●
「――この騒ぎは一体何なんだ!? 天魔の仕業か?」
眼前の惨劇に、綾羅・T・エルゼリオ(
jb7475)が驚くばかり。
渇望する腕が宙を彷徨い、目の色を変えた人々が地を彷徨う。叫声がそこかしこで響けば、繰り広げられる数々の痴態……あれ? 惨劇どこ行った?
キス! キスしてよぉ〜!
ぺろぺろ、ぺろぺろぷりーず!
うん、これは痴態だ☆
「あの怪しげな色のオーラが皆を狂わせているのか」
エルゼリオが目を向けた先に漂う二色のオーラ。それは劣情を煽り、人を見境の無い『キスおねだり魔』へと変貌させる恐るべき敵の能力。
しかも困ったことに『おねだり魔』となった者は強い誘惑オーラを身に帯びてしまう上、誘惑に負けてキスすると気絶、撃退士同士では昂るアウルの暴走で重体の可能性すらあるのだ。「新年早々恐ろしいことに…無事帰れるといいなぁ」
アレでソレでアハ〜んな状況から目を逸らしながら、遠い目をする坂城 冬真(
ja6064)。
「…え〜っと…キス程度の事で騒ぐことじゃないけど、キモいの相手にするのは勘弁ね…サクッと退治してあげるわ♪」
ぷるぷると震えて強がる稲葉 奈津(
jb5860)は、まるで生まれたての小鹿。
(じょっ冗談じゃないわよ…まだキスしたことないんだからねっ!?)
恋愛経験豊富な様に見えて実は純情な奈津。早くも涙目だ。
「うわー、なんかすごいね?」
桃色の花が咲き乱れる光景にアルクス(
jb5121)は目を丸くすれば、百夜(
jb5409)は少々脱力気味。
「害があるのは確かだけど、真剣さが削がれる相手ね」
敵の名前は『らぶ男』に『らぶ子』。確かに脱力するなと言う方が無理かもしれない。
「うわあ」
白桃 佐賀野(
jb6761)は口に手を当て驚嘆の溜息。流石にこの光景は刺激が強すぎたか。
「合法的にキスできるなんて素敵だよね〜」
あれ? セリフおかしくない?
耳疑う天の声がふとネットに目を向ければ、ルーガ・スレイアー(
jb2600)の呟きが目に留まる。
どいつもこいつもアヒル顔なう(´∀`)
……母さん、どうやら日本はまだまだ平和です。
しかもルーガは首からスマホをぶら下げ、ネット世界に向けてこのヒドい有り様を動画発信なう。ちなみにタイトルは。
【進撃の】(・3・)(・3・)(・3・)【SOS】
R指定にしていればパーフェクトだったかもしれぬ。
「淫魔の眷の駄作か。面白い、引導を渡してやろう」
そう言って、エンプーサを探している秋桜(
jb4208)も動画撮影をしている一人だ。
勿論、撮影目的は敵能力の効果を観察・記録する為。決して『後でエロスを伝道する』なんて理由では無いんだよ?
「そして、サキュバスたる私が真のエロとは何かを教えてやろう!」
………無いんだよ!
●
「これはまた、すごい光景…だね」
「チッ、多すぎるな…位置の特定が急務か」
ダッシュ・アナザー(
jb3147)が呆然とする横で、ディザイア・シーカー(
jb5989)は苦い顔。
そんな二人の顔にはキャッチャーマスク。視界を塞がずにキス防止できると考えての採用らしい。おまけに二人はマスクを南京錠でロック。更には鍵をまだ敵の能力及ばぬ商店街の人に預ける念の入れっぷり。何と色々勿体ない事か。
「好きでもない女とキスしたり、ましてや気絶するなんざ御免被る」
某使徒がイケメンと評した男が示す漢気に、早くもおねだり魔と化した♀たちがロックオン。
「傍迷惑なディアボロだぜ。恋だの愛だのは、当人同士の話だろうに…」
自由奔放ゆえ強制的なことを嫌う丹下 茶々丸(
jb8498)に、九鬼 龍磨(
jb8028)がぷんぷんと同調。
「愛っていうのは唆されるものじゃないよ!」
そんな二人もまたマスク顔。しかも、茶々丸は防毒マスク、龍磨はドラゴンマスク。キャッチャーマスクを凌ぐ完全防備だ。勿論、南京錠も忘れてはいない。
そのやや後方で、げんなりと呟く嶺 光太郎(
jb8405)。
「なんつーか…凄い光景だな」
果たしてそれは眼前の痴態の事なのか。はたまたマスク四天王の事なのか。
「まぁ、人それぞれだしな…」
かく言う光太郎もマスクを被り、後ろ側を接着剤で固着済み。加えて漁用の大きな網を担ぐ姿は、実は他の4人と同類だったりする。
こうして着々とマスク衆が勢力を増す中、
「マスクなど俺には必要ない!」
と声高な高橋 野々鳥(
jb5742)。
「術にかかったフリをして手当たり次第ねだって回って、いろんな娘とチューができるんだよね? 俺って天才!!」
……何だか思考が某人と似通ってる気がします。
そう言えば、その某人は今どこにいるのだろうか?
天の声と共に、大谷 知夏(
ja0041)がキョロキョロと首を巡らせる。
その視界にはあんな光景やそんな光景が映っている筈だが、目に留める様子は全く無い。なぜなら彼女の目的は、権瓦原助作ただ一択!
「先輩なら、必ず愉快な事を引き起こしてくれる筈っす!」
知夏はひと際高い抵抗力で、おねだりなど意にも介さず助作を人混みの中に探し続ける。
一方、桜花 凛音(
ja5414)は拡声器を人混みに向けていた。
「先輩! 権瓦原先輩どこですか!」
大音量で必死に呼び掛けるも、残念ながら反応はない。何故なら、男は遠く離れたところで覚醒していたからだ。
……そう、おねだり魔に。
ぐふふ…オレサマとキスできるぞ〜、キスできるんだぞ〜、キスできるんだってば〜。
「何のどんちゃん騒ぎかと思えば…。あそこに居んのは助作、か?」
特徴的な声に振り返れば、小田切ルビィ(
ja0841)の眼に映る見覚えのある肉だるま。
手をワキワキさせ、ブフブフと鼻息荒く、自信満々の顔で♀たちへとキスをねだっている。
きゃー! キスして―! でも近寄らないで―!
その反応に、超絶前向き思考な助作は「この恥ずかしがり屋さんめ☆」とご満悦。
「…嬉しいのはわかりますが、明らかにおかしいでしょう…」
偶然通りかかったスルーズ シュミット(
jb8662)が思わず半眼でツッコムも、毒された助作は聞く耳持たない。それどころか、スルーズにおねだり始める始末だ。
早くこの馬鹿騒ぎを終わらせなければ! と、スルーズは助作のおねだりに必死に抵抗。窮地に立たされた思考が一つの結論へと辿り着く。
彼を最初に撃破しておいた方がいいですよね?(まがお
待って! これでも一応人類の一員だから! 敵の能力に毒されてるだけだから! って、その握り拳は何っ!?
「勿論、OHANASIですよ(にっこり」
―――そして。
「ったく、仕方ねぇ」
一部始終を見ていたルビィは(色んな意味で)放っておく訳にもいくまいと、インパクトによって空高く吹き飛ばされた助作を追いかけるのだった。
●
ひゅーーーっ。
空高く舞い上がり。
ひゅーーーっ。
再び地上に落下。
翼を広げて空に居たみくず(
jb2654)は、その様子にホッと胸を撫で下ろした。
「こんなことになっても助作先輩なんだね」
ええ、安心して下さい。彼は今日も平常運転です。
助作の墜落を見届けたみくずは早期解決を目指して行動開始。
「とにかく事態の沈静化を優先しないと!」
まずは透過能力を発動し、阻霊符の効果を確認。どうやら阻霊符は発動中の様だ。ならばと、みくずは意志疎通で助作に向かって声掛ける。
『助作先輩、祖霊符の解除をお願い!』
地面に頭突っ込んでいた助作はその声で復活し、阻霊符を解除。そのままみくずに気が付くと、大仰に手を振り始めた。
「大変だ〜! 早く来てくれ〜!」
何事かとみくずが急いで舞い降りれば、待っていたのは未だ『おねだり魔』状態の助作が放つ暑苦しい誘惑。
「ぐふふ…熱いベーゼを交わそうじゃないか」
しかし、みくずも扱いは慣れたもの。
「後でご褒美あげますから!」
おねだりを適当にいなしつつ再び空へと舞い戻っていく。ちなみにご褒美はビンタだ。他に何があると?
「ご褒美か…ぐふふ」
しかし助作は『ご褒美=キス』だと信じてウキウキとしている。
と、そのだらしない顔に、叱咤する声が飛んできた。
「騙されてはいかんぞ! 我は絶対に騙されん! そうやってキスをさせ変態と罵り、裁判で多額の賠償金を請求するつもりだろう!」
女性不審な悪魔、あんこく(
jb4875)である。
「言っておくが我は既に女に騙され借金まみれだわ! ふざけるなぁああ!」
天を劈く魂の慟哭(シャウト)に、おねだり魔(♀)たちも流石に遠巻きだ。
「いつか貴公らを借金まみれにさせてやるわ!」
捨て台詞を残し、闇の翼で飛び去るあんこく。その姿に助作は涙を流してサムズアップ。
「うむうむ。男は女に騙されて成長するものだ」
そんな助作の言動を、ルーガは配信続行なう。
「スケベ作の勇姿も撮り続けるんだぞー( ´∀`)!」
主役の登場に動画アクセス数はうなぎ上り。さすがネット界の(ある意味)カリスマとなった男である。
しかし当の助作はそんな事など露知らず。視界の片隅に捉えた一つの影に目を向けた。
「愛は風紀より尊いと言う人もいますが…意思があれば…ね♪」
そこには多くの♀たちを引き連れて歩くナンパ師・ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)の姿。
助作は負けていられぬと、本題忘れて無謀にもナンパ勝負を吹っ掛けた。
「オレサマといざ尋常に勝負!」
「ん…? 別にいいけど…?」
1分後。
「へぇ♪ 地獄か或いは…エリュシオン?☆」
チャラいイケメンは特別な事など不要。いつも通りの振る舞いで♀たちを独占。片や助作は(以下略
「うわーん!」
涙流して走り去る助作。その背をジェラルドは手を振って見送るのだった。
「またやろうねー」
●
その後、流離いの果てに助作が眼に止めたのは、メイドたちに囲まれたナイスミドル・矢野 古代(
jb1679)。
古代は数多のおねだりを前にしても、揺らがない、動じない。
素敵なおじさま、私の唇も治療して〜
「ふ、この程度で――! 娘への愛は裏切れねえッ! どんな相手であろうが俺の最愛は娘! 君にある!!」
炎を背負った中年の背中に、熱い! なんて熱い愛情なんだ! と、思わず助作は握り拳。
「俺におねだりは通じねえ! それは娘への裏切りだ!」
首を巡らし、次なる死地(ナースの一団)へと飛び込んでいく農家の次男坊。その果敢なる後ろ姿に、助作は切ない顔でぽつり。
「矢野さん…娘への禁断の愛に目覚めたのか…」
相変わらずの勘違い好きであった。
続いて助作は、神々しい神気を放つエルゼリオと遭遇。
「あれはオレサマの十八番、『スターなオレサマがシャイニング』か!」
……いつから星の輝きをOS化していたんだ、助作クン。
それは兎も角。エルゼリオは神気で人目を集めつつ、大混乱の渦中を悠然と闊歩中。
「この輝きに惚れるなよ」
ちょっとセリフがアレなのは、きっと『おねだり魔』になりかけてるからに違いない。うん、たぶん。
やがてエルゼリオは空へと飛翔。その堂々たる姿にあちこちで黄色い声が湧き上がる。
「始めよう。キスの時間だ(イケてるポーズ付」
「な、なんてカッコイイのだ!」
『小天使の翼』修得。彼の卒業までの目標が決まった瞬間である。
ジョブチェンジ実装はまだですか!?
●
さてさて。
助作が平常運転する中、マジメに依頼を遂行する健全な撃退士たちもいた。
「誘導は任せて! こんな無粋なヤツ、さっさと片付けちゃおうよ!」
龍磨がタウントで♀たちの注目を集め、
「撃退庁です。一般の方々は向こうへと速やかに移動お願いしまーす」
冬真が声を張り上げ、正気な人々を避難させれば、
「幸せそうな人もいるみたいだけど…やっぱり気絶してるんじゃいい事じゃないだろうし、がんばろーか!」
アルクスが誘導を。三人の連携は順調に人々を安全地帯へと連れ出していく。
それを上空から見下ろしながら、那斬 キクカ(
jb8333)は人の動きを観察。
「どこにいるかな?」
敵の能力は敵と同性の者のみ効果を受ける。つまり♂のおねだり魔が多い方にはらぶ男がいるはずだと、敵を捜索するキクカ。
他方、同じ目的で敵を探す奈津は地上でおねだり魔と対峙中。
「鏡見た事あんの? 出直してきなっ!」
おねだりしてくる♂たちを『気迫』で追い、
「…私を満足させられるつもりなの?」
ギロリ、と殺気に満ちた瞳で♀たちを追い、
(それなりに夢ってか希望シチュがあんのよっ!)
少女は悪鬼羅刹の形相でキスの誘惑に抗い続ける。1stキス死守の為、それはもう必死なのだ。
一方、
「あたしの唇は売約済みなのよっ」
と、1stキスどころか誓いのキスも済ませた藍 星露(
ja5127)は、ぷるんとした唇を引き締める。
モデル並みのスタイルを誇る美人な彼女。本来であれば、キスをねだられまくってもおかしくはない。
しかし用意周到な彼女は男装中。それが功を奏して、星露はおねだり魔の肉壁を難なく突破していた。
何だかんだとマジメに情報収集していたらしい秋桜も、らぶ男探して行進開始。
「やられる前にキスしてぽいでいんじゃね?」
と、行く手遮る障害物(♂)に手を伸ばせば、キスしてぽいっ。キスしてポイっ。と、キス→気絶→投げ捨てコンボを繰り返す。
「らぶ男のせいにすれば合法合法」
……良い子は真似しちゃいけませんよ?
時同じくして、橘 優希(
jb0497)は青褪めた顔。
「こ、この状況は……い、居心地が悪い」
と言うのも、優希はれっきとした男の子なのだが、見た目や仕草は完全に女の子。つまり。
俺の唇がお前の愛を待ってるぜ(キラッ
老い先短い爺にも愛をくれんかのう(ギンギン
♂からおねだりされまくりなのである。
対して、佐賀野は自らキス求めて、おねだり魔の巣窟へ。
「可愛い女の子のおねだりを断るなんて、男じゃないよね〜」
え? あなたも女の子…っ、
ちゅっ。バタン。
ちょっ!? 女同士で…っ、
ちゅう。バタン。
俺、男…っ、
むちゅ。バタン。
「おいで…皆愛してあげるよ」
イケボで呼び掛ける姿は、正に戦場に舞い降りた天使(語弊あり
ちゅちゅちゅちゅ×∞。
キスが一人に一回とは限らない。性別だって見境なし。次々と築かれる失神者の山。
あれ? おねだり魔より性質悪くない?
その頃、漸く知夏は助作に合流。
「洗脳された人達の注目を一心に集める事が出来るのは、助作先輩だけっす!」
出会い頭に背中をぐいぐいと。知夏に押し出された助作の目に映るのは、迫り来るおねだり魔(小動物好き)たち。
「先輩! 敵の攻撃を身を挺して防ぐと、女性陣の好感度がうなぎ上りになるっすよ!」
「ぐふふ…任せたまえ、うさぎちゃん」
助作は星の輝きを発動、♂たちを目を潰すと、知夏の手を取って逃げ出した。おお、珍しくまともな行動か!?
「時に兎は独りだと寂しくて死んでしまうと言う。さぁ、オレサマの唇で寂しさを癒すがいい」
……そう言えば、彼まだ『おねだり魔』状態でした。
迫るタコ唇に、知夏は『ウサ式・治療術』で対抗。現れたナース服姿のアウルなうさぎさんが、助作の足元で巨大な注射針を突き上げた、
ずぶぅ。
っぎゃーーーっ!!
「先輩!? あっち!?」
遠く聞こえた叫びに、一般人の誘導を行っていた凛音が反応。
(元気な先輩の姿が見れないと私…)
募る心配と不安を払拭すべく、凛音は見慣れた姿を求めて駆け出していた。
●
「だーめ! 後で僕からお誘いするんだから!」
おねだり攻撃に龍磨が爽やかな笑みを返す。彼は♀たちが接近してくると、抱えていた網や登山用ロープを投擲。足止めした隙に素早く後退することで難を逃れていた。。
しかし、接近を90cm程まで許していたのが災い。大量に押し寄せるおねだり魔に対処追いつかず、いつしか彼は四方八方を囲まれてしまう。
そこへ降り注ぐ、おねだりの重唱攻撃。
Kiss Me! Kiss Me!
「どうせならあそこでキスしようか」
誘惑に負けた龍魔が指差した先は、ピンクのネオン眩しい裏通り。
「今夜は寝かさないよ♪」
意外とノリノリな龍磨は、♀たちを引き連れ繁華街の一角へと消えて行った(※未成年はいい子なので指咥え待機です
そして同じ頃。神気で誘導を行っていたエルゼリオにもピンチが訪れていた。
「い、いい子だから離すんだ…」
♀たちに四肢へしがみ掴まれ、飛び上がれずホバリング状態。密着する柔らかい肌と温もりに、女性に免疫の無いエルゼリオの心はおねだりされる迄もなく決壊寸前だ。
「俺は…俺は負けんっ!」
ちゅっ。
……あっさりと決壊した様です。
更には冬真もまた、可愛らしい♀たちの情熱的なお誘いにヤられかけていた。
「ダ、ダメですってば…」
揺らぐ心を抑え込みつつ、何とか発動したマインドケア。
ふわ。
心癒やす暖かなアウルが、おねだり魔(♀)たちを優しく包み込む。
「大丈夫ですか? さあ早く避難を…って、あれっ!?」
むぎゅっと抱きつく♀たちの瞳はうっとりと。もっと心癒して欲しいとおねだりはヒートアップ。
私たちの唇、癒・し・て(はーと)
くらくらっ×100。
いけない。あれは「このまま堕ちてもいいかな」と思ってる顔だ。しかも一人の♀が冬真にトドメを刺しに近付いている!
お前さん、オババのタイプじゃて(´3`)
うおおぉぉぉぉおおっっ!!
全力疾走する冬真。追いかける齢60越えのお婆ちゃん(元撃退士。
絶叫が、どこまでも冬空に木霊した。
その頃、野々鳥はハイドアンドシークを使って潜伏移動を開始していた。
視線の先に、可愛らしい後ろ姿。どうせなら気に入った娘にキスしたいと、今まで獲物求めて徘徊していた甲斐はあったようである。
ってか、何しに来たんだキミは(答:キスしに来た
「あっ、お嬢さん、ハンカチ落としましたよ?」
さり気無い第一声に、足を止めた後ろ姿。今だ! と、野々鳥は一気に攻勢に出る。
「え? 落としてない? そう…じゃあ俺にキスしてよ!」
おかしい。おねだり魔になってもいないのに、何だこの流暢で脈絡無きおねだりは。
だが野々鳥の期待に反して振り向いたのは、
「え、俺? 俺は上手いよ」
キス100人斬りを達成したばかりの佐賀野(♂)。キスのしすぎで唇がちょっと腫れぼったい。
「…アッー! きみはあのときの可愛い男の子!」
「あれ? 君、魅了掛かってないよね〜。ゲイなの? 俺は女好きバイだけどねー」
くすりと笑う佐賀野の眼が獲物を狙うそれに変わり、野々鳥は慌てて後ずさり。
だが一歩遅し。
佐賀野は野々鳥をがっちりホールド、焦らす様にゆっくりと顔を近づけ始める。
「ち、違うんだ! ちょっと間違っただけ…んっ」
塞がれた言葉。柔らかい唇。不覚にも荒ぶる心。野々鳥のアウルと煩悩は一瞬で、
アッー!
…果てた。
続けて佐賀野も、蓄積していた享楽と言う名のアウルが昇天。
んんっ!(ぞくぞくぞくっ
二人はへなへなとその場に崩れ落ちるのだった。
●
こうして撃退士たちが次々と力尽きる中、光太郎とディザイアはビルの屋上から男女分布や敵オーラの広がりから敵の位置を推察、味方たちへと情報を展開していた。
その情報を元に、キクカが最初に敵の姿を発見。
「影響を受けて無さそうな子供、が彼かな?」
すぐに他の撃退士たちへと通知する。
それを機に、光太郎は避難誘導へと移行。
「おらこっちに野郎がいるぞ女共! さっさと来い!」
♀たちが手を伸ばしても届かない高度で飛翔し、網を投擲。キスキスと活きのいい♀たちを大量に強制退避させてゆく。
「野郎は女を操る方の天魔相手すりゃ良いって事だろ? そうと分かりゃ、行くぜ!」
標的の位置を把握したルビィは、漸く捕まえた助作を伴って進軍開始。
「って、おいこら助作…!!」
ちょっと目を離せば、助作はキスのおねだりに陥落寸前。その耳を引っ張りつつ、ルビィは『気迫』で威圧をかけておねだり魔から助作を護ってあげる。
「ったく、手間かけさせやがって」
色々と落ち着きない男で本当にすみません!
「イケメンに追われる機会というのも捨てがたいけどね」
その頃、キクカは明鏡止水でおねだりを回避中。ダッシュは壁走りで一般人を迂回。空を見上げれば、縮地を発動した百夜が上空を疾駆していた。
程なくして撃退士たちは次々と接敵。
「お仕事の時間だぜ〜♪」
茶々丸が開戦の合図を告げれば、奈津が鬼の形相で封砲一閃。
「お前が原因かぁ〜〜!!」
死に物狂いでおねだりを跳ね除け続けてきた少女はもう色々限界の様です。
続いてみくずが召炎霊符を掲げて火球を、ルーガが上空から封砲を連発。その間隙を縫って、百夜は薙ぎ払い。
キクカは誤射が危険と考え、遠距離から急降下してのライダーキック(仮称。
「私からの愛を君にあげよう。但し、愛の鞭さ」
「この愛もなかなかだっぺ」
見た目に反して意外とタフならぶ男。ついでにMだった。
「一気に撃破するわよ!」
男装中の星露は、縮地で一気に懐に潜り込むと乾坤一擲。
どがぁ! らぶ男がたたらを踏み、
ぷちんっ、ボタンが弾け飛び、
するする、音を立ててさらしが落ち、
ぽろん♪ 締めつけられていた豊満な乳房が零れ出した。
「きゃーーーっ!!!」
「ぶはぁっ!?」
うおぉぉぉぉぉ!!
思わぬ御開帳に慌てて胸隠す星露。盛大に鼻血を噴き出すらぶ男。取り囲んで一斉に色々とおねだりを開始する♂、♂、♂。
らぶ男には刺激が強すぎたようだ。精神的ダメージ、半端ない。
一方、星露は♂たちの異様な熱気に中てられ、為す術無く人波に呑まれてゆく。
「ちょっ、だめ、…あっ!」
そっと目を逸らす天の声。だってほら、ワタクシ紳士ですからネ!
そんな一幕がありつつも、撃退士たちはらぶ男をフルボッコ。撃破は時間の問題だ。
秋桜が闇の力を纏った腕で、らぶ男の小柄な頭を鷲掴む。
「えーと、あっちか?」
次の瞬間、
ぽーいっ。
らぶ男は思いっっっきり投げ飛ばされていた。
「おお、よく飛んだな」
って、何してんの!?
●
時間は少し遡り、視点はらぶ子討伐隊へ。
「見つけた!」
姿を見つけるや否や、優希は頑強な大剣を振りかぶって吶喊。
「こんな……こんなのは愛じゃない!
スマッシュによる重い一撃を叩き込む。追撃かけるディザイアは、蜃気楼で身を隠して上空から急襲。
「影響を受ける前に終わらせる」
叩き込む閃滅。属性攻撃がらぶ子の身に強烈なダメージを刻み込んだ。しかし。
「イケメンだわさ♪」
マスクの下に見えた顔に、喜ぶらぶ子である。
そんな能天気な敵へ、古代が鬼気迫る顔で猛攻撃。
「お父さん、キスしたからこの人と結婚するね、なんて言えるかボケガッ!」
倫理観が割と古いお父さんは、そのドタマを(自主規制)して(ピー)してやらぁッ! とばかりに銃乱射。
その猛りに呼応して、あんこくもゴーストバレットで攻撃。
「貴様のような奴がいるからぼっちが減らないのだぁ! 消えろー!!」
二人ともやたらと力入ってます。
―――と。
ひゅるひゅるひゅる、どーーーんっ!
思いもかけぬ方向から飛んできた塊。秋桜に投げ捨てられた、らぶ男である。
「愛を振り撒くっぺ!」
「愛を振り撒くだわさ〜」
二人揃ったことで無差別に振り撒かれるエンプーサの能力。更にはらぶ男を追ってきた撃退士たちも加わり、場は一気に混沌の坩堝へ。
「ねぇ、アルクス? 巻き込むなら知った相手よね?」
真っ先に影響を受けた百夜は、おねだり魔と化した瞬間に縮地で戦闘区域外に離脱。気付けばアルクスの隣に立っていた。
つつつ、と肩寄せ、腰すりつけ。手を胸に触れる直前まで導きながら、熱い吐息を耳に吹きかける百夜。
「キスしてくれたら触らせて……ううん、もっと凄いこともしてあげる」
「あわわわ」
妖艶なおねだりに抵抗できず、アルクスは目をぐるぐると。
そのまま二人の唇はゆっくりと重なり、予想通り暴走してしまうアウル。
―――ボン!
頭から蒸気を噴出しアルクスが気絶すれば、百夜は昂りすぎちゃったアウルが花火の様に破裂。
二人は仲良く大地へと落下した。
「いかん! なぜか無性にキスがしたい!」
あんこくは敵の能力と彼の矜持の狭間で、人生トップクラスの葛藤中。
「しかし女は怖いから近寄りたくない! しかし男とはしたくない! しかしキスしたい!」
混迷する彼の葛藤は、やがて予想外の行動を引き起こす。
うがぁぁっっ!!
突如弾丸の如く飛翔し、オフィスビルへ突進するあんこく。その先で待ちうけるのは、そう。窓ガラスに映った自分の姿。
彼は葛藤の果てに、自分自身とキスをするという選択肢を選んだのだ!
バリーンぶちゅうガラガラむちゅうガッシャーンちゅどーん!
窓ガラスの割れる音に混じって確かに聞こえたキスの音。そして轟くアウルの暴発音。
己の矜持に生きたあんこくに幸あれ!
「南無南無南無…」
一心不乱に抵抗する奈津は、いつしか必死に念仏を唱えていた。ええ、それはもう必死です。
それ故、背後に忍び寄る助作に気付いた様子はない。勿論、彼はおねだり魔のままだ。
むちゅーと迫るタコ唇。
と、
「……待て」
肩を掴み、ルビィが強引に助作を引き留めた。
「お前、俺を抱いてもいいぞ」
は!? えっと…何を言ってるのかな、ルビィ君?
「ほら…こういうの、好きだろ?」
顔を上気させ、着崩した服から覗く鍛えた胸元。汗ばんだ肌が妙に艶めかしい。遂に彼もおねだり魔に仲間入りした様だ。
しかも彼は同時に『ショック療法で弛み切っている助作に反省を促させよ』という天啓を受ける始末。むしろ彼の状況こそがショック療法ではなかろうか。
それでもルビィは、思わず硬直している助作へ渾身のルパ○ダイブッ!
「すっけさくぅーーーっ(はーと)」
しかしまさかの命中判定失敗! ルビィの唇は偶然通りかかった名も知らぬ撃退士(♂)へ。
ぶちゅう。
………強く生きるんだ、ルビィくん。
「もう終わってんじゃね?」
数々の痴態、もとい惨劇が繰り広げられる中、秋桜は遅れてのんびりと。
「秋桜さん!? …し、知らない人とするよりは…」
瞬間、ここまで誘惑に耐え忍んでいた優希の理性が反転。キスの渇望に導かれるまま、秋桜におねだりを開始。
「…ぼ、僕とキス、してくだs…っん」
ちゅるちゅるちゅる〜〜っぽん。
「その誘い、乗ってあげやう」
秋桜、無駄にイケボ。そして二度目のキスタイム突入。優希、淫魔の愛(エロス)に撃沈した。
「なんか、キス…したい」
加勢に加わろうとしていたダッシュの頬が赤い。どうやら抵抗に失敗しちゃったらしい。
だが心配無かれ。彼女には大切なマスターがいる。そこらの有象無象に唇を許すわけが無い。
「マスター、じゃない…けど、キスしても…いい」
おおぉい?!
助作を見つけるや否や急接近するダッシュ。目を瞑って唇をちょっと突き出した。
だがまだ大丈夫。彼女はキャッチャーマスクを南京錠でロックしている……って、まずい! 助作の唇がストローの様に! あれでは難なくマスクの隙間に入ってしまうぞ!
「先輩、ダメェっ!!」
ビターーーン!
ぶひぃ!
間一髪のところで、駆け付けた凛音のスタンエッジビンタが炸裂。ダッシュは九死に一生を得た。
「しっかりして下さい!」
更に追撃のスタンエッジ往復ビンタ。けれど、助作が正気に戻る様子はない。
「キぃぃスぅぅしぃてくぅれぇぇ!!」
その情けない姿に、少女の瞳から言葉にならない雫が零れ落ちた。
先輩、お願いだから…元に戻って…。
異界の手が助作を縛り付け、小さな手のひらが腫れあがった頬を優しく包み込む。
不格好で、不器用で。だけど、ある意味いつだって自分に真っ直ぐで。
一年あまりの記憶を思い出しながら、少女はそっとその顔を―――引き寄せた。
その光景に立ち会った知夏は目を輝かせ、ルーガは感激のあまり祝砲代わりに封砲一発。
「( ;∀;)オトナになったなー…よかったなースケベ作!」
ルーガさん、最早おかあさん目線なのであった。
●
さて。実はまだ戦闘継続中だ。
古代は度重なるキスへの誘惑に苦戦を強いられていた。
「良いか助作さん、運動するんだぜ…」
悲愴な覚悟を顔に滲ませ、最後の死地に足を向ける古代。ちなみに助作は重体中で返事無し。
「これは理性と相反する本能ッ! この程度で!! 俺の!!! 愛を崩せるか腐れエンプーサがァァァ!!!!」
愛娘へ捧げた愛情は沸点を超え、吶喊するお父さんのアウルはBurningしてExplosion!
「L・O・V・E! 娘ばんざぁぁぁぁぁぁあっぁぁいいいいい!」
ちゅっどーーーーーん!
「娘よ。お父さんは耐え抜いたぞ…」(ぱたり
夕暮れに染まる空に、愛娘の笑顔が……浮かんたらいいなぁ。
今の一撃でらぶ子はもはや瀕死状態となっていた。ここでジェラルドが動く。
「ふふふ…最後に本当の愛のあるキスを教えてあげよう…☆」
らぶ子を優しく抱え上げ、発動する〜Kiss Of Death〜。
むちゅーーーぅ。
重ねられた唇から銀光が迸り、らぶ子の瞳に映る満天の輝き。
「なんて素敵なチッスなんだわさ〜〜♪♪♪」
蕩けるような表情でらぶ子が昇天すれば、それに誘われたジェラルドもまた昇天。
「次は…本当に愛を知れると…いいね♪」
幸せそうならぶ子を見ながら、らぶ男は思った。
「おらも愛が欲しいべ!」
その隙だらけの背に接近する茶々丸。石火による不意打ちは、見事らぶ男のハートを貫いた。
「愛を射ぬかれたっぺ! 結婚してくんろっ!」
「おとといきやがれ!」
涙に撃沈するらぶ男。茶々丸はマスク外し右手で扇子をヒラヒラと。
「あ、これにて、一件落着ぅ〜♪」
こうして何時にも増してヒドイ戦いの幕は下りたのだった。
●
数時間後。
病室のベッドで目を覚ました凛音は、静かに窓の外へと目を向けていた。
舞い下りる雪が少女を優しく見守っている。
「私……」
無意識に口元に伸びた指先。思い出される感触。軽い痺れ。
―――トクン、
大きく波打った鼓動は、一人の男の顔を想い出し。
「……先輩」
少女は切なさに満ちた胸を、ぎゅっと抱きしめた……。