●暑さで頭が蕩けそうだ
ジリジリジリ……。
「サーバント退治を口実に涼む気はないけれど……」
氷野宮 終夜(
jb4748)がまだ見ぬ泉を想いを馳せる。
早く冷たい泉で泳ぎたい。そう思わずにいられない程の猛暑が一行を襲っていた。
「折角ですし涼んで帰れると良いですね!」
暑さに負けじと、桜花 凛音(
ja5414)がいつもよりも元気に振る舞う。そうでもしないと戦う前に気力が萎えそうだからだ。
「今回の敵…は…ユニコーン…幻獣」
凛音に虫除けスプレーを吹き掛けてもらいながら、ダッシュ・アナザー(
jb3147)はある一点を見つめる。
「…伝承通りなら、穢れ…」
こくり、と頷いた先には静かにやる気を滾らせる男が一人。
「ぐふふ…熱い、熱いな」
夏の猛暑も何のその。鼻息荒く、むしろ夏よりも暑苦しいオーラを振りまく我らが助作。
「おっと、お嬢さん。ここは少々ぬかるんでいる。汚れぬように気を付け給え」
紳士っぽい振る舞いで鴉乃宮 歌音(
ja0427)に気を配っていた。
「ああ、ありがとう」
鼻の下ゆるゆるな紳士を相手に、歌音はにこりと微笑み返し。
歌音は歴とした♂。まごうことなき男。
だが、中世的な容姿と声。キャスケットにパーカーで身を包み、ハイキングにきた都会の女の子風の姿。助作が彼を♀と認定するのも致し方のないことだと言えよう。
よって、助作の目線では同行者は全員女性。ハーレムと言ってもいい状況だ。しかも服が脱げてすっぽんぽんになるかもしれない依頼である。
否が応でも盛り上がるテンションに彼の理性は早くも崩壊。既にトランクス水着一丁で、シュノーケルと浮き輪を手に万全の態勢を取っていた。
これがこれから戦いに赴く男の姿かと思うと天の声は泣けてくる。敢えて言おう! 今日の彼はいつになくバカだと!
そんな彼への新崎 ふゆみ(
ja8965)の率直な感想。
「わあー、なんてゆーか…チョイキモってやつだねっ☆」
……チョイを使ってる辺り、一応先輩を立てようとしているに違いない。優しい、優しいな、ふゆみさんは。
一方で、チョイキモな男に躊躇いなく自ら声をかける猛者が一人。
「助作センパイ久しぶりー!」
半年ほど前に助作と依頼を共にした みくず(
jb2654)である。あのとき彼女は『甘えん坊の妹』として接してくれたものだ。
「あれからホントのお兄ちゃんに再会できたよ! そのうち紹介するね!」
おお、それは喜ばしい。きっと助作も喜んで…
「あ、兄!? しょ、紹介!? そ、それはつまり、お、オレサマをか、カ、彼氏…として…(ドキマギ」
……喜んでいた。別の意味で。
猛暑で頭蕩け中とは言え、彼の頭はどうなってしまっているのだろうか。
「これは重傷、いや! 致命傷なのだわ!」
ここまで助作を観察していた少女、天道 花梨(
ja4264)が大正解を口にしてくれた。
彼女は助作を『超高ランクの非モテ非リアの存在』と認定し、しっと団の使命として助けに来てくれたのだ(※しっと団については彼女のマイページをご参照下さい)
「しっと団は全世界の非モテの味方なのだわ! 安心して頂戴!」
使命に燃える花梨だったが、ぽむ、と助作の肌に触れた手がアラサーの汗でじっとりと濡れて軽く後悔していたりする。
「なるほど…ユニコーンは非モテ。そしてそんな天魔を味方に引き込んでいるとは…。しっと団…侮れんな」
他方、今度は謎の勘違いをする助作。もう誰か彼の頭の中に冷水をぶっ込んであげてくれないかな!
ミーンミンミンミン……。
蝉の声が暑さを掻き立てる。
この日の予想最高気温は40度を超えていた―――。
●マジメな戦いだ
滝の様に滴り落ちる汗を拭いながら、一行は山林を抜け、遂に目的地へと辿り着いた。
清冽なる水をこんこんと湧き出す泉。程よい木漏れ日。肌を撫でる柔らかな風。そして、水を操る力で下流への流れを堰き止め、豊富な水で水浴びを楽しむユニコーンの姿。
一行はその光景を前に思った。
なんて涼しそうで、気持ちよさそうで、羨ましいんだ…、と。
「っとと、こんな考えではいけない。油断せずに頑張ろう」
終夜が慌てて首を振り、泉を堰き止められて困ってる人達がいることを思い出す。
一方、戦いを前に遠くから助作に声援を送るふゆみ。
「スケサクさんっ、がんばってねっ…ふゆみ、キタイしてるんだよっ☆ミ」
「ぐふふ…任せておけ」
尤も、彼女の期待は囮や生贄だったりするのだが……まぁ期待のされ方はいつも通りである。問題ない。
「ユニコーン…。典型的な幻獣ってやつだねぇ。あたしも見た目だけだと妖怪っぽいって言われてたけど、でも人に悪さはいけないな、うん」
みくずは頷きながら思う。お腹空いたなぁ。目の前にいるあれ、お馬さんだよね。お馬さんと言えば桜肉。一度食べてみたいなぁ。馬刺しとか。
……えっと、天魔は食べられないからね?(汗
何はともあれ。一行は暑さにへばる前にと一斉に行動を開始する。
終夜が正面から突撃し、慌てて助作がその後に続けば、残り者はユニコーンを囲むように散開。前衛と後衛で二重の円陣を組み、互いの位置が重ならないように位置取りをする。
「私が相手になるぞ!」
間合いに入るや否や、終夜がラピスハルバードを振り下ろした。
それをユニコーンは軽やかなステップで躱すと、水の奔流で反撃に打って出る。
咄嗟にアジュールガードを活性化し、水流を受け止めた終夜。絡みつくような水が肌を撫でるも、なんとか攻撃を無事に耐え凌ぐ。
続き、攻撃直後の隙を狙ってダッシュが目隠しを、みくずが炎陣球を放った。
「貴方の目は、見えない」
「おうまさんごめんね〜、ここにいると迷惑な人が多いんだって!」
二人の攻撃は命中するも、本命のBS付与には抵抗されてしまう。
「ならばこれでどうだ」
西部のガンマンの如き早撃ちで、ユニコーンの脚へと放たれると放たれる歌音のヴィントクロスボウ。機動力を削ぐための一撃は見事に前脚を捉える。
が、次のターンには純白の角が輝いたかと思うと見る間に傷が癒えてしまう。
「少し黒寄りになる程度に調整していきましょう」
凛音の言葉に撃退士たちが頷く。
このユニコーンは攻撃者の純粋さと穢れ具合によって角の色を変化させる。
純粋な者が触れたり攻撃すれば角は白から黄金に変色していき、回復能力が向上していく。
逆に穢れた者の攻撃や接触で角は黒く変色。回復能力が発動できなくなる代わりに水を操る力が強くなってしまう。
要は角の色を上手く調整することが戦いのキーポイントと言えた。
「…でもこの中に純粋扱いの人がいるのかしら…ちょっと自信ないのだわ」
方針を理解しつつも、ユニコーンの背後、泉の上を水上歩行で陣取った花梨が苦笑する。
「えーい、ばーんばーん★ミ」
ふゆみはスナイパ―ライフルを構え、かなり後方からユニコーンを狙い撃っていた。
(だってふゆみ、フツーのジョシチューガクセイだもん…キヨラカとか、そんなのとっくに忘れたんだよっ…)
キヨラカではないと自認する今どきの女子中学生に天の声は切ない気持ちを隠せない。
「だいたい、『ケガレなき』とかゆってるあたりがヘンタイくさい天魔だよねっ、ブッコロ☆さないとねっ(・∀・)」
溢れるアウルは闘気か。はたまたヘンタイへの怒りか。
しかし、遠方に離れて触れる機会を無くそうと、攻撃が当たれば結局同じことで。
戦いは続き、自然と各々の属性が見えてしまうのだった……。
※各人の色変化を書くとセクハラ認定されそうなので、セリフでお察し下さい。尚、色変化なしもあります。
「ふむ。まぁ、こんなのものか」
「ちょっと悔しいのだわ」
「何だか恥ずかしいですね」
「あれー? イガイだよ☆ミ」
「…お腹空いたなぁ」
「…よし…セーフ」
「これは喜んでいいのだろうか?」
……結構バレバレな気がするが気のせいです。
●
そんなこんなで角の色をやや黒で調整しながら戦い続ける撃退士たち。
既に終夜、ダッシュは魔装を剥がされ、学園指定のスクール水着で戦っていた。
「わんだほー!」
鼻の穴を広げながら二人の負傷をライトヒールで癒す助作。警察がいたらお縄になること間違いない無しだ。回復される二人も嬉しくないに決まってる。
「なんか、あきらかにジャクテンっぽいよね、あれ(・∀・)」
「角がなくなったら、どうなるの…かな?」
ふゆみがライフルで角を狙撃し、ダッシュが兜割りを仕掛ける。更には歌音が『突撃兵』で追撃。
だが、連携なくして部位を狙うのは難しい。攻撃の手は虚しく空を切る。
「ほら、がんばるわよ しっかりしなさい!」
「ぐふふ…お兄さんのかっこいいところを見せてあげよう」
花梨(小学生女子)に発破をかけられ「オレサマ、期待されている!?」と意気込む助作。この際年齢は関係無しだ。
彼はクーゲルシュライバーを手に雄叫びをあげて突進した。
「先輩、頑張って!」
凛音の純粋な声援が飛ぶ中、歌音は冷静に結果を分析。
「彼に穢れがある事は見てとれる。触れればドス黒くなるか、よくても白だろう」
とは言え、V兵器とは言え所詮ボールペン。そもそも当たるわけがない。
「ウホァッ!」
ズルッ! ヨロッ! ガツッ!
……当たっちゃいました。
ぬかるみに足を取られた予想外の動きに、お馬さんも対処できなかったらしい。ダイスの神様気紛れ過ぎです。
と、そんな場合ではない。
見ればユニコーンの角は深淵の闇とか虚無の暗黒とかを突き抜け、助作の穢れ、つまりは煩悩によって白美な体をも黒く変色させていた。
もうなんて言うか、見ているこちらが気の毒なほどである。
それほどに今日の助作はアレなのだ!
穢れてるにも程があるだろ!
怒り心頭のユニコーンが水牢を発動。終夜が咄嗟にシールドバッシュを放つも僅かに間に合わず、助作と傍にいた終夜を束縛した。
「もがもがもが。ぶくぶくぶく」
水牢の中で踊り狂うカナヅチの助作。水着姿の終夜と一緒で喜んでいるようにも見えるがきっと気のせいだろう、うん。
一方、終夜はそんな助作に気付くことなく、マイペースに水牢から脱出していた。
置いてけぼりの助作。だが所詮、束縛効果は20秒程度。放っておいても死にはしない。戦闘を続けよう。
大体、当のユニコーンはまだ怒り冷めやらずといった様子だ。純粋な奴が一人もいないじゃないか! とむしろ猛っている。
このユニコーンにとっての『純粋さ』とは赤子の様な『無垢な心』にどれだけ近いかであった。
だが今、助作の煩悩に浸食されたユニコーンはその定義が捻じ曲げられている。
つまり、生まれた直後の赤子の様な『姿』、イコール『すっぽんぽん』。服を着ている存在は皆『穢れ』と見なしているのだ!
穢れを根こそぎ洗い落としてくれる!
水濡れの黒々とした角が妖しくテカったかと思うと、水の奔流が四方八方へと闇雲に放つ。
煩悩の力が暗黒面に落ちた一角獣の力を跳ね上げたらひい。先程までとは異なりその速度たるや段違いである。
それでも辛うじて水の激流を避ける撃退士たち。ますますお怒りのユニコーン様。
ざばーん! すっぽーん!
遂に水の激流が一人の少女を捉えた。
「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」
服が脱げてもスクール水着をばっちり着てきたので大丈夫、と安心していた花梨。今、自分の姿に気づいたら赤面して発狂間違い無しだ。
ストライクゾーンの年齢ではない為、助作に注視されなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。気づいていたら色々アウトである!
ざばーん! すっぽーん!
続いて、凛音が煩悩の毒牙にかかる。
ひん剥かれた彼女に残されたのは「今年の流行なんですよ!」と店員さんや友人に勧められるがまま、ゴリ押しで買わされたペイズリー柄のエスニックなバンドゥビキニ。
なんと! スクール水着ではない!
「いざ人前で着るとなると恥ずかしい…です」
恥じらいを見せつつ反射的に放たれる凛音のスタンエッジ。
放たれた雷掌は水牢から脱出したばかりの煩悩男へ一直線。遠隔ビンタ(往復)を炸裂させていた。
スタンする助作。それが効を奏したのか、場の空気は一気に正常化。撃退士たちは冷静にユニコーンへと畳み掛け始めた。
「不埒な、獣には…断罪を」
既にすぽーんされてたダッシュが、怒り心頭の兜割り。意識を刈り取ったところへ放たれる歌音の冥魔の力を込めた歌音の矢。
『元ハ乙女二仕エシ天獣ヨ。猥褻行為ノ疑イニヨリ、天獄送リニ処ス』
もはや回復能力を発動できないユニコーンに撃退士たちは怒涛の攻撃。
やがて、ボロボロと崩れ落ちる一角獣の角。
天獄送りはむしろそこの男だろう!
視線で絶叫しながら、ユニコーンは穢されてしまった体を大地に横たえるのだった。
●長閑なひと時を満喫だ
「ふぅ…気持ちいい…」
終夜は泉で身体を延ばし、ぷかぷかと気持ちよさそうに浮いていた。
戦闘後、自らの姿に赤面していた花梨も今や元気を取り戻し、浮き輪でぷかぷかと浮かびながらアヒルさんのおもちゃで遊んでいる。
「帰りに水路に水が戻ったか見に行きましょう」
「やはり戦いの後は一服するに限る」
泉の脇では凛音が皆の為にお弁当やお茶を広げ、歌音は持参した紅茶でティータイムを始めていた。
「ほひいひゃんがふふっへふへはの」
ナチュラルなタンキニに身を包んだみくずは水気より食い気。あぐあぐと兄特製五段重ねの重箱(×3つ)を平らげ中である。
戦闘後の長閑なひと時に、我らが助作はと言えば…
「ばぶべべぶべ!」
…簀巻きで逆さ吊りされ、泉に頭から浸かっておりました。
「ゆっくり…涼んでね?」
穢れを払う為に頭を冷やして貰おうと言うダッシュの優しさなのである。決していじめではない。多分。めいびー。
「うーん、スクール水着だと胸がきつくってえ(*´ω`)★」
D-Cupの胸を窮屈そうにするふゆみの声に、助作が根性出して首を180度捻る。
「も、もう少し…(クワッ!」
と。
ざぼーん!
「あ、落ちた…」
縛りが甘かったのだろう。助作の体が簀巻きからずり落ちた。大事なものを簀巻きに残して。
もがもがと溺れながら泉の底へと沈んでいく『すっぽんぽん』。
だがその顔は菩薩の如く穏やかに満ち足りていた。
何故なら見上げる先には泉で戯れる少女たちのあんなところやそんなところ!(ローアングル)
イッツァパラドゥアーーーイスっっっ!!(SOS、心の叫び)
その後、大量の鼻血と共に土左衛門の如く水面に浮かび上がっきた助作に、
ふゆみがライフルで狙撃したり、凛音の遠隔スタンエッジ往復ビンタを浴びせたり、他の女性陣たちが遠巻きに袋叩きにしたのは言うまでもない。
「助作(S)、乙女たちの前で(O)、すっぽんぽん(S)…か」
歌音がやれやれと首を振る。
夏の空は高く、気温も高い。そして助作の欲望も限りなく。
夏が終わる迄にはいつもの紳士的な彼に戻って欲しい。切に願う天の声なのであった…。