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第一次甘味大戦開始5分後の事であった。
ビー玉がMachで空間を駆け抜け――、
ベキゴォンッッッ!!!
枯れ樹木が御臨終。
潜伏している一同の心境=「(……は?)」と、一致した瞬間であった。彼――ビー玉を指弾した翡翠 龍斗(
ja7594)を除いて。
「桜餅は正義……以上。と。外したか。どんまい、俺」
なにをはずしたの?
と、ツッコミをいれたくなる。他チームメンバーの警戒と注意を引く為の行為であったのだが、冗談と書いてマジだと思うこの人。
「二人とも聞こえるかい?」
自軍のメンバーに前以て渡していたトランシーバーで連絡を取るのは、相変わらずの白フード――夏雄(
ja0559)
右手にはエアガン、左手には双眼鏡。潜行と壁走りを扱い、情報収集という算段だ。
「桜餅、まかろん、鯛焼き……まあ、どう思うかは個人の自由じゃから、な」
羊羹派の白蛇(
jb0889)が客観的に呟く。
「とと、それはともかく。夏雄殿、伊と……もとい、まかろん殿、今回はよろしく頼むのじゃ。さて、ちーむ“だいなまかろん”出陣しようぞ」
白蛇は千里眼の司を召喚。
情報収集に重点を置き、攻勢共に反撃は数の利を得て――というチーム方針だ。
しゅたたたっ。
夏雄が木を伝って移動する。
「まぁ……基本、この忍軍は攻撃しないけどね。撃っても当てる自信ないから。……ゼロ距離とかなら話は別だけど。あと、相手に見つかったら即撤退。三歩下がって雌伏の時だ……混ざったかな? まぁ、いいか」
さて、此処で夏雄の対策をご説明してもらおう。
先ずはチーム桜餅。
「近づかない。情報収集しても近づかない。この忍軍は過去数回の模擬戦で学習したんだ。近づくと空を回るばかりでろくな事がないと」
略、一人の教師が原因だが。
そしてチームたい焼き。
「要観察。たい焼きミサイルには興味あるけど。……にしても今日も寒い。温かい飲み物の一つでも持ってくればよかった……」
――そんな夏雄に、親友の木嶋 藍(
jb8679)からサプラーイズ(という名の罠)!
「あったか〜い誘惑に勝てるかな!?」
藍は懐から取り出したお汁粉缶を、はいポチ! の如く投げた。
ポチ、俊敏にキャッチ。
――したのが彼女の最後の“白”だった。
ドギャギャギャッ!!!
炸裂するペイント弾。空中で夏雄の身体が小刻みに揺れ――べちゃっ。
レインボー夏雄、暫し事切れる。
「な、なっちゃ……」
親友に訪れた惨事。藍は愕然としながら自軍のメンバーを盗み見ると、夏雄を仕留めた(生きてます)鬼二匹――龍斗と藤宮 流架(jz0111)はしれっとしていた。
「(……先生、目が本気だ。大人げな……)」
げほごほ。
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「折角のゲームなんだし目指すのは勝利だよね。甘味の詰め合わせも気になるなぁ。……ね? 二人とも」
戦闘経験のない御子神 凛月(jz0373)と対立するのは気が引け、たい焼きチームのメンバーとなったのは、甘味好きの桜木 真里(
ja5827)。宥める口調でメンバーに話しかけるが、不知火藤忠(
jc2194)と凛月は聞いていない。
「護る? 何を言ってるんだ。凛月、お前も戦士だぞ」
「戦士? 藤忠こそ何を言っているの? 私は貴方達の“首”なのよ。……私を護らない藤忠なんて藤忠じゃない」
膝を抱えて、ぷぃ。
いちいち駄々っ子な凛月に、真顔を装っている藤忠は吹き出しそうになった。
「まあまあ。任せて。御子神は大将だからね。ネットや本でサバゲーのコツも調べておいたし、不肖ながら俺が盾役になるよ」
「真里は優しいわね。真里は頼れるわね。真里は――」
「わかったわかった。俺だって凛月の“盾”は考えているんだぞ」
盾=ヒギリ。
「真里のハンドサインは憶えたな? ――凛月、協力してくれ。真里、凛月を頼む」
「うん」
「な、何よ。……何すればいいのよ」
藤忠が唱えたのは風神の加護。
三人の脚に纏わせ、藤忠は物陰に潜行した。真里は生命反応の攪乱用に「適当に漂っておいで」と、ケセランを召喚。そして、凛月はというと――、
草むらからぴょこ。
岩陰からぴょこ。
もう一度草むらからみぴょこぴょこ。
「(何事も経験だぞ、お嬢様。しかし……素直に囮をしてくれてはいるが、何だろうな)」
「(御子神のあの動き、何処かで見た事があるような……)」
あ、
「「((モグラ叩きだ))」」
そのモグラに食らいついたのは、鬼もとい――龍が一匹。
「(ふむ。実戦の雰囲気を味わってもらうか)」
現世の修羅と比喩されている龍斗は容赦ない。自らの殺気を前方の凛月へ叩きつけながら、エアガンを連射した。しかし、彼女の反応は「?」――それもそのはず。彼女が誰と一つ屋根の下で暮らしているとお思いか。
「――御子神、俺の後ろに」
真里が音もなく《瞬間移動》で凛月の前に現れ、シールドを展開。龍斗の攻撃を防ぐ。その隙に、凛月が龍斗へ向けて追尾ミサイル発射。泳げ我がたい焼き。
ぴちぴちぴちぴち〜〜〜!
この尾びれを見よ! と言わんばかりの活きのよさ。
しかし、予め木の枝を拾っていた龍斗は、たい焼きの口に枝を噛ませると直ぐさまホームラン。だが、この瞬間に真里は凛月を連れて逃走に成功する。
藤忠は物陰から言なく射撃。――着弾。龍斗は怯まない。背面からの射撃であったが、龍斗は視線で確認する間もなく感覚で藤忠の気配を捉えていた。
ウォンッ!
龍斗の加速する音――《雷迅》が吼える。藤忠は盾で彼の反撃を防ぎながら、応戦しようとエアガンを構え、
「!?」
――ることは許されなかった。
龍斗からの申し出で彼と共闘を図っていた流架が、藤忠の腕を拘束。平素の微笑み湛え「失礼するよ」と、零距離射撃を食らわせた。
「くっ……スパルタ教師の本領発揮だな。銃なんて縁日の射的でしか使ったことが無いが……ゲームは全力でやるから面白いんだ。負ける気など毛頭無いな」
生命探知攪乱と情報収集の為に召喚していた鳳凰のヒギリを呼び戻した藤忠は、流架の視界を覆うように命ずる。
「もふもふで幸せだろう」
だが、堪能するには状況が悪い。――ということで、ヒギリ被弾。さらばなり。
真里も障害物の陰から参戦する中――。
動きやすい服装にブーツ。ゴーグル装備し、ポニーテールで髪と気合いを上げた藍が、青い翼を顕現して空をばっさばさ。
戦うことだけがサバゲーではない。藍は木の太枝を足場にして索敵に専念していたのだが、自軍のメンバーとたい焼きメンバーが激しい攻防を交わしているのを視認。
「うわぁ、早い……綺麗。本当に強いひとだなぁ」
しかし、藍の瞳には“彼”しか映っていなかった。
ほんのり林檎の頬が――、
「Σあぅっ!?」
ペイント弾に染まる。
「……すまない、藍君」
観測スポットを見つけた夏雄が、ダイナマ 伊藤(jz0126)に「遠距離得意なら決めておくれよ」と、観測手ごっこを希望した結果であった。発動させていた藍の《緑火眼》も無念。しかし、見惚れていたのだから仕様がない。
「……オレ、後でルカにブッ殺されると思う」
「だね。骨は箸で拾ってあげるよ」
安定の二人。夏雄とダイナマはスポットを移動する。
そんな二人に気づかず、藍は「一矢報いてやるー!」と、ぽーーーぃ。桜餅(とりもち)爆弾を投擲した。元より、目標を見誤って――。
攻防する四人の頭上を桜餅が飛ぶ。
真里が真っ先に反応した。とりもちが着弾する前に爆発させようと、真里のエアガンがペイント弾を吹く。とりもちとの距離に余裕はあったのだが、如何せん――とりもちがベストポジションすぎた。
ぶわわわもっちーーー!!!
「「「「!!?」」」」
とりもち。とりもちの雨。なんせとりもち。とりもっちー。とりもち祭りが開催されております。
その時、白蛇は司の後ろから「……何とも悲惨な」と、四人を静観していた。自分の分の煙玉を司に持たせながら哨戒させていたのだが……取り敢えず、多数の敵を発見したということで。
「司、機じゃ」
煙玉を四人の足許に投擲させた。
「「「「――ッ!!?」」」」
もくもくもくもく。
煙の中は恐らく、地獄絵図。
白蛇は紫の煙に紛れて襲撃の歩を進める。――と、肌が空気の流れを感じた。その瞬間、パシュッ、と司の白な鱗に青が映える。《マスターガード》が功を奏したようだ。だが、油断は出来ない。瞬もなく龍斗の指弾――おはじきが飛んできたからだ。
「ぬぅ……!」
地味にあぶない。
周囲の煙が晴れていく中、白蛇と龍斗は対峙していた。牽制には牽制を。白蛇は懐から取り出した紐を片手に、組討の構えをする。しかし、俄に膨らんだ瞼と共に彼女の意識は左斜め背面に呑まれた。
――流架だ。
紫に染まったとりもちを飾りに、不敵な笑みを浮かべながら殺気を放っていた。相当キテる。だが、白蛇は対流架用の罠を用意していた。
「食らうがよい!」
彼に向けて投擲したのは本物の桜餅。中身――粒餡。恐らく口で受け止めるであろうと想定しての行いだ。
「(粒餡のしょっくに身悶えるがいい。その隙にわしは体勢を立て直し――、っ!?)」
ばこんっ!
小さな口に受けたのはクリティカルヒットショック。遅れて、もちもちの食感。
「漉し餡詰めて出直しておいで」
「むぐぅ……神であるわしに向かって足蹴り桜餅とは無礼なむぐむぐ」
真里と藤忠は隙を窺い、一旦、身を潜ませていた。
藤忠は《明鏡止水》で邪念を払い、腰を落としながら草むらを移動していたのだが――、
「これは……藍か」
藤忠の足許には、林檎に似せたぷにぷにボールが多数転がっていた。彼女の純粋無垢な一生懸命さが伝わってくる。非常に。
其処へ、近間の頭上の木から藍がばっさばさ。
「Σ――はぅ。“バナナじゃなくて林檎でも足元滑るよ大作戦”がバレてる……!? もー! 折角だから踏んでみてよ藤忠さん!」
「そう言われたら余計に踏めないな」
「ちょ、なにそのS発言……!?」
パパパッ、とお互いのエアガンが鳴く。
藍は瞳の発光たるスキルで回避、藤忠は盾で防御――ドローだ。
「当たらないように逃げるのも作戦! というわけで、撤退ー!」
盾を引いた藤忠の瞳に、空へ羽ばたく藍の後ろ姿が映った。……何故だろう。翼があるのに何となく鈍い――ような気がする。「(恐らく、流架も同意見だろうな)」と思いつつ、たい焼き発射。
ぴちぴちぴち〜〜〜……、
かぷっ!
「Σうきゃっ!?」
――パパパパッ。
・
・
・
一方、その頃。
真里は共有していたハンドサインで、敵――レインボー夏雄を発見したと凛月に合図した。
夏雄の背後から石を投げる。音を立て、有らぬ方に注意を向けて隙を衝く策であったが、彼女は迷いなく脱兎。レインボーを通り越して泥フードになる前に。
追いかける真里と凛月。
逃げる夏雄。
「……サバゲー中思っていたのだけれど。この方法で最強を決めても最強のお菓子支持者が決まるだけで、最強のお菓子は決まらないよね。
……あー、ショートケーキ食べたいな……」
堂々と浮気宣言。
その代償は――ぱくっ。
「う」
真里が発射した追尾たい焼きが、夏雄の頭部から信号弾を放った。
彩光が空へ昇った瞬間、
「――上だよ」
夏雄の意表を真上から衝く。空中に《瞬間移動》をした真里が、ペイントの雨を降らせた。彼の爽やかな微笑みが雨の飛沫のように眩しい。
「へ、へるぷー」
夏雄は逃走を図りつつ、トランシーバーを握り締めながら助けを求めた。
そんな都合良く仲間が登場し――、
「夏雄ぉぉぉっ!!!」
来た。
その仲間の名は、セクスィーダイナマイト。夏雄にタックルぐるぐるぎゃーす! 駆けつけた白蛇が二人の様を「……転がっておるな」と、冷静に見送ったのだった。
「……大丈夫かな」
真里がぽつりと呟いたその時、追尾ミサイルの発射された音が耳を衝いた。
――凛月だ。
彼女の前方には金髪朱眼へと変貌した龍斗が、残滓の糸で木の間を縫うように一気に距離を詰めていた。信号弾では怯む様子すらない。龍斗のエアガンが小刻みに振動する。
「悪いな、凛月」
「御子神!」
咄嗟の判断であった。
真里はシルバートレイをフリスビーの如く投げ、凛月の盾代わりにした――つもりだったのだが、真里のその意図を察することが出来なかった彼女は予想外な動きをしてしまい、
ぺこーーーんッ!
ワンレンな額にシルバートレイ直撃。
……。
…………。
………………。
一同、静止。共に沈黙。
その時、信号弾の確認をした藤忠が草陰から登場した。彼は一瞬で状況を把握する。
凛月の足許に落ちているシルバートレイ。彼女の赤いおでこ。泣くのをめっちゃ堪えているお嬢様。若干、顔面を蒼白させながら固まる真里。「「あー……」」と、物静かにその光景を眺める龍斗と白蛇。
――藤忠は凛月を俵担ぎすると、真里と共に逃走!
「泣くな、凛月。後で撫でてやるから」
「ご、ごめんね、御子神。平気?」
「……うむ。たい焼きくれたら許してあげる」
残されたのは、“龍帝”龍斗と“神”白蛇。そして、エアガンぶらりと片手に“宵桜の首狩り”――流架が微笑み湛えて姿を現した。
神VS龍&鬼。
「……よかろう。力と記憶は失ったと云えど、わしは神。相手をしてやろう」
熾烈な戦いが今、はじま――、
「あわわ……」
木陰から見下ろす藍の囁きでお察し下さい。
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ゲームセット!
優勝は……
――僅差で、たい焼きチーム!
二位は桜餅チーム、三位はダイナマカロンという結果になった。
皆様、大変お疲れ様でした。
尚、優勝チームの真里と藤忠には甘味詰め合わせ(白玉あんみつ・わらび餅・フィナンシェ・ワッフル・月餅)と、凛月が「春霞」で勝手に見繕ったアンティークの品が贈られます。
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骨董品店「春霞」――休息の刻。
藤忠、真里、そして教師二人、酒を酌み交わしていた。
「なるほど、確かに流架は鬼だったな……」
「お疲れさまでした。ふふ、楽しかったな。水仙のモチーフを彫ったオパール型のブローチも頂いちゃったし」
不知火が注いだ猪口に礼を添えて、真里は口をつける。
「戦い終わればノーサイド! みんなで甘味を一緒に食べよう! 藤忠さん、りっちゃん護ってカッコよかったね。もー、ほんと仲良しなんだから! はい、お酒どうぞ!」
「む、そうか? ……と、ありがとう。藍は随分心惹かれていたようだな。誰かに」
「そ、そんなこと……あるけど」
「真里には感謝だな。それと、凛月も頑張ったな。よしよし」
「むぅ。……藤忠は南瓜が好きって聞いたから、今度何か作ってあげてもいいわ。今日は私が選んだ鬼灯の簪で我慢しなさい」
「嬉しいな。じゃあ、茶巾絞りで頼む。簪も大切にするぞ」
微笑み合う“甘”。
賑やかにわいわい色づいて。
流架の背中を枕に藍がうとうとしたりとそんな中、「「おのれ……」」と、隅で呟くレインボーな夏雄と白蛇。
しかし――言は、はらり、と甘い香りに攫われていったのだった。