バラバラバラバラ……! と、ヘリが着陸してくる。偵察部隊が乗ったヘリだ。
現地に到着した学生たちは、彼らの貴重な情報を待ちわびていた。
偵察部隊も学園生であり、彼らはまだ交戦には無理であったのだ。
「お疲れ様です」
金髪の小学生の娘が駆け寄った。美しい鎧をまとっている。目が前髪で隠れていて、目の感情が見えない。娘の名を、只野黒子(
ja0049)と言った。
「みなさんの到着をお待ちしていました」
「久遠ヶ原の……?」
「はい。こちらです」
黒子は偵察部隊を仲間たちのもとへ案内する。
野営地にて、眼鏡が知的な印象を与える女性が腕組みをしていた。鬼道忍軍の大学部一年、彩・ギネヴィア・パラダイン(
ja0173)である。綾は、思案顔でいた。
「人を殺すだけのサーバントとはね。どうもこのところ天使の頭脳に対する学園生の評価がだだ下がりのような気がします。とにかく、馬鹿な天使に無駄な力を使ったと、思い知らせてあげましょう」
どうやら、ここ最近の天使の脳筋ぶりは、学園中に広まっているようだった。
「水晶体のサーヴァントて何かおかしい気がするけども……大体サーバントて、神話の合成獣のような姿が多くなかったしら? 水晶体って……ねえ? どんな天使が作ったのやら。ま、変化するのもややっこしいけど、その辺も踏まえて対処ね」
色っぽい声で言ったのは娘。右手に片手槍、左手に投げ手裏剣。上半身にタートルネックセーターを着用している。高等部二年の鬼道忍軍、高虎 寧(
ja0416)であった。
すると、金髪の娘が溌剌と口を開いた。小等部五年のダアト、エヴァ・グライナー(
ja0784)だ。
「魔法攻撃しか通らないなんて、最高ね。焼いて素粒子レベルまで分解してあげるわよッ!!」
エヴァは整った礼服を身につけている。エヴァの祖父、マンフレート・グライナーが孫用に再設計した魔術礼装で、知識の蒐集家であるグライナー家の集大成の一つである。元となった服はナチス親衛隊の黒服であるが、製作者の意向により印章は取り払われている。
「デジカメを持ってきましたからね。まあ、きっちりと現場に出た私たちが撮影して帰りましょう。このような奇天烈なサーバント相手ですからね」
言ったのは長い黒髪の金瞳の男子学生。大学部二年、ダアトのグラン(
ja1111)である。
「ダアトの愛ちゃんがお役に立てるお仕事なの。頑張ってみんなのお手伝いをするの」
元気いっぱいに言ったのは小学部二年のダアト、周 愛奈(
ja9363)である。不思議植物図鑑に幻想動物図鑑、マジシャンステッキを操る魔術師だ。
「ああ。これ以上好き勝手させるかよ! ピラーだか何だか知らねえが、ぶっ潰す!」
大学部一年、ディバインナイトの香具山 燎 (
ja9673)の声が響く。香具山は男所帯で育った熱血女傑であった。その性格を示すような、燃えるような真っ赤な長髪が本当の炎のようにくせ毛になってはねている。目は雷光を思わせるアイスブルー。
「水晶かあ。確かに珍しいね。風変わりな天使の産物かな」
金髪の娘が言った。高等部三年のナイトウォーカー、ユリア(
jb2624)である。ちなみに彼女は悪魔である。
「ふむ……天の者め……また厄介そうなものを創りだしたものだな」
同じく悪魔のケイオス・フィーニクス(
jb2664)が言った。銀髪赤瞳の中世的な美しさを持つ男だ。欧州中世暗黒時代末期から存在する古き魔の一人であった。
偵察部隊の学生たちがやってくると、本隊としてやってきた学生たちは「お疲れ様」と出迎える。
「早速だが、学園でも大よそは聞いているとは思うが、交戦地点は市街地の外れ。まだ幸い多くの住人はいない。クリスタルピラーのレーザーは強烈だ。広範囲に大出力のレーザーを撃ち込んでくる。体が焼けるぞ。こちらが攻撃を開始すれば、反撃をして来るといった風だ。知性は感じられなかった。本能で動いているのだろう。俺たちが撤退する時は、また並列隊形に戻って、全身を開始していた」
言って、偵察部隊は現地の地図を広げ、定規とコンパスで敵の進路と、交戦地域に線を引いた。
「これを見る限りですと、遮蔽物はそれなりにありそうですね。ただ、大きな建物も存在しませんね……」
黒子は言って、仲間たちと地図を囲んだ。
「私はまずは敵の集結まで、市民の誘導に当たりましょう」
彩は思案顔で頷く。
「事前相談通りの集中砲火ですね」
高虎が言うと、エヴァは頷き「十字砲火作戦で行くわよ!」と地図を確認し、無意味にペンデュラムをかざして、ダウンジングしてみる。
「私のダウンジングによると……この位置なんて相手からも発見されづらく、不意の攻撃が撃てるわよ」
「ダウンジングを信じてるの?」
彩が言うと、エヴァは笑った。
「見て、この位置。敵の視界からは死角。待ち伏せには持って来いなのよ。ここから……ここで、私たちが展開すれば……」
「ダウンジングも大したものですね」
「♪」
「冗談ですよ」
「では、私もこの辺りで待ち伏せしますかね。クリスタルピラー、堪能させてもらいましょう」
グランは思案顔で言った。
「作戦は了解したよ! 愛ちゃんも待ち伏せ作戦で、集中砲火に加わるね!」
愛奈は力強く言って、グランの顔を見上げた。
「頑張ろうねグラン兄様!」
「ええ愛奈君。中々タフな相手になりそうですが……気を付けて下さいね」
「はい!」
「私が守ってやるよ愛奈殿。ま、がっちり連携で行こう」
香具山は言って、愛奈の頭に、ぽむ、と手を置いた。愛奈は「はい!」と香具山を見上げる。
「じゃ、私たちも頑張りましょうか。ケイオスさん」
「うむ……」
ユリアの言葉に、ケイオスも頷く。
「それじゃあ行きましょうか。クリスタルピラー……どう出て来ますか」
「住民のみなさんにも離れてもらいませんとね」
そうして、撃退士たちはクリスタルピラーが向かってくる戦場へ向かった。
彩は壁走りで建物を登っていくと、クリスタルピラーの位置を仲間に知らせる。
「ピラー四体、現在防衛線から一キロの地点を進行中。今のところ速度はかなり遅いですけど」
彩は携帯で仲間たちに伝えると、また町並みを見やり、クリスタルピラーの移動経路を推量する。
「危ないですね……」
彩はまだ残っている市民を確認すると、駆け降りた。市民を家の中へ戻るように言う。
「みなさん、戻って下さい。そちらの方も」
「ああ、私はラーメン食べに来ただけですから」
「ラーメンですか? のんきなことを言ってないで、屋内へ戻って下さい。サーバントが来ます」
高虎もまた壁走りで索敵。彩とは別方向から接近するクリスタルピラーを確認。
「ピラー接近します。待ち伏せ班、ピラーは並列で直進してきます。迎撃ポイントにて待機願います」
「了解しました!」
「こちらは監視を続けます。よろしく」
高虎は壁走りで移動しつつ後退。
「こちらグラン。これより阻霊符を発動します。いいですかみなさん」
ビルの上にいたグランが言うと、彩が「了解です。クリスタルピラー、予定地を抜けていきます」と答える。
グランはピラーをデジカメで撮影してから、阻霊符を発動させた。
阻霊術でクリスタルピラーの動きが変わる。彩はサーバントの側面から接近、ピラーが集結すると見て、移動経路上の電柱等に鎖鎌を渡して引っかけられないか試みる。
「さて……うまくいくかしらん」
彩は息を潜めた。
コオオオオオオオオ……。サーバントは呼吸して動きを止めた。
「上手くいった」
それから一分で鎖鎌を放す。ここで戦うつもりはない。時間稼ぎだ。だがピラーの隊列は乱れた。
「みなさま用意は宜しいでしょうか。私は前に出ますね」
黒子は言って、前衛に出る。
「こちらで誘導を行いますので、後衛のみなさん集中攻撃の用意願います」
「了解です」
「こちらエヴァ。うまく仕掛けてね」
エヴァは無線機から流れてくる声に応えた。遠方に目を向けると、いよいよクリスタルピラーが接近してくるのが見える。
「さて、集中砲火の始まりだよん」
「こちら愛奈です! 位置に着きました! いつでもいけます!」
愛奈も配置に着く。魔道書を手に、鼓動の高鳴りを押さえる。いつになっても戦いのプレッシャーに慣れることは無い。
「よし! やるよ!」
「こちら香具山。黒子殿と前に出る。ディバインナイトの本領だな。高虎殿と彩殿はお疲れ様。接近戦は任せておけ。奴らの不意を叩く! ……ま、不意が利くかどうかはともかく」
ユリアもまた待機していたが、普通に歩いている子供たちを見て、慌てて駆け寄る。
「すみません! 久遠ヶ原の撃退士です。サーバントが近付いてきますから、早く逃げて下さい。南へ。早く行って下さい!」
「あ……は、はい! わわ! 来てるよ!」
「急いで」
「はーい!」
子供たちはダッシュで駆けていく。
「ふう……まだ近くに人がいるのかな。みんな頼むから逃げてね……ニュースもやってるでしょう」
「さて……我も位置取りは十分だが、人の子らは間違いないか? 集中砲火でまずは確実に先頭のピラーは沈める」
ケイオスの言葉に、仲間たちは応える。
「準備は十分ですね。後は、知恵と勇気と幸運が勝敗を分けますよ」
「それに、果断、だな」
「クリスタルピラー、接近」
「よし、始めるぞ――」
撃退士たちは攻撃を開始した。
「……来たわね。逃さないわよ!!」
エヴァは異界の呼び手を発動。無数の腕がクリスタルピラーを捕縛する。
ギギギギギ……とピラーがうめく。
「そして、もう一つおまけよ! Der Schatten aus der Zeit! 痺れなさい!」
続いて、偉大なる種族の電撃銃を叩き込む。
「では始めましょうか」
グランはファイヤーブレイクを叩き込む。巨大な火球が炸裂する。ピラーを火炎が飲み込む。
シャアアアア……! と咆哮するピラー。
「よーし愛ちゃんも始めるよ! 不思議植物図鑑、オープン!」
木の葉の刃や種子の弾丸がサーバントを貫く。
「行っくよー! Moonlight Burst!」
ユリアの手から月光色の光の球が爆発し、光の粒子がクリスタルピラーを巻き込む。
「高威力の一点攻撃に範囲攻撃か……流石にアレを喰らったら我も無事ですむかどうか……が、幼子が身体を張っているのだ……我もその心意気には答えねばな。さて、天の眷属よ……悪魔の戦いというものを教育してやろう」
ケイオスもラジエルの書に手をかざすと、魔術を叩き込む。白いカード状の刃がクリスタルピラーを貫通する。
ピキピキピキピキ……! とピラーに亀裂が入ると、バリイイイイイイイン! と砕けた。
「まずは一体、仕留めましたね」
黒子はソウルイーターで杖を叩き込む。
続いて彩が影の書で攻撃する。
「こちらへ来なさい、水晶体」
「行きますよ――辻風」
高虎は印を結んでオーラの刃を叩き込む。
「ああ、私が相手だ! かかってこい!」
香具山はハーヴェストを打ち込んだ。
――と、クリスタルピラーが三体でフォーメーションを取ると、きらきら! と輝いて、大出力のレーザーを撃ち込んで来る。
シュバアアアアアアアア! と閃光が駆け抜ける。
「むう――!」
香具山は光線をシールドで防御。
「そう簡単に抜けさせはしない!」
しゅうしゅう……と、香具山の体から湯気が立ち上る。
「こちらです――」
黒子が加速、高虎と彩が側面から掛かり、香具山は突進した。クリスタルピラーに打撃を与える。
シュウウウウウウウウ……! とクリスタルピラーの一体が咆哮し、レーザーを撃ち込んで来る。
香具山がシールドで受ける。
「後ろへは行かせない!」
「お疲れ様! 続いて行くわよ! Fomalhaut n'gha-ghaa naf'lthagn!」
続いてエヴァは火鬼の王の招来を叩き込む。炎がピラーを焼き尽くす。
「それでは……」
グランはポイズンミストを発動。毒の霧に包まれたクリスタルピラーは苦しそうに咆哮して震える。
「ライトニング! オープン! 不思議植物図鑑!」
愛奈の一撃、ユリアのMoonlight Burst、ケイオスのラジエルの書が貫く。
ギギギギギギギギ……グガアアアアアアア! と、クリスタルピラーが咆哮し、また一体、パリイイイイイン! と砕けた。
すると、クリスタルピラーは二体が変形、水晶の巨人戦士になって降り立った。
「来ましたね巨人戦士」
黒子はするすると接近すると、杖で撃ち込む。
一撃、二撃、と巨人戦士と打ち合う。
「……剛魔把」
彩は影縛りを打ち込んだ。魔具をパワー形態の黄色い外骨格アーム「神虎」に変異させ、かざした手から念動波を放つ。クリスタルピラーを念動波で釘付けにする。
「行くわよ……火遁・火蛇」
高虎は手をかざし、側面から火遁を叩き込む。オオオオオオオ……と炎が奔ると、巨人戦士が赤黒く染まる。
香具山は前進、盾を構え、斜め前の巨人戦士に相対する。サーバントの攻撃方向を限定させ、盾のない側から懐へ飛び込み、一撃打ち込む。すぐさま離脱して防御姿勢をとる。
……ブウウウン……と巨人戦士が鳴動して、衝撃波が飛んでくる。香具山は反射を受け止める。だが巨人戦士は防御姿勢に追い込まれた。
「このチャンス、むだにするなよ?」
「了解ね! Der Schatten aus der Zeit! Fomalhaut n'gha-ghaa naf'lthagn!」
エヴァが手をかざし魔術を叩き込む。青い放電が古いカメラ型の武器の形を成し、その先端より電撃を放射する。また、火鬼の王―――意思を持っているように感じられる巨大な炎の塊が無数の火の従者を連れたかのように現れれば、炎は一丸となって巨人を焼き尽くす。
グランはデジカメで撮影していた手を止めた。
「ふむ……実に興味深いですね」
グランは魔道書に手をかざし、スタンエッジを叩き込む。
「まだまだだね! 愛ちゃんはみんなを守るの!」
愛奈はライトニングを撃ち込み、
「反射も怖いけど、怖がってちゃ何もできないからね。思いっきり行くよ!」
ユリアはCrescent Moonを撃ち放つ。
「こんな水晶はキッチリと砕いちゃわないとね」
「天の者よ……我が力……魔道……思い起こすがいい。人の子らに傷は付けさせぬ」
ケイオスはラジエルの書で一撃。
撃退士たちの魔術が貫通して、三体目のクリスタルピラーが砕け散った。
キガアアアアアア――!
クリスタルピラーはまた六角柱に戻ると、全身からレーザーを放った。
「ラスト! 集中攻撃!」
しかし、怯まず前に出る撃退士たちの集中砲火と打撃がクリスタルピラーを捕える。
パリイイイイイイン――! と、最後のピラーも砕け散った。
「良い教訓になった……レポートを作成せねば」
グランはデジカメの画像を確認していた。
かくして、サーバントを撃破した撃退士たちは、事後処理のために後ろの町へ歩きだした。
戦いは……終わった。
また、新たな記録が一ページ、学園に加わる。