ごうっ……!
ごおおおうっ……!
ごおおおおうううううっ……!
結界から黒炎が立ち上る。獄炎の魔女の宴が始まる‥‥。
●町西部
「結界が可視化しましたか……」
戸次 隆道(
ja0550)は、背後で沸き起こった黒い炎を見やり呟いた。
「ばれたのか?」
相羽 守矢(
ja9372)が応じると、シャルロッテ・W・リンハルト(
jb0683)が言った。
「あるいは、例の炎を扱う魔女ですか……余裕があったら手合わせ願いたいものです」
とは言え猶予は無い。
「行くしかありませんね……」
戸次は言って、前を向いた。スカルウォーリアーが徘徊しているという事前情報がある。天魔の透過能力を阻霊符で封じ込めているとは言え、この町中では動きは不明。三人は進んだ。
捕らわれた住人と遭遇した。
「大丈夫です。こちらで悪魔の結界は破壊しておきました。このまま東へ向かって下さい。脱出できるように穴を開けてあります」
シャルロッテは言って一家を送り出した。
それから三人は出会った住人たちを自分たちがこじ開けた出口へ誘導していく。
スカルウォーリアーが出現したのは、それから間もないことであった。
ズン! と、民家の屋根から衝撃波が飛んで来てアスファルトの道路を切り裂いた。
戸次、相羽、シャルロッテらは飛びのいて、頭上を振り仰いだ。空は一部、黒炎が可視化している。スカルウォーリアーは、炎を背後に、ざらついた笑声を上げた。
「グ……グググ……グガガガアアア!」
「出ましたね。行きますよ相羽さん、シャルロッテさん」
「了解!」
「行って下さい! 援護します!」
スカルウォーリアーが飛び降りて来る。戸次は先手を取った。
「おおおおおお……!」
戸次はリミッター解除の覚醒。全身から赤色の闘気が吹き上がり、髪も真紅に染まる正に阿修羅の相と化す。
「おおおおおおおおおおお――!」
戸次はドン! と加速した。赤い闘気が流れる。戸次は飛び上がって回転するとシルバーレガースを叩き込んだ。レガースがスカルウォーリアーの側頭部に叩きつけられると、ディアボロの首がぐしゃっと折れた。
「やるじぇねえの戸次!」
続いて相羽の刺突。鋭くうなりを上げて加速した相羽はエペを肩に乗せるように構えて、裂帛の気合とともに就き出した。
ドゴオオオオオ! と、エペがスカルウォーリアーを貫く。
シャルロッテはトート・タロットを構えると、「召喚! デス!」とタロットの一撃を叩き込んだ。ボウ! と死神がタロットから湧きおこると、深い呼吸とともにスカルウォーリアーを貫通する。ディアボロは苦痛の咆哮を上げた。
「グオオオオオオ……!」
スカルウォーリアーは爛々と輝く邪悪な瞳を持ち上げると、刀身に魔法の力をまとわせ、鋭く撃ち込んできた。
「速い――!」
戸次はスカルウォーリアーの連撃をかわした。
「かわします! 続いて!」
戸次はまた先手を取ると、今度はスカルウォーリアーの足を狙ってレガースを叩き込んだ。ぎゅん! と加速する戸次の右足が、ディアボロの左足を砕いた。
崩れたスカルウォーリアーに相羽が黒漆太刀に持ち替え、スマッシュを叩き込んだ。鈍い音が振動とともに大地に伝わる。スカルウォーリアーは強打を受けて悲鳴を上げた。
シャルロッテは続いてタロットを持ち上げると、「召喚! デビル!」とタロットの『悪魔』を叩き込んだ。悪魔がスカルウォーリアーに食らいつく。
骸骨ディアボロは、体をかきむしって悶絶した。
「むうん――!」
戸次はその頭蓋骨を掴んで万力で下方に押しつけると、レガースを叩き込んで地面に打ちつけた。
グワッシャ! と、頭蓋骨が粉々に砕け、スカルウォーリアーはびくんと痙攣して、動かなくなった。
「さて……こちらは片付きましたね。ひとまず前進ですね」
戸次は起き上がって仲間たちを見渡した。
●町東部
「また……ゲートが! 天魔めっ……ころす、ころすころすころすッ!」
エルレーン・バルハザード(
ja0889)は、いましがた破壊して来た結界の黒炎を振り返り、憎々しげに吐き出した、
「さァて、いっちょやってやるかァ。……しかしさみーなァ。エルレーンは熱いみたいだなあ」
火之煌 御津羽(
ja9999)は言ってからからと笑った。
「他のみなさんは大丈夫でしょうか……でも、今は信じ、ディアボロの撃破と町の人々の救出ですね」
鑑夜 翠月(
jb0681)は、不安そうに黒炎の結界を見つめた。
「絶対やっつけてやる、なの!」
「はいはい、んじゃあ行くぜ」
三人は歩きだした、と、最初の角を曲がったところでスカルウォーリアーと遭遇する。
「グガアアアアアア……!」
スカルウォーリアーは咆哮すると、構えたが、先手を取ったのは撃退士たち。
まずはエルレーン。
「はうぅーっ! 萌えはせいぎぃぃ!!」
同人作家「エルえもん」でもあるエルレーンが、ボーイズラブに対する強烈な萌えを高ぶらせ、強さと力強さを高めた一撃を放つ。腐女子オーラの雷が奔る! ビッシイ! とスカルウォーリアーを捕える。
「ガ、ガアアアア……!」
ディアボロはくらくらとよろめいた。大ダメージだけでなく、腐女子オーラには敵を麻痺させる力があるのだ。
鑑夜はパンデモニウムを開くと、その悪魔の魔道書から禍々しい刃を生みだした。悪魔の牙のような、黒々とした刃が、スカルウォーリアーを狙って加速する。
「真……撃……!」
鑑夜は念じると、牙を突進させた。ザッシュウウウウウウ! と牙がディアボロを引き裂く。
スカルウォーリアーは麻痺していて思うように動けない。
「うらあああああ!」
火之煌はドウ! と加速すると、無防備なディアボロに両手で握りしめたフランベルジェを叩き込んだ。ルインズブレイドの強靭な一撃がディアボロを捕える。ぐしゃっと骨が砕ける音がして、火之煌の一撃はスカルウォーリアーにめり込んだ。
スカルウォーリアーはまだよろめいている。
「行くよディアボロ――! 潰してやるから!」
柄の部分に「エルレーン」と名前の書かれた愛剣エネルギーブレードを抜いて、エルレーンは加速した。ブレードを叩き込めば、スカルウォーリアーの腕が飛んだ。
「やるう!」
続いて火之煌がディアボロの側面から加速した。
「はあああああ……!」
火之煌の万力の一撃が打ち込まれる。ズバアアアアア! と骸骨が凄絶に切り裂かれる。火之煌はディアボロを見た。その邪悪な瞳と眼が合う。ディアボロの眼孔には、憤怒が宿っていた。
「では続いて行きます!」
鑑夜はパンデモニウムで牙を操作すると、念じた。
「貫け……その邪悪なる牙で……!」
鑑夜はパンデモニウムの牙をスカルウォーリアーの頭上から加速させた。ドス! と牙が骸骨の頭部にめり込む。
「グ……ガ……アアアアアア……」
スカルウォーリアーはぐらぐらとよろめき、大地に崩れ落ちた。
「やったかな」
エルレーンはディアボロの死体をつついた。
「では参りましょうか。どこまでみなさんが進んでいるかは分かりませんが、住民の方たちも避難して頂きませんと」
鑑夜は言った。
「おし!」
火之煌は民家の上に飛び上がると、周囲を見渡した。一つ見渡して地形を把握する。人々が彷徨っている。
「急ぐか。みんなパニックだ。こっちへ誘導してやらないと。こん中は通信も妨害されてるみたいだしな……」
火之煌は、スマホのGPS機能が働かないことを見て肩をすくめた。
「よし、行こうぜ!」
三人は前進し、住民を避難させていく。
●町北部
「みなさーん! こっちでーす! 久遠ヶ原の撃退士でーす! 結界はこっち破壊しましたから逃げて下さーい!」
武田 美月(
ja4394)は言って、集まって来た人たちを誘導していた。
「武田さん、こっちは概ね完了です」
立花 雪宗(
ja2469)が言うと、武田はにこっと笑った。
「雪宗くんお疲れ様! みんな無事で良かったよ!」
武田が元気に言うのに、立花は頷き笑みを浮かべた。
「愛奈さんと菜花さんも頑張っていますね」
周 愛奈(
ja9363)と小松 菜花(
jb0728)は、二人で一般人の誘導に回っていた。
「愛ちゃんも頑張ってみんなの手助けをするんだよ!」
愛奈は住民たちの手を引っ張って、こじ開けた結界に誘導していた。
「みんな……こっちなの……急いで……ディアボロが来る前に……」
菜花も住民たちの手を引いて、民を結界の外へ逃がしていく。
立花は時計に目を落とした。
「少し時間が掛かりましたが、ディアボロと遭遇する前に大勢の人を救いだすことが出来ましたね」
そうして――。
「よし! 行こうか! まだ残っている人がいるかもだしっ、それにまだディアボロが出て来ないねー」
武田が言うと、菜花は淡々と言った。
「作戦……非常に簡単なの……敵のゲートを破壊していまえばいいの……総力戦を挑むべきだと思うの……」
「総力戦ですか……そうですね。行きましょう」
立花は頷き、歩きだした。
町の中心に進んだ頃、上空の結界から黒い炎が噴き出した。
「…………」
立花は見上げて、吐息した。息が白い。
「あの炎の使い手が、いるかも知れないという話ですが――!?」
そこで、民家の屋根からスカルウォーリアーが飛び降りてきて、立花に切りつけてきた。キイイイイイン! と立花は弾いた。
「スカルウォーリアーですか」
「出たね!」
立花は剣撃を押し返した。
「接敵……確認。ストレシオン高速召喚発動。ストレシオン、我、仲間をその力にて護れ……」
先手を取った菜花は、ストレイシオンを召喚。すぐさまストレイシオンは防御効果を展開する。
スカルウォーリアーは咆哮すると、次いで動いてきた。武田目がけて加速すると、高速でダブルアタックを繰り出す。
「やる……けど! シールド!」
武田は十字槍を返して、ディアボロの連撃を受け止めた。
「……じゃあこっちの手番!」
武田はぎゅんぎゅん! と槍を旋回させると、霊的な銀色の焔で武器を包み込み高速の一撃を放った。ドウ! と、スカルウォーリアーは直撃を受けた。
「その首……貰い受けます……」
立花はスカルウォーリアーの側面に回り込むと、大地を強く踏み締め、ギャリン! と曲線的な軌道でディアボロに蜥蜴丸を叩き込んだ。大太刀がうなりを上げて加速、ディアボロの骨の肉体を打ち砕く。
「それじゃあ愛ちゃんのライトニング!」
愛奈は幻想動物図鑑を持ち上げ開くと、雷を解き放った。ぴかぴか! と幻想動物図鑑から閃光がほとばしって、スカルウォーリアーを打ち貫いた。
「ガ……オオオオオオオ……!」
骸骨ディアボロは咆哮すると、立花に加速、鋭く重たい一撃を打ち込んで来る。キイイイイイン! と立花は受け止めた。全身に走る衝撃を、ストレイシオンの防御能力が守ってくれる。
「雪宗くんから……離れろこのホネホネ!」
武田は突進した。十字槍で聖火を叩き込む。高速の一撃が貫く。
立花は万力でディアボロの剣を弾くと、再びスピンブレイドで加速、ギュン! と大地を蹴り蜥蜴丸を逆袈裟に奔らせた。下方から持ち上げられた刀身が加速し、骸骨を切り裂く。
「ストレシオンは魔力の塊……そして……これは強力なの……ライトブレット……敵を射抜いてみるの……」
菜花はライトブレットを連射した。ドウ! ドウ! ドウ! とアウルの弾丸がスカルウォーリアーの腕を砕いた。
「ガアアアア……!?」
うろたえるディアボロに、愛奈が幻想動物図鑑でボルケイドドラゴンを召喚する。
「ドラゴンアタックなの!」
真紅のボルケイドドラゴンがディアボロを噛み砕き――
立花と武田の連続攻撃がスカルウォーリアーを真っ二つに切り裂き――
遂にディアボロは活動を停止した。
「ふう……終ったよね?」
「行きましょうか……みなさんと合流出来れば良いのですが……」
四人は町の中心に向かって前進した。
●ゲート、ヴァニタスのシーラ
最初に町の中心部に到達したのは戸次ら西班だった。
シーラはゆっくりと目を開くと、黒炎をまとった。
「……お前たちが来たということは、西は敗れたか。仲間はあとどれくらいいる」
シーラの問いに、戸次は吐息し、相羽とシャルロッテに目配せした。
「行くぞ!」
戸次と相羽は加速した。二人は散開し、シャルロッテはファイアワークスを解き放つ。
「煌めく炎!」
シャルロッテから放たれた炎が黒い炎とぶつかる。
戸次はカーマインに持ち替え、シーラの肉体を絡め取って引いた。びん! とワイヤーが張る。シーラはワイヤーを掴んでいた。
「獄炎の魔女、まともに行くかよ!」
相羽は魔法書を取りだし雷を撃ち込んだ。
「ふむ……」
シーラはすうっと手を上げると、黒炎を解き放った。ゴオオオオ! と炎が戸次らを薙ぎ払う。
「ちい……」
戸次らは距離を取った。
そこで、東からエルレーンらが到着する。
「むう……?」
シーラは眉をひそめた。左右の撃退士たちを見やり、炎を手に持った。
エルレーンは雷遁・腐女子蹴を叩き込んだ。雷がシーラを襲う。
「ちい……」
火之煌は注意を引くようにシーラの側背へ回り込んでいく。
鑑夜とシャルロッテが両側からファイアワークスを叩き込み、戸次と相羽が散開して攻撃を撃ち込む。
シーラは腕を持ち上げ、それを薙ぐように振り下ろした。黒炎の龍が複数出現して戸次、相羽、エルレーン、火之煌らを直撃した。
「あたらないよぉ……あたってたまるもんかっ、そんな攻撃ッ!」
エルレーンは空蝉で回避するが、龍がまとわりついてくる。空蝉を全て使い切った。
「始まってるようだね!」
武田に立花、愛奈に菜花が到着する。
「十人か……」
シーラが険しい顔で呟いた。
武田は加速すると、パールクラッシュを叩き込んだ。十字槍が白い閃光に包まれる。カオスレートの変動で威力が増す。直撃にシーラがよろめいた。
「災いの種を摘んでおくのも戦の倣い……この刃、その身に刻んで戴く」
立花は蜥蜴丸を叩き込んだ。
愛奈が幻想動物図鑑からグリフォンを撃ち込み、菜花はストレイシオンを召喚。
シーラは傷ついた腕を押さえ、口から至近で炎を吐き出した。立花と武田は焼かれたがストレイシオンの防御効果が守る。
続いて、撃退士らの攻撃をしのいだシーラは、もう一撃全包囲に炎弾を放った。武田もリジェネーションを使うことになる。
だが、それからシーラは後退した。
「逃げていいの……ディアボロは倒したの……私たちの仕事はゲートの破壊と民間人救出……それさえできれば……今のあなたは邪魔なの……」
菜花の言葉に、撃退士たちはシーラの出方を窺う。
「……この次はそうはいかん」
シーラは吐き捨てるように言うと、残るスカルウォーリアーを引き連れて退却した。
撃退士たちは、それからゲートを発見。ゲートコアは破壊され結界は崩壊。
ヴァニタス、シーラ……また会うことはあるだろうか、と撃退士たちは結界が消滅していく空を見上げるのだった。
(了)