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あ、ありのまま今起こった事を話すぜ…!
家に食料がなくなったからコンビニに買いに出たら、いつの間にか変な並木道にいた。
何を言ってるか分からないと思うが、私にも(ry
「はぁ……マジだるいぉ。太陽出てる時間に外出るんじゃなかった」
降り注ぐ初夏の陽射しの下、秋桜(
jb4208)が木陰のベンチで蕩けている。
普段はメイドなコスプレの彼女だったが、今日はタンクトップに七分丈のデニムパンツというボーイッシュな姿。
そんな彼女に声かける一つの影。
「オ、オレサマと一緒に墓に入らないか?」
第一声でかける言葉じゃないよ、助作くん!
しかし秋桜はそんな言葉を気にするでもなく、淡々と答えを返す。
「三次元はお呼びでない」
この断り方も大概だ!
二の句が告げずに固まる助作の背後から、一人の男が近づいてくる。
「日の光の下にいるのは珍しいね、秋桜さん」
カジュアルな服装に身を包み、黒須 洸太(
ja2475)が人畜無害な笑顔を浮かべている。
静かなところで1人が無性に耐えられない日もあると、外に出てきた彼は偶々知り合いである秋桜を見かけたのだった。
「彼がお兄さんを好みだと狙ってました」
ところが秋桜は挨拶もそこそこに、めくるめくBLの世界を狙って助作に黒須を勧め始める。
ちなみにプレイしているのもBLゲーム。
流石だ。流石二次元ヲタの引きこもり系サキュバス型悪魔である。
「び、びーえる…?」
ところが助作の辞書にBLという単語は乗っていない。眉間に皺をよせ、疑問符を浮かべるばかり。
「この往来でBLゲームか…」
洸太は秋桜の手元を覗き込むと呆れたように呟いた。
ナンパの聖地でBLゲーに興じる女悪魔とそれを見守る青年。どういうことですか、これは?
とは言え、この聖地で男女二人が並ぶ光景はナンパ成功の図。
「はっ! あの二人あんなに楽しそうに…ぐぬぬぬ」
旧知故に自然な感じの二人に、思わず助作が「きーっ」と汗ばんだハンカチを噛みしめた。
「すみません、ちょっと良いですか」
と、突如洸太は道行く女の子に声をかけ始めた。
困った風の洸太に女の子が歩みを緩める。
「帽子を買いたいんですけど、この近辺で帽子の専門店とか御存知ないですか?」
笑顔絶やさず無害そうな印象を与える洸太……であったが、横から秋桜が冷やかしを飛ぶ。
「このあたり詳しくないんで、わかるところまで案内お願いできませんか?」
にっこり。人畜無害な笑顔に、再びの冷やかしが飛ぶ。
「あ、あの…あれ、彼女さんじゃ?」
女の子はどう反応したものかと、お店までの道順を示すとそそくさと立ち去って行った。
「残念賞だぉ」
声かけ失敗の洸太に秋桜がポッキーを差し出す。
「飲み物でも買ってきます」
ポッキーを咥えながら洸太が立ち去ると、秋桜はBLゲーのプレイに戻った。
「二次元相手なら百戦練磨の私に任せるのだぜ」
ゲームの中で快調にナンパを成功させる秋桜。まさかそう来るとは思わなかったと天の声が遠い目をしている。
しばらく後、洸太は静かに戻って来ると秋桜に大きな麦わら帽子を被せた。
「とても似合うよ」
陽の下なんかに出てきて死ななきゃいいけど、と心中付け加える。
そんな二人の様子を見て、助作はビビッと閃いた。
「そうか! BLとはベーコンとレタスのことだな!」
まだ考えてたのか! そして、なぜそう思ったか! 誰かスーパーへと向かう彼を止めてあげて!
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「およ? …あれは、スケベ作じゃないかー!」
スーパーからナンパ通りに戻ってきた助作の姿を見つけたのは、ルーガ・スレイアー(
jb2600)。
偶然出会った面白素材を前に彼女はスマホのバッテリー残量を確認する。よし、今日もいい動画が撮れそうだぞー!
まずは助作からここにいる理由を聞き出してみる。
「そうかそうか、スケベ作もつがいのメスがほしいのかー( ´∀`)」
誰か彼女にオブラートという存在を教えてくれませんか? あと相変わらず名前間違ってますよ、ルーガさん?
天の声のツッコミを余所に、彼女は自らがプレイしているソシャゲ恋愛ゲームを取り出す。
「こういう声のかけ方をすると、メスにモテるらしいぞー( ´∀`)」
一見親切そうな彼女だが、実は『現実でやったら女にドン引きされること間違いなし』のセリフを刷り込んでいたりする。
そんな事とは露知らず、真剣にメモを取る助作。
「よし、勉強はここまでだー。私が手本を見せてやる(`・ω・´)シャキーン」
キョロキョロと見回した彼女のターゲットにされたのは……、
「すみませ〜ん、ちょっと、かわいそうな俺のために、時間ください」
次々と道行く女の子に声をかけていた若杉 英斗(
ja4230)。
彼もまたこの地に迷い込み、物は試しとナンパをしていたところである。
ルーガは近寄って行くと、英斗に声をかけられるよりも早くふらっと倒れ込んだ。
「あぁん……すまない、立ち上がれそうもない…」
「だ、大丈夫ですか?」
優しく受け止めた英斗だったが、第三ボタンまで開放されたオパーイ(Fカップ)に目は釘づけだ。
更に谷間をアピールしながらルーガが悪魔の囁きで追撃。
「…少し、ゆっくり休めるところに行きたい…貴殿と、二人きり…で(*´ω`)」
え、マジで? さすがナンパの聖地! と、英斗は心の中でガッツポーズ。
一方、ルーガは助作に向かって意思疎通で勝利宣言。
『どうだぁあ! スケベ作、参考にしろー』
男である助作に今のどこをどう参考にしろと…。
「なるほど。セクシャルにいくのだな」
プチプチプチっ! 助作、胸元をはだけさせた☆
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その後ルーガは色々楽しみ満足したのか、「元気になったから」と言って闇の翼で飛び立っていった。
引き止める間もなく、置き去りにされた英斗が空を仰いでいる。あのオパーイは実によかったな、と。
そんな彼の肩に助作が優しく手を置いた。
「元気出せ」
「…あなた、名前は?」
「む? 権瓦原助作と言うが…」
「…よし、権瓦原さん。一緒にナンパしにいきましょう」
いや待て。ちょっと落ち着こうか、英斗くん。
初対面ですよね? しかも助作ですよ? ちゃんとOPで彼の描写読みましたか?
心配する天の声を余所に英斗はナンパへの勝利を確信。
(ナンパは一人でやるより、二人組でやった方が成功率が高いと聞くからな)
あ、うん。ある意味では的を得ているよ。この場合は多分に間違ってるけども!
「二人で桃源郷へのチケットを手に入れましょう、権瓦原さん!」
「よ、よし。二人なら…」
助作も勇気を振り絞り、頬を張って気合を入れる。
と、そんな二人をちゃらい声がふわりと包んだ。
「あれ、ごんちゃんじゃーん、おひさすー」
「し、師匠!?」
助作の心の師匠、百々 清世(
ja3082)である。
「こんな場ちがい…じゃねぇこんなとこで何してんの?」
するするーっと近付いてきた清世に助作が思いの丈を熱く語り始める。
「はぁー、ごんちゃんがナンパねー…成長した、つーか…したのかな?」
数ヶ月前とは明らかに変わった助作に意外そうな表情を浮かべる清世。
尤も成長したかと問われれば、YESと言う自信は私には無い。
「うむ。オレサマも成長したのだよ、師匠」
……あるんだ、自信。
「おっけーおっけー、じゃあおにーさんが一肌脱いじゃおう」
助作の根拠なき自信を信じたのか、はたまたどうでもいいと思ったのか(100%後者)、清世は通りを歩く女子たちに目を向ける。
「俺的には一人でいる子より二人の方が当たり良い印象あるんだよねー」
どうやら声をかける娘を物色しているらしい。
やがて控え目なネイルに黒髪、フェミ系の服に身を包んだ娘に狙いを定め、清世がふわっと近寄っていく。
「暇してんの?」
おにーさん一緒に遊びたいなー、と口説き始める清世。
その迷いのない言動に助作は尊敬の眼差しを熱く飛ばす。
「なるほど…ああするのか」
さりげなく英斗も言動をチェック中だ。
だが、清世は「じゃあまたねー」とバイバイしながらあっさりと戻ってきた。
「し、師匠? どうしたのだ?」
「んー、ごめんねー言われたからさー」
断られてもまったく気にしない清世に「さすが師匠!」と感銘を受けた助作。
すでに清世は新たな女の子と話し込んでいる。
「あっちにいる俺のダチ(ごんちゃん)がさー、一回合コンしてみたいってゆってんの」
清世と女の子が盛り上がる様子に、助作はただただ目を奪われるばかりであった。
ところで、彼と共にいた英斗はと言えば、
「先生〜っ!」
助作を置いて単身走り出していた。
「ん? ああ、若杉君ではないか」
呼び止めた『少女』、それは鎹 雅(jz0140)。友情出演ありがとうございますっ!
ナンパの聖地で憧れの先生と出会えた奇跡に英斗の直感が告げる。
(俺、次の依頼は再起不能かもしれない)
フラグを立てつつ、彼は千載一遇のチャンスをモノにすべくナンパを敢行する。
「鎹センセ! 一緒に学食いきましょう!」
って、なぜ学食か!? 折角ナンパするんだから、もっと他に誘うところはなかったのか!
「学食? 今は時間あるから構わないが?」
カラーン、コローン♪ どこかで鐘が鳴っている。
「時代よ、俺に微笑みかけてくれてありがとうっ!」
それでいいのっ? 学食だよ? ってか、先生ナンパって気付いてないよ!?
涙を流して天を仰ぐ英斗を、雅先生は不思議な顔で見つめるのだった…。
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英斗はスキップで雅先生と学食に向かい、気付けば清世も姿を消している。
二人ともナンパに成功したのだ。
ちなみに助作込みのコンパは断られた。それも仕方ない。むしろ、それが世の平和と言うものだ。
「折角やる気になったのだがな…」
しょんぼりする助作だったが、捨てる神いれば拾う神あり。
「助作先輩じゃないっすか!」
全身をすっぽりとウサギの着ぐるみで包んだ大谷 知夏(
ja0041)が、寂しげな背中に声をかけた。
幾度かの依頼を通して旧知の中である彼女は、助作から事情を聞くと朗らかな笑顔を浮かべる。
「それなら着ぐるみを身に付ければ、モテモテっすよ? ウハウハっすよ?」
なるほど! 可愛い着ぐるみ姿であれば少なくとも人の目は惹きそうだ!
しきりに感心する助作にその効果を見せつけるべく、知夏は通りへと躍り出る。
まずは星の輝きを発動。キラキラと輝くウサギは注目度抜群である。
そして、ナンパという名の『着ぐるみ道、勧誘タイム』。
「着ぐるみを着用すれば、自然とカラダが鍛えられ、ダイエットにもなるっすよ!」
「知夏と一緒に着ぐるみ道を極めないっすか?」
可愛いモノが好きそうな女性やナンパの成果が芳しくない青年たちに声をかけては、彼女は着ぐるみの素晴らしさを滔々と語って回る。
「このウサ耳を装着してみないっすか? 大丈夫っす! きっとお似合いっす!」
本来、武器にしか発動しないはずのレイジングアタックが神々しくウサ耳やネコ耳を輝かせる。
だって今は着ぐるみを広める為の武器ですから。かかっちゃっても問題ないんです!(超法規的措置
知夏の熱意に感化され、着ぐるみに魅せられた若者たちが次々と動物耳を装着。異様な盛り上がりを見せる着ぐるみ道。
『人を惹きつける』という点ではこれ以上ない実演を発揮した知夏に助作が憧憬の視線を送る。
「これでオレサマもモテモテか! モテモテなんだな!」
助作は手渡されたウサ耳を静かに装着すると自信満々に頷いた。
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と、そこに助作にとって聞きなれた声が届く。
「すみません、私も道に迷ってここにたどり着いてしまいましたので…」
それはナンパされている桜花 凛音(
ja5414)。
彼女は道を尋ねられただけと思っているようだが、セクシー美女な容姿の彼女に次から次へと欲望丸出しの男たちが絡んでいる。
「まてぇいっ! 桜花ちゃんが困っているだろう!」
そこへ颯爽と現れた我らが助作。
汗ばんだ胸をはだけさせ、BL(ベーコンとレタス)を手に、ウサ耳をつけて星の輝きを発動した男がナンパ野郎と凛音の間に割って入る。
「キャーー!! ヘンタイっ!!」
その姿に真っ先に凛音が反応。お約束のスタンエッジビンタが背後から飛びました!
助作がナンパ野郎ども巻き込んで吹き飛ばされる。
ぎょぽーっ!
「…ええ、変態が出たんです…ええ、はい…」
更には、たまたま通りかかった雫(
ja1894)が迷うことなく通報。
「ひ、久々のビンタ…」
悦に浸りながら起き上がった変態…じゃなかった助作へ、雫は絶対零度の視線を投げかけた。
「余りの陽気に、気がふれてしまったようですね。誰かすみませんが救急車を呼んで貰えますか?」
闘気解放をした少女の一撃は、助作の意識を容赦なく刈り取るのだった…。
そして雫は今、自分にとって異質な存在(♂)の話に耳を傾けるハメになっていた。
「迷惑を掛けてしまった以上はお手伝い位はします」
幸い助作が気絶している間に凛音がその無害性を説明してくれたので、誤解は解けている。
解けているはずだ。だからこそ話を聞いてくれてるはずなのだ。あの冷ややかな目は暑さを取り除こうとしてくれてるんダヨネ?
「つまり先輩はコンパをしたいのだけれど、その前にナンパを経験しようと思ったのですね」
凛音の丁寧な要約に助作がコクコクと頷く。
ちなみに、内面はまだまだ内気で初心な凛音。『コンパ=皆でごはんもぐもぐしつつ談笑する』イベントだと思っている。
まあ間違ってはいない。『あんなこと』や『こんなこと』が抜けてるけどね!
一方、雫は助作の話に思わずこめかみを抑えていた。
「道に迷うし、変な人は居るし今日は厄日です…」
それでも乗りかかった船だと、凛音と共に助作のナンパ練習台を買って出る。
「私にはナンパとかよくわからないのですけど…先輩の力になれるなら」
「声を掛けてから少し話して、盛り上がらない様なら諦めた方が良いと思いますよ」
片や純粋に助作を応援するため。片やこれ以上の変態活動を抑止するため。目的は違えど同じゴールを目指す少女たち。
「それじゃ先輩。雫さんを相手に声をかけてみましょうか」
「よ、よし。……か、必ず君を守るから。付き合ってくd」
「自分の身は自分で守れるので、私より強くなってから言って下さい」
セリフを被せてきました! 例え練習でも雫の本能は一刻も早く拒否りたかったようです!
やがて、助作を学習し終えた雫がぐったりと帰途につく。
「今日一日、私は何をやっていたんでしょうか…」
そして、二人と別れた助作はリベンジを誓っていた。
「ぐふふ…桜花ちゃんと雫ちゃんに協力してもらったオレサマにもはや怖いものなど無いっ!」
ちなみに外はもう真っ暗だ。
今宵、パトカーのサイレンが聞こえたらそれは変態が出た証であろう。
そして後日。またもやネット上にとある動画がアップされる。
タイトル『【あきらめろ】愛を求めて三千里【SOS】』
そろそろ助作も……気付いていい頃かもしれない。色々と。