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マスター:タクジン
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/04


みんなの思い出



オープニング

●左翼部隊は撤退した。全部隊撤退せよ
「右に虎のディアボロです!」
 その叫び声に反応してくれたのは1人だけであった。この一帯に撃退士は10人いたが、他の6名は既に手一杯でその場を動けなかった。他の2名は行方不明になっていた。
 虎やライオンに象にキリンのディアボロス。過去に撤退の間に合わなかった動物園が原因でディアボロ化した動物たちだった。ちなみにこの一帯にはネコ科のディアボロが多くいた。他の場所には別部隊が行っていた。
「おい! 右翼の奴らは抜け出せたのか!? あいつらのせいで撤退できねぇんだぞ! 中央が増援を送ってから何分立ったと思ってんだ!」
 企業に雇われたフリーランスの撃退士達は中央、右翼、左翼にそれぞれ15名、10名、10名ずつ展開してディアボロの集団に突入していた。撤退の頃合いだが、どれかの部隊の足並みが崩れると他の部隊が包囲される危険があった。救いは平野であったため、視界不良によりディアボロの奇襲を受けることはなかった。左翼部隊は山合いに位置しており、他の部隊よりも高い場所で戦闘していた。
 もともと、このディアボロ集団はまだ戦闘の必要はなかった。事実、彼らは天魔の活動区域深くに侵入して戦闘を行っている。しかし、強力であろうことは推測できたために将来への対処が必要であった。結果、大規模部隊による偵察を兼ねた戦力減少という作戦がとられ、この有様だった。
 一体の大きな猫が倒される。ようやく部隊に少し余裕が出来る。
「ちゅ、中央の奴らの姿が見えません!」
 望遠鏡を構えた一人の撃退士が報告した。
「よく見ろ。木に登れ。見えねぇわけねぇだろうが」
「見えません! 中央だけじゃなくて、右翼もいません!」
「なっ……ふざけんな! どけ! 俺が確認する!」
 彼が見たのはこちらに接近しつつあるディアボロ達の姿だけだった。
 彼らは既に見捨てられていた。


リプレイ本文

●敵主力確認
 前進する撃退士達は自分たちがあるラインを超えたことに気づく。上空から見るとよくわかる、ディアボロ達の死骸で構築されたその線は、フリーランスの撃退士達がディアボロを迎撃し続けた抵抗線だった。
「そろそろでしょうか」
 ユウ(jb5639)が誰ともなしに言った言葉に撃退士達はそれぞれ反応した。
 二列に近い形で前進する撃退士達の人数は八人。しかし、この死骸による抵抗線を作り上げた撃退士の人数は十五名。敵集団の戦力は弱まっているとはいえ、決して十分と言い切れる人数ではなかった。
「自衛隊の陽動隊はうまく敵を分散させてくれたみたいね」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)が自衛隊の機動部隊との無線を切る。とりあえず敵集団の全力攻撃を受ける心配はなくなった。ユウも携帯電話で状況を確認する。
「時間を掛けられないし連携も求められるから、時間を無駄にはできないわね」
「ええ。フローラさん、見えてきました」
 遮蔽物の少ない平野のため、接近しつつあるディアボロの姿が確認できた。情報に比べて数は多くない。主力ではないようだった。ただし、撃退士の倍の数はいる。
「あらぁ…? 主力じゃないのかしらぁ?」
 黒百合(ja0422)がゆったりと構えながら伺う。敵集団を釣り出すことが目的のため、戦闘を避けて迂回するという手もあった。
 黒百合の隣を歩く橋場 アトリアーナ(ja1403)も武器を構えた。
「……さ、暴れますの。それだけ、こっちに引き付けられる。ね、黒百合?」
「うふふ、そうね」
 初撃を加えたのはミリオール=アステローザ(jb2746)だった。
「さぁ、派手に行くと致しましょうですワ!」
 彼女は低空で飛行し、敵群の側面に突っ込んだ。大きな猫の眉間にグラビティゼロを叩き込む。敵群はまだ距離のある撃退士達ではなく彼女の方向に注目した。
 密集しかけた敵群はクレイシスによる無数の刃によって蹴散らされる。攻撃を加えたヒース(jb7661)は恭しく一礼をしていた。
「俺が相手だ! こっちこい!」
 梶夜 零紀(ja0728)は敵を引き付ける目的で大声を出しながらミリオールとは逆方向へ飛び出す。まだ元気のあるディアボロを呼び出すつもりだった。ステップを踏み、敵影を重ねる。封砲を放った。何体かはひるまず突貫してくる。
「まずっ――」
「あたしに任せてっ!」
 ヌール・ジャハーン(jb8039)が零紀の前に飛び出し、シールドで攻撃を受け流す。攻撃を防御され体勢の崩れたディアボロは、気配を消していた紅香 忍(jb7811)によって始末される。
「……さよなら、です」
 忍はチタンワイヤーでディアボロの首を絞め切り落とした。
「ヌール、忍、ありがとう。助かった」
「無事で何よりです。ぶい!」
「……まだ来ますよ」
 遭遇した敵群の規模から、多いものの皆敵主力と遭遇前に殲滅してしまうつもりであった。囮として活動するにしても、倒しきれる規模の敵は倒しておきたい。
 生き残ったディアボロ達が逃げ始め、追撃が開始された。もしかしたら、主力と合流してくれるかもしれない。陣形は再び二列、広がって侵攻していた。
「左に敵、集団だわ!」
 陣形左にいたフローラが警告とともに氷晶霊符で攻撃を開始していた。追撃していた敵は逃げているためとりあえず脅威ではない。皆、左に注目した。
「本命ですワ」
 今度はミリオールが飛び出さなかった。先ほどとは状況が違う。
 囮部隊は、先ほどの三倍以上の戦力の敵集団――ディアボロの主力群と遭遇した。

●合流
「もっとや! もっと高度下げな敵さん食いつかん!」
 ヘリの中で渡されたインコムに向かってゼロ=シュバイツァー(jb7501)は叫ぶ。ヘリはもともとそうしなければ声が聞こえないほどのものなのだが、今はさらに扉が開けられている。そこからはベルトで身体を固定している宇高 大智(ja4262)がミルファクで地上のディアボロに向かって攻撃を行っていた。射程範囲外のため威嚇程度にしかなっていない。
 孤立部隊支援のため向かっていたヘリだが、今は目的地より1キロ手前でホバリングしている。地上をジープで移動している佐藤 としお(ja2489)の敵突破のための支援行動だった。
 上空から敵の薄い場所を指示され移動してきたが、どうしても突っ込まなければならない場所があった。
「としおさん! 敵が左にずれました! 右から突破してください!」
「ありがとう! 突破した! もう大丈夫だ!」
 孤立部隊抵抗地点に到着後も、落ち着く暇はなかった。孤立部隊は以前戦闘中であり、彼らは既に疲労の限界にあった。
 第一に到着した大智はヘリから降下後、目に付いた敵にヴァルキリーナイフを投擲しそのまま薙刀を構えディアボロに突っ込む。
「加勢しますっ!」
 大智はあくまで敵を押し返す程度に攻撃を行う。しかし、ここで大事なのは勢いであった。孤立した部隊には何より元気が必要だった。次に降り立ったゼロも勢いを付けるために前に飛び出し銃で弾をばら撒く。
「なんや、びびっとるであいつ!」
「ふぅ〜何とか到着っと」
 としおの到着を見て、ゼロはあたりを見渡す。孤立部隊の士気は上がっていた。
「動けんのは誰や? はよ運ばんと」
 負傷者は陣形の中央に集められていた。大智が走ってくる。癒しの風を使用するつもりだった。としおは大智が抜けた場所に行き攻撃を開始した。
「回復します。大丈夫です、生きて一緒に帰りましょう」
「ほな、乗せるで、しっかり掴まりや」
 負傷者を乗せ終わる頃には、敵の攻勢も弱まっていた。
 ゼロは孤立部隊におにぎりを手渡した。
「大変やったな。もう大丈夫やで。とりあえず腹ごしらえしてあとひと踏ん張り頼むで」
 一瞬戸惑いの表情を見せるが、みなありがたく受け取ってくれていた。
「さて皆さん、ここからが本番ですね!」
「脱出、成功させましょう」
 ゼロは囮部隊に連絡を取った。お互いの現状報告を完了した。
 囮部隊は敵主力群との戦闘を開始していた。

●仲間が退くまで
 六名の撃退士による範囲攻撃の光景は、爆撃という言葉が似合っていた。
 黒百合の影手裏剣・烈の棒手裏剣でズタズタになり、フローラのEisexplosionによる氷の結晶を浴び、ミリオールの煌翼結界による光線で撃ち抜かれ束縛の効果まで貰い、止まったところをアトリアーナの徹光弾と零紀の封砲の十字砲火で仕上げられ、ヒースのクレセントサイスの刃で追い討ちをかけられる。
 それでもなお、突撃を続けるディアボロも存在していた。
「っぐあぁ!」
 ヌールが攻撃の雨を突破してきた獅子のようなディアボロの攻撃をシールドで受け止める。吹き飛ばされないか怪しかったが、172キロの天使はスキルと自重で地面に足を埋めながら耐えた。
 それでも突き進もうとするディアボロだったが、転倒してしまう。足がなくなっていた。次の瞬間には首すらなくなっていた。黒百合がデビルブリンガーをくるくると回していた。
「食いついてきたから、一旦後退しましょう?」
「あ、ああ。そうね、ありがとう」
「ふふ……鬼さんこちら、手の鳴るほうへェ」
 囮として敵を誘導することは苦労であった。敵の移動速度がバラバラなため、攻撃を受けないように速い敵に合わせて後退してはついてこれない敵が孤立部隊の方に向かってしまうかもしれない。動きの遅いディアボロに合わせての後退のため速度の速いディアボロとは下がりながら戦わなければならなかった。
「すばしこいっ、わね!」
 フローラはクロセルブレイドで氷の刃を広げつつ、敵が深く攻め込んでくるのを防いでいた。右隣にはヒースが、ラディウスサイスとソウルサイスを使い分けながら声を上げずに戦闘していた。左隣にいる零紀はワイルドハルバードによるスマッシュで敵を確実に減らしていっていた。
「さあ、来い。お前たちの相手はこっちだ……まだ遊び足りないだろう?」
「そうよねぇ……まだ遊び足りないわよねぇ?」
 零紀の隣で黒百合も敵の数を減らしつつあった。みな、休む間もない。常に敵がなだれ込む危険があった。
 フローラの攻撃を避けたディアボロがグラビティゼロで吹き飛ばされる。アトリアーナの援護だった。
「……あぶないときは、いつでも呼んで。」
「助かったわ」
 アトリアーナはさらに一体のディアボロを補足し、グラビティゼロで吹き飛ばす。少しでも敵が孤立すると、忍がチタンワイヤーで止めを刺しにかかる。
「……生きてれば反撃する」
「そうそう、確実にね」
 ヌールもクロセルブレイドで倒しやすい敵を減らしていく。
「そちらは……いけませんよ」
 ユウは上空を飛行しながら囮部隊が取り囲まれないように迂回しようとする敵を遊撃していた。撃破はしていないものの、上空からの銃撃はディアボロ達にとって十分な脅威であった。反対方面には同じくミリオールが飛行している。
「深淵へようこそー、ですワ♪」
 彼女は煌翼結界で複数の敵にダメージを与えつつ、束縛させた後吸引黒星で体力の回復も図っていた。元気なようにみえて、囮部隊も疲労が溜まらないわけではい。
「ゼロさん、もうよろしいかと」
 ユウは孤立部隊にいるゼロに連絡を取った。敵の包囲は既に解かれていた。
「包囲を脱出できるまで時間を稼ぐとしましょうか」
 フローラの言葉を聞いて全員が、任務の終わりを意識した。

●それぞれの撃退士
 としおが乗りつけてきたジープに彼の姿は見えない。もともと孤立していたフリーランスの撃退士五名と、運転手として増援部隊である自衛官一名が運転手として乗車していた。フリーランスの撃退士を優先して乗せているのは単純に疲労度の問題からであった。運転手が自衛官なのも単純に、自衛隊装備のジープのため自衛官が一番うまく運転できるからであった。
 ジープを中心にとしおとゼロが先頭を、左右に二人ずつの自衛官、殿として大智という陣形で包囲突破を図っていた。
 囮部隊がディアボロの主力を誘導してくれたからといって、まったく敵がいなくなったわけではない。まだ気は抜けなかった。
「としおさん、あのくぼみと倒木の付近が怪しいです。重点的に索敵願います」
「左方向から音が迫ってきます、離れましょう」
「は、はい。あちらですね」
「……なんや、流石プロやな」
「……すげぇ」
 三人の撃退士は、戦場を移動するプロの自衛官たちに素直に感心していた。全て独学のフリーランスの撃退士と、厳しい訓練を受ける自衛隊撃退士に、学園で学んでいく撃退士という異なる三つの撃退集団は順調に敵との戦闘を避けつつ撤退を続けていた。
 それでもやはり、機動力のある敵には何度か補足され、戦闘状態に入ってしまう。
「後方に一体、迎撃します!」
 ミルファクでダメージを与え、射程に入り次第ヴァルキリーナイフで止めを刺す。車から援護しようと銃をとりだしていた撃退士が口笛を鳴らした。
「すげぇ手際だなぁ、にいちゃん」
「ここまで戦ったあなたがたほどではないですよ」
「だぁくそ、左からも来とるで。二体やな」
 ゼロの防御射撃に大智もすぐに加わる。
「ゼロさん! 前方からも来ます!」
 としおが敵を見つける。前方だけではなく、左の敵も増援しつつあった。
「一気に突破しちゃいましょう!」
 飛びかかってきた小型のディアボロを回避射撃で撃ち落としつつ、としおが提案した。戦力的に、少数の敵ならば突破できないわけではない。それに、こちらが脱出しなければ囮部隊も撤退できなかった。
「おっしゃ、これで最後や! 気合い入れていくで!」
 彼らはフリーランスも軍も学園も関係なく、全力で強力しあった。

●任務終了
 発煙手榴弾の煙で視界が曇る。黒百合が投擲したものであった。天魔に対して有効だとは言い切れないものであるが、全員に意思を伝えるのには有効なものであった。
「もう終わりですから、帰りますよぉ」
「みんな助かったなの? なら、こっちもみんな無事で撤退ですの」
 撤退の先頭にいたのは忍であった。自身の身の安全からの行動なのだが、それゆえに撤退ルートは安全な場所を見つけて通っているため、他の撃退士たちはあれこれ確認せずにただ彼のあとを追いかけていった。
「しつこいわねぇ!」
 フローラが後方に氷晶霊符を放つ。ヒースもこまめに後ろを振り返り、モーゼル・ライエンフォイヤーで追っ手を牽制している。
 徒歩での移動のため、どうしても素早いディアボロ達はしつこく追いかけてくる。それでも大半はある程度のダメージで追いかけるのをやめてしまう。しかし一体、いつまでも追撃をやめないものがいた。大型の熊のようなディアボロだった。見た目よりも動きが速かった。
「……ミリオールさん、まだ飛べますか?」
「いけますワ。よし、やっちゃいますワ!」
 ユウとミリオールは飛び立ち、そのままディアボロの後方と直上に回り込む。ユウは直上からガルムSPで銃撃する。
「ミリオールさん!」
「ですワ!」
 ひるんだ隙を逃さず、後方に回り込んだミリオールが灰燼の書による炎の剣でディアボロに大きなダメージを与える。
「十分でしょう。これ以上は孤立してしまいます」
「さよならですワ」
 撤退していく撃退士達を追いかけるものはもういなかった。
 こうして救助作戦は無事に終了した。

●帰還
 天魔の活動区域を抜けた彼らを待っていたのは、この状況を作り出した企業の人間達であった。医療班が待機している。食事の用意も出来ている。街の慰安施設も開放しよう。なにか特別手当を出さなければ。
 言葉を重ねる企業の人間に零紀が近づき、胸倉をつかみ上げ。
「俺達は天魔という人知を超えた存在と戦っている。面子を守る余裕があるんだったら、奴等を一匹残らず撤退させてくれ。……これ以上、犠牲を出す前にな」
 零紀の姿をみて、同じく文句を言ってやるつもりだったとしおは背中を向け、無事帰還したフリーランスの撃退士達のほうを向いた。
「そういえばさっき、うまいラーメン屋を教えてくれるって話でしたよね!」
「なんや、そんな話しとったんかいな」
 としおは撤退中に地元のフリーランスの撃退士にそういう約束を取り付けていた。帰るという気持ちを意識させるためでもあった。
「いやぁ、みんな無事に帰れてよかったわね。ぶい!」
 ヌールはみんなの顔を見ながら帰還を喜んでいた。誰も、企業の相手をしていなかった。文句もあったが、それは零紀が代弁してくれた。
 皆は作戦の終了と救助の成功を確認し、それぞれの場所へ帰還した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ファズラに新たな道を示す・ミリオール=アステローザ(jb2746)
 優しき強さを抱く・ユウ(jb5639)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: −
面白かった!:7人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
不器用な優しさ・
梶夜 零紀(ja0728)

大学部4年11組 男 ルインズブレイド
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
駆け抜ける風・
宇高 大智(ja4262)

大学部6年42組 男 アストラルヴァンガード
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
黒鴉より暗き翼の・
ヒース(jb7661)

大学部7年101組 男 ナイトウォーカー
Lightning Eater・
紅香 忍(jb7811)

中等部3年7組 男 鬼道忍軍
暴れ馬に抗う者・
ヌール・ジャハーン(jb8039)

大学部7年74組 女 ディバインナイト