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マスター:タカば
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/27


みんなの思い出



オープニング

●魅惑の温泉かけながし
「やっぱり冬はあったかい温泉だよなあ」
 脱衣所で服を脱ぎながら和弘は満面の笑顔を浮かべた。脱いだ服を手早く籠にいれながらふんふんと鼻歌を歌う。
「和弘、お前行動が早すぎだろ」
 旅の道連れ、正樹がぼやきながら脱衣所にやってくる。
 彼も隣に立って服を脱ぎはじめた。
「いやあ、温泉宿についたらまずは風呂だろ!」
「荷物放り込んで直行するのは慌てすぎだって」
 和弘と正樹はデパート勤務だ。
 彼らにとって年末年始は休みではなくかきいれ時だ。
 クリスマスから年始まで不眠不休で働いて、やっと遅い休暇というわけである。
 人ごみにもまれたストレスを解消すべく、人里はなれた温泉宿で二人旅にやってきた。
 正月のピークがすぎた平日のためか、客は彼ら以外にいない。広い湯船を彼らだけで優雅に独占する予定だった。
 ……まあ、男ふたりのさびしい旅と言えなくはないが。
「かわいい女の子との出会いとかないかなあ。一応ここ、混浴だし」
「若い女の子が混浴風呂に入ってくるわけないだろ」
 相棒のもっともな指摘に、和弘は肩を落とす。
「ちょっとは夢を見させてくれよ」
 タオル片手に連れだって浴場へ向かう。
 入口の戸をあけると冷たい空気がふたりを迎えた。
 雨よけの屋根はあるが、特に外界と風呂場を隔てる壁などはない。岩で作られた湯船の向こうに、直接見事な風景が見えた。
「おお、すごい解放感!」
 この温泉宿にしてよかった、と感動していたら湯船の湯気の中に不思議なものをみつけた。
 人のような影が三つ、湯気のなかにゆらゆらと揺れている。
「……あれ? 今日は俺たちのほかに客はいない……はずだよな?」
 正樹が首をかしげる。
 凝視しようとした瞬間、さあっと風が湯気を吹き流した。
 ぼんやりとしていた影がはっきり見える。
 それは美しい少女たちだった。
 真っ白な肌に、濡れた漆黒の髪、赤い唇が鮮やかで愛らしい。
 長女らしいほっそりとした美女が微笑んだ。和弘は思わずふらりと湯船に近づく。
「お、おい和弘」
 うふふ。
 一番幼い少女が鈴を転がすような声で笑う。
 止めようとした正樹も、視線が少女の胸に縫いとめられる。
「いっしょに、あそぼ」
 次女らしい少女の声に誘われて湯船に足を踏み入れた和弘は、その感触に違和感を覚えた。
 感触というよりは温度だ。
 湯船に張られた水は氷のように冷たかった。
「……っ!!」
 彼女たちはこの世のものではない。
 そう認識した瞬間、彼らは脱衣所に向かって全力で走り出した。

●乗っ取られた温泉
「山奥の温泉宿にディアボロが出たよ」
 説明しながら多々良千景(jz0155)はプロジェクターのスイッチをいれた。
 山間部の地図が大写しになる。
「場所はここ……知る人ぞ知る秘境の温泉宿らしいよ。豊富なお湯と綺麗な景色が売りらしい」
 千景が手元でタブレットPCを操作すると画面が切り替わった。
 湯船にゆったりと浸かる少女たちが3人、映っている。
「これは、温泉宿の向かい側から望遠レンズで風呂を撮った写真だよ。映っているのが今回の敵だ。女の子の姿はしているけど、亡霊に近い存在だね」
 説得などが通じる相手ではないようだ。
「彼女たちは通常の攻撃のほかに、相手を誘惑しようとしてくるらしい。対応には気を付けてほしい」
 ああそれから、と千景は付け加える。
「営業中の温泉宿だから、できるだけ壊さないように気を付けてほしい。破壊されればそれだけ営業再開が遠くなるからね」
 もちろん、天魔の討伐が最優先だけど。
 そう言うと撃退士たちは力強く頷いた。


リプレイ本文

●極寒の露天風呂
「ふむ……あれが雪女か。たしかに結構な美人だな」
 脱衣所のドアを少しだけ開けて、ある種威風堂々・蘇芳 更紗(ja8374)は露天風呂の様子をうかがった。
 スレンダー、王道、ロリ巨乳、とそれぞれ傾向の違う美少女が3人、湯船でくつろいでいる。一見優雅な光景だが、今湯船を満たしているのは、凍えそうなくらいの冷水だ。
 当然のことながら、彼らは人ではない。
「雪女かー……完全に人の形されているとあまり攻撃したくないよね……」
 一緒になって風呂の様子をうかがっていた黒鳥の名を知る者・桜花(jb0392)が顔をしかめる。
「温泉は妹が好きだし姉が療養目的で行く事が多いし……女とはいえ意思疎通が出来ない相手にかける情けなし! 」
 実に男らしい宣言をするのは神速の剣豪・礼野 智美(ja3600)だ。
 彼女は荷物の中から簡易スパイクのアタッチメントを出すと、靴に装着する。凍りついているであろう、床で滑らないための対策だ。
「岩なら戦闘中にそんなに削れる可能性低いだろうし」
 見たところ、床は御影石を削ったもののようだ。少々暴れても割れるようなことはないだろう。
「温泉に入れなくなるなんて……絶対、許しません!」
 4(◎ω◎*)4☆・久遠寺 渚(jb0685)が気合をいれる。こちらもゴムスパイクを仕込んで準備万端だ。
 人間世界に来るまで、温泉などというものとは縁遠かった悪魔、撃退士・ユーノ(jb3004)はふむふむと興味深そうに温泉を眺める。
「以前行ったのは山の中の、本当に湯だまりといった温泉でしたけれど、骨休めならこういう場の方が落ち着きますの。あれはあれで貴重な経験でしたけれど」
 きちんと手入れされた風呂は、通常の状態で入ればきっと気持ちよいだろう。。
「温泉好きな、人間を誘惑するディアボロなんて……我が同族ながら、何を考えてこんなものを作ったのかわからないのです」
 敵の様子を冷めた目で観察しているのは仲良し撃退士・アイシス・ザ・ムーン(jb2666)だ。誰かは知らないが迷惑なことをするものである。
「ん、せっかくの温泉だし、早く倒して入らせて貰いたいね。そのためには壊さないようにしないとだけど」
 着替えをすませたマジカル♪みゃーこ・猫野・宮子(ja0024)が胸をはった。服が水に濡れないように上は水着、そして足元は滑りにくいスニーカー、という変則的な恰好である。
「そろそろ作戦開始かい?」
 隣の男子用脱衣所から声がかかった。
 今回の黒一点、きらきら☆非モテ道・若杉 英斗(ja4230)である。
 女子の脱衣所に入るわけにもいかず、彼だけ別行動なのだ。扉ひとつの差ではあるが、一人で脱衣所にいるとちょっとさみしい。
「魔法少女まじかる♪ みゃーこ、水場バージョンで出撃にゃ〜♪ 施設を壊される前にささっと終わらせるのにゃ!」
 元気よく宣言して、宮子が勢いよく脱衣所の扉を開けた。
 雪女を倒すため、風呂場に踏み込む。
 だがしかし。
「さ……さむ…………っ!」
 びゅうっ、と吹きこんできた寒風にさらされて、宮子の顔が固まった。
 寒い。
 むちゃくちゃ寒い。
 冬の外気とそのままつながった風呂場なのだ。
 水着一枚で突入したらそら寒い。
「お、温泉がないから……?」
 宮子だけが絶対絶命に陥った。

●魅惑と寒さとの戦い
「うふふ」
 敵の出現に反応して、少女たちが湯船から体を起こした。
 彼女たちは撃退士に妖艶に微笑みかける。
「雪女型のディアボロか。誘惑攻撃をしてくるそうだが…」
 ふっと英斗が笑みをうかべる。
「久遠ヶ原学園は美人だらけ! 美人はいつも見慣れているから、お前達をみてもなんともないわっ」
 彼女はいないけど!
 男として情けなさすぎる宣言をして、英斗は雪女に武器をつきつけた。
 雪女の長女がふふっと笑みをこぼす。彼女が立ち上がると、体に巻いていたタオルが肌にぴったりと張り付いた。悩ましい曲線がタオル越しに顕わになる。
 くすくすと笑いながら、長女は優雅に手を振った。その先から無数の氷のつぶてが放たれる。
「敵をよくみてっ!技の出所を見極めて攻撃をかわすぜ!」
(けっしてやましい気持ちからガン見しているわけではないっ、きりっ!)
 だが、英斗の勢いがよかったのはそこまでだった。
「かっこいい人は、好きよ」
 長女の甘いささやきを聞いて英斗はがくりと膝をついた。
「え……え、かっこいいって俺? 困ったなあ!」
「いきなり敵の術にかかるな」
 でれっとやにさがった英斗の頭を、すっぱーん! と更紗が思い切りはたいた。
「あ、あれ?」
 目を白黒させている英斗をほうっておいて、女性陣が雪女に向かう。まずは長女を集中攻撃だ。
「こっちですよ!」
 ばさりと翼を広げてアイシスが床を蹴った。
 雨除けの天井ぎりぎりまで高度をあげて長女の注意をひく。天井のせいで思ったより距離が稼げなかったぶん、氷のつぶてがアイシスに勢い良く当たる。しかしここで引くことはできない。
「真上を見上げては、首は疲れるし注意も散るのが自明の理なのです。ほら、横の注意がお留守なのですよ」
 横、の言葉に長女が視線を下に戻したときには遅かった。
 刀を抜いて走りこんできた智美が切りつける。肩からざっくりと袈裟懸けに切られ、雪女はぎいい、と不愉快な声をあげた。
「温泉を凍らされても入らなければどうということはないのにゃ! マジカル♪ソードを食らうのにゃ!」
 ソードと言いつつ、宮子が苦無を振りかざす。長女は交代して必死によけようとしたが、その場所にはアイシスが急降下してきていた。
「刃物や鈍器は苦手なのです。だから、勢い任せのギロチンなのですよ!」
 上からと、横から。同時に2方向から攻撃されて、長女は湯船に沈んだ。
「あと2人!」
 宮子たちが振り向くと、そこでは他の雪女を引きつけていた仲間が苦戦していた。

●女の戦い?
「わ、わわわわっ!」
 悲鳴をあげながら、渚は次女の猛攻をなんとかかわした。
 連続で投げられる氷のつぶて。怒っている。次女は明らかに怒っている。
 原因は、彼女の注意を引くために渚が放った言葉だ。
「次女さん、次女さん、凄い美少女で羨ましいです! でも、妹さんよりちっちゃいなんて、可愛そうですね……」
 ちらりと胸元を見てつぶやいた瞬間、次女のまとうオーラが一変した。
 どうやら、渚は次女の地雷を思い切り踏んでしまったようである。
「こ、このままじゃお風呂が壊れてしまいます……!」
 一応、頑丈な岩の床や湯船につぶてが当たるように誘導しているが、いつドアや蛇口に当たるかわからない。かといって、自分自身の体で施設をかばおうにも、渚の体力でこのつぶてをまともに受けたら死んでしまう。
「お嬢様、パートナーが違いますよ」
 舞うような仕草で、更紗が渚と次女の間に割って入った。
「私が一時ダンスパートナーを勤めさせて貰います、誘うは死出の旅路ですが」
 がん、と音をたてて氷のつぶてが盾に当たる。
 防御を得意とする彼女は、余裕で攻撃を受け止める。その間に英斗が次女に近づいてきていた。
「この距離なら外さない! 喰らえ、シャイニングフィンガー!!」
 間近からスネークバイトで切り裂かれ、次女は湯船の中に膝をついた。
 その体を更紗の太刀が薙ぎ払う。次女は水の中で沈黙した。
 一方、三女を引きつけていたユーノは、駆けつけた仲間によって困った状況になっていた。
「ねえ、私と一緒に帰らない? ねぇねぇ!!」
 援護に駆けつけた桜花が、三女のたわわな胸に誘われて、魅了されてしまったのである。
 幸い、桜花は今のところ両手を怪しくわきわきさせながら三女に迫るだけで、こちらの敵には回ってこない。だが距離が近すぎるので、周りが攻撃できない。
 と、思ったら桜花の真上から氷水が注がれた。
「……変なことに気をとられてないで、きちんと戦うのです」
 翼で空中に移動したアイシスが上から水をかけたのだ。
「あ、あら……私としたことが」
 その様子を見て、三女がちっと舌打ちする。
「この温泉は知能も怪しい紛い物には勿体ないですの。引っ込んでいなさいな」
 三女の手の届かない空中からユーノが槍で攻撃する。爪の代わりに氷のつぶてが飛んできた。
 屋根のせいでうまくよけられず、つぶての何個かがユーノにまともに当たる。
 しかしそれだけ注意を引けば十分だった。
「ちょっとその胸はもったいないと思うけど!」
 桜花の打刀が三女にたたきつけられ、彼女は姉妹と同じ運命をたどった。

●癒しの温泉内風呂編
「広い温泉はやっぱり気持ちいいね♪ うー、天国だよ〜……」
 湯船の中で手足を広げて、宮子はゆったりとため息をついた。
 柔らかな温泉のぬくもりで体が優しくほぐされていく。
「旅館の店主が風呂を用意しておいてくれて助かったな」
 湯の中で体をあたためながら智美が微笑む。彼女の頬も上気して桜色だ。
「でも、混浴露天風呂が、内風呂になったのはちょっと残念だね」
 桜花が苦笑する。
 そう、彼らが入っている風呂場は、外とは繋がってはいない。
 混浴を好まない客や、悪天候の時のために用意された男女別の内風呂だ。
「しょうがないですよ。大きく壊れたわけじゃないですけど、お風呂に傷がついてしまったのですから」
 そうフォローをいれる渚も、少し残念そうだ。
 しかし、スパイクで削れた小石や、ディアボロの死体がまだ残っている風呂に、客を入れたくないと言われてしまっては仕方ない。
 大きく壊れたわけではないが、露天風呂を再開するには手入れが必要そうだ。
「まあ、温泉の湯自体は気持ちいいから、よいのではないですか」
 ユーノが楽しげに微笑む。
 人間世界での経験が少ない彼女にとっては、内風呂も十分興味深いようだ。
「初めて聞いた時はどうなのかと思ったのですが、お風呂で読む本と言うのも結構いいものなのです」
 景色を気にしていないのはアイシスも同様だ。
 彼女は本を持ち込んで、のんびり長湯を楽しんでいる。
「……あれ? ひとり足りなくない?」
 仲間の肉体美を堪能していた桜花が、ふと顔をあげた。
 今回の作戦に参加した女性は7人、対してここにいるのは6人。ひとり足りない。
「えーと、更紗さんがいないようです」
「更紗なら、さっき英斗と一緒にいたが……」
 そのときだ。
「ちょ、蘇芳さん? 何やってるんですか、ここ男湯ですよ!」
「男なんだから当然だろう」
 男湯から英斗と更紗の声が響いてきた。
「戦闘で汗の一つぐらいかいただろう、風呂に入ってスッキリするといい。背中を流してやるぞ?」
「別のものがスッキリしなくなるから、勘弁してくださいっ!!」
 英斗の悲痛な叫びが男湯にこだました。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 屍人を憎悪する者・蘇芳 更紗(ja8374)
 未到の結界士・久遠寺 渚(jb0685)
重体: −
面白かった!:5人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト
肉欲の虜・
桜花(jb0392)

大学部2年129組 女 インフィルトレイター
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
仲良し撃退士・
アイシス・ザ・ムーン(jb2666)

高等部2年9組 女 陰陽師
幻翅の銀雷・
ユーノ(jb3004)

大学部2年163組 女 陰陽師