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マスター:愁水
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/14


みんなの思い出



オープニング


 清々しい朝、日は西に。
 久遠ヶ原学園戦闘科目教師が一人、藤宮 流架(jz0111)の穏やかな休日。

 ――と、本来はなるはずであった。





 ちゅんちゅくちゅんちゅん。

 何処かふざけた鳥の囀り。
 だが、それすらも現との狭間で奏でる子守唄へと耳で変えて。この肌寒い時期はどうにも、微睡みの誘惑が意識を放してくれない。その蕩けた茫洋を漂っている中――、

 一つの殺気が流架を覚醒させる。

「(――飽きないなぁ、本当に)」

 流架の両の腕が、視野で確かめるよりも早く反応した。等しく、それは“制した”とも云う。伝わってくるのは温もりのあるきめ細やかな肌の感触。滴り落ちてくるのは切っ先からの冷たい憎悪の意志。つまり――、

「駄目だろう、凛月ちゃん。嫁入り前の子が易々と男の寝室に入るものじゃないよ」










 夜這い。

 ――ちっ、違うわよっっっ!!! by凛月

 はい、すみません。朝駆けですね。

「……(コホン)
 毎度毎度、第一声がどうしてそれなのよ! もっと他に言うべきことがあるんじゃないの!?」
「え? いや、だって……」

 相変わらず世間知らずの箱入り娘で。というよりも、流架の意を理解しかねている彼女へ流架は弱り調子に見据える。

 ――時間帯は典型的な深夜か早朝、それもかなりの頻度で。
 忍の暗器を片手に、後先構わず男に馬乗りになって襲ってくる図を想像してごらん? ほら、今現在がその状況だよ。

 桃色の瞳に訴える。日常化してしまっているこの事態を切に。

「……なに?」
「いや……相手が俺だからまだ良いけれど、間違っても他の男にやるんじゃないよ? 男は皆、少なからず狼なのだから」
「……噛むの?」
「……。そういう意味じゃなくて。いや、そういうのもあるのk、」

 ――先生、その辺で口を閉ざしておいた方がよろしいかと。

「……あ、当たり前よ。流架様だからに決まっているでしょう。此処に身を置いてもらっているとはいえ、泉流兄さんの仇討ちを諦める気はさらさらないんだから」
「うん、だろうね。只ね、うら若い乙女が警戒もなしに男の部屋へ入るなと――あれ? 話がループしてないかい?」
「けっ、警戒くらいしてるわよ! いつまでも子供扱いしないで! ――もう、ほんと嫌い嫌いっ! 流架様なんてだいっきらい〜〜〜っ!!」
「わっ! ちょっ、と、その体勢で暴れたら危ないだろう! 刃先が君に当たったらどうす、こらっ! おやめ、凛月ちゃん!」

 ばったんばったんごろごろごろ。

 京紫と柳の裾が、金魚の尾びれのようにはたはたと戯れて。だが、本人達にその“戯”があったかどうかは別の話だろうが。





 乱れた帯を締め直して。
 洗面所で顔を洗い、流架の足は御勝手の食卓へ。椅子に腰を下ろすと、既に用意されていた朝餉の味噌汁で渇いた喉を潤した。

「――あ、美味しい。今日の当番は凛月ちゃんだったのか」
「兄さん、ソレどういう意味?」

 斜め前の位置で食後のお茶を啜っていた藤宮 桜香が、口の端を歪に上げて兄をロックオン。習慣づいたその射目は、味噌汁の具の豆腐もぐもぐ――同じく平素と変わらない素知らぬふりで返される。
 
 その様子を眺めていたのは、朝の“襲撃者”。流架の満足そうな舌鼓に、得意気をこっそりと袖で隠して。御櫃へそろり。

「やや? 俺の茶碗は? 桜香、俺の分のお米よそっておくれよ」
「なにそれ」
「――はい」
「おや。ありがとう、凛月ちゃん。ついでに味噌汁もおかわり」
「ん」
「なにこの亭主関白……」

 ――は、置いておいて。

 彼女――御子神 凛月(jz0373)が藤宮家にやって来てから早、数週間が過ぎていた。
 先日の“婚姻”の件以来、鎌倉の御子神家から追手もなければ何かしらの通達もない。恐らく、御子神家を総括する“彼女”が黙認を徹してくれているのだろう。だが、流架はその所為で彼女の立場が危うくならないのかと聊か気にかかっていた。

 流架の父、そして母の蒐は、凛月の身柄を預かることを二つ返事で了承。――するだろうなというのも流架には察しがついていた。何を隠そう、流架の両親は駆け落ち経験者であるからして。

 だが、働かざる者食うべからず。
 ――という理由(わけ)で、凛月にも家事全般の当番が設けられていた。
 幼い頃は病弱で、蝶よ花よと育てられていた凛月。外界に触れることを極端に制限されていた環境だった故か、意外や意外。家事労働を器用にこなしていた。

「――あ、兄さん。えーと……今日さ、商店街の冬祭りに凛月さんと一緒に行くって言ったじゃん、私」
「ああ、今日だったね。祭りは夕方からだろう?」
「ん、そう。だからそれまでは商店街をぶらつきながら色んなお店案内してあげようかと思ってたんだけど、ね……」
「何だい、歯切れが悪いね」
「ええと……ごめんっ! 兄さんが案内してあげてくれない?」
「は?」
「実は今朝、私の元後輩から連絡があったんだけどね……ちょーっとトラブっちゃったみたいでさ。助けが必要って頼まれちゃったのよ。で……」
「桜香。あまり五月蠅く言いたくないが、先に約束をしていたのは凛月ちゃんだろう。それに、」
「――いいの、流架様。桜香には桜香の友達がいる。助力を求められたのだったら、それに応えるのが普通なのでしょう? 気にしないでいいのよ、桜香」
「凛月さん……! うぅ、ほんとにごめん! この埋め合わせは必ずするから! ――じゃ、兄さん。後はよろしく!」

 その言葉“よろしく”渋面の流架へ「めんご」と掌を立てた後、桜香は椅子の背凭れに引っ掛けていた上着を鷲掴みにして、ぱたぱた、袖を翼の如くして廊下へ消えて行った。

「……」
「……」

 一息に静寂が訪れる。

「……」
「……」

 ぱりぱりぽりぽり。

「……その漬物、私が漬けた」
「うん、美味しい。胡瓜が好きだな、俺」
「そう? 私は……お茄子、と、大根」
「よくばり」
「うるさい」

 ずずず、と、流架がお茶を飲み干す音。
 こしこし、と、壁に凭れている凛月が足袋の裏を力なく床に擦る音。

「ねぇ、凛月ちゃん」
「……なに」
「俺と、あと、俺の生徒達と一緒に出かけようか」
「……行ってあげてもいいわ」





 鳴り響く音は彼女を包む。
 眩しい世界に、心いっぱい奪われておいで。


リプレイ本文


 楽しいのがいい。
 一緒に楽しいのが、いい。

 傍にいて楽しいのと、傍にいればいいのとは違うから。

**

 幾つもの光が弾ける街の通り。
 降り積もる雪のように奇蹟がきらきら。それは、誰かの未来日記を後押しするかのようで。

「(凛月さんはどんな色が好きで、どんなことで笑うんだろう)」

 濃紺の青な瞳が、此度の出逢いに綻ぶ。
 挨拶を交わした御子神 凛月(jz0373)の表情が、――キモチが、ふっ、とライトになった気がして。

「(……あ、ほっこり。
 んっ、私も楽しもう。彼女も楽しんでくれたらいーな)」

 木嶋 藍(jb8679)の笑顔は、きっと悲しみも逃げていく。



「突然呼び出されたからてっきり血生臭い補習授業かと思ったけど……杞憂だったね」
「君、俺をなんだと思ってるんだい?」
「ミスター・ブロッサムライスケーキ。又の名を桜色軟体食物かっこ仮」
「てるてるおかめ君がどの口で言うのかな?」



 逃げていくのは夏雄(ja0559
 逃がさないのは藤宮 流架(jz0111)

 顔を合わせれば相変わらずの二人に「やれやれ」と浅い溜め息を零して、

「先生、今日は。同居人が増えてどんな感じですか?」

 社交的な笑みを置いた鴻池 柊(ja1082)が、やんわりと仲裁に入る。
 落ち着きをもった濃紺色の着物に、羽織、絹のマフラーという今日の身拵えは、実家の仕事での関係故に。

「賑やかだよ、とても。来る日も来る日も日ごと毎日」

 柊が歯を見せずに微笑んだ。
 夏雄がしめしめ、と、差し足で彼から退いたのを見届けると「さてと」、と。

「あいつにもお土産は買っていってやらないとな。――そうだ。良かったら何か選んでやって下さい。少し風邪気味で、来れないのを不満そうにしていたので」
「やや、俺でいいのかい?」
「寧ろ、先生でないと」

 おどけたふうに答える柊へ、流架は「分かった」と言笑して頷いた。





「いつでも女の子の味方、マジカル☆エイキッキ参上!」

 ダレ。
 突如出現した魔法少女に、周囲の度肝を抜くイタイ視線と憐れみの視線が半々に集中する。

「今日は楽しみましょうね〜♪」

 蟹歩きをしながら凛月に近づくその姿は、THE変態。
 口をへの字にして「うへへ」と笑う東風谷映姫(jb4067)に、凛月はぎょっとした表情で身を引き、柊の背に隠れた。

 気味の悪い膠着状態が続く。
 どうしたものか、と、柊が苦笑していると、

「……映姫さん。貴女、わたくしのご主人様に苦無を投擲しましたわね? 覚悟はよろしくて?」

 宵桜のmaidenであり、流架の絶対防衛ライン少女――斉凛(ja6571)のルビーな瞳がトランプのダイヤよろしく。彼女だからこそ似つかわしい釘バットを肩に、極上の笑み。

「凛月さん、悪い人へのオシオキ方法を伝授して差し上げますわ」

 凛月と親密になることで、我が主との距離も近づくゲフンゴフン邪なお口チャーーーック!
 こほん。
 そんな想いは抜きにして。
 距離をはかりかねるのは気高くないから、ハリがあってまっすぐに――、

「わたくしと、仲良くなりましょ?」







 ――青空キラリ。
 変態少女の遺影的なナニかが浮かんだような気がした。



 in favorite。

 女の子の大好きとお気に入りがきっと見つかる空間(ショップ)。
 雑誌でしか目にしたことがないパステルカラーとハジメテの素材、ふわりとシフォンにひらりとフリル。凛月は童話の世界を目の当たりにして、呆然と立ち尽くしていた。

「ほらほら、こっち☆」

 そんな夢路を途中にしている彼女へ、藍が温もりでエスコート。優しく腕をとって「行こ行こ!」と、ふわふわな魔法をかける。

「おいらが意見を出せるのは小物やヘアピンとかだけど、凛月君は興味あるかな? なんせおいらは流行りの服より、今時期に安くなりがちな冬服に目が――いや、なんでもないよ」
「……? 夏雄が選んでくれる、の?」
「ん? アドバイスなら出来ると思うよ。個人的にはだけど……可愛らしい飾りが付いているのも良いが、シンプルな方がお勧めだ」
「しんぷる」
「ヘアピン単体の可愛らしさより、そのヘアピンが自分に合っているか、違和感が無いかが大切だ」
「おぉぉ、勉強になるなぁ」
「ん、意外」
「意外って言われた……。ええと、続けるよ。後、強度とある程度の柔軟性も必要だ。購入する際は二つ以上が好ましい」
「……強度?」
「柔軟性、ですか?」

 かくり、二人の乙女が小首傾げて。

「次は金物屋だ。手に馴染むドライバーを買おう。そしたらおいらが簡単な鍵開けを教え、」

 ――殺気。
 六時の方向。おめめがとってもこわいであろう桜餅先生が確実にイル。

「うん、冗談だ。ええと、そうだね……あ、これなんかどうかな。凛月君スタイルのおしゃれ、って感じがする。いや、おいらがそう思うだけかもしれないけど。うん」

 夏雄が遠慮気味に、そろり。白い指先に触れたそれは、ピンクトパーズとホワイトシェルのブレスレット。芸術的で繊細なデザインのシルバー細工が施されている。

「薄紅と白、ね」
「うん。なんというか、こう……女性らしくて幸福を感じるような色合いというか、うん。そんな感じがしたけどそれはきっとおいらの気のせいかもしれない。だから別に、」
「じゃあ、夏雄はこっちね」

 何が“こっち”?
 ――ずぃ。そう尋ねる前に押し付けられたのは、

「夏雄の服は色味が少なくて寂しいわ」

 夏雄の胸元にちょんと留まった鳥のブローチ。金の鳥は透かし模様の羽で、中に埋め込んであるのはラピスラズリのようだ。

「……おー?」
「私はこれ。貴女はそれ。……夏雄が、幸せな気持ちで今日を過ごせますように」

 ――、

「あっ、藍。私、あっち見たい」
「うん? あ、帽子? 私、新しいの欲しかったんだ。良いよー♪」

 ぱたぱたぱた。
 二羽の鳥が羽ばたいて、夏雄の胸元に彩りが一羽残る。

 出逢いは大切、とはよく言ったもので。
 何だかんだで藤宮邸に誘導したのは自分であったが故に、その後の凛月の生活を気にしていたのも事実。だからどうにも気懸かりで。

「(凛月君、刃以外で自分の考えを伝えているのかな。……伝えられる、はずなんだ)」

 そっ。
 手が無意識に胸のブローチに触れた。

 刃だからこその対話、それも在るだろう。
 だが、凛月が選んだブローチには、確かな“良い日”が灯っているから。だからこの先も、その彩りで過ごしてゆける道は凛月にもきっと在る。

「――お悩み?」
「当たらずしも遠からず」
「夏雄君」
「何だい」
「凛月ちゃんとも友達になってあげてね」

 ぽんぽん。
 目深に被ったフードに宵桜の掌が弾んだ。

 トモダチ。
 宣言。
 ――あんなのは精神的、或いは肉体的に余裕がない時くらいしか実行出来ないけれど。

「えぇい、ぽんぽんすな……!」

 と言いつつされるがまま。
 夏雄の胸元で、金の鳥が愉快な音で鳴いていた。





「今日まで無事、という事は……凛月の暗殺が失敗しているって事ですよね。まぁ、愉しい毎日の為に仕込めというのならやりますが」

 裏の社会科見学を依頼すれば二つ返事で引き受けそうな黒い笑顔で、翡翠 龍斗(ja7594)は片目を細めてにたり。肩を並べる流架が「こらこら」と窘めるが、言に気が入っていないのは先程も同じような遣り取りをしたからで。

『――凛月。暗殺の失敗要因は先ず、殺気だ。流架先生は殺気に敏感だというのに、振り撒いて襲っているのだろう。……まあ、こっそりと先生の布団に忍び込んで朝まで眠り、写真の一枚でも撮るだけで既成事実は作れるのにな』

 なんて言うものだから。
 危うく、鬼と龍の第一次戦闘乱舞が開戦されそうになったのを周囲が必死で制止したのであった。一名、煽った映姫がどうなったかは(ry

「まあ、冗談はさて置いて……悠璃さんは、どうしてます? ダイナマ先生の治療があれば傷は残っていないでしょうけども。まさかアレ以降、逢っていない……は、ないですよね?」
「俺はそんなに薄情に見えるのかな」

 言葉とは裏腹に、感情が窺えない笑みで流架が遠くを見据える。

「いいえ。ですが、貴方は隠し事が多すぎる。多少は教え子の力を信じてみては?」
「……」
「流架先生?」
「無いように見えても、あったりするのだが」

 龍斗は違和感を覚える。
 何故だろう。彼の言葉も笑顔も嘘ではないのに、

「……先生も大変ですよね。御子神の茶番に付き合っているんですから。尤も、貴方の下ならほぼ“安全”である事に間違いないでしょうが」
「茶番ではないよ」
「……先生」
「珍しいことではないんだ。親しい者同士が殺し合うのと同じようにね」

 やはり、重なる。





 ――流架の気配は、何処か葛藤していた。





 空間をふんわり浮遊する会話の花。

「凛月さんは蝶のモチーフが好きなのかしら? 好きな色は?」
「え? そ、そうね……でも、着物の柄では兎が多いかしら。色は……菫とか、撫子が……って、べっ、別に凛や藍には関係な――」
「実はあったりー? なんてね、あははー。折角の洋服だもん、好きな色で選んでみたらどうかなって。凛月さん、綺麗だから色々似合うと思うんだ。



 んー、すらっとしてるからロングスカートにスニーカーとか?」

 そう言うと、藍は水彩ローズ柄のロングスカートを手に取って凛月の腰に合わせてみるが、

「あ、でもミニスカートとかも絶対可愛い!」

 しゅっと、凛月の下半身がガーリーなシフォンミニスカートに早変わり。

「(足出し勧めるとか、流架先生に娘の悪い友達的な目で見られそうな気がしなくもないけど)」

 でも、可愛いはやっぱり――、
 女の子の魔法だからいいのだ!

「まあ、素敵ですわ。その、凛月さん。よろしければ、わたくしの服も一緒に選んで下さいませ。わたくし、メイド服は沢山あるのですが……私服はあまり持っていませんの」
「わ、私でいいの?」
「ええ、勿論ですわ」

 ガーリーな流れに異色――味噌樽で乗ってきたのは映姫太郎。
 ここぞとばかりにゲスく参上。

「――このセーラー服みたいなのはどうです〜? 支払いは流架センセーが出してくれるでしょうし、どうせだったら全部買ってみては〜?」

 見目は美少女であるというのに、この心の破綻さ。ある意味、称賛……に値するかどうかはさて置き。
 映姫に対して免疫がない凛月は、怯えた表情で後退り。それが何とも悦で、「ほら……ほら……」と鼻息荒く迫る映姫は、







「――喝ッッッ!!!」







 ぐしゃあッッッ。







 流架の拳によってコメディ寄りにペッタンされました。
 ダイイングメッセージ=“ロリコンセ”(ココで途切れている)

 ――さあ、レディ達。
 お気になさらず買い物を続けて?

「……賑やかですね」

 違う意味で。
 場を外していた柊が紙袋片手に、状況を探るように流架の傍らに控えた。

「やや、お土産は見つかったかい?」
「ええ。色々と売っていて迷いましたが、あいつの好きそうな古書があったので」
「それは良かった。――ああ、これ」

 流架は前衿の合わせから抜いた物を彼に差し出す。

「レース編みのシュシュ。蒲公英色が春らしくてね。包装してもらったから、彼女に」
「ありがとうございます」
「ん。――さて、凛月ちゃん達も各々決まったようだし、そろそろお昼にしようか」
「あ、俺、凛月にご馳走したい店があるんです。良いですか?」

 穏やかに目笑する流架の背後から、店の紙袋をぶら提げた凛月達が口元を綻ばせて此方へやってきた。

「――凛月、荷物貸せ。約束通り、一緒に美味しいもの食べるか?」

 さらりと向けられた柊の提案と掌に、凛月は「え?」と面食らうが、藍と凛が笑顔で背中を押してくれたから、

「……ん。行ってあげても、いいわ」

 目尻を染めた上目遣いで、彼の大きな掌に指を添えた。



 昼食は柊の勧めでパスタの店に。
 凛月の為に柊が気を利かせて色々な種類のパスタを注文し、皆で分け合い舌鼓。目をキラキラさせながら食後の甘味までペロリの凛月に、柊は満足そうに茶を啜るのであった。

 後(のち)、再び商店街をぶらりとした一行は黄昏の祭りへ。





 凛月と凛は身なりを虹で摘んで、披露した。

 凛月のトップスは兎のモチーフが静かに彩るナチュラルニット。下には藍が選んだ、桜色のシフォンミニスカートにフラワーレースの黒タイツ。
 凛の彩りには、繊細な花レースが美しいナチュラルブラックのフレアワンピース。そして、薔薇模様の白ニットタイツ。

 いつもの彼女達を更に可愛く魅せていた。

「着物も似合ってるけど、洋服も似合ってるな。可愛いぞ、凛月」
「ん、凛君も素敵だ。白と黒が可憐で優美だね」

 柊と流架の御眼鏡に適い、二人は視線を合わせて吐息で微笑んだ。

「――あ、そうですわ。わたくし、凛月さんがたい焼きお好きだって聞いて作ってきたんですの。皆様、どうぞお召し上がり下さい。この型、可愛いでしょう? 見た目にもこだわって選んでみましたわ」
「凛、すごい……!」
「ふふ。あ……皆様には粒餡ですが、ご主人様のは漉し餡ですわ。皮は桜色にしてみましたの」

 優しい色合いの桜は彼のイメージだから。
 一同勿論――完食。





 夜空に星が瞬き、地に盆が灯る。
 柔らかな灯りが揺らぐ情景は、温もりと美しさで人々を誘うようであった。

 甘酒(熱)絶対確保の夏雄はボール投げなら割と得意と称し、ぽんぽんぽん。
 祭りの色に浮かれた輩が凛月にナンパをしようもんなら、龍帝が影でお仕置きお手玉ポンポンポーン。
 凛は流架とアイスキャンドルを交換して、桜色を彼に、紅梅色を自分の想い出に。
 映姫は祭りの混雑を利用して、凛月のバストサイズを触診ぐしゃあ(ry

「ああ、そうだ。凛月。これ、今日付き合ってくれたお礼に」
「……梅柄の、玉簪?」
「今を楽しめ。きっと色んな事が輝いて見える」
「柊……。ありが、とう」

 彼に手を引かれ、凛月はまだ訪れぬ春風を感じたような気がした。





 ドン、ドン!
 満ち足りた時間の終わりを告げる音が、冬の夜空に彩りを添える。

 誰もが夜空を仰ぐ中、

「同じ人が好きなら……ライバルだけど、最高の親友にもなれると思いませんか? わたくしお友達を呼び捨てで呼んだ事ないけど……“りつ”って呼んでもいいでしょうか? 特別なお友達として」

 流架の色を瞳に、凛が凛月の手を引いて耳打ちをした。凛月は恥ずかしさのあまり目を剥いて耳を熱くしたけれど、逡巡し、やがて、

「……んっ」

 俯くことで歓喜を隠し、顎を引いたのだった。





 購入したニット帽をくぃ、と目深に。
 ココロ、星に馳せて。

「(私、凛月さんも流架先生の事も何も知らない。でも、伝えられる言葉はきっとある。ゆっくり少しずつでも心に近づけたら、記憶に寄り添うことが出来たら、きっと楽しいと思うんだ)」



 だから、昨日に、明日に。



 ――へくしゅっ。



「っ、」



 ふわり、と。
 マフラーを忘れた首元に、仄かな桜が香るストールが温んで。

 藍のココロは幸せに添う。










 これから何があっても、今はたくさん笑おう――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・御子神 藍(jb8679)
重体: −
面白かった!:12人

沫に結ぶ・
祭乃守 夏折(ja0559)

卒業 女 鬼道忍軍
幼馴染の保護者・
鴻池 柊(ja1082)

大学部8年199組 男 バハムートテイマー
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
東風谷映姫(jb4067)

大学部1年5組 女 陰陽師
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター