廃校に集まった生徒達を出迎えてくれたのは、一人の女性の教師だった。
教師は学生たちの武器をチェックする。今回は模擬戦なので、武器は貸し出されることになっていた。本物の武器を持ってきた者たちがちらほらといたので、彼らの武器を模擬戦用に交換しておく。
学生たちは廃校へ向かう――。
紅組のシルヴァ・ヴィルタネン(
ja0252)、龍仙 樹(
jb0212)、紅 アリカ(
jb1398)、空木 楽人(
jb1421)たちは、他の学生たちとも情報交換しながら、携帯のアドレスを交換していた。
やがて、紅組の面々はそれぞれに健闘を祈りながら廃校の奥へ散って行く。
シルヴァたち四人も、「さて」と思案顔。
「それじゃあ私たち四人はチームってことね」
「……同じ学生ですからね……実力に大きな差があるわけでもありませんが……」
「みなさん、改めまして、よろしくお願いしますね」
「どきどきしてきますね……! やっぱり勝ちたいですよねー」
(ふふ……空木君可愛いわね♪)
空木をからかうような視線で一瞥したシルヴァは、それから三人の学生たちに倣うように夕焼けを見つめた。
一方、青組の方でも、学生たちがお互いの連絡先を交換している姿が見て取れた。
「んー、さすがに紅組に潜り込んでっていうのは難しかったね」
ビル風かばん(
ja9383)は戻ってくると吐息した。ビル風は紅組の得意戦術を調べようと奮闘していたのだが、この閉鎖された校内では情報収集は難しかったようだ。
「やっぱドラマみたいな電子戦が出来るわけじゃなし、出たとこ勝負って感も強いかね」
久瀬 悠人(
jb0684)は言って、ビル風の携帯とアドレスを交換しておく。それから久瀬は、桐原 雅(
ja1822)に歩み寄った。
「桐原」
「はい久瀬先輩」
「アドレス交換しとこうぜ」
「あ、はい、そうですね」
雅は携帯を取り出すとアドレスを交換しておく。
フローラ・シュトリエ(
jb1440)も、仲間たちとアドレスを交換しておく。
それから、青組のみんなで、校舎の見取り図を確認しておく。
そうする間に時間が迫ってくる。青組の面々も各階に散って行く。
――それでは時間になりましたので、これより模擬戦を開始します! 始め!
校舎の外から、拡声機で合図の声が鳴り響く。
「いよいよね」
樹とアリカが前衛に入り、シルヴァと空木が後衛に入った。
四人は全員が後衛と前衛に入れる場所を選んで進んでいく。
最初に遭遇したのは、廊下で出会った青組の三人チームだった。
「お♪ いらっしゃ〜い! 待ってました〜」
「あら、こっちには先客がいたようね」
戦闘が始まった。
シルヴァは手近な教室に身を隠すと、模擬戦用のショットガンで側面から先制攻撃。
「あいたた!」
青組のインフィルトレイターが反撃してくる。シルヴァは障害物を盾にした。
「ヴィルタネンさん!」
空木はスレイプニルを召喚する。
「少しでも上手く戦えるように……よし、頑張ろうね。ニール君!」
召喚されたニール君は咆哮した。
「ならこっちもだ!」
青組のバハムートテイマーがヒリュウを召喚すると、ニール君に突進する。
「く……!」
「遅れた……! 私が盾になりますから下がって下さい!」
樹はアウルをまとった。シバルリー。鉄壁の加護を得るディバインナイトの防御スキル。
「こっちから行くぜ!」
阿修羅が突進してくる。
樹は直撃を受けたがシールドで受け止めた。
アリカは加速すると、刀を一閃した。阿修羅は回避。
「中々やるわね……」
シルヴァは拳銃を取り出し、敵後衛のインフィルトレイターを狙い撃った。敵の腕を叩いた。
「……! 厳しい!」
相手は後退する。
「ニール君! ブレスアタックでアリカさんを援護!」
ニール君は加速すると阿修羅に猛進した。
「シルヴァさんは下がって下さい! 僕が守ります!」
「おおっと!」
阿修羅は回避するが、直後にアリカと樹の連続攻撃を受けた。
「わわ……!」
阿修羅は後退した。
「よーし!」
空木は前進しようとしたが、後ろからシルヴァに引き込まれた。
「ほら空木君、飛び出すと危ないわよ? もう少し、ゆっくりしていかない?」
飛び出す空木を引っ張り、胸元にぎゅうと抱き寄せ笑いながら。
「……え、えぇと、ヴィルタネンさん……?」
「ふふ、続きは後でね?」
シルヴァは言って、空木をまた離した。
「敵さんは逃げて行くようね」
「集団戦は連携が大事……突出は禁物ですね」
「……なかなかいい感じね。この調子でいきましょう……」
アリカは、緒戦の勝利に軽く笑みを浮かべた。
「それじゃあ、行きましょうか」
シルヴァは言って、周囲を確認した。
「よお前ら」
同じ紅組のメンバーだった。
「順調か?」
「たった今、青組の人たちを撃退したところよ」
「――!?」
次の瞬間、柱に矢が突き刺さった。
「何?」
シルヴァが見た先、剣を構えたスーツ姿の男が立っている。
「あれは……先生よ?」
「先生?」
スーツの先生は、にいっと笑って、接近して来た。
「やあ君たち。出会うのはこれが初めてかな?」
と、空木のスマホにメールが着信した。空木はメールを開いた。
――この特別授業、教師が敵として参加している。気を付けろ!
「みんな……! 先生は敵だって!」
「何ですって?」
空木はメールを見せた。
「さて、君たちのお手並み拝見と行こうかね。掛かって来なさい。これが特別授業の裏事情」
先生は、抜刀した。
「みんな、ここは共同戦線で行きませんか? 先生相手に僕達だけじゃ心もとないし」
「そうね。みんなで掛かれば、怖くないってね」
「オッケー、先生が随分やってくれるね」
「掛かってこないならこっちから行くよ?」
先生が光纏すると、
「……例え誰が相手でも、戦う前から逃げるわけにはいかないのよね。……いきます!」
樹とアリカが加速する。仲間達も続いた。
シルヴァと空木は後方から支援する。
アサルトライフルを放ったが、先生は弾道を予測してかわした。
空木もニール君のブレスを仕掛けるが、先生は回避。
「遠距離攻撃が可能な方々! 私が押さえる間に先生に集中砲火を!」
樹は突進する。
「私のアウルは守護の力。この緑のアウルは全てを護る無二の盾……例え先生でも打ち抜かせません!」
「いいねその気概。ポイント高いですよ」
先生はアリカと樹の攻撃を回避していく。
たんっと、二人と間合いを図ると、先生は強烈な一撃を叩き込んできた。
アリカは受け止めたが、がくりと膝を突いた。
「……く……反則ね……」
「予測不可能な相手に出会ったらどうしますか?」
先生は強かった。学生たちの攻撃をことごとくかわしていく。
「……さすがにこれ以上は厳しいかしら。一旦退いて態勢を整えましょう……」
アリカがみなに言うと、仲間達も頷いた。
「先生……今日は負けておきます! でもいつかきっと!」
学生たちは後退した。
先生は追ってこなかった。
「ふう……危なかったですねえ……彼らも強くなったものですが……」
先生は吐息してまた歩きだした。
雅は近くにいた青組の仲間と合流する。
「何か怖いね」
「この廃校、ディアボロでも出そうな雰囲気だよね」
「学園にもゲートがあるもんねえ」
学生たちは警戒しながら進んでいく。
雅も壁を背にしながら、ゆっくりと進む。彼らには目的地があった。
「早いとこ音楽室へ行こう。あそこなら迎え撃つのに打ってつけだからな」
それは雅の提案だった。彼らは音楽室をバリケードで塞ぎ、入ってくる紅組を迎撃する算段だった。
やがて彼らは音楽室へ到着する。
「先客は無し……と」
「良かったね。ボクたちが一番乗りだよ」
それから雅たちは作業を始めた。一箇所を除いて室内の物で簡易バリケードで入口を封鎖しておく。
と、そこで雅のスマホに着信が来た。教師が授業に敵として参加しているという情報はここにも届いた。
「おっと〜! 青組のみなさん! こんなところで何してるのかな〜?」
「ん?」
「紅組だ!」
雅は戦闘態勢を取った。
「射撃開始! 雅ちゃんに当てるなよ!」
「撃て!」
「あいたた……!」
「お前突っ込め!」
一人が室内に入ってくる。
雅が迎撃する。相手は同じく阿修羅。
「行くぞ!」
「カモン」
雅は指先を立てておいでおいでと挑発した。
敵学生阿修羅は加速した。雅も凄い速さで加速すると、壁を蹴って三角跳びで相手の背後を突いた。そのまま蹴りを寸止め。
「ボクの勝ち、だよね」
「う……やられた」
阿修羅は後退して、紅組の学生たちは逃げ出した。
雅は逃げた学生たちの写真を取っておくと、他の青組の仲間に写真を添付してメールを送った。
「逃げたのは東……と」
そこでまた、人影が入って来た。
先生だった。
「先生……もうみんな知ってますよ」
雅は言って、拳を上げた。
「それなら話は早いわね」
女教師は、拳を持ち上げた。
「先生、ボクと一対一の手合わせをお願い。自分の実力を教師相手に試してみたい。だから、先生も本気できて欲しい」
雅はアウルを放出した。
「へえ……」
教師は光纏すると、「じゃ、行くわよ」と加速した。
「速い――!」
教師は寸止めで拳を雅の顔の前で止めた。
雅は飛びすさって、高鳴る鼓動に吐息した。
「ボクは――」
雅は全力で突進した。激しく教師と打ち合う。
と、1分ほど打ち合ったところで、教師は撤退した。
「まーこれくらいにしておきましょ。こっちは体一つだしね」
そう言って、教師は手をひらひら振って部屋から出て行った。
あちらこちらで戦いが始まっている。
――模擬戦だって負けないぞ!
ビル風は強い気持ちで臨んでいた。
大ホールにて、青組の仲間の援護に入る。一人では戦局は変えられないが、多数なら。
「戦いは数だ!」
ビル風は多数で圧倒している青組の仲間たちと合流すると、戦闘を開始。
ツインテールを翻しながら苦無を投擲する。カカカカン! と苦無が命中する。
「やってくれな忍軍!」
相手の鬼道忍軍からも苦無が飛んでくる。
コーン! と苦無がビル風の頭部に命中!
「にゅ」
ビル風は頭を抱えて、涙目で相手を見据える。
「こ、こらー! 痛いだろー!」
「あ、御免御免。そんな痛かった?」
「むぎゅう」
ビル風は反撃。少女はツインテールを翻して戦う。
「行っくぞー!」
やがて青組は一帯を制圧していく。
紅組の学生たちは大ホールを明け渡した。
「ふう……とりあえず生き残ったか……」
ビル風は、携帯を取り出すと他のチームにメールを打った。
すぐに返信が来る。
「五階は青組が制圧。一階は紅組に取られた、か……」
続いて返信が来る。
「二階から四階は激戦中……よし、下に降りて行くか!」
ビル風は駆けだした。
久瀬は他の前衛と後衛を二名ほど声を掛けてチームを組むと、まずは見取り図を見やりつつ偵察。要所でヒリュウを召喚すると、先行させて偵察を行う。
「少し覗くだけだ。頑張れチビ」
チビは小さく鳴いて、飛び出して行った。
「さて……と」
視覚共有で先を見通す。
「おい、いたいた。いたぜ敵さんが」
「やるか」
「いや、待て。チビに誘導させる。仲間と連絡して挟み撃ちにしよう」
久瀬は見取り図に目を落とし、階段に目を付けた。
「ここだな。どう思う?」
「オッケー、下の連中と連絡してみるか」
「よし」
久瀬は電話を掛けた。
「もしもし、久瀬だ。ああ、敵さんを見つけた。これから2階の中央階段にヒリュウで誘い込む。下から挟み撃ちにしてくれ。俺たちは上から行く」
「了解。敵さんを仰天させてやろう」
「よし」
久瀬はもう一度チビを召喚すると、
「いいかチビ。この先の階段まで敵さんを誘導するんだ。やれるな」
チビはやる気を出して鳴いた。
「よーしよし。行けっ」
チビが飛び立つ。
久瀬たちは中央階段の脇に移動した。
やがて、チビを追い掛けて、紅組の学生たちが駆け抜けて行く。
「良し今だ」
久瀬は仲間たちと飛び出し、スレイプニルのランバートを召喚。
「行けランバート」
混乱する紅組の学生たち。上下に挟まれて、「待った」を掛ける。
「俺たちの負け負け! これ以上は無理だぜ!」
「ま、実戦じゃあ、やばいぜ?」
言って、久瀬たちは敵チームを逃がしてやった。
と、その時だった。
「やあ君たち、楽しそうにしてるね」
教師だ。
「やばい、先生だ。逃げるぞ」
久瀬たちは紅組の学生たちと一緒に退却した。エルダーを召喚して離脱。
「痛いのは嫌だ――」
フローラは仲間たちと四階を前進していた。
「……うん、そっちはどう?」
スマホで連絡を取り合い、状況を確認していた。
「どうやら五分五分ってところね……」
フローラは前衛に立っていた。手鏡で曲がり角の先を確認しながら進んでいく。
「私たちはまだ苦戦はしてないけど……?」
フローラは、鏡に映る紅組の学生たちを発見した。
「みんな。紅組がやって来るよっ。待ち伏せしよう」
「了解ね」
……足音が接近してくる。向こうは無防備に何やら話している。フローラたちは、息を潜めて敵が通って行くのを待った。やがて、紅組の学生たちが通り過ぎて行く。
「今よ!」
フローラたちは攻勢に出た。
「何!?」
相手は仰天したように反転するが、フローラたちは先手を取った。
前衛クラスの仲間たちが敵を分断するように側面を突く。
フローラは拳銃を連射した。挟み撃ちにして、相手を十字砲火に捕える。
「く……畜生! やられた! 反転攻勢!」
紅組の学生たちは反撃に出るが、フローラたちは数で勝る。青組の仲間たちで三方向を取り囲む。
「えい!」
フローラは突進して来た相手を杖で叩いた。コーン! と杖が命中して、相手は後退した。
そこへ合流を果たしたビル風。
「みんな! あたいも行くぜ!」
これで四方を囲まれた紅組の学生たちは「参った」だった。
「ここまでのようね紅組さん」
「油断したなあ……」
相手は、苦虫を潰したような顔だった。
……こうして模擬戦はタイムアップ。生徒たちは校庭に集められ、たき火を囲んでの反省会。
フローラはお菓子の差し入れ。
「お疲れ様も兼ねて、お菓子でもつまみながら、ね」
「みなさんお疲れさまでした」
そして教師たちがにこやかに言った。
「みなさんよく頑張ったと思います。我々も、手応えのある授業でした」
それから、生徒達からの意見を聞く会に。
シルヴァは反省会で感想を言っ後、空木に感謝する。
「空木さん、今日は守ってくれてありがとうね」
「い、いえ……僕なんて……こちらこそありがとうございました」
それから空木は、チームを組んだ仲間たちに「お疲れ様」の挨拶。
「……やはり、みんなで戦うと、色々課題も見えてきますね……天魔相手には、もっと厳しい戦いになりますが……」
アリカは言って、生徒たちを見渡す。
「私もまだまだね。これからも厳しい戦いがあるでしょう。次の大規模作戦に備えて連携を確認していかないと」
フローラもそう発言した。
模擬戦は終わり、学生たちは次の戦いに備えるのであった。