●オレサマがリーダーだ!
ぐひっ、ぐひっ…。
助作は感涙で咽び泣いていた。
と言うのも、今回集まったメンバーは助作にとっては見知った顔ばかり。皆が自分の為に集まってくれたのだと感激に打ち奮えているのである。
ぐひっ…ずるるるるーーーっ。
…えっと、ところで誰かティッシュ持ってませんかね?
「リーダーの権瓦原さんですよね? 今回は宜しくお願いします」
丁寧な挨拶にポケットティッシュを添えてくれた樋熊十郎太(
jb4528)は、今回唯一の助作『初体験』者。
ちーーんっ、と鼻をかむ助作を前に、まるで不思議な生物と遭遇した時のような戸惑いと高揚感が胸に込み上げていた。割合は多分10:0と思われます。
「オレサマが『リーダー』の権瓦原助作だ」
そんな視線に気づくことなく、助作は十郎太に『リーダー』をアッピール。
「リーダー…?」
誰が? と首を傾げたのはダッシュ・アナザー(
jb3147)。手にした依頼書に目を落とし、顔をあげ、こくりと頷いた。
「うん…リーダー、だ…」
送る視線が生温い。
「またお前かー、スケベ作ー(・∀・)」
名前を間違って覚えていたのはルーガ・スレイアー(
jb2600)…って、その間違え方はないでしょう! 確かに一文字追加されただけだけど!
さすが「人間界おもしろすぎワロタ」という理由で人間界に降り立った悪魔。恣意的な記憶改竄が正に悪魔の所業デス。
そして、助作に積極的に声をかけたのは矢野 古代(
jb1679)と大谷 知夏(
ja0041)。
「以前の依頼はお世話になったな助作さん。今回も頼りにしてるよ、友人として」
「お久しぶりっすね! 先輩の活躍、楽しみにしてるっすよ!」
二人は笑みを絶やさない。
にこにこ。
にこにこ。
そこに浮かぶのは「期待を裏切らないよね?」というプレッシャー。しかしこの男にとってはプレッシャーなど無縁の存在@めいびー。
「ぐふふっ、任せておくがいい!」
注がれる期待をスルメの様に噛みしめる助作は至極ご満悦である。だからおそらく『期待』の意味が違っているんだけど、そっとしておいてあげるのが世の情け。強く生きるんだ助作よ。
そんなこんなで生温かい笑みと期待の眼差しが交錯する中、裏表のない心で助作に接する存在が二人"も"いた。
「助作のおじさん、おひさしぶりです」
一方的にSOSファンクラブ第一号に指名されたある種不幸な少女、桜庭 ひなみ(
jb2471)が満面の笑みで。
「先輩がどんどん頼もしくなっているみたいです!」
ただ真っ直ぐに助作を応援し続けてくれている稀有な少女、桜花 凛音(
ja5414)は心底嬉しそうに。
純粋な心の天使二人が、曇りなき瞳を助作に向けている。
助作、もう有頂天である。自らの技量不足にしゅんとする凛音へアドバイスを送ったりする始末である。
「私も先輩に負けないように経験を重ねていかなくちゃ」
「…ふっ、慌てることはない。いつか人は成長するものだ…」
キラリ☆
いきなり無駄に発動した『星の輝き』が無駄に眩しい。
ところでそれって、自分に言ってるんだよね?
そんな様子をつぶさに見ていた十朗太。
「……彼は何と言うか、そう、ユニークな方なんですね」
『大人の濁し方』で自分を納得させていた……。
●準備するぞ!
今回の目的は「村近くで徒党を組んでいる熊たちを山に返す」こと。それもできればケガなど負わせることなく。
そこで一同は村の資材の使用許可を取りつけ、足止め用の柵や捕獲用の落とし穴を作成することにした。
「でも、10頭以上で徒党を組んでいるなんて、何だか変な感じですね?」
手際よく資材を集めていた凛音がふと挙げた疑問、それに反応したのは、ひなみと知夏。
「くまさん、みんなにめいわくをかけているのです。でも、ちょっとおかしいのです」
「通常、単独行動を主とする熊が10匹以上も徒党を組むことはないっす!」
出発前に熊の生態を足早に調査してきた二人、各々が得てきた情報を仲間たちと共有する。
するとそこへ補足と解説を付け加えたのは十郎太。彼はマタギの家系で育ったため、熊の生態にはとても詳しいのだ。
「ここらは知った場所ですし、まあ昔似たような経験もありまして…」
結果、彼の経験則も踏まえ、天魔が紛れている可能性を疑い始めた一同。普通の熊だけではないと気を引き締め直す。
「熊さんたちを傷つけないように保護して山に返してあげなくちゃ」
「出来るだけ、穏便に…」
天魔の影響を受けているだろう普通の熊を気遣い、凛音とダッシュが頷き合う。
「そ、そうだな。オレサマもおかしいと思っていたのだ」
慌てて話の波に乗ろうとする助作。その背後に忍び寄るのは『隠密』を駆使した古代。
「はい、助作さん手をあげてー」
「む? こうか?」
くるくるくる…。反射的に助作が万歳するや否や、古代は丸々っとした身体を半裸に剥いて、素早く紐を巻き付けた。
「これは助作さんにしか出来ない事だからな!」
………そして五分後。
古代シェフ、会心の出来栄え。
『助作の生肉添え ハチミツソース仕立て 山林のそよ風を添えて』完成です!
半裸で紐で縛られ、生肉を吊るされ、更にはハチミツが全身たっぷり塗られた助作。もうなんと言うか、食事中の方ごめんなさい、である。
だが、古代は決して楽しんでいるわけではない。囮役として活躍してもらおうと言う、母性溢れるオトンでオカンの愛情なのだ!
かくも親の愛情とは厳しいものである。
尚、ハチミツを塗ったのは知夏とダッシュ、恥ずかしそうに背中を担当していたちなみの三人。
ちゃんとペンキ用の刷毛を使いましたので。皆さん、安心して下さい(
そして助作が調理されてる間、心からの応援をしていたのは凛音。
「前回も大活躍だったのですよね。先輩なら上手く誘き出してくれるって信じています!」
「え? あ? お、おお。皆の期待に応えるのがリーダーの務めだからな(うむうむ頷き)」
応援によって助作はやる気を出した。彼にとっても嬉しいことだったろう。
だけどその姿は生肉とハチミツ添え。どうして止めてくれないんですか凛音さん。
純粋なる少女の期待とはかくも重いものなのか。
「…いいんですか、あれ」
黙々と罠作りしていた十郎太は、皆の助作いじりに戸惑っていた。うん、それが普通の反応です。
「助作だからいいんだぞー♪」
そんな疑問をルーガがスマホ片手に一蹴。ちなみに彼女は動画撮影中なう。
「大丈夫、なんせ助作さんだからな」
ぽん、と十郎太の肩を叩く古代の顔は朗らかだ。やり終えた男の顔だ。
「まぁ…意外と本人も乗り気ですしね…」
十郎太、なんとなく助作の扱いを理解した瞬間であった。
●オレサマに任せておけ!
「…やはり…様子、おかしい…」
ダッシュが現れた熊の群れを見渡す。
その目は赤く染まり、牙を剥きだしに涎を垂らす様はさながら狂獣。
「おわー、なかなかえきさいちんぐだぞー」
そして、ルーガは未だに動画撮影中なう。
二人は山林の中で熊たちと遭遇していた。
助作と囮に仕立て上げた後、罠が完成するまでの間、熊たちが村へ下りてこないように時間稼ぎに来たのである。
鋭い視線を離すことなく、ダッシュはその手に筆と色とりどりの絵具の乗ったパレットを握りしめた…って、何やってるんですかダッシュさん?
「…人里に…降りてきた、熊の…固体数…調査…」
なるほど! それに天魔の疑いある今、普通の熊かどうかを見分ける術にもなりますね。天魔が熊と同じ容姿かどうかはわからないけど!
二人は物質透過を発動すると、迫り来る熊たちに真っ向から立ち向かっていった。
「そーれ、するっとなー!」
ルーガが楽しそうに透過する熊たちと戯れている。
「貴方の、名称は…レッド……次の貴方は・・・ブルー、だね」
ダッシュは手にした絵具を次々と熊たちの頭に色を付けていた。
一方その頃。
村に残った者たちの前には―――、
ガササッ。
数匹の仔熊が姿を現していた。群れからはぐれて一足先に麓に辿り着いてしまったのか。
それでも気は立っているらしく、牙を剥きだしに唸り声を上げている。
ぶんっ。ころん。
腕を振った勢いでバランスを崩してでんぐり返し。おぅ…なんてかわいいんだ。一同の間に漂うほんわかムード。
「く、くまさんが…くまさんが、かわいいのですっ」
「抱っこしてもふもふできるのでしょうか」
凛音とひなみが目を星の様に輝かせる。
「いや待ちたまえ。気が立っていて危険だ。ここはオレサマに任せておくがいい!」
相手が仔熊であることをいいことに、助作がずずずいっと前に進み出た。今のオレサマ、カッコイイ! と全身でアピール。
そんな姿を傍目に、知夏の脳裏にある考えが浮かんでいた。
熊が徒党を組んでいる
↓
天魔がいる疑い
↓
姿を見せた仔熊たち
↓
先輩が自信満々で前に出ていった
↓
そう、先輩が自信満々(重要なので二度以下略
まさかっすよね? と思いながら異界認識を発動。はい、ビンゴ!!
「先輩! 天魔っす!」
は? と助作が振り返ると同時、一匹の仔熊の目がきらーん☆と輝いた。
ぐぼらっぺ!
小柄な躯からは想像できないパワーに助作が吹き飛ばされる。
「まさか仔熊とはなっ!」
真っ先に反応したのは古代。華麗にバックステップをしながらPDW FS80を抜き放ち、放った銃撃は狙い外さず仔熊へ命中。
尤もそれはマーキングであり、ダメージは与えない。他の普通の仔熊との区別の為の支援射撃である。
「こっちにきちゃだめなのです」
一方、ひなみは仔熊たちの進路を妨害。そこに凛音が魂魄を飛ばし、仔熊たちは次々と眠りに誘っていく。
と同時に、林の中から飛び出した人影。
「透過が、効かない…対象が、いる……まだ…天魔が、混じってる…!」
手傷を負ったダッシュとルーガが背後の林に目を向ける。
グガァァッ!
わずかに遅れて姿を現したのは、二人を追ってきた大量の熊たち。
そのうち一匹だけ頭に絵の具が付いていない。それが熊型のサーバントなのだろう。
―――ああ、やっぱりいたか。
十郎太は静かな眼差しを湛え、己よりも大きな巨体の前へと躍り出ていた。
「勝負、勝負」
天に槍を掲げ山の神に祈りを捧げるのはマタギの作法。
(二十数年前のアイツとお前らは違う…そして俺ももう、アイツを滅茶苦茶に突き刺しまくった子供じゃない)
過去を忘れることなく。だが、それに囚われることなく。構えた和槍を大きく振り回す。
「今の俺はここだ!」
『守る』ことを誓った男がタウントを発動、熊型が猛然と飛びかかる。
だが、その鼻先を古代の放った射撃が掠め、不意をつかれた熊型は大きく失速。十郎太は悠々と爪撃を躱した。
「熊の弱点は、鼻先…抉るように、打つ…べし」
一方で、ダッシュはガチで普通の熊たちと殴り合い。熊の腕を紙一重で躱し、手加減をしながらも鼻先へカウンターの拳一閃させる。
「…うん…いい、感じ…」
知夏は大量の熊たちを前に異界認識を発動。
「他にはいないみたいっす!」
天魔が目の前の一匹のみであることを確認すると、そのまま盾を構えて普通の熊たちの方へ。
シールドを発動して熊の攻撃を往なし、村への侵入を拒み続ける。
「えいっ!」
そして、ひなみが落ちた熊に投網を投下し、熊たちが這い上がれないように動きを阻害すれば、
「ごめんなさい。じっとしててね…」
凛音は異界の呼び手を発動。暴れ回る熊の動きを封じ込めていく。
「お休み、なさい…良い旅、を」
ダッシュのワイヤーが熊型の首を落としたところで、戦いは早々に終わりを告げるのだった。
●オレサマ、あるがままに!
ぶひょー!
天魔を倒し終えた全員の耳に届いた叫び。
振り返れば、未だ健在の熊たちから必死に逃げ回る助作の姿。
手を振り回しながらあわあわと右往左往する助作の姿は、さながら戦場の狂える阿波踊り。
ぶーん。
おっと、ハチミツを求めて蜂も引き寄せられてきたぞ。
ガウガウ!
おっと、生肉を求めて野犬までお出ましだ。
「先輩! そこで星の輝きっすよ!」
知夏のアドバイスに、助作は慌ててスキルを発動! 半裸をコーティングしたハチミツが無駄に美しく神々しく輝き出す。
このスキル、一般人相手に目眩ましの効果がある。であれば、蜂や熊や野犬たちにだって効いておかしくない。おかしくないのデス。
『ぐぉぉ。なんだ、あの見るに堪えないやつは!』
『折角のハチミツが変な光を…っ。畜生あいつに毒されちまったんだ!』
『肉が神々しく輝いている! きっとウマいぞ、あれ!』
……まぁ、目を覆って背けるなら理由なんでもいいよね。
うぉぉぉぉぉ! 皆、逃げろーっ!
ズボッ!
よし! お約束! そして、落とし穴に落ちた助作目がけて熊たちもダイブ×3っ!!
「うぎゃぁぁああ!」
響く悲鳴に「よしっ!」と目をダイヤの様に輝かせる者たち数名。でも敢えて誰とは言わないよ?
くんずほぐれつ、穴の中では助作の死闘が始まるのであった……。
―――六時間後。
「全て滞りなく終わりました。…ええ本当に、滞りなく……ですよ?」
古代は村長に依頼達成の連絡を入れていた。何故か少々目が泳いでいる。
凛音とひなみは魂縛によって未だ眠り続ける仔熊を抱っこして、もふもふを堪能していた。
そして、助作はと言えば……、
「ようし、お姉さんがこの自慢のFカップでぱふぱふしてやらんでもない(`・ω・´)シャキーン」
ルーガに誘惑(?)されていた。今回あまりにも報われなかった助作に、ちょっと(´・ω・)カワイソスになったもよう。
「……ライトヒールついでにこっそり触れてるのは合法だぞ? 嫌がるなら絶対にやらないのが前提だが、な」
背後から古代も三十路のフォロー、もとい悪魔の囁き。いま、彼は悪魔に種族変化した!
「ちなみにご利用料金は50万久遠だー(・∀・)!」
そして実は触らせる気のないルーガさん。法外な料金を要求していたりする。ひどい! 鬼! 悪魔! あ、悪魔でしたね。
だけど助作はこれでも紳士。
「い、いや、オレサマそういうのは…」
手をワキワキさせていた!
そして、この夜。例の如くネットに動画があっぷされる。
タイトルは『【またか】俺の魅力で熊すらシャイニング【SOS】』
この『面白ひどい』動画がどれくらいアクセスされたかは……また後日の話。
そんなこんなの賑やかな声を耳にしながら、十郎太は一人山へと戻っていく親子熊の後姿を遠く見守っていた。
撃退士たちは熊たちを山に返すにあたり、十郎太の撃退スプレーとルーガの香水を吹き付け、再び人里に、人間に近づかないように学習をさせている。
今回の様にはぐれ天魔が紛れ込まない限り、あの熊たちは山で平和に暮らすことだろう。
「自然、全ては、あるがまま」
十郎太の呟きは穏やかに、黄昏に―――。
―――そして、
当然、助作も、あるがままに。
「オレサマ、リーダーもいけるな…」