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マスター:橘 律希
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/01/21


みんなの思い出



オープニング

●次男坊の事情
 権瓦原助作。アラサー。無職。あ、いや、一応学生…の引きこもり…でアイドルオタク。現在は長い失恋の旅路中。
 丸々と太った身体。ニキビだらけの頬。キレイに切り添えられたおかっぱ頭。脂ぎった汗で額が光る。センスのない服。なぜか爪だけはキレイに切り揃えられている。
 彼は昨年の文化祭で失恋した。それもかなりイタイ感じで。
 それ以来、ほとんど部屋から出ることもなく、だらだらと傷心の日々を過ごしている。かつての(無駄に)エネルギーに満ち溢れていた彼の姿はどこにも見当たらない。
 部屋はまるで彼の今の心境を表しているかの様に、昼間でも閉めきられたカーテンが外光を拒み、散乱したゴミの山が異臭を漂わせていた。

 自分を魅力的にするために、外見にも気をつかってみたらどうかな…

 そんなことを言われたのはいつだったか。言葉はアレだが、その響きには優しさがあった気がした。まぁ、外見に気を使う一歩としてマメに爪を切り揃え始めたのはいいが、そこから後に続く行動が何もないところが彼と言う人間を如実に表している。
 とは言え、時折浮かんでは消えるその声が、殻に閉じ籠ろうとする彼の心を辛うじて現実世界に引き留めていた。その点は感謝せねばなるまい。が、現実世界に引き留められると言うことは、その分、素の自分を省みることも多くなるわけで…
(俺、この先どうするか…)
 先ほども述べたように、彼はアラサ―。いつまでも学生をやってるというわけにもいかない。撃退士として独り立ちすれば、それなりに生活に困ることはないだろう。しかし、撃退士になると言うことは自ら死地へと赴くことに他ならない。それはつまり、自分の素をさらけ出すこととも言える。臆病な彼にとって、それはとても受け入れられることではなかった。
(なんで、アウルなんか発現しちまったんだよ…)
 撃退士になってこの方、楽しいと思えたことも嬉しいと思えたこともない。唯一、お気に入りのアイドルに没頭している時だけが、生きる活力を与えてくれていたのだが、今ではむしろ思い出したくない過去となっている。

 あなたに捧げる〜♪ SOS〜♪

 と、薄暗い部屋の中に、あるアイドルの曲が着信音が鳴り響く。
 スマホが1分ほど主を呼び続けるが反応はなく、やがて諦めたように黙する。だが、すぐに歌を再開する。
 それが5度ほど続いた頃、部屋の中央にひかれた布団がもそもそと動いた。丸みを帯びたシルエットがのっそりと起き上がり、緩慢な動きで部屋を埋め尽くすゴミの山からスマホを探し出す。ようやく現れた持ち主との再会を喜ぶスマホが、液晶画面を鮮やかに光らせては彼の顔を青白く染めた。
「生きていたのか。正月に顔も見せない親不孝ものが」
 ぶっきらぼうな声。久しぶりの、だが忘れもしない。その声に、彼の意識が現実世界へと急速に呼び戻される。
「…親父…か?」
「まぁ、そんなことはいい。それよりもお前に確認しておきたいことがある」
 久しぶりに聞く声にしてはやけに刺々しい。その感じに助作はイヤな予感を覚えた。
「回りくどいことはキライだ。単刀直入に聞く。お前……『悪魔退治』の話は本当なのか?」

 ああ、やっぱり人生はロクでもないことばかりだ。


●社長の事情
「と・い・う・わ・け・で! 今回はちょ〜っと面倒くさい依頼なのよね」
 面倒くさいと言うと、敵が強い? または特殊能力持ってるとか? それとも人質がいるとか、緊急性を要する案件??
「あ〜、いや、そういうのではなくてね。…何が面倒くさいって、大人の事情ってやつが絡んでるからよ」
 そう言って、赤良瀬 千鶴(jz0169)の顔が渋くなる。
 とにかく順を追って話しまょうか。そう言って、千鶴はキャンディを口に放り入れた。
「まず、依頼主は権瓦原建設という会社。中堅どころの企業なんだけど、そこが進めている新興住宅の開発でトラブルが発生。ま、私たちに話がくるくらいだから天魔よね。これを退治して欲しいと言うのが依頼の内容」
 ここまでは普通よね。千鶴がコロコロとキャンディを舐め転がしながら全員を見渡す。
「で、この依頼にはあなたたちの他に、一人生徒が参加するわ…する予定よ」
 再び千鶴の顔が渋くなる。彼女はもう一つキャンディを口に放り入れると、説明を続けた。
「実は、この権瓦原建設の社長の次男坊がこの学園にいるんだけど、彼はアラサーでね。そろそろマジメに先のことを考えて欲しいわけよ。父親的には。
 で。社長は次男坊にはいい加減に卒業してもらって、会社お抱えの撃退士として次男坊を迎え入れたいと思ってたわけ。ま、フリーの撃退士が身内だと色々融通も利くし、メリットの方が大きいのは否定しないわ。ただねぇ…」
 千鶴が軽い溜息を吐く。
「その次男坊が問題でね。随分前に『悪魔を退治した』と嘘吹いていたらしくて…。あ、ここで言う悪魔って言うのはディアボロやヴァニタスなんかじゃなくて、本物の悪魔のことね」
 本当に悪魔を退治できたのなら、大いに誇れることであろう。だが、おいそれと倒せるものではない。
 実際のところ、次男坊の言う悪魔退治があったのは本当のことだが、次男坊はその戦いにおける支援組の更にサポートに辛うじて参加してた程度の働きしかしてなかったらしい。

「で、ここから更に話が込み入ってくるんだけど…」
 先を続ける千鶴の説明を要約するとこう言うことだ。
 社長である父親はその嘘を信じ、仕事やプライベートで事ある毎に自慢の息子だと自慢していたらしい。更に懇意にしてもらってる方々、会社に対し、息子がお抱えの撃退士となった暁には有事の際に息子を派遣すると口約束してきた。
 だが、その後次男坊の『悪魔退治』発言が嘘であったことが父親の耳に届いてしまう。本人に問い詰めてみれば、あっさりと嘘だと発覚。父親は激怒。勘当を言い渡そうとするがチャンスを与えることに。
 つまり、社長としては周囲に散々見栄と自慢をひけらかせてしまったため、今さら嘘は困る。と言うか信用に関わってくるので嘘であってはならない。幸か不幸か会社の開発地区に天魔が発生したところだから、お前が対応して活躍する姿を見せてみせろ。
 と言うことらしい。

 うん。まぁ、背景はわかりました。何はともあれ言わせてもらえるなら……背景が長すぎ…そしてどうでもいいです。

「わかる。わかるわよ。言いたいことは! でも、天魔が出てるのは本当なのよ。それを放っておくことはできないでしょ!? そのついでにオマケがあると思ってくれればいいわけよ、うん」
 彼女は指を二本立て、改めて集まった生徒たちを見渡した。
 一つ。早急に天魔を退治すること。
 一つ。同行する次男坊、権瓦原助作の活躍を記録に収めること。
「後者が面倒なことはわかるんだけど、それも依頼のうちに入ってるのよね、これが。だからさ、色々なことは飲み込んでもらってなんとかお願いね」
 


リプレイ本文

●ニート、対抗する
「外側から…内側に向かって、攻撃していけば…1ヶ所に、纏められるんだな?」
 紫鷹(jb0224)が見取り図を手に、助作へアドバイスを求める。
 今更確認する内容でも無いのだが、助作のリーダーらしさをカメラへ収めるために敢えて再確認したのだ。とは言え、彼女の助作に対する態度は素っ気ない。
(自分の株を上げる為に、嘘をつくような人は、信用できない)
 助作の過去の言動は、紫鷹から積極的に助ける気持ちを失わせていた。
 そんな彼女の心の内などを知る由もなく、当の本人は既知の内容を得意げに説明し続ける。
「これはキミの言う通り、壊れても問題ないな。それから…」

 紫鷹の確認が終えたところで、麻生 遊夜(ja1838)が助作に声をかけた。
「…という訳で、よろしゅうに」
 軽く頭を下げるも、その顔は不機嫌さを隠さない。
(大人の事情、ねぇ…あぁ、面倒くせぇ)
 ただの天魔退治ならまだしも同行者の活躍を映像に収めるとか、なんて面倒くさい依頼だ。
 遊夜の態度に、やはり権瓦原助作も不機嫌そうな表情を浮かべる。軽く頭は下げたがそれだけ。挨拶どころか目も合わせようともしない。
「ふん、悪魔退治だか何だか知らないが…俺の邪魔、しないでくれな?」
 遊夜が意味ありげに笑い、二人は軽く睨み合う形になる。
 お前こそ、足引っ張るなよ!
 助作は舌打ちし、ドスドスと先頭に立って歩き出す。年下に小バカにされ、彼の対抗心に火が点いたらしい。
 遊夜が悪態をついたのは演技。彼の役割は『自信過剰な男』。助作に一目置きつつも嫉妬・反発する立場を取ることで、何かあった際の責任を彼が引き受ける様な流れを作っておく…つもりだったが、助作の態度を見ていると反発しかできない気がする。
(ま、受けちまった以上は『役割』を演じるとしようかね)
 とりあえず挨拶は済ませた。あとは如何にやる気を引き出すか。助作に姦しく群がった女子陣たちにその役目を引き継ぎ、彼はその行く末を少し離れた所から見守る。

 と、遊夜の耳元で突如発せられる声。
「一人で寂しそうだな?」
「うわっ!」
 その主は、今回撮影サポートを引き受けてくれた七種 戒(ja1267)であった。手には依頼のキモとなるハンディカムを携えている。
「驚かすな!」
 抗議しつつも、遊夜はサポートを引き受けてくれた礼を述べる。
「気にしなくていいぞ。楽しそうだったから引き受けたまでだ」
 戒を誘ったのは凛音であったが、二人もまた旧知の仲だ。
 彼女はノートとペンを手にすると、目一杯の作り笑顔で助作へと押し迫る。
「活躍楽しみにしてます! 何かあったら…その、守って下さいね」
 彼女の役割は『突撃取材の清純派アイドル』。
「頑張れ、清純派」
 その変わり様に、遊夜は苦笑いを浮かべた。


●ニート、昂ぶる
「学園に来て素敵な方に巡り合えたんです。けれど、告白も出来ないまま失恋してしまって…。告白された権瓦原先輩は凄いと思います!」
 桜花 凛音(ja5414)が助作に話かけている。発育よくグラマラスな彼女ではあるが、その内面は内気な思春期のそれ。時折見せる年相応の表情が、見た目とのギャップとなって助作の心をドギマギさせた。
「私も何でアウルに目覚めちゃったんだろうって何度も思いました…。でも周りに励まされたり、ある依頼を経て決めたんです。前に進むって!」
 彼女の役割は『先輩を励ますギャップが魅力な少女』。いつもはオドオドと話す彼女が、今日は真正面から向き合い語りかけている。それは真剣に、懸命に。
 助作の不名誉な称号『SOS』の汚名返上まで気にかける彼女は、助作に過去の自分と重なる部分が見えているのかもしれない。
 自身のイメチェンや気持ちの変化が起きた出来事を話しながら、助作に訴える。
「先輩にも、きっと変われる日が来ると思います。今日がそのきっかけになればいいなって…」

 お、おお、あ、うん。

「お弁当作ってきたんです。片付いたら皆で食べましょう」
 凛音の計らいに、助作の胸の高鳴りは急上昇。

 こんなに気にかけてくれるなんて…しかも手作り弁当…嬉しすぐる。

 だが、その真っ直ぐな目と向き合えない自分がいる。思わず視線を外した助作を、大谷 知夏(ja0041)が迎え入れた。
「助作先輩は悪魔退治のサポートに参加したんっすよね? アスヴァン的に凄く羨ましいっす!」
 あからさまなヨイショをする彼女の役割は『尊敬と畏怖の念を抱く後輩』。キラキラと輝くその目は、まるで憧れのヒーローを見ているかの様だ。もちろん演技だが。
「先輩には知夏達の指揮を執って欲しいっす!」
 知夏の提案に合わせ、みくず(jb2654)がにっこりと笑いかける。
「あたしたちも頑張るから。えへへ、指示とかよろしくねっ!」
『甘えん坊な妹』役の彼女は、すっぽりと被ったパーカーのフードを外し、その特徴を可愛らしくアピール。
「じつは狐耳なのです♪」
 狐の耳と尾を持つ悪魔ではあるが、傍目にはコスプレにも見える。耳と尾をぴこぴこと動かし、ちょっと甘える感じ&上目使いのおねだりを炸裂させる。
「おにいさんのカッコイイとこ、家族の人にも見せてあげようよ! 私も見てみたいなー!」
 その流れに乗り、知夏がここぞとばかりに説得にかかった。
「そうっす! 最後は必殺技で派手に活躍するっすよ! 助作先輩の凄さを皆に知らしめるっす!」
 思いもよらぬ提案に、当惑の表情を浮かべる助作。
「大丈夫っす! 知夏たちが陰ながら、コッソリと助力するっすよ!」

 続けて声をかけるのは、卯ノ花(jb3607)。
「指揮役、上手くやるのじゃぞ。今回は皆、協力的じゃからな」
 少々皮肉っぽい態度。だが、それも演技。他メンバーの印象が映えるように、わざと振る舞っているのだ。そんな彼女の役割は『何だかんだと気にかけるお姉さん』。
「逃げても状況は悪くなるだけじゃぞ。助けがある間が花というものじゃぞ」
 見た目は子供な天使のお姉さんは、浮かれ始めた助作にチクりと釘を刺すのも忘れない。

 最後に『信頼を寄せる後輩』担当の遠宮 撫子(jb1237)が、助作に握手を求めた。
「権瓦原さんは素敵(な盾をお持ち)な方ですね」
 微妙に口下手だと自覚する彼女ではあるが、いつもの様に括弧内の肝心なセリフが抜けてしまう。とは言え、その真意が正しく伝わっていないなどと考えることもなく、至って大真面目に話を続ける。
「私は攻撃に集中するので、是非(シールドや回復でみんなを)守ってくださると嬉しいです」
 にこっ。
 どきっ!
 精一杯の業務用スマイルが眩しい。更に、戦いに向けて高まる気合いが無意識に握る手に力を込める。
 ぎゅっ。
 どきーん!
 勘違いをした助作の心の鐘が激しく鳴り響く。掌から伝わる温もりに、助作はちょっと違う世へ旅立った。
「権瓦原さんにはとても(アスヴァンの能力的に)期待しています」

 お、おお。が、がんばりゅどっ!

(あ、噛んだ)
 全員の心の声がハモった。


●ニート、覚醒
 いったい何が起きてるんだ…。
 戦いを前に、助作の頭は混乱していた。部屋に閉じこもり、布団を被り、情けない過去と自分から目を背け、何もかもが嫌になって無気力だった日々。
 それなのに…まさか…こんな…。
 清純派アイドル。ギャップが魅力の少女。尊敬と畏怖を抱く後輩。甘えん坊な狐耳妹。気にかけてくれるお姉さん。信頼を寄せてくる後輩。
 こんなこと今までの人生に、いやこれからの人生でも有りえないと思っていた。いや、正直ちょっと夢見てはいたけれど。まさか、それが現実になる日が来るなんて。
 いや待て! これは誰かの陰謀に違いない! そうじゃなきゃこんなこと起きるはすが…。
「活躍はしっかり撮影しますから! 期待してますね!」
「先輩、がんばりましょう」
「どうしたっすか、先輩?」
「おにいさんのお願いなら聞いちゃう、うん!」
「勇みすぎるでないぞ」
「(皆と協力して)一緒に頑張りましょう」
 ……落ち着け。落ち着くんだ自分。冷静に現実を見ろ。選り取り見取りの女の子が目の前にいる事実。 つまりこれは、そう、あれだ。

 モ、モテ期、キターーーァッ!!!

「今の声…絶対敵に気付かれたやな」
 両手を振り上げ天に向かって叫ぶ助作の後ろで、遊夜が呻く。敵がいる場所は目前だ。
「やる気になっているし、いいんじゃないか」
 紫鷹は淡々と戦いの準備を進める。

 行くぞ! みんな、俺に続けー!

 すっかりやる気に満ち溢れた助作が、突如駆けだした。良くも悪くも覚醒した彼を一同は慌てて追う。
 その先では2mはあるトカゲ姿の敵がすでに3匹、口の端から火を漏らしながら身構えている。

 よーし! 俺の指示に従えよ!

 助作が当初の打合せ通りに指示を飛ばす。だが、その意から外れて独断先行する者が一人。
「腐れろ、爬虫類!」
 『自信過剰な男』遊夜である。助作の指示を無視し、先制して腐敗を帯びた弾丸を敵に浴びせる。助作が何か喚いているが敢えて気にしない。
「近づけさせないっすよ!」
 知夏は後衛の前に立つと盾を構え、牽制して敵の接近を阻む。その隙に紫鷹が敵の側面から斬りかかるも、敵は予想外に素早い動きで刃を牙で受け止めてしまう。
 ごおっ!
 そのまま紫鷹めがけて吹き出された火炎が、彼女の身を焦がす。慌てて後退する紫鷹。
 そんな彼女を淡い光が包み込み、焼けた痛みを和らげる。振り返れば、ライトヒールをかけた助作が立っていた。膝は震えてるが。
「…やればできるじゃないか」
 紫鷹は少しだけ見直すと、すぐさま影手裏剣で反撃に出る。それに合わせて、みくずが炎球陣を発動する。
「この日のために覚えてきたんだよ!」
 戦場を薙いだ炎球が、敵の一体を沈めた。

「助けて権瓦原先輩!」
「キャーこわーい!」
 凛音と戒の声に、助作が自慢の盾を掲げて二人の前に飛び出す。
「ありがとうございます!」
 凛音のお礼に、キラリと歯を光らせ助作が笑顔を見せる。でもちょっと涙目。
 その間に、撫子が助走無しからの跳躍で一気に敵との距離を詰め、攻撃を仕掛けた。
「全力でいきます!」
 ひらり。
 スカートから覗いたストライプを、助作の目は見逃さない。
「鼻の下を伸ばしている場合じゃなかろう!」
 卯ノ花が思わず叱咤する脇で、遊夜が女性陣を守ることで手一杯となった助作の傷をさり気なく癒す。
「これでいいだろ…さ、行くぞ」
「…ツ、ツンデr」
「誰がだ!」
 その後も盾役に、回復役にと奮闘する助作へ黄色い声援が飛ぶ。
 助作の背に、凛音が激励を送る。
「頑張ってください!」
 撫子がにこやかに告げる。
「(みんな)頼りになりますね」
 みくずがペロリと舌を出す。
「ごめんなさーい。ちゃんと指示に従うね☆」

 その甲斐あって…なのか、戦闘はかなり優勢に進んでいた。
 そんな折、響く怒声。

 おい! 男が女性の陰に隠れてどうする! 前出ろ、前!

 すっかり調子に乗った助作が、遊夜に向かって指示を飛ばしたのだ。
「チッ…わかったよ!」
 なんで俺があいつなんかに…。ブチブチ言いながらも助作リーダーらしく見せるため、遊夜は指示に従って前衛へと躍り出る。
(と言うか、本気でムカつく…)
 その怒りの矛先を目の前の敵に向け、銃を突きつける。
「動き回るな、這い蹲れ」
 その一撃が敵の脳天が吹き飛ばした。
 残り1匹となった敵が、慌てて尻尾を切り離す。ビチビチと跳ね回る尾を囮に逃げ出すつもりだ。
 その尾を紫鷹が予備の斧で地面に縫い止め、撫子とみくずの連携が仕留める。天使の翼を広げた卯ノ花が空を飛んで敵本体の退路を塞げば、すかさず凛音が異界の手を呼び出し敵の動きを束縛する。
「今っすよ! 必殺技で仕留めるっす!」
 絶好のチャンスに知夏が助作を促した…が、先程の勢いはどこへやら。急に尻込みする助作。どうやらアラサーにもなって必殺技を叫ぶという行為が、今更気恥ずかしくなったらしい。
「早くするぜよっ!」
 火炎を吹き出させない様に敵を牽制し続けていた遊夜が、ついに堪忍袋の尾を切らす。
 その声に急かされ、『星の輝き』を発動した助作が無駄に美しく輝く。彼が叫ぶは、彼考案の(偽装)必殺技!

 く、食らえっ! SOSアターック!!

 ※訳:Shining Oresama Saikoアタック!
 ※さらに意訳:輝く俺様、サイコーだろ?!

 一瞬。ほんの一瞬、時が止まるが、次の瞬間には何事もなかったかの様に、カメラの死角から次々とスキルが飛ぶ。
「迅雷!」「コメット!」「炸裂符!」
 紫鷹、知夏、卯ノ花の怒涛の攻撃に敵が消し飛び、ド派手な爆発が巻き起こる。
「特大サービスじゃよ、とっとくのじゃ」
 いつもより大きな炸裂符で爆発を演出した卯ノ花が、にやりと笑みを浮かべた。


●ニート、顧みる。そして…
「しっかし疲れた、慣れねぇことはするもんじゃねぇな」
 遊夜が首をコキコキと鳴らす脇で、戒が満足げに頷く。
「ふ、コレで遊夜のモテ度が下がるハズ…!」
「お前は何撮ってたんだ!」

 一方、紫鷹は助作に近付くと、真正面に立って声をかけた。
「なぜ、悪魔退治の嘘をついたのだ?」
 ストレートな問いに、凛音の手作り弁当をパクつく助作の手が止まり、高揚した気分が見る間に萎えていく。
 それでも紫鷹は言葉を続ける。彼女の思うところを伝えるために。
「親が勘当寸前まで怒るのは会社の面目もあると思う。けど、悪魔退治の他にも、自己評価を高める嘘をついてたんじゃないか? ついていいのは、バレてもいい嘘と、相手を喜ばせる為の…嘘だ」
 無言。
 しかし、助作の顔が伏せられることは無く、紫鷹を見つめ返し次の言葉を待っていた。
「…等身大の自分を隠すと、信じてもらう事が…できなくなるぞ。1人立ちするなら、信用されなければ、助けも来ない」
 淡々と接し続けた彼女の役割、それは『背中を押す者』。その言葉は厳しすぎず、優しすぎず、ただ真っ直ぐと。
 押し黙る助作は、助作が過去と自分自身に向き合っている。紫鷹にはそう思えた。
 最後に、そっぽを向きながら付け加える。
「さっきは、有難う……その、助かった」
 素っ気ない彼女からの初めてのお礼。助作は少し驚き、そして照れくさそうに笑みを浮かべた。


 ――数日後。
 提出された映像を確認した権瓦原建設の社長は頭を抱えて突っ伏していた。
 たしかに天魔退治をしてはいた…してはいたが、モテ期やら必殺技名やら。とても他人様に見せられるものではない。まぁ、編集すればなんとかなるだろうが…。
 とは言え、息子のイキイキとした姿を見れたのは、親として嬉しくもあった。
「…もう少しだけ様子を見てやるか」


 一方、その頃。
「あの掌の温もり…いや、あのギャップも捨てがたい…」
 助作は上機嫌で頭を抱えていた。すでにモテ期(偽造)が過ぎ去ったことに気づく様子は無い。
「ぐふふ。モテ期ってやつは大変だなぁ」
 何はともあれ、撃退士を続ける決意をした助作。本当のモテ期が訪れるその日まで、彼の夢物語は続く。おそらく永遠に…。
 


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 一緒にいればどこでも楽園・桜花 凛音(ja5414)
 天つ彩風『想風』・紫鷹(jb0224)
 モテ男にも恋をさせたい!・遠宮 撫子(jb1237)
重体: −
面白かった!:7人

癒しのウサたん・
大谷 知夏(ja0041)

大学部1年68組 女 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
一緒にいればどこでも楽園・
桜花 凛音(ja5414)

高等部3年31組 女 ダアト
天つ彩風『想風』・
紫鷹(jb0224)

大学部3年307組 女 鬼道忍軍
モテ男にも恋をさせたい!・
遠宮 撫子(jb1237)

大学部4年87組 女 ルインズブレイド
サバイバル大食い優勝者・
みくず(jb2654)

大学部3年250組 女 陰陽師
撃退士・
卯ノ花(jb3607)

大学部6年10組 女 陰陽師