カラーヒヨコ屋を狙う専門の天魔ならばと指定地域内の本日から行われる縁日で囮を使い天魔を誘う事にした撃退士達。
そんな囮のカラーヒヨコ屋に扮する事になった森田良助(
ja9460)の屋台の前で客を装ってしゃがんでいるのは狐珀(
jb3243)。浴衣を着衣し、その上から常に携帯している着脱式チャックを装着している。
「楽しい縁日を台無しにするとはなんとも邪悪な敵じゃわい」
彼女の言葉に猫野・宮子(
ja0024)も頷き、
「まったくです、こんなにヒヨコは可愛いのに。縁日を楽しみにしている子供だっているのに」
良助の屋台の斜め前で射的屋に扮する久遠寺渚(
jb0685)も憤慨している。
ちなみに扮装した所で他にカラーヒヨコ屋がいたら囮にならないのでは?と思われるかもしれないが、それは既に攻略済み。
事前にラファル A ユーティライネン(
jb4620)が近日中にこの地域で行われる縁日を調べ上げ、カラーヒヨコ屋の出店数を調査。そして今日の縁日がその条件にあい、撃退士達で囮になる為ここ1店以外は出店を辞退して貰った。縁日主催者も屋台を出すはずだった人も「今後、安心して祭りが出来るならお安い事だ」と快く辞退を引き受けてくれた。
後は例のでっかいヒヨコが来るのを待つだけである。
ドシンッ ドシンッ
ビヨーー!
ビヨーー!
縁日が開始され、提灯の明かりと沈みかけの太陽で幻想的になる逢魔ヶ刻。
けたたましいヒヨコのような鳴き声と地震かと思えるような地響きがし始め、周囲に同様が走る。
「みなさーん、こっちです。係員の人について行ってください!」
もとより、一般客があまり近寄ってこなさそうな場所に屋台を置かせて貰っていたので蓮城真緋呂(
jb6120)の誘導により、露店の人を含む一般人はすんなりと非難させる事が出来た。
「成程、依頼書の通り可愛らしい姿。モフモフしたいところだけれど、折角の縁日、このまま禁止にされては寂しいから、ね」
囮役の1人である弥生丸輪磨(
jb0341)は他の仲間にでっかいヒヨコ―ビヨコの目がいかないようにコメットを放つ。
「今の君の相手は僕と……」
「私だよ!」
『ビヨーー…ビーーーー!!!』
攻撃された事に腹を立てたのかビヨコは2人の姿を確認すると、突進を仕掛けてきたが、輪磨と真緋呂は左右にそれぞれ避けた為、近くにあった木にぶつかった。だが、物理攻撃が効きにくいとされるだけあって、ビヨコ自体にダメージは無く、メキメキと木が折れただけで、ビヨコはくるりと振り返り、再度2人をロックオン。
「うわ、これに潰されたら洒落にならないわよ」
「蓮城君、一刻も早く、合流場所に行こうじゃないか」
「うん」
周囲に被害が増えないよう、2人は走り出した。
戦闘の場所に向かって。
「きましたわね」
事前打ち合わせをしていた場所で待っていたのは楊玲花(
ja0249)を筆頭に囮役の2人以外の撃退士。屋台を出していた渚・良助の両者も囮が引きつけている間にこの戦闘の舞台に一足先に到着していた。
「そのふわふわも、魔法ならどうかしら?」
囮役はもう果たせたと振りかえりざま真緋呂がサンダーブレイドを放つ。
物理に強けりゃ魔法には弱いと言う法則が通用するらしく、ビヨコには大ダメージ。
「続けて行かせて貰いますわ」
「こ、こんなにかわいいのに普通のカラーヒヨコを圧死させるなんて!もふもふの風上にも置けません!」
押しつぶされないよう敵から距離を取った玲花の投げた山雀翔扇と、渚のヨルムンガンドから放たれた蟲毒がビヨコを狙うが風向きのせいか当たらず交差してビヨコの横を通り過ぎるだけであった。
「麻痺している上に、あんなに大きな的ですのに」
「で、でも!近寄ったら押しつぶされちゃいます!」
「じゃあ、僕も試してみようかな」
同じく物陰から遠距離攻撃姿勢と取る良助が構えると、その前にスッと輪磨が壁になるように立つ。
「前衛は任された。代わりに背中を君に預けよう」
「頼りにしているよ!後ろは任せて!」
信頼を寄せる言葉を軽く掛け合い、輪磨がシールドの構えを取ると、良助はヨルムンガンドを構えアシッドショットを放ったがこれも外れてしまった。
「射程外ってわけじゃないんだけどなぁ」
「強風が吹いてると言うわけでもないし…ふむ、あのヒヨコ、運がいいのかもしれないな」
「だったら運も作動出来ないようにもう少し近くでやってやるよ!」
ニヤリと口の端で笑いアイトラをキュッと握り、ビヨコの進行方向に貼る。
「とりあえず邪魔なんだよ。迷惑かけたいんなら天界か魔界でやってくれよ」
直線移動しか出来ないビヨコは見事それに引っかかり、かすり傷程度ではあるが、『攻撃を当てる』と言う目的は達成できた。
それにしてもこのビヨコは攻撃を仕掛けた相手を優先的に攻撃すると言う性質なのか、ラファルを今度はロックオンし、突撃してきた。
「おっと!」
ラファルは余裕で身を翻し、その攻撃を回避。
ヴィヴァーチェを振りかざし、真緋呂がビヨコを一旦踏みつけ上空から翼狙いで攻撃する。
「そのもふもふ…いや、お前の翼は何の為にある」
『ビーー!!』
致命傷ではないが、翼に傷を負ったビヨコは悲鳴を上げ、その様子に間近で見ていたラファルはガッツポーズ。
「これで行動力と運、落ちただろう!」
「だったら今1つ、縛って差し上げましょう」
そう言って玲花が繰り出した影縛りの術。
今度は翼の痛みもあったのか、命中しビヨコの影が地面へと縫い付けられる。
「じゃあ、私ももっと動けなくします!今度こそ…当たってください!」
縛られた事により、麻痺だけの状態より動けなかったビヨコに渚の二回目の蟲毒が命中。麻痺、影縛りに続いて毒も付与となれば動きは鈍り、苦しむしかない。悔しさ一杯のビヨコは今まで防御に徹していた―もしかしたらおびき出す最初の一発目を放った人物だからかもしれないが―輪磨に狙いを定め、動かない体に鞭を奮い、せめて片足だけでもと、踏みつけようと大きな足を振り上げる。
「そんな恐ろしい攻撃、当たるわけにはいかないな」
ほぼ動かない相手、それに良助の放った回避射撃の支援も受け、輪磨も先程のラファル同様、ひらりと身を翻して回避した。
「森田君、礼を言う」
「後ろを任されてるからね。援護射撃って事で」
回避後、後ろを振り返り、輪磨が微笑んで礼を言うと良助は親指を立てて応える。
一方、一度も攻撃の当たっていないビヨコは怒り心頭。
麻痺、毒により体の神経が侵されるばかりか、影縛りもあり、思うように動けないので悔しそうに鳴く事しか出来ない。
「びーびーうるせぇなぁ」
ラファルは顔を顰め、ビヨコの周りにアイトラを張る。
「これは見事なもふもふじゃな……、だが私も負けてはおらぬぞ!」
皆がビヨコの動作を縫いとめている間に闇の翼で飛翔していた琥珀が意識を集中し、周囲に妃の玉を出現させる。
「その動けぬ苦しみ、人々の祭りの楽しみを奪った罪と思うが良い」
琥珀の放った狐火〜業火〜が動けぬビヨコの体に命中し、その体は炎に包まれた。
『ビーー!ビーー!』
羽の燃える熱さにのた打ち回っていたビヨコだったが、暫らくするとその巨体を振動立てて地面に横たえ、やがて動かなくなった。
カラーヒヨコなだけにバリエーション飛んだ他の巨大なヒヨコが出てくるのでは、と気にかけた者も居たので一同はその場で気配を探ったり、祭り会場に戻って出現していないか調べたが、その後天魔の仲間が現れる事もなく、無事にこの事件は解決する運びとなった。
「もふもふの足りなかった人はおるか?」
神社の裏手でリンゴ飴を舐めている琥珀が何気なしにそう呟くと、数人勢いよく手を挙げる。
「ヒヨコには負けておらんと思うのじゃが、私の尾で良ければ良いよ」
琥珀が「ふふっ」と笑ってそう言ってくれると手を挙げた者達は一斉に琥珀の尻尾へと手を伸ばした。
「これは!凄い、良いもふもふだね」
武器越しではあるがビヨコに触った真緋呂は負けていないと言う事だけはあると、頷く。
「本当です!い、色も可愛いし、良いです!」
渚は人に直接触っているせいか生来の赤面症も出て、少しテンパリ気味だがモフモフは気持ちが良く、尻尾から手が離脱する事は無い。
「ふっかふかで気持ちーね、琥珀さんにも失礼かもだけど狐の毛って思ったより固くないんだ」
「琥珀君が人と同じような生活をしている事もあるし、一般的な狐より良いモノを想像していたが想像以上だ」
良助と輪磨も両手でじっくりモフモフ堪能中。
「何の集団だよ」
「微笑ましい光景ですわね」
ビヨコを退治した事により再開された縁日で遊び倒してきたのかお面に水風船、その他諸々の戦利品をぶら下げて笑顔で戻ってきたラファルと、皆の焼きそばを買いに行っていた玲花。
琥珀を囲ってモフモフと尻尾を堪能している他のメンバーに微笑ましいと玲花は微笑みを浮かべるのだった。