り刻まれた。
「我ながら、これはいいな。何体も倒したようにみえる」
 龍太がクレーターの傍に散らばったディアボロを眺める。とりあえずインパクトはあった。
「しかし、捜索隊の者達も経験は豊富であろう。さすがにこの程度では一体しか倒していないのがわかると俺は思うのだが」
「じゃあ、もっと呼び寄せてきます?」
 水晶の言葉にストレッチをしながら応えるエイルズレトラ。碧と龍太はやれやれと言った様子であった。
「まったくこんなこと……大の大人が子供を心配させて何やってるんだか……」
「たとえ嘘でも、彼らが本当と信じれば嘘は真になる。残された者にはこういう嘘も、必要なのよ」
「……そっか。じゃ、偽装を急ごうか。みんなの事はお姉さんが守るから。一人も欠ける事無く無事に帰ろう」
 彼らはその後、四体のディアボロを撃退した。


「あ〜、あれ何か光る物があるよ。なにかな?かなかな?」
 翡翠の言葉から捜索隊は複数のディアボロとの戦闘が行われたクレーターのある場所を発見した。同時に、ディアボロの残骸に突き立てられた長剣と破損した短銃も発見した。
「……幸郷さんの武器だ」
 そう言った男は違う男に胸倉をつかまれる。それをかわきりに捜索隊はざわつき始めた。
「遺体があるわけじゃねぇ! 生きてるかもしれねぇだろォが!」
「あの人はいつもこれしか武器を持たない! こんな場所で何日も生きていられるわけないじゃないか!」
「俺たちでもめてどうする!」
「本当に、死んだのか……」
「てめぇ今なんて――」
「ええ加減にしィや!」
 ミセスの一括で全員が静止し、注視する。
「あんさんらは有名や。街の英雄達やないか。それは幸郷とあんさんらの築き上げてきたものやないか。なぁ、この会の無くしたくないんか、幸郷の居らん現実から目をそらしたいのかどっちなんや」
「俺たちは……」
「幸郷はすごい人だね。皆を守って最後までここで頑張ったんだね。きっととっても強い敵と戦ったんだよ」
「っ!」
 翡翠は涙を流していた。演技だった。完璧な演技だった。六歳の女の子にここまでさせているのは、死を受け入れきれない者達の、残酷だがただのわがままであった。
「あ、ママぁ……」
「翡翠! なんともなかった!」
 偽装班が頃合いを見て合流した。彼らはすでに同行班から別働隊がいることを知っていた。偽装班は捜索隊がまだ納得していない様子を見て説得に来たのだった。
「あっ……」
 碧は翡翠を抱き寄せながら戦闘跡に手を伸ばし、また翡翠を抱き寄せる。
「幸郷さん立派な最後だったんだね……誰よりも側にいた君たちがその事実を認めて前に進まないと行けないんじゃないかな? 幸郷さんの意志を継いで立派な撃退士にならなきゃ」
「きっと幸郷さん帰りたかったよね。一緒におうちに帰ろうよ皆元気で帰ってまた頑張ろうよ。そしたら幸郷さん喜んでくれるよきっと」
「だけど、俺たちには幸郷さんがいないと……」
 彼らは幸郷の死を受け入れつつあった。
 イスルが長剣を引き抜いた。そのまま捜索隊の者に差し出す。
「……本当に、幸郷さんのことを思うならどうすべきか。冷静に一度考え直してみることだよ。幸郷さんの想いとしてきたことを、無駄にしたら駄目だ」
 捜索隊は撤退を決定した。
 みんな、疲れていた。

 捜索隊帰還後、幸郷癒喜の正式な死亡が発表された。その後の幸郷会については捜索隊解散後幹部員達が派閥騒動の収束に向け行動を開始し、いくつかの逮捕者と脱会者を出して騒動は収まった。新たな代表は幸郷という名前ではなかったが、幸郷会という名前は引き継がれた。
 作戦に参加した学園撃退士達については、立花が捜索隊に外部に漏らさぬよう言い渡した。いらぬ騒動を避けるためであった。
 しかし、幹部を引き継いだ多くの捜索隊の者達は幸郷捜索時に彼らに言われた言葉を忘れてはいなかった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 食欲魔神・Md.瑞姫・イェーガー(jb1529)
 悲しみを終わらせる者・イスル イェーガー(jb1632)
重体: −
面白かった!:5人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
落葉なき宿り木となりて・
常磐木 万寿(ja4472)

大学部9年287組 男 インフィルトレイター
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
食欲魔神・
Md.瑞姫・イェーガー(jb1529)

大学部6年1組 女 ナイトウォーカー
悲しみを終わらせる者・
イスル イェーガー(jb1632)

大学部6年18組 男 ディバインナイト
鋼鉄の胃袋・
白井 碧(jb4991)

大学部5年194組 女 アストラルヴァンガード
『久遠ヶ原卒業試験』次席・
高河 水晶(jb5270)

大学部3年39組 男 バハムートテイマー
宿題ナニソレおいしいの?・
白井 翡翠(jb7055)

小等部4年2組 女 バハムートテイマー