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マスター:タカば
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/24


みんなの思い出



オープニング

●惨劇の林間学校
「なあなあ健二、もう寝た?」
 隣の布団の中から、拓海が声をかけてきた。健二はごろんと寝返りをうつ。
「……まだ。っていうかそんなに大声だしたら、寝てても起きるよ」
「えー、小声じゃん」
 拓海は口をとがらせる。
「健二はシンケイシツなんだよ」
 向かいの布団に入っていた克也も体を起こす。拓海は楽しそうに二人の顔を見た。
「それより、部屋から出てどこかに行かないか? まだ眠くないだろ」
「部屋から出るなって、先生に言われたじゃん。見つかったら怒られるよ」
「大丈夫だって。先生はみんな下のロビーで酒盛りするって言ってたもん」
 くすくすと拓海は笑っている。
 まあ、気持ちはわからなくはない。
 年に一度の林間学校。滅多にお泊りなんかしない友達と一緒に、一晩を過ごすのだ。
 ただ布団にくるまって寝るだけでは芸がないのは確かだ。
「……でもさ、行くっていってもどこへ?」
「森の中を探検してみようぜ。夜の森ってわくわくしねえ?」
 真っ暗な窓の外を、拓海を指さす。
 恐怖心で一瞬息を飲んだが、健二は顔を引き締めた。
 ここで怖いなどと言おうものなら『弱虫』のレッテルをはられるに違いない。
「じゃあ行くか」
 3人とも、頷きあうと立ち上がった。拓海が先頭をきってドアを開ける。
 しかし、廊下にはすでに人の姿があった。
「……あ、やべ」
 先生か、と思ったがその人影に見覚えはない。
 訝しく思っていると人影はくるりとこちらを向いた。
 その顔はなぜか醜く腐り、崩れ落ちている。
「ひっ……!」
 先生じゃない。それどころか人間じゃない。
 子供たちは大急ぎで部屋へ飛び込んだ。
 しかし、化物は部屋の中にまで追ってくる。
 健二はとっさに押入れの中に飛び込んだ。
「うわああああああああっ」
 暗闇の中、必死に耳をふさぐ健二のもとに友達の断末魔の声が届いた。

●子供を救え!
「林間学校中の子供たちがディアボロに襲われました」
 斡旋所の事務員は冷静を装いながら依頼書を読み上げた。
「場所は郊外の山にある、体験学習用の宿泊施設です。グールが大量に入り込んで、子供たちを襲っているようです」
 被害者が子供、と聞いて撃退士達の顔もこわばる。
「ロビーに集まっていた先生の誘導で、子供の大部分が避難しましたが、まだ10名が建物の中に取り残されていると思われます」
「まだ、生きているんですよね?」
 撃退士の質問に事務員は弱々しく頷く。
「グールはあまり頭のよいディアボロではないですから、逃げたり隠れたりしている子供はまだ生き残っている可能性があります。お願いです、彼らを早く助けてあげてください」
 撃退士たちは力強く頷いた。


リプレイ本文

●支援の手を
 周りを森に囲まれた建物の駐車場に、撃退士たちは出現した。
 顔をあげると、闇の中にひっそりと建つコンクリート造りの建物がある。ディアボロが出現したという、体験学習用の宿泊施設だ。山の中の施設のため、周囲に他の建物はない。
「子供たちがとり残されているのはここだね」
 特攻斬天・一条 朝陽(jb0294)が拳を固めて気合をいれる。本来なら、この施設はキャンプやオリエンテーリングを楽しむ子供たちが楽しく過ごすはずのもの。しかし、今はディアボロの徘徊する惨劇の牢獄と化している。
「とんだ客がきたみてぇだな、こいつは。殆ど逃げ終ってるってのは不幸中の幸いってぇ奴だろうが。ここはいっちょ、ガキ共に強くかっこいい姿を見せてやるとすっかな。噂にしてもらわなきゃ困るんだから、死なせねぇようにしねぇと」
 撃退士・千堂 騏(ja8900)が軽口を叩く。しかし、彼の目は決して笑ってはいない。
風よりも疾く、手を引いて・エルレーン・バルハザード(ja0889)は、祈るように手を胸の前で合わせる。
「怖いよね……待ってて、今すぐ助けてあげる!」
「なるべく急ぐ必要がありますが、決して焦ってはなりません。冷静に対処するのです」
 すぐにでも駆け出しそうな仲間に向かってそう言うのは撃退士・字見 与一(ja6541)だ。容姿は一番幼く見えるが、その目に宿る光は落ち着いている。
「突入する前に、下準備をしておきましょう」
 ご当地メイドアイドル・氷雨 静(ja4221)が荷物の中から阻霊符を取り出した。
 建物の一階に近づくと、入り口にぺたりと貼る。続いて、1階の出入口、建物の外側に取り付けられた非常階段の扉と、外への出入口を順に施錠していく。各階の捜索中にディアボロを外に出してしまわないためだ。
 準備完了と同時に、彼らは2組に別れて非常階段へと向かう。
 子供が集中していると思われる2階、3階から同時に捜索を開始するためだ。
「よっしゃ! 気合い入れていくぜ!!」
 撃退士・獅堂 武(jb0906)が喝をいれる。
 彼らは一斉に建物の中へと突入した。

●捜索は迅速に
 2階の捜索を担当したのは、与一、エルレーン、武の三人だった。
 むっとする血の臭いが彼らを迎えいれる。
「グールの腐った血の臭い……だけというわけではなさそうですね」
 注意深く辺りを見回しながら、与一が眉をひそめる。だが廊下に人影はない。
「一部屋ずつ調べていくか? 確か、このフロアには5つ客室があるんだっけか」
「だったら、私がおびき寄せるよ」
 エルレーンが一歩前に出た。
「私は剣、私は盾……!」
 自分自信に言い聞かせるようにつぶやくと、きっと顔をあげる。
「このっ……ぷりてぃーかわいいえるれーんちゃんが! 天魔をねこそぎやきころしてやるっ、なのッ!」
 先ほどまでのおどおどした雰囲気を捨て、大声で名乗りをあげる。
 声に反応するようにして、部屋のドアが開いた。
「……っ!」
 部屋から出てきたのは2つの人影。反射的に攻撃してしまいそうな手を止めて、与一と武は目をこらす。
 この人影は、子供か、グールか。
「グォォォォォ!」
 助けを求めて咆哮をあげる子供はいない。
 身構えた彼らに向かって、2体のグールはのたのたと足をもつれさせながら突進してくる。
「動く死体なんぞ、燃えてしまえば良いのです」
 与一の手のひらに炎の塊が生まれた。それはまっすぐグールに向かうと火柱をあげる。
「そらよっ!」
 与一の更に後ろから武の鉄数珠が放たれる。鋼鉄の弾丸に貫かれ、グールは廊下に崩れ落ちた。
 もう1体のグールもすぐに仲間と同じ運命をたどった。エルレーンの放った炎にまともに焼かれて消し炭になる。
「これでかなり数は減ったはずです。捜索を開始しましょう」
「よっしゃ。じゃあまずはこの部屋を……」
 武が手近なドアに手を伸ばした瞬間、ドアが廊下側に大きく開いた。
「ぐあっ!」
 ドアに顔面を強打されて武が尻もちをつく。
「グール?!」
 武器を振るおうとしたエルレーンは直前で手を止める。出てきたのはパジャマ姿の女の子だ。
 しかし、飛び出したのは彼女だけではない。
「うわああああん」
 彼女の背を追うようにもう1体グールも姿を現した。
「危ない!」
 グールの爪から女の子をかばおうと、与一が飛び出す。背中を引っかかれながら、与一はごろごろと廊下を転がった。
「与一!」
「大丈夫! それよりグールを!」
「でりゃぁっ」
 ぶん、と与一が数珠を振り回す。吹っ飛んだグールに、エルレーンがとどめを刺した。
「……ふう、なんとか守りきれましたね」
 腕の中の女の子の無事を確認して、与一がほっと息をつく。
「怖かったねぇ……もう、だいじょぶだよ」
 エルレーンが声をかけると、女の子は安心したのか声をあげて泣きだした。
「あ……あきちゃんと……さおりちゃんが……!」
 泣きながら女の子は自分が出てきた部屋を指さす。
「友達がいるんですね?」
「見てくる」
 武が部屋の中を覗いた。そこは、廊下以上の血の臭いが充満していた。
「……っ!」
 急いで辺りを見回す。押入れの中を覗いてみると、女の子がふたり血の海の中に倒れていた。
「おい! 来てくれ!! 怪我人がいる!」
 武が叫ぶとエルレーンが部屋に飛び込んできた。
「ひどい怪我……! だいじょぶだよ。怪我をしてる子のために、救急箱持ってきたからね」
 エルレーンはすぐに手当を始めた。ひどい怪我だがまだ息はある。
「怪我の様子はどうです?」
 先に飛び出してきた女の子の手をひいて、与一もやってきた。
「まだ生きてるよ。与一の提案どおり2階から入ってよかった。あと少しでも遅かったら死んでた」
「そうですか……よかった」
 3人はほっと息をついた。
「とりあえず、子供3人確保とグール3体討伐を共有しておくな」
 武は携帯電話を取り出すと、仲間の番号をコールした。

●命の数は
 3階に突入した静、騏、朝陽の3人が見たのは、床に倒れた男の子の姿だった。
 男の子は廊下の奥でうつ伏せに横たわったまま、ぴくりとも動かない。彼を中心にゆっくりと血だまりが広がろうとしていた。
「まずはあいつを助けるぞ!」
 騏が駆け出す。他の2人もその後を追った。
「おい、大丈夫か?!」
 そっと、助け起こす。一瞬死んでいるかと思ったが、かろうじて呼吸はしているようだ。
「ここは私にまかせてください」
 すっと静が前に出た。荷物の中から救急箱を取り出す。
「仲間の治療用に持ってきたものですが、使えるでしょう」
「助かったあ……。でも、早く敵を倒して病院に搬送しないといけないね」
 朝陽がほっと息を吐く。
 そのときだった。
きい、と音をたてて非常口近くのドアが開いた。中から男の子がふたり顔を出す。
「おねえちゃんたち……誰?」
「撃退士だよ。君たちを助けに来たんだ」
 朝陽がにっこりと笑いかける。子供たちは彼らに向かって一斉に走りだした。
「助けて! 拓海が怪我してるんだ!」
「わかりました、その子も治療して……」
 駆け寄ろうとしたその瞬間、子供と撃退士たちの間でドアが開いた。子供の声に誘われたのだろう、3体ものグールがもつれるようにして廊下に出てくる。
「ちっ!」
 騏は舌打ちした。グールの先に子供がいるのでは、貫通するアウルをむやみに放つわけにはいかない。
「フォローをお願いします!」
 静が炎を放った。背中を炎に焼かれてグールの歩みが止まる。
「子供に近づくんじゃねえっ!」
 防御も何もあったものではない。騏と朝陽はとにかく攻撃を加えてグールを床に叩き伏せた。傷をものともせず、子供に駆け寄る。
「怪我はないか?!」
「うん……俺たちは大丈夫。でもこの部屋にひとり怪我している奴がいるんだ」
「その子の手当は私が引受けましょう」
 静が部屋に入る。その間に騏と朝陽のふたりは他の部屋を調べて回った。どうやら、このフロアには子供もグールももういないようだ。
 そこにタイミングよくコール音が鳴る。
「はい、こちら朝陽。……子供3人保護にグール3体討伐だね。ボクたちのほうは子供4人保護とグール3体討伐。そっか……そっちも怪我してる子がいたんだね。こっちも2人、どっちも重症だよ。4階制圧したら、また連絡するね」
「あっちも怪我人いたんだな」
 騏は顔をしかめる。
「うん。でも発見が早かったから生きてるって」
「これで子供が7人にグールが6体……あと少しですね。4階の捜索に行きましょう」
「おねえちゃんたち、どこか行くの?」
 このまま外に出られると思っていたらしい、子供たちが泣きそうな顔になる。
「悪いな。お前らの他にもまだ残ってる子がいるんだ。探してやらないと」
「ついて行っちゃだめ?」
「だめですよ」
 静はしゃがんで子供と視線をあわせた。
「この先はお化けだらけだから、連れて行けません。でも、ここはもう安全だから安心して待ってて」
「……うん」
 こくり、と頷いた子供に笑いかけて、静は立ち上がる。
「じゃあ行こうぜ。……っと、そうだ」
 階段に向かいかけて、騏は顔だけ子供たちを振り返る。
「上に行ったら化物をおびき寄せるために、わざと悲鳴をあげるかもしれねえ。だけどお前らは動くなよ。俺達が戻ってくるまで絶対にここにいるんだ」
 念押しして、一行は4階へと向かった。
「ここは……食堂ですね」
 階段を上がってすぐのフロアには長机がいくつも並んでいた。奥にはキッチンらしいカウンターも見える。
「物陰が多いね。お風呂はこの先かな?」
 朝陽が廊下の奥を覗いてみる。既に消灯していたのか、男女別の風呂場は暗くひっそりとしている。
「おびき寄せを試してみるか」
 騏はすう、と大きく息を吸い込むと腹の底から悲鳴をあげた。
「うわああああああああっ」
 びりびりと窓ガラスが振動して、声はフロア中に響き渡った。
「来ました!」
 静が声をあげる。食堂のカウンターの影から1体、脱衣所から1体、ふらふらとグールがやってくる。
「風呂場は俺が!」
「食堂はボクが引き受けるね。静さんサポートよろしく!」
 二人は武器を手に走り出す。
 彼らの横をかすめて、静の放った炎が飛んでゆく。
 火に煽られてもがき苦しむグールに、騏と朝陽が同時にとどめを刺した。
「子供と、他に隠れてるグールがいないか確認する」
「私は2階班に連絡しますね」
 静は仲間の番号をコールした。

●拾われた命
「2体倒した……はい、了解です」
 子供をかばって机の下に避難しながら、与一は仲間からの通信に応答した。
 背後ではエルレーンがグール相手に立ち回っている。
 与一たちは事務室に入ったところで、子供を襲うグールに遭遇していた。
「何だって?」
 グールに向かって鉄数珠を飛ばしつつ、武が尋ねる。
「4階でグールを2体倒したそうです」
「……ってことは、目の前の敵を倒したら敵の掃除は終わりってことか」
 彼らが対峙しているグールの数は2体。4階で倒されたものをあわせるとこれでちょうど10体となる。
「もえちゃえよ、あとかたもなくッ!」
 目の前のグールにエルレーンが炎を放った。そのすきにもう1体が与一たちのほうへと進もうとする。
 だが、直前に影を縫い付けられて動きを止めた。
「いかせないよぉ…もうしんでるんだ、あきらめてとっとともう一度しんじゃえッ!」
「飛んでけ! コノヤロウ!」
 動けないグールに与一の炎と武の鉄数珠が襲いかかる。
 グールはぐずぐずと燃えながら床に崩れ落ちた。
「これで建物の安全が確保されましたね。……っと」
 再びのコール音に、与一が言葉を切る。
「……はい、4階で子供を2人保護……。こちらも今子供を1人保護して、グールを2体倒したところです。……ええ、依頼完了ですね」
 通話を終了して与一は仲間を見る。
「子供も全員保護できたようです」
「やったあ!」
 朝陽が満面の笑顔になる。
「さて、2階の子供たちを外に出してやらねえと」
「ええ。生きているうちに辿りつけたのです。何がなんでも助けないと」
 子供たちのために、撃退士たちは駆け出した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・字見 与一(ja6541)
重体: −
面白かった!:4人

┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
撃退士・
字見 与一(ja6541)

大学部5年98組 男 ダアト
撃退士・
千堂 騏(ja8900)

大学部6年309組 男 阿修羅
特攻斬天・
一条 朝陽(jb0294)

大学部3年109組 女 阿修羅
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師