●いざ、開幕!
『各国の皆が待ち望んだ戦いの祭典! その名も『ジョブムソウ』!! この戦では、ジョブに向ける愛の強さが力となる。レベルによる戦力差なんて、想いの力で吹き飛ばせ! と・い・う・わ・け・で! 解説はワタクシ、赤良瀬 千鶴が務めさせていただきます』
この世界にあるジスウ=セイゲーンという理により、丸々セリフカットとなりますが、哀しむことなく裏で解説をしていて下さいね。
『ちょっ! 何それ! 聞いてないわよっ!? せっかく気合い入れて、各人の資料まで刷ってきt…』
さて、いよいよ開催の時間となりました。いったい誰が優勝するのでしょうか!?
『話を聞けーーーっ!』
ジョブムソウ! 開幕です!!
開戦の合図にいち早く反応したのは、阿修羅の風鳥 暦(
ja1672)。身に纏う白いオーラは黒い火花を飛び散らせ、彼女の気合ははち切れんばかり。
全力移動で人の少ない場所を陣取ると、手近なモブに向かっては次々と攻撃スキルを見舞っていく。
「阿修羅の長所は火力! スキルもその傾向が強いのです! けど射程が足りない……、ならば長射程のものを使えばいいのです!」
離れた敵へは、高速の拳が生んだ衝撃波の飛燕を放つ。はっちゃけた彼女が動くたび、数十人単位のモブが景気よく吹き飛ばされた。
「モブをいっぱい倒すのです!」
朗らかな宣言に、周囲のモブたちが慌てふためく。
およそ戦場に相応しいとは思えないメイド服に身を包み、氷雨 静(
ja4221)が魔法を放つ。
「ダアトこそ至高のジョブなのです。紙装甲? 攻撃は最大の防御でございますよ!」
彼女の魔法攻撃に次々と沈むモブたち。反撃の手を伸ばすモブもあれど、その前には光の加護を受けた騎士が立ち塞がる。
「何者も護る盾にして全てを貫く矛…それがディバインナイトです!」
龍仙 樹(
jb0212)が静の盾となりつつ、モブを各個撃破していく。
樹は物心ついた時から孤児院で過ごし、暖かく育ててくれた孤児院の職員がいるからこそ今の自分がいると思っている。今度は自分がその様な存在になる番だ。強制夢想による『敗者全員が孤児院のボランティアに従事』という願いを勝ち取るためにも彼はその手を振るう。
「樹様、よろしくお願い致しますね…最後の2人になるまでは」
「最後まで二人で勝ち残れるように、がんばりましょう」
クリスマスに想いを確かめ合ったばかりの恋人同士は、戦いの最中に微笑み合う。
リア中吹き飛べーっ!
モブの奮闘虚しく、次々と敵を蹴散らして進む二人はまるでダンスを踊るが如く幸せそうですらあった。
同じくペアを組んで戦いに臨むのは、龍崎海(
ja0565)と若菜 白兎(
ja2109)の二人。
「残念じゃない。残念じゃないんだからー!」
海が魂の声を叫びが戦場に木霊する。
「ジョブの力は他人を傷つける為のものじゃない。皆を護る為のもの。それを一番体現してるアストラルさんがわたしは好き。……ただそれだけなの」
白い仔ウサギの様な可愛らしい見た目と控え目な態度。一見すれば、思わず手を差し伸べたくなる白兎ではあるが、その目に宿るのは確固たる決意。皆を護りたいと言う気持ちは誰にも負けない。
一方、そんな白兎の『救護活動手伝い募集』を聞いて、面白そうだと参加を決めた海は周囲をじっくりと見渡す。
「中途半端で得意の防御もレート補正で役立たずって言われるが、サポートではどこにも負けん。連携での強さとその方面でイクサを引っ掻き回して目立つのも一興だ」
白兎と共に、戦場を癒して回っては男たちに対してこっそりと耳打ちする。
「俺の強制夢想は温泉で混浴だ」
交渉成立。ジョブを問わず、モブたちが着々と海の味方として増えていく。そんな様子に、白兎が感激の涙を浮かべた。
「私たちの想いが通じたんですね」
「一つのジョブしか愛せんなんざ、何その悲恋ッ! 全てを心より愛そうッ! 嘘偽り一切無くッ!」
開始早々から荒々しい戦いを魅せるのは革帯 暴食(
ja7850)。叫び、吼え、挑発しては、襲い掛かるモブたちを殴り、蹴り、投げ飛ばす。
「敵も倒れた奴も盾くれぇにゃしてやっよッ!」
襲い掛かる攻撃に対しては手近なモブを引っ掴んでは盾にし、足元に倒れた者を攻撃してきた相手に向かって蹴り飛ばす。彼女自身はその場から一歩も動くことはなく、死屍累々人の山を作る光景はまさに無双。
「愛してやっよぉからよッ! ケラケラケラ!」
華々しい人花火が、彼女の周りで舞っては散っていた。
祭りを彩る花火は彼女だけではない。
インフィルトレイターの氷月 はくあ(
ja0811)が、アウルによって創造した巨大な劫火の剣をあちこちに撃ち放った。ナパーム弾の如き小爆発が、様々な色で戦場に乱れ咲く。
「平野かぁ…人に紛れて潜入者の本分を果たすのもいいけど、ここは、新たな可能性を見せるのも一興だよねっ」
基本の索敵、優れた遠距離技能。他の専門職には劣るが緊急時の防護、近接能力、回復。この全てが仲間が進むべき道を作り、穴を埋めるためのもの…。だけど今だけは、その全てを己のために惜しみなく解き放つ!
「ド派手に行くよっ!」
なお、この戦にて力尽き倒れた者たちも、すべて終われば傷が癒えた状態で復活する。この仕組みがあるからこそ、誰もかれもが戦へと参加し、戦はお祭り騒ぎへと変容したのである。
「ジョブ同士が戦うなんて、こんなの絶対おかしいよ!」
そんな事情を露とも知らない少年レグルス・グラウシード(
ja8064)は、目の前で始まった戦に胸を痛めていた。あちこちで吹き飛ばされるモブの姿を見ては、哀しみ、涙を流す。
「僕が勝って…この不毛な戦いを終わらせてやるッ!」
疑うことをしない素直な少年の叫びが、興奮と熱気の塊と化したお祭り騒ぎの中心に響く。
…って言うか、誰か彼に事情を説明してあげるべきだ。
白鱗の馬竜・千里翔翼に騎乗したバハムートテイマーの白蛇(
jb0889)は、砂塵舞い散る戦場を見下ろした。
「さあ、まずは鬨を上げよ」
千里翔翼の咆哮が戦場を駆け抜け、飛翔と縮地を顕現した千里翔翼が眼下に広がる戦場を駆け抜ける。
「神の出陣じゃ。者共、平伏すがよい!」
その姿は疾風の如く。一撃離脱でブレスを吐き浴びせ、白蛇が愛用の雷桜を振り回す。
縦横無尽に戦場を駆け抜ける中、白蛇の視界にふと気になる人影が映った。
「陰陽師として、術無双をお見せします! 主武器は銃ですけど!」
明鏡止水の心で気づかれない様にモブの群れに潜行しては、奇門遁甲で方向感覚を狂わし、右往左往するモブたちへ呪縛陣でダメージを与えつつ動きを束縛して回っている少女。
その名は久遠寺 渚(
jb0685)。巫女服に身を包んだ彼女の光纏は、巨大な白蛇を象っていた。
「おぬしの光纏。それは何だ」
渚に向かって、白蛇が上空から声をかける。その態度は尊大そのもの。その態度の根拠は、彼女は自身が神だと信じているからに他ならない。
突然の問いかけに、渚はおどおどしながらも真正面から答えた。
「これは私の家に、神社に祀られている白蛇様を象ったモノ。そう言うあなたは何者でしょうか?」
「わしか? わしの名は白蛇。人の身に堕ちた神よ。これも何かの縁かのう。おぬし、わしと組まんか?」
かくして、ここに白蛇が生んだ縁が結んだ奇妙な即席ペアが誕生した。
先端だけ三つ編みにし、お尻まで伸ばした長い髪が揺れる。長い手足とそのスタイルには、美貌という言葉がよく似合う。胸元で輝くチェーンに掛けた指輪を指でつまみ、藍 星露(
ja5127)は昔を懐かしむ。
あたしは、中学までは一般人だったわ。アウルの適正なんて一切無く、撃退士になるなんて考えもしてなかった。でも今は、ちょっとだけその頃の気持ちを思い出して――。
この世界では一般人も立派なジョブとして、戦う力を持っている。だが、あくまで戦えるだけであり、他のジョブと比べればその戦力差は歴然。そんな一般人が対応できる唯一の方法が…オリジナルスキル。各人は独自設定のスキルを1つだけ持ち、それを武器に戦に挑む。
「撃退士じゃなくても、アウルの力が無くても、やれることはあるのよー!「この世界の主役は、撃退士だけじゃないっ!」
彼女の叫びに、一般人から歓声と拍手が沸き起こった。
「戦か……適当に楽しませて貰うとするさ」
呟く天風 静流(
ja0373)の周りに、立っている人影は無い。彼女はたった一人で、すでに辺り一帯を殲滅していた。
多彩な武芸を習熟し、一度敵と看做した相手には微塵の躊躇いも無い戦いぶりは『阿修羅』そのもの。だが、そんな言葉とは裏腹に、凛とした佇まいは戦場にあって彼女を厳かに、抜身の刃の様な美しさで際立たせていた。
「お相手、願えるかしら?」
静流に近付き、声をかけるは新井司(
ja6034)。彼女もまた阿修羅である。燃える様な輝きに満ちた瞳が、眼前に立つ女性を見据えた。
「あなたにとってのジョブ愛とは? 英雄とは?」
「ジョブ愛といってもな……長々と多くを語る必要などあるまい。すべてはこの背中で示すまで」
途端、濃密な殺気が静流の身から溢れ出す。
司の背筋を流れる一筋の滴。湧き起こる畏怖を飲み込むかの様に、手にしたトマトジュースを一息に飲み干む。
「何が嫌いかより何が好きかで自分を語るのよ」
蒼いオーラを身に纏い、司が動く。サイドステップで懐へと潜り込み、衝撃と化したアウルを掌底に乗せる。静流は身をよじり、それを難なく受け流しては、そのまま反撃へと動きをつなげる。防御を『徹し』た攻撃が、深々と司の身に突き刺さった。
くの字になった身体を無理やり引き起こし、司が距離を取る。
「小細工はいらん、全て砕き潰し進めば良いだけの事」
静流が司を見やる。
―――強い。
悠然と佇む静流に、司は自身が求める英雄の片鱗を見たような気がした。
「『英雄』を目指す者にとって、考える事を止められない者にとって――こんな性に合うジョブもそうはないわ」
彼女の阿修羅に対する想いもまた、静流に引けを取る物ではない。二人は熾烈に美しく、ただ真っ直ぐに。想いを乗せた拳を交わす。
やがて、立ち込める砂煙の中に見えるは一つの姿。ジョブにかける熱意はほぼ同じ。勝負を分けたのは――その先にある想いだったのだろうか。
「彼女の背が語っていたもの。あれもまた英雄の一つの形のなのかもしれない…」
二人の熱気と想いは、広い戦場へと伝播する。
●中盤戦
「一般人だって立派なジョブなんだ……むしろ総数なら一般人が一番多いんだしな!」
蒼桐 遼布(
jb2501)は熱く叫び、必死に足を動かしていた。
その言葉通り、彼のジョブは一般人。
「ジョブや多彩なスキルがすべてじゃないって証明してやる!」
そうは言っても、所詮一般人。特に攻撃力のあるスキルではないので、実力者と真正面から相対しても勝ち目があるはずはない。彼は爆風や閃光が飛び交う戦場を、ただひたすらに駆け巡る…。
対照的に、戦場を繕うようウロウロと歩き回っているのはミリオール=アステローザ(
jb2746)。小さな天使の陰陽師は『方位術』や『卜占』を使用し、この世界の空気を心の底から堪能していた。
「んぅー、良い天気…とりあえず、色々見て回るとするのですワぁ」
何もない平地の戦場で、彼女は一体何を見て回るつもりなのか。積極的に戦闘に加わるでもなく、稀に組易しと襲い掛かってくるモブにのみ長閑に対処する。
「たーまやー! ですワッ!」
今もまたひとり。閃光矮星の小爆発にモブが巻き込まれるのだった。
ひゅるるる、どかーん!
空から闇の火球が次々と降り注ぐ。
「んっふ…。いいわぁいいわぁ。獲物が沢山いるわぁ。ンフフッ!!」
250cmの大柄な体を揺らし、ついでに巨乳を通り越して爆乳、いやその表現すら生ぬるい。『魔乳』を振るわせ妖艶な笑みを浮かべるのは、ダアトで悪魔のオフェリア=モルゲンシュテルン(
jb3111)。その強烈な存在感とフェロモンを前に、胸に飛び込もうとする者(♂)、拝む者(♂♀)、冷めた視線を送る者(♂貧乳好き)、嫉妬に狂う者(♀)などが続出。周囲は混沌と化していた。
「ンフフフ!! 闇の炎で地獄の先まで燃えるといいわァ! んふっ!」
魔乳の巻き起こした灼熱地獄が、魔乳に魅せられた者たちを残さず昇天させていく。
「あらあら。私に何か用かしらァ? そこのモテなさそうな光騎士君?」
「非モテジョブ言うなっ」
ディバインナイトの緋山 要(
jb3347)がオフェリアの前に立ち塞がった。
「ジョブムソウ…とりあえずはやるしかないか」
背中に神々しい小天使の翼を広げ、要は空中に舞い上がる。
「いいわァ、その目! 深遠までイきなさぁい? バニッシュマジック!」
ディスペルをベースとした魔法が、要の魔法防御を低下させる。と同時に、オフェリアは彼をその魔乳で熱く挟み込んだ。
「んふふ。気持ちいいかしらァ? そのまま消滅するといいわよォ! んふふふ!!!」
光が迸り、彼女の切り札のロスト・スピリット(禁呪『炸裂掌』)が炸裂する。
だが、魔乳に挟まれた青年は大したケガを負っていない。窒息死しそうではあるが。
「そ、そんなッ! 私の魔乳に屈しないなんてッ!」
心病んだ母を守るため、青年は『護りの要』となる道を選んだ。母とジョブに対する想いが、彼の能力を引き上げる。
「もごもごもごご、むぐむぐむぐむぐぐっ…」
要約。守ることを誓いにし、守ることを優先的にする……バトルロイヤルでは別物だがな。
怯むオフェリアを、想いを乗せたフォースが包み込む。
窒息から解放された要は大きく深呼吸し、再び戦場へと身を投げ打つのだった。
空を飛ぶ水鏡(
jb2485)は、遥か彼方からその様子を見つめていた。
「なかなかやるじゃないか」
その距離、数百m。テレスコープアイで高めた視力がハッキリと姿を捉えるも、当然その視線に気付くことはない。彼女はインフィルトして『目』に特化したスキルを駆使し、ここまで有力な人物の姿と戦力を観察してきた。その中から彼女はある人物を標的に定めると、バルバトスボウに矢をつがえ、放つ。
ロングレンジ且つ上空からの不意を突いた一撃が、狙い違わず赤髪の少女の背中に突き刺さり、倒れた。。
だが、それも束の間。すぐにメリー(
jb3287)は起き上がる。
「お兄ちゃん…メリーに力を貸して…」
大好きな兄への想いが、不落の守護者の効果を昇華させる。
「まだ、負けてないの! これ位で倒れてたらお兄ちゃんを護れないの!」
兄を護る事、これ即ちジョブ愛。兄への想いが、ジョブ愛転じてディバナイとしての彼女を強化させる。ちょっと偏った方向で。
「お兄ちゃんの為だけの盾になるの! お兄ちゃんを護る盾になるって決めたの! だからメリーは倒れちゃ駄目なの!」
シバルリーで強化した防御力はさらに強く、ついでに兄を追い求める足も強化され、彼女は追撃を銀の盾で悉く弾き返しては兄を探してひた走る。この夢の世界に兄はいないけれど。
「メリー頑張って、お兄ちゃんに褒めて貰うんだから!」
彼女は駆ける。どこまでもどこまでも……。
「くそっ!」
走り去る少女を悔しそうに見送る水鏡の背に、ひっそりと忍び寄る一つの影。
(忍者らしく汚い方法で行こうか。汚いというのは褒め言葉なのであろう?)
遁甲の術で気配を消し切った千年 薙(
jb2513)が、背後からの不意打ちで水鏡を地に叩き落とす。
「後ろから攻撃されしかも動けなくされるのはどんな気分なのか。やる方は大変愉快であるがの」
突然のできごとに驚きつつも、水鏡は武器をモラクスホーンに換装し、油断なく周囲を見渡す。
「ここじゃよ」
声は再び後から。水鏡は迷わず背後を蹴り抜く。だが、捉えたと思ったそれは服を着せた丸太。再び驚く水鏡の背を取り、薙が飯綱落しで脳天を叩きつける。
「空蝉の術よ、ふふふ。NINJA等と言われているが、我は忍ぶというのも悪くは無いぞ」
昏倒する水鏡を前に、薙の顔が思わず緩んだ。
「モブさんたち! 今なのです!」
混戦が続く中、フィノシュトラ(
jb2752)の指示が飛ぶ。それに従い、陣列を組んだダアトのモブたちが一斉に魔法を唱え始めた。
相対するは、開始位置から一歩も動いていない暴食。
「攻撃力とバステの両立可能なダアト万歳なのだよ! 協力した時の力を見せるのだよ!」
ポイズンミスト部隊が毒霧の壁を作り、範囲攻撃魔法部隊が連続で魔法を打ち込む。
対して、暴食は手近なモブを引っ掴んでは魔法を防ぐ盾とし、モブを投げてはモブ部隊をドミノ倒しで反撃する。
「さぁ、喰わせろッ!」
暴食が指示を飛ばすフィノシュトラ目がけて一気に飛びかかる。が、その動きは異界の呼び手部隊が束縛する。
「ダアトは神秘の追求者、知識の蒐集者、この世の全てを知りたいのだよ!」
移動できず、周りにモブもいなくなった暴食に飛ぶ魔法の雨嵐。
「蝿の王」。隣接する場所に戦闘不能者がいなければ実力を発揮できる暴食のオリジナルスキル。彼女は一般人として参加していた。周囲に戦闘不能者が居なくとも、モブという盾がなければ流石に魔法の連続攻撃に耐え切れるはずもなく。
「この調子で、後はよろしくなのだよ!」
こんがりと良い色に焼き上がる暴食を尻目に、必死に戦うモブの背中に敬礼を送ったフィノシュトラは、脱兎の如くその場から走り去るのだった。
「さあ見よ、我が筋肉ゥー!」
「インフィルは威力が決め手に欠ける? だがしかし! インフィルにはロマンがある!」
今回の戦いにおける最後のペアは、マッチョに身を包んだモヒカン天使のマクセル・オールウェル(
jb2672)と、クールなサラリーマンのミハイル・エッカート(
jb0544)。
「ミハイル殿を守るのが我輩の役目。我輩はミハイル殿と組み、王を目指す!」
がっちりと握手を交わす男二人。
「我輩が注目を集める光となる故、ミハイル殿は陰より討つのだ。光に闇に、我等が征こう!」
言うや否や、ディバナイのマクセルが大剣を盾にしてモブの群れへと吶喊していく。突き、振り下ろし、頭上で振り回し、時にマッスルポーズで注意を引きながら、彼はモブを圧倒する。
その後方から、ミハイルは腐敗をまき散らす弾丸を次々と撃ち続けていた。
「見る者の心くすぐり、機能美に溢れる銃器類。そいつを持たせれば様になるインフィルが一番カッコイイんだ!」
隠密屋が本業な彼に正面切った戦いは向かない。頼もしい背中を見せるパートナーを信じて、彼は後衛でクールに銃を構え続ける。
「ミハイル殿、後ろだっ!」
一瞬の油断。マクセルの警鐘遅く、ミハイルの背後からモブが襲い掛かった。刹那。
「後ろに立つんじゃねぇっ」
ミハイルが『急所外し』で身を屈ませ、振り向きざまに足払い&眉間に一撃。流れるような動きはまるでマト○ックス。気を失ったモブに向かって、ミハイルがニヒルに笑う。
「カッコイイとはこういうことさ」
「おお、さすがミハイル殿!」
そこへ、一人の女性がミハイルに歩み寄った。
「御嬢さん、ここは危険だぜ」
ミハイルの忠告に対し、にこりと笑みを返す星露。彼女はそっとミハイルの手を取ると、その手を天に持ち上げた。
「この人、痴漢です!!」
「な、なにーーーーっ!!」
彼女のオリジナルスキル『この人、痴漢です』が発動。ミハイルが一気に周囲の注目を浴びる。
痴漢だ。痴漢だぞ。痴漢ですってよ。女の敵め。あのサングラスは視線を隠すためのものだわ。いや、不潔!
明らかな敵意を向けるモブたち。その中には、海&白兎のペアもあった。
「…痴漢さんも助けるべきジョブなのですか?」
白兎の純真な目がミハイルを捉える。
「ち、違うぞ! これは誤解だ!」
やっていないことをやっていないと証明することは至難を極める。なんと恐ろしいスキルか。
「みんな! 女の敵を打ち倒せ!」
「自分のジョブ(痴漢)を好きな事と、他のジョブ(女性)を打ち負かす事は一緒じゃない筈なの。だからもう……こんな事は止めて」
海と白兎の掛け声に、ミハイルに向かってモブの大群が一斉に突撃を開始する。
「ミハイル殿は一旦退くのだ。ここは私に任せt…うぎゃーーー!」
「マクセーーールッ!!」
数多のモブに蹂躙されるマクセル。相棒の名を呼びながら必死に逃げるミハイル。いくらPCがモブより強くとも、想像を超える数の前には為す術はなく。
「ごめんねー!」
その光景に、遠方から星露が手を振る。そこに響く、思わぬ声。
「冤罪はいかんの」
「えっ!?」
不意打ち。油断していた星露に薙がバックドロップ(飯綱落し)をかます。一般人相手にすら背後から不意打ちとは…汚いなさすが忍者汚い。
「汚い忍者。素晴らしいではないか」
●終盤戦
ダアトの結城 馨(
ja0037)は常に立ち位置を変え、攻撃の的を絞らせずに戦っていた。
「負けるわけにはいきません」
開いた魔法書から浮かび上がった魔法の剣が空を舞っては、周囲のモブたちに突き刺さる。反撃の手が伸びるも、すでに彼女の姿はそこにはない。周囲との距離を保ちながら奮戦する姿はIt's clever。
「For God's sake, Sir Justice, think of me, for I have none to help me save God」
彼女は詠唱と共に、手で十字を切ってはライトニングを撃ち放つ。
そこへ現れるは、牧野 穂鳥(
ja2029)。
「純粋にお手合せていただきたく思います。好き好んで持った力ではありませんが、せめて自身の願いの為に役立つよう、鍛錬は怠っておりません」
穂鳥が薄く笑んでお辞儀する。その身を覆うは、蔦を模した仄暗い緑色のオーラ。先ほどまでは天清衣を纏い、百渦殿、緋籠女、斬咲棘と範囲魔法を駆使してモブを蹂躙していた。だが今は対個人戦として、風の障壁で身を包み攻撃に備える。
二人の視線が絡まり合い、魔法が飛び交う。ダアト同士、遠距離からの魔法の応酬が続く。
その戦いに飛び込む複数の人影。
「誰もが助けあわないなら、本当の勝利にならないんです!」
苦渋に満ちた表情を浮かべ、少年レグルスが姿を見せる。何だかんだ言いながらも、悪鬼の如くモブを討ち倒してきた彼に容赦はない。
「みんなではっちゃけるのです!」
「ワふーーっ! 何か、燃えてきたのですワっ!」
続けて、現れたのはテンション高い暦と途中からテンションあげあげのミリオール。
「ちょうどいいわ。私も混ぜてもらえるかしら?」
さらに加わるは、格上の静流をギリギリ打ち破った司。
総勢6人の剣戟と閃光が飛び交う中、突如カクカクカクンと尻餅をつく。
その仕業は、一般人の遼布。彼がこの戦いのために身に着けたオリジナルスキル『強者からの不可視』。自分の存在が、自分より戦力が高い存在から認識されなくなるというものだ。
このスキルで背後からこっそり近づき、全員に膝かっくんを仕掛けたのである。
「俺の目的は、バトルロワイヤルが波乱に満ちた面白いものとなる様に盛り上げること! どうだ、驚いたか!」
だが彼の声に反応はなく、
「Of this I prayeth remedy for God's sake, as it please you, and for the Queen's soul's sake」
馨が魔法を飛ばし、
「…艶やかに、華やかに。存分にその成果を咲かせてみせましょう」
穂鳥が風の渦を巻き起こし、
「僕の力よ…全てを砕く、流星群となれッ!」
レグルスが彗星群を飛ばし、
「さあ、高火力の前に沈むのです!」
暦の一撃必殺の攻撃が炸裂し、
「愛、ジョブ愛ー…んー、良く解らないのですっ!」
ミリオールが生命力を吸い寄せる黒色球体を投擲し、
「阿修羅はね、こう見えて色々面白い動きが出来るジョブなの。相手や状況に合わせ様々な手段を採れるのが阿修羅最大の強み」
縮地で距離を詰めた司の薙ぎ払いが煌めく。
「あ、あれー?」
遼布の所業にも声にも気を向けることなく、6人とも何が起きたかを理解する前に、目の前の相手に必死に対応する。
そのスキル故に目視もされない遼布は、一人寂しく空を仰いだ。
(こんなはずじゃなかったんだが…)
ちゅどーん。範囲魔法に巻き込まれた遼布の身体が宙を舞う。キラリ。
誰にも気づかれることなく空の星となった遼布。大丈夫。キミの心意気はMSの胸に刻まれた。安心して逝くが良い。
「ただじゃ死にませんよ!」
死活を使って魔法を耐えた暦の最後の反撃に馨が道連れにされ、すでに限界だった司も力尽きる。
だが、長引く戦いは更に混沌を呼び、続々と生き残った者たちを戦いへと導く。
ピンクな空気を醸し出すモブを大量に引き連れて来たのは海。温泉での混浴を目指し、全員が一致団結しては怒涛の勢いで突撃する。
一方、白兎は1人でも多くの人を助けようと、混沌の坩堝と化した戦場を駆け回っていた。
倒れゆく人には神の兵士の加護を、BSに苦しむ人があればクリアランスを、そして全ての傷付いた人へ降り注ぐ癒しの光を。攻撃は一切せず、敵とか味方とか区別は無く我が身を呈して献身的に尽くす彼女に、いつしかファンクラブが立ち上がる。
白兎ちゃんを護れー!
そのモブの波間に、レグルスやミリオールが消えていく。
「竜使いに栄光あれ!」
「炸裂陣! 闘刃武舞! 炎陣球! 八卦石縛風! 蟲毒! 鎌鼬!」
モブの大群を薙ぎ払うべく、白蛇が従えし白鱗の竜『神威』に雷撃を放たせ、渚が攻撃スキルのオンパレードを仕掛ける。
「まとめて焼き払って差し上げます!」
「邪魔をしないでください!」
さらに果敢に飛び込んできた静と樹の恋人ペアが、朱炎雨を唱え、エメラルドスラッシュやパールクラッシュを放っては周囲のものを薙ぎ倒す。
「固定ダメージって素敵ですよね!」
隙を見計らって、渚が呪怨の眼光でアスヴァンの海を沈める。
「くくっ、司を入れ替え立ち代えてのすきるの雨霰、どうじゃ!」
勝ち誇る白蛇を、はくあの遠距離からの狙撃が襲う。
はくあは『金剛雷』『誓約せざる者』と標的のカオスレートによって攻撃を撃ち分ける。
「今のわたしは一つの要塞…そう簡単には落ちないよっ!」
そんな彼女に背後から忍び寄り、薙が三度不意を打とうと闇遁・闇影陣の二連続攻撃を仕掛ける。だが、姿を見せた薙には、ここまでその誓いと想いの強さから、ほとんどダメージを受け付けなかった要が襲い掛かる。
「例えどれほど傷つこうと、誓いのためならばまだ進める!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が、いつまでも終わることなく繰り広げられる。
「これはかわせますか?」
気配を消し、素早く動く薙を静の紫電光が捉える。だが、そこで崩れ落ちる静。
「静さん、大丈夫ですか!?」
呪怨の眼光にギリギリ耐えきり、渚を切り伏せた樹が静に駆け寄るも、彼もあと一歩のところで力尽きる。
広い戦場を見渡せば、そこに広がるのは遥かなる平原。いつしか、戦場に戦える者はいなくなっていた。
「やっと…終わったんですね」
白兎が、わずかに届かなかった樹と静の手を重ね、悲しそうに目を伏せる。
ついに戦の幕が下りた。最後まで残ったのは、最後まで戦いを悲しんだ少女。当然のことながら、その目に喜びの表情は無い。
「強制夢想……私はそれに争いのない世界を願いまs」
ガンッ!
うきゅ〜。べしゃ。目を回し、白兎が顔面から地面に倒れ込む。
「優勝は、私なのだよ!」
そこに立つのはフィノシュトラ。戦いの途中で物質透過を使って地中に潜り、ひっそりと戦いをやり過ごしていた彼女が白兎を昏倒させたのであった。
これが、今回の戦の優勝者が決まった瞬間である。………ではあるが、予想外の展開に、戦いを見守っていた千鶴も民衆も、呆気にとられて声が出ない。
「え? あれ?」
フィノシュトラが、きょとんと首をかしげる。
って言うか、決め手がジョブとかジョブ愛とか全く関係なかったのはどういうことか。
祭りは終わり―――。
彼女の強制夢想『世界のあらゆる本を集めた図書館を作る』が発動。戦い敗れた者たちが西に東に本を集めに奔走し、レンガを積み立てては図書館を一から建築したという。
ただ二人を除いては…。
「お兄ちゃーん! どこーーっ!?」
メリーは明後日の方向を走っては兄を追い求め。
「俺は痴漢じゃないーーーっ!」
ミハイルは無実を訴え。
2人はどこまでも地の果てを走り続けるのであった。