ある一定年齢層の子供ばかりが攫われると言う怪事件。
斡旋所を通して、悲痛な姉の願いのかなえるべく、撃退士達は現場のある地域へとむかった。
「愛ちゃんと同じくらいの子供ばかり浚うなんて許せないの!正体を確かめて浚われた子供達を救い出すの!」
と、普段よりも義憤を露わにしているのは攫われた児童らと同年代である周愛奈(
ja9363)。
「そうね、早く皆助けておうちに帰してあげたいね」
どうどう、と宥めるかのように愛奈の頭を撫でながらも、その様子が可愛くて仕方がないとでも言いたそうな表情をしている桜花(
jb0392)。
「ではまずは情報収集と参りましょうか」
「そうだねぇ、そうでないと囮作戦も発動できないしね」
御堂玲獅(
ja0388)の言葉に常木黎(
ja0718)が頷き、彼らは行動を開始した。
「同じ地域にを集中的にって事は近場に巣でもあるんだろうな」
斡旋所より渡された周辺地図を見ながら御影蓮也(
ja0709)が呟くと、
「だろうな。まぁ、さっさと鳥もどきを見つけて救出といこうぜ」
と、向坂玲治(
ja6214)が同意する。
「そう、特に俺はそっちがメインになるわけだしな!」
体の所々に傷を負っている村雨紫狼(
ja5376)が今回は後方支援、と意気込んでいると心配顔の愛奈と玲獅が近寄ってきた。
「紫狼兄様、そんなに動いて傷痛くない?」
「ありがとな。だけど、心配は御無用!請け負った仕事をどんな状態でも這ってでもやるのが大人なんだよ。それに‥‥今回の依頼はこんなにかわいゆい愛ちゃんがいるんだ!俺にとって君は大いなる活りょっ――ぐはぁ!」
「何か良い事を言ってるなあと思ったらそれ!?油断できない!」
「待て!け、怪我人を足蹴にしちゃいかぁん!!」
紫狼のことばを遮る為に蹴りを繰り出した高峰彩香(
ja5000)。怒りの表情を見せる彼女だが、紫狼は結構余裕の様で「およしになって」なんてオネエの『紫江留』使用で応対している。このままでは先に進まないだろうと玲治が彩香を宥めてここは各位情報収集の為解散となった。
警察に聞き込みに行くのは玲獅・紫狼・玲治の3人、周辺に声を聞いて無事だった子はいないか、又ディアボロ目撃者は身体的特徴以外の情報を持っていないかを聞きこむのは蓮也・彩香・桜花の3人。そして、残る2人、愛奈は声が聞こえる年代なので囮としてディアボロ目撃が多い場所で行動。黎は少し距離を取りつつも彼女を護衛と役割を決めたのだった。
●結ばれる線
警察聞き込み組はこの地域住人より正式に依頼を受けた旨を地元警察署に説明し、保管されている資料の閲覧と担当者へのアポイントメントを要請した。勿論、既に人外が犯人と判明している以上警察の手には負えないので彼らは快く承諾してくれた。ただ、明美の事件が起きたばかりなので担当者は生憎出払っており、会う事は無理そうだ。
「それでは何かありましたら内線100にお願いします。私のデスク直通ですので」
資料室を出ていく事件責任者に会釈をし、紫狼は捜索願内容閲覧の為パソコンを、玲獅と玲治は写真や纏まった書類を見ていく事にした。玲獅はまず周辺地図をコピーし、仲間達にコンビニやスマートフォン等受け取れる方法で各自受け取ってもらう事に。これは各自が集めた情報を書き込んで後ほど照らし合わせる為である。
「捜索願、結構あるな」
「へえ、年齢絞り込機能はついてんのか?」
「ついてるよ、向坂。赤ん坊から愛ちゃんくらいの子の捜索願調べてるんだけど多いなー。単純にヒトの仕業っぽいのもあるけど今回の件と同じディアボロだろうってのもたっくさんあるな。そっちはどうだ?」
「そうだな。目撃情報だが、攫われた明美って子の通っている小学校の学区と隣接している3つの学区のみみたいだな」
「と、言う事はこの辺りに巣を構え、狭い範囲で子供を攫っていると言うわけですね」
「多分な。例えば今回の件と1か月前の同じディアボロが犯人だと思われる件を見るとだな‥ここが攫われた地点でこっちに向かってくと‥‥こっちに出てあっちに向かって‥‥‥ここでこう動くから‥‥」
玲治が地図に攫われた場所に丸を書き、情報と地図の方角を交互に見ながら2つの事件で目撃されたディアボロの動きを線にして丸から伸ばしていくと2本の線は一か所で混じり合った。恐らく何件か同じディアボロが目撃されている事件も同じようにしていけば線はまた重なり、より正確な『巣』の場所が特定されるであろう。
「では線が集中する場所に着きましたら私が人気のなさそうな廃ビル等を中心に生命探知で大勢の生命反応が出る所を特定いたします」
「んじゃ、他の2班より―っつっても囮班にはもしかしたら先こされるかもだけど、先にそれらしい所見つけて後は応相談ってやつだな」
玲獅と紫狼の言葉に玲治も頷き、3人の目標は固まったので他の2班に今後の方針を告げる為、玲獅は携帯を取りだした。
●候補者とバッティング
さて今回の事件が起った小学校付近を聞き込んでいる蓮也・彩香・桜花の3人も時を同じくしてある情報を手に入れていた。それは明美と同じ小学校に通う男子児童で、最近ボーっとしている事が多いので何か嫌なことでもあったのかと聞くとどうやら自分を呼んでいる声がする、と言っていたらしい。
「その声を聞いてるといつの間にか時間が経っててびっくりするってアイツ言ってたんだー」
いつも一緒に遊んでいると言うその少年は心配そうに3人を見上げた。アイツ、テレビでやってたウツとか言う病気じゃなないよね、と。
「大丈夫、君みたいにいいお友達がいるんだしそれは無いよ。お姉ちゃん達ね、その子に会ってみたいんだけど、今、何処に居るかわかる?」
桜花が子供の目線に合わせてしゃがみ、宥めるかのような声でそう言うと、少年は今日も遊ぶ約束をしているからと同行させてくれる旨を申し出てくれた。
「ってことは、これからその声を聞いた子の観察と護衛にシフトチェンジするって事になるんだよね」
「ああ、他の2班に連絡を入れておこう。俺は警察に行った奴らにかけるから彩香は囮組にかけてくれ」
「了解!」
少年の手を取り歩き出した桜花の後方で、少年に怪しまれぬ様、内容が聞こえない程度の距離で連也と彩香は携帯を取り出して、それぞれ他の2班に電話をかけた。
「ほー、でも囮作戦は続行でいいかい?最初に声が聞こえてから攫われまでの日数、それにターゲットの条件が年齢以外分かってないから何処に引っかかるのかわからないし」
『そうね‥‥あ、今、御影さんが警察に行った人に連絡取ってるんだけど、向こうはだいたいの巣の位置を特定したから、より正確な場所を把握する為にその場所に向かうって。地図はすぐに御堂さんか向坂さんが一斉送信するから着信次第確認してほしいて、周さんにも伝えて』
「了解、伝えとくよ‥‥‥愛奈ちゃん」
彩香からの通話を終えた黎は花壇近くに居る愛奈に声をかける。
2人がいるのは真夜・明美姉妹の住む学区にある森林公園。事件が何件か立て続きに起きているせいか親子連れはほとんど居ないが今まで子供が攫われた現場になっているのは警察組の情報によると『自宅』『学校』『公園』と子供がコミュニティを作る場所ばかりの様なのでボール遊びも出来る程の広場のあるここにやってきたというわけだ。
「黎姉様、何か他の班は新しく分かった事あったって?」
「うん、彩香ちゃんからの電話だったんだけど――」
黎が今さっき彩香から聞いた情報を伝えると、愛奈は「うん、うん」と頷いて、幼いながらも険しい表情を見せた。
「もし、その子が次のターゲットなら連続してこの学区だよね?少し前の警察に行った人達の話だと3つくらいの近くの学区が襲われてるって話なのに‥‥」
「この学区にはディアボロの好みの子が多いのかもしれないね。まぁ何にせよこっちはこっちで頑張ろう」
「はい!じゃあ、愛ちゃん、あっちの方にいってきまーす」
相手がターゲットを同時に何人まで候補に挙げるのか解らない以上、こちらは囮作戦を続けるのみ。
愛奈は『コミュニティを作る場所が現場』と言う事を念頭に置いて、なるべく子供が固まっている場所を探すべく移動を始め、又、黎も周囲や敵に怪しまれないよう、けれど決して視界から愛奈を外さない程度の距離を保ちながら動き出した。
先述したとおり、親子連れが少ないうえに子供だけの集団もなかなかいない為、愛奈は歩く事30分。ようやく、少年を1人見つけただけであった。まぁ、まだ1時間以上誰にも会わなかったという事態は免れたのだからよしとしよう。
「こんにちわー、1人なら一緒に遊ばない?」
囮役なので他者を巻き込まない方がいいのだが、コミュニティのある場所が狩り場として多く選ばれているのなら、1人でふらふらしているよりは囮としての責務を果たせるようにする。
「1人じゃないんだ。もうすぐ友達来るんだけど、それでも良かったら一緒に遊ぼうぜ」
「うん!」
愛奈は少年の声の頷いた後、ふと風に紛れて微かに何か聞こえた気がした。
「?」
「もしかしてお前も聞えるの?」
「え?」
『こっちにおいで』
今度ははっきり聞えた。
聞えた瞬間、愛奈の体には悪寒が走り、動かなくなる。
(これ、もしかして‥‥)
「愛奈ちゃん!!」
辛うじて動く首を回せばこちらに走り寄ってくる黎と別行動している筈の桜花・連也・彩香と小学生の少年、そして自分と今一緒に居るを覆い尽くす上空にある黒い影――。
愛奈が少年に声をかけた所で別行動していた3人は少し離れた所で黎と合流していた。少し言葉を交わした時、その影はやってきたのだ。
「あれは‥‥」
「ディアボロだな、羽もあるし、大きさも間違いないな」
連也は長いトカゲの様な尾と鳥の様な羽に覆われたそのディアボロを確認すると、黎に目配せをし、黎もそれに頷くと銃を構え、それに意識を集中させる。
「Jackpot!」
愛奈と見知らぬ少年めがけて足をひろげ下降してくるそれに背後からそっと近寄り黎は『マーキング』を撃ちこんだ。『マーキング』を撃ちこまれたディアボロは黎達に気づくことなく、両足に愛奈と共に居た少年を掴み、上昇する。
「周さん‥‥」
「これは迂闊に攻撃できないよね‥‥愛奈ちゃんとこの子の友達が心配だー」
「落ち着け、桜花。その子を警察に保護して貰って、移動していった3人が特定した場所へ急ぐぞ」
愛奈ともう1人の子が心配で仕方がないと顔に出しまくっている桜花を連也が宥め、玲獅から届いたメールを頼りに4人も『巣』のある場所に急いだ。
●ハイキングコースの廃墟
「なぁ、愛ちゃんが攫われたって!しかも一緒に居た男の子と一緒に!」
警察で作った『巣』の地図片手に事件が起っている3つの学区の中心にある山で探索している最中黎からからかかってきた電話を受け取った紫狼が先行している玲獅と玲治に声をかけた。
「マジか」
「それで常木さんはなんとおっしゃられていましたか?」
「マーキング撃ちこんだからこっちと合流するって。また近くなったら連絡くれるってよ」
「わかりました」
「んじゃ、こっちも出来るだけ作業を進めるか」
「ええ」
玲治の声に同意し、玲獅を目を閉じて意識を集中させた。この人気のない山で幼い生命が多く集まっている場所を特定する為である。
「‥‥わかりました。あちらです」
玲獅の指した方向には森林の美しい緑には少々不釣り合いなコンクリートの色。
恐らく、ハイキングコースに何かを作ろうとしたものだろうが、作業中止のまま放置された廃ビルと言ったところだろうか。なるほど、朽ちた部分も見受けられるし人は近寄りはしまい。
「ハイキングコースで餌は見つけやすいし、巣にした所はヒトが近寄らない。ディアボロにとっては何とも良い場所だな」
「こっそり遠足にでも来てた小学生の集団を影で覗いてて好みをロックオンしたら声をかけてたのかー。頭のいい‥‥いや、何とも狡い手を‥‥」
「ナンパじゃねぇんだからよ」
自他共に認めるコドモスキーな紫狼の例え話に玲治は苦笑を浮かべるしかなかった。
「うー‥‥掴まれたトコが痛いのー」
ディアボロに『巣』に運ばれた愛奈はわしづかみされた部分を擦りながら周囲を見渡した。すると、自我が催眠によって無いのか、虚空を見つめたまま座りこんでいる同年代の子らが一杯いる。立ち上がり、動こうとした瞬間、背後から風圧に飛ばされた。
「痛っ!」
とっさの事で受け身が取れず、そのまま壁に激突した痛みで愛奈はせき込み相手を見やるとそこには先程自分をここまで連れてきた鳥型ディアボロが鋭い目でこちらを睨んでいた。
他の子供達に被害がいかないように敵の動きを止めようと幻想動物図鑑を開くが相手の体が段々と周囲に溶け込んでいく。
「させません」
敵の姿が消え失せてしまう前に玲獅の声と共に光ったのは阻霊符の鎖。次の瞬間には―
「頭が高い、墜ちろっての」
「二度と飛べなくしてやるよ」
黎の銃弾と連也のカーマインによって翼は破壊されていた。
「兄様姉様達!」
「お疲れ様です」
「もう大丈夫だからね。さぁて、羽野郎!年貢の納め時だ!」
愛奈の傷を玲獅が癒し、それを庇うかのように桜花はピストルを構え撃ちまくる。羽は無くとも虫は払えると敵が炎を口の中に蓄えると今度は玲治が敵の近くに躍り出て『タウント』で回復の邪魔をさせないようにひきつける。
「ようやく見つけたぜ、鳥もどき」
炎を避け、それでも避けきれなかったものはシールドで払い、ウォーハンマーにアウルを集中させて『パールクラッシュ』を発動。それと同時に彩香がフレイム&ゲイルを叩きつける。
「おー、皆がんばれー。こっちは急いで逃げるぞー、少年少女達ー」
撃退士側有利で戦闘が進んでいく中、紫狼はディアボロが弱ってきたからか催眠状態から解け始めた子供たちを外に誘導していた。その誘導している子供の中に斡旋所の依頼書に載っていた顔が。
「明美ちゃん?」
「う、うん」
「お姉ちゃんが心配してるよ?帰ったら‥‥ぎゃん!」
「帰ったらちゃんとただいまって笑って言ってあげてね」
いつの間に激しい戦闘から飛んできたのか同じ少年少女好きと言われている桜花の突き飛ばされセリフを取られる紫狼。
「子供を守るのは、大人が体張ってやるこった。だが、なんか違う‥‥」
傍らでコントが行われている一方でも戦闘は滞らない。治療の終えた愛奈がマジシャンステッキを構え、スタンエッジを発動。スタンにはならなかったものの、十分な致命傷にはなったようで、とどめと連也が蛇腹剣を振り上げる。
「もう子供は攫わせない」
ディアボロが断末魔をあげた倒れ、逃げていた子供たちがその足を止め歓声を上げる。
「無邪気だよねー」
「まぁ、そう言うな彩香。特に被害もなく、無事でよかったよ」
家に帰れる喜びの声が廃ビル内に響き渡り、戦いを終えた撃退士達もまた、笑みを浮かべた.