●少女、疾走
「はぁ、はぁ、はぁ…」
鏡国川 煌爛々(jz0265)は駆けていた。木々を避け、茂みを飛び越え、そして―――、
ガンっ!
「いったー! ですし!」
時に大木へと真正面からぶつかりながらも、その足は止まることはない。
目的地は仙台市泉区の郊外。そこには今、彼女の主がいる。根暗で、嫌みったらしく、女心のわからない、ぼっちの、天使フェッチーノが。
決して主のことが好きなわけではない。けれど、本能か、虫の知らせか。『いま会いに行かなければ』と、急かすもう一人の自分がいる。
モヤモヤと燻る胸中に過る、最後に見た主の顔。
「ゴシュジンサマ……っ!」
不吉な予感。突き動かされる衝動。言い様の無い焦燥。だから、彼女は―――、
ゴンッ!
「ええぃ! 邪魔ですしー!!」
太い枝を力任せにへし折り、ひた走る。闇雲に、全力で、透過能力の使用を思い至る事も無く。少女の足は森林を駆け抜けていく。
●臨戦、かける想い
彼方の空に広がる無数の羽ばたき。黒き翼は凶事を告げる鴉の如く。風を下僕に置いた扇を手に、赤鼻の天狗たちが迫り来る。
視線を下ろせば、大地を舞う砂煙。足元震わす獰猛な地鳴りは木々を揺らし。黒と茶褐色の鬼蜘蛛たちが、波の様にうねり、蠢き、押し寄せる。
その波間に目を凝らせば、現れては隠れる無数の灯火。純白の修道服に身を包む聖女たちは、燭台を手に祈りを捧げ。柔らかな微笑みで、請い願う。
すなわち、恐怖と。災禍と。暴力と。惨劇と。辛苦と。悪夢と。
天を劈き、地に叫声を走らせ、鳥海山の従者たちが進撃の勢いが増す。
仙台の人々へと存在を誇示する様に、眼前に立ち塞がる者たちを威嚇する様に。
―――戦いの幕開けが、迫っていた。
「きゃはァ、獲物がいっぱいィ…喰らいきれるかしらねェ…♪」
ビリビリと肌に突き刺す圧力を心地好く感じながら、空を駆る黒百合(
ja0422)が無邪気に笑う。
悪戯を始める子供の様に。曇りの無い輝きを湛えた瞳が、特注のスナイパーライフルへとアウルの弾丸を込める。
傍らで翼を並べるナナシ(
jb3008)は、対照的に鋭い視線を眼下に向けていた。
幼い外見とは裏腹の険しい表情は、戦士のそれを彷彿とさせる。
「数が多いのでチマチマ攻撃しても終わらないわね」
ざっと数えただけでも、敵の総勢は50体を超えている。対して、撃退士たちの数は50に満たない。
数の上での劣勢に、パルプンティ(
jb2761)の二本の角がクネクネと忙しなく動いた。
「はわわっ、サーバントだらけですよーぅ」
突発的な緊急事態、更には静岡の激戦直後と言うことも相まって、一時は交戦すら危ぶまれた程に人手が不足。
それでも撃退士通しの繋がりや呼び掛けによって、最終的には何とか渡り合える人数が参集した。
が、それでも厳しい戦いになる事は変わらない。何しろ、この戦の目的は『防衛』。敵を突破させない事が肝となる難しい戦いだ。
「……手空き中なので、戦場の隅っこで良ければお手伝いしますよ?」
パルプンティがおずおずと手を上げれば、漂う不安を消し飛ばすように猛々しい声が響く。
「はっ! 何十、何百いようが関係ねえな。敵は喰い千切る。それだけだ」
赤坂白秋(
ja7030)の手が荒々しく銃を握り、不適な笑みを。
「そうさ。数が多ければいいってもんじゃない!」
白秋の言葉に重ね、佐藤 としお(
ja2489)が声を大にして気勢をあげる。
「連携してこそ力を発揮する。僕達はそうして天魔に打ち勝って来たんだ!!」
個で戦うでも数で戦うでも無い。仲間と共に心を一つにして戦ってきたからこそ、強大な天魔を相手にこれまで戦い抜いてきた。
それは有象無象の輩では持ち得ない、掛けがえの無い撃退士たちの『武器』。
「僕達を……あんまりナメるなっ!」
重体の身体を押して吼えるとしおの言葉に、結城 馨(
ja0037)が頷く
「そうです。数や力だけで優劣は決まりません」
情報もまた、戦況を左右する要素の一つ。
馨は最後方にて、仲間より上げられた敵の情報を整理、編成や侵攻ルートを分析していた。
彼女の下には、次々と戦場に立つ仲間たちから新たな情報が送られてくる。
「敵の隊列はほぼ横一列。均等に戦力を分散させていますね」
限界高度まで上昇したヴェス・ペーラ(
jb2743)は眼下を一望すると、確認できた敵情報をメールで一斉通達。
対して、舞鶴 鞠萌(
jb5724)は上空を旋回しつつ、敵の隅々まで観察して回っていた。
「鞠萌、いっきま〜す、にゃ♪」
空から俯瞰して改めて実感する敵の戦力。
撃退士たちは少人数ごとに小隊を組むことで、戦況に応じた柔軟な対応と迅速な相互支援を行えるようにする算段だ。
しかし、守勢に回っているだけでは数の不利を覆す事が難しい。
となれば、戦況を覆す一手が必要。どこかで攻勢に出る為の一手が。
その役目を主として担うのが、【帝国】のメンバーだ。
これだけの規模の襲撃。おまけにサーバントたちが組織立った動きを見せている事実を踏まえれば、全体を統率する者がいる事は明白。
故に、その目的は『指揮官の討伐』に他ならない。
「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!」
不意に戦慄の表情を浮かべたのは、【帝国】最年長(人間換算)の矢野 古代(
jb1679)。
その背後では、重体の身である矢野 胡桃(
ja2617)がにこにこと。
「……父さん?」
敢えて大きな音を立てて構えられたスナイパーライフル。
「冗談はさておき――出来る事をやろう、普段通りだ」
「最初からやってよね!」
『娘に小突かれる父』の写真をこっそりと愛用のタブレットPCに収めながら、ドラグレイ・ミストダスト(
ja0664)はメンバーの様子を書き認めていた。
「出来れば凱旋記事が書きたいですね♪」
大役を担いながらもいつも通りの振る舞いを見せるメンバーたちを前に、ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)は確かな予感を手に。
「ボクたちの力、見せてやろうじゃない♪」
意気軒昂な【帝国】に対し、肩を並べる【円卓】は粛々と。
「今回は、どうなることかしらね」
魔装を活性化し、戦乙女と化した暮居 凪(
ja0503)。その背を追い越し、新井司(
ja6034)が前へと進み出た。
「どうもこうもないわ。ただ、やるだけよ」
蒼光のアウルを身に纏い、真っ直ぐな意志宿す双眸に燃える様な輝きが揺らめく。
「この布陣。指揮官は上に立つ者の器ではないな。我が君もいささか破天荒な所はあるが、少なくとも憶病ではない」
戸蔵 悠市(
jb5251)の言葉に、不敵な笑みを零したのはフィオナ・ボールドウィン(
ja2611)。
「破天荒とは言ってくれるな。だが、こんな事態にこそ、前に立つのが王の星の下に生まれた我の務めであろう」
余裕を見せる背中に目を細めながら、スレイプニルを召喚した悠市が横に並ぶ。
「ご一緒させて頂きましょう、我が君」
【帝国】を挟んで【円卓】の反対側では、【対聖女】のメンバーが只野黒子(
ja0049)の提案に耳を傾けていた。
「聖女は回復能力を有していますか。ならば、早々に倒したいところです」
「うん。広く削るより、数を減らす事が重要だよね」
左半身に呪術的な模様の痣が浮かび上がらせながら、那斬 キクカ(
jb8333)が黒子の言葉に同意を見せる。
「ここを突破されるのは何としても防がないといけませんよね」
鑑夜 翠月(
jb0681)は穏やかな雰囲気の中に『守り』の意志を滲ませ、静かに魔力を練り上げてゆく。
その傍らでは、オブリオ・M・ファンタズマ(
jb7188)が一人、敵軍の先を見据えていた。
「この感じは……」
ケープマントの襟で口元を覆いつつ、何かを感じ取った視線が冷徹に染まりゆく。
「そろそろ終わらせましょうか。こんな茶番は、そろそろ幕を引くべきです」
敵軍の接近に、次々と魔具を構え始める撃退士たち。
そんな中、敵の進軍阻止に名乗り出た香具山 燎(
ja9673)はバックラーを活性化。
「ここを通すわけにはいかない以上、ここで止めせてもらうぞ!」
張り詰めてゆく緊張感すら盾とする気構えで、最前列へと並び出る。
その一方で。
クインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)は緊張感など何処吹く風と、眼鏡の曇りを丁寧に拭き取り。
「やあ、沢山来たものだね。僕の眼鏡の輝きが引きつけてしまうのかな」
自信に満ちた笑みと、身体に巻き付く梵字状の銀色アウルが、輝くレンズに映り込んだ。
「……ここが仙台の戦場……やる事…同じ……殺し尽くす……」
小柄な少女もまた戦場に。紅香 忍(
jb7811)が静かに光纏すれば、全身に浮かび上がった赤黒い蛇が巻きついたような痣。
戦力不足を理由に種子島より急遽派遣されてきた少女は、場所は変われど為すべき事に違いは無いと、天使の名を冠した拳銃を強く握り締める。
「とにかく町を守らなきゃな!」
花菱 彪臥(
ja4610)の想いはシンプルに。
背後に広がる町は人の記憶の在り処。誰かの想い出が刻まれた誰かの町。
それだけで守る理由としては十分。
オレンジ色の火花の如き、全身から弾けるアウルが未来を照らすべく明るく輝く。
「前衛と後衛の間隔だけでなく、周りの小隊との距離感にも注意して下さい」
最後の情報が馨より伝達され、最後の準備を整える藤井 雪彦(
jb4731)と川澄文歌(
jb7507)。
「【帝国】のみんな、ボクの近くに集まって」
「韋駄天をかけますので、突入する方は私の傍に寄って頂けますでしょうか?」
脚に、翼に、風神の力を纏い。機先を制して勢いを奪うのだと、撃退士たちが深く身構える。
あちこちで臨戦態勢に入る者たちを横目に、戒 龍雲(
jb6175)もまた周囲の者たちに風のアウルを付与。
(俺は自身の使命を果たす、ただそれだけ。その為にここにきてるからね)
尤も、使命を果たす為には負けるわけにはいかないと、この戦いにかける意気込みは皆と何ら変わらない。
「負ける訳にはいかねえ…一匹も通すなッ! 狩り尽くすぞッ!」
「ああ! 俺たちが力を合わせれば、必ず敵を止めることができる。仙台の街を守りきろう!」
最後に、金鞍 馬頭鬼(
ja2735)と宇高 大智(
ja4262)の力強い鼓舞が戦場に響き渡り。
―――今、戦いの火蓋が切って落とされる。
●機先を制し
戦いにおいて大事な要素は幾つもある。単純な力、戦術、士気、駆け引き、時の運、etc。
中でも、この戦で必要となるもの。その一つは、おそらく『勢い』。もしくは、流れ、と言い換えてもいい。
数に勝るサーバントたちの圧力に屈さず、退かず、飲み込まれない為の力。
『勢い』を制する為に、撃退士が機先を制しに動き出した。
「突破できるもんなら突破してみせなさい!!」
稲葉 奈津(
jb5860)が黒き光の衝撃波を撃ち放ち、
「フフンっ☆ 所詮は有象無象、ヴィルギニアが指揮してるワケじゃないんだっ♪ さっさと片付けちゃおうぜ」
傍らでは、雪彦が飄々と大太刀を薙ぎ、
「機先を制するものは、戦いを制す、ってね☆」
全身から赤黒い闘気を噴き出したジェラルドが煌めく金属糸を閃かせ、
「意地でも防いで、逆に押し切ります!」
Rehni Nam(
ja5283)が無数の彗星群を撃ち落とし、戦場の一端が轟音で弾け飛ぶ。
開戦一番、戦場の中央で【帝国】の四人が吼えた。
その目的は派手に暴れて、陰に隠れている指揮官を引きずり出す事。言い換えれば、囮となって敵を引き付ける事でもある。
鬼蜘蛛の反撃を乾坤網で耐え凌ぎながら、雪彦が想い巡らせる。
自分達が倒れたら、多くの人達を悲しませることになるだろう。だから、退く事はないし、倒れもしない。
信頼する仲間たちに背中を預け、ただ前だけに向ける、決意。
「ここは通さないっ!!」
雪彦の熱き叫びを耳に、奈津は共に戦う者たちに想う。
一人の力では難しくても、皆がいるから出来る事がある。叶えられるものがある。
だから奈津は信じる力でシールドを掲げ、想いの力を刃に走らせて。
「…そして皆で笑って帰るわよ♪」
笑顔で、また一歩踏み込んだ。
「四人を援護するぞ! 撃てぇ!」
古代の合図に合わせ、【帝国】の後衛たちが支援射撃を開始。
古代自身も赤熱したライフルを手に、威力の増した弾丸を撃ち放つ。
狙いは降下し始めた、風操る天狗たち。
「ダメージよりも、吹き飛ばし効果の方が厄介だよね」
狗猫 魅依(
jb6919)が魔法書を開けば、血色の槍が一直線に飛んでゆき、
「赤いお鼻がうじゃうじゃと、気持ち悪いにゃ!」
「ターゲットを…狙撃する…簡単なお仕事…」
「友より譲り受けた銃の威力、思い知るんやな」
鞠萌にカナリア=ココア(
jb7592)、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)の三人が、空疾る銃弾で天狗たちの羽を撃ち抜き、
「ふふふ♪ このまま押し切っちゃいましょう♪」
ドラグレイが地へと撃ち落ちた天狗を標的に、小ぶりの扇を一振り。犬の幻影をぶちかました。
【帝国】の傍らでは、【対聖女】が支援の手を。
群れを成す鬼蜘蛛たちに向かって、黒子が短く詠唱。
「お腹が弱点らしいですね」
地中よりせり上がる無数の土槍で、鬼蜘蛛たちの腹を深々と貫く。
時同じくして、上空ではオブリオが天狗たちと相対。
光の投げナイフと扇風の応酬が乱舞する中、米田 一機(
jb7387)からオブリオへと祝福の手が差し伸べられた。
「一機さん、ありがとうございます」
「ちょっと距離を取ってくれるかな?」
魔眼と加護の効果に包まれたオブリオを支援すべく、一機は空に伸ばした掌をそのまま握り締める。
「お前らが空にいると、面倒なんだ!」
勢い良く振り下ろした腕に引き寄せられるように、無数の彗星群が天狗たちに降り注いだ。
天狗は最も数多く、中距離から前衛を引き剥がす風を操る。
戦線を構築する為には、如何に地上への攻撃を妨げるかが、勝利の鍵の一つ。
「空を自由にはしておけませんねー? 撃ち堕とさせてもらいますよー?」
あほ毛をふよふよと風にそよがせながら、櫟 諏訪(
ja1215)がスナイパーライフルの照準を天狗へと。
それと同時に、鷹代 由稀(
jb1456)とヴェスの二人も空浮かぶ修験者へと銃口を向ける。
「的は沢山。狙い放題ね」
「確実に落としていきましょう」
申し合わせたかの様に放たれた三銃奏。
三人の狙撃は同じ標的を撃ち抜き、羽、頭、胴体に風穴を開けた天狗が一体、早くも地へと落下した。
続き、楽しげな声が引鉄を。
「きゃはァ、私の一撃は少し痛いわよォ…死ぬ気で我慢なさいねェ♪」
黒百合の黒い霧を纏った弾丸が狙い違わず天狗の眉間へと着弾、と同時に冥魔の属性を帯びた闇が頭部は吹き飛す。
一瞬の出来事に、天狗は我慢などする間も無く絶命していた。
他方では、白蛇(
jb0889)が司(召喚獣)の千里翔翼に騎乗して、空へと優美に舞い上がる。
「突破を許すわけには行かぬ。微力を尽くそうぞ」
主の言葉に応え、力強く嘶く白鱗金瞳の竜。その声が帯びた鼓舞の力が、周囲の者たちのアウルを強化。
「よし、行くぞ」
天宮 佳槻(
jb1989)は力漲るアウルを陰陽の力に転化させると、戦神の剣を招来。鋭さ増した刃で天狗の全身を斬り刻む。
そこへすかさず、クレメント(
jb9842)が追撃の手を。
『人を守りたい。そう思っただけです』
戦いの前、穏やかな表情を浮かべていた彼の手は、今や気合に満ち溢れ。
「だからこそ、負けられません!」
雄々しい雄叫びと共に一閃するシャイニースピア。人想う優しさを切っ先に乗せた一撃を、天狗の胸へと鋭く突き立てた。
防衛線を突破されれば、町に被害が及ぶ。
それどころか湧き上がった恐怖と混乱は、町と人々を覆い尽くし、『明日』という時間に大きな影響を与えるはずだ。
故に、守らなければならない、と。Maha Kali Ma(
jb6317)が空を翔ける。
「とは言え、こちらは少数、敵は数が多い状況ですから、さくさくと片付けたいですね」
声音は冷静に。けれど伊達眼鏡の奥で揺らめく瞳は、心に秘めた炎で熱く、熱く。
それを知る江戸川 騎士(
jb5439)が、Maの姿を横目に胸中呟く。
(あいつも壁になってくれるってんだ。こりゃあ、男としていいところを見せねぇといけないぜ)
二人は天狗の頭上を抑えた後、視線を一瞬交わすと左右に展開。
騎士が元より強い冥魔の属性を更に深化させれば、その間に、Maがショットガンで牽制にも似た銃撃を放った。
「意識を逸らしてくれて、ありがとよ!」
騎士の手より放たれる常世の闇を纏いし弾丸は、吸い込まれるように天狗の身を穿ち。
二人の息を合わせた挟撃が、天狗を死の淵へと追いやってゆく。
●堪え忍ぶ戦い
上空で飛び交う数々の攻撃を前に、天狗たちの地上へ向けた攻撃は鈍化していた。
その恩恵を受けながら、地上部隊が鬼蜘蛛との交戦を開始。
だが、鬼蜘蛛の機動力と巨体が誇る突進力は、凶暴なる圧力を成している。
この戦いを制する為には、これに堪え忍ばなければならない。
「イケメンになって出直して来な!」
荒々しい哮けりと共に、白秋が銃撃を。
嵐の如く吹き荒れるバレットが、突進してくる鬼蜘蛛たちを飲み込み、醜い般若面を赤き血で染めてゆく。
そのうちの一体へ向かって、黒獅子の騎士・天羽 伊都(
jb2199)が果敢に突撃。
「さてさて、真っ向からの差し合い勝負だ。負けられない戦いがここにってね!」
動体視力を一時的に高めた双眼を金色に輝かせ、体勢立て直した鬼蜘蛛の動きをスローモーションの様に捉えた。
刀身の自重と遠心力で加速した一撃が、唸りをあげて鬼蜘蛛の前足を吹き飛ばし。苦悶と怒りの叫びを真正面から受け止めながら、正眼に構え直す黒の大剣。
「文字通りの強行突破ってやつをお披露目しようじゃないか」
「ここから先に行かるわけにいかないんだ」
北条 秀一(
ja4438)が、オートマチックP37の照準を眼前に迫り来る鬼蜘蛛へと向ける。
狙い定めた引鉄を絞れば、弾丸の変わりに放たれた光の波。
被弾と同時に鬼蜘蛛は後方へと吹き飛ばされ、後続を巻き込んで進軍の足並みを乱す。
すぐさま奇声をあげて体勢を立て直した鬼蜘蛛へ、忍が追撃の手を。
「…足を…止める……」
爬虫類を彷彿とさせる金の瞳で睨め付ながら、発動するは影縛の術。
影射抜く銃弾で鬼蜘蛛を撃ち抜けば、血に飢える巨躯が大地に縫い止められた。
これは負けていられませんね、と。エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が口笛を一つ。
相棒の召喚獣・スペードと共に、少年奇術士が鬼蜘蛛集う場所へと軽やかに身を投じた。
「たまには無茶をしてみましょうか」
襲い掛かる爪撃を次々と躱しながら、出来るだけ多くの敵を自らに惹き付ける。一体…、二体…、三体…と。
機を見て発動するタップダンサー。
エイルズレトラの両手から夥しい量のカードがすべり落ち、あっという間に鬼蜘蛛たちが飲み込まれる。
「後はお任せします」
場を離れるエイルズレトラと入れ違いに、大地に束縛された鬼蜘蛛たちへ降り注ぐ熾烈なる火花。
天狗の攻撃を掻い潜りながら、ナナシの手より放たれたファイアワークスだ。
強大な魔力を乗せた範囲攻撃は爆撃機の如く。鬼蜘蛛たちの躯を砕き、爆ぜさせ。深々と損傷させる。
だが、相手は強靭な生命力誇る鬼蜘蛛。聖女の祈りによって傷ついた躯を癒すと、大顎を開き、反撃の牙を剥く。
と、そこへ。
「守りも固めておかないと、ですね」
「ここが一つの分水嶺…護りきります!」
敵の反撃が届くより早く。文歌が歌声を高らかに響かせ、の術が天地陰陽の理を解き放つ。
お互いの効果範囲が被らないように展開された四神結界。
二人の仲間を想う心が、防御力上昇の恩恵となって撃退士たちを包み込んだ。
更に、大智と彪臥が仲間たちへと刻み込む空色と太陽色の聖なる刻印。
「俺たちは一人じゃない。支援は任せてくれ」
「大丈夫っ! オレがにーちゃんたちを守るからなっ!」
頼もしく、明るい声が肩越しに届き、敵の進軍を止める仲間たちの背中を力強く後押した。
「ザハークは居なくなった。けれど」
【円卓】の司が、鬼蜘蛛と対峙する。拳を強く握り締め、深く、静かに息を吐く。
東北は未だ安寧を得られていない。新しい未来を創るには、脅かされる明日などあってはならない。だから、
「ここは通さない!」
英雄を求める拳を鬼蜘蛛の鼻っ面に叩き込み。烈風の如き一撃でもって、蜘蛛の巨躯を後方へと吹き飛ばす。
そこへ、側面より急接近して来た鬼蜘蛛が司へと攻撃を。振り上げられた爪の双撃が、血を求めて振り下ろされる。
刹那、司の周囲に庇護の翼が展開。司に代わり、凪が鬼蜘蛛の一撃を受け止めていた。
「暮居!」
「―――悪いけど、この娘に手を出させるわけにはいかないのよ」
司の呼び声に応える代わりに、粛然たる決意を呟きに変え。
「前を向くのよ、英雄候補さん」
踏み止まった司の背を、凪は微笑で駆り立てた。
「行くぞ、悠市」
「薙ぎ払え、スレイプニル」
司の切り拓いた道を、フィオナと悠市が駆け抜ける。
フィオナはブリガンダインの重さを双剣に乗せて巨躯へと突撃。
悠市の命に従う蒼馬竜は、渦を巻いて敵を吹き飛ばす。
二人の連撃は敵群を更に奥へと押し込め、一時的に乱した敵の陣形。
その隙を突き、気配無き足音が敵陣へ。
「戻ってくるまでこっちは留めておくから、心配しないでいってらっしゃい」
司の言葉を受けながら、遁甲によって潜行状態と化したルドルフ・ストゥルルソン(
ja0051)が、敵の狭間に消えてゆく。
(戦場は天の川、俺は鵲。織女が牽牛に会いたいと言うなら連れていくだけさ)
目的は牽牛。つまりは、敵の指揮官の捕捉。
「出会った後に何が起こるかは知ったこっちゃないけど、ね」
一見すれば、順調な戦い。
しかし、全体を見れば、進軍の圧力に対する壁が厚いとは言い難い。
それが故に、撃退士たちの布陣の間隙を縫い、戦線を突破しようとする存在がいる。
これに誰よりも早く反応していたのが、味方の動きを埋める様に動くクインだ。
「敵の進軍を止めたいなら、敵に行動させない事が一番さ」
言うや否や、クインは素早く詠唱。突進してくる鬼蜘蛛を激しい渦風に巻き込み、朦朧効果を付与させる。
その様子を確認した大智と彪臥は、支援に徹するだけでなく、前衛の数を増やす為に自らも戦列へ。
「マジで鼻長ぇ! 降りてこいっ、へし折ってやるぜっ!」
攻撃の手を散らせようと彪臥が空に向かって挑発すれば、目論見通り、天狗が彪臥に向けて扇を打ち扇ぐ。
吹き付ける突風。煽られる身体。転がりかけた彪臥の背中を受け止める、大智の大きな掌。
「踏ん張れ! ここで引がっちゃダメだ!」
大智の行動は絶えず周囲の仲間たちに捧げられ。連携と士気を維持する為にと、声を大にして呼び掛け続けた。
●積み重ねた先に、
全域を見渡す後方で。
馨は逐一上がる戦況報告を取り纏めていた。
「右翼中央、やや押され気味だ。カバーを頼む」
その内容を元に、馬頭鬼が情報を飛ばせば、それに呼応して撃退士たちが即座にカバーリングへと動き出す。
「……膠着状態になりそうですね」
流れる情報の合間に、馨が戦場へ目を向ける。
全体を俯瞰しているからこそ見えてくる、場の流れ。
地上はBS付与や連携が功を奏し、今のところ敵の行く足は鈍っている。
また上空では、狙撃部隊を中心とした攻撃によって、天狗たちの動きが乱されている。
勢いは、間違いなく撃退士たちにある
とは言え、相手は耐久力の高い天魔の軍勢。ましてや聖女と言う回復手の存在もある以上、易々と均衡が崩れる事も無い。
故に、この戦況を打破する次の一手が求められる。
「そろそろ見つけられるはずだ……」
最新の情報を耳にした馬頭鬼の眼が、最前線へと向けられた。
(どこ……どこなの?)
【帝国】の仲間が交戦を続ける中、胡桃の眼は敵陣の中を向けられ続けていた。
重体の為に前線に立つ事叶わず。
彼女の側では、カナリアと鞠萌が狙撃を行いながらも絶えず周囲を警戒している。胡桃に攻撃の手が及ばない様にと。
それが歯痒く、もどかしい。
だからせめて己にできる事をと。仲間を回避射撃で助けつつ、指揮官を捜索の為、索敵に意識を集中させる。
だが、敵味方入り乱れ、相手も絶えず動き続けているだろう戦場では、目的とする姿を探し出すのは容易ではない。
それは小動物たちを駆使するドラグレイも同じだ。運良く発見できればと願うが、広い戦場では探索範囲が追い付かない。
対して。
目ではなく、耳で居場所を探そうとしているのは、鋭敏聴覚を使用したとしお。
指揮官ゆえに、それとわかる特徴的な言葉や声を発すると考え、全神経を戦場の音へと傾けている。
(何かそれと分かる言葉を発しているはずなんだ…)
その集中力は、背後で密かに護衛として付き従う龍雲に気付かないほどに深く、強く、戦場へと向けられた。
また、戦場の真っ只中では、ルドルフが潜行を維持しながら指揮官を模索。
味方の範囲攻撃にも注意を払い、息を潜めて敵中を進んでいた。
時折、存在に気付いた敵に攻撃の手を向けられるが、目隠しで相手を煙に巻き。再び潜行して追撃の手を許さない。
眼と、耳と、足と。
個々で得られる情報は断片的でしかない。
けれど、それらを縒り合わせれば、情報は戦場を絡め取る網となり、その存在を浮かび上がらせる。
「この声は…?!」
としおの耳が魔力を練り上げる詠唱に気付き、
「おかしな聖女がいたのよ」
胡桃の眼が敵中に違和感を見つけ、
「灰色の修道服を着たやつを探すんだ」
馬頭鬼がターゲットの特徴を全体に共有し、それらの情報を下にルドルフが敵陣奥深くと浸透する。
そして遂に―――。
「漸く見つけたよ」
ルドルフ視線の先に、目深に被ったローブの下に顔を隠し、燭台を手に聖女たちに紛れる天使の姿があった。
●突入、攻勢転換
「……あれは金鞍さんが配っていた発炎筒?」
それは誰の目にも明らかに。
天狗の対応に当たっていたオブリオの視界に飛び込んだ白煙。それが示す意味は、一つしか無い。
遅れて届いた天使フェッチーノ発見の報に、ゼロの瞳に仄暗い炎が宿った。
「フェッチーノ…傷の借りお前の命で返してもらう…」
白銀と化した髪。漆黒のアウルに走る白銀の稲妻。凶化状態と化した死神が、漆黒の大鎌を手に闇の翼を広げる。
天使発見の報は、明らかに戦いの流れを変えた。
高まる士気は見る間に伝搬し、次々と撃退士たちが動き出す。
「攻勢転換の狼煙といくわよっ♪」
「ド派手にかますとしようか☆」
奈津の美しい刀身誇る太刀から黒光の衝撃波が迸り、雪彦の陰陽術が鬼蜘蛛立ちの狭間で爆発を起こす。
それを合図に守勢から一転、攻勢に出た【帝国】のメンバーたち。
これに対して、鬼蜘蛛たちが奇声を上げて反応。
その背後では、聖女たちが深い祈りを灯火に捧げ、一斉に輝きを増した温かな光がサーバントたちの傷を見る間に癒してゆく。
更には聖女たちの一部が灯火を吹き消すと、有翼の騎士へと変貌を遂げて、撃退士たちの前に立ち塞がった。
「突入口は切り開いてあげるわ」
進軍鈍る【帝国】の上空に、ナナシが飛翔。天狗の攻撃を空蝉で回避しつつ、練り上げてきた魔力を解き放つ。
黒子達に頼まれて助っ人として馳せ参じたが故に。足りない人手を補い、仲間が天使討伐に十分に力を注げる様に。
裏方に徹すると決めたナナシが、仲間の為に力を振るうこの瞬間。
「さぁ、行きなさい!!」
彩り豊かな火花が大地に爆ぜ散った後に、風穴が抉じ開けられる。
「まさか女装とはね…」
ルドルフとの報告を耳にしながら、凪はスキルをCODE:SWに換装。
「これから道を用意する」
【帝国】に意図を伝え、【円卓】のメンバーたちと行動を開始する。
「これ以上は進ませない…っ」
叩きつけた司の拳。鬼蜘蛛の内部に生じた波動が、怜悧で鋭い氷の様に、動きを絶つ楔となって、鬼蜘蛛の意識を突き刺していく。
「ここが正念場だ! 遅れを取るでないぞ、悠市!」
叫び、フィオナが立ち上がる煙に向かって猛進。その背を追って、悠市がスレイプニルへと素早く指示を飛ばす。
「フィオナ女史を助けるんだ」
悠市の指示に従い、スレイプニルが風を切ってフィオナの前へと移動。疾駆した勢いを利用して、進路に立ち塞がる敵の群れを薙ぎ払う。
次いで、フィオナがアーマーチャージを発動。
「我らが切り拓く道を進むがいいっ!」
大地を踏み抜いた力をも切っ先に乗せ、突き出した赤光の刀身が有翼の騎士を吹き飛ばした。
【円卓】の後に続き、次々と撃退士たちが突撃する中、【対聖女】のメンバーが進路から離脱。
「私たちはこのまま聖女対応に回ります」
連携する部隊に宣言しながら、黒子は二対の紫銃の引鉄を同時に引き絞る。
通常なら撃ちあぐねる距離。だが、アウルの供給量を増加させた銃身から放たれし弾丸は、射程を延ばして聖女の身を捉え、回復の手を妨げる。
黒子の動きに追従し、ふわりと緑色のリボンが揺れ動く。
「頼りになる方が大勢居ますけど、持久戦になるとつらいですから、そうならない様に全力を尽くしますね」
翠月が収束した魔力をたおやかな手より解放すれば、飛散する無数の艶火花。
強い冥魔の属性纏う翠月の魔力が、聖女たちの身を無慈悲な爆炎で呑み込んだ。
「喋っている暇も無い、と言うやつだね」
残火燻る中、キクカもまた氷晶霊符を掲げて氷刃を射出。回復の間を与える事無く、聖女の一体を見事に討ち取る。
その頃、既に単独で敵中深く斬り込んでいた伊都は、一足早く戦線を突破。
開けた視界に、詠唱続ける暗鬱な天使の姿がハッキリと映し出された。
その前に道塞ぐ最後の鬼蜘蛛が現れるも、黒獅子はこれに不敵な笑みを零す。
幾度目かの対峙。もはや対処法は把握している。
「ドテッ腹に穴を開けてやろうじゃない!」
厚みある黒の刀身を素早く斬り上げれば、般若面をかち上げられた鬼蜘蛛が、思わず身を仰け反らせ。
露わとなった腹部へ連撃をかけるよりも早く、【帝国】のカナリアと鞠萌が後方から狙撃が飛ぶ。
「苦しむ姿は…楽しいですね」
「さっさと、くたばるといいんです」
それに続き、【帝国】を中心とした突入組も到着。鮮やかな連携で鬼蜘蛛を撃破する。
「ふふふ♪ こんにちは♪ それにしても囮とは大変ですね♪ 大事な役目とは思いますが♪」
ドラグレイが満面の笑みを零し、遂に撃退士たちはフェッチーノを射程内に捉えた。
●天使、狂笑
フェッチーノに焦りの色が浮かぶ。
いずれ自分の所在がバレることはわかっていた。
だからこそ、魔力を練り上げ、その得意気な鼻っ面にとっておきの一発を打ち込んでやろうとしていたのだ。
しかし、発見からこちらに辿り着くまでの動きが想定よりも迅い。慌てて詠唱に移り、練りこんでいた魔力を急速に解放する。
天に威する炎の氾濫。
それは本来であれば、広範囲に流れ込む強大な魔力が鬼蜘蛛や聖女たちもろとも呑み込み、すべてのものに死の淵を垣間見させたはずの業炎。
だが、元より重症である肉体。咄嗟の詠唱に、練り上げた魔力の収束が追いつかない。
結果、不完全な形で具現化した炎は、フェッチーノに肉薄しようと前に進み出ていた者たちの一部だけを飲み込むに留まった。
言葉よりも早く、煙による周知で初動を早められたからこその成果。
それでも流れ込んだ魔力は、すべてを焼き尽くさんと、天に歯向かう火柱となって火勢をあげる。
「燃やせ、燃やし尽くせぇェェっ!!」
フェッチーノの絶叫に、焔に巻かれた者たちが膝を突く。
が、倒れはしない。見れば、青白い靄状の光が、温かく、優しく、傷付いた身体を覆っている。
「皆さんを…、倒れさせはしないのですっ!」
Rehniの神の兵士の効果が、炎に巻かれた者たちの意識を辛うじて繋ぎ止めていた。
「やられはしない…君が倒れるまではねっ♪」
「そんな簡単に倒れるとは思わないで!!」
雪彦が煤だらけの笑顔を浮かべ、奈津が熱傷に吼え、ジェラルドが嗤う。
「勝った! ……と、思うじゃん?」
その眼が捉えたのは、眉間に皺寄せる天使の向こう。潜行で気配を消していた、仲間の姿。
「仲間を信じられるって、強さだよ☆」
ルドルフとドラグレイが肩を並べてフェッチーノの背後に接近、各々魔具を構えて空高く跳躍する。
その間に、一歩遅れて後を追う魅依から奇襲の一撃。
「ぶっっとべぇ!!」
誰よりも深く濃い冥魔の属性を帯びた三日月の刃が、フェッチーノの背を傍若無人に斬り付ける。
その直後。
「前ばかり見てるから、周りが疎かになるんだよ」
「ふふふ♪ こんにちは♪ それにしても囮とは大変ですね♪ 大事な役目とは思いますが♪」
頭上よりルドルフの自重を乗せた一撃が頭部へと叩き込まれ、ドラグレイの全体重をかけた踏み付けにも似た追撃が、フェッチーノの脳を激しく揺さぶった。
「ぐがっ!?」
気付く間も無く被弾した連撃に、フェッチーノが膝を突き、前へと倒れ込む。
「貴様らァっ!」
朦朧する意識を呼び戻す為、天使は自らの指を右眼へと突き立てる。
脳裏に走る激痛と胸に淀む苦痛。フェッチーノは無理矢理に引き戻した意識を怒りに染め、杖先を背後に向ける。
「これ以上、やらせるわけがなかろう!」
そこへフィオナがシールドバッシュで突撃。
元より未だ先日の戦いで受けた傷を引きずる身。ましてや膨大な魔力を発した直後だ。
通常よりも詠唱と魔力の収束に時間がかかったフェッチーノの魔法は、妨害によってあっけなく霧散した。
「功を焦ったかフェッチーノ。てめえの敗因は数じゃねえ」
「虫ケラに踏み躙られる気分、如何ですか?」
白秋とオブリオの声が重なれば、フェッチーノは唇を噛み切りながら、従者たちを壁にして後退に転じる。
「逃がさないっ!」
「もう逃げられませんよ」
その背に向けられた胡桃とヴェスの銃口は、狙い違わず、フェッチーノにマーキングを施した。
勢いに乗った撃退士たちは、満身創痍の身で全力逃亡を図る天使の後を追撃し続ける。
障害となるものは、もはや僅かな聖女と有翼騎士のみ。
「邪魔はさせません!」
一機は突進すると、有翼騎士の側面よりダッキング。腰に手を回し、担ぎ上げた。
これに有翼騎士は直剣を逆手に持ち直し、背中へと突き立て応戦。
が、その一撃は胡桃の回避射撃によって妨げられ、脇腹を掠めるに留まる。
「皆さん、今です!」
浴びる集中砲火に、聖女の一体が一機の腕の中で合えなく絶命。
その間も聖女たちが祈りを捧げ続け、灯火の輝きが増し始める。
「これ以上、回復させないためにも…!」
翠月が手をかざせば、冥魔の力を帯びたアウルが渦を巻き、形作られる闇の弾丸。
振り下ろした腕はしなやかに。投げ放たれた弾丸は荒々しく。CR差を活かした一撃が、聖女の身を大地へと沈める。
「最後の踏ん張り時だね」
キクカは氷晶霊符の攻撃に胡蝶を乗せて、残る一体に束縛効果を付与。
聖女の足を食い止めれば、黒子より放たれた銃弾が聖女の燭台を撃ちぬいた。
●奮戦に過ぎる一抹の…、
フェッチーノが刻一刻と追い詰められる中。
Rehniは自らのケガを押して、激しい熱傷に冒された三人のケガを治療に専念していた。
「すぐに傷を治すのです」
三人とも意識を保ってはいるものの、このまま放っておけば重体になりかねない為だ。
大好きな友人たちを護る。
少女の想いを伝える小さな手に、優しく、大きな癒しの力が灯る。
一方、サーバントたちの進軍を食い止めているメンバーたちは、未だ奮戦の最中にあった。
「焼き尽くせ」
波打つ炎の蛇を打ち放ち、地に墜ちた天狗が燃え尽きる。と同時に、忍は新たな敵と交戦すべく、駆け出している。
どれほどの敵を倒しただろうか。あちこちに転がるサーバントの骸を見れば、確実にその数は増えている事がわかる。
しかし一方で、時間が過ぎるほどに、戦線を潜り抜けようとする敵の数が増えつつもあった。
忍の胸に湧き上がる一抹の―――。
「……まだ、戦いは……終わってない…」
不安を振り払うように、忍は駆ける足に力を込めた。
「さすがに動きを縛り続けることは叶いませんか…」
束縛の効果から脱した鬼蜘蛛たちに囲まれ、エイルズレトラが息を切らす。
眼にも止まらぬ足捌きで敵を翻弄し続けてきたのだ。疲労も溜まる。
しかし、怒りに猛る鬼蜘蛛たちにとっては絶好のチャンス。小柄な奇術士を噛み砕き、切り裂こうと、凶暴な牙と爪を剥いて襲い掛かった。
これが一人であれば、彼の戦いは終わっていただろう。だが、今の彼には背中を預ける相棒がいる。
「もう少しだけ、付き合ってもらえるかな?」
肩越しに召喚獣へと声を投げかけ、死角を埋め合う一人と一体。
不意を討たれる心配の無くなったエイルズレトラの動きは淀みなく、軽やかに。最後まで敵の攻撃を回避し、敵の意を引き続ける。
澱んだ氣のオーラに煽られ、舞い上がる砂塵。
「敵を敵にとっての障害物にするのだって有効なんです!」
渚の気合を入れた八卦石縛陣が、鬼蜘蛛の抵抗力を打ち破って巨大な石像に変えた。
「死骸を脇に積み上げるんだ。それでもバリケードを形成できる」
他方では、秀一の指示の下、天狗の骸を山と積み上げられる。
これらに道を塞がれた鬼蜘蛛が進路を横へと逸らし、それによって進撃の一部に澱みが生じた。
「ここはいい。他の援護に回るんだ」
また、防衛の為に人手が不要となった事で、戦力を他に回す余裕も出てくる。
秀一の言葉に従い、撃退士たちが方々に散ってゆく。
「クインさんは下がるんだ。こいつは俺が引き受ける!」
迫り来る鬼蜘蛛を単身迎え撃とうとしたクインの下へ、大智が駆けつけた。
「そうさせてもらうよ。眼鏡が割れては困るからね」
クインは僅かに後退すると、レンズ煌き、輝きを増した眼鏡に手を添える。
途端、大智の肩越しに放たれた神々しい光線。
「ふふふ、僕の眼鏡に痺れてしまったかな」
鬼蜘蛛が眼鏡の力に打ち抜かれたところへ、大智が盾を構え、進軍を阻むにかかる。
他方では、彪臥が孤軍奮闘。前衛の少なさを補う為に前へと進み出たのだが、彪臥一人で渡り合うには荷が重過ぎる鬼蜘蛛を相手に苦戦を強いられていた。
「うわっ! 見えない糸っ? 面倒臭っ、性格悪っ!」
幾度となく浴びせられた束縛の効果。その度に聖なる刻印の力が吹き飛ばすも、既に癒しの力は尽き掛けようとしており、後がない。それでも赤髪の少年は進撃を阻止する事だけを考え、凶暴な獣と渡り合い続ける。
そんな彼の下へ駆けつけたのは、通信機からの情報を元に加勢に来た文歌。
到着一番、彪臥の為に有名な応援ソングを歌い出す。
『絶対的アイドル』を目指す少女の声量は、剣戟と喧騒の中でも埋もれる事無く、戦場に響き渡り。歌に特化したシンボルを通して炎球を生み出し、鬼蜘蛛を燃え上がらせた。
「私が敵を弱らせますから、その内に倒してくださいっ」
「サンキューッ! 文歌ねーちゃんの歌を聞いてたら、まだまだ頑張れそうだぜっ!」
励ましを得た彪臥は再び元気いっぱいに躍動すると、気力に満ちた一撃を鬼蜘蛛の口蓋に捻じ込んだ。
その頭上で、天狗が扇を振りかぶった。吹き飛ばしで連携を崩さんと、文歌を狙って風を扇に纏わせる。
と、
「――喰い千切るッ!」
天狗を襲った猛銃の咆哮。刹那、天狗の頭上目掛けて銃弾のスコールが降り注ぐ。
「君のキレイな歌声を、今度俺の為だけに聞かせて欲しいな。あ、そうだ。今度一緒にカラオケでも……」
白秋の軽薄な口元の後ろで、銃圧に屈した天狗が、地に墜ちた。
咥え煙草から煙が燻らせる中、天狗の対処を続ける由稀が引鉄に添えた指に力を込めた。
天狗の身体を鋭い一撃が撃ち抜くと共に、ボルトアクションによる排莢が次の狙撃の準備を知らせる。
「次に風穴開けられたいのは、誰なの?」
煙を赤く染まった瞳で、次なる獲物を探してスコープを覗き込めば、千里翔翼を駆る白蛇の姿が映る。
「灯火の効果前に倒すのじゃ。回復する間を与えるでないぞ」
共感する意識で集中力を極限まで高めた一人と一体が、天狗に集中砲火を浴びせ、両翼を刈り取っていく。
「はわ〜、次々と落ちてくるですよーっ」
眼前に墜ちてきた天狗目掛けて、パルプンティがばたばたと攻撃を放つ。
が、慌てすぎた為か、ずり落ちたショーツに足を取られ転倒。血にまみれた天狗が、ここぞとばかりに拳を打ち下ろす。
と、一発の銃弾が赤鼻の眉間を穿ち、尽きかけていた命を冷酷に刈り取った。
「危ないところだったわねぇ♪」
声を追って上空に首を巡らせれば、黒百合が艶として微笑んでいて。
「あ、ありがとうございました〜」
「どういたしましてぇ♪ でも、まだ終わってないのよぉ?」
黒百合に促されて前を向けば、牙を剥く般若の面が叫声を上げて押し迫る。
それを阻むように、諏訪が前へと進み出るとストームバレットを発動。
「ここを通すわけにはいかないんですよー?」
あほ毛レーダーを風に泳がせながら、四方八方に放たれる銃撃が乱戦となりつつある戦場を駆け抜ける。
「畳みかけるので、一気に攻撃お願いしますよー!」
二度目のストームバレットが乱れ飛ぶ中、諏訪の呼び掛けに応えたMaが無骨な大剣を手に空より降下。
「お手伝いさせて頂きますね」
落下速度を加えた一撃を弱った鬼蜘蛛に加えれば、Maの影よりもう一振りの刃が迫りゆく。
「単独で特攻とか、アブねえじゃんか」
Maの身を気遣う優しさを滲ませつつ。冥魔の属性を強めた騎士の一撃が、修羅の如く激しく迸った。
●手向け、
数で打ちのめすはずだった。力で報復を果たすはずだった。それなのに、何故こうなったのか。
従者たちは壁にもならず、魔力を制御が思うようにいかず。今や出来る事といえば、撤退の二文字、ただ一つ。
「くそっ、くそくそくそくそくそどもがっっっ!!!」
傷付いた片翼さえも無理やりに広げ、曇天の空へと舞い上がる。けれど高度は上がらず、速度も上がらない。 その背を追う、複数の照準器。
「ふふ…楽しい楽しい戦闘ですね…その首…もらいます!」
「仲間を護りたい…だから、ここは譲れないのです!」
カナリアが嬉々として銃口を向け、鞠萌が想いを込めた指先を引き金に添える。
そして、撃墜すれば後は仲間が何とかしてくれると信じ、天使の翼に狙いを定めた男二人の対空射撃が空を裂き。
「……この一撃に全てを掛けるっ! 堕ちろぉぉぉっ!」
「お前に空は似合わんよ!」
としおと古代の銃弾が、フェッチーノの両翼を貫いた。
空から崩れ墜ちる天使の顔はどこか呆然と。
何かを見失い、何かを求めて彷徨う瞳に、因縁ある二つの影が映り込む。
「ようドクズ。今からお前が踏み潰されるんや。お前が見下してた奴にな!」
残忍なる漆黒の死神が左手より突撃し、
「そろそろ観念して、表舞台から退場してはどうですか。生き恥を晒しても見苦しいばかりですよ」
冷酷なる白眼の死神が右手より迫る。
「ひっ!? く、来るなァッ!」
焦ったフェッチーノは魔力制御が不十分なままに詠唱を。
「させるかよ! てめえが魔法を使える日は、二度と来ねぇ!」
魔法が発動するよりも早く。ゼロの鎌刃が肩口を捉え、切っ先に生じさせた闇の塊を弾けさせる
「がっ…」
肺が潰れ、息が詰まる。細枯れの身体が激しく吐血すれば、鳩尾に突き立てられた冷刃を通し、オブリオの左手から放たれる電撃。鼓動と神経の働きを乱し、力抜けた腕から杖が転げ落ちる。
奪われゆく熱。押し寄せる暗闇。
終わるのか? 俺はここで終わるのか?
………いや、まだだ。まだ終わってない。俺は……俺はァっ!!
「小娘…が…」
見開いた目で、前へと伸ばす血濡れの手。重体を遥かに通り越した身体が尚もしがみ付くのは、生への執着か。叶う事のなかった欲望への執念か。それとも因縁ある者への怨念か。
「しつけぇよ。死ね、お前は俺が喰らう」
ズブリ、と。ゼロが半身を斬り裂かんばかりに凶つ刃を食い込ませる。
それでもオブリオの頬に食い込ませた爪先から力が抜けることは無く。それを冷淡な眼差しで見下げたまま、オブリオはゆっくりと腕に捻りを加える。
「さようなら。もう…、あなたには何の興味もありません」
抉り斬った感触。肉と、骨と、そして―――プライドと。
……キョウミ ガ、ナイ……?
それは長らく対峙してきた者からの断罪であり、慈悲であり、決別であり。
天界からも蔑まれ、放置され、厭われ続けてきた者へ手向ける、餞と言う名の刃。
そして、それはフェッチーノに『敗北』を認めさせるには決定的で。
「は、はははは、はははははははっ!!!」
乾いた狂笑が、戦場に木霊した。
●達成感と、苦渋と
多くの者がフェッチーノを追い、立ち塞がる聖女への対応に向かう中、伊都は一人鬼蜘蛛の背後に回り込み、奇襲を駆けていた。
「三体目!」
振りあげた大剣を力を籠めて叩きつければ、苦悶と怒りの絶叫を残して鬼蜘蛛が朽ち果てる。
―――と、
「うわっ! 何っ!?」
背を打つ轟音に、鬼蜘蛛を葬ったばかりの手が思わず止まる。振り返れば、目に飛び込んだのは波打つ光の奔流。荒れ狂う魔力の残滓。
フェッチーノが自らの死と引き換えに暴発させた魔力は、肉体を触媒に爆散。至近距離にいたゼロとオブリオを巻き込んだ。
意識を失い、倒れ込む二人を雪彦と奈津が支え。重体者二名と言う犠牲は払ったものの、フェッチーノを倒した事実に伝播する達成感。
(あんたとの約束の証。手始めに一つ、『そっち』に送ったぜ)
双銃を手に、幾度目かの弾幕を撃ち放ちながら、白秋は胸に刻まれた『弾痕』に琥珀の瞳が揺れる。
「――地獄はどうだい、六万?」
「やった…」
「ああ、やったな」
胡桃は小さく息を吐き、その肩に置かれる古代の大きな掌。
成し遂げた事への束の間の安堵が戦場に広がる。
その時だった。
「中央、突破されます! 誰かフォローをっ…」
突如、馨より発せられた警告。胡桃と古代が我に返り急ぎ後方を見遣れば、そこには扇を振りぬいた天狗の姿。
「きゃあっっ!?」
吹き飛ばされた胡桃の身体が地を嘗める。元より重体だった彼女はそのまま気絶。身じろぎ一つしない。
「胡桃っ!?」
天使撃破は確かに大きな功績。だが、指揮官を失っても従者たちに与えられていた命令は変わらぬままだ。
つまり―――仙台を目指しての進撃。
故に、敵は突破された戦線中央の『穴』へと逆に雪崩れ込み、進撃を再開。
更に血に飢えた何体かは、転進して撃退士たちの側面や背後を襲撃している。
「これはいかん!」
状況を把握した白蛇は威嚇を活性化。進軍続ける天狗や有翼騎士の意識を、白鱗金瞳の竜に引き付けさせる。
「……囮にして、済まないの。司よ」
敵群の流れに逆行し、自らの分体が敵に囲まれつつある。無論、このままであれば白蛇とて無事ではない。召喚獣が傷を負えば、同調して自らの生命力も衰弱する。それでも今は一体でも多く敵を足止めする為に、白鱗金瞳の竜は雄々しく空を翔け続け、白蛇もまた敵へと向かっていく。
「押し戻せ! まだ負けたわけじゃない!!」
地上では、大智が盾を掲げ、一人敵の進路上へと身を踊らせていた。
周囲を鼓舞し、奮い立たせる心。既に仲間たちと散り散りになっている事は知っている。けれど呼び掛け続ければ、声が届く者もいるだろう。踏み止まれる者もいるはずだ。
「最後まで諦めるな!」
例え、最後の一人になろうとも。意を決した大智が敵へと向かう。
迅速に対応し、奮闘する撃退士たちがいるとは言え、状況を挽回するには遅すぎた。勢いのついた敵の進軍が止まる気配は無い。
実に、この戦いに赴いた者の1/3以上が敵陣への突入と、天使フェッチーノ打倒に動いたのだ。
その結果、完全に守勢に回る事態になると、押し返す圧力が不足してしまった。
一足先に戦線を離脱していた龍雲が戦場を見渡し、零す。
「まさかこうなるとは…」
既に戦線は崩壊、立て直すことも難しい状況だ。次に繋げる為には、敢えてここは退くしかない。それが例え苦渋の決断だとしても。
唯一幸いだったことは、敵の目的が進撃故に、傷付いた撃退士たちを深追いしなかったことだろう。
死傷者は元より、重体者もフェッチーノの魔法を受けた二人のみ。
「まったく…。あのまま戦場にいたらどうしていたことやら…」
傍らで、地に伏せ気絶したとしおを見遣る。
重体の身で戦いに臨んだが故に無茶をしないようにと、フェッチーノ狙撃の直後に密かに気絶させ、半強制的に離脱させていたのだ。
としおの性格を考えれば、結果としてその行動は正解だったかもしれない。
他の撃退士たちも戦域から離脱を始る中、負傷した仲間を支えるカナリアと鞠萌が苦渋の顔を浮かべる。
「此処は撤退します…次こそ…」
「…もっと強くなって…帰ってきます」
数分後。
数にすれば10体強。
それでも遊撃隊として控えていた撃退署の手にあまる数のサーバントたちが、町へと侵入したのだった―――。
●虚に、消ゆ
「ゴ、シュジン…サマ?」
熱気残る戦跡。血と砂埃。遠く響く喧騒が、町の方から微かに聞こえてくる。
探していたものを見つけた少女は、目の前にある『それ』が何なのか、未だ理解できずにいた。
片目を失った血濡れの顔。砕け散って原形止めぬ身体。全身を包むローブは乾いた血で黒ずみ、色を失っている。
「キ……、ラ……」
不意に零れた言葉は泡立つ血と共に。予想だにしなかった主の声に、使徒であるキララの顔が恐怖に引きつる。
「ひっ!?」
「……な、……来…」
何故、来た?
光灯らぬ瞳は、もはや言葉を紡ぐことすら出来ないほどに。それでも死の淵でもがく骨ばった指が、キララの足首を掴む。
「お……ま…、は…」
おぞましく歪む顔。それが苦笑であるとわかるものは最早いない。虚ろな瞳は、二人を見下ろす曇天の様に暗鬱としていて。キララは視線を外せぬまま、息を殺して凝視している。
「お……前、は……オ、レの……」
最期の力を振り絞り、零れた言葉。
(オ、オレの? 何ですし? こ、ここここっ、こ、恋人とか言うつもりですし?!)
それは反射的に。後退りした足が小枝の様な色白の腕を払い除け、崩れ落ちる天使の腕が音もなく大地に落ちる。
「……ゴ、ゴシュジンサマ?」
呼び掛けに反応が変える事は二度と無く。
一陣の風が、灰色のローブをはためかせた。
●幕切れ、そして幕開け
部下からの報告に、トビトは珍しく目を丸くしていた。
「それは本当かい?」
信を置いていた忠臣が大役をしくじり、思い付きで焚き付けただけの一介の天使が成果を出したという報告。言うなれば、予想外の事態。だが、それが面白い、とトビトは愉快そうに笑みを溢す。
今回の結果から仙台侵攻の取っ掛かりを作れた事は大きい。しかし、一連の動きの中で手駒が不足してしまったのも事実。
「これからどうしよっかなぁ。ダルドフは雲隠れ、ヴィルギニアもゲート展開失敗で力を失っちゃったしなぁ」
フェッチーノ死亡。その事実に最後まで触れること無く。少年の姿をした天使は、ウキウキとこの先の動向に思考を巡らせ始めるのだった。