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マスター:橘 律希
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/02/14


みんなの思い出



オープニング

●2月と言えば
 ある日の昼休み。常葉奏(jz0017)は同級生と売店を見て回っていた。
「もうすぐバレンタインデーだけど、奏ちゃんは誰かにあげるの?」
「お父さんくらいかなぁ」
 売店の一角には、バレンタインデー専用のコーナーができていた。かなりの範囲を占有し、所狭しと様々なチョコが並んでいる。当然のことながら、本命のチョコを売店で買う者は稀なため、義理チョコ用に揃えられたお手軽な価格のものが棚の大部分を埋め尽くしていた。
「さっちゃんは誰かにあげるの?」
「えへへー。内緒」
「えー! 本命いるんだぁ? だれだれ?」
 そのまま、二人はどんなチョコをあげるかで盛り上がる。素直に応援する気持ちがある反面、親友の力の入れ様が羨ましくもあり、ちょっとだけ置いて行かれた気分にもなる。
(私も誰かにあげたいけど…。でも、クラスの男子はちょっとなぁ。あ! 千鶴先生にあげようかな。先生はあげるっていうより、貰うって感じだしね。 うん!)
 仲の良い先生の顔を思い浮かべ、適当にチョコを手に取ってみる。彩り豊かなラッピングが賑やかに棚を飾る様は、それだけで心をウキウキさせた。
 と、彼女の視界があるモノに気を止める。
 バレンタインデーコーナーのすぐ隣、陳列棚の最下段に目立たない様に置かれた『それ』を手に取り、まじまじと眺める。
「どうしたの、奏ちゃん? あれ? それってひょっとして…」
「そっか、そろそろ節分だっけ」
 バレンタインデーと言う一大イベントを前に、いつの頃からか2月の主役を奪われた節分。そのイベントの主役となるべきモノが、誰の目にもつかない様な位置でひっそりと寂しげにしている。
「たしか年齢の分だけ食べるんだよね」
「わたし、節分って好きじゃないなー。食べてもおいしくないし、おにはそとー、なんて叫ぶの恥ずかしいもん」
 親友の渋い顔に、奏は昨年の冬を思い出した。
(そう言えば、いつからだっけ? 豆まきしなくなったの…)
 昔は、お父さんと一緒に豆を撒いてた気がする。なんで豆まきをしなくなったのか。どちらから止める様に言い出したのか。すっぽり抜け落ちた様に、その記憶は思い出せない。
「あれ? それ買うの?」
「あ、うん」
 思い出せない過去に近づけるような気がして、彼女はそれを手にレジに向かった。


●豆をまけっ!
 珍しくそれほど寒さを感じない晴天の昼下がり。先ほどの売店でのやり取りから、わずか30分後。
「先生ーっ! 大変、大変だよーっ!」
 奏が血相を変えて、ベンチに腰掛ける人物へとダイブした。
「ぶはっ!」
 持っていた缶の紅茶をこぼしながら、赤良瀬 千鶴(jz0169)がベンチ後ろの芝生に倒れ込む。
「ど、どうしたの、奏ちゃん。何かとってもおいしいお菓子でも見つけた??」
 起き上がった千鶴が呑気な声で応えながら、白衣についた枯葉と草を叩いて落とす。
「それとも…告白でもされた?」
 にんまりと笑いかける千鶴に、ぜぇぜぇと息を切らしていた奏が赤ら顔で手をあげて否定する。
「さ、されるわけないでしょ! そうじゃなくて! ああ、もう! こっち来て!」
 奏は慌てた感じで、千鶴の手を取ると元来た道を駆け戻り始める。
「ちょ、ちょっと、奏ちゃん!?」
 千鶴が引きずられるように後を付いていく。

 ―――そして。
「あ〜、あれ。見たことあるわよ」
 現場に着き、目の前に大量に湧いたそれを見るや否や、千鶴はあっさりと断言した。
 千鶴はスマホを取り出すと、自身が作成したデータベースを検索する。
「ん、と。ああ、あった。これこれ」
 スマホの画面を奏に見せる。そこには、目の前のそれそっくりな写真が表示されていた。
「豚っ鼻をしたピンク色の小鬼型サーバントで、体長は20cmほど。特技はいたずら。大した力を持ってないくせに数が多いのが特徴、と。
 まぁ、範囲攻撃を繰り出せば撃退し易いんでしょうけど、スキルは使える回数に限りがあるじゃない? 小さいこともあって、実のところ殲滅となると結構面倒なのよね」
 のんびりと説明する千鶴の目の前では、桃色の可愛らしい小鬼が女子のスカートを覗き、胸を揉み、男子のパンを奪い、ズボンをおろし、老年の教師のカツラを奪っては手を叩いて喜んでいる。
「ああ、あの人カツラだったんだ。怪しいとは思ってたのよ〜」
「あ、ほんとだ。って、先生っ! のんびりしている場合じゃないでしょ!」
 うっかり千鶴のペースに引き込まれそうになり、奏が慌てて軌道修正する。
「ごめんごめん。まぁ、小鬼だし…季節がら豆で退治できるかもしれないわよ」
 指を立てて真剣な表情で告げる千鶴に対し、思わず奏が呆ける。
「……え、えっとぉ…ま、まめ?」
「そ。要するに節分の豆まきね。豆を手で握って、アウルをばーっと込めて、投げる」
「豆にアウルって込められたっけ?」
「ん〜、込められないけど。でもほら、豆まきの豆って『魔滅』って言いかえるくらいだから、きっと何か特別な力が出るわよ。うん、たぶん」
「そんなアバウトな…。しかも、あれってサーバントだから『魔』じゃなくて『天』だよね?」
「奏ちゃん。そんな細かいこと気にしていたら……いい大人になれないわよ」
 奏の両肩に手を置き、千鶴が真剣な顔で首を振る。
「とまぁ、細かいことは置いといて。豆で倒せれば楽なものでしょ。豆さえ確保できればどうとでもなるってことだし」
「あー! あの小鬼、さっちゃんのスカートに顔を突っ込み始めたよ! ま、豆! まめーっ!」
 自分が襲われたかのように取り乱し、奏が豆を呼ぶ。召喚獣でもあるまいし、馳せ参じるわけもないのだが。
 一方で、千鶴は冷静に場の混乱ぶりを観察していた。
「あ、そのコのスカートに潜るの? そのコ、男の娘なのにねぇ。小鬼くん、ご愁傷様」
 合掌した千鶴は踵を返す。
「あれ? 先生、どこ行くの? あ! 豆を取りに行くんだね!!」
「あ、いや、そうじゃなくてね……あれって単なるいたずら好きで、撃退士ならケガを負うとかそういう類のやつじゃないのよ。つまり、ね」
 スチャ! と手を挙げて、千鶴が駆け出す。
「被害を受けないようにするには、近くにいなければいいのー!」
 あっという間に、その姿が小さくなっていく。
「ちょっ! 千鶴先生っ?!」
 後ろ後ろー! 走りながら首だけを捻り、奏に向かって千鶴が叫ぶ。
「へ?」
 振り向けば、数匹の小鬼が奏のスカートを覗き込むようにしゃがんでいた。

 きゃーーっ!! み、見るなーーっ!

 咄嗟にポケットに手を入れ、先ほど売店で買った豆の袋を取り出し、袋を開け、豆を握り、アウルを込め、豆を投げる。この間、わずか0.5秒。
 狙い違わず命中する…と思いきや、天魔特有の投下能力によって豆は見事に体をすり抜けた。

「あ、あれっ?! 先生! 話が違うよーっ!!」

 当たり前である。
 V兵器じゃない普通の豆にアウルを込められるはずがない。また、いくら『魔滅』の謂れがあるとは言え、そういう伝承があると言うだけで…。
 
「っ!? 潜り込もうとするなーっ!」

 ……ただの豆で天魔を退治できれば誰も苦労しない。
 慌てふためく彼女の眼前では、多くの小鬼がスカートを覗かんと手をワキワキとさせながら控えていた……。
 


リプレイ本文

●\オシオキだー!/
「スカート引っ張らないでーっ!」
 豚っ鼻でどこか愛くるしい桃色小鬼を相手に、奏が半泣き声で訴える。
 陽射し降り注ぐ冬の午後。中庭に広がるは阿鼻叫喚の光景。
「…わぁ、大惨事♪ 悪い子にはオシオキしなきゃ、ね」
 来崎 麻夜(jb0905)が弾んだ声をあげ、相方の礼野 智美(ja3600)が真剣な声で呟く。
「悪戯内容が…女の敵だな。とっとと殲滅してやる。…っと、忘れた。来崎さん、よろしく」
 ぺこり。
 挨拶は人の和の礎。どんな時でも挨拶を忘れない智美の心構えは素晴らしいことだと言えよう。

 胸触られた―っ!
 か、かつら返せ―っ!
 そ、そんな目で俺の○○を見るなー!

 ……どんな時でも(ry

 まずは逃げられぬ様にと、智美が阻霊符を発動。
「透過で逃げようとしている天使や悪魔の女生徒さん、ごめんなさい!」
 続けて千鶴から渡された豆型V兵器を麻夜が試し投げ。
「はい、そこまでだよー」
 こてん。たった数粒で、あっさり倒れる小鬼。
 途端、麻夜の目がお気に入りを見つけた子供の様に輝き出す。
「ジャッジのお時間ですよー」
 被害者たちの陰に隠れ、小鬼たちの不意を突いては、嬉々として豆をばら撒いていく。
「悪戯の代償はこちらだよー」
 それはそれは楽しそうに…。
 一方、智美は闘気を開放し、気合を入れて豆を投げていた。
「鬼はー外ーっ!!」
 掛け声上げても効果は変わらないが、気分と言うのは重要だ。だって、節分だもの。

「撃ち漏らし見つけたら退治お願いします!」
「まだまだいるし、頑張ろうね」
 片や真剣な表情で、片や微笑みながら、助けた人たちに豆を渡して回る。
 人海戦術によって、次々と倒れてゆく小鬼たち。
 一矢報いるべく智美と麻夜を囲みにかけるも、智美は縮地で一気に囲みから抜け出してしまう。ついでに、ズボンに引っ付いた奴も扇でぺちん。
「寒い中ズボンのベルト緩められるのはやっぱり嫌だし」
 サービス精神が足りないとは小鬼の声。
 麻夜に至っては、
「いけないなぁ、いけないねぇ…」
 スカートを覗いた小鬼に目潰し。
「わぁ、ピンチだ…逃げろ逃げろー」
 ばら撒く豆に氷結の黒羽を混ぜて、にやり。
「…kill them all?」

 \ヒャッハー!悪い子にはオシオキだー!/

 スイッチの入った麻夜が歓喜の声をあげ、次々と小鬼のアレを切り飛ばしていく。
 …あ、アレって首ですよ?
 慌てた小鬼たちが逃走を図れば、
「逃がさないよー。さ、行っておいで」
 黒犬の姿をしたアウルが小鬼を蹂躙。もはやどっちが鬼だかわからない。

 ――数分後。
「ふぅ、スッキリ」
 殲滅を終えた麻夜が清々しく微笑んだ。
「お、お疲れさま。…だ、だいぶ散らかったし、掃除でもしようか?」
 智美が戸惑うのも仕方ない。うん、仕方ない。
「んー、これは大変そうだねぇ。あ、時間だ。先輩のとこ行こっと」
「ちょ、来崎さん!?」
 智美の制止も届かず、掃除道具を放り出して麻夜は子犬の様に駆けていく。
 呆然と見送る智美に、思わず奏が声をかけるのだった。
「あ、あの、お手伝いするよ?」
「……うん、ありがとう」


●漢と悪戯の死闘
「奇妙な鬼がいる物じゃのぅて」
「なんつーセクハラ天魔だ。むしろ作った天使がセクハラ野郎か?」
 千 庵(jb3993)と虎落 九朗(jb0008)の男子ペアは、食堂にて小鬼たちの所業に呆れ返っていた。
「ここは万人が食材へ感謝をし、命を頂く神聖な場所じゃ」
 庵が調理室の物陰を中心に豆を投げ始める。ただし、豆の配分や散らかり様を考え、その投げ方はえらく軽い。
「……取り敢えず、豆を撒けばいいんじゃろう?」
「もうちょっとやる気出してもいいと思うっすよ?」
 庵の緩い空気に、食堂で男子生徒を救出していた九朗が思わず突っ込む。
「…では、その目を抉って豆をいれてやろうとするかえ」
 さらっと怖いこと言ってるし!

「…ところで、おなごの格好はしてないのかえ?」
 襲われかけた女生徒を助けた九朗に庵が尋ねてみる。
 そのセリフを聞いて九朗から飛び退く女生徒。絶対零度の視線が突き刺さる。
「ちょ、しませんよ! その話はさっき冗談って言ってたじゃないですか?!」
 慌てて弁解する九朗に優しく添えられる手が一つ。振り向けば、肩に乗った小鬼が熱い視線で語りかけていた。

 オマエ、女ソウ、シタイ。俺タチニ、任セロ(グッ

「往生せいやーっ!」
 九朗、渾身の一撃。
「女装はしねぇ!」
 小鬼たちにビシッと指を突きつければ、小鬼たちもビシッと指を突きつけ返す。

 スカート、モ、アルヨ(ニヤリ

「く、くるんじゃねーっ!」
 力の限りにアウルを込め、豆を投げつける九朗。化粧道具にスカート、果ては下着(♀)を手にして迫る小鬼たち。
 漢と悪戯の矜持をかけた戦いが今、幕を開ける!
「ふむ、美味いのぉ…久しく食べてなかったが…歳の数、と言うのも面倒なものじゃの…」
 そんな九朗の奮闘を微笑ましく見守りつつ、庵は目についた被害者を助けていく。
「豆まき、なんて…何年ぶり、のれべるじゃよ…」

 うぉぉりゃー! 後方で続く熱い攻防。

「千先輩! 片付けちゃってください!」
 普段の天魔退治以上に必死な九朗に追い詰められ、庵の前に現れた小鬼が姿を隠す。
「その中っす!」
 生命探知で敵の居場所を感知した九朗が示すは…庵の着物(主に下半身
「…如何なるかわかっとったじゃろ?」
 にこり。
 庵、小鬼を鷲掴み。アウルと言う名の殺意を込めた豆が穴と言う穴に突っ込まれていく。
「鬼はー、もう二度と此処に来るなって言うか潰れてしまえばいいと思うんじゃー」
 長い掛け声と共に、鉄扇によるトドメの一撃。
 穴と言う穴から豆をまき散らし、小鬼は華々しく昇天するのであった…。

「お疲れじゃの。ほれ、豆食べるかの?」
「あ、あざ…っす…」
 息も絶え絶えに、九朗が豆を受け取る。中途半端にされた化粧が怖いです。
 ちなみに彼はそのことに気付いていない。庵さん、指摘したげてー!

 休憩後、二人は散らばった豆の掃除に取り掛かった――のだが、

 ぎゅるるるる…。

 豆型の『V兵器』を食べた二人は見事にお腹を下し、我先にとトイレへ駆け込む羽目になったとさ。



●勝負下着
「千鶴先生〜!? 手伝ってくれないのー!?」
 その声が届く間もなく脱兎の如く走り去った教師を、藍 星露(ja5127)は思い出す。
(うわー…もう、うわ〜…この前、お弁当作ったのに…)
 恩を仇で返されたとはこのことかと、やるせない気持ちが沸々と湧き上る。
 その横では、ぽややんとした神月 熾弦(ja0358)が首を捻っていた。
「サーバントとのことですし、天使は感情を糧としますから、悪戯によって起こった感情を吸収する目的で作られたのでしょうか…?」
 やがて辿りつくは保健室。
 衝立や薬ビンなどが床に散乱も、予想に反して小鬼の姿は見当たらない。
「どこかへ行ってしまったのでしょうか?」
「……何か、居ないように見えても、実は物陰に何十匹も隠れてるような気がするわねー」
 星露が四つん這いでベッドの下を覗き込み、椅子の上で背伸びして棚の上を確認する。
「藍さん、恥ずかしくないのですか?」
 どう考えてもスカートの中を覗いて下さいと言わんばかりの姿勢に、熾弦が疑問を投げかける。もっとも、そんな彼女もベッドの下を屈みこんで覗いているわけだが。
 対して、星露は余裕の微笑み。
 ――どんな時でも、見られて恥ずかしいような下着は着けたりしない。日々勝負下着!
 それが隠れ人妻である彼女の信条である。

 よし。ならば小鬼たちよ。思う存分覗かせて頂きなさい。

「ま、どうせ見た奴は殺すから」
 星露が超笑顔。

 …皆の衆、命を投げ出す時が来たようだ。

 と、何かに気付いた熾弦が部屋の隅にあるベッドへ近付いていく。
「あらあら。体調の悪い方が逃げ遅れたのでしょうか?」
 不自然に盛り上がった掛布団に手をかけ、失礼しますと捲ってお顔拝見。
 そこにいたのは、手をワキワキさせた小鬼たち。
「え、と……あれ?」
 彼女がワンテンポ遅れて事態を把握したときは時遅し。身を乗り出した熾弦の豊満な胸に小鬼たちがぶら下がる!
 ぽよん。
「ひあっ!」
 突如訪れたピンチに星露の『雷打蹴』が迸り、九死に一生を得る熾弦。
 だがしかし! スカートで飛び蹴り……それすなわち、スカートひらり♪

 しょ、勝負下着は本当だったーっ!

 叫ぶ小鬼に誘き寄せられ、どこに隠れていたのか我も我もと増える変態たち。炎を背負い、手をワキワキとさせて果敢に勝負下着へと挑みかかる。
「殲滅するわよ……ええ、一匹残らず、ね」
 豆を投げて応戦する星露の戦慄の笑顔が美しく光る。
「お、鬼は外ーっ!」
 熾弦も左右の手に握った豆を交互に投げて応戦中。所謂、駄々っ子投げ。その姿に小鬼萌え萌え。

 二人の激しい抵抗の前に、哀れな小鬼たちは志半ばに殲滅されるのであった。
「にしても、大変でした…」
 ところで熾弦さん、最後の一匹がお尻にくっついてますけど?



●宙を舞う黒
「シヅルさん、大丈夫でしょうか?」

 ※大丈夫じゃないです。

 ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)が想いを寄せる義従姉の顔を思い浮かべる。
(きっと落ち込んでるだろうから、後で頭撫でてあげますね)
 並ぶシルファヴィーネ(jb3747)は微妙なやる気で豆をじゃらじゃらと弄ぶ。
「豆型V兵器ね…胡散臭いけど、小鬼程度ならこれで十分ね」
 彼女たちの担当は女子トイレ。まずはファティナがスリープミストを放つ。
「眠らせてしまいましょう」
 ズボンなんだから、そんなに堅実な方法を取らなくても…小鬼泣かせにも程がある。
 霧が消えるのを待ち、頭上や扉の影に気を配りつつ、そろそろとトイレに侵入する二人。
「いないわね…って、あそこか」
 女子も小鬼も見当たらない中、疑って下さいとばかりに閉めきられた個室が一つ。
 近付き、そっと扉を開けたファティナは思わず冷や汗を垂らして固まった。
「何処から入りこんだのでしょうか、これだけのサーバント…」
 そこには、満員電車の如くギュウギュウすし詰め状態で小鬼たち(爆睡中
 ……と、

 ドザーーッ!

「えっ! きゃーーっ!?」
 雪崩の如く崩れ落ちる小鬼たちに沈みゆくファティナ。まさかのトイレ遭難デス!
「へ? ひゃ!? どこ触っ!? あ、ちょ!?」
 小鬼の山から聞こえるくもぐった声。どうやら目を覚ました小鬼たちに…、
「そ、そんなとこに手をいれちゃ!? あ…んっ!」
 …ズボンなのに服の隙間から手を突っ込まれていると予想します。
「頑張れ〜」
 その様子を他人事の様に眺めるシルファヴィーネは、イチゴオレ片手に休憩中。
「これ撒いた後、食べられるのかしら?」
 そんな隙だらけの彼女を狙い、掃除用具入れに潜んでいた小鬼たちがスカート捲りを敢行。
「ひゃあっ!?」
 おいしく頂ました、とばかりに黒レースに両手を合わせ深々と頭を下げる紳士たち。って、黒レースだとぉ!?
「誰のを捲くったか分かってるの? この○○○風情が…!」
 怒りに任せたシルファヴィーネの踏み潰しが炸裂!
 ぐりぐり、げしげし。
 でも、足の裏では小鬼がご褒美万歳状態。
「小鬼如きが私に触れようなんて千年早いのよ!」
 一方で、夢中で踏み潰す彼女の目に浮かぶ恍惚な光…。
 あれ? この二人、ひょっとしてお似合いデスカ?
 だが、まだ危険は去っていない。第二波の攻撃が彼女に迫る!
 ズルッ!
 つまずく小鬼。引っ掛かる手。膝までずり落ちるスカート…ともう一枚。
「……コ・ロ・ス!!」
 狂喜乱舞の小鬼に、狂鬼乱舞されるハルバード。未だに雪崩の中で悶え続ける声(あん! そこ…はァ!?)。豆と黒い布地が宙を舞う。

 …な、んだと…?!

 やがて辛うじてスカート『だけは』死守し、小鬼を滅殺し終えたシルファヴィーネは固く報復を誓うのであった。
「あの教師! あとで豆吐くほどに口の中流し込んでやる…!」

 千鶴先生! 地の果てまで逃げた方が賢明です!



●代用品
 猫野・宮子(ja0024)と桜井・L・瑞穂(ja0027)は、豆を手に女子更衣室へと向かう。
「時期はあってるとはいえ、困った鬼だね…。ともかく…魔法少女マジカル♪ みゃーこ、出撃にゃ♪」
 体操服姿の魔法少女@猫耳が、元気よくドアに手をかける。
 既に悪戯と痴漢の被害にあった女性たちは着替えもそこそこに逃げ出しており、更衣室はもぬけの殻。
 じゃあ、小鬼もいないのでは?
 心配するなかれ。
 ほら、いましたよ。散らばる下着を被り、鼻の下を伸ばした小鬼たちが。
「破廉恥ですわ、破廉恥ですわ、破廉恥ですわぁぁーーっ!!」
 瑞穂、絶叫。そして、高笑い。
「いきますわよ宮子。一体残らず、駆逐しますわ! おーっほっほっほ!」
 まずは魔具を活性化――して、思い出す。
 主装備は点検中だったことを。それでもって、今日は代用品だったことを!
 スカートからすらりと伸びる足にはガーターベルト。胸を強調するセクシーTシャツは、サイズが合わずにピッチピチ♪
「如何してよりによって、此れにしている時にこんな騒動が起きますのー!」
 恥じらう姿に小鬼たちは、大っ興っ奮! 辛抱たまらんとばかりに一斉のルパンダーイブ!
「不届き千万ですわーっ!」
 慌てて瑞穂が豆まきで応戦するも多勢に無勢。止めどない小鬼たちの襲撃に大ピンチ♪
「あんっ、ちょっと、何処を掴んでいますの〜っ!?」
 おっと、ここでヒーロー登場。
「魔法少女参上にゃ♪ 惹き付けてる間に一度退避するにゃ!」
 体操服なら捲られないと、注目を引いた宮古が壁走りも使って縦横無尽に駆け巡る。

 負けるな! ボクらの小鬼たち!

 雨嵐の様に豆が投げる中、どこからともなく聞こえた声に奮起され、小鬼たちがスクラムを組んで決死の覚悟で特攻! その勇姿は涙無くして見られない。
「ふふん、ズボンだから怖くないにゃ♪ 一気に殲滅しちゃうにゃよ」
 余裕綽々の宮子が迎え撃つ。だが、それは囮。本命が背後から不意打ち一閃。
「ふみゃ!? し、しまったにゃ!? それは想定外にゃ!?」
 ズボンを下ろされた宮子がパンツ一枚で転がされ、汗を拭う小鬼(リーダー)には拍手喝采が巻き起こる。
「うー、ともかく今は殲滅最優先にゃー!」
 異性の目が無いからと、怯まず宮子は豆まき再開。あれ? ところで瑞穂さんは…?
「ま、捲らないで下さいな! あぁ、そ、そんなに…はぅ!? 脱がしては!?」
 ……既にグロッキーでした。
「んはぁ! こ、此の、離れなさいなぁぁ〜〜!?」
「鬼は外…だと困るから、鬼は倒れるにゃー! って、何するにゃー!?」
 更衣室に響き渡るあんな声やそんな声。
 ヨレヨレの姿となった二人が更衣室から出てきた頃には、すっかり日は傾いていた。
「これで終わりかな? …て、え? にゃぁ!?」
「は、破廉恥ですわーっ!!」
 偶然通り掛かった男子生徒たちの桃色視線。
 更衣室では、主の帰還を待ち詫びるズボンとスカートの姿があったとさ。
 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラッキースケベの現人神・桜井・L・瑞穂(ja0027)
 あたしのカラダで悦んでえ・藍 星露(ja5127)
 夜闇の眷属・来崎 麻夜(jb0905)
 撃退士・シルファヴィーネ(jb3747)
重体: −
面白かった!:8人

無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
シルファヴィーネ(jb3747)

大学部1年164組 女 ナイトウォーカー
不動の聖魔褌帝・
千 庵(jb3993)

大学部8年88組 男 ルインズブレイド