「正規の訓練を受けてる最中ではありますが、学生では所詮烏合の衆。チームワークという都合の良い言い訳は使えないですね」
言ったのは悪魔のN(
jb2986)。
「ま、天魔から見れば良くて幼稚園の軍隊ですね。ルシフェルもメタトロンも、学園生など一顧だにしないでしょう。確かに、一部ヴァニタスや使徒を撃破したようですが、並行世界に展開する天界魔界の軍勢幾百億から見れば、人間の世界など吹けば飛ぶような存在。まあ要するに、天界魔界相手に本気で勝てるとは思わないことですね」
良く喋る悪魔である。
「ですから、戦力の差は歴然、ヘタに意見を擦りあわせるよりは個人プレーの結果の連携、のほうが動きやすいでしょう?」
パン! と風船ガムが破裂した。くちゃくちゃとガムを噛んでいるのは影野 恭弥(
ja0018)である。
「あーめんどくせーなー。今回も仕事終わって早く眠りたいよ」
ぷうううう……パン! とまたガムを膨らませる。
「今回は強敵エネミー戦勃発なのだ! さーって……ボクの命一つで、どこまで守れるか……試してみるのだ!」
フラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)も明るい口調だが、命を掛けている。
「このサーバント、RPG宜しくパーティーバトル……ゲームだとでも言うつもりかしら。……舐めた真似をするわ。プレイ料金は命で払わせてやるわ」
冷やかに言ったのは卜部 紫亞(
ja0256)。
「ああ……藤谷殿、封砲を活性化させておいてもらえるかな。情報にあった魔術師のシールド対策でね」
神凪 宗(
ja0435)が言うと、藤谷は「分かったの……」と頷く。
「よろしく頼むよ」
「はい……先輩……」
「呵呵、サーバントが、走狗如きがこの身を屠れるかねえ?」
鷺谷 明(
ja0776)はどこか楽しそうだった。なぜか笑っている。どうやら最近怪物じみた享楽者、戦闘狂になりつつあるともっぱらの噂である。
「あっちが勇者パーティなら我らは魔王軍かねえ?」
「ほんとだ! 相手は勇者なら私達は魔王ね。フフフ、なら魔王らしく解体してあげないとね! ん〜、お姫様も解体したいんだけど留守なのかな?」
雨野 挫斬(
ja0919)は言って、「ウフフフ……」とゾクゾクわくわく。
「ウフフフ……解体解体……解体し放題だよ……」
ああ……と情欲に似た解体衝動がこみ上げて来る。それからくるっと表情を変えて、ブルーハワイに光信機を渡しておく。
「はい。何かあったら連絡してね。それと無理しないでね!」
「おおう。ありがとう。サギリ!」
「ほんとに、何か勇者が敵って聞くと魔王側についた気分だな」
天使の紫音・C・三途川(
jb2606)は言ってうなった。
「と言っても、敵は強力、ちょっとばかし笑えそうにないな……」
三途川は肩をすくめた。
「俺は護りは任せろ、ディバイン程じゃなくても多少は壁になるだろ」
「……期待してる三途川、さて、今回もやるか。魔王軍も悪くないけどね」
アスハ・ロットハール(
ja8432)はそれから藤谷の頭を優しく叩いて、肩の力を抜かせる。
「フジタニ、今回も、頼りにさせてもらう、ぞ?」
ぽむ、と頭を叩かれて、藤谷は首をすくめた。
「はい……アスハ先輩……」
「河豚蛙の次は勇者御一行か……また面倒そうな相手だな」
咲村 氷雅(
jb0731)は言って、藤谷に声を掛ける。
「藤谷、こんな時に何だが、修学旅行は気を付けろよ?」
「はい……?」
「いや……お前、誰にでもついて行きそうだから、迷子になるんじゃないぞ」
「……大丈夫です咲村先輩。迷子になったら警察に案内してもらいますから……」
「そうか……間違っても悪魔にさらわれたりするなよ」
「サキムラ、上級生だからってあんまりフジタニを怖がらせるなよ」
アスハが言うと、咲村は肩をすくめた。
「ま、場所によってはあり得るからな」
ぷううううう……パン! とまた風船ガムが破裂した。
「ところで、そろそろゲートの方へ向かいつつあるわけだけど、敵さんが近いんじゃないかな……」
影野は言って、銀色に輝く天使の結界を見上げた。
尤もすでに撃退士たちは戦闘隊形を取っていた。いつサーバントが出現してもおかしくは無かった。
「このまま無事に済むとは思えないのだ」
フラッペが言うと、紫亞は、
「どうやらそのようね。来たわよ」
と上空を見つめる――。
ビルの合間から飛行している四体のサーバントが姿を見せる。
「ググググ……ガアアアアアアアア!」
サーバントは撃退士たちをすぐさま敵と認識したようである。加速してくる。
「それじゃあおっぱじめるか」
影野はするすると散開して、アサルトライフルを僧侶サーバントの翼を狙って撃ち込む。煌焔眼を使用――アウルを両目に集中、動体視力が飛躍的に向上。攻撃精度と回避精度が高まり、眼が金色に発光、左目からはまるで炎のような金色のオーラが放出される。覚醒「禁忌ノ闇」――内に秘めし闇を開放する禁忌の技。影野の体が漆黒に染まり、弾丸は黒き炎を纏う。長時間使用すると内なる狂気に精神が蝕まれる為禁忌とされた技。影野の髪、魔具、魔装が黒く染まる。
――ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と僧侶サーバントの翼が引き裂かれる。サーバントは墜落して地面に着陸。
「行くぞ――」
神凪は壁走りで付近のビルを登りながら、十字手裏剣をサーバント手段に投擲、雷遁・雷死蹴を放つ。
――バリバリバリバリ! と雷撃がサーバントの群れを射抜く。
「魔王軍の勢いそのままに、雷帝霊符――」
鷺谷は雷帝霊符に念を込める。直線移動する雷の刃が勇者サーバントを貫く。
「あはは、勇者たち! 魔王軍の行進だよ!」
雨野はオートマチックP37で勇者サーバントを撃ち貫いた。バン! バン! バン! と銃撃が炸裂し、血飛沫が舞う。
「こちらはまずは魔法使いから行かせてもらう。行くぞアスハ――消えろ魔術師!」
咲村は《魔剣豪雨》を叩き込んだ。魔術師サーバントの頭上に青い光を帯びた無数の刀剣が出現、無数の刀剣が光を掻き消す雨の如く降り注ぎ、範囲内を無差別に攻撃する。刀剣は空気に溶け込むように消えていく。
魔法使いサーバントは叩き落とされた。
そこへ藤谷が封砲を撃ち込み、アスハが側面から突進。
「貫く……!」
撃ち込む魔断幻槍――展開させた魔法陣にアウルの一撃を通過させることで、『物理的に』貫くことに特化した螺旋状の槍へ再錬成し射出。サーバントへ零距離で叩き込み、アウルを纏った腕と魔具自体を魔法陣に通過させ、槍に一時的に錬成し、撃ち込んだ。
――ドゴオオオオオオ! と槍がサーバントのシールドを貫く。
「さて、まずは勇者――滅びの一撃となれ、L’Eclair noir――」
紫亞はフェアリーテイルに手をかざし、ラ・エクレール・ノワールを勇者サーバントの剣を持っている腕を狙って放つ。黒い稲妻が人差し指に集中、煌き、光線状になった無数の電撃が勇者サーバントの腕を貫く。その色は紫亞の内面を表すかのように漆黒――。
勇者サーバントは電撃を受け止めたが、激しく腕を焼き尽くされる。
「では参りましょうか。失敗しても命を失うだけですがね」
Nは戦士サーバントを狙った。
「さてさて……そのタフさ、見せて下さいよ」
スクロールを開いて攻撃――。直線移動する光の玉が発射、戦士サーバントを貫通する。
「みんな! ボクたちから離れるのだ!」
ブルーハワイは言いつつ、スナイパーライフルでサーバントを銃撃する。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と弾丸が勇者サーバントを貫く。
「ゲートまでは近いのだ……」
ブルーハワイは戦場を見渡す。
サーバントたちは次々に舞い降りて来る。
僧侶サーバントが手をかざすと、白い光がサーバントたちを包み込む。
――オオオオオオオ! 咆哮したサーバントたちが反撃に出る。勇者サーバント、戦士サーバントが凄絶な衝撃波と光の波動を連射し、魔法使いサーバントが白い閃光を解き放つ。
――イイイイイイン……ズキュウウウウウウウン! バオオオオオオオオ! と、撃退士たちは遠近構わず吹き飛ばされた。
続いて、僧侶サーバントが呪文を詠唱すると、勇者サーバント、戦士サーバント、魔法使いサーバントらが白い魔法陣に包まれる。
「続いて来るぞ」
神凪は仲間たちに呼び掛けた。
サーバントたちは白い閃光の向こうから、爆発的な衝撃波と光輪波動、魔弾砲を叩き込んで来る。
――イイイイイイイン……ドドドドドオオオオオオオオ……! ズキュウウウウウウウン――! キイイイイイイイインンンンンアアアアア――!
閃光が撃退士たちを飲み込む。サーバントたちはざらついた笑声を上げた。撃退士を倒した、と確信しているかのようであった。
だが――。
「――!?」
光の前に立ちはだかっていたのは、盾を構えた三途川だった。
「例えどんなにお前等が強くても、仲間は護りきってみせる! 惑い驚き地に堕ちろ!」
ぶすぶすぶす……と、三途川の魔装から焼け焦げた跡の煙が上がる。
「むう――」
ヘラルドリースクトゥムを取りだす。
そして、晴れた光を突き破って、まずは神凪が加速してくる。
「それが限界かサーバント。空蝉は切れたが――」
エネルギーブレードを握りしめると、魔法使いサーバントの側面から切り掛かった。――ザッシュウウウウウウウ! と、逆袈裟にサーバントの肉体を切り裂く。
「こっちはこれからだ。ただ今作戦勃発中だ」
影野はサーバントが狼狽するところで、覚醒「禁忌ノ闇」でアサルトライフルAL54を連射。勇者サーバント、戦士サーバントの翼を狙撃する。ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と翼を撃ち抜く。スライドを引くたびに空薬莢が次々と転がる。
「私の空蝉を全て使い切るとはねえ」
鷺谷は加速して、勇者サーバントに突撃した。「万力」でサーバントに腕を叩き込む。超強力アイアンクローだ。肉体改造によって得た異常筋力は鉄塊をも容易く握り潰す剛力。腕が獣のそれへと変貌。勇者サーバントの肉体を剛腕が掴みこみ、ぐわっしゃっ! と握り潰した。血飛沫が破裂する。
雨野は崩れる勇者サーバントに突進――。闘気解放で漆黒の大鎌を薙ぎ払いで撃ち込む。
「ふふ、本気出すよ!」
凄絶な一撃が、ザン! と勇者サーバントの首を刎ね飛ばす。鮮血がひらひらと舞う。勇者サーバントは、がくんと膝を突き、倒れ伏した。
「おぉ! 勇者よ! 死んでしまうとはなさけない。なんてね! アハハ!」
「サキムラ、フジタニ、合わせるぞ」
アスハは魔術師サーバントの側面から加速する。バンカーを構えて、低い姿勢で駆け抜ける。
「アスハ先輩……」
藤谷は封砲で援護射撃。
「アスハ……生きて帰ってくるか。そのシールド、貫かせてもらう!」
咲村は魔剣黒竜を叩き込んだ。黒い剣を作り、黒剣を振る事で黒い波動を生み出す。波動は竜の形となり直線上に存在するもの全てを喰らい破壊する。――ギシャアアアアアア! と黒竜が咆哮して魔術師を飲み込む。バクリ! と食らいつき、炸裂する。黒剣は波動を生み出した後、ガラスのように砕け空気に溶け込み消える。
魔術師サーバントは、ずたずたに引き裂かれた。全身から血を噴き出して、ぐらりと揺れる。
「行くぞ……! 貫く……!」
アスハのバンカーが咆哮する。ドゴオオオオオオオオ! と、バンカーがサーバントの胴体を貫通した。魔術師サーバントは、ごふっと血を吐き出して崩れ落ちた。
「個人プレーの結果……ですか……尤も、サーバント相手に全力では、学園生の未来も明るくは無いですね」
Nは言って、スクロールを持ち上げた。残る戦士サーバントに光の玉をぶつける。光の玉は高速で飛びだし、戦士サーバントを貫通した。
「これが天使なら、今頃本気を出した相手に殺されている。学園生は恐ろしさを知らないですねえ」
Nは笑っていた。だが、目は笑っていなかった。
「あら、もう半分になってしまったわね。少し動きが遅すぎたかしら。クライマックスには出遅れたかしらね。……いえ、みんな早いわね。さて、でもまだ僧侶がいるのよね……お前は、滅ぼす」
フェアリーテイルに手をかざすと、紫亞はL’Eclair noirを連射した。ビシビシイイイイイ! バリバリバリイイイイイ! と、僧侶サーバントの頭部を黒い稲妻で撃ち貫く。
「お前にはこれ以上何もさせないわ」
そこで、ブルーハワイが仲間たちに声を掛ける。
「それじゃあ、ボクはゲートの破壊に向かうのだ! みんな宜しくなのだー!」
Stride『BlueHawaii』を解き放つ。蒼い風がブルーハワイの脚に纏わりスノーボードの形状を形成する。ブルーハワイはアウルを爆発させながら滑る様に加速。蒼い光が尾を引く。
シュウウウウウウウウウ――! と、蒼い風のスノーボードに乗り、ブルーハワイはゲートへ向かって加速する。
「見えた! なのだー!」
ブルーハワイは、魔法陣の姿をしたゲートに、そのまま飛び込んだ。
中は人口の通路が伸びていた。幾何的な文字が描かれた廊下を、ブルーハワイは加速すると、すぐに最奥に辿りついた。
白い四角錐浮かんでいる。
「コア……なのだ……!」
ブルーハワイはライフルを構えると、至近距離から連続攻撃を加えて、コアを破壊した。
――パリイイイイイイン! とコアが砕け散ると、ゲートが収縮していく。ブルーハワイは加速して脱出した。
「あと二人なってしまったな」
神凪はズバアアアア! と僧侶サーバントの腕を切り飛ばした。
「そろそろ天軍も終わりだな」
頭上からアズラエルアクスで三途川が撃ち掛かる。
「一気に攻め立てるか――」
影野は煌焔眼でアシッドショットを戦士サーバントに撃ち込んでおく。戦士の防具が腐敗していく。
鷺谷は万力で僧侶サーバントの肉体を引き裂き、雨野が続いて残る腕も切り飛ばす。
――ギガアアアアア! サーバントは咆哮する。
Nがさらにスクロールで僧侶を撃ち貫き、加速した咲村のヴァッサーシュヴェルト、アスハのバンカーが僧侶サーバントを穿ち貫く。
……アアアアア……。と、僧侶サーバントが流血とともに崩れる。
「これで……終わりよ」
紫亞が異界の呼び手を戦士サーバントに撃ち込むと、無数の腕が敵を束縛する。
最後のサーバントは咆哮した。憎悪の雄たけび。
容赦ない撃退士たちの集中攻撃。
影野の妖刀「紅血」、紫亞とNの魔術、神凪の斬撃、鷺谷の炎息が包み込み、雨野、咲村、三途川が切り裂き、止めにアスハの切り札が炸裂。戦士サーバントは粉々に吹き飛んだ。
ブルーハワイが戻った時には、戦いは終わっていた。
「キャハハ! 残念! あなたの冒険はここで終わってしまった!」
雨野は笑っていた。
「あ? 結界が晴れて行くね。終わったんだ」
「ふぅっ……こんな緊張するRunは久しぶりだったのだ……」
天界の「勇者」強兵を退けた撃退士たち「魔王軍」は、後を公的機関に引き継いで、帰還の途に着くのだった。