「北海道は寒いな……」
ディメンションサークルを抜けて、第一声、御暁 零斗(
ja0548)は言った。
「もうすぐ冬ですからねー」
六道 鈴音(
ja4192)が応えると、黒瓜 ソラ(
ja4311)はまた言った。
「北海道にやってきたどー」
「洒落か?」
向坂 玲治(
ja6214)が軽く突っ込む。
「さて、急がないとー」
クロエ・キャラハン(
jb1839)が言うと、楊 礼信(
jb3855)は神妙な面持ちで続いた。
「……聞けば、先発の撃退士さんが時間を稼いでくれているとか。僕たちが成すべき事は敵の侵攻を抑えて、一般の人達の避難の時間を一分一秒でも多く稼ぎ出すことですよね。僕も全力で頑張らせて貰います」
「それじゃ、班わけ確認しておこう」
日下部 司(
jb5638)が言って、撃退士たちはお互いの携帯とメルアドを交換しておく。そして――。
「うし! んじゃあ行くか! オロチ狩りに!」
御神島 夜羽(
jb5977)が拳を打ち合わせる。
撃退士たちは、駆け出した。
●
「楊くん! 見えてきた!」
「そうですね。僕が前に出ますね」
六道と楊は、最初のオロチに向かって加速していく。
大オロチは、民家の上を滑るように移動していて、周辺に目を向けていた。やがて、その獰猛な瞳が、接近してくる六道と楊を捉える。
二人はオロチと向き合う。邪悪な魔界の大蛇は、学生たちを見据えて、チロチロと舌を伸ばし、鎌首をもたげた。
楊は六道の前に出ると、忍術書に念を込めた。閃光がほとばしり、雷の矢が高速で駆け抜ける。矢は大蛇を貫いた。絶叫するオロチ。
「六道さん!」
「行くわよ!」
六道は護符に念を込める。火炎弾が生み出されると、ごうっ、と加速してオロチの肉体で爆ぜた。炎がオロチを焼き尽くす。
オロチは苦しそうに雄たけびを上げると、巨体を大地へ動かし、巨大な頭を振り下ろすように二人に向けた。その口から、炎が噴き出された。炎は直線に渦巻きながら伸びて、二人のいた場所を貫通した。六道と楊は回避して、転がるように避けていた。
楊は盾とクレイモアを構えると、続いてスキルを解放した。コメット。無数の彗星がオロチに襲い掛かる。オロチは苛立たしげに咆哮した。
続いて――。
「異界の呼び手!」
六道は楊の背後からスキルを叩き込んだ。ぞわぞわぞわ、と、手が伸びて来て、オロチを束縛する。絶叫するオロチ。
「今よ! 楊くん!」
「了解です!」
楊は加速した。突進して、クレイモアを打ち込む。刀身がオロチの肉体を切り裂く。手ごたえは十分。
オロチは噛みつきで楊を襲ったが、少年は盾で受け止める。
「切り刻んでやるわよ! 六道天啼撃!!」
大旋風がオロチの顔面を切り刻む。六道家に伝わる風の魔術がディアボロを切る。ディアボロの悲鳴がこだまする。
「そこです!」
楊はもう一度クレイモアを振り上げると、オロチの首を切り裂いた。
大蛇は後退しようとするが、追い打ちを掛けるように六道が魔術を叩き込む。
「ケシズミにしてやるわ! 喰らえ、六道呪炎煉獄!!」
六道家に伝わる炎の魔術最大奥義だ。紅蓮の炎と漆黒の炎が束なって敵を撃ち、対象を焼き尽くすまで燃え上がる。かつて先祖がこの術で邪悪な大蛇を討ち滅ぼしたと六道家では伝承されている。
オロチは燃え上がった。
楊は飛んで後退した。
燃え盛る炎はオロチの全身に回り、大蛇を焼き尽くしていく。
やがて、オロチは咆哮を上げて、もんどりうって倒れ伏した。
そして炎が鎮火していく……。
楊は剣で突いてみる。大蛇の瞳から、光は消えていた。
「やりましたね! 六道さん! お見事です!」
「ふう……御先祖様の名に恥じない、今娘の面目躍如ね」
六道はにっこり笑った。
「では、次へ行きましょう!」
「そうね。急がないと……!」
二人はまた駆けだした。
●
「ヘルゴート!」
クロエはまずは第一声、スキルで自身の力を底上げしておく。
目の前にはオロチ。
司と夜羽は、ディアボロの側面から加速した。
「行くぞ!」
「はっはあ!」
オロチは身構えた。
司は飛び上がった。回転してディバインランスを叩き込んだ。
「ウェポン……バーッシュ!」
凄まじい衝撃が大蛇を直撃する。オロチは上半身が跳ね上がったが、バッシュの衝撃に巨体が耐えた。
「おらあ! 熱ィのは好きかァオイ!!」
夜羽は迦具土神を叩き込む。空中に炎の槍が出現。槍を掴むと、オロチに突き刺さした。
オロチはこの連撃に耐えたが、怒りの咆哮を上げて頭を高速で移動させた。噛みつきから飲み込み。司が捕縛され、オロチに飲み込まれた!
「おっとお! やりますねえ、蛇さん!」
クロエはスナイパーライフルを構えると、トリガーを引いた。音速を越える銃弾がオロチの頭部を貫き、炸裂した。オロチはぐらり、と揺れた。
「何なら行くぜえ! 八頭の大蛇を殺す斬撃だ! テメェは何回生きれるかなァ!!」
夜羽はアウルを剣状に構成すると、八つの斬撃を出した。射殺す八閃。腕が雷を纏う。肉体は風に包まれる。高速八連撃。再現するはヤマタノオロチを倒したスサノオの神話であろうか。オロチの頭部が斬撃に切り裂かれる。
オロチは頭を振って、咆哮した。その肉体が、びくん、と跳ねる。
直後――。
オロチの胴体を突き破って、ランスが飛び出てくる。
「おお? 司先輩生きてる!?」
クロエはスコープから目を外した。
「さっすが〜、そんな手があったのねん」
そして、ランスが上下に瞬時に移動して、オロチの胴体を切り裂くと、そこから大蛇の胃液にまみれた司が転がり出てきた。
「ふ〜う〜、こんなのでどうだ!」
司はオロチを見上げた。
「司、すんげえ匂いがするぜ!」
夜羽はけらけらと笑った。
「それじゃあ、行きますよん」
クロエはもう一度トリガーを引いた。続けて、頭部を狙う。さらに一撃、銃弾がオロチの頭部を貫く。もう一度炸裂。
それから立て続けに攻撃を繰り出し、さらに司と夜羽がオロチの胴体を分断する。ばらばらになったディアボロは生命活動を停止した。
「お疲れ様」
クロエがやってくる。
「司先輩、びっくりしたよ。飲み込まれちゃうんだもん」
「俺は胃袋から引きずりだしゃあいいと思ったがな」
夜羽は肩をすくめた。
「心配かけてすまなかったなクロエちゃん。これも手のうちさ」
司が言うと、クロエは顔をしかめた。
「先輩〜、帰ったら早くお風呂に入った方がいいよ〜」
「はっはっは……そこまでは考えて無かった。ま、いい。次へ行こう」
司は六道に電話してみる。
「もしもし?」
「六道さん? そっちはどう?」
「今一体倒したところよ。そっちは……」
「こっちも片方を片づけたところでね」
「うん、良いペースね。早いとこ終わらせてしまいましょう」
「そうだな。被害は出てる?」
「何とかみんな無事みたい。多分大丈夫だと思うわ」
「よし、頑張ろう」
「じゃあね」
司は携帯を切った。
「向こうも順調みたいだ。まだ一般人へ被害は無いみたいだ」
「まあ、こっちも無事だから、さっさと片付けて、ヴァニタス野郎へ向かおうぜ」
夜羽は言った。
「よし、行くぞ!」
三人は駆けだした。
●
「おい同志……生きてろよ!」
零斗は走りながら祈った。
「ちっ……がらにもねえ」
「市民を助け、ディアボロを倒し、ヴァニタスも撃退する。いやーこうも忙しいと一人の時間も作れない。でも、やらなきゃ……ですね。……いやーソラ殿も大変でござるな」
ソラが走りながら言うと、玲治は突っ込んだ。
「お前自分で言っちゃうかねー」
「相手が蛇なだけに、へビィな依頼ですね!」
「なんつーベタな……」
「よお! 見えてきたぞ!」
零斗は二人に向かって叫んだ。
見れば、赤いオーラを纏った撃退士が、巨大なオロチに乗った黒衣の男と戦っている。
「よーし行くぞ!」
三人は加速した。
青年は力を充填すると、剣を構えて、ブラデーシュに飛びかかった。
「これでも……食らえ! おおおおおおお!」
凄絶な一撃を、ブラデーシュは刀で受け止めた。
「く……!」
「無駄だ」
ブラデーシュは青年を吹き飛ばすと、ボスオロチに命令した。
「火炎」
ボスオロチの口から火炎が放出される。青年は直撃を受けて焼き尽くされた。
「ぐあああ……!」
駄目か……青年は死を覚悟した。
ブラデーシュはボスオロチを前進させた。
次の瞬間――。
スナイパーライフルからの一撃が、ボスオロチの顔面を貫通。その後頭部を吹き飛ばした。ボスオロチは悲鳴を上げてのけ反った。
「ドーモ、ヴァニ=タスサン。クローリー=ソラです。……これ以上好きにはさせません。邪魔させて頂きます」
ソラはスコープから視線を動かさずに言った。
零斗と玲治は加速する。
ブラデーシュは三人の出現に、冷静にオロチを操作して、下僕の怒りを新手に向けさせる。
「おい!」
零斗は青年に駆け寄る。
「大丈夫か! お前!」
「久遠ヶ原の……?」
「そうだ。立てるか。動けるなら、他の仲間を見に行ってくれ」
玲治は、二人とブラデーシュの間に割って入る。
ソラは、スコープから見えるボスオロチの頭部に狙いをつける。
「オロチはオロオロしてりゃいいんですよ! ――と!」
もう一撃叩き込む。銃弾が音速の壁を突破して、ボスオロチの頭部を貫通する。オロチは悲鳴を上げる。
「スナイパーか……」
ブラデーシュはソラを見やる。
ソラはスコープでブラデーシュと視線がぶつかる。
「こっち見てるよ〜ん。ヴァニタスならぬバニーボーイ……ちゃん!」
ソラは次の攻撃に備える。
「来いよビジュアル系。余裕ぶった顔に冷や汗かかせてやる」
玲治は盾とトンファーを構えた。
「む……」
ブラデーシュは油断なく、玲治との距離を保つ。オロチをするすると横に移動させる。
「よし、行ってくれ」
零斗は青年を行かせた。
「すまん。恩に着る」
「請求書はそっちに回すからな」
言ってから、零斗もブラデーシュを見やる。
「さーてと、ヴァニタス野郎、とりあえず、その上から目線はむかつくんだよ!」
零斗は飛ぶと、回転しながら鉄槌でボスオロチの頭部を万力を込めて殴った。オロチの頭部が爆ぜて、地面に叩きつけられた。
ブラデーシュは地面に転がり落ちた。
「さてっと、これで同じ目線に立てたな。それじゃあ、ちょっと俺と遊ぼうぜ」
と、オロチが反転して襲い掛かってくる。
「まだ来るだろうね……!」
玲治は盾を構えてオロチの突撃を受け止める。凄い力だ。それから思い切りオロチの首元を殴りつける。
「おらあ! と! 行かせてもらうぜ!」
トンファーがめり込む。オロチの肉と骨を砕いた。それでもボスオロチはまだ動く。
続いて、ソラがさらにスナイパーライフルでオロチを狙撃する。銃撃がオロチの頭部をまたしても貫通する。まだ動く。大した生命力。
ブラデーシュは立ち上がると、腕を上方に突き出した。
「む……」
零斗は軽く後退した。
「何だ……?」
やがて、霧が立ち込めて来る。霧はさらさらと伸びて来て、ソラの視界も包み込んだ。
「幻術か……? 嫌な予感的中かよ……」
直後、零斗は衝撃で吹き飛ばされた。続いて襲い来る衝撃に、零斗は血を吐いた。
続いて、玲治も吹き飛ばされた。
「何だ……と……!」
よろよろ立ち上がって、また連撃が来て最後に強打で吹っ飛んだ。
「ちょっと……忍者ボーイですか?」
ソラも危険を感じて鎌を抜いた。
次の瞬間、ブラデーシュが突進して来た。
ソラは後方へ飛んで次元突破を抜き放ったが、衝撃波で斬られた。
「く……は……!」
ソラは喀血した。
霧が晴れると、三人は地面に転がっていた。
ブラデーシュはその真ん中にいて、仁王立ちだった。
「ちい……!」
零斗は立ち上がった。
「おい! 忍者野郎! ふざけんなよ!」
「おいおい、これで終わりだと思ってないだろうな」
額から流れる血を舐め取り、立ち上がる玲治。
ソラも呼吸を整える。
そこで、オロチを撃破した六道と楊が到着する。
「みんな、お待たせ!」
「オロチは倒しました……後顧の憂いが減じた以上、護りに徹した戦いをこれ以上する必要もなくなりました。この上は全力で討ち倒させて貰います!」
さらに、同じくオロチを撃破したクロエに司、夜羽が姿を見せる。
「みんな無事〜……じゃないみたいだね」
「皆、お待たせ!」
「はっ、間に合ったかあ?」
ブラデーシュは撃退士たちを見やる。
「ほう……役者がそろったか。後続の学園生たちか」
ブラデーシュは腕を持ち上げると、二体に分かれ……さらに四体に分かれた。
「なに〜!?」
零斗は呆気にとられたが、鉄槌を構えた。
「ふっふっふ……まあ、四体くらいでいいだろう」
四体のブラデーシュは刀を構えると、加速して来た。
零斗は打ち合い、ブラデーシュを殴り飛ばした。
「リアル分身かよ! そんあのありか……つーの!」
「その分……力は落ちて……ないか!」
玲治もブラデーシュを吹っ飛ばした。
ソラはPDWに持ち替え、連射した。銃口が火を吹く。
「幻はマーボー豆腐みたいにおいしくない……てやんです!」
二体のブラデーシュは後退して、一体に戻った。
六道と楊の攻撃に、こちらもブラデーシュは後退。
さらに、司にクロエ、夜羽らの猛攻に、ブラデーシュは後退する。射殺す八閃がブラデーシュの頬をかすめた。
「よォ優男、マシな面になったじゃねェかァオイ?」
ブラデーシュはボスオロチを盾に後退して、また元の体に戻った。
「さすがは学園生……簡単には倒れないね……」
ブラデーシュはずたずたのボスオロチに騎乗した。そして――。ブラデーシュは自分の口から幻の炎を吹きだすと、それで大地に炎の壁を作りだし、退却した。
●
「よお、しっかりしな」
零斗はフリーランサーの体を起こした。
「ヴァニタスは帰ったぜ」
「あんたらは……」
「久遠ヶ原」
玲治とソラも救護に当たる。
「ふぅ……ああいった手合いの相手はもうしたくねぇな」
玲治は言って、フリーランスに水を飲ませた。
「ヘヴィ級の蛇はいなくなりましたよ!」
ソラは洒落を言いながら、負傷者の傷跡を清潔な布で拭いた。
六道は救急箱から包帯を取り出して、倒れたフリーランスを手当てする。
「すぐに救急隊が来ますからね。頑張って……」
「あ、ありがとう……」
クロエと楊は、フリーランスの撃退士に呼び掛ける。
「大丈夫〜? しっかりしよ!」
「悪魔は撃退しましたからね! 安心して下さいね!」
「久遠ヶ原か……借りが出来たな……まさか学生に助けられるとは……」
「あなたも学生のころを思い出した?」
司は涙を流していた。犠牲者が出なかったことに、胸の内が熱くなる。
「本当に、みなさんが無事で良かった……」
司は涙をぬぐって、フリーランスの救護に当たる。
「全く……感動的な奴だなあ」
夜羽は言いつつ、ぼやきながらも救護を手伝う。
撃退士たちは全員を救助して、住人達にも天魔が去ったことを伝えた。
今日もまた一つの戦いが終わり、記録に新たな一ページが刻まれる。