.


マスター:タクジン
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/28


みんなの思い出



オープニング

●夜逃げ後の打開策
「……社長、いつまでも落ち込んでいてはいけません。なにか打開策を」
「わかってる。だけどな、信用していた奴だったんだよ」
 天魔の出現から数年経ってなお、経済が完全に安定したとはいいがたい状況であった。
 例えばこの会社のように、信用のある子会社がいきなり蒸発することもあるのだ。
「いい人過ぎたのですよ。どんな人間でも工場に受け入れたいたようですから、社員がなにかしたのでは?」
「いや、済まない。落ち込んでいても仕方がないな」
 会社としては、なんらかの対応をしなくてはならない。しかし、この会社は雇用を生み出すくするためにいくつもの工場と契約をし、各部署での作業を単純化しようとしていた。であるから、一つの部署がなくなってしまえば製品が完成しない。
「工場はまた探そう。しかしとりあえず、どうするべきかだな。他の工場はしっかりと働いてくれている。契約金を払えないでは済まされない」
「……旧工場の倉庫には、出荷前の在庫が山のようにあったはずです」
「天魔の活動区域だ。撃退士を雇ってもいいが、積み込みや荷卸しなんかは素人じゃないのか? 天魔が出てきてもおかしくない場所で、そう長い時間作業させるのは金がかかる」
「撃退士には護衛をしてもらいましょう」
「護衛?」
「私はもともとトラックの運転手ですよ。積み下ろしなんかは今でも手伝います」
「お、おいまさか」
「はい。天魔の活動区域には、私が同行します」
 ストーブなんかがこの季節には売れるでしょうねと、彼は笑顔で言った。


リプレイ本文


 天魔の活動区域に侵入した三台の車両は、一台が十分前後先行して偵察を行いながら前進していた。放棄された街中を進んでいるため、偵察隊の重要度は増していた。
「ここの道は塞がってますねぇ」
 神酒坂ねずみ(jb4993)は地図を広げてルートを再確認する。地図は貰っているが、ルートの変更は出発してからすでに三回目であり、あくまであてにする程度になっていた。
 ジープの運転手は走っていないと不安なのか、停車してもハンドルを握りしめていた。
「そんなに怯えなくとも近くに敵なんていませんわ」
 シャロン・リデル(jb7420)の言葉は冷たかったが、素直じゃない彼女なりの気遣いの言葉だった。
「安心しろっての」
 東郷 煉冶(jb7619)は太い左腕を運転手の首に絡めた。右手は銃を握ったままジープの外に向けられている。
「俺らがついてるんだ。力抜け」
「は、はい」
 彼はようやく身体の力を少し抜いた。シャロンの敵はいないという言葉と、煉治から感じるストレートな力強さに励まされていた。
「それじゃあ運転手さん、右に曲がってください」
 ねずみが道を指示する。車が動き出すとフローラ・シュトリエ(jb1440)が無線を取り出し遅れてくるトラック護衛組に連絡をとった。
「道が塞がってたのよね。うん、その場所よ。右に一本ずれてほしいのよね」
 道が使えない度にこのやりとりをしており、地図には様々な書き込みがされている。
 一方、トラック護衛組は護衛対象が大きいものの、いくらか気は楽であった。
 狐珀(jb3243)が抗天魔陣を使用しているため、ディアボロとの遭遇率は格段に下がっていた。
「了解じゃ。そのように進む……ふぅ。先行組は大変そうじゃのう」
 助手席に乗っている弧珀は半獣の姿を隠そうともしていなかった。普段から着脱式ファスナーを持ち歩いておりキグルミだと言い慣れているため、撃退士に慣れていない作業員達はそういうものなのだと認識した。
「慎重なのはいいことですよ〜」
「そうですね」
 天羽 伊都(jb2199)の言葉にイアン・J・アルビス(ja0084)は同意する。
「慎重な行動は行きすぎなければ絶大な効果を生みます。相手は天魔ですし」
「失敗は……したくないですからね〜」
「真面目じゃのう。まあ、良いことじゃ。そこに諧謔が加わるとなお良い」
「弧珀おねーちゃん、諧謔ってなーに?」
 ユウ・ターナー(jb5471)も会話に加わる。
 喋りながらも、みな決して気が緩んでいるわけではなかった。会話はしていても、誰一人として目を合わせていない。視線はジープの外側に向けられていた。
 弧珀のスキルにより感知が難しくなっており、なんとか見つけてディアボロがやってきたとしても車から身体を乗り出している一見無防備で、実は囮であるユウを狙うことだろう。しかしイアンと伊都の弾幕と、ユウの弓と弧珀の狐火が容易には近づけさせない。
 予定より五分ほど遅く、先行組が倉庫に到着した。しかし、まだディアボロとの戦闘は確認されていない。


「開きました」
 ねずみが倉庫の鍵を開けた。ねずみの索敵により周囲の警戒はされているが、倉庫内の様子はわからない。そのため突入は、ねずみが倉庫入口から少し離れた場所にいるフローラと運転手のもとに戻るまで行わなかった。倉庫への突入は煉治、シャロンで行う予定であった。
「あんたら、準備はいいか?」
 煉治のこめかみに固定されたペンライトは既に点灯している。
「まずは光源の確保、ですわね」
「予定より到着が遅れてるから、手早く行きたいよね」
「そうだな」
 煉治が倉庫の扉を開けるシャロンは素早く倉庫内に侵入する。シャロンのトワイライトにより倉庫内は薄暗く照らされる。しかし、棚が多いため真上からの光源でないトワイライトでは闇が多い。
「暗ぇな、やっぱ。おっ、これが窓のハンドルか?」
 シャロンに続いて倉庫に侵入した煉治がハンドルを回す。入口の上にあった巨大な窓が開き、光が取り入れられる。
「随分明るくなるのですわね」
「それでもやっぱ、影が多いな。さて、反対側も開けに行くか」
「シャロンさんとフローラさん達は運転手を連れて外周を周るのでしょう? でしたら、私は上からトワイライトで照らしながら、煉治さんは」
「下からの影を照らしながらだな? じゃあ行こうぜ」
 窓の開閉は外からでも確認ができた。
「では、私たちも行きましょうか」
「外周りよね。じゃあ運転手さん、両手に花で行こうかしら」
「こんな状況ですけどね」
「は、いえ、嬉しいです!」
 すっかり動揺している運転手の言葉に、二人は顔を見せないように小さく笑った。
 その後、トラックは予定通りに到着した。
「よし! 作業を始めよう!」
「「「おぉ!」」」
 倉庫に着くや否や、作業員達はトラックから飛び出し倉庫に向かった。連絡は密に取っていたため安全が確認されているのは全員が知っている。
「気合い十分じゃのう。私は先頭の彼についていくことにするかのう」
「続きます」
 弧珀とイアンもジープから飛び降り走っていく。伊都、ねずみも続く。
「僕は最後ほうを守るよ」
「トラックから援護します」
 作業員達の製品搬入方法は一人一人が製品をもってトラックへと運ぶのではなく、間隔をあけて並んでトラックまで運ぶというものであった。目的のストーブは倉庫入口の近くにあり、距離は一番遠い棚でも三十メートルないため、五人いればわずか六メートルしか移動しなくて済む。複数人がバラバラに行動しないため護衛も行いやすかった。
 倉庫の一番奥に行く作業員に弧珀がつき、そこからトラックまでの中間にイアンと伊都、そしてトラックの上からねずみが拠点を守るという配置だった。
「早期発見が重要ね。しっかり見張りましょう」
「そうだな」
「シャロンおねーちゃん、頑張ろ!」
「そうですわね」
 巡回は二人一組での行動だった。ユウとシャロン、フローラと煉治に分かれた。
 ここまでは順調であった。気がかりは、トラック到着前に一体の犬型ディアボロとの戦闘があったことであった。


「むむっ!」
 まず気が付いたのはユウだった。
「どうしましたの?」
「鈴の音が鳴った!」
「っ!」
 ユウは巡回しながら、木や建物などの間にロープを張り、そこに鈴をつけて警戒線を構築していた。
「音はどちらから?」
「あっちだよ! 行こう!」
 ユウとシャロンは闇の翼で飛行し音の方角へ向かった。二人一組で行動するため悪魔同士の組み合わせであり、作業員達からは見えない倉庫の裏側を広くカヴァーしていた。
「いたよ、シャロンおねーちゃん!」
「足止めしますわ!」
 犬のようなディアボロが三体、倉庫裏の窓に向かって走っていた。
 シャロンがアブラメリンの書から矢を飛ばし、ディアボロの付近に着弾させる。一体には直撃したようで、その場で動かなくなった。もう二体は二人に気づきこちらに向かってくる。
「そこにいたら、届かなかったのに……ね!」
 距離が近づいたことで、ユウのキューピットボウの射程になった。矢を放ちながらもユウとディアボロの前進は止まらない。
「援護しますわ!」
 シャロンは空中で停止し、狙いを定めた。ユウの矢が着弾していないほうのディアボロを狙う。
「仕留めますわ」
「止めだよ!」
 ユウに二匹のディアボロが飛びかかる。一体は空中でアブラメリンの書から飛び出た矢によって切り裂かれ、もう一体はユウのサンライズヨーヨーの炎に焼かれていた。しかし二人に喜ぶ暇はない。
「っ!? 倉庫の壁ですわ!」
「えっ!?」
 四体の猿のディアボロが倉庫の壁を登っていた。二人は迎撃する。
「くっ! 多い!」
「遠いィ、なぁ!」
 壁にいくつもの矢が刺さる。串刺しになったのは、二体だった。もう二体は倉庫の窓ガラスを割って中に入ってしまった。
「護衛班っ! 猿のディアボロが二体、倉庫裏の窓から侵入しましたわ!」
「シャロンおねーちゃん! まだくるよ!」
 シャロンは振り返る。追撃している余裕はなさそうであった。
「裏からディアボロが侵入しました。搬入は?」
「あ、あと五分ください!」
 製品を落としそうになりながら作業員は答える。煉治とフローラからもディアボロ発見の連絡が届く。しばらくしてから戦闘の音が倉庫の外からでもはっきりと聞こえ始めた。
「私は棚に上って遠距離から仕留めるかのぅ。接近した奴は任せたの」
 弧珀は棚を登り始める。下にいては、棚が邪魔で遠距離攻撃は難しかった。
「大丈夫、何としても上手いこといかせて、荷物を持ち帰りましょうね〜」
「僕は、棚からの奇襲に備えましょう。作業を急いでください」
 作業員に重なるようにして通路に出た伊都の目に、紫炎の狐がうつる。弧珀の狐火〜狐毒〜だった。
「ええい、近寄るでないわ! ……むう。一匹はあてたが、もう一匹が見えないのぅ」
「見えました!」
 伊都の視界に猿のディアボロが入ってくる。通路を挟んで棚の間を飛びながら接近してくる。伊都はスナイパーライフルで迎撃するが、斜線が狭く相手も速いためタイミングが短すぎた。
「ならこっちも加速します!」
 距離が近くなったところで神速を使い、ツヴァイハンダーFEの長さを生かしてディアボロを突き飛ばす。伊都は倒れているディアボロにツヴァイハンダーFEを突き立てた。
「完全に倒しきらないと、危ないからね」
 倉庫に侵入した二体のディアボロは撃破された。倉庫の外からの戦闘音は続いていた。


「おいおい、何体目だ?」
「七体倒したところまでは覚えてるわ。追い払った数はもうわかんないよね」
「笑えるなぁおい」
 煉治の言葉にフローラは気のない笑い声で応えた。
 倉庫の入口から左方面から、ディアボロ達はどんどん沸いてきていた。こちらには煉治とフローラ、トラックの上にねずみがいた。ねずみの索敵で別方向からも少数倉庫に向かうディアボロも数回感知しているが、二回ほど見過ごしている。トラックの安全を確保するためにこれ以上の戦力を割けないためであった。一体二体ならば、倉庫内の四人に任せるしかない。倉庫の裏にいるユウとシャロンも似たようなものであった。
「また七体……八体近づいてきます。移動の速さから猿が三、犬が五です」
 ねずみが二人に報告する。索敵ではなく、肉眼での確認であった。索敵はもう使えない。物資搬入のための駐車場と通りに面していなければ、すでに撤退していたかもしれない。
「俺とねずみの射撃であいつらを集める」
「範囲攻撃は後二回使ったら終わるわ」
「あと二回か。こいつらやったら撤退だな。これ以上は無理だ」
「煉治さんとフローラさん、積み込みもうすぐ終わるそうです」
 二人の返事を聞く前に銃撃が始まる。ディアボロ達は既に射程内に侵入してきていた。
 六体のディアボロが密集していた。距離は大分近づいてしまっている。
「氷を喰らいなさい!」
 フローラのEissandによって氷晶が舞い上がる。何体か倒しきれないものもいるが、基本的には弱いディアボロなので致命傷・石化の影響を受けるため脅威ではなくなる。
「おらおらァ! こっちにきやがれ!」
 煉治の怒声は自身の銃撃音に負けていなかった。残った二体を引き付けている。フローラとねずみは煉治の支援を行わない。増援が向かってきているのを確認していた。それに、煉治ならばこの区域のディアボロ二体程度問題ないことを今日で十分知っている。
「そうやってシビレを切らすのを待ってたんだよっっ!!」
 突撃してきた二体のディアボロに白龍三節棍を連打させる。弱いディアボロ二体ならば同時に迎撃できる武器であった。
「多いわね、もうっ!」
 フローラは四体のディアボロを相手にしていた。クロセルブレイドを振り回し周囲を氷の刃で切り裂いている。ねずみはディアボロがフローラに近すぎるためライフルでこれ以上フローラにディアボロが接近しないよう牽制していた。
「不生不滅、不垢不浄、不増不、減っ!」
 トラックに接近しすぎたディアボロを倒すため機械剣に持ち替えトラックから飛び降りる。ディアボロを斬りつけながら煉治とフローラを探す。見つけた。援護は頼めなさそうだった。
 ねずみの両再度から剣が飛び出してくる。伊都のツヴァイハンダーとイアンのクルーエルスピアだった。
「しばらく、できれば10分程こちらを見ておいていただきましょうか」
 イアンがタウントを使用してディアボロの注目を集める。そのままトラックから離れていくように移動する。移動しながらもディアボロを数体倒す。
「もう出ていくから、ちょっとだけ離れててください!」
 伊都はイアンに集まりつつあるディアボロを神速を使いイアンに取り付くまでに間引いていく。氷晶が舞い上がる。フローラがまとまったディアボロを撃退していた。
「撤退します。ディアボロを引き離したら発進しましょう」
 合流してきたイアンと伊都。それにトラックに乗り込んでいる作業員を見て煉治とねずみ、フローラは一息つく。
「あんたらだけか?」
「弧珀さんは倉庫裏の二人の撤退支援をしに行ったよ! すぐに出発できるように、だって」
「そういうことです」
 倉庫裏のシャロンとユウは、弧珀の姿をみて安堵した。
「御二方、撤退じゃ!」
「助かるわ! もう限界なのよ!」
「弧珀おねーちゃーん!」
 弧珀は笑顔で雷帝霊符を撃つ。戦力が一人増え、ようやくディアボロを押し返す。
「ほれほれ、人間達に置いて行かれるぞい?」
「もう飽きるくらい倒したわ」
「ユウももういいよ! 帰ろ!」
「よいよい。悪魔ならそのくらい言えんとな。あとで尻尾をモフらせてやろう」
「わーいやったー!」
「べ、べつに……あ、あとでね」
 倉庫裏から撤退し、全員そろったところで撤退が始まった。振り切れないのは数体後ろに張り付いていた。
「まだついてきてるのがいるよ!」
 ユウが報告する。しかし、キューピットボウでは射程外であった。
「しつこいですね。弾が欲しければどうぞ」
 イアンの射撃に続いて各々攻撃を行った。
「じゃあ私は氷をプレゼントしてあげる」
「もう飽きたのよね。これで最後にしてちょうだい」
「…………」
 フローラの氷晶霊符とシャロンのアブラメリンの書による攻撃後、ねずみは最後に小瓶を投擲した。追撃してくるディアボロの傍で小瓶は割れ、ディアボロ達は悶えていた。
「ね、ねずみおねーちゃん、いまのなに?」
「機械油の入った小瓶です。犬型なので、ものの試しに」
 追撃を振り切るともうディアボロは現れなかった。なにか、群れを呼ぶ存在がいたのかもしれなかった。
 天魔の活動区域から脱出すると、依頼をした会社の社長と、数名の社員が寒いなか外で待っていた。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
 社長の土下座から作業員達も同じことを始め、撃退士達はなんとか頭を上げさせた。
「ありがと、ございました!」
 声の揃った感謝の言葉。
 帰り際も、彼らは撃退士達が見えなくなるまで深く頭を下げ続けていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: EisBlumen Jungfrau・フローラ・シュトリエ(jb1440)
 黒焔の牙爪・天羽 伊都(jb2199)
 猫殺(●)(●)・神酒坂ねずみ(jb4993)
重体: −
面白かった!:6人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
狐珀(jb3243)

大学部6年270組 女 陰陽師
猫殺(●)(●)・
神酒坂ねずみ(jb4993)

大学部3年58組 女 インフィルトレイター
天衣無縫・
ユウ・ターナー(jb5471)

高等部2年25組 女 ナイトウォーカー
心遣いが暖かい・
シャロン・リデル(jb7420)

高等部3年17組 女 ダアト
鬼払い・
東郷 煉冶(jb7619)

大学部4年236組 男 ルインズブレイド