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マスター:タカば
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/12/20


みんなの思い出



オープニング

●サンタさんを捕まえよう!
「虎太郎、やっと来たな?」
 広大な久遠ヶ原学園の一角、校舎の影に龍彦と卯月が待ち構えていた。虎太郎は、カバンを抱え直して二人に駆け寄る。
「龍彦が先に行っちゃうのが悪いんだろ」
「だって待ちきれなかったんだもん」
 虎太郎が口をとがらせるが、龍彦は全く悪びれもしない。
 いつものことなので虎太郎はそれ以上抗議するのを諦めた。双子の兄弟だというのに、二人の性格は真反対だ。
「とら兄ちゃん、いいさくせん、思いついた?」
 卯月が首をかしげる。妹に微笑みかかえると虎太郎はカバンから自由帳を取り出した。そこには『サンタほかくさくせん』と書いてある。
「へへ……すっごく考えたんだ」
「はやく見せてくれよ!」
 目をきらきらさせながら龍彦もノートを覗きこむ。虎太郎がページを広げると、そこには彼らの家とサンタクロースの絵が書いてある。モチーフがそれだけならかわいいものなのだが、なぜかその周囲には網やら武器やらがこまごまと描いてある。
 不穏なノートを中心に3人は作戦会議を始めた。
「まずはね、サンタクロースが来るのを待ったほうがいいと思うんだよね。12月24日の夜から次の日の朝までの間に来るのがわかってるわけだし」
「そうだなあ。ってことは、見張りが必要だな」
「寝ちゃうとダメだから、二人が起きて一人が寝る交代制で見張るといいと思う。それと、家に入ってきたときのワナだね」
「サンタさんは……煙突から入ってくるんだっけ」
 卯月がかわいらしく首をかしげる。
「うちの家には煙突はないから、玄関か窓から入ってくることになると思う」
「それだと入ってくる場所が多すぎないか? オレたち3人じゃ見張りきれないぞ」
 うん、と虎太郎は頷く。
「だから、家の入り口じゃなくてぼくらの部屋で待つのがいいと思う。それなら窓と部屋の入口からしか入ってこれないもんね」
「念のため、阻霊符も貼っておこうかな?」
「えー?! サンタさんは天魔じゃないよお!」
「いろんな家に入ってプレゼント置くんだぜ? 絶対透過能力くらい持ってるって!」
 龍彦の言葉に、卯月はそうかも、と頷く。
「起きてる二人で、それぞれ窓とドアで待ち構えて、入ってきたら網で捕まえるんだ。魚用の網が購買部で売ってたたから使えると思う」
「抵抗されたらどうしようか?」
「おじいちゃんだし、そんなに戦闘力はないんじゃない?」
「いやいやいや、みんな毎年捕まえようとして失敗してるんだぜ? 絶対何か変な能力持ってるって! 催眠波とか、目からサンタビーム出すとかさ!」
 龍彦の指摘に、虎太郎が考えこむ。
「そうだね……じゃあ、抵抗された時のために魔具を装備しておこうか。特別な攻撃をされたときの回復スキルがないのが困るけど」
「おう! オレが一撃で倒してやるぜ!」
 龍彦がどん、と胸をたたく。子どもながらにその様子はとても凛々しい。
「あとは逃げちゃった時だよね」
「そのときは卯月がトナカイさんのソリを撃って足止めするよ! この前やっと銃を支給してもらったの」
 えへへ、と卯月が笑う。
「卯月、油断するなよ? 相手はマッハで飛ぶトナカイだからな。一瞬でも遅れたら失敗だ」
「大丈夫、まかせて!」
「よし、この作戦でサンタを捕まえるぞ!」
 子どもたちは、おー、と元気よく掛け声をかけると楽しげに去っていった。
 しばらくして。
 すぐ近くで一人おやつを食べていた多々良千景 (jz0155) がのそのそと茂みから出てきた。
 たまには屋外で休憩でも、と思ってここに来ていたのだが、とんでもない話を聞いてしまったものである。
「絶対『サンタさん』の正体はご両親だよね……」
 こうしてはいられない、と千景は後片付けもそこそこに、斡旋所へ向かった。


●捕まえちゃだめー!
「子どものサンタ捕獲作戦をやめさせてほしいんだ」
 千景は、撃退士の面々を前に深々と溜息をついた。
 クリスマス恒例、子供のサンタ捕獲作戦。
 毎年どこの家でも行われるかわいらしいいたずらだ。
 千景自身も子どものころ、ベッド脇にブービートラップを仕掛けた覚えがある。
 だが、アウルの力を使ってそんなことをしたら大惨事だ。
「子どもたちは3人とも能力者で、学園で力の使い方を勉強しているところだ。もちろん、撃退士の資格を持っているくらいの子だから、一般人に力を使っちゃいけないってわかってる。でも……相手は『サンタさん』でしょ? 天魔なみに何をやっても死なないと思ってるみたいなんだよね」
 千景は彼らの無邪気なやり取りを思い返す。
 サンタビームって何だ。マッハのトナカイって何だ。
 トナカイがマッハで飛んだらプレゼント壊れそうなんだが。
「彼らのご両親は普通の人だから、子どもに能力全開で向かってこられたら確実に死ぬと思う。クリスマスの朝に惨殺事件っていうのは笑えないから、どうにか阻止してもらいたい。方法は何でもかまわないよ。中止でも、作戦変更でも、とにかくご両親が危険な目にあわなければそれでいい。あー……でも、クリスマス当日に家に侵入するのはナシかな」
 家族水入らずのところに、部外者が何人も来られては困るだろう。
 恋人との予定が入っているメンバーもいないわけではないだろうし。
 そうそう、最後にひとつだけ、と千景は付け加える。
「彼らの夢を守ることも忘れないであげてね。まだまだ夢が必要な小さな子どもなんだから」
 千景は、3人の簡単なプロフィールが記載された資料を全員にメールで送った。


リプレイ本文

●悲劇を止めて
 住宅地の一角にある、ごくごく普通の家の前に撃退士たちはやってきた。
 この家の3人の子どもが企てている『サンタ捕獲計画』なるものを止めるためである。
 子どもが不思議生物サンタさん会いたさにこっそり夜更かしする。それはよくある微笑ましい風景だが、子どもが撃退士だった場合はシャレにならない。
「長野や京都とは違うわね……願わくば、この平和が――え? サンタ捕獲? また懐かしいわね」
 学園近くの住宅街の平和さを見て、Wizard・暮居 凪(ja0503)は言った。学生時代のクリスマスを思い出して、自然に口もとが緩んでしまう。
「サンタ捕縛か。今時の子供は過激なことを考えるのだな」
 クリスマスがどういう行事かあまり理解していない飽くなき食への探求心・コンチェ (ja9628)が首をかしげる。一応簡単な説明を受けたが、いまいちピンときていないようだ。
(サンタというのはどういう人物なのだろうか? 子供の親が正体と聞いたが……何はともあれ、子供達に捕縛をやめさせれば良いのだろうが)
「まずは二手に別れるのよね。とりあえずうちは裏方として立ち回って皆の意見に沿い、流れを阻害せず邪魔にならないようにして、目的達成に密かに邁進するわよ」
 今回は説得に加えてサンタショーでわかりやすく『サンタさんに暴力はいけない』と教える予定だ。猫になった・高虎 寧(ja0416)の言葉に皆頷く。
 撃退士・坂本 小白(jb2278)がショーの準備リストに目を落とした。
「人命のかかった依頼ですので尽力させていただきます。決してヒーローショーをやるのが楽しいとか、そういうことではありませんからっ」
 と言いつつも、ヒーローショーの会場手配などに一番力をいれていたのは彼女だったりする。年長者に微笑ましく見守られながら、小白たちショー運営組は一足先に会場へと向かった。
「まずはご両親への説明ですね」
 ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)がドアの前に立つ。
 年上の人間が何人もやってきて、子どもに話しかけたりどこかに連れだそうとしたら大騒ぎになってしまうからだ。
「説得のためにも、できるだけ長く子どもと話したいですね」
 撃退士・クリフ・ロジャーズ(jb2560)が気遣わしげに玄関を見やる。何故子どもたちがサンタをつかまえたいのかが気になっているようだ。
「子どもの相手はまかせてくれ」
 恋人と繋ぐ左手・カルム・カーセス(ja0429)がニカっと笑う。
 3人はインターフォンを押した。

●訪問者
「はい、どなた?」
 来客の対応にでてきた両親はいぶかしげに歌音とカルムを見た。
 それもそうだろう。彼らと子どもたちには撃退士以外の接点はない。歌音は手短に来訪の意図を説明した。
「まあ……あの子たちがそんなことを?」
 天魔以外のものに武器を向けようとしたことを聞いて、両親の表情が曇る。歌音があわててフォローをいれた。
「計画を聞いた仲間によると、子どもたちに悪意はないようです。撃退士として魔具・アウルを扱う事は他人を護る力を持ったという誇りです。……ただ、まだ子供なだけ。心が未成熟なだけなので、未来の芽を摘むのはどうかやめて頂きたい」
 そう言うと、母親が苦笑する。
「大丈夫、撃退士をやめろとは言いませんよ。そんなことに武器を使っちゃいけません、ってお尻を叩いちゃおうかとは思いましたけど」
 両親はおおらかに笑っている。さすがに三人もの子どもを久遠ヶ原に通わせるだけのことはある。
「子供達とサンタの事についてたくさん話したいので、交流する時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
 クリフが言うと、両親は快く頷いてくれた。
「おとーさん、おかーさん、何やってるの?」
 玄関で長話をしていたせいだろう。子どもたちが気になって玄関までやってきた。「お兄さんたちがね、遊びにきてくれたんだよ」
 父親に紹介されたことで、子どもたちが警戒をとく。
 カルムはしゃがむと彼らに目線をあわせた。
「よう。俺はカルムってんだ、よろしくな? お前たちなんか面白そうな事やるんだって? 俺も仲間に入れてくれ。捕縛スキルあるから役に立つぜ」
 いきなり捕獲計画のことを持ちだされて龍彦が目を丸くする。
「なんで知ってるんだよ?」
「俺は魔法使いだから何でも知ってるんだ」
 にやりと笑いかけると、子どもたちはひるむ。
「どうしよっか?」
 龍彦が虎太郎を見る。じーっとカルムを見た後に虎太郎は頷いた。
「カルムも撃退士みたいだし、いいんじゃない?」
「よし、じゃあお前も仲間な!」
 クリフと歌音も仲間にいれて、と言うと3人はこくこくと頷いた。カルムは末っ子の卯月を肩車すると立ち上がる。
「よーし、それじゃあみんなで遊びにいこうか」
「遊びに? どこいくの?」
「んー、楽しいとこだぞー」
 内緒、と子どもたちに言いつつクリフがこっそり両親に行き先を告げる。もちろん、他のメンバーが用意しているサンタショーの会場へ行くのだ。
「一緒に遊んだりお菓子を食べたりしながら、それとなくサンタ捕獲の理由などを聞けたらと思うのですが。いかがでしょう?」
 そういうことなら、と彼らは連れ立って家を後にした。


●楽しいショーを始めるよ
 一方、イベント会場では仲間たちが着々と準備をしていた。
「俺は、サンタ役で参加させてもううじゃん」
 撃退士・白崎 柚樹葉(jb1644)が楽しげにサンタ衣装に着替えている。
「赤いサンタ風の服を着て、付け髭をつけてサンタ完成ーって、子供たちのイメージするサンタって、これであってるかな? 俺は、これしか思いつかなかったけどどっかの国では、サンタは緑色って聞いたことがあるような……。まぁ、ここは日本だし、きっと、子供たちも赤いサンタをイメージしてるよな!」
「ええ、その格好でいいと思います」
 話をふられて、小白は頷く。
 と、同時に彼女の脳裏に苦い思い出がよぎった。
(サンタクロース、ですか……私も信じていた時期がありました。嫌な思い出です)
 いないと分かってショックを受けたのはまだ良いとして、家族に信じていた頃の話を蒸し返され、笑われるのが癪に障る。彼女にとってはとんだ黒歴史だ。
(……思い出したら、また腹が立ってきました。依頼が無事に終わったら実家に電話でもかけてみましょうか)
 恨み言のひとつでも言ったほうがいいかもしれない。
「これはあくまで文句を言うためであって、声を聞きたいとかじゃないですから」
「何が?」
 最後のセリフを思わず口に出していたらしい。柚樹葉に聞き返されて、小白の顔が真っ赤になった。
「いいいいや、何でもないですっ!」
「子どもたちが来たみたいよ」
 タイミングよく連絡係の寧が声をかけた。小白は気を取り直して準備にとりかかる。 幕を開けると、柚樹葉が元気よく舞台の上に登場した。

●サンタさんが大変だ!
「メリークリスマース!!」
 柚樹葉が声をかけると、子どもたちの元気な声が返ってきた。
 事前に小白や他のメンバーが宣伝していたおかげで、思った以上にお客が来ている。最前列には撃退士と一緒に3兄弟の姿がある。
「みんないい子にしてるかなー? サンタさんは、一年いい子にしてた子にプレゼントをあげるつもりだよ?」
「今はくれないの?」
 こまっしゃくれた虎太郎の言葉に、柚樹葉は余裕の笑顔を返した。
「ふっふっふ、クリスマス・イブまではおあずけだよ? とびっきりのプレゼントを用意してるから、楽しみにしててね。でも……悪い子には……」
「サンタ、覚悟!!」
 柚樹葉の言葉を切るようにして、黒い衣装を着たコンチェが現れた。
「我はサンタを抹殺すべくやってきた悪の使者! 邪魔するものは誰であろうと容赦しない!」
「な、何ぃー!」
 わたわたとわざとらしく慌てる柚樹葉に近づくと、コンチェはプレゼントの袋を鷲掴みにする。
「うわっ!?このままじゃプレゼント配れないじゃん! プレゼントが悪者に独り占めされてしまう! これを楽しみに思っている沢山の子がいるのに……」
 サンタさんをはなせー! と子どもたちが口々にヤジを飛ばす。
「……だ、誰か、助けてくれー!」
「ふはははは、助けなど来ないぞ!」
 二人でノリノリで掛け合いをしているところに、大きな爆発音が響いた。
「聖ニコラウスの名において――」
 スポットライトを浴びながらヒーロー役の凪が現れる。白銀の鎧をまとった彼女はまさしく守護天使といった風情だ。
「良い子にはプレゼントを。悪い子には――」
 言うが早いか、彼女の手からきらきらと光る糸が繰り出される。糸はあっという間にコンチェをからめとった。
「……くっ!」
「お仕置きよ。覚悟はできているかしら?」
「うわあああああっ」
 ぴん、と糸が引き絞られるとコンチェが苦しそうに絶叫した。そのまま舞台袖へと退場する。
「あ、ありがとう! 助かったよ!!」
「どういたしまして……あら。おかしいわね。このあたりに未だいたような気がするんだけれど。君たち、悪い子、知ってる?」
 わざと3兄弟に声をかけると、全員ぶんぶんと顔を横に振った。
「そう、他のところを探しに行かないといけないわね。もし見つけたらおしえてね?」 ウィンクひとつ残して、凪は退場した。
 一人残された柚樹葉が腰を落として観客全員に向き合った。
「そこの君達! 龍彦君、虎太郎君、卯月ちゃん、だったかな」
 いきなり名指しで声をかけられて、3人は目を丸くした。
「どうして、名前を知っているかって……? ふふん、サンタサンはなんでもお見通しなんだよ。だから良い子にしてたら、必ず、サンタサンがプレゼントをあげるから、ベッドの中で安心して待っててな。あと、お父さんとお母さんの言う事はよく聞くように! 悪い子にはサンタサン、プレゼントあげられないからなー」
 悪い子がどうなってしまうのか、それは今目の前で見せられたところである。
 3人は素直に頷いた。
 この様子なら、クリスマス当日にサンタに危害を加えようとはしないだろう。
 見守っていた撃退士たちは一様にほっと息をつく。
「子供は夢をたくさん食らって育っていけってどっかの誰かが言ってたし、うまく行くといいね」
 仲良く家へと帰っていく家族を見送りながら、クリフが言う。
 そのとおりだ、と撃退士たちは頷いた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: ドリームガーディアン・坂本 小白(jb2278)
重体: −
面白かった!:8人

先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
My Sweetie・
カルム・カーセス(ja0429)

大学部7年273組 男 ダアト
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
元 海峰(ja9628)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
白崎 柚樹葉(jb1644)

大学部3年323組 男 バハムートテイマー
ドリームガーディアン・
坂本 小白(jb2278)

大学部1年137組 女 バハムートテイマー
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー