「こちら一班です。ディアボロの痕跡を追跡中です……」
御堂・玲獅(
ja0388)は二班と連絡を取り合っていた。
「酷いことをする……」
リョウ(
ja0563)は、目の前の惨殺死体に毛布を被せていた。
(……感情を殺せ。今は、作戦に集中しろ)
御守 陸(
ja6074)は穏やかならぬ心境で揺れる感情を殺す。
「むう……人界で育った悪魔とヴァニタスになって人界の脅威になった人間か……さてさて、どう違うのかね」
蒼唯 雛菊(
jb2584)は言ってから眉ををひそめた。
「……私はこういう惨状好きじゃない。もっとも、好きだという人間もそうそういないだろうけど」
リョウは外に出ると、壁走りで駆け上がって双眼鏡で索敵する。
「どこだディアボロ。姿を見せろ。時間が惜しい」
玲獅は銃を構えながら頭上を警戒し、ゆっくりと前進する。
御守はスキル「索敵」と「鋭敏聴覚」を発動させて周辺を警戒し、奇襲に備える。
――と、ビルの屋上でテレスコープアイで索敵を行っていた氷月 はくあ(
ja0811)から連絡が入る。
「みんな! てきてきアサシン発見! 道路を移動中!」
「了解はくあ。合流する。みんな、集まれ」
四人はビルの下に集合すると、はくあと合流する。
「こっちだよ。ん? 御守さんは大丈夫? 顔色悪そうだけど」
「大丈夫ですよ。今は集中してます」
「はくあ――頼む」
「こっちです!」
五人は駆けだした。
やがて、二体のナイトアサシンの背後を捕える。
リョウが無言で手で合図を送り、インフィルトレイターの御守とはくあを展開させる。二人は建物の影を移動し、銃を構える。
それからリョウは玲獅と雛菊に頷く。二人も頷き返した。
「よし、行くぞ!」
リョウは飛び出し、開放を発動する。リョウを中心に黒い光の柱が立ち昇り、霧散と共に黒い残影を纏う。瞳が赤く染まり、輝く残照を残す。
加速するリョウ。セイクリッドスピアを回転させ、アサシンに打ちこむ。直撃がアサシンを捕える。
玲獅はPDWFS80と裁きのロザリオを一回ずつ叩き込んだ。ロザリオの閃光が激しくアサシンを貫く。
「魔法に弱点ありですか」
玲獅は光信機でそのことを伝える。
「リョウさん……続きます! ゴーストバレット!」
雛菊はゴーストバレットを叩き込んだ。アウルの弾丸がディアボロを撃つ。
「まずはマーキング! もらったよ!」
PDW FS80を連射して、はくあは二体のディアボロをマークした。
御堂は心を落ち着け、スナイパーライフルCT-3でスターショットを放つ。光り輝く弾丸がナイトアサシンを撃ち貫く。
続いて――。
リョウはスピアを叩き込み、後退する。
「こっちだ忍者」
玲獅はリョウにアウルの鎧を掛けておく。
「リョウさん、気をつけて――」
雛菊はヒポグリフォK46を連射して、後退する。退いたのは、はくあと御守の射程へ誘い出すため。
ナイトアサシンは咆哮して突撃してくると、ばかっと、胸を開いて、骨の刃を打ち出してきた。
リョウ、雛菊、玲獅は捌いて回避した。
もう一体が体を丸めて、弾丸となって飛んでくる。リョウはがっしりそれを受け止めた。
直後、御守とはくあの銃口が火を吹く。――ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! ドウ! と、ナイトアサシンは撃ち抜かれ、血飛沫を上げて転がった。
「アサシン。報いを受けろ」
リョウは言って黒雷槍を叩き込んだ。アウルによって構成された黒い槍を投擲、アサシンを穿ち貫く。黒い雷に包まれた槍は二本に分裂して、ディアボロを貫いた。
玲獅はチタンワイヤーでアサシンを絡め取ると、逃げようとするアサシンを捕まえる。
「逃がしませんよ……亡くなった人の痛みを知りなさい」
雛菊はシュガールに持ち替え加速すると、ありったけの力で大剣を叩き込んだ。
「やあああああああ!」
――ズバアアアアアアア! と、ナイトアサシンは真っ二つになった。
(さすがに……みなさんやりますね)
御守は残る一体に銃口を向けると、トリガーを引いた。銃撃が貫通する。
ナイトアサシンは飛び上がると、全身から「影」を放った。
「そうはさせないよ!」
はくあが舞い上がったアサシンに銃撃を叩き込んだ。
「想起するは神の雷……ヴァジュラッ!」
ズドオオオオオ! と、銃口から巨大な雷の矢が飛びだす。概念付与弾『金剛雷』――悪魔、悪神に対するための武器の概念を想起し、アウルを巨大な雷の矢の様な形状にし打ち出す技である。膨大なエネルギーに加え、物質的特性を色濃く持ち、対象を抉り、穿つ。
「魔を狩るは、やっぱり神の雷ってやつですっ」
体勢を崩されたアサシンの影縛は空を彷徨い、リョウ、玲獅、雛菊は回避した。
「撃て――集中攻撃」
リョウがはくあと御守に合図を送り、銃撃が撃ち込まれる。
玲獅もスナイパーライフルMX27を構え、立て続けに銃弾を叩き込んでいく。
そしてリョウ、雛菊は加速して、セイクリッドスピアとシュガールを突き立てた。ディアボロは断末魔の残響を残して、息絶えた。
「まずは一勝。残るは……」
一班は二班と連絡を取った。
「ひどいね……」
高峰 彩香(
ja5000)は道路に横たわる亡骸に布を被せ、瞑目した。
「NINJA系悪魔か……スタイリッシュな何かが見れると良いなと思わなくもない。いやまあ、まずはキチッと追い払おうか」
因幡 良子(
ja8039)は言った。
虐殺の痕跡、死の臭いが充満した街、目を逸らしたくなるような光景、だけど目を逸らしたりはしない。戦って敵を倒し被害を抑える。その為に俺はここに立つ事を選んだんだから。
「行こう。俺たちの成すべき事の為に」
各務 与一(
jb2342)は力強く言った。
「……グレーデンは、慣れているのですか? 余裕そうですけど……」
悪魔の夜姫(
jb2550)が言うと、同じく悪魔のアセリア・L・グレーデン(
jb2659)は自嘲とも取れる表情で淡々と言った。
「……驚かないのが変ですか? 自分でもやったことがあるのだから驚くわけが無い。……相手ははぐれ悪魔でしたがね」
「そうですか……悪魔狩りを……」
「あたしはとても受け入れられない……っ こんなことする奴も……許せない……無差別攻撃なんて……!」
高峰は立ち上がった。
「高峰さん、気持ちは俺だって同じですよ。この天魔……殺しを楽しんでいる。許せませんね」
「あら〜、各務君、やっぱりそう思う? 楽しんでるよねこの天魔」
因幡は言った。
「ええ……」
すると、夜姫が言った。
「悪魔とは言え、無差別攻撃は忌むべき行為なのですよ。魂を集める前に人間を殺してしまうのは、効率が悪いですからね。なのに、このヴァニタスは……遊んでいますね……」
「まあ、中には馬鹿がいますからね。何のための結界か。まあ、今は私にとってもヴァニタスは敵ですが」
アセリアが言うと、仲間たちは吐息した。
「急ぎましょう。痕跡は近づいています。アサシンが近くにいるのかも」
一同は警戒しながら歩きだした。
――と、血痕を追ううち、彼らはディアボロの姿を発見する。二体のナイトアサシンはビルの中からガラスを割って出てきた。二体で一人の死体を奪い合っている。
「出たね!」
高峰はクロスファイアを撃ち込みながら加速する。バン! バン! バン! バン! と銃撃がディアボロを貫く。
「高峰ちゃん、勢い付いちゃってるねえ」
因幡は言いつつ前進し、影の書に手をかざした。影の槍が生み出されて、突進、ナイトアサシンを穿つ。
各務は和弓を連射した。ドウ! ドウ! と、矢が貫通する。
「こっちだディアボロ――!」
夜姫は闇の翼で舞い上がると、ライトクロスボウを叩き込み。アサシンの分断を図る。
「では行きますか……!」
アセリアもパイルバンカーを装着して加速した。
「てやああああああ!」
高峰はソニックチャージを発動。全身に風を纏い、一瞬で急加速し突撃攻撃を仕掛ける。加速、突進してカーマインを振り抜いた。光纏時に出る赤みがかった金色のオーラが駆ける。炎のような紅い色をしているカーマインがナイトアサシンに絡みつき、肉を引き裂いた。ザシュウウウ! とディアボロの片腕が飛ぶ。
「ほいでは、高峰ちゃんの援護と行きますか。影の書、オープン!」
因幡は影の書に再び手をかざし、影の槍でナイトアサシンを貫く。
――と、ナイトアサシンがびくん、と震えると、胸を開いてぞろりと揃った牙を吐き出そうとした。
直後――。
各務のクイックショットが叩き込まれる。
「戦闘力、知能共に高く攻撃手段も豊富らしいけど、完璧なモノは存在しない。射抜いて見せるよ、必ず」
ドウ! ドウ! と、五秒の内に二連射する。
「狙いを定め、放つまでの一瞬。それだけあれば射抜くことは可能だよ」
ディアボロは直撃を受けてひっくり返った。
分断されたアサシンの一体を、夜姫とアセリアが引き受ける。
夜姫は上空からクロスボウを叩き込んでいく。
「ここまでですよ……ディアボロ」
機械弓を正確に撃ち込む。
アセリアはバンカーを叩き込んだ。アサシンの頭部が撃ち抜かれる。
――ガアアアアアア! 次の瞬間、ナイトアサシンが分裂した。正確には分身の術を使ったのだ。
「私に搦め手が通じると思うなよ……まとめて薙ぎ払うだけのことだ!」
しかし次の攻撃では、アセリアはダークブロウでアサシンを薙ぎ払った。
分身は消滅し、アサシンは吹っ飛び壁に叩きつけられた。
「亡くなった人の仇!」
高峰は再び加速した。続いてパイロブラスト。炎と風を魔具に纏わせ一閃する。カーマインが炎に包まれ、ディアボロの肉体を凄絶に引き裂く。
ディアボロは血にまみれて絶叫した。
「報いを受けろ――アサシン。地獄で焼かれるがいい。地獄があればな」
各務は言って、クイックショットを叩き込んだ。矢は吸い込まれるようにディアボロの胸を撃ち貫いた。
ドウ! と上体を吹き飛ばされたディアボロ。
「ほいな、これで止め!」
因幡は言って、影の書の一撃を撃ち込んだ。影の槍がナイトアサシンを頭上から貫き、アサシンは崩れ落ちた。
夜姫とアセリアはナイトアサシンの動きを封じ込め、上空からと地上からの同時攻撃で追い詰めていく。
クロスボウとバンカーを確実に叩き込んでいく。
「逃がしはしませんよ」
夜姫はクロスボウで背中を見せたディアボロを追撃。
「逃がすか、雑魚が」
アセリアは闇の翼で舞い上がると、再びダークブロウを叩き込んだ。
ディアボロは悲鳴を上げた。
さらに、高峰、各務、因幡が集結し、ディアボロに集中攻撃。
ナイトアサシンは最後の抵抗を試みたが、撃退士たちの前に敗れた。血だまりの肉塊と化し、ディアボロは崩れ落ちた。
「終わったね……」
「まだ、あとヴァニタスが残ってるね。ゲートを破壊しておかないとね。さて……」
「二班と連絡を取っておきましょう」
そうして――。
撃退士たちは、中心にあるゲートに集結した。
ブラデーシュは待ち受けていた。車の上に座って、笛を吹いていた。
「来ましたか……撃退士のみなさん。初めてお目に掛かる方も多いようですね。私は上級騎士卿のリガンデル卿のヴァニタス、ブラデーシュと申します。以後、お見知りおきを」
ブラデーシュは笛を刀に変身させると、車から降りて来た。
「みなさん気を付けて下さい」
玲獅は盾と銃を構える。
「ヴァニタスか……言っておくが、これ以上日常を壊させないし奪わせない。貴様等はここで確実に仕留める」
リョウの言葉が言うと、ブラデーシュは口許を緩めた。
「逃がさないよ!」
はくあは素早くマーキングを撃ち込んでおいた。
「ブラデーシュ? 好き勝手するのはそこまでにしてもらうよ!」
高峰は怒声を叩きつけた。
(こいつがあのヴァニタスか……)
御守は銃口を構えながら、攻撃のタイミングを図っていた。
「いやいや……ところでさあ、取り巻きはもう居ないよー、大勢は決してるんじゃない?」
因幡の言葉に、ブラデーシュは笑った。
「さあ……それはどうでしょうねえ」
「大した自信だな」
各務は言いつつ、矢を装填する。
「ヴァニタスか……はっきり言っておくが、戦う術を持たぬ者を一方的に虐殺、魂を吸収し力を得る行為は例え同属であれ天使に対抗する為であれ、賛同出来ないし理解も出来ない。嫌悪しか感じません」
「学園の悪魔ですか? 同族には理解して頂けると思ったのですがねえ……」
夜姫の言葉にブラデーシュは肩をすくめ、雛菊に目を向ける。
「あなたも悪魔でしょう?」
「私は魔界生まれの人界育ちだからね。思考は人界寄りなんよ」
「もう一度促しておくぞ。お前の駒は潰した。次がお前になるか、退くか……選べ」
アセリアは言った。
「”悪魔”の忠告だ。この意味わかるな?」
ゲートや結界、手の内はおよそ把握できているのだから、潜り込ませるのは容易だと言外に。
ブラデーシュは「くくく……」と笑った。
「どうやら、お互い相互理解には程遠いようですねえ」と。
次の瞬間、ブラデーシュの瞳が光り、撃退士たちの視界が突如暴風雨に包まれた。
「幻術か……」
そして、その向こうから、巨大な衝撃波が飛んできた。吹き飛ばされる撃退士たち。リョウは空蝉でかわした。
「く……」
玲獅は立ち上がり、クリアランスでリョウとはくあ、高峰の状態異常を回復。自らに聖なる刻印を掛けておく。
リョウは影蝕を解放。
はくあは銃を持ち上げた。
「想起するは七彩の光……喰らえ、オーバーキラーッ!」
全てを飲む光を想起。莫大なアウルを弾に込め、弾は制御を超え分裂、三重螺旋を描きブラデーシュに直撃。
「そこだあ!」
高峰はクロスファイアを叩き込む。バン! バン! バン! バン! と銃撃が直撃。
「くく……! やりますね……!」
果たして、今度は竜巻が渦を巻き、その向こうから真空刃が飛んでくる。
「いるよ! 竜巻の中心を狙って!」
はくあが叫ぶ。
御守のスターショット、因幡、各務が矢を叩き込み、夜姫、雛菊、アセリアら悪魔たちは闇の翼で上空から攻撃を狙う。
ごう! と、暴風から炎が湧き起こり、撃退士たちを襲う。炎が彼らを飲み込んでいく。
「う……あ……いえ、これは、幻です!」
玲獅が叫んだ。
「ブラデーシュ、後退していくよ!」
やがて、幻が晴れ、静かになった。
「氷月ちゃん? ブラデーシュは?」
「いなくなったみたいですね」
「どうにか退いてくれたかねえ……」
撃退士たちは結界の中を確認し、それからゲートを破壊しておいた。
結界が崩壊していく。
晴れ渡る空に、人々が姿を見せた。みな、空を見上げ、「助かったのか」と安堵の表情を見せる。
「あとは公的機関に引き継いで帰ろうか」
撃退士たちの仕事は終わった。十人の学生たちは静かに帰路に着く。
帰り、ニュースで自分たちの報道を見た。町の人々は、撃退士に救われたことを感謝していた。
(了)