「どうやって分断するかだな。よし、少し考えがある。試してみて構わんか?」
言ったのはヴァルデマール・オンスロート(
jb1971)。
「何をするつもりなんだヴァルデマール?」
クライシュ・アラフマン(
ja0515)の問いに仲間たちの視線が集まる。ヴァルデマールは説明を始めた。
「……というわけでな。一つ同時進行でやってみようかと思っている」
ヴァルデマールが言ったのは、ビルからの放水で敵の注意を引き付けるというもの。天魔相手にダメージはないが、ヴァルデマールは人質について思うところがあった。現状状況が不明なため話題には出さなかったが、可能な限り助けたいと思っていたのだ。放水を選んだのも半分はそれが理由であった。
「小童どもに迷惑はかけんよ! ムハハハ! 任せておけい!」
「まあ気を付けて行けよ。一人で動くのは危険も伴う」
白面のクライシュは肩をすくめて、ヴァルデマールの肩を叩いた。
「ムハハハハ! 小童の足は引っ張りはせん!」
「ま、理由があるなら止めはしないけどな」
御影 蓮也(
ja0709)は言って、仲間たちに向き直った。
「じゃ、まずはドラゴンウォーリアー一体に集中攻撃だな。ここからが勝負だな」
「ドラゴンウォーリアーか……うまく行くと良いけどね」
常木 黎(
ja0718)は言って、思案顔で結界を見上げた。黒炎が視界を覆う。
「竜騎士二セットに黒炎使いが結界張って人を殺してるってか……まあ撃退士誘ってるわな、普通に考えて」
綿貫 由太郎(
ja3564)は飄々と言ったが、胸の内には葛藤が有った。今回の依頼では敵の殲滅と人命救助のどちらを優先すれば結果的に人を多く救えるか密かに悩んでいた。
「……敵全員をいっぺんに足止め出来りゃそんなこと考える必要もないんだがなあ」
綿貫はぼやく。
「ん……何? 由太郎さん」
常木が目を向けると、綿貫はミリタリーサングラスを人差し指で押し上げた。
「いんや、おっさんのぼやきだよ」
「だがあのヴァニタス……ここに来てようやく本気かよ……前回みたいにはいかねえか。あいつ……本気がどんなものか、見せてもらおうかね」
相羽 守矢(
ja9372)は冷たく言うと、火之煌 御津羽(
ja9999)が応じた。
「ああ相羽、2度目の対決だよなあ。今回はどうもマジみたいだなァ。俺も同じ炎使いとしてやられっぱなしって訳にはいかねぇぜ」
火之煌は燃えるような赤毛をかき上げた。
「では急ぎましょうか。時間は金の粒よりも貴重です……」
「ヴァニタスか……全く手のかかる」
時駆 白兎(
jb0657)の言葉に不動神 武尊(
jb2605)は肩をすくめた。
「行こう!」
ユウキが言って、撃退士たちは駆けだした。
――キシエエエエエ!
ダークドラゴンの咆哮が轟く。双頭の龍は、ビルの間から飛び出してきた撃退士たちを威嚇するように牙を突き出す。鞍上のドラゴンウォーリアーは、悠然と腕を持ち上げ、「ゴアアアア……」と稲妻を撃ち込んで来た。
撃退士たちは散開した。
「ムハハハハハ!! 待たせたな小童ども!」
ヴァルデマールがビルの屋上から放水を開始する。
「ムハハハハ! 水鉄砲を食らえ!」
放水がドラゴンウォーリアーを直撃するが、ディアボロは意に介した風も無く、撃退士たちの方に向き直る。
――キシエエエエエ! と、上空からもう一体のダークドラゴンがヴァルデマールのいるビルに取りつき、壁をよじ登っていく。
「ムハハハハハ! こっちだ! 来い!」
ヴァルデマールはバヨネット・ハンドガンを連射した後で、ホースを回収すると、それを投げおろして伝うと、ビルから降り始めた。ディアボロが首を伸ばして追跡してくる。
「ヴァルデマール……うまくやれよ」
クライシュは呟き、間合いを詰めて来るドラゴンウォーリアーに疾駆した。御影、相羽、火之煌、武流、時駆、ユウキが加速する。
「スレイプニル――ボルケーノ」
時駆の周囲に展開する白色無数の召喚陣。召喚陣が瞬間移動し、スレイプニルが姿を現す。また残った召喚陣が時駆を守護する結界のごとく強く輝く。
スレイプニルは猛進してドラゴンウォーリアーとダークドラゴンを連続で踏み潰した。
「GO GO.背中は任せな」
常木は言って、オートマチックP37 を連射した。バン! バン! バン! バン! とドラゴンウォーリアーを撃ち貫く。
綿貫はクイックショットでショットガンを連射する。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と散弾がウォーリアーとドラゴンを貫く。
「纏めて吹飛ばす。駆けろ、真弾砲哮<レイジング・ブースト>!」
御影は蛇腹剣を振り下ろした。封砲のエネルギーを魔具に纏わせ、蒼光の砲撃として投擲し進路上の対象を薙ぎ払う。蒼光がウォーリアーとドラゴンを焼き尽くす。
「時間が惜しい、貴様はここで消えておけ」
クライシュは加速すると、エネルギーブレードでドラゴンの足を切断した。
「行くぜえ! んなデカブツ乗り回したって、扱う暇が無けりゃあな!」
相羽はドラゴンウォーリアーが腕を持ち上げた瞬間を狙った。黒漆太刀を叩き込む。ザシュウウウウ! とウォーリアーの腕が砕けた。
「むう――!」
火之煌は相羽とタイミングを合わせて、ダークドラゴンに斬りつけた。
「はああああああ……! ああああああ……!」
裂帛の気合とともにフランベルジェを叩き込み、ドラゴンの頭を切り飛ばした。
「ストレイシオン――インターセプト」
武尊はストレイシオンを召喚して、バルバドスボウを構えた。
オオオオオオオオ……! ドラゴンウォーリアーとダークドラゴンは咆哮すると、ブレスと稲妻を叩き込んできた。
ブレスが撃退士たちを包み込み、稲妻が貫通する。
「雑魚どもが……っ」
武尊はバルバドスボウを撃ち放った。ズドウ! と矢がウォーリアーを貫通する。
常木と綿貫が位置を変えつつ援護射撃を行う。
クライシュは小天使の翼で舞い上がると旋回した。側面へ回り込む。
「ケイオスドレスト――」
御影は立ち位置を変えつつ黒と白が混ざりあった光を身に纏う。防御能力を向上させておく。
「火之煌!」
「おう!」
相羽と火之煌は連携して、ウォーリアーとドラゴンを狙う。相羽はウォーリアーの腕を吹き飛ばし、火之煌はドラゴンのもう一つの頭を潰した。そして間合いを図る。
「スレイプニル――向こうにボルケーノです」
時駆は、ヴァルデマールが引き付けているディアボロへスレイプニルを加速させた。ビルに取りつくディアボロをスレイプニルが踏み砕く。ディアボロはビルの壁面でヴァルデマールを探していたが、攻撃を受けて咆哮した。
ヴァルデマールは、ビルの中に逃げ込み、通路の角から戦況を確認していた。
「さて……分断には成功したから、一般人が少しでも逃げてくれれば……」
ヴァルデマールは、窓からぼろぼろになっているディアボロの方に視線を移し、また地上を確認する。
「一般人を早く逃がさんとな……ふむ」
ユウキは突進して練気を叩き込んだ。
「今以上に……誰も殺させない! もう誰も!」
ダークドラゴンは崩れ落ちてほぼ無力化されたが、ドラゴンウォーリアーはもがきながら立ち上がった。稲妻で撃退士たちを薙ぎ払うが――。
「真弾砲哮――もう一撃!」
御影は蒼光を撃ち込んだ。閃光が二体のディアボロを包み込み、エネルギーで焼き尽くした。
クライシュは翼で加速すると、ウォーリアーを切り裂いた。
ババババババババン――! と、常木と綿貫がウォーリアーを撃ち貫く。
相羽と火之煌がさらにウォーリアーを切り刻み、時駆は召水霊符を叩き込み、武尊はクロセルブレイドを螺旋を描くように突き刺した。
ウォーリアーはごぼっと血を噴き出し、崩れ落ちる。
撃退士たちは半死のドラゴンに止めを差し、もう一組のディアボロに向かう。
もう一組みのディアボロはビルに顔を突っ込んでヴァルデマールを探し、スレイプニルに威嚇していた。しかし、スレイプニルが効果時間を過ぎて消滅し、撃退士たちの挑発を受けると、ディアボロは地上に舞い降りてきた。
「ここからは分かれだね。由太郎さん、守矢くん、一般人をよろしく」
「ああ」
「じゃ、ちょっと出張って来る」
相羽と綿貫は戦線を離脱した。
常木と武尊は上空のディアボロに銃撃と矢で牽制し、他の四人は臨戦態勢を取った。
――相羽と綿貫は戦場をいったん離れ、民間人の誘導に回った。綿貫は索敵で隠れていた人を見つける。
「そこの陰で隠れてる奴、脱出するからなるべく音を立てずにこちらへ」
数人の男女だった。こわごわと出て来る。
「こっちだ。みんな出来るだけ逃がす。ていうか、仲間が止めてくれている間に離脱しよう」
相羽は言って、民間人を案内していく。結界の外へ民間人を移動させると、二人はまた中へ戻る。
ここからは地道な作業になる。
「ディアボロは向こうで引き付けているから、後は民間人の移動優先だね。相羽君――?」
「ああ、向こうの家屋にも集まっている人たちがいるみたいだぜ」
「ふむ……急ぐかね」
二人は家屋に向かった。
一階に、十名程度の民間人が隠れていた。
「大丈夫だよ。俺たちは久遠ヶ原の撃退士。結界は破っている。敵は仲間が引き付けているから、一刻も早く脱出しよう」
それから、綿貫が誘導し、相羽がまた民間人を発見する。
「綿貫、こっちだ。ビルの中にみんな固まっているみたいだ」
二人が駆け付けると、ビルの中には数十人の民間人達が身を寄せ合っていた。
「あとどれくらい残っているのかな……一般人を結界の中に残すわけにはいかないぞ」
「そうだな。ちっ……時間があるかどうか」
相羽と綿貫は民間人を脱出させ、また結界内を走り回った。
出来る限りのことはした。全ての建物を見て回り、民間人を脱出させる。この繰り返しで、実際、ほぼ全ての民間人を救いだした。
……ズウウウウウウウンと、ディアボロが地に崩れ落ちた。もう一体のドラゴンウォーリアーとダークドラゴンは撃破された。
「さて……ディアボロはこれで全部、か? ボスのシーラとやらは……ユウキ、どんなヴァニタスなんだ」
クライシュの問いに、ユウキは頷いた。
「魔術師だ。こっちで言うとダアトに近いんだろうけど……その割に体力もありそうだ。黒い炎で炎弾や範囲攻撃、障壁や鎧化とか、攻防一体に術を使う。まあヴァニタスの例にもれず、強いのは確かだけど……」
「残るはそのヴァニタスか。そいつを倒さないと、このゲートは破壊できないが……」
御影は黒い炎を見上げた。
「相手を探すかな」
「シーラの奴、どこに居やがる。気付いているだろう」
常木の言葉に、火之煌は軽く吐息した。
「ふむ……どこでしょうかねえ」
スレイプニルを使い果たしていた時駆はヒリュウを召喚して、視覚共有で上空から警戒していた。
「ヴァニタスか……あれごときに今はてこずるとはな……不便なものだが……ディアボロにしてもそうだが」
武尊は言ってバヨネット・ハンドガンのスライドを引いて弾丸を装填した。
「ふーむ……残るはヴァニタスだが……」
ヴァルデマールはもう一度屋上に上がり、放水の態勢を取っていた。
直後――。
巨大な黒炎の弾丸がビルの間から飛んで来て炸裂、撃退士たちを薙ぎ倒した。
炎を身にまとったシーラは、ビルの間から出て来ると、今度は小火球を連射した。ボボボボボボボウ! と、撃退士たちを火球が焼き尽くす。
「むう――!」
ヴァルデマールはホースを担ぎ上げると、シーラ目がけで放水を行った。
「今日は、お前たちを始末する。人間は後で連れてくればいい。結界は破壊させん」
シーラは冷たく言った。
「おおう! 力におぼれておるだけの小娘が、でかい口を叩くでないわ! 小童ども、機を逃すでないぞ!」
ヴァルデマールは放水を叩き込んだ。シーラは苛立たしげに炎の障壁を空中に展開して放水を止めた。
「エルナ!」
「――!?」
シーラに向かって、エルナがハイブラストを叩き込んだ。シーラは受け止めたが、不意を突かれて微かによろめいた。
クライシュと御影、ユウキ、火之煌、武尊が加速する。
常木は応急手当てを施してから、アシッドショットでオートマチックP37を連射した。
「私は不死身の女さ。――なんて言ってる場合じゃない、か。にしたって、余裕の無い顔しちゃってまぁ……」
嘲笑のこもった表情のまま、バン! バン! バン! バン! バン! と銃撃を叩き込む。
シーラは弾道を予測して前面に炎のシールドを展開した。ビシ! ビシ! と銃弾が弾かれる。
「あの黒炎に焼かれるのは、勘弁だな」
御影はカーマインを投げつけた。ギュルルル! と金属の糸がシーラの腕に絡みつく。御影は万力を込めて引いた。ギン! とシーラは腕を引いて、御影を押さえた。
「やる、が、竜王の牙に飲まれるがいい! 黒炎の魔女よ、一緒に踊ろうか。楽しい血と刃の舞踏だ」
クライシュは報復遂げし英雄王を撃ち込む。光の波がシーラを吹き飛ばした。
「ちい……っ!」
御影はカーマインを放した。
ユウキが一撃打ち込み、
「獄炎の魔女――会うのは二度目だな!」
火之煌は続いて叩きこんだ。
武尊はクロセルブレイドを螺旋を描くように突き刺す。
シーラは地面に黒炎を叩きつけると、その衝撃で舞い上がって距離を保つ。
「ここで退くわけにはいかん。あの方が、私をまだ必要としているならば……!」
シーラの拳からごう! と黒炎が渦を巻く。
「フン、元は人間とはいえ所詮は悪魔の眷属か……天界の傲慢も気に入らんが、お前達の下劣さも目に余る」
武尊は言って、ストレイシオンを召喚しておく。
時駆はブレスに入れ替え、エルナを旋回させた。
「俺はお前さんが嫌いじゃないぜヴァニタス。少なくとも、俺にとっての強敵でいる間はな!」
火之煌はソニックブームを叩き込んだ。凄絶な衝撃波が大地を奔る。
「俺には近接攻撃しかしてこねぇと思っただろうがそれが目的だぜ」
シーラは手をかざしてソニックを黒炎で受け止めた。
クライシュ、御影、武尊、ユウキが再度突進。ドドドドドドウ! と連続攻撃をシーラは炎の鎧で受け止める。
時駆はブレスをぶつけ、常木がオートマチックを叩き込む。
ここから撃退士とシーラとの打ち合いになるが。
――限界を迎えたのは撃退士だった。
シーラは頑健であった。黒炎に焼かれ、撃退士たちは消耗した。
「むう……! いかん……!」
ヴァルデマールは放水を全開にしてシーラと撃退士たちの間に水をばら撒いた。
シーラはちらりとヴァルデマールを見やる。
そこで、光信機で相羽と綿貫から連絡が入る。民間人の避難は完了したとのこと。
「ここまでだね。退こう」
常木が殿で支援射撃を行い、撃退士たちは撤退した。
離脱した撃退士たちは、結界の黒い炎を見上げた。獄炎の魔女とは、またどこかで会うことになるだろう……撃退士たちは、今日の日を記憶に刻み込んで退却するのだった。