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「最近の空港は、土産処だけではなく色んな施設があるんだな」
敵を捜索する紫鷹(
jb0224)の目に、様々な施設が飛び込んでくる。
食事処に本屋に薬屋、マッサージやシャワールームに、簡易ホテル…。それはまるで小さな町の様だ。
「仙台の人々の不安を解消してあげなきゃ…その為にもスーパーイケメンヒーロー事ユッキーの出番だぜぃ☆」
一つずつ施設を見て回る藤井 雪彦(
jb4731)は余裕綽々の爽やかスマイル。そんな彼も、依頼内容を確認した直後は驚いていたものだ。
「サーバント討伐8体…Σ!?」
(これ兄貴入ってね?)
大丈夫。例え敵が何体だったとしても、皆の助作に対する行動に差異は無かった筈さ(朗らか。
さ、話を進めようじゃないか。
程無くして、一行は目的の姿を発見。
「あっ…、権瓦原先輩…おかえりなさい…!」
久々の想い人との再会に、桜花 凛音(
ja5414)の声が思わず嬉しさに滲む。
「桜花ちゃん、それに皆も…。久しぶりだな」
図らずも見知った顔が並ぶ状況に、助作が思わず目頭を押さえた。
「ひょっとして…オ、オレサマを迎えに来てくれたのか?」
感激にうち震え、男泣きするアラサー♂。長い海外生活の果てに、久々に知った顔を見たのだ。安堵する気持ちは天の声もよくわかる。よくわかるぞぉ!
だが、喜びのあまり天魔の存在を忘れてしまっては困る。と言うわけで、大谷 知夏(
ja0041)が依頼内容を説明してくれた。
「助作先輩が実は八つ子で、空港で暴れていると耳にして来たっすよ!」
あながち間違えとは言い切れないところが恐ろしい。
「あ、兄貴に隠し子が8人だとぉっ!?」
って、どーしてそーなった、ユッキー!
「せ、先輩が中国で隠し妻で、隠し子!?」
凛音ちゃん、落ち着いて!
「ほぉ? 暫く見ないうちに随分とご立派になったものだな」
紫鷹ちゃん、にこやかに刀抜かないで!
にわかに色めき立つ権瓦原ご一行様である。
結局、助作が中国に行っていた理由(実家の建設会社の海外展開に伴う荒事解決の為)を説明したところで、誤解は瞬く間に沈静化。
「つまり、助作先輩の姿を最近見ないと思ったら…」
みくず(
jb2654)が顎に手を当て、大きく頷いた。
「中華料理の修行してたんだね!」
どーしてそーなったPart2!
「今度修行の成果を味わわせてね、先輩!」
嬉しそうに狐の様な尻尾をパタパタする食欲の権化。絶句する助作。おもむろにノートを開く天の声。
『中国で料理に目覚める。武器は中華鍋に変更』
助作に新たな設定が加わった!
●
皆が助作と交流する中、藍 星露(
ja5127)は哀愁を漂わせながら、一人窓の外へと視線を向けていた。
その横顔はどこか儚く、美しい。
(……権瓦原さん、中国行ってきたの? ああ……それが何か、変な縁に繋がったんだ…)
アハハハ…と、日中ハーフの美少女が乾いた笑いを溢す。
生理的に助作と言う存在を受け入れ難い彼女の胸中では、今、依頼への責任感と助作への拒絶反応が激しく鬩ぎ合っている。無論、どちらが優勢かなんて言うまでもない。
だが時は彼女の結論を待ってなどくれない。
ごろーんごろーん。
さぁ、助作印の肉達磨がご登場だ。
「何処かの誰かさんと似ているな……」
その顔を見た途端、眉間を押さえる紫鷹。
眼鏡を忘れた彼女の視界はかなりぼんやりしてるはずだが、きっと匂いや気配やアレな感じで似ている事を察したに違いない。
「…あれ? 兄貴!? 敵? 兄貴? …いあ…顔だけ真似てんのね…ゆ る さ ん!!」
雪彦は一瞬困惑するも、辛うじて本物の助作と偽物を判別。その隣では、想い人と同じ顔をした天魔に、凛音が複雑な表情を浮かべていた。
「先輩を模したサーバントが多数いるんでしたね…」
模したと言うか、模し損ねたと言うか、より酷くなったと言うか…。今なら助作がカッコよく見えるかもしれません☆
星露は相変わらず虚ろな瞳で、ブツブツと呟きながらバステ対策の聖なる刻印を発動。
(…せめて一刻も早く倒して帰ろう…)
ついでに逃亡用の縮地も発動する辺り、何だかんだと彼女は大丈夫そうである。
「オレサマの成長した姿を見せてくれる!」
助作が中華鍋を構えれば、闇の翼を広げたみくずがキラキラと瞳を輝かせた。
「それで天魔をおいしく料理しちゃうんだね!」
※天魔は料理したり食べたりする生物ではありません
「後方支援と周囲への警戒は任せるっすよ!」
知夏の声を皮切りに、戦闘開始。
「行くぞ! 我が友よ!」
勇ましく突貫する助作。その背を見送る雪彦。
「あ、俺はやることあるんで☆」
つれない友人は女性陣に輪を作ってもらうと、その中心で韋駄天を発動。
「有利になるからだからね? 女の子に囲まれたくてやってるんじゃないからねっ?」
雪彦がプチハーレム状態を楽しむ傍らで、凛音が注意を呼び掛ける。
「汗を踏まないように気をつけましょう」
肉達磨の脂汗は滑り易い為だ。ならばと、凛音、紫鷹、雪彦、みくずが一斉にバステ攻撃。
あっと言う間に、脂汗滴る肉の彫像が完成した。
ここから遠距離集中砲火を浴びせるかと思いきや、何故か滑る危険を冒して凛音が肉達磨に接近。
「これで脂汗消えないでしょうか?」
油汚れ用洗剤を肉達磨に振りかけてゆく。
ぱしゃぱしゃぱしゃ…つるっ!
案の定、滑った凛音の身体が宙を泳いだ。
いたいけな少女が脂まみれのピンチ!
「先輩、出番っすよ!」
どーんっ!
知夏に背中を押され、腹這いで脂汗地獄を滑ってゆく助作。
しゅーーーっ、ぼよん。
「きゃっ!」
見事な背面キャッチ。そのまま二人は無事に脂汗地獄から脱出した。
「汚れ役は俺だけで十分さ☆」
多分、これが脂汗まみれなアラサー♂の今日一番カッコいい場面だ☆
けれど恋心に恥じらう凛音は、助作を直視できずに視線を逸らしてしまう。
そんな彼女の態度に、助作は思考した。
(あんなに顔を赤らめて、そわそわして…どうしたと言うのだ? はっ!? もしや!?)
「便(ピー)か!?」
そこだけ声に出してしまう辺り、流石である。天の声が咄嗟に伏せ字にしてなかったら、今頃幻滅されていた事だろう。間一髪であっる。
とは言え、そのあんまりな反応に、凛音の想いを知るみくずは呆れ顔だ。
(助作先輩、鈍すぎだよ…)
※恋愛経験皆無な助作くんに、恋愛の機微を期待してはいけません。
おっと、そろそろ戦いに視点を戻そう。
「体重を落とせ!自炊しろ!ジュースも飲むな!」
何か嫌な思い出が脳裏を過ぎったのか、やたらと力の入った紫鷹が火遁・火蛇を発動。
脂汗に引火した炎が、一気に肉達磨を火の渦に包み込んだ。
「バーベキューみたいだよね!」
香ばしい匂い立ち込める光景にみくずが口元に涎を滴らせる。
「今年花火やってなかったなぁ〜」
雪彦は寂しそうに夏空を見上げながら、持参した花火を次々と点火。色とりどりの花火と脂汗が、炎の中で夏の終わりを告げていた。
●
一瞬、終わりの様な気配が漂ったが、まだ一体目の敵を撃破しただけである。
続いての敵は、常時注目効果を帯びるチビ助だ。
「正統派のキモカワってやつっすね!」
「最近映画になった奴もこんな感じなのか?」
「先輩の子供の頃ってこんな風に可愛かったのでしょうか」
「前に見た写真ではあんなんじゃなかったはずだよ?」
「…………(目を離せないことに絶望中)」
チビ助に釘付けになる一行。だがその強力な能力には、徐々に相手をイラつかせる副作用があった。
「ん〜ふっつーうに、イラッ☆彡」
雪彦がイラつきに任せて攻撃するが、イライラは手元を狂わせてなかなか当たらない。
「後ろに回り込めば…」
顔が見えなくなった凛音は注目効果から離脱。冷静に魔法攻撃を背中へと叩き込む。そこへ素早い正剣突きで紫鷹がツッコミ、もとい追撃。
「笑い方を改善しろ! 怖いぞ!」
やたらと気合いの入った一撃は、見事チビ助を撃破した。
戦いは続く。
「発見したっすよ!」
次に遭遇したのは、点々と続く鼻血の跡を追った先にいた鼻眼鏡。
「きっさま〜兄貴に眼鏡属性なんてねぇ〜んだよ!!侮辱しやがって!」
鼻眼鏡の能力は『魔装すら透過する視線』。つまりはスケベ能力であり、その好みは美形ならば男女問われない。
「ん? 何鼻血だしてんの?」
イケメンのアレやコレやを透過して鼻血大噴火する姿に、雪彦の思春期な直感がその能力を瞬時に理解。
「…それって漢の浪漫系?」
「先輩、凛音ちゃんを隠して!」
雪彦の言葉にピーンと来たみくずは慌てて助作を促し、凛音をその巨体で覆い隠す。
みくず自身はもふもふ尻尾で大事なところをガード。確かに尻尾は服じゃないから透過できないが、これはこれでエロチックな気も…。
一方、知夏は特に何をするでもなく、着ぐるみのまま鼻眼鏡の視界を塞いでいた。
よし、これならばっ……って、魔装Lv18!? 透過能力の設定はLv15…見えないorz。
「ちょっと、そのメガネよ〜こ〜せ〜よ〜!!」
その間に雪彦が式神・縛を発動し、鼻眼鏡の眼鏡を奪おうと組み付いた。
そこへ紫鷹が急接近すると、雪彦を巻き添えに手にした鬼火をフルスイング。
「いい加減、色眼鏡で周りを見るのをやめんかぁあ!!」
ホームランです☆
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順調に敵を撃破する中、突然知夏が後ずさった。
「……実は、本物だと思っている先輩も、偽物だったりする可能性が!?」
確かに敵は姿を模す天魔。安易に本物と信じ込むのは危険だろう(キリッ
「兄貴の真似したサーバントだとぅ? 簡単に真似できると思うなよっ!?」
雪彦が助作に向かって指を突きつける。疑いがある以上、その真偽を確かめる事は重要だ(ウムウム
「本物の見分け方、なぁ……殴って喜んだら本物じゃ無いか?」
わざとらしく素振りを始める紫鷹。『つい』うっかり眼鏡を忘れてきたらしいが、多分ハッキリ見えててもやる事はあまり変わりない筈だ(こくり
「お、落ち着くんだっ」
思わぬ事態に軽くパニくる助作。
「先輩が偽者なわけないです!」
本物と信じる凛音。
「中華って言えば、満漢全席だよね!」
まだ見ぬ料理に想いを馳せるみくず。
(帰 り た い☆)
もはや精神的に死に体な星露。
仲間割れか!
そう思われた時、残るサーバントたちがボスと認識する助作のピンチに駆けつけた。
囮作戦成功☆
敵を誘き寄せる為、わざと助作に迫っていたのだ。………だよね?
「助作先輩!生首に負けないように、先輩も光輝いて突撃っすよ!」
生首の能力に対抗させるべく、ぐいぐいと助作の背を後押しする知夏。
片や、紫鷹は色々と鬱憤をはらすかの様に大奮闘。
「折角の家電を無駄にするな!家事をしろ!栄養を考えろ!あのマッチョの方がまだマシだ!そもそも女装とかキモ過ぎる!もっと男らしくせんかぁぁ!」
武器の矛先は天魔たちなのに、言葉の矛先が助作に向かっているのはきっと気のせいだろう。
「顔だけと言っても、尊敬する兄貴と似てるなんてヤリにくいなぁ〜もぉ〜ふっふっふっふ〜☆」
「肉を切らせて骨を断つってこういうことだよね?」
雪彦とみくずの攻撃は時折助作に誤爆しちゃっているが、顔は凄い似ているのだから誤爆も仕方ない。
あれもこれもすべて、ご愛敬というものである。
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「星露ちゃん先輩、後ろっすよ!」
不意に知夏が叫んだ。彼女の足元ではダウジングをするウサギさんが敵の位置を指し示している。
慌てて振り向けば、常時潜行で接近していたガリ助が一歩早く星露に向かってル○ンダイブ。
「%☆▼※○!?」
声にならない悲鳴を上げる星露。と同時に、ガリ助を即興曲・ワイバーンの一蹴。
そして、
ぷつーん。
何かが切れた音。
「この中で戦って、最後まで勝ち残った奴にパフパフしてあげるわ!」
突如、豊満な胸を両腕で抱き締め、前屈みで谷間を強調し始める隠れ人妻。
\星露さん、ご乱心!/
更には、忍法『友達汁』を発動。それもこれも敵の同士討ちを誘おうという魂胆であり、決して極限まで追い詰められて痴女に目覚めたわけではない。
そんな彼女の行為は、何よりもこの者たちに効果を発揮していた。
「雪彦ぉ! わかるなぁっ!(ドーン!」
「兄貴ィ! 合点承知ぃっ!(キリッ☆」
『最後まで勝ち残った奴』に、自分達も含まれていると解釈した様だ。
「「うおおぉぉ!!」」
煩悩の前に、蹴散らされてゆくサーバントたちが不憫でならない。
●
こうして敵を殲滅したわけだが、まだ戦いは終わっていない。
「親友と書いてライバルと読む。わかるな、雪彦よ…」
「いくら兄貴とは言え……ここは譲れない」
睨み合う二人のバカ、もとい♂たち。
「「あのおっぱいは、オレのものだぁぁぁ!!」」
パフパフを懸けて、延長戦開始!
「男には退けぬときがあるのだっ!(キリッ」
「兄貴…今までお世話になりましたっ!(涙☆」
そんな二人に目を向ける紫鷹の顔は、まるで菩薩の如く。
「たまに弾けるとスッキリするからな……」
色々発散して賢者タイムを迎えた紫鷹には、二人はじゃれ合う猿にしか見えていない。
知夏は二人の戦いを観戦しつつ、女性陣の傷を癒して回っていた。
「先輩、中国ではどんなご活躍をしたのか、後でゆっくり聞かせて下さいっすよ?」
一方、真剣な眼差しの助作を見つめながら、凛音は複雑な表情を浮かべていた。
(どうしましょう…自分の気持ちに気づいてしまったけれど…先輩と私じゃ年の差がありすぎますよね…この気持ち、どうしたらいいの…?)
うん、いま気にすべきは年齢じゃないと思うんだ☆
ぱふぱふぅぅ!(ぐわしぃ
おっぱいぃぃ!(ばきぃ
「10歳以上の歳の差なんてよく見かけるっすよ!」
「でもこんな子供にアプローチされても、先輩の迷惑になるかも…」
「そんなことないよっ! 嬉しいに決まってるよ!」
恋に想い悩む凛音を取り囲み、女性陣の間で始まる恋愛相談。尚、相手が助作と気付いているかどうかは定かではない。
「このまま二度目も…私は…」
「凛音ちゃんから積極的にアプローチしないとだよ! 先輩、スッゴい鈍チンだもん!」
「恋愛…はよくわからないが、がむしゃらにならなければ手にできないものは、ある…と思う」
あれは動機が不純だがな、と紫鷹が背後に目を向れば、漢たちの死闘が終わりを迎えようとしていた。
「成長…したな、雪彦よ…」
「兄貴も、意外と、やるじゃん☆」
「疲れたら知夏が回復させてあげるっすよ!」
………様な気がしただけだった。
その頃、星藍は―――。
(ああ……あたし本当に、何でこの依頼に参加したんだろう?)
空港の屋上で天を仰いでいた。
斜陽の中、涙で頬濡らす横顔が美しい。
(すべて夢だったのよ…)
現実逃避を始めた星露に、天の声は素敵な言葉を送ろうと思う。
【嫌よ嫌よも好きのうち】
「それだけはないわーーっ!!」
星露、絶叫。
何はともあれ、帰還した助作を今後も宜しくお願いしたい天の声なのでありました。