(ディアボロによる無差別攻撃は今に始まった事ではないな。それより未知の球体型ディアボロか……面倒そうな相手だ……)
咲村 氷雅(
jb0731)は胸の内につぶやき、口を開いた。
「行くぞ」
「……咲村さん、でもあのディアボロ……得体が知れないな」
「見たこともない」
水無瀬 快晴(
jb0745)の言葉に咲村は頷き応じた。
「ディアボロの形状に常識を説いても仕方ないでしょうが、非常識な……早く打ち破らなければなりませんね」
久遠 冴弥(
jb0754)が言うと、不動神 武尊(
jb2605)は頷く。
「ああ……もしかしたら冥魔との戦いで見たことがあるかも知れんが、俺は記憶が無くなってしまったからな」
デビルホールは悠然と進んでいたが、阻霊符によって建物にぶつかって軽く方向転換する。
四人が接近すると、デビルホールは向きを変え、「ギギギギギ……」と声を出し、と咆哮して体中から針を出した。
「河豚蛙だな」
咲村は言った。
直後――。
デビルホールの体が明滅して、光線が放たれた。ズキュウウウウウウウン! と閃光が撃退士たちを包み込む。
撃退士たちは焼き尽くされるような感覚を味わった。
「やってくれるな」
咲村は魔剣豪雨を叩き込んだ。デビルホールの頭上に青い光を帯びた無数の刀剣が浮かび上がり、光を掻き消す雨の如く降り注ぐ。
「何だ?」
デビルホールの肉体を覆う虹色のバリアーのようなものがきらめく。ダメージは入っているようだが。
「シールド……? か。ハイテク河豚蛙だな」
「シールドか……ではこれを試してみるか」
水無瀬はナイトアンセムを解放した。デビルホールが闇に包まれ、視界を封じこまれた。
久遠は布都御魂を召喚すると、移動を開始した。布都御魂の蒼煙が炎の如く猛り、紫電のような光が迸る。
不動神もストレイシオンを召喚。
認識障害に陥ったデビルホールはでたらめに光線を撃ちまくった。閃光が市街地を薙ぎ払っていく。
「河豚蛙……弱点はどちらだ」
咲村はアイトヴァラスと炎熱の鉄槌で切り替えゴーストバレットを撃ってみるがどちらとも手応えが無い。
水無瀬もリボルバーと雷帝霊符でダークブロウを撃ってみたが、シールドが邪魔をする。「……何だあのシールド? 消えないのか?」
デビルホールは確実に傷ついて血を流している。
「行きますよ布都御魂――トリックスター」
久遠の指示で、布都御魂が高速で駆ける。シールドが展開するが、刃が確実にデビルホールを切り裂く。
「厄介な奴だな……」
不動神もバルバドスボウと雷帝霊符で攻撃していたが、弱点を図りかねていた。
咲村はそこで、各チームにデビルホールの弱点が不明なことを告げておく。シールドの件も告げておいた。
そうする間にデビルホールの認識障害が回復し、ディアボロは怒りの咆哮を上げた。デビルホールの肉体が閃き、全身から光線がほとばしる。撃退士たちは再び焼き尽くされた。
「懐に飛び込めば光線は撃てまい……!」
不動神は加速すると、ヴァッサーシュヴェルトを一閃した。アウルが飛沫のように舞い散る。凄絶に切り裂かれるデビルホールの肉が飛び、血が破裂した。
久遠は移動しながら、デビルホールの光線の射角から逃れるように動き、布都御魂にはトリックスターで攻撃させる。
咲村は炎熱の鉄槌に持ち替えゴーストバレットを撃ち放つ。ズウウウウウウウン……と、バレットの衝撃がデビルホールを包み込み、シールドが揺れる。
水無瀬はリボルバーを連射した。銃撃がディアボロを貫き、血飛沫が上がる。
デビルホールはぶるぶる……と震えると、全身から刃を生やして、ドウ! と加速してきた。
「何……!」
不動神は剣を構えて巨体を受け止めた。直後、球体の体から手が伸びて来て、切りつけて来た。不動神は弾いて、デビルホールを押し返した。
「怪物が……目障りな、存在自体がお前たちは罪だ」
不動神は矢をつがえると、バルバドスボウを叩き込んだ。
布都御魂がみたびトリックスターで駆け抜けると、刃でディアボロを切り裂く。
咲村がゴーストバレットを、水無瀬が再びダークブロウを叩き込めば、デビルホールは激しく血を吹き出した。
しかし、デビルホールはまだ倒れない。またしても全身を震わせると、ぱりぱり……と光の粒子がデビルホールを包み込み、シュバアアアアアアアア! と、凄まじい光線が撃退士たちを飲み込んだ。
「ほう……河豚蛙……まだ力が……こちらもスキルが切れてきたな」
咲村は冷静に言った。ハンズフリーの携帯で連絡を取り合う。
「みんな戦えるか?」
「問題は無いが……こいつしぶといな。消耗戦は拙い」
「攻撃は利いてる。あとひと押しだろう」
不動神はバヨネットハンドガン連射して加速すると、家屋を利用して空中に跳躍。裂帛の気合とともにドリルのように回転を加えてデビルホールに飛び蹴りを加えた。ズドオオオオオオ! とシールドを貫通して、不動神の蹴りが深く突き刺さった。不動神はそのまま、デビルホールを突き抜けた。
久遠は布都御魂を再召喚し、クライムで飛び乗ると、カオスブレイドを抜いた。
「行きますよ布都御魂――加速」
空を掛ける布都御魂。久遠はブレイドを薙ぎ払った。衝撃がディアボロを切り裂き、デビルホールは絶叫した。
「これでいい加減終わらせるぞ……」
咲村は加速すると、アイトヴァラスを突き入れた。ディアボロの肉体の奥深くまで踏み込み、刀身を突き入れる。
「これで死ね……」
びくびくと痙攣するデビルホール。
続いて、水無瀬が雷帝霊符を撃ち込んだ。
「水無瀬……止めを」
「……ではこれで終わらせる……までだ」
雷帝霊符で雷の刃を連続して叩き込む。閃光が立て続けにデビルホールを貫通する。
――ギリャアアアアアア! とデビルホールは金属がこすれるような悲鳴を上げた。
ゴボゴボゴボゴボ……と、やがて悲鳴が嗚咽に変わり、全身から大量の血が溢れ出て来て、デビルホールは墜落した。動かなくなった。
「急ごう。他のところは苦戦してるかもな――」
メフィス・ロットハール(
ja7041)とアスハ・ロットハール(
ja8432)の夫妻は、見えてくるデビルホールを前に準備を始める。
「さて……球体ディアボロ、どんなものかしらね」
「……やるぞ、メフィス。足止めと言わん。別に――」
「「倒してしまって」」
「も構わんだろう」
「も構わないわよね」
二人の台詞がはもる。お互い顔を見合わせ、不敵な笑みをこぼす。
「全力で行くわよ、アスハ」
「ああ」
そこで、咲村から連絡が入り、デビルホールの情報が入って来る。
「あのディアボロの弱点は分からないのか……うん、それじゃあルーンブレイドかな」
「シールドか……見てみないと分からんが……構わん貫く!」
二人のルーンブレイドは対になっている。
メフィスは盾を構えながら前進する。
アスハはウィンドウォールを発動させておく。
デビルホールは「ギギギギギ……」と停止すると、次の瞬間、二人に向かって光線を吐き出した。ズキュウウウウウウン! と閃光が二人を包み込む。
「何て……!」
「ち……!」
メフィスはシールドで受け、アスハは何とか直撃は免れた。二人は加速した。
「行くわよ!」
メフィスはスピアハートを叩き込んだ。夫が愛用するバンカーと酷似した物を左手に魔力で編み、その杭を打ち出し直線上の敵を貫く。圧縮された魔力が物理的ダメージを生み出す。ドウ! ドウ! と、ピンクの光をまとった杭がデビルホールのシールドを貫く。貫通した打撃から血飛沫が上がる。
悲鳴を上げるデビルホール。
「何であれ……貫く!」
突進したアスハはシールドをぶち破って激突した。ザシュウウウウウ! と深々と刀身が貫く。
「ギギギギ……アアアアア!」
デビルホールは咆哮して、再び閃光を撃ち放った。
炸裂した閃光が二人の体を焼き尽くす。
メフィスはシールドで耐える。
「ちい……!」
アスハは悪意穿槍を展開。ルーンブレイドから腕にかけてアウルを集中させ、同時に腕前方に魔法陣を展開。腕を魔法陣に通過させることで、アウルを槍状に再練成。タイミングを合わせて突き出すことで、光線を槍で貫く様に受け止める。
「撃ち貫く……タイミングを合わせろ、メフィス!」
「アスハ!」
二人は同時攻撃を仕掛ける。
アスハはバンカーを押し付け連射。メフィスはスピアハートを撃ち込む。連撃がデビルホールを貫通する。ディアボロの肉体が飛び、穴が開く。大量の血がデビルホールから吹き出す。
それでも、二人だけでは苦労する相手だ。デビルホールの攻撃に削られた。
やがて、咲村と久遠が合流してくる。二人は付近に目を配った。
「俺はアスハとメフィスのサポートに入ろう」
「では私は民間人を出来るだけ逃がします」
「メフィス、アスハ……大丈夫か」
「咲村、待ちくたびれたぞ」
アスハは言って笑った。
「もうすぐエンドだ。やるぞ――! 行くぞメフィス!」
「オッケー! 援護するわ」
三人は突撃した。
「大口径の特別製、だ……お互い、タダでは済まんぞ!」
アスハは突進。右腕にアウルを集中、杭の太さが腕程もある回転式弾倉付バンカーを形成。但し、これは一発撃ち込んだ直後、負荷に耐えきれず大爆発をする危険なスキルであった。
「奥の手を切る……バンカーッ!」
切り札を撃ち込む、空薬莢の跳ねる音が響く。バンカーが大型化――。
爆撃が炸裂する――。
デビルホールの肉体が吹き飛ぶ。
「アスハ……」
メフィスは不測の事態に備え確認していた。
爆煙が晴れ、肉体を吹き飛ばされたデビルホールが流血の中地面に横たわっていた。
アスハは荒い呼吸をして、膝を突いた。
「アスハ!」
「大丈夫だ――」
「未確認飛行物体ならぬ未確認ディアボロですねぇ……」
如月 千織(
jb1803)が言うと、藤谷 観月(jz0161)は頷いた。
そこで咲村から連絡が入って、デビルホールの情報が入って来る。
「行くよ如月さん……気を付けて……」
と、デビルホールが「ギギギギギ……」と震えて、全身から光線を解き放った。
――ズキュウウウウウウン! と、二人は焼き尽くされた。
「く……これは凄いね……くすくす……藤谷のお姉さん楽しくなりそう♪」
二人は加速した。
如月はクリスタルダストを叩き込んだ。氷の錐が飛ぶ。ドドドドドドドド! と、錐が突き刺さる。デビルホールは悲鳴を上げた。
藤谷も回り込んで封砲を叩き込む。
――ギガアアアア! とデビルホールからまたしても光線がほとばしる。
「くふふ……♪ クリスタルダストぉ……!」
如月は光線を受け止めつつ、腕を振り上げ、クリスタルダストを撃ち込む。さらに突進して、アルマスブレイドで切りつける。
「うふふふふ……貫け……死んじゃえ!」
如月は激突するようにブレイドを突き入れた。ズブズブ……! と、刀身を突き入れる。デビルホールの肉の中へ、如月は腕を突っ込み裂帛の気合とともに腕を振り上げた。ザシュウウ! と、ディアボロの肉体が切り裂かれる。どばっ! と血が噴き出し、如月は返り血を浴びた。
「ふふふ……壊れちゃえ!」
次の瞬間、デビルホールから腕が伸びて来て、如月を吹き飛ばした。ドゴオオオオ! と如月は壁に叩きつけられた。
「か……は……アハハ♪ やああああ!」
如月は飛び上がってデビルホールに掴みよじ登ると、何度も何度も剣を突き刺した。
「あれは……」
そこで不動神と水無瀬が到着する。
「急ぐか……」
二人は突進すると、デビルホールに切り掛かった。
「不動神お兄さん、水無瀬お兄さん♪ 待って……ました〜!」
如月は「やあ!」と剣を叩き込んだ。
やがて集中攻撃を浴びて、デビルホールは死亡、活動を停止した。
レイル=ティアリー(
ja9968)は、民間人に中央へ避難するように言ってから、仲間を追いかけた。
「報酬分働くだけ。早く帰ろーねー。レイル君早くー」
嵯峨野 楓(
ja8257)の声にレイルは駆けてきた。
天宮 佳槻(
jb1989)は地元の警察官を見つけると、駆け寄った。
「すいません。久遠ヶ原の撃退士です。ディアボロは四方から迫っています。まずはあちらへ避難して下さい。それから、携帯を教えてもらえませんか? 撃破出来た方向を知らせます」
「わ、分かりました……!」
警察官は撃退士が来たことで少し安堵したようだ。落ち着いて住人を誘導する。
咲村から連絡を受けた三人は、そのことを頭に入れてデビルホールに接近する。
「それじゃあ行ってみようかー」
嵯峨野は素早く印を結ぶと不動金縛を解放。透明な細い糸の様な物がデビルホールに絡みつく。糸が透明であり、まるで金縛りにあっているかのようだ。
――ギギギギギ……! デビルホールは咆哮した。
レイルはカッツバルゲルを構えて突進した。
「これ以上は誰も殺させない――」
剣を一閃して、デビルホールを切り裂く。ズバアアアアア! と、傷口から血が噴き出す。
「光線が厄介そうだが……」
天宮は炸裂符を叩き込む。爆裂がディアボロの肉を砕く。
嵯峨野は続けて雷狼噛を叩き込む。ディアボロの動きが封じこまれる。
「さーて、あとはぼこるだけだよ」
嵯峨野は幻狐焔を解放。炎の塊が巨大な狐の形に形成し、デビルホールへ体当たりする。ごう! と火炎が湧き起こり、ディアボロを包み込む。嵯峨野は続いて幻狐焔に氷散華、操楽符を叩き込んでいく。炎と氷、雷にずたずたにされるデビルホール。
天宮は炸裂符と六花護符を連射。
「レイル、タイミングを合わせる」
「了解です」
レイルはディアボロの反撃を警戒しながら剣を叩き込んでいく。
と、直後、デビルホールが咆哮して、全身から光線を解き放った。ズキュウウウウウウン! と、三人は焼き尽くされた。
レイルは防壁陣で受け止めたが、光線は分厚く飲み込んでいった。
「やる……けどっ」
嵯峨野は再び不動金縛を仕掛けるが、今度はデビルホールはすぐさま反撃に応じ、光線と撃退士たちの打ち合いになる。
レイルのリジェネレーションも使い果たした。
すでにデビルホールもずたずたになって原形を留めていなかったが、抗戦してくる。
やがて仲間たちが到着する。
「待たせたな!」
嵯峨野、天宮、レイルらも最後の攻撃を叩き込む。
レイルは一旦後退してシールドから西風へ入れ替えると、ゼピュロスランスを構えて突進した。
デビルホールも咆哮して針をまとって突撃してくるが、西風で激突する。踏み込みからの高速刺突。愚直なまでに磨き続けたその技は、音すらも置き去りにする刹那の一撃。遅れて剣を追う風は、春を告げる西風のように優しくそよぐ。
ランスの衝撃がデビルホールを貫き、遂にディアボロは墜ちた。
……戦いは終わった。
未知の球体ディアボロとの交戦データがまた書き加えられることになる。
「今回はオツカレサマ、だ」
アスハは藤谷の頭を優しく叩いた。
「…………」
藤谷は俯いて、「終ったの……」と呟いた。