.


マスター:橘 律希
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/21


みんなの思い出



オープニング

●Give Me Chocolate!!
 美しい顔にスレンダーでモデルの様なスタイル。
 妖艶な顔にグラマラスで色香漂うボディ。
 可愛らしい顔に背は低めでつるぺたな身体。
 バレンタインデーを控えた某有名チョコレート店を3人の女性たちが占拠していた。だが、女性らしいのはその容貌とスタイルくらい。
 身体の隅々まで視線を向ければ、蝙蝠のような翼、ロバの様な足、長く鋭い鉤爪のある手、そしていわゆる小悪魔的な尻尾。
 それらを見れば、明らかに彼女たちが人外のものであることは理解できるはずである。
 だが―――。
 いま、店内にはそんな人外の彼女たちに群がる男たちの姿があった。皆一様に異様な雰囲気を醸し出しつつ、諸手をあげて叫んでいる。
 ギブミー! ギブミー、チョコレート!!
 そんな男たちを眼鏡越しに一瞥し、冷笑を浮かべる美しい顔が女王様の如く男共に罵倒を浴びせる。
「ふん! 下賤な豚どもめっ!」
 その右隣では、豊満な肉体をくねらせながら妖艶な女性が男たちを虜にしている。
「さぁ、チョコが欲しい人…こっちにいらっしゃい、うふ」
 その反対側。女王の左では、モジモジと恥ずかしそうに胸の前で手を合わせたロリっ娘が上目使いで男性を見つめては、幼な声で男たちをかどわしている。
「くすくす。みんな、私のこと好きなのかな〜?」
 彼女たちの一挙一動が、男たちの心を刺激し、熱狂させていた。
 ギブミー! ギブミー、チョコレート!!
 バレンタインデーに向けて様々なチョコが並ぶ店内は、チョコに飢えた男たちの渇望と狂気が満ち溢れた空間と化しているのだった……。


●モテ男の苦悩
 権瓦原助作。アラサー。アラサーだけど久遠ヶ原の学生。
 そして、SOSと言うごく一部で有名な称号を持つ。必殺技はSOSアタック。
 丸々と太った身体。ニキビだらけの頬。キレイに切り添えられたおかっぱ頭。センスのない服。脂ぎった汗を浮かべては、小まめにハンカチで拭う。
 最近、引きこもりから脱出しつつある彼は失恋と言う名の長いトンネルを抜けたばかり。
 そんな彼を温かく待ち受けていたのは…、
「ふぅ。どこに行っても女性たちの視線が突き刺さるな。これがモテ期ゆえの苦悩と言うやつか…」
 モテ期(盛大な勘違い)であった。
 今日も今日とて、彼は自分がモテていると信じて疑わない。
 すれ違う女性が目を逸らせば…、
「ふ。恥ずかしがり屋さんか。仕方のないやつだ」
 売店のおばさんに愛想悪く対応されれば…、
「おやおや、嫉妬ですか。年甲斐もなくみっともないな」
 困っている老婆に手を差し伸べるも、ひきつった表情を浮かべられれば…、
「おっと、ご老体にはこのモテオーラは強烈過ぎたか」
 という状況である。
 先日のとある依頼で、女性陣が彼を奮起させようと色々頑張ったおかげで、引きこもりからは脱することができたのに、その代償がコレとは…女性陣たちにどのような顔を剥ければいいと言うのか。
「先日の依頼で一緒だった娘たちもあれから姿を見せないな。そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろうに…」
 ―――誰か彼に天誅を。

 さて。
 そんな助作ではあるが、将来は親の会社にお抱え撃退士として採用される予定であり、そのための下積みとして最近は積極的に依頼斡旋所に足を運んでいた。
 もっとも依頼書を見てはアレはダメだの、コレは報酬が少ないだの、ソレは俺では役不足だのと言って、まだ何一つ依頼を受けてはいない。
 まぁ、彼を知る人間からすれば、積極的に外に出るようになっただけ相当な進歩をしたと思うだろう。そんな風に彼を知る人物がいればの話だが…。
「ぐふっ」
 と、助作がある依頼書に目を止めた。たった今、貼り出されたばかりのほやほやの依頼である。
「これこそ、俺にふさわしい依頼じゃないか…ぐふ、ぐふふふふ…」
 依頼書を眺めながら、助作は斡旋所の職員(♀)が思わず後ずさりするほど不気味な笑い声を上げてニヤニヤするのだった。


●モテ男の自信
 ―――某有名チョコレート店の前。
 依頼書を手にした助作は、一人勇んで現場へと到着していた。
 思い込みとは盲目であり、それが故にある意味で武器となることがある。
 先日までの傷心し、自信喪失していた姿が嘘のように、(虚構の)モテ期を迎えた今の彼は(無駄に)自信に満ち溢れていた。
「まずは逃げられない様にしないとな」
 おもむろに取り出した阻霊符を発動し、店内に目を向ける。
 それほど大きくない店舗の中は陶酔し、心奪われたむさ苦しい男性たちで溢れかえっていた。
「まったく、これだからモテないやつらは…」
 やれやれと頭を振って嘆息すると、助作は再度店内を観察する。
 群れる男たちの先、店内の奥には、人の波間に辛うじて見え隠れする女性型ディアボロの姿があった。
「ふふん。モテ期真っ最中の俺様が、逆にこの妖艶なディアボロを魅了してやろうじゃないか」
 意気込み十分に、彼はずずずずいっと店内に踏み込んでいく。甘いチョコレートの匂いと男共の汗臭い匂いが鼻をついた。
「お前らは地に落ちたチョコを這いつくばって貪るがいい」
 冷笑浮かべる女王様タイプがチョコを床にばらまき、それに男たちが殺到する。
「せっかくだから口移しで食べさせてあげようかしら、うふ」
 妖艶な淫魔タイプが、手近な者たちを次々と抱擁しては口移しでチョコをあげている。
「うふふ。あ〜ん♪ してあげるよ〜」
 幼いロリタイプが膝まずき口を開けて待つ男たちへ、次々とチョコを放り込んでいる。
 それらの光景にちょっと心揺らぎながらも、助作は大声を張り上げた。
「おまえらっ! この俺が相手だ! 俺の魅力に参るがイイっ!」
 


リプレイ本文

●魅了の悪魔
「どうやら阻霊符は展開されてるか。……聞いた限りじゃダメな野郎だと思ったが、最低限の事はやってんな」
 ヴィンセント・ブラッドストーン(jb3180)が手近なビルから手を放す。悪魔の透過能力を試した結果、周囲には阻霊符の効果が働いている事がわかった。おそらくは、単身乗り込んだと言う助作が発動し続けているのだろう。
「噂を聞く限りではあまり役に立たない感じがしていましたが……」
 大事なことなので二度言いましたと前置きしつつ、天使のエリーゼ・エインフェリア(jb3364)も同様の結果を報告する。
「とは言え店を破壊する訳にもいかないし、一度外に釣りだす必要があるね」
 二人の報告を受け、各務 浮舟(jb2343)が店内に視線を向ける。
 今回の敵、エンプーサと呼ばれるディアボロは強力な魅了の能力を持つらしく、遠目からでも多数の一般男性(以下♂)たちが虜になっている様が見て取れた。
「まずは彼を正気に戻さないとな」
 月詠 神削(ja5265)が目を細め、店内最奥にちらちらと見え隠れする今回のキーマンを観察する。
 その背中は誰よりも熱狂的にチョコを求め、エンプーサ達に罵倒され、踏みつけられ、苛められては喜んでいた。
「いないよりはマシ…ですよね、きっと…?」
 その光景に、エリーゼが仲間に同意を求める。
「大丈夫だと思います。以前ご一緒したときも頑張っていましたから」
 誰もが口をつぐみ目を逸らす中、桜花 凛音(ja5414)がエリーゼに同意する。
 今回のキーマン――権瓦原助作と、以前共に依頼をこなした彼女の言葉にエリーゼは微笑みを返し、助作を確認し直した後――生温い笑みを浮かべた。
「ミイラ取りがミイラになるとはまさにこの事ですねー」
 エリーゼがなぜか嬉しそうに頷く。
(疑う余地なし。まごう事なきドMです)
「一応、魅了状態から回復できる手っ取り早い方法は教えてもらったが…」
 ヴィンセントが眉根を寄せ、斡旋所職員の言葉を思い出す。
 魅了から回復できる簡単な方法―――それは、ビンタ。
 異性からビンタされるだけで、ものの見事に正気に戻れるらしい。スキルも必要なく、確実に魅了から回復できるのであれば、ビンタ一発くらい安いものではある。……あるのだが。
「ビンタのコツは相手の顔の位置をしっかり確認して、脇を締めて一回フェイントして油断させてから、相手の頬に90度の角度から振りぬく事っ!」
 嵯峨野 楓(ja8257)の腕が、ぶんぶんと小気味よい音を立てながら空を切っている。その隣では、蒼唯 雛菊(jb2584)もまた、楓の素振りを見習って腕を振り回していた。
「お菓子は全部私のもの! やっつけてチョコレート食べるぞー!」
 それを見た神削がこめかみを抑えて呻く。
「早くも頭が痛いんだが……」
 エンプーサの魅了は、特に男性に対して威力を発揮するらしい。万が一、自分が魅了されたときのことを考えると、そら恐ろしいものがあった。
「私にも教えていただけますか?」
 エリーゼも加わった3人が、正しいビンタフォームのチェックを始める。
「ドレスミスト…活性化しておくか…」
 唸る女性たちの掌を横目に、神削は絶対に魅了させられまいと誓うのだった。


●ビンタ旋風
 ♂たちを巻き込まず、また店内を破壊しない為にも敵を外に誘き出す必要がある。
 そのために必要なことは、魅了された♂とエンプーサの分断。入り口をバリケードで塞ぎ、透過能力を持つエンプーサ達だけを外に誘き出すのが彼らの作戦であった。
「じゃあ、俺たちはバリケードの準備をしておく」
「彼の救出は任せたよ」
 魅了されるリスクを避け、ヴィンセントと神削の二人は近隣住民の避難確認とバリケードとなる物を探しに周辺へ足を向ける。
 その間に、女性陣が助作の救出に向かう。
 彼に正気に戻ってもらい、阻霊符の使用を止めてもらわなければ作戦が成り立たないためだ。
 正面から店内へと侵入すれば、そこは甘いチョコとむせ返る男の匂い、そしてチョコを求める男たちの歓喜と狂喜の声で埋め尽くされていた。
「ハーレム羨まし…じゃない。さっさと片してチョコ買わないと」
 思わず出た楓の本音はさておき、助作もエンプーサも♂も皆インモラルな空気に夢中で、こちらに気付く様子はまったく無い。
 一瞥し、助作の姿を♂たちが作る人垣の向こうに見つける。
「まずは♂たちを眠らせないとね。嵯峨野さん、お願いします」
「権瓦原さんをさっさと殴……元に戻したいけど、周りの♂共が邪魔だもんね」
 浮舟に促され、楓が眠りの霧を放つ。
 バタバタッ。
 眠りに誘われた♂たちが床に倒れ込む。だが、中には魅了の魔力に守られ、眠りの霧を跳ね除けた者もいた。

 邪魔するな〜。

 異変に気付いた♂たちの一部が、力なく手を上げ、まるでゾンビの様に迫りくる。
「全くだらしない男共だなぁ。それに、けしからんディアボロ達め。私が調教して逝かせてやんよっ」
 にこにこと笑顔を浮かべた楓の腕が一閃し、
 バチーン!
 痛烈な音と共に頬を張られた一般人が吹き飛ばされた。
「き、気持ちいい…」
 掌に響く心地よい痺れ、何とも言えない感触に、楓の目がキラキラと輝く。
 バチンベチンビチンっ!
 楓が嬉々として腕を振るい、様々なビンタが次々と♂たちを吹き飛ばす。
 がぶぅ!
 その横では、雛菊がなぜか♂の手に噛みついていた。
「チョコレート! 私も欲しい!」
 どうやら♂が持っていたチョコにかぶりついたらしい。勿論、ビンタではないため魅了が解ける様子はなく、代わって凛音が頬を張る。
 ばちーん。
 乾いた音と共に♂が昏倒する。光纏を解いていようと、やはり撃退士の一撃は強烈なのだ。
「ご、ごめんなさいっ!」
 凛音が申し訳なさそうに謝る脇で、楓がこれ以上無いいい笑顔を浮かべる。
「楽しんでなんかないよ? 魅了回復の為だもん。心苦しいけど…仕方ないよね♪」

 その様子を店外から眺める男が二人。
「一般人を傷つけないための……作戦、だったよな?」
「そのはずだけど…」
 なお、光纏を解いてのビンタの為、頬が真っ赤に腫れ上がるくらいでビンタによって外傷を負うことは無い。……外傷は、無い。
 ヴィンセントと神削は吹き飛ばされる♂たちに憐憫を向けつつ、合掌するのだった……。


●魅了される者たち
「いい加減、権瓦原さんを助けませんと」
 ビンタ旋風が吹き荒れる中、エリーゼが本来の目的を口にする。見れば、流石のエンプーサ達もこちらに気付き行動を起こさんとしていた。
「これで目を覚まして頂戴!」
 ごすっ!
 浮舟の見事なストレートが助作を捉える。その衝撃で助作の目に光が戻った…
「暴れ出すかもしれません。束縛しておきましょう」
 …のだが、それは見なかったことにして、続けざまにエリーゼが光の鎖を放つ。
「おかしいですね。こんな風にするつもりはなかったのですが」
 微笑むエリーゼが、しれっと床に転がる助作を見下ろす。その太った身体は…亀甲縛りで絡め取られていた。
(これで女王様チックな桜花さんにビンタされると良いと思います! 思います!)
 エリーゼ、内なる叫び。
 その期待に応えるかの如く、助作が頬を染める。
「こ、この快感は一体…」
 その表情から、魅了が解けていないと判断した凛音が平手打ちを放つ。
「先輩、ごめんなさいっ!」
 ビターン! ビターン!
 ……なぜか往復で。しかも、電撃のおまけ付きである。
「い、痛い…けど…も、もっと!」
 赤く染まる助作の頬が更に染まる。
「まだ魅了にっ…目を醒まして下さい!」
 凛音、心苦しくも再びの往復ビンタ。やはり電撃付き。
「ぐはっ! い、いいっ!」
「桜花さん、素晴らしいですっ! 完璧ですっ!」
 エリーゼ、なぜか握り拳でご満悦。
 と、
「やらせるか!」
 声が店内に響いたかと思うと、店内に煙が立ち込めた。神削が発煙手榴弾を投げ込んだのだ。
「今のうちに脱出するんだ! 敵が襲ってくるぞ!」
 神削が挑発のオーラを発し、エンプーサ達の意識を引き付けにかかる。その間に、女性陣と助作が煙に紛れて店外への飛び出していた。
「おい、他のやつらはどうした?」
 ヴィンセントが煙の薄れた店内に目をやる。出てきたのはエリーゼ、凛音、助作の三人のみ。
「巨乳ばんざーいっ!」
「非常食発見っ!」
「お兄ちゃんの次くらいに、まぁ素敵かも!」
 煙幕の中、接近されたエンプーサによって魅了されてしまったのだろう。楓が紅潮した表情で巨乳を賛美し、雛菊が涎を垂らして助作に視線を向け、浮舟はうっとりと兄の顔を思い浮かべては店内から飛び出してくる。
「あの抱かれ心地……いいなぁ。憧れちゃうよ!」
「アレ(助作)食べてもいい? 貰ったチョコかけたら美味しそう!」
「まだまだお兄ちゃんには敵わないけどね」
 ……あまり普段と変わらない気がするのは、撃退士の意思の強さ故に違いない。うん、きっとそうだ。
「嵯峨野さん、ごめんっ!」
「目ぇ覚ませっ!」
 バチバチバチンッ!
 すかさず神削とヴィンセントのビンタが飛び、三人を正気に戻す。
「月詠君、ありがとう♪ さ、予定通りエンプーサ達を引き付ようか♪」
 頬を押さえ、笑顔でお礼を述べる楓の目は笑っていなかった。
「その目…怖いよ、嵯峨野さん…」
 楓の視線に寒気を覚えつつ、神削がエンプーサ達を挑発で引き付ける。敵が外へと誘き出されたところで、ヴィンセントが叫んだ。
「今だ! バリケードだ!」
 まだ店内にはビンタや眠りから逃れた幾人かの魅了された♂たちがいる。彼らを外に出さない為、一斉にダンボールなどでバリケード作成に取り掛かる。
「最後はこいつだ!」
 ヴィンセントが近くにあった車を急発進させ、車体を壁にこすりつけながら入り口を塞ぐ様に横付けた。
「これでやっと準備が整ったぜ」
 店内を見れば、外に出てこれない魅了された♂たちが悲痛な雄叫びを上げているのだった。


●魅了との戦い
「女王様タイプは鞭、淫魔タイプは抱擁だから腕、ロリタイプはおねだり視線だから目。その辺りが魅了の要だろうな」
「サドは鞭を奪えばいいよね。ロリは眼つぶしするとして……サキュバスが邪魔かな」
 神削と浮舟が敵を分析し、各々獲物を構える。
「ふふふ…。淫魔は任せてくれていいよー? なんか無性に腹立つんだよね」
 巨乳に魅了されたことも許しがたいのかもしれない。不気味な笑いと共に、目の色を変えた楓が雷狼を放つ。
 淫魔タイプがその攻撃を避けたところへ、エリーゼの放った魔法が撃ち込まれる。
「たまにはMになって、攻撃される快感を覚えたらいかがですか?」
 更なる追撃は神削から。
 スパッ!
 腕を狙って攻撃するも、踏み込みが足らず完全に破壊するには至らない。逆に近づいた神削を抱擁しようと淫魔タイプが迫る。
「掴まってたまるかっ!」
 纏った黒い霧で狙いを惑わせ、全力でエンプーサの魅了攻撃から身をかわす。そう、全力で。
 安堵したその背中に楓の声が飛ぶ。
「避けなくても大丈夫だよ! 私が正気に戻すから!」
 ぶんぶんっ!
 姿は見えねど、空を切る音が耳に届く。
(避けきってみせるっ!)
 神削は気合を入れ直すと、抱き着かれることを恐れず更に深く踏み込んでいく――。

 一方、雛菊は女王タイプ目がけて飛びかかっていた。
「チョコを使って弄ぶとは、いい度胸してるじゃないか!」
 先ほど、飴ならぬチョコと鞭で魅了してきた張本人に大剣を振るう。
「戦闘能力が無いって訳じゃねえんだ、少しは手伝えよ」
 ヴィンセントがまだ呆け気味の助作に言葉を投げかける。彼自身は闇の翼を広げ、上空から雛菊の援護射撃を始めた。
「後方で回復役をお願いします」
 凛音が振り返り、助作に協力を願い出る。
「あなたも私の虜になるといいよ〜」
 その一瞬の隙を突き、ロリタイプが凛音に向かって飛びかかった。狙うは、その純潔の唇。
「いやぁっ!?」
 ドンッ!
 凛音が唇を奪われかける直前、その身体が突き飛ばされる。
 振り向けば、助作がロリタイプの餌食になっていた。
「き、きみ。か、可愛いね…ぐふふ」
 再び魅了された助作が妖しく瞳を光らせ、エンプーサへと腕を伸ばす。端からから見れば幼児に手を出す変態である。変態である。
「それ以上は、二次元で妄想補完してなさい!」
 浮舟のぐーぱん再び。もんどり打った助作が地に転がる。
「せ、先輩っ! 大丈夫ですか!」
 凛音が声をかけるも返事がない。今の一撃で、助作は目を回して気を失っていた。

「あなた、私に跪くといいわ!」
 女王タイプの罵倒がヴィンセントに浴びせられる。
「くっ!」
 襲い掛かる魅了の魔力に抗いながら、ふらふらと地に落ちる。
「……悪ぃがタイプじゃねえな。清楚で可憐なタイプでもいりゃ、話は別だがよ」
 魅了に耐え切ったヴィンセントがニヤリと笑う。
 びたーん!
「大丈夫!? 目、覚めた!?」
 魅了にかかったと思った雛菊の良かれと思ったビンタが一発。
「最初っから覚めてたわっ!」
 頬を抑えて抗議するヴィンセント。
 そのやり取りを横目に、エリーゼが女王タイプに微笑む。
「逆に辱められる気分など、いかがですか?」
 光の鎖に絡め取られた女王を見つめる会心の笑顔が眩しい。勿論、亀甲縛りである。
 この日、天使は何かに目覚めたのだった…。

「これで…どうだっ!」
 神削の神速の一撃が淫魔タイプの腕を切り落とし、その顔を深く抉る。だが、淫魔タイプは巨胸を突き出し、潰れた顔を歪ませ訴える。
 曰く、私の魅力はこの胸よ。
 ぶちっ!
「巨・乳・滅・殺っ!」
 笑顔で青筋浮かべた楓が炎を掌に宿し、淫魔タイプに飛びかかる。
 ビタタタタタタターンッ!
 巨乳に炸裂するビンタの嵐。
「ふぅ…。悪は滅びたよ」
 巨乳を爆散させた楓がスッキリとした表情で汗を拭う。
 周りを見渡せば、浮舟の双剣がロリタイプを貫き、辱められた女王タイプが集中砲火を浴びていた。


●人生初チョコ
 ばちーん!
「これがビンタですか…やはり縛りの方が…」
 生涯初のビンタの感触を味わいながら、消毒液で手を拭うエリーゼがブツブツと呟いている。
「こ、ここは?」
 そのビンタで目覚めた助作が、ゆっくりと身を起こす。
「先輩、お疲れさまでした。みんなと一緒に甘いもの食べて、疲れを癒して下さい」
 その背中を凛音が支え、そっとチョコ(もちろん義理)を手渡す。だが、助作はチョコを貰えた感動に打ち奮えることもなく、ただぼーっと宙を見つめる。
 見上げた建物の上では、雛菊がおいしそうに凛音のチョコを食べていた。
「みんな、助けて…くれたのか」
 助作は己を振り返る。その湧き出ていた自信は何だったのだろうか。
 結局、一人では何もできないんだな。
 ぺちん。
 静かに落ち込む助作の頬を、凛音が優しくビンタする。
「傷が癒えたら…お父様に話せる活躍増やしましょうね―――また皆と一緒に」
 優しく打たれた頬がなぜか痛む。
 助作は、最後の言葉と共に、人生初の甘くも苦いチョコをゆっくりと噛みしめるのだった。
 


依頼結果