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「一生に一度あるかないかのモテ期、堪能させていい気もするけど……」
碓氷 千隼(
jb2108)が会場の一角に目を向ければ、男女問わず虜になった者たちがこの世界のモテ神様、つまり権瓦原助作に群がっていた。
「ぐふふっ。これがモテ期故の苦悩と言うやつか…」
セリフとは裏腹に、にやにやと笑みを浮かべる助作を見て千隼は考えを改める。
「……うん、やっぱり潰そう」
きっと彼女の心は嫌悪k…もとい正義感が溢れているに違いない。その握りしめた拳にはフォアグラの刺さったフォークを休むことなく口に運んでいるけども。
「お仕置きするったって、本人が意識して発動させてるスキルって訳でも無さそォーだしな。…どうしたモンか」
「ミイラ取りをミイラにした百戦練磨かぁ」
対処法が解らず困ったように首を傾げる小田切ルビィ(
ja0841)と唯 倫(
jb3717)も、助作を見遣りながら料理に手を伸ばす。
「な、なんだか凄い事になってますね…」
海城 阿野(
jb1043)は生クリームを口の周りに付け、
「中華料理うめぇ」
紺屋 雪花(
ja9315)はエビチリソースで唇が赤い。
大谷 知夏(
ja0041)、雪室 チルル(
ja0220)の二人に至っては、花より団子ならぬモテ男より団子。
「滅多に食べられない料理、たらふく頂くっすよ!」
「えっと、これとこれと、あとこれも頂戴!」
幸福絶頂の顔で一流シェフの料理を満喫中である。一応、彼女たちにだって様子を見つつ力を温存するとか、モテオーラの射程や効果の切れるタイミングを遠目に確認するという理由あっての行動のはずなのだが…。
「あ、これおいしいっすよ!」
「おいしいご飯がいっぱい! あたいったら幸せね!」
目下のところ、助作よりも美味しい料理を堪能することが最優先事項らしい。
……なんかもう、このまま皆で楽しく会食すればいいんじゃないかなって気がしてきたよ?
むしろ、放っておくことが助作にとって一番のお仕置きになるんじゃないかな! などと思ったりしたけれども……。
さぁ、みんな! 張り切って調子に乗っている助作を懲らしめようじゃないか(朗らか
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と言うわけで、トップバッターは阿野。仲間が助作の餌食になる前に片を付けようと、先陣切って行動を開始する。
「絶対にモテオーラ食らいたくないです!」
虜になってしまうなんてプライドが許さないとばかりに、助作から全力で目を背ける。
地味系な服に身を包み、足音を殺して目立たないように助作の背後に忍び寄ると、阿野は飲み物の中へ下剤を投入した。
「さて、どうなるか見物ですね」
そのまま知らない素振りで立ち去ろうとする阿野だったが、世の中そんなに甘くない。
突如、彼の頬が赤く染まると、その瞳がうるうると色を帯び始めた。もじもじと恥ずかしそうに悶え始める様子は…なんというか艶っぽい。
「私、ちょっとドキドキしてる…やだっもうっ///」
助作の背後に立った際、彼の加齢臭(モテオーラ)に中てられてしまったようだ! なんという悲劇!
高まる鼓動にその身が熱くなり、ああっ! 辛抱たまらないっ!
「ふ、服が穢れるのでこっち見ないでくれます?」
だが、彼は恥ずかしがり屋さんだった!
阿野に気づいた助作が振り向こうとした瞬間、彼は手にした大剣でサクッ! と一突きするとそのままどこかへ逃走してしまう。
「ぐふうっ…。は、恥ずかしがり屋さんめ…」
助作、さすがにちょっと痛かったらしい。でも、ちょっと嬉しそうでもある。
続いて動き出したのは、紺屋 雪花(
ja9315)。
「先ずはパーティ盛り上げて気を引いてみようかな」
イッツ・ショウタイム!
掛け声と共に光纏すると、華奢なふわふわロングヘアーのうさ耳付き美少女に大変身。そのままステージに上がって、お得意のマジックショーを披露する。
だが哀しいかな。誰も彼のことを見ていない。だって、みんな助作に夢中なんだもの。
そこへ現れたるは、我らが非モテの英雄(ヒーロー)若杉 英斗(
ja4230)。
くるくる、すたっ、しゃきーんっ。一回転ジャンプ後の決めポーズ! 素肌にGジャン、ごっついベルトと赤いマフラーはヒーローの証!
「リア充への妄執にとらわれ、かりそめのモテを手に入れた悲しき非モテよ! 俺は「リア充爆発!」などには興味がない…だが、お前は別だ、権瓦原助作!」
ビシィッと指差すポーズの後ろで、ゴゴゴゴ…と効果音が浮かび上がる。
「同じ非モテとして『キラキラ☆非モテ道』を邁進するこの若杉英斗が引導を渡してやる!」
英斗の身体から吹き出した非モテオーラが20000…30000……50000…と爆発的に膨れ上がる。
「俺の非モテオーラと貴様のモテオーラ、どちらが上か決着だ!」
「ほほぅ。なかなかの非モテっぷり」
だが、助作は余裕綽々で待ち構える。なぜなら、彼のオーラは第一形態である今でも53万! 最終形態では1億2000万を超える!
桁の違う圧倒的なモテオーラはじわじわと英斗の胸を蝕み、助作への慕情を掻き立てた。
「くっ! 燃えろ、俺の小宇宙(非モテ)よ! 奴を撃ち砕く剣となれっ!」
高鳴るトキメキに必死に抗う英斗。シルバートレイで助作の視線を防ぐも、効果が出始めた今となっては意味がない。まずい! ヒーロー大ピンチか!?
だが、そのとき英斗は突然閃いた。モテオーラがスキルなら、キャンセルできるんじゃね? と。
「思い出せ! 真の非モテをっ!」
シールドバッシュを発動し、トレイで助作の頬をうりうりと小突く。
「心配するな。お前の非モテ…オレサマが受け止めてやろう」
両手を広げた助作の包容力は菩薩の如く。更にモテオーラ関係なく注がれる憐憫と慈愛の眼差しは、英斗にとってはモテオーラなど非ではない破壊力を秘めていた!
「そんな目で、俺をみるなっ! やめろーーっ!!」
非モテの英雄の絶叫と共に、暴走した非モテオーラが二人の身体を優しく包んでいく。
だが、哀しいかな。モテ神様となった助作を倒すには非モテ力が足りない。
「お前の非モテ…なかなかだった」
ただ一人真正面から挑んだ英雄は、助作の脂ぎった腕の中で真っ白に燃え尽きるのであった…。
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「くぅ! 俺も助作さんのお近付きになりたいぜ!」
死闘を制した助作を熱のこもった視線で見つめる男、それはルビィ。
「この痺れる様な感じ…。これが恋ってやつか!」
どうやら彼は今の戦いの余波で、モテオーラに毒されてしまったらしい。まだ何もしてないのに何てこったい!
不思議な(不気味な)感覚に全身冒され、ルビィの気持ちは暴発寸前。
「アイツを見ていると何故か体が熱くなって…吐き気がしてくるぜ…」
あんなにお腹一杯食べた後でそれは色々勘弁して欲しい!
ルビィはトキメキと悪寒で腰が退きそうになりながらも、気力を振り絞ってふらふらと助作に歩み寄った。昂ぶる気持ちと格闘しながらも、どうにか助作を他の者たちから引き離そうと行動に出てみる。
「す、助作…さん。こ、こんな見合い連中なんか放っておいて、俺と庭園でもデートしないか?」
跪き、手を取ってその甲に口づけをしようとする姿は王子様。潤む瞳は乙女のそれ。彼は本気であった。何が本気かは敢えて触れてはいけない。
だがしかし、助作は男にはにべもなかった。
「しっしっ」
同じ男への決死の告白を袖にされ、ルビィの想いはかつてないほどにハートがブレイクで、エクスプロージョンでビックバン!
がっくりと崩れ落ち、床にのの字を書くルビィの背には哀愁が漂う。
「…もうダメ…お嫁にいけない」
いや、まだだ! ここで終わっては男がすたる。立ち上がれ! 立つんだ、ルビィーーッ!
「うおおぉぉぉっ!」
願いが届いたのか、ルビィ、奇跡の復っ活! ルビィ、復っ活!
「助作っ! 何だか分ら無ぇ力に頼ってモテたって意味無いぜ…!」
彼の残る手段は、本人に今の状態を自覚させる直球勝負。場合によっては、自分を見つめ直したり後悔してくれちゃったりするかもしれない。
「お前だって本当は、そんなんでモテたって嬉しく無いだろ?」
「めちゃくちゃ嬉しいぞっ!」
はい、終わった―! 胸を張った堂々とした宣言に、ルビィは二の句が次げない。完敗である!
一方、助作はと言えば、実のところ強烈な腹痛に襲われていた。今頃になって下剤が効いてきたらしい。
よたよたとトイレに向かって歩き出すも、その道は虜になった者たちが塞いで先に進めない。
「ど、どいてくれっ…」
そんな彼を救ったのは雪花。
尤も意図したわけではなく、これまでの騒ぎの中でもプロ根性で一人マジックショーを続けていた彼は、シルクハットの中からハトを取り出そうとして……助作を引っ張り上げていた。
「「…は?」」
何が起きたわからず、ステージ上で握手した形で向き合う二人。
これはあれです。きっと、雪花のマジックがシルクハットを通して助作をワープさせたのです。何と言う、大マジックなのです!
「と、とにかく助かった!」
我に返った助作は慌ててトイレに駆け出そうとして…躓いた拍子に雪花の身体にもたれ掛かった。
「うぉ!」
「だめ…っ。私には結婚を約束した方が…っ」
助作を引っ張り上げた際に人格が乙女化した雪花は、すでにモテオーラの洗礼によって助作にラブキュンなのであった。
「権瓦原先輩、こっちへ…」
雪花は助作の手を取ると、他の者が気付く前に助作をトイレへと連れ出す。勿論移動はマジックだ。どんなマジックだったかなんて、この際気にしちゃいけない。
「うむ。お蔭で助かった」
美少女の姿をした雪花が男だと気付くこと無く、助作は白い歯を輝かせてお礼を述べた。
(ああ…麗しの権瓦原先輩に愛してもらえたらどうしよう…)
Oh! 恋は盲目とはこのことか! もはや何が起きてもおかしくない。
助作は雪花の気持ちを読み取ったのか、優しく抱き締めるとむちゅっと唇を突き出した。最終兵器、たこちゅーである。
だが、助作に抱かれたことで人格が男に戻った雪花。慌てて【変化の術】を発動すると、脂ぎったメタボ系中年男性の姿を変えたる。
これで助作が相手にしなくなれば…。
「ぐふふっ。今夜は忘れられない夜になりそう――」
よかったけど、助作はすでに目を閉じていた! つまり容姿が変わったことに気付くことはなく…。
アッーーー!
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「今のって悲鳴?」
庭園で、倫がふと顔をあげる。
そう、悲鳴だ。ただし、嬉しいのか哀しいのか必死に逃げ惑っているのか。その内容について言及してはいけない。きっと後悔する。
「まあ、いいか」
倫は深〜く掘った落とし穴を巧みに隠すと、ターゲットが現れるのを待つことにした。他にも池に爆破する仕掛けやボートが浸水する仕掛けなどを仕込み済みである。
その頃、会場では知夏とチルル、千隼の三人が動き出していた。
「さて、そろそろお腹もふくれたので、働くっすかね!」
まずは知夏がバーから度の強いお酒や高級なお酒を大量に購入する。勿論、すべて助作のツケである。
そのまま少女3人は助作の周りを陣取ると、順番にお酌しては助作をおだて始めた。
「助作さん先輩、お酌するので、格好良い所を見せて下さいっす」
「それ! いっき! いっき! いっき!」
助作はいっきコールに乗せられるまま、がぶがぶとお酒を呷り続ける(※良い子はくれぐれも真似しちゃダメだぞ☆
しかし、意外なことだが、実は助作お酒に強い。次々とお酒が飲み干されては、空瓶ばかりが増えていく。このままでは酔い潰すことは難しいだろう(※ちなみに助作以外は皆、未青年。勿論、烏龍茶オンリーである☆
「あっ、料金は助作さんに全てツケてあるっすよ♪」
「あたい、ご飯を追加注文したいなー」
「度量が広いところ見せてー」
「仕方ないやつらめ。ぐふふふ…任せておけ」
3人がお酒、食事、パーティ費用の支払いを助作に押し付け、金銭面でダメージを与えようとするも助作はあっさり了承し気にもかけない。
.嗚呼、一体どうすれば助作は痛い目にあってくれるのだろうか…。
ところで、モテオーラの力はいたいけな少女たちすらも毒牙にかけてしまっていた。
「なんだか顔があっついっすねー」
知夏がぱたぱたと扇げば、
「胸がドキドキしてるけど、これってなんだろう?」
チルルは胸のもやもやと熱くなっている。
「………ふんっ」
助作の袖をつまんで離さない千隼は、無愛想ながらも顔が真っ赤だ。
「ぐふふ…皆の視線が熱くてたまらないよ」
助作がキザなポーズで3人を見渡せば…3人の目がきらりと光った。
「助作さん先輩、熱いなら服脱ぐといいっすよ」
異様な雰囲気を感じた助作が少女たちを見回せば、その目は恐ろしいほどに据わっている。
どうやら、お酒を飲んだ助作のモテオーラを浴び続けたことで、少女たちにもおかしな影響を与えてしまったらしい。それが証拠に…、
「い、いやっ、やめてーっ!」
「「「待て―!」」」
少女たちは助作の服を剥いでいた。
ばたばたとパンツ一丁での助作が庭園を逃げ回り、それを楽しそうに追いかける少女たち。彼女たちの手には、助作の上着やらシャツやらズボンなどが踊っている。
「あたいが一番あの人に相応しいわ! 突撃ー!」
どーん!
チルルに吹き飛ばされた助作が、運よくボートの上に転がり落ちる。そこにチルルが乗り込むと二人っきりのまま、ボートを出てしまう。
だが、ボートには予め倫によって開けられた穴があり、すぐさま浸水し沈み始めた。
「し、沈むっ! 沈むっ!」
慌てふためく助作。それもそのはず。実は彼、カナヅチなのである。
「沈む前に…そのパンツ、あたいが脱がせてあげる」
浸水など気にせず、じりじりと迫るチルル。
いや! 誰も助作の[ピーー]なんか見たくないからっ!
「えい!」
そこに現れたのは救いの女神。ずっと様子を伺っていた倫はボタンを押すと、池に仕掛けられた仕込みを作動させた。
どっかんどっかんと爆薬が派手な音を立てて爆発し、その爆音は驚いた助作を池へと転げ落とす。
「ぶわっ…ぶはっ…」
ジャバジャバと溺れるも、彼にはまだ死ねない理由がある!
「うぉぉぉ! 折角迎えたモテ期、逃してたまるか―!」
モテオーラ全開で水面の上を駆け抜けると、一気に池から飛び出した。
「きゃっ!」
そこに居た千隼を巻き込み、半裸の男と少女がくんずほぐれつ地面の上を転げ回る。
「は、恥ずかしいじゃないのよ!」
千隼、渾身の飯縄落とし炸裂! 頭から地面に叩きつけられた助作はくらくらと目を回した。
そこにスススッと現れては彼の背中を押す影が一つ。
「一名様ご案内♪」
倫が背中をどんっと押せば、助作は深〜い落とし穴の底へ落ちていくのであった。
「っあっひゃあぁぁぁ…」
こうして助作へのお仕置きは終わり、この世界はモテ神様の脅威から救われたのだった。
その代償として、この世界の助作はしばらくの間女性恐怖症になったと言う。
「…怖い…服、脱がされ…る……女の子、怖い…」