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マスター:橘 律希
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/09/03


みんなの思い出



オープニング



 男は空を見上げた。
 空が白み始めるのはもうすぐだ。
 暁光が夜空に射し込めば、目の前に広がる星たちの輝きはひっそりと、しかし瞬く間に姿を消していくに違いない。
 意識せずに零れた呟きが夜の闇へと消える。
「天の川もキレイなもんだな」
 彼のことをよく知る上司や部下がこの場に居れば「熱でもあるのか?」「Σどうしたんですか!? ご乱心ですか!?」などと言われるだろう。
「バッカ野郎…俺だってロマンチストなんだよ」
 闇満つる深い山林で彼は独り、記憶の中の知り合いたちに愚痴る。けれど張り巡らせる気は緊張を保ったまま。
 闇の中の影を、静寂の中に眠る音を、風が運ぶ臭いを。僅かな異変を何一つ取りこぼすまいと、全身の毛が逆立つほどに集中している。
 今は目立つわけにはいかない。だから明かりは消している。幸いにして既に月も地平線の彼方に姿を隠している。
「…バッカ野郎が」
 ざわめく気持ちが呼び起した言葉。それは闇の中へと零れ落ちる。
 暗闇に慣れた目を足元に向ければ、広がるは大きな池……否、池ではない。
 つい最近まで人々の恐怖の対象となっていた冥魔―――デビルキャリアーの体液だった。
 デビルキャリアーの口べりに立ち、体液の中に向かって言葉を投げかける。
「良い夢、見れてるか?」
 暗闇に沈む表情は読み取れず。
 代わり、握る拳から滴る雫が闇に紛れて黒く、黒く……。

 早く来いよ…。

 どんなに辛くても、悲しくても。暁はやがて訪れる。いや違う。訪れさせなければいけない。
 覚悟を決め、男は静かにその時が来ることを待ち続けていた―――。




「こんな時間にお集まり頂きありがとうございます」
 草木も眠る丑三つ刻と言われる時間。
 20歳ほどの男性事務員が頭を下げて集まった学生たちを迎えた。依頼書のコピーを配布して回り、その中の地図を見る様に促す。
「緊急性を要する依頼なのはご承知の通りです。皆さんに向かって頂きたいのはこの辺り」
 示されたのは、既に赤で×印が記された場所。青森、秋田、岩手の県境とも言える山林。
「ここにデビルキャリアーがいます。と言っても遺骸であり、今やただの巨大な肉塊です」
 目的はそこにいる女性、巌 純(いわお じゅん)。
 事務員は固い表情でいきなり断定する。
「この女性はーーーもはや助かる見込みはありません」
 語る視線は学生たちの先、遥か一点を見つめていた。

「少し背景を説明します」
 事務員が依頼書を捲る。
 学園生ならば知っての通り、先の青森は十和田市の大規模な冥魔討伐作戦は人類側の勝利と言えた。天魔との大規模では初めて明確な勝利を掴んだ貴重な勝ち戦と言える。
 しかし、冥魔との戦いそのものはまだ終わったとはとても言えない状況だ。
 討ち漏らした多数のディアボロは青森各地に逃亡し、散発的な襲撃を引き起こすに至っている。
 そんな中、秋田方面に逃亡するディアボロを哨戒するべく撃退署によって幾つかの斥候隊が構成された。
 青森県外の撃退署から派遣された者やフリーの撃退士で混成された斥候隊は少人数によるチームを組んでおり、敵の動向を探ることを第一に動いている。
「その中の一つが斥候中、敵の襲撃に遭ったそうです」
 それは予想外の出来事であったらしい。斥候隊は僅か3人。対して敵は倍程度。撤退すること叶わず、やむなく応戦することになる。
 幸運だったのは、敵の一群が先の大戦でダメージを蓄積させていたことだろう。斥候隊は辛うじて敵を撃退する。
 だが、不幸だったのは撃退士の一人が―――致命傷を負ったことだ。
「それが先の巌 純です。彼女は一時期この学園にも在籍していました」
 しかし直ぐに家庭の事情で中退し、その後はフリーの撃退士に転身したと言う。
「彼女は今、デビルキャリアーの体液によって辛うじて延命している状況です」
 デビルキャリアーの体液には最低限の生命活動を維持させる機能があることがわかっている。そして、この体液は本体が活動を停止しても数日程度は効果を持ち続けることも。
 致命傷を負った直後、同じ隊に居た撃退士の判断でその体液に沈められたそうだ。
「敵の中にデビルキャリアーがおり、これを撃破できたのは………不幸中の幸いと言えるかもしれません」
 この時、淡々と説明をこなしていた事務員の目に初めて感情が灯ったのを学生たちは見逃さなかった。
 それが何なのか理解するよりも早く、事務員は言葉を紡ぐ。
「本題はここからです」
 目を閉じ、すっと息を飲み込み、何かを決意した表情になる。

「この依頼の目的、それは私をそこまで護衛して頂きたい、と言うものです」




 自らを雅倉 暁(がくら あきら)と名乗った青年の瞳が雫で揺らぐ。しかし、それが頬に流れることはない。
「当該の女性は……巌 純は、私の幼馴染であり――恋人です。純がいるという場所には今、斥候隊の二人が護衛に当たってくれています」
 淡々と説明していたのではない。気丈に振舞い続けなければ、心が決壊してしまうのだろう。
 それが証拠に暁は再び感情を飲み込み、能の様な面が唇だけを動かす。
「助かる見込みが本当にないのかどうか。それは私にもわかりません」
 感情は込めずに。しかし願いを込めて紡がれる言葉。しかしその裏にはある覚悟が秘められている。
「何にせよ、私はその場に行かないといけません」

 その後に続く言葉は、深々と頭を下げた姿で伝えられた。

 ―――彼女の最期を看取る為にもお願いします。
 


リプレイ本文



 闇に埋もれる木々の中で、ライトが浮かんでは消え、浮かんでは消える。
 茂みをかき分け、闇を踏みしだき。一刻も早く目的地へと、無数の人影が先を急ぐ。
「雅倉さん、大丈夫ですか?」
 雁鉄 静寂(jb3365)は、黙して語らない背中を追い続けていた。
 時折差し出す気遣いは、けれど闇に阻まれて。
 辿り着く恐怖、辿り着けぬ恐怖。
 滲み出す葛藤とは裏腹に、先往く暁の足は止まることなく、躊躇うことなく。
 揺らぐ心を抑えつける後ろ姿に、静寂は言葉を無くす。
(別れとは寂しいものです。特に死別とあらば苦痛は耐え難い)
 例え言葉が届かなくとも、せめて傍らで支えに。
「最後までエスコートします」
 呟きが示すは内なる決意。静寂は駆ける速度をあげ、そっと暁と肩を並べた。

「最後の対話くらいゆっくりさせてやりたいものだな」
 蒼桐 遼布(jb2501)が闇の向こうの未来に目を伏せる。
 暁と純。おそらくは避けること叶わぬ2人の結末。
 それを与えたのは彼の同胞であり、すなわち冥魔。遼布の顔に浮かぶ、微かな苦渋の色。
「蒼桐さん」
 その表情に何かを感じて、黄昏ひりょ(jb3452)が想いを紡ぐ。
「別れが避けられぬ運命ならば、俺は二人の時間を少しでも長く作ってあげたい」
 心からの想いと願いに、春名 璃世(ja8279)が言葉を繋ぐ。
「最期に言葉を、想いを交わせるように」
 瞳に宿る輝きは、言葉よりも多くの想いに溢れ。
「俺たちにできるのはそれだけだ」
 迷いの無い、あまりにも明確なひりょの言葉。
 遼布は2人の想いに頷きながら、闇に尾を引く悲壮な覚悟を追い続けた。

「もう少しです」
 程なくしてあがった暁の声は硬く。GPSで座標を確認する顔に表情はない。
 その目は死して尚、大地に佇むデビルキャリアーの影を捉え―――そして見開かれる。
「あれはっ!?」
 突如、闇夜を染め上げた赤光。それは巨大な肉壁の向こう側で揺らめき、瞬く間に消え失せる。
「炎?」
 誰ともなく挙がった疑問。
 と、同時にデビルキャリアーの裏から聞こえる怒声。

 くそがっ! 死んでも守るぞ!

 瞬間、御堂・玲獅(ja0388)は理解する。
「天魔の襲撃に違いありません」
 発したのは、豊富な経験から裏付けられた確信。
 その声に弾け、一同は一斉に動き出す。
「行くわよ!」
 陽波 飛鳥(ja3599)の初動は誰よりも早く。阻霊符を発動しながら地を蹴る足は、眼前の巨大な骸の右側へ。
 何が起きたかを正確に把握する為に。事態が手遅れになる前に。
 宙に跳ねる赤の髪と青のリボンが、全力で夜を疾走していく。

 他方、反対側で煌めくは純白の軌跡。
 佐藤 七佳(ja0030)は光翼の如きアウルを背に広げ、闇を裂いて駆けていた。
 ナイトゴーグルを着けた彼女の動きは無駄なく、最短距離を。
「不意討ちのつもりなの?」
 突如巻き起こった風の渦。しかし、それで彼女の全力が止まることはなく。
 旋風を突き抜けた彼女の目に映るは、木々と闇の狭間に漂う人型の天魔。その数、三体。
「緑の一体はあたしが」
 逆巻く風の中に立つ翡翠色の人型と対峙し、その背中に届く、息も絶え絶えの声。
「遅えんだよ…」
 肩越しに一瞥すれば、血染めの撃退署の男たちが膝を折る。
「大丈夫なの?」
「俺たちはいい。それよりも、これ以上はこいつが持たねえぞ」




 撃退署の男たちへの攻撃に巻き込まれたのか。それとも区別なく敵と認識されたのか。
 いずれにせよ、既に朽ちていたデビルキャリアーの身には無数の罅が刻まれている。
 おそらく持ってあと数撃。それで巨躯は崩壊し、中の体液が流れ出す。
 それが男の見解。
 そしてそれは、純の延命が終わることを意味していた。

「これ以上はやらせないんだから!」
 事態を把握しながら、璃世が敢然と敵の前に躍り出る。
 敵の気を惹く為にタウントを発動すれば、ターコイズグリーンのオーラに浮かぶ白き羽の幻影がそれに呼応して、美しく舞い上がる。
 その光景に誘われ、木々の中から姿を現したのは紅蓮と濃紺、2体の人型。
「まだです…」
 玲獅の警告が更なる敵の存在を知らしめる。
「正面に1体。奥にも1体……動いています」
 生命探知が捉えたのは、木々の先の暗闇に沈む影。
 仲間に場所を示し、自らは盾を掲げて前進。
 これ以上の敵の進撃を拒むべく、木陰に潜む褐色の人型へと迫ってゆく。
 その間に、飛鳥は木々の奥にライトを向けていた。
「きっと指揮官よね」
 敵の動きはどこか統制が取れている。ならば、それを指揮する存在がいるに違いない。
「どこにいる?」
 遼布も目を凝らすが、山の闇夜は死角そのもの。明かりの中に浮かぶ影は見当たらない。
 踏み出せない一歩。その背中を仲間の声が押す。
「ここは俺たちに任せて、奥の敵をお願いします」
 告げるひりょは韋駄天を発動。二人の脚に与える風神の力。
 飛鳥と遼布は声に応え、仲間を信じ。次の瞬間には、疾風と化して闇の中へ飛び込んでいった。


 戦いの喧騒はすぐ傍で。
 暁を先導するのは、手を引く静寂。
「雅倉さん、行きましょう」
 見つからぬように。気取られぬように。
 ライトを消し、サイレントウォークで足音を忍ばせる。夜の番人で得た視界は、闇の中に命の残り火を探す。
 やがて接した冥魔の骸は、隔世の壁のように高く、高く聳え。
「今のうちです」
 静寂が促し、けれど暁は動けない。
 避けがたい運命を実感し、覚悟を決めた足は竦み、震える。
「お気持ちはお察しします。だけど…」
 躊躇う背中に手を伸ばし、温もりを通して静寂が伝えるのは彼を導く想い。

 彼女はきっと待っています。

 一拍の後、動き始めた足が後ろを振り返ることはなく。
 見送る静寂が誰にもなく問いかける。
(せめて最期くらい、愛し合ったものと居たいと思うのは贅沢なことでしょうか)
 否、最期なればこそ、最大の贅沢を。
 邪魔などさせない。静寂は銃を手に、周囲へと鋭い視線を向けた。




 ガントレットに仕込まれたワイヤーが宙に舞う。
「最期を看取る、傍目には綺麗な行為に見えるわ。でも、そんな事の為に殺される命は救われないわね」
 それは憐憫ではなく、言葉を変えた七佳の死の宣告。
 相手が何であろうと命を断つ行為を悪と見做し。それを為し続けた果てに、本当の正義が見つかると信じ。
 目的の為に薙ぎ払われる少女の腕は躊躇いなく。
 疾駆する速度を乗せた無数の斬撃は風を蹴散らし、絡んだ翡翠の人型にアウルを叩き込んだ。

「私は最後まで諦めません」
 発動した審判の鎖は玲獅の意思を乗せ、褐色の人型へと絡み付く。
 だが、その狙いは叶わず。
 動きを止めるべく具現化された鎖は、敵が天界に身を置く存在であることを知らせて霧散する。
「まさかサーバントですか!?」
 代わり、頬を掠める血。巻き上がった砂塵。
 しかしそれらに怯むことなく、玲獅は冷静に次の行動に打って出る。
 白蛇の盾を構え、人型の従者へぶつける自らの身体。
 止まらぬのならば、押し返すまで。
 手段は何だって構わない。今大切なのは、敵の手が後方に伸びぬこと。暁と純、そして傷つく斥候隊を護ること。
 玲獅は己のすべてをかけ、強引に敵の身体を抑え込む。
 その横顔に、濃紺の人型が腕を向ける。
 どこからともなく集う夜露は水鏡のように。その鏡面から放たれる無数の飛沫。
 対して、展開されるアウルの防壁。間に割って入った璃世が、横殴りの針雨を防ぎきる。
(雅倉さんと巌さんだけじゃない。ここにいる皆にも大事な人がいる)
 そう。戦いに臨むと言うことは勝つだけではない。いつだって護る戦いでもある。
「皆は私が守るから!」
 迫り来る炎の渦。放つアウルを再び防壁に。それは大切な友人の為に。
「春名さん!」
 防壁に守られるひりょの傍で、炎に巻かれた璃世が血を流す。
 けれど、その瞳に後悔の色は見えず。
「背中は黄昏くんが守ってくれる。私は前を見て盾に徹するだけ…!」
 湛える瞳の輝きが、眼前に立つ敵を射抜く。
 その信頼に応えるべく、ひりょは治癒膏の発動。
「背中を任された以上その信頼に応えなきゃな」
 手は休まることなく、修験護符を掲げて炸裂符を撃ち放つ。
 前衛で身体を張る友人を支えるべく。そして何より、惜別の刻を護るため。
「恋人達の再会の時間……邪魔させはしない」
 薄青のオーラを身に纏い、ひりょは四種の護符を駆使して敵に挑んでゆく。


(私は母の死に目にさえ会えなかったから)
 飛鳥の胸に回帰する記憶。母の面影。
 抱えていた寂しさ。ぶつけたかった憤りと文句。そして…大好きだったという言葉。
 伝えたかったことは山ほどあれど。死に分かれてしまえばそれも叶わず。想いは伝えられてこそ、意味を得ることを飛鳥は知っている。
「絶対に2人を会わせる。あんな想いだけはさせない!」
 誓いを力に。願いをその手に。黒の世界に吹き上った灼熱の焔の如き黄金のアウル。
「炙り出してあげる!」
 木々の上、幹の裏、藪の中。
 焔のリングから生み出し赤弾が、陰に弾け、追い立てる。
「ようやく姿を見せたな」
 慌てて藪から現れた白き従者へ、間髪入れずに飛びかかるは蒼銀の雷。
 四肢に纏いしオーラを迸らせ、遼布が雷蹴打を叩き込む。
「削龍active。Re-generete。悪いが時間が惜しいんで最初から振り切っていくぜ」
 着地と同時にゾロアスターを掲げ、猛る血は龍の力に覚醒。右腕から舞う血飛沫が、遼布の一部を龍体に変異させる。
 対して、敵が掲げるは白き腕。掌が帯びた白の輝きは、背後で交戦する人型を包み込む。
「回復役でもあるようね。早々に落とさせてもらうわよ」
 見る間に癒される敵の姿を横目に、飛鳥は忍刀・血霞を構え直した。




 静寂は耳を澄ませる。
 敵の存在を察知する為の行為は、喧騒の中で別の音を拾っていた。
「もう、謝るな…」
 愛する者へ届ける暁の声は気丈に。それに応える声は夜空に溶けて聞こえない。
 無意識に力籠められる銃握る両手。それは祈るように。願うように。

「すばしっこいのよ!」
 飛鳥の薙ぎ払いし忍刀が空を切る。
 顔に浮かぶは焦りの色。されど、それは単調な攻撃を呼び、敵は淡々と身を躱し続ける。
「必ず会わせるって誓った。絶対にやり抜く。だから…っ」
 一撃加えようと、薙がれた切っ先は大きな弧を描き、それは易々と避けられ―――。
「引っ掛かったようね」
 次の瞬間、突如転じた動きは流れるように。身を沈ませて放たれたるは渾身の掌底。
 それは単調な動きに慣れた従者の中心を捉え、宙へと大きく吹き飛ばす。
「お前らは2人の邪魔だっ!」
 その隙逃さず、宙駆ける遼布の一撃は重く、早く。天界に仇為す冥魔の極性をも帯びて。
 振り下ろされた剣閃は、従者を大きく削いで叩き落とした。

「あたしは、あたしの求める答えに達するまで、斬り捨てる事に躊躇は無いわ」
 七佳がアウルを多重魔法陣状に組み上げる。
 彼女が追い求めるもの。『すべてのものにとっての正義』。
 それに僅かでも近付こうとするが如く。
 多重魔法陣から放射された光の束が、彼女の身体を前へと弾けさせる。
 その行く手を阻むのは、自由を取り戻した翡翠の人型。巻き起こるは風の檻。
 しかし。煌めく新緑の鋼糸は風の檻を斬り裂いて。
「せめて苦痛なく葬ってあげるわ……あたしの独善だけど、苦しんで死ぬよりはきっとマシよね」
 次の瞬間、少女の手は翡翠の人型を、八つ裂いた。

「皆、私から離れて!」
 璃世がタウントで惹き付けられた敵に応戦する。
 閃く忍刀が訴えるのは、範囲攻撃に仲間を巻き込まないという強い意思。
 傷つくのは己だけでいい。それが壁となった自らの役目。
 その背中を、支えるのは力強い声。
「春名さん一人に背負わせはしない!」
 護符を手に、放つ支援攻撃は優しさと。癒す回復の手はいたわりと。
 そんな二人を後押しすべく、玲獅がフェアリーテイルから光弾を乱れ放つ。
 縦横無尽に敵の死角を突いた彼女の攻撃は、敵の注意を引き、意識を逸らし。駆けつけた飛鳥と遼布に、不意を突く隙を与える。
「お待たせ!」
「双極active。Re-generete。これから援護に回る」
 遼布の双撃は2体の敵を打ち、飛鳥の薙ぎ払いが敵の体勢を崩させる。
「絶対に2人の邪魔はさせまんから」
 玲獅が改めて示した全員の決意。その数々の想いの前に、もはや形勢が翻ることはなく。


 空はいつしか、白み始めていた―――。




 戦い終えた撃退士たちが、デビルキャリアの元へと駆け戻る。
「二人は?」
 息を弾ませた飛鳥の問いに、静寂は空を仰いだ。
「朝陽を…見るそうです」

 寄り添う影の向こう側で、夜明けが近付いている。一つ、また一つと消えてゆく星の瞬き。
 ゆっくりと移ろう生と死の狭間で、七佳は自問する。
(命断つものを悪とするならば、今ここで命を繋ぐことができればそれは正義なの?)
 しかし、それは叶わぬ疑問。死神から見逃される術など持つはずも無い。
 戦い、勝利し、それでもやはり変えられる運命。
「どうすれば…いいんだよ…まったく…」
 同族の所為で迎えた結末に、遼布の心は項垂れる。痛みを感じるのは身体ではなく、心。握り締める拳を伝う雫が、大地に紅を残す。

 やがて、闇裂く光が辺りに射し込む。力強く、優しく、平等に。
「見えるか?」
 暁の言葉に応えはなく。返るのは、寝息とも言える穏やかな呼吸音だけ。
「消えていい命など存在しません。無様でも…私はあがきます」
 差し出された玲獅の手が、純の背に優しく添えられる。
 『サクリファイス』。純の奥底へと流れ込む、玲獅の生命力、そして想い。
 それはほんの僅かに、純の瞼に力を与え。
「…夜明け……あなたのことね」
 暁光を眩しそうに見つめながら、

 純は、くすり、と笑った。

(おいて行かれる方が辛いって思ってた。でも…おいていく方も辛いんだ…)
 璃世の脳裏に浮かぶ、大好きな笑顔の数々。
「会いたいな…」
 そう思えることが、幸せなのだと、今は思う。
(俺にもいつかこういう時が来るかもしれない)
 並び、ひりょは明けの空に誓う。
 仲間の笑顔を護ることを。その為に全力を尽くすことを。そして、己が命を省みることを。

「ちゃんと、お別れさせられたよ…」
 瞼の裏に浮かぶ亡き母に微笑みかけ、飛鳥は溢れる感情が堰を切らぬよう空を見上げる。
 広がるのは、暖かな黄金色の世界。そこは喜びと哀しみの色に彩られて。
「雅倉さん…巌さん…」
 静寂は冷えきった掌をそっと陽光から隠す。
 デビルキャリアーから引き上げた純の身体は、ただただ冷たく。
 その冷たさだけが、彼女が存在してかた証のように思えて。今はまだ、その記憶を温もりで上書きすることなど、できそうにもなく。






 そして、巌 純は、

 愛すべき者に寄り添われ、

 愛すべき者の光に包まれながら、

 その生涯に、幕を下ろした。



 ありがとう

 遺した言葉は誰にでも無く、あの美しき黄金色の空に向けられて。

 流れ落ちた一粒の滴は、暁に消える最後の一等星の様に―――。





 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
金焔刀士・
陽波 飛鳥(ja3599)

卒業 女 阿修羅
祈りの心盾・
春名 璃世(ja8279)

大学部5年289組 女 ディバインナイト
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師