クライシュ・アラフマン(
ja0515)とエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)はシーラの結界に先行した。
「さて……あの魔女に会うのも久しぶりだな。不思議だ。心躍るものがある」
クライシュの言葉に、マステリオは肩をすくめた。
「へえ……ですが、随分と派手に暴れてくれますねえ。僕の手でその行いを後悔させてやりたいところですが……」
「シーラが搾取を開始していたら、すぐに牽制に入る。いいか」
「そうですね」
二人は市街地を進む。
「おい、待て」
クライシュはマステリオの肩を押さえた。
頭上を目玉型ディアボロが飛びぬけていく。
「あいつが……目玉?」
「そのようですね」
目玉は空中で静止して、ぎょろりと周辺を見渡している。二人には気付かずに行ってしまった。
吐息して、二人は前進した。
――と、二人は角から出てきた目玉と鉢合わせしてしまった。
「――!? ギガアアアア!」
目玉は咆哮して、舞い上がった。
「ちっ……しまった」
目玉は舞い上がると、そのまま飛び去った。
「ばれたな」
「仕方ありませんね。人々に危害が出なければいいのですが」
尤も、シーラにとって人間は貴重な魂の収集源であり、あのヴァニタスは簡単に人間を殺すつもりは無かった。それを二人が知る由は無いのだが。時と場合によって、天魔は殺戮も行うこともあったし。
二人はそのまま加速した。
シーラは、黒い炎をまとって、ゲートの前にいた。
「あれがシーラですか……」
「そうだ」
「おい」
「あれは……」
シーラの側に、子供が一人いた。少年だ。
シーラは少年に話し掛けていた。
「ねえ僕? 君の魂を私たちにくれるわよね? 上級騎士卿のために、僕の貴重な魂を頂戴。怖がることは無いわ。ディアボロに生まれ変わったら、人間とは想像もつかない凄い力を手に入れることが出来るのよ」
「ぼ……僕悪魔になりたくない……!」
その光景を見て、クライシュとマステリオは危険を感じ、飛び出した。
「そこまでです! それ以上は、この奇術『士』エイルズが許しませんよ」
「やぁ久しぶりだな獄炎の魔女、この間の続きと行こうか!」
「何?」
シーラは二人に顔を向けた。
マステリオはショウ・タイムを発動。忍苦無を投擲した。シーラは炎を盾に受け止める。
「シーラ――こいつを食らえ。報復遂げし英雄王――アヴェンジャーズ・フェリドゥーン」
クライシュのOS。暗殺教団時代に培った秘技である。10世紀半ばに流通した中国内功術と中東アジアの武器術の融合により、剣先から竜の姿を模した光の波を放つ。その名はイラン神話の英雄王であり、彼の逸話から来ているとされる。
光の竜が咆哮すると、シーラを直撃した。
ゴオオオオオオオ――! と、光がきらめく。
「むう……」
シーラは、黒炎を盾にして、光竜を受け止める。そして、手を翻すと、腕をひと振りして、黒炎の巨大な壁を作りだした。
「お前たちには何もさせないわ、撃退士――!」
「クライシュさん?」
「うむ。時間稼ぎとしては上等だが」
クライシュは少年を保護して、炎を見上げた。
その頃、ディアボロ撃破に向かった六人は、デビルフレイムとの交戦に入ろうとしていた。
「それにしても、こいつぁ、面白いことになってきたな。前のヴァニタスは中々良い性格してやがったが、今回の奴はどんなもんかねぇ」
Caldiana Randgrith(
ja1544)が言うと、
「Caldiana、ヴァニタス戦は厳しいかもな。このヴァニタスの報告書は見た」
高坂 涼(
ja5039) は応えて「ふむ――」と思案顔。
「魔女……ね。ま、とりあえずは炎の方が先ね」
Erie Schwagerin(
ja9642)は言って、胸の内のざわめきを落ち着かせるように吐息した。天魔に対しては何とも思っておらず、むしろ人間に対して嫌悪を抱いているErieにとって、戦いは胸をざわめかせる。
人に奪われ、悪魔に救われ、その悪魔は私を置いて何処へやら……人が憎い、でも彼は人が大好きだから……人を辞められず、僕にもなれない……なら私は……。
「Erie、どした」
「あ、うん、何でもないよ〜っ」
Caldianaに言われ、無理に笑顔を浮かべるErie。
「大丈夫か」
「大丈夫だよ〜」
「ま、あのシーラも色々考えてくるなァ。まァ仕事をきっちりやればいいだけだな」
言ったのは火之煌 御津羽(
ja9999)。二メートルを越える長身で、燃えるような長い赤毛をしている印象的な女性である。
「デビルフレイム……はよ行かんと、沢山死んでしまうからな。急ごう」
桐生 水面(
jb1590)が言うと、悪魔の蒼桐 遼布(
jb2501)は肩をすくめた。
「しかし、あぁぁ、戦いにくいったらないぞ。このデビルフレイム、俺にとっちゃ天敵だな。炎が鎧で、コアしかダメージが入らないとはな」
「まあ、やるしかないぜ」
火之煌が言うと、蒼桐は「ああ」と答える。
やがて、六人は、無差別攻撃を行うデビルフレイムを視界に捕える。阻霊符を展開。
桐生はまずは回りの一般人の保護に向かった。
「うちは先にみんなを避難させて来るわ」
「それにしても……あの炎を鎮火させるのは骨が折れるぞ」
「楽しくなってきたじゃないの」
「よーし、行くぞ!」
撃退士たちは加速した。
「さぁて、私も本腰入れるかねぇ。エリー、後ろ任せたぜ」
Caldianaは金の炎を武器に纏わせ、しなやかな猛獣のように突進した。オートマチックP37を連射する。バン! バン! バン! バン! と銃撃が炎を粉々に吹き飛ばす。
「肌が焼けそうだな……だが、多少の火傷は慣れっこだ。行くぞ!」
高坂はゼピュロスランスを繰り出した。
「炎が薄い、貫けるか―――!!」
ランスはコアを直撃。
デビルフレイムは咆哮して膨れ上がった。
高坂は退いて、仲間たちに警告した。
「遠距離攻撃が来るぞ……! 映像で確認した通りだ!」
撃退士たちは散開した。
次の瞬間、デビルフレイムの黒炎が炸裂して、火炎弾が高速でばら撒かれた。撃退士たちは受け止めた。続いて反撃に出る。
「それじゃあ反撃、行くわよ」
Erieは腕を持ち上げた。
「Demise Theurgia-Naiad Osculum-」
デミス・テウルギア・ナイアード・オースクルム――深淵に形を与え、現界させる魔術。与えられた姿はルサルカ。愛に溺れた水底の魔性。現界した深淵がErieを包み、その姿を美しき精へと変える。情熱を知らぬ水精の愛は、貫いた者を包み凍らせる。その様は氷の抱擁。――氷がデビルフレイムを直撃し、炎が凍り付き、砕ける。
「Erie! やるな! 続いて行くぜ! リソース温存なんてこの敵にやってる場合じゃねェからな」
火之煌はソニックブームをコアに叩き込んだ。ズバアアアアアアア――! と衝撃波が貫通する。
「こっちも行くぜ! 悪魔の炎……ぶったぎる!」
蒼桐はフルカスサイスでコアを切り裂いた。ザシュウウウウウう! と、コアから血が噴き出した。
「早くみんな、こっちやで!」
桐生は一般人を可能な限り退避させる。逃げ惑う人々がまだ少ないのが幸い。桐生は走り回って住人たちを退避させていく。そうする間にも戦いは続くが、桐生は懸命に走った。これは復讐なんかじゃない……うちは……うちは……いつか。きっと死んだ両親はそんなことを望んでいないはず。きっと、水面が素直で健やかに育ってくれれば良いと願ってくれたに違いない。時々そんなことを思ってしまう。
「今は――」
目の前の人々を救うだけ。
「Demise Theurgia-Naiad Osculum-、Demise Theurgia-Silberblitz Unicornis-」
Erieは氷と雷の魔術を叩き込んでいく。デミス・テウルギア・ズィルバーブリッツ・ユニコルニスは深淵に形を与え、現界させる魔術。与えられた姿はユニコーン。純潔を司り、処女に思いを寄せる白銀の獣。激しく散る銀の雷を纏い、その清き角がディアボロを貫く。如何に清き獣と言われようとも、同時に憤怒も司る故に。
ディアボロの炎が砕ける。
「オッケイErie! こいつを食らえディアボロ!」
Caldianaはストライクショットをコアに叩き込んだ。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! とコアから血飛沫が炸裂する。
「悪魔の炎……騎士の一撃を受けろ!」
高坂は続いてゼピュロスランスをコアに突き立てる。ランスはコアを貫通。
「よっしゃあ! スマッシュ! ――だ!」
火之煌は強烈な一撃を撃ち込んだ。凄絶に切り裂かれる白銀の塊。
「いけるか……! しぶといが……」
蒼桐はオートマチックP37を連射した。コアを正確に撃ち貫く。
そこで、桐生が合流してくる。
「お待たせみんな。もう終わりそうやな? ……行くで! 穿つは闇、光を喰らう漆黒の一撃!」
桐生は闇砲――ナイトメアカノンを叩き込んだ。アウルによって生み出された闇の力を拳に集約し、正拳突きを行うように押し出しながら撃ち込む魔法。撃ちだした闇の力はレーザーの様に直線上の目標を貫く。
レーザーがデビルフレイムを貫く。
――びくん! とデビルフレイムが震え、やがてゴアアアアアアアア……と咆哮の残響を残して、炎が霧散していく。
「やった、か?」
最後に、地上に血まみれのコアが落ちて転がった。
「片付いたみたいだな」
Caldianaはコアを足で突いて、吐息した。
「さて、それじゃあ、ジェラルドとルルナが苦戦しているだろう。急ごう――」
六人はまた走りだした。
――ゴウ! と炎が弾けた。デビルフレイムから前後に火炎放射が放たれる。ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)とルルナ(
jb3176)は回避した。
「おっと、受けるわけにはいきませんよ〜♪」
ジェラルドはオートマチックP37を連射。デビルフレイムの炎に弾かれるが、構わず撃ち込む。
「ふふ……牽制になれば、ねえ☆」
ルルナは、デビルフレイムを金色の瞳で見据える。
「羽無しなんて関係無い、ルルナはココに立ってる! これが今日のスペシャルステージだよ!!」
ルルナはオリアクスロッドを手に、バルディエルの紋章に念を込めた。ロッドのマイクに叫ぶ。
「皆を守ること……! 今は、ルルナはあなた達を許さないんだから! 悪魔だって……悪魔だからこそ、燃えたぎる心があるの!」
バルディエルの紋章から稲妻の矢がデビルフレイムにほとばしり、炎を打ち砕く。
「燃え立ちますね☆ ルルナさん♪ それじゃあ、ボクから手痛いお仕置きをあげようかな」
ジェラルドは加速して、コアに掌底を撃ち込んだ。燃え盛る炎の中に叩き込み、デビルフレイムは吹き飛んだ。
そこで、仲間たちが合流してくる。
「よお! 待たせたな!」
Caldianaが銃撃を叩き込み、高坂が突進する。Erieが魔術を撃ち込み、火之煌が残るスマッシュを叩き込んだ。更に桐生が魔術が続き、蒼桐が加速する。
連続攻撃を浴びて、炎が巻き上がるデビルフレイム。――ゴアアアアアアアア! と火炎を吐き出す。コアがむき出しになる。
「ふふ……隙を見せちゃダメって……言ったでしょう?♪」
ジェラルドは回り込んで、闘気解放でパルチザンを撃ち込む。ザシュウウウウ! と、槍が貫通する。
「OVERDRIVE! OVERDRIVE! OVERDRIVE! 今突き抜けて行くよ貴女の魂!」
ルルナはOVERDRIVEを放った。ルルナが歌うロボットアニメの主題歌だ。作品内容を映し出すように燃え尽きるほどHeatでRockな魂の熱唱ソング。アウルの力を乗せて歌う事で灼熱の炎を巻き起こし、文字通り相手の身も心も熱く燃え上がらせる。
デビルフレイムのコアは燃え上がった。
――ギガアアアアアア! とデビルフレイムは咆哮し、崩れ落ちて行く。
そして、デビルフレイムを撃破した撃退士たちはシーラのもとへ向かう。
――渦巻く獄炎の中に、クライシュとマステリオはいた。炎はシーラを中心に湧き起こっていた。
やがて、仲間たちが到着する。
「来たか……待ちくたびれぞ」
「ディアボロの方は?」
「大丈夫だ。片付けてきた」
「それでは……残るはこいつだけだな」
「おい、正直まともにやって勝てるような感じでもないしなァ。むしろゲートを破壊させちまえばいいんじゃねェか」
すると、炎が霧散して、シーラが姿を見せた。
「撃退士たちね……興味深いわ……小賢しい人間だと思っていたけれど、戦ううちにあなた達をいつの間にか対等の敵として見ている自分がいる……」
「はっ! んじゃま始めるか!」
Caldianaが銃撃の銃撃を黒炎が弾く。
「竜王の牙、再びその身に受けよ!!」
クライシュのOSが黒炎の壁を直撃し、マステリオがクラブのAを叩き込む。しかし、カードは黒炎のシールドの前にはらはらと崩れ落ちた。
高坂は小天使の翼で舞い上がると、シーラの頭上からランスを叩き込む。シーラは手をかざして炎で受けた。
ジェラルドは浮遊する目玉を狙って、チャクラムを叩き込む。シーラへの陽動とする。
「さあみんな、悪魔の目は潰しておくから逃げてね」
「爆焔――ブラストフレア!」
続いて桐生が回り込んでファイアワークスを叩き込み、蒼桐が大鎌での接近戦を試みる。
「ディアボロの鬱憤を晴らせてもらう!」
キイイイイイイイン! と、シーラは鎌を掴んで、蒼桐を見据えた。
「ヴァニタスが……」
蒼桐は距離をた保つ。
「行くわよヴァニタス! “OVERDRIVE!” あなたの体は炎に強くても、あなたの心を火傷させるよ……!!」
炎がシーラを包み込む。――が、シーラはそれを薙ぎ払った。
「ヴァニタスって欲望に忠実に動くんでしょ? シーラちゃんの欲望って何なのかしらぁ? 気になるわぁ〜」
Erieは回り込んで、Demise Theurgia -Xeno Bramble-を叩き込む。
シーラは軽く手を動かして受け止め――反撃に出た。
「させん」
腕を持ち上げ、ジェラルドに炎弾を一撃打ち込む。そのまま炎に身を包んで滑るように移動、Erieを攫って腕の中に引きずりこむと、顔を近づけ笑った。
Erieは不意を突かれて驚いたが、Demise Theurgia-Sheolserpent Medusiana-で束縛を試みる。
「悪魔の欲望に触れたい?」
シーラは笑ってErieを放した。
直後、高坂、マステリオ、クライシュ、蒼桐らが切り込み、シーラが舞い上がったところへ、Caldianaがブーストショットを叩き込んだが、シーラは弾いて、ルルナと桐生の攻撃を受け止め後退。
「む――?」
シーラの背後で、ゲートが消失していく。中から、火之煌が姿を見せた。ゲートの破壊に向かっていたのだ。
「まだ隙が多いなシーラ」
「まあいいわ……今日はこのくらいにしてあげる。ふふ……」
シーラは黒炎を叩きつけ炎の壁を盾に後退し、戦線を離脱する。
――戦いは終わった。
撃退士たちは結界の崩壊を確認して、事後処理に向かうのだった。