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マスター:たかおかとしや
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/07/17


みんなの思い出



オープニング

 貴方は「天使のいる地獄」って、何処だか知っているだろうか?

 封都! と勢い良く答えたそこの貴方、惜しい、不正解。
 確かにあそこは天使の創り出した、地獄にきわめて近しい場所だった。だが、とてもとてもあの程度、真の地獄には程遠い。それにこの設問において「天使」とは、もっと形而上的な存在を指している。決して、羽を背負った禿げたマッチョマンなどを、私は「天使」と認めない。
 それでは、天使のいる地獄ってどこだろう?




「幼稚園でバイトかぁ……」
 その撃退士は、斡旋所受付係の掲示物を熱心に見つめていた。

 急募! のマークの付いたその依頼は、一般のアルバイトにしては、ディメンションサークルによる転送まで付属しており、アルバイト料も相応に高い。待遇だけなら、京都の天使支配領域にカチコミかけてくるようなガチ依頼と何ら変わるところのない、実にオイシいアルバイトだった。

「これ、何か裏があるんじゃないの?」
と受付係の少年に聞いてみても、特に何の裏もない、至極平凡な幼稚園補助スタッフの短期バイトだという。場所は東京都のど真ん中。実は、天魔に襲撃されている幼稚園を救え! みたいな依頼なんじゃないかとも疑ってみたものの、最新の天魔ニュースでも、特にその辺で何が出たとは聞いてない。

 幾ら撃退士と言えども、そうそう毎日切った張ったはしてられない。
 だけどアルバイトはやっておきたい。
 しかし、何故にこんな高待遇……

 撃退士の悩みは、受付係の少年の「それ、募集は後一人ですよ?」という言葉で吹っ切れた。
 要するに、美味しいバイトを運良くゲットしたということだ。
 これはいい事なのだ。人生、たまにはこんなハッピーな出来事だってある筈だ、と撃退士は自分を納得させる。
 受付係の少年の口元に浮かぶ、密やかな微笑みには気付かぬままに―――




「こんど、あらたしいセンセーがくるんだって」
「またオトシアナほる?」
「ロボットごっこのあくやくやってもらおうよ」
「オイカケッコのおにのやく!」
「けっとうごっこがいい♪」

 子供達が、今度来るというアルバイトの先生の事で話を咲かせていた。
 多少悪戯めいた相談もあるようだが、何、基本はなんてことない、可愛らしい子供の話だ。

 ここは都内にある、ある私立幼稚園の一つ。
 童話のお城のような、綺麗な二階建ての園舎。広々とした園庭には砂場や滑り台、ブランコといった沢山の遊具が置かれ、下は三歳から、上は六歳まで、計三十名の子供が通う、まだ設立三年の真新しい幼稚園。

 しかし、一見極平凡な施設をよく見ると、敷地の周囲を高い壁が囲んでいるのに気がつく筈だ。
 壁はコンクリート造りで、壁面を埋めた子供らしい沢山の落描きに不釣り合いなほどに、硬く分厚い。園の隅に駐車している送迎バスなどは、まるで護送車か装甲車。園内のスタッフにしても、妙に体格のいい男性が目立つ。安全第一、事故防止とは言っても、これはちょっと行き過ぎではないだろうか……?




「見ろよ、あの幼稚園。高い塀、金の掛かったバス。通ってるガキどもは、さぞかしいイイところの坊ちゃん嬢ちゃんに違いねえぜ!」
「でもどうするんだ、兄貴? あんな塀があったら、乗り込むのだって大変だぜ」
「なぁに、それが一見警備が厳重そうで、実はそうでもないのさ。俺くらいのベテランにかかれば、見ただけで一目瞭然。スタッフ達が見ているのは子供の動きだけで、外から来る人間に対してはザルも同然よ!」

 かっかっか。
 都内のある幼稚園に近い喫茶店で、二人の男たちが何やら不穏な会話を取り交わしていた。
 中背の兄貴分に、ゴツイ体格の、ちょっと抜けた感じの弟分。
 兄貴分は気分良くコーヒーを飲み干しながら、弟分にベテランの知見とやらを披露する。

「出入りの業者の目星はもう付いている。あとは業者の名前を語りつつ「いつもの奴がちょっと風邪を引きまして〜」なんて言って園内に侵入。めぼしい餓鬼を二三ひっ捕まえてクルマに乗せて、そのままトンズラこけば誘拐成立! 身代金ガッポガポ。来週の今頃はお前、南欧のビーチで肌でも焼いてるって寸法だぜ?」
「すげえや兄貴! 俺、兄貴に一生ついてくぜ!」

 聞くだに大雑把な作戦であるが、二人の脳裏には既にバラ色の未来像が描かれているらしい。
 だが、弟分はその時、ふと、完璧な筈の計画に一瞬の影を見たような気がした。
 そう言えば、この幼稚園の名前は確か、私立撃退幼稚園というらしい。
 撃退? 幼稚園にしては変な名前だ。それにしても何処かで聞いた響きのある言葉だが、あれは何だったっけ……

 ……残念なことに、弟分はそこで考えるのを辞めてしまう。
 大事な事なら、また後で思い出すだろう。思い出せないなら、そんな大事な話ではなかったということだ。
 そうして弟分は、かすかに掴んでいた蜘蛛の糸を、自らあっさり放してしまう。そうして、落ちた先が地獄だということに彼が気がつくのは、また後の話。




 私立撃退幼稚園!
 「天使のいる地獄」という質問の、答えがこれだ。
 極めて早期にアウルの能力を発祥した、三歳から六歳までの幼児のみを入園対象とした、日本でも数少ない「撃退士」専門幼稚園。

 ここの勤務は、過酷の一言。何しろ、通う子供達は小さくとも皆が全員撃退士。
 アウル覚醒間もないまま、まだ能力の扱いに慣れていない子供達が大半で、アウルはだだ漏れ、力は十人力、自制心と判断能力は当然幼児という、天下御免の危険施設。極めて壮健な体力を持っているかか、自身撃退士でなければ、とてもここの職員は務まらない。久遠ヶ原学園の教師も正直大概だが、学生自治という概念が存在しないだけ、ここのスタッフに掛かる重圧はより重かった。

 自制の効かない、何十人もの幼児撃退士達が通う園。
 「天使のいる地獄」のフレーズに、ここまで相応しい場所はないだろう。
 今日もまた、久遠ヶ原学園から撃退士が、新たな先生が訪れる。
 歓声をあげて彼らを出迎える、幼い子ども。天使たち。

 ようこそ、地獄へ―――


 『依頼内容:私立撃退士幼稚園、一日補助スタッフ(年少、年中、年長クラスをそれぞれ若干名)』


リプレイ本文


 どどーん! と立ちはだかる分厚いコンクリート塀。
 トラックの突進でも跳ね返せそうなゴツいレール式の門扉が、ガラガラと音を立てて八人の撃退士達を迎え入れる。

「どうやら、本当にここのようだよ」
「……そのようですね」
 ミリアム・ビアス(ja7593)の言葉に、彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)は短く返事を返す。
 実はこの厳つい門構えを初めに見た時、彼女はてっきり道を間違えて刑務所に来たのではないかと、普通に地図を二度見した。驚くべき事に、目的地はここだった。

「幼稚園かぁ。こんなすごい幼稚園は初めて見たわ!」
 雪室 チルル(ja0220)は歓声を上げる。
 確かにすごい。
 登園の早い子供が既に数人園庭で遊んでいるのだが、その子供達が皆ピカピカ光ってる! それは撃退士にとっては見慣れた、だけどあまりこういう場所では見る筈のないアウルの光。

 藍 星露(ja5127)が、門扉の横に彫り込まれた幼稚園の名前を読み上げる。
「私立、撃退幼稚園……という事は……?」
「……つまりここは、撃退士の通う幼稚園という事ですね。成る程、高待遇の理由がはっきりしました。……これは、思ってた以上に大変な依頼になりそうです」
 近衛 薫(ja0420)は広い園内を見渡しながら、ゴクリと唾を飲み下す。
 彼女の眼に映るのは、お城のような二階建ての綺麗な園舎、砂場にブランコ、滑り台。そう、確かにここは幼稚園だ。ビュンビュンと弾丸のような速さで子供達が走り回り、そこかしこで魔力弾が飛び交うような環境であったとしても、幼稚園には違いない。

 門を超え、躊躇いがちに園内へと足を踏み入れた撃退士達に、一人の婦人が愛想よく声を掛けてくる。
「撃退士の皆さんですね? 私、園長の杉田と申します、本日は宜しくお願いします」
「ああ」「いえ」「こちらこそ……」
……なんて、反射的に笑顔で振り返ろうとした撃退士達は、その彼女の佇まいにぎょっとした。
 園長の、体中を走る古い傷跡。浅黒く焼けた肌に、黒い布のアイパッチ。
 何処の馬賊か海賊か? 幼稚園に、こんなキャストはありなのか?!
「おー!」とは雪室。流石物怖じしない。「おばさん、凄いね! 元撃退士なんでしょ? 現役時代の称号は、スカーフェイスか、独眼りゅu……むんぐ」
「馬鹿、失礼な事を言うな!」
 歯に衣着せぬ雪室の口を、衣の代わりに、ラグナ・グラウシード(ja3538)が慌てて背後から両手で塞ぐ。
「失礼。どうも初めまして! 私達、久遠ヶ原よりやって参りました、撃退士八名。本日は宜しくお願いします!」
「いえいえ、皆さん元気の宜しい事で。他の先生方にも紹介いたしますので、さあこちらへ」
 アイパッチ園長の穏やかな、ニコニコと存外人当たりのいい笑顔に、撃退士達は当初感じた驚きを内心で修正する。そうだ、撃退士は見かけに囚われてはいけないのだ。別にアイパッチを付けてはいけない決まりがあるわけでもあるまいし……

「そうそう、私の現役時代の二つ名でしたっけ?」
 先頭に立って歩いていたアイパッチ園長が、つと、足を止めて撃退士達を振り向いた。彼女の、まるで狼が無知な子豚を眺めるかのような視線に、思わず撃退士達は足を止める。
「……隻眼獣、と言われておりましたのよ?」
 そういって、アイパッチ園長はニコリ。

 ガラガラガラ……ガッシャン!

 撃退士達の背後で、門扉は大きな音とともに閉じられた。
 一瞬、撃退士達はひどく不吉な物思いに囚われたが、きっと緊張しているからに違いないと、各自、己を納得させる。
 それが成功したかどうかは、ともかくとして。




「さあみんな、何して遊びますか?」
 彩の言葉に、年中組の園児達は好き勝手に手を上げ、声を上げ、自己主張の限りを尽くす。

「おにごっこー!」
「ロボットごっこ!」
「すなばあそびー♪」

 わいわいと騒がしいには違いないが、こうして見る分には、極当たり前の子供達。
 出だしで多少面食らったものの、通ってる園児が揃ってアウル能力保有者である事を除けば、実際のところ、普通の幼稚園と殊更何が違うという事もない。
 年少、年中、年長組の三クラスに別れた撃退士達は、当初の不安を余所に、配属先のクラスでは先生方や園児達から熱烈歓迎。まずは順当な立ち上がりと言えるだろう。

「あらま、皆意見はバラバラね。どうしようか?」
「外遊びの希望者が多いようですね。差し当たって、希望の多い遊びを選んで……」
「いーや、大丈夫!」
 彩とミリアムが互いに相談している横で、雪室はつかつかと部屋の真ん中に進み出ると、人差し指をぐっと頭上に差し上げる。
「あたいは誰の挑戦でも受ける! 皆で遊ぶ子、この指とーまれっ! とまらないなら行っちゃうよ!」
 言って、雪室は指を高く掲げたまま園庭に向かって走り出す!
 これには子供達も大喜びで、満場総立ちの大騒ぎ。割と本気で走り出した雪室を追って、子供達は鞠の如く弾みながら一斉に園庭向けて駈け出した。

「……私達はどうしましょう? ミリアム」
「若さっていいわねーとか微笑みながら、子供達を暖かく見守るだけのポジションなんて楽でいいと思うんだけど……やっぱだめ?」
「全面的に賛成はしませんが、子供達に追い回されて走り回る役目に関しては、チルルに一任してしまいましょう」




「……というわけで、二人は幸せに暮らしましたとさ、とっぴんぱらりのぷう♪」
 ぷう♪ の部分で御蔵 葵(ja8911)がおどけてみせると、周囲の子供達は大喜び♪

 こちらは御蔵に近衛、藍の三人組による年少クラス。只今絶賛絵本の読み聞かせの真っ最中である。
 これがまた、やってみると実にいい。何しろ、読み聞かせてる分にはアウルの有無は関係ない。年少クラスという歳のせいか、他と違ってインドア派な子も多いようで、御蔵や近衛が交代で読み上げる本の内容を、子供達は実に神妙な顔で聞いている。

「さて、それじゃあ次はどの本にしようかしら? ……あいたたた、髪を引っ張らないでってば」
 肩や頭に、ワラワラと子供達をまとわりつかせたまま、藍が部屋の壁際に設えられた本棚の中身を物色。子供達に少しでも効果があるかと「アウトロー」のスキルを使っているのだけど(無法な相手には違いないわけだし)、今のこの状態は果たして、スキルの効果有りと判別するべきだろうか? まあ、嫌われるよりかはずっといい。

「あら、ここにもこの本があるのですね」
 近衛が、本棚の中から一冊の本を取り上げた。
 表紙に小さな男の子が描かれた本。タイトルは『星の王子さま』。子供の頃初めてこの本を読んで以来、近衛はこの本と、そして純粋な心を持った王子様が大好きだった。きっとこの子供達だって、王子様の事を気に入ってくれるに違いない。

「近衛さん、次は星の王子さまですか? いいですね、僕もその本は大好きですよ♪」
 ぷうぷうきゃーきゃー、子供達と抱き合うようにしてハシャいでいた御蔵が、近衛からその大判の絵本を受け取った。
「はい、では次の絵本を読みますから、皆集まって下さいね〜♪」
 その言葉に子供達は目を輝かせ、御蔵の周囲を輪になって座り囲む。




「はじめまして、どうぞ、よろしく」
 そう言ってラグナは、スキル「紳士的対応」に加えて、とっておきの輝く笑顔をニコリッ!
 だが、駄目だった。年長組の担当はラグナと翡翠 龍斗(ja7594)の二人だが、子供達は誰もラグナを見ていない。

「みんな、俺の事は龍斗と呼んでくれ。よろしくな」
 一方、翡翠の軽い挨拶に子供達は大興奮! お寒い限りのラグナの周りとは対照的に、翡翠の周囲はあっという間に歓声を上げる子供達で埋め尽くされる。
「おいおい、困ったな。ラグナ、ちょっとお前も手伝ってくれよ?」
 何て言っちゃってる翡翠も、言葉とは裏腹に満更でもない様子。それはそうだ。これも全ては、翡翠の準備の良さの賜物なわけで。
 この野郎、それにしてもちょっとズルいんじゃあないのかい? ラグナは思わず拳を固く握り締める。普段クールキャラ気取ってるくせに、まさか全身着ぐるみまで用意してきてウケを狙いに来るとは。そこまでして子供達の人気が欲しいのか!?
 そう。どこから調達してきたのか、翡翠の全身はモフモフのネコの着ぐるみで覆われているのだ。これがまた、実に子供達にはよく効いた! 着ぐるみの中は地獄のような暑さだが、払った犠牲に見合う効果はあるようだ。

「さあ皆、どうして遊ぼうか? 今日は徹底的に付き合うからな」
 翡翠ネコが子供達に問いかけると、子供達ははしゃぎながら、口々に外での遊びを希望する。翡翠が外に目をやると、丁度年中組の子供達が、雪室を先頭に園庭に駆け込んでいるところだった。いいタイミング、彼らと合流するのも悪くない。
「それじゃあ、皆で外に遊びに行こう!」
 着ぐるみネコを先頭に、年長組の子供達は一斉に園庭へと突撃。年中組の子供達と入り交じって、庭中を走り回る。

 ……後には、ぽつんと取り残されたラグナが一人。
「ふふふ。何、まだ挽回のチャンスはいくらでもある。子供達の笑顔は人類共通の宝。つまりは、独り占めにさせてはいけないという事だ! 見てろ、直ぐにぎゃふんと言わせてやるからな!」




 雪室を先頭に、園庭に雪崩込んだ年中組。
 着ぐるみ翡翠に連れられて、年中組と合流した年長組。
 初めは大人しく絵本の読み聞かせを聞いていた年少組の子供達も、そうなってくると外の楽しそうな騒ぎに気もそぞろ。最終的には、三組の園児達が入り交じって園庭で遊び回る事と相成った。

 さあ、初夏の暑い日差しの中、子供も大人も皆が楽しく遊べる遊びと言ったら何だろう?
「水風船の投げ合いだよねー、やっぱり」
 そう言ってミリアムは、予て用意のカラフルな水風船を掌の上でボンヨボンヨと転がした。……たったそれだけで、園内に突如として水風船戦争が勃発した!
 輪の中心で水風船を投げまくる者。
 端からその様子を見守る者。
 程度の差こそあれ、飛び交う水風船に園内は大人も子供も全身ずぶ濡れ。後片付けが大変だ……なんて言っているところで、その二人はやって来た。大小二人の男達、そうです、彼らが誘拐犯!




 初めに気がついたのは藍だった。
 子供達から水風船の集中砲火を喰らい、水も滴るイイ女。這々の体で何とか主戦場から抜け出してきたその時、彼女は自分に向けられた、いやに無遠慮な視線を感じ取る。
(また、子供達が水風船をぶつけに来たかしら?)
 首を巡らした藍は、すぐにその二人組に気がついた。
 出入りの業者なのか、揃いのツナギを着囲んだ見慣れぬ二人の男達。ブラウスがずぶ濡れスケスケ状態の自分に、やらしい視線を送ってくるところまでは、まあ許す。だが、二人がそれぞれ一人ずつ、年少組の園児を連れて歩いているところだけは見過ごすわけには行かなかった。
「あの……?」
 声を掛けようとした藍の視線に気が付き、男達は身を翻し、子供の手を引いたまま逃げ出そうとする。
 怪しい!
 足止めしなきゃ、という藍の思いが、そのまま咆哮となって喉の奥から溢れ出す。
「う―――ッ! ワンワンッ! 皆、誘拐よっ!」
 心配無用、これでも迫力は十二分。
 一喝は水風船の戦場を貫き、全ての撃退士達の注意を引き寄せる!




 子供達がいきり立つ。年長組の子供達にとって、アウルの力を扱える自分達が並の人間より余程強いのは自明の理。刃物も鉄砲も怖くない。さあ、みんなで『わるいやつら』をやっつけよう……なんて、飛び出そうとする子供達を近衛が強い言葉で引き止める。
「駄目ッ! これは撃退士の、わたくし達の仕事です! 遊び半分で、覚悟のないままに人を傷つけては絶対にいけません!!」
 近衛の言葉に、二人組を追いかけようとしていた子供達はびっくりして足を止めた。
 その隙にと足を速める二人組。二人の向かう先には、出入り業者のものらしい軽トラックが止めてある。男達はあれに乗って逃げる気だ!

「そうそう、俺らに近づくと怪我するぜ!」
「兄貴かっこいい♪」
 近衛の言葉の真意も知らぬまま、調子よく囀る二人組。
 だけど勿論、そんな男達を撃退士は逃がしはしない。全力跳躍により、あっというまに回りこんだミリアムが逃げ道を塞ぎ、翡翠が背後から男達に詰め寄った。

「貴様ら、子供達を……俺達の後輩をどうする気だ?」
「うるせー! 着ぐるみネコなんか怖かねーぞ! 近寄るな! この人質が見えねーのか!?」
 そういえば、翡翠は未だに着ぐるみのまま。イマイチ迫力が足りなかったか、周囲を囲まれた中、それでも二人組は虚勢を張るのを辞めようとはしない。どうやらよく分かっていないらしい園児の一人を小脇に抱え、男の一人が鋭いナイフをその胸元に突き付ける。
「近寄るなよ! 何かしたら、直ぐにブスリだぞっ!」
 周りを取り囲みながらも、男の言葉に撃退士達の足が一瞬止まる。勿論、人質の園児といえどもアウルの力を持っている。たかがナイフ、致命傷になるわけではないのだが……

 そんな均衡を破ったのはラグナだった。
 彼は、まるで男達が目に入っていないかのような態度で人質の子供の元へと歩み寄る。
「怖かったかい? でも大丈夫さ、安心して」
 ラグナの様子に戸惑う男達。
 一歩、二歩、三歩。もうラグナと男達の距離はホンの一跨ぎ。
「馬鹿野郎! 近づくなって言っただろ!!?」
 ラグナの様子に不気味さを感じつつも、とにかく、兄貴と呼ばれてる方の男が意を決して子供にナイフを振り下ろす。……だが、ナイフ刃先が子供に食い込む事は有り得ない。
「奥義、ドMの極み。そう、撃退士は悪とリア充には屈しない!」
 ナイフの刃先は、ラグナの掌に握り込まれたままビクともしない。

「さあて、よりにもよって、撃退士の幼稚園に誘拐なんて馬鹿な真似をしでかした奴らには、どんなお仕置きが適当だろうねえ?」
「チルル。一息に済ませてしまってはいけませんよ? 取り敢えず車は壊してもいいですよね、全損な感じに」
 刃物を封じ、人質を取り戻せば、男達二人組に生還の可能性は全くない。
 抱き合い怯える男達に、雪室と彩の二人が楽しそうな笑顔で詰め寄った―――




 その後の事は、特に記す程の事もない。
 誘拐犯二人組はお縄となり、子供達と撃退士はその後も一日中、大いには遊び、楽しんだ。アイパッチ園長も、そして勿論子供達も、慣れてみれば恐れる事は何もない。

「いやあ、いいな! 子供はやはり可愛らしい! 見てくれよこの缶バッジ、助けた園児がお礼にってわざわざ私『だけ』にくれたんだぞ? うふふ、もし結婚したら、子供は男の子と女の子、一人ずつは欲しいな……」
 舞い上がりまくったラグナの暑苦しいテンションには閉口させられたが、問題と言ったらその程度。

 その日の終わり、八人の撃退士と三十人の子供達は大きく手を振り合って別れを惜しむ。
 また会おうねと、呼ばわりながら。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 撃退士・近衛 薫(ja0420)
 KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
重体: −
面白かった!:8人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
近衛 薫(ja0420)

大学部6年194組 女 ダアト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
空挺天襲・
ミリアム・ビアス(ja7593)

大学部7年144組 女 ルインズブレイド
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
控えめな黒きオーラ・
御蔵 葵(ja8911)

大学部7年240組 男 インフィルトレイター