「む……?」
シーラは、後方を振り返った。
「そろそろであったが……」
シーラは掌に炎を浮かべて、その中に撃退士たちがやってくる映像を見ていた。
シーラは軽く手を上げた。
手近なドラシュが反応して雄叫びを上げた。ビルの中からも咆哮が返ってくる。
やがて、撃退士たちが到着する。
「今のは?」
「ディアボロでは?」
十三人のブレイカーは加速した。
シーラと思しき姿を確認して、撃退士たちは散った。
まずは浪風 悠人(
ja3452)が接近した。
「あなたがシーラですか」
「撃退士ね。待ちかねたわ」
シーラは笑っていた。
浪風 威鈴(
ja8371)はMk13を構えつつ、戦況を見つめていた。
「……何をするつもりだ……ヴァニタス……」
威鈴の緑の瞳が閃く。照準を覗き込んでじりじりと間合いを計りながら、的確な位置に着いていく。
「でかいのが、何匹も……分かりやすくていいんだがやり辛いなあ、人間相手の仕事から離れたらこんなのの相手ばっかりか」
カイン 大澤 (
ja8514)はぼやいていた。真紅の斬魔刀を肩に担ぐ。ふてぶてしい態度で、シーラとディアボロを見やる。
「女のヴァニタスか。どうにも俺は年増女のヴァニタスに縁があるらしいなあ」
(俺には有効手段がないか、クソが)
カインは堪え切れずに、地面につばを吐いた。
虎落 九朗(
jb0008)は頭を掻いて吐息した。
わざわざ外壁をぶっ飛ばしたのは何なんだ? 理由があるとは思うんだが……。……透過してくりゃ、まあ玄関から逃げようとするよな。だが玄関近くを破壊してだったら……非常口や、上? 非常口を知らなかったなら上に、逃げ場の無い場所へ誘導しようとしてるって事か?
「……わかんねぇー。ま、考察は後ですりゃいいか」
九朗はばしい! と拳と掌をぶつけた。光纏! 背後に太極図が現れる。
「お前がシーラか。俺は魔界公子のゼロ。美人は嫌いじゃないで〜」
ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)が言うと、悠人がガクッと崩れた。
「いつから魔界公子とやらになったんです?」
「まあ細かいことは気にするなゆーはん。俺、リアル貴族やし」
「ああそうですか。リアル貴族がこんなところで何してるんです?」
「決まってるやろ。人間界に愛を広めに来てん」
「どうとでも」
悠人が吐息すると、シーラは微笑んだ。
「何だ貴様? 天魔か」
「まあな。天魔ハーフ。覚えときシーラちゃん。ゼロ=シュバイツァーや」
「ほう」
シーラはごうっ、と燃え立つ腕を持ち上げた。ザイアン=ドラシュたちが散開する。
「来るで」
ゼロは戦闘態勢に入った。
悠人は腕を持ち上げると、指先を曲げて「カモンベイビー」と挑発を用いた。
「ベイビー?」
シーラは笑っていた。
「これでもどうや〜?」
ゼロは銃を構えて黒鴉を解き放った。漆黒の鴉の大軍がシーラに絡みつく。
黒炎がシーラを包み込み、鴉をはたき落として行く。
「ほう?」
ドウ! とドラシュが加速した瞬間、威鈴がストライクショットを叩き込んだ。
「……やらせるものか……あんたに……!」
銃弾が貫通して、ドラシュを吹っ飛ばした。地面に転がるドラシュは、はらわたから血を流して激痛にのたうち回る。
「せっかくの肉弾連中相手だ、習いたてだが武術潰しを試してみるか……」
カインは加速した。ゴウ! とドラシュの肉弾が突進してくる。空中に舞い上がり、ドリルキックを叩き込む。
カインは飛びすさった。ドゴオオオオ! と、ドラシュの蹴りが地面に穴を開ける。
「どうだ。いくら硬くても指一本ならぶっ壊せるか」
カインは再び地面を蹴ると、ドラシュが受け止める拳の小指に斬魔刀を突き入れた。ザン! グシャ! と、ディアボロの拳が砕けた。
「おーら!」
九朗はコメットを叩き込む。アウルの彗星がシーラとドラシュらに降り注ぐ。ドラシュは腕をクロスさせて彗星に耐え、シーラは黒炎をシールドにして受けた。
「行くわよ。――魔界監獄の炎熱」
シーラの体から炎が炸裂した。バオオオオ! と、地面を走る黒炎が撃退士たちを薙ぎ払う。
「返す一撃!」
悠人は封砲を叩き込んだ。衝撃波が黒炎を貫く。シーラは吹っ飛んだ。
「シーラ……。あなたに聞きたい。今回の襲撃の目的を。そして、透過せずにビル壁を破壊しているのに何故ビルを倒壊させないのか」
「それ、俺も聞きたいなあ」
ゼロが鎌に持ち替えて闇の翼を発動させた。舞い上がるゼロ。
「…………」
威鈴は突撃してくるドラシュにクイックショットを撃ち込み、なお注意と銃口を敵集団に向ける。
カインはドラシュを切り捨て、九朗は加速してシーラに審判の鎖を掛けた。鎖は、シーラの黒炎に巻きついて、パキイイイイン! と引き裂かれた。
「何やとお?」
九朗は見張った。
シーラは口許の血を拭って立ち上がった。
「あなた達には想像もつかないでしょう。なぜビルを倒さないか」
シーラは微笑んだ。
「そも、なぜこんな攻撃を仕掛けると思う? 無論あなた達が放っておくはずがないことは分かってる。でも、私は、こんなビルなんてどうでもいいのよ。中の人間がどうなろうとね」
「もうちょっとヒントくれんと大人には程遠いで?」
「考えてみなさい。なぜ、私がここにいるのかね。その意味を」
「余裕かましてるんじゃねえぜ」
カインは、アサルトライフルをフルオートでシーラの顔面に叩き込んだ。銃弾が黒炎の壁に弾かれる。
「んならもう一発!」
九朗は更に審判の鎖を撃ち込んだ。シーラは今度は後方に飛んで回避した。
「中々かっこええ戦い方や、な!」
ゼロが黒鴉を叩き込む。シーラは鴉達を炎で叩き落とした。
悠人は突進、ペルクナスに持ち替え、切り込んだ。――キイイイイイイン! と、黒炎が盾となって立ちはだかる。
「悠人……!」
威鈴は回避射撃で援護する。
「……やらせはしない……!」
シーラは炎を盾に立ち上がると、続いて、炎を頭上に集め始めた。
「――イカズチ!」
黒炎弾が破裂した。黒炎の破裂弾が撃退士たちを薙ぎ倒す。
ドラシュが突進してくるのを、威鈴はクイックショットで叩き落とした。続いてもう一体。FBDOの阿修羅が威鈴の前に立ち塞がった。ガキイイイイン! と、ディアボロの肉弾を受け止める。
カインはアークを掛けておくと、狙いを澄ました。
「んなら! コメット!」
九朗はクレイモアを振り下ろし、彗星群を叩き込む。アウルの魔弾群がシーラとドラシュを巻き込む。
「もうしゃあねえな! こっちは破綻したけど押さえとく! 民間人の方は頼むで!」
ゼロは光信機に呼び掛けながら、スキルを入れ替えた。
ドラシュが加速する。
威鈴はストライクショットで撃ち落とす。
「そらよお!」
カインはドラシュの首にパイルバンカーを叩き込んだ。バンカーが貫く。
「…………」
悠人とシーラは睨み合っていた。
「無駄なあがきよ、撃退士」
「敵さんの十八番やな」
ゼロが上空から言う。
シーラが動いた。撃退士も攻勢に出る。
攻防と睨み合いの牽制で、五分間が流れる。
九朗はスキルを入れ替えつつ、態勢を整えていた。
「そろそろほんまのこと話したらどうやねん。手駒も壊滅や」
ゼロが言うと、シーラは微笑んだ。
「あなた達は久遠ヶ原ね。FBDOでは無いわね。福井にここまで戦えるブレイカーはいない」
「話を逸らさないでください」
悠人は剣を突きつけた。
「考えてみなさいと言ったでしょう? 私の目的ははビルじゃない。それなら、答えは一つよね? 他に目的があると言うことよ。もちろん、それを気付かせるわけにはいかないけどね」
「禅問答は好かんな」
ゼロは言って、血のついた鎌を一振りした。
「気に入らねえ奴だ。たかだかヴァニタスが」
カインは、大剣をドラシュの亡骸から引き抜くと、斬魔刀の血を払った。
「そっちの都合なんて興味ねえんだよ。お前がビルを倒さねえなら構わんよ。天魔の約束なんざ信じねえがな」
九朗は言って、戦闘態勢を取る。
「……ふう……」
威鈴は、動かなくなったドラシュの体を銃でひっくり返していた。
ガシ! と、ドラシュが銃を掴んだ。
「む……!」
威鈴はトリガーを引こうと思ったが、ディアボロは直後にはどさっと崩れ落ちた。
シーラとの戦闘は、こう着状態に陥りつつあった――。
――ビルに突入した佐藤 マリナ(
jb8520)と宮部ヒナは、エレベーターで最上階に上がった。
「ヴァニタスさん達の行動がどこかチグハグに感じるのですが、何か理由があるのでしょうか? ……兎に角、今は残された人達を無事に脱出させないと」
「そうですね。マリナ先輩、敵は何を考えているのでしょうか?」
「分かりませんが……少なくとも私たちにとって良いことではない気がします」
「ですよね……」
扉が開いた。
「行きましょう――!」
二人は慎重に歩み出した。
「佐藤です。これより最上階に踏み込みます」
「了解した。気をつけて」
光信機から紀浦 梓遠(
ja8860)の声が返ってくる。
マリナとヒナは、最上階のオフィスに入っていった。ヒナの銃を見て人々がざわめいた。マリナが手を差し出して口を開く。
「ヒナさん、警戒することは大事だけど、今は助けた人達を安心させるのも必要なことだよ。笑顔は忘れないでね」
「はい」
ヒナは肩をすくめて、銃を構えたまま、通路に目を向けつつ、オフィスへ入っていく。
マリナは人々に笑顔を向ける。
「私たちは久遠ヶ原の撃退士です。みなさん、救助隊が来ています。御安心下さいね!」
マリナが言うと、オフィスの会社員たちから安堵の息が漏れる。
「ここにディアボロは来ましたか?」
マリナは柔らかい笑みを浮かべて、男性社員に問うた。男性は「いいえ……」と微かに震えていた。
「では、ここは大丈夫ですね?」
「天魔は下の階から来ます。監視カメラを見ますか?」
「ええ。ヒナさん?」
「私は入口を見張ってますね」
「分かりました」
マリナは男性の案内で、監視カメラの映像が映っているモニターの前に立った。
「これが今回の天魔ですか」
ザイアン=ドラシュは、階段をゆっくりと上ってくる。立ち止まっているドラシュもいて、咆哮する姿と同時に、声がビル内に響き渡る。人々はざわめいて恐怖に震えた。
「みなさんはここにいて下さい! ディアボロは私たちが封殺します! どうか、安心して下さいね」
マリナは小型の光信機を置いて、使い方を教えておいた。
「万が一に備えて、これを置いてきますね。天魔の結界の中でも私たちと通話できます。――それじゃあ、行きましょうかヒナさん」
「はい!」
紀浦と間下 慈(
jb2391)とFBDOルインズブレイドらは、下の階から索敵しつつ前進していた。
「皆は無事だろうかね?」
「祈るしかないですねー」
三人は銃を構えながら進んでいく。一階のオフィスに入る。悲鳴が上がる。
「久遠ヶ原ですよー。みなさん落ち着いて下さいですよー」
「みんな大丈夫? 負傷者はいるかな?」
「大丈夫みたいですねー」
人々は落ち着きを取り戻し、女性社員が進み出て来た。
「久遠ヶ原の? 天魔は上に行ったわ。早く倒して頂戴。みんな不安で仕方がないの」
「ひとまず、待機していて下さいねー」
それから、三人は階段で上に上がった。
咆哮が轟く。
「急ごう」
三人が駆け上がると、二階のオフィスに四体のドラシュ達が入り込んでいくところだった。
「間下君!」
「了解ですー」
紀浦が加速する。間下も前進して、アシッドショットを叩き込んだ。ディアボロは吹っ飛んだ。どんがらがっしゃあーん――! 悲鳴が交錯する。
――ガアアアアアアア!
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
撃退士たちは突入する。
「ゴー! ゴー! ゴー! ゴー!」
間下はリボルバーを連射する。別のドラシュが吹っ飛んだ。
紀浦は大剣を繰り出した。剣を一閃する。
「食らえ! 薙ぎ払い!」
直撃を受けたディアボロは弾き飛ばされて動けなくなった。
ルインズブレイドも切り込んだが、跳ね返された。
ドラシュ達が、大きく息を吸い込み、そして拳を突き出した。ドウ! ドウ! ドウ! と、高速の衝撃弾が三人を貫いた。
「お……わ……!」
紀浦は耐えたが、凄まじい衝撃に弾き飛ばされそうになった。ルインズと間下も、苦痛に顔をしかめた。
「みなさん!」
マリナとヒナが駆け付けた。マリナは黒月珠に念を込める。黒色の月牙がディアボロを貫く。ヒナも護符で援護射撃する。
「皆下がって!」
紀浦は突進した。再び薙ぎ払いを撃ち込む。ドラシュは飛んで天井に張りつく。
「に!?」
「落ちろ!」
間下がリボルバーを叩き込む。ドラシュは落下したが、今度は四体が真空切りを放ってきた。
ヒナとマリナは一般人を庇って傷ついた。
紀浦と間下らは切り裂かれる。
「被害が馬鹿にならん! 危ないぞ!」
室内を見て、紀浦が叫んだ。
直後、ドラシュが加速して、ヒナとマリナに襲い掛かった。ドラシュの拳が来る。ズン! と、二人は拳を受け止めたが、全身がばらばらになりそうだった。
「真下さん!」
「行って下さいなー!」
間下がリボルバーを連射し、紀浦は加速してディアボロ一体の首を切り飛ばした。
またドラシュの反撃が紀浦に来る。肉弾アタック。ドラシュはドリルのように回転しながら紀浦と間下を吹っ飛ばした。
「この!」
紀浦は最後の薙ぎ払いを叩き込む。倒れ伏すドラシュ。間下は至近からリボルバーを連射、紀浦は倒れたドラシュの首を刎ね飛ばした。
その間に、ヒナはマリナの盾となり、刀で応戦していた。
「きゃあ!」
ヒナはディアボロの剛腕になぎ倒された。衝撃波がマリナを襲う。
「そこまでだ!」
ルインズ、紀浦、間下は突進。ドラシュを貫く。
立ち直ったヒナが参戦して、ディアボロを一体撃破する。
最後のドラシュは、咆哮して、紀浦に突撃した。
紀浦は受け止めた。大剣を振り上げる。ザン! とディアボロの腕が飛ぶ。全員の総攻撃を受けて、ドラシュは崩れ落ちた。
「やりました……みなさん大丈夫ですか!?」
マリナは倒れている一般人に駆け寄った。皆無事だ。意識を失っている者に、マリナはマインドケアを解放した。
「ゼロさん、中は制圧しましたよー」
間下は光信機に声を掛ける。
「おー、まっさん。こっちも大体片付いたわ。残るはシーラだけや」
「そっちへ向かいますー」
「宮部さん、佐藤さん、中を宜しく」
紀浦と間下は外へ出た。
シーラは、巨大な黒炎の壁を作りだしていた。炎の中へ溶け入るように後退していく……。
「宴は始まったばかりよ。今日は楽しかったわ。やはり手応えがあるわね学園生。でも最後に勝つのは私たちよ。あなた達には、絶望の対価を払ってあげるわ……」
シーラは、言って退却した。
「よお、まっさん。何や楽そうで、無事やったか」
「言ってくれますねー。こっちも必死だったんですよー」
「ああ。……にしても、悪魔の連中、何を始める気や……福井を狙うとしても、や」
ゼロは、燃え盛る炎を見つめるのだった。